東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 6

 

 回廊の奥から魔理沙目掛けて飛来してきたものは、

 

「ウサギ!?」

 

 そう、兎達だった。

 回廊を所狭しと飛び回り、上から下から右から左から、四方八方から魔理沙目掛けて霊力の弾丸を放ってきた。

 

「成る程な! だが」

 

 箒に跨り浮かび上がる魔理沙。あるいは左右に動き、あるいは上下に躱し、あるいはその場で留まる。

 箒にしがみついて弾幕に対して被撃面積を最小限に抑える体勢を取り、兎の放った荒れ狂う弾幕を見事に避けきっていた。

 

「狙いが甘いぜ! ノンディレクショナルレーザー!」

 

 集束させた魔力を光線状にし、それを狙いも定めずに矢鱈滅多らに放出する。

 

 空飛ぶ兎達は次々と撃墜され、地面に落ちていく。

 

 そうして、全ての兎たちが沈黙したのを確認すると、

 

「峰打ちだぜ」

 

 右手の人差し指と親指を立て銃を模ると、その砲身に当たる人差し指の先にフッ、と息を吹きかける仕草をする。

 

 魔理沙の言う通り地面に伏している兎達はみな気絶しているだけだった。

 

「ま、弾幕ごっこだしな」

 

 幻想郷での闘いは弾幕ごっこというルールに則り、そのルールの中で彼女たちは決着をつけている。

 

 ()()()()()()()()()

 

 時々まあ、そういうものの埒外の奴らが、埒外の弾幕ごっこを仕掛けてくる時もあるにはあるのだが。

 

 少し乱れた息を整えると、

 

「……さて、次は」

 

 帽子を目深に被り直し、回廊の奥を見つめる魔理沙。

 視界の先、光点が瞬く。

 撃ち落とされるとわかっていながらも、兎たちが必死になって魔理沙に襲いかかってきている。つまり、この先には行かせたくないという意思の表れだ。

 

 弾幕をやり過ごしながら魔理沙はいくつかの推測に至る。

 

(昔からウサギといったらみっつ。ひとつは不思議の国。まあ、それはアリスに任せるとしてだ)

 

 止むことなく次から次へと襲いくる弾幕を、あるいは躱し、あるいはやり過ごす。

 

(ふたつめは、因幡の白兎。そしてみっつめが、)

 

 うーん、と唸りながらノンディレクショナルレーザーを発動。

 

(月のウサギ、か)

 

 そうして2波目を全て撃墜し切ると、魔理沙は回廊の真ん中で仁王立ちになる。

 フン、と鼻を鳴らすと不遜な表情で回廊の奥を睨め付けると、

 

「さてさて、そういうお前は、どっちだぜ?」

 

と、声をかける。

 

 その少女はいつからそこにいたのだろうか。

 

 魔理沙の視線の先。白いふわふわの衣服に身を包んだ黒髪の少女が佇んでいた。

 肩口まであるゆるいウェーブのかかった艶かな黒髪。その頭からは2本の耳―――、兎の耳がにょっきりと生えている。

 魔理沙も小柄な方ではあるが、その不思議な少女は魔理沙よりもさらに小柄で幼く見える。

 ゆっくりと歩みを進め魔理沙との間合いを詰めてくる兎耳少女。

 その口元は笑っていた。

 不思議な雰囲気の少女はゆっくりと口を開く。

 

「はてさて、そういうあなたは、どいつかしら?」

 

 問いに問いで返す兎耳の少女に、ほほう人語を解するか、と感心したように呟く魔理沙。見た目は少女だが、気配がただの少女というには異様な雰囲気を纏っていることに気がつくと、親指で自分を指し、えっへんと胸を張る。

 

「尋ねる前にまず答えろだな。お前は誰だ? 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」

 

「これはご丁寧に。あたしは因幡てゐ」

 

 因幡てゐと名乗る少女は、両手を後ろ手に組んだままじっと魔理沙を見つめる。その紅い瞳を見つめ返し、魔理沙はその少女の頭にある耳が飾りでは無いことを、その魔力量や霊脈からそう判断した。

 

 人兎の少女はどこか蠱惑的な表情ではあるが、値踏みするような目つきで魔理沙を見つめている。

 

(さっき感じた視線の主はこいつか?)

 

 目の前のこの少女が兎なのだとしたら、今まで襲いかかってきた兎たちとは明らかに違うのはわかる。まあ、この少女だけ人兎である時点で見た目からして全く異なるのだが。

 

「因幡てゐか。名前から察するに、ふたつめだな」

 

 うんうんと頷き自分の中で答えを決める魔理沙。

 訝しげな表情で因幡てゐは魔理沙を睨んだ。

 

「なんの順序なのさ? 話が通じないわね、不審者だわ」

 

「ま、確かにな。こんなところにいるだなんて、立場が逆だったら私でもそう思うぜ。と、いうかいったいここはどこなんだ?」

 

 なぜか偉そうな魔理沙の返答には取り合わず、人兎の少女は疑問を口にする。

 

「あなた、何処からどうやって此処まで辿り着いたの?」

 

「そりゃあ、まあ、地上から、真っ直ぐだぜ」

 

「地上から? 真っ直ぐ?」

 

 大きな紅い目をまん丸にして驚く人兎。

 魔理沙はやっぱり胸を張って自慢げに答えた。

 

「ああ、空に浮かぶ月に向かって、真っ直ぐ飛び上がったぜ」

 

「真っ直ぐ! 地上から! ははははは!」

 

 魔理沙のシンプルな答えに、腹を抱えて笑う人兎の少女。

 

「蛍やら夜雀やら、竹林やらで待ち構えている全てをすっ飛ばして真っ直ぐ此処へきたというの!?」

 

「まあ、竹林の入り口でちょいと揉め事はあったぜ」

 

「あんた、莫迦だねぇ」

 

「よせやい、褒めるなよ」

 

 満更でも無い様子の魔理沙。

 

「全て計算通りってやつだぜ?」

 

「ほーう?」

 

 魔理沙の頬を流れる一筋の汗を人兎の少女は見逃さなかった。

 

「どんな偶然も、叶ってしまえば必然だろうさ」

 

 どこか妖艶ともいえるような、外見の歳不相応な妖しい笑みのまま、半眼で魔理沙を見据える。

 

「ふふ、あなた相当な幸運の持ち主だね」

 

「そうかもな? 霊夢やアリスには悪運が強いって言われるぜ」

 

 人兎の少女から敵意は感じられない。だが魔理沙は警戒は解かずにいつでも次のスペルを選べるよう気構える。

 

 しかし、

 

「全ての思惑を一切合切台無しにして、ここまでたどり着き、あたしと出会ったことがあなたの運の良さの証拠さ、霧雨魔理沙」

 

 語りながら人兎の少女は頭の後ろで両手を組み、

 

「あたしはね、人間を幸運にする程度の能力の持ち主なのさ。だからここであなたを足止めなんて出来るわけがないのさ」

 

「そいつは都合が良いぜ。私もスペルカードは温存しておきたかったしな。ところでその幸運ついでに教えてくれないか?」

 

「と、言うと?」

 

 魔理沙はクイッと親指で窓の外を指す。窓の外には明らかに大きな満月が輝いていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をさ。あの光は尋常じゃあない。あれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふーむ、あんた、ただの馬鹿じゃないねぇ?」

 

「何故かまではわからないがな、あの光は異常だ。いつも以上に狂気に満ちている」

 

 人差し指を立て、思案する魔理沙。

 

「そうだな……異常と言えば、ああ、そうだな、あの月の光は私がいつもお月見なんかで見ているものよりも()()()()()()()()()()()。若いってのは何も良いことばかりじゃないぜ? 若さ溢れるヤンチャさも、若さ故の……ってやつだぜ」

 

「…………」

 

 魔理沙の高説を黙って聞く人兎の少女。

 

「あの月にはそれを感じる。月がああなってからだ、霊夢も私も、いや、幻想郷そのものが可怪しくなったのは」

 

「なかなか勘の良いヤツだね」

 

「まあな、月と魔女と言えば切っても切れない関係なんだぜ? 相互理解ってやつだな」

 

「ただまあそこまで勘付いたやつを、このあたしが放っておくと思うかい?」

 

「やれやれ、結局弾幕ごっこの流れか?」

 

 楽しそうに身構える魔理沙。しかし人兎の少女は盛大なため息をつく。

 

「バカだねぇ。見てたんだよさっきの立ち回りを? あなたみたいな火力特化の無差別級弾幕バカを相手に真正面から挑めるかっての。いや、搦手を使ったところであたしの能力は弾幕ごっこ向きじゃないし、あたしのキャラじゃあない」

 

「じゃあ、どうするっていうんだ?」

 

「そうさね、こうするのさ」

 

 言って、頭の後ろで組んでいた手を解き、左手はさげ、右手を胸の前に持っていく。

 それまでどこか巫山戯た態度だった因幡てゐは、急に真面目な表情になると仰々しく頭を下げた。

 

「ようこそ永遠亭へ。奥で主がお待ちです―――」

 

 

 一方その頃。

 

 アリスもまた()()()()()()で人兎の少女と相対していた。

 アリスの眼前にいるのは、魔理沙が出会った人兎の少女とはまた別の外見をしていた。

 

 頭に生えた兎の耳こそ似ているが、身長はアリスと同じくらいか、紫がかったストレートのロングヘアに、ブレザーの制服をその身に纏っている。

 

 因幡てゐとは異なり、こっちの人兎の少女は弾幕ごっこに適応した能力の持ち主のようだった。

 

 かれこれ数撃ものスペルカードの応酬をしているが、

アリスの人形も弾幕も、人兎の少女を捕らえることは無い。にも関わらず人兎の少女の弾幕はアリスを一方的に捕らえていた。 

 

(なんなのコイツ……全く手応えがないじゃない)

 

 肩で息をしながら、アリスは懐から人形とスペルカードを取り出す。

 

「こんなところで諦めてちゃ、魔理沙に笑われちゃうわね」

 

「あら、そろそろ諦めてもいいのよ?」

 

 余裕の笑みを浮かべ、人兎のブレザー制服少女はヤレヤレと頭を振った。

 

「もう少し付き合ってやっても良かったんだけどね。だいたいあんた本気出してないみたいだし。時間ばっかり食っていけないわ」

 

「……悪かったわね」

 

「だからね、もうおしまい」

 

 人兎の少女の瞳が、ひときわ紅く光った。

 本能的な危機感からアリスはその輝きから目を背けた。

 

「目眩まし、いや、幻術ね!?」

 

「察しがいいわね! けどね、ネタはわかっても抗えないわよ? 気づいてないでしょ、そんなあんたは()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 人兎の少女の声が、どんどんと遠ざかっていく。

 

「逃げるつもり!?」

 

「逃げる? なんで私が逃げなきゃなんないのよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 遠ざかり続ける声。警戒しつつ薄目を開けたアリスは、周囲の変化に驚き目を見張った。

 先程まで回廊にいたはずが、広大な大広間へと変遷していた。

 

「これは!?」

 

 アリスの驚いた声に、しかしもはや人兎の少女の姿は地平の果てへと消え、声のみが遥か遠くから聞こえてきた。

 

 

「ようこそ永遠亭へ。そして―――永遠にさようなら」

 

 

続く。

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