宇宙帝国皇帝となった元地球人、魔法少女だらけの地球に帰還する 作:エーテラン
太古より人類には共通の敵と呼べる者が存在した。
緑の瘴気をまき散らし、触れた人間全てを死に追いやる最悪の存在。魔獣と呼ばれる彼らとの戦いは人類の歴史を歪める程に苛烈を極めた。
-もし彼がいなければローマ帝国はアフリカを領土としていただろう。
-もし奴らがいなければ中華は今ほど結束していなかったかもしれない。
-もしあの化け物どもがいなければ人類同士の世界規模での大戦が起こっていたかもしれない。
しかし、そんなものは歴史のIFでしかない。彼らにとっては今の状況が自らの歩んだ歴史なのだ。
だが、魔獣との戦いは人類が常に劣勢であった。魔獣には通常の武器では傷一つつけられない。それは80年ほど前に作り上げられた都市一つを飲み込む爆弾に耐えきったことからも証明されている。ではどうやって人類は魔獣に対抗してきたか? それは彼らの力を浄化できる力を持った少女たちによるものだ。
魔法少女。現在ではそう呼ばれ、かつては魔女と呼ばれた彼女たちは元は普通の人間であったが魔獣を敵とする妖精と契約する事で浄化の力を手に入れる事が出来た。彼女たちはそれを使い魔獣との戦いに挑んでいたのだ。
そして、約100年前に妖精が住む妖精王国と人類は正式に手を結ぶこととなり、対魔獣統一戦線が結成された。単体では人間以上に対抗が難しい妖精と、同じく対抗が難しい人間が手を取り合う事で漸く魔獣相手に抗う事が出来るようになった。
以降、魔法少女たちはそれぞれの国から支援を受け、十分に戦えるようになった。一方の人類も魔獣がまき散らす瘴気に耐えられる対魔獣スーツを開発。魔法少女程ではないがダメージを与える事が出来るようになった対魔獣ブレードと対魔獣ガンを武器に魔法少女と共に戦うようになっていた。
そうして、人類史の中で、人類は初めて魔獣相手に優勢に戦えるようになったのだった。
「……以上が魔獣と人類の大まかな歴史ね。本当は妖精との協力体制構築に一波乱があったけど今は知らなくていい情報ね」
「へー。そうだったんですかぁ」
国連軍対魔獣統一戦線日本国東京本部。そこにある学級室に二人の女性がいた。片方はスーツに身を包み、眼鏡をかけた理知的な女性であり、もう片方は10代前半くらいの活発そうな少女だ。その姿は立った二人ながら学校の風景に似ており、実際、女性は少女に対して特殊な授業を行っていた。
「さて、改めて聞くけど彩佳ちゃん。本当に魔獣と戦う覚悟はあるのね?」
「はい! 私、困っている人たちの役に立ちたいんです!」
ここは魔獣を相手にする施設である以上彼女がここにいる理由も当然ながら魔獣関連だった。その中でも彼女は数少ない魔法少女の素質を持ち、
現在、魔法少女は世界中に1000人以上存在している。そのうち、妖精と契約した少女は200人にも満たない数しか存在しない。大半が妖精の力で疑似的に契約状態にして魔法少女となった者達ばかりなのだ。当然と言えばそうだがそういった少女たちは通常の魔法少女よりも力が劣っていた。
ではなぜそんな状態の魔法少女を魔獣との戦いに繰り出すのか? 簡単な話で妖精の数が少ないのと契約できる素質を持った少女が少ないからだ。
妖精が住む妖精王国の総人口はなんと1万に至っていない。その中で契約して魔法少女に出来る妖精の数は300体程しかいない。そのうち200体が既に契約済みである以上残りは100体程しかいないのだ。そして、残りも魔法少女になれる素質を持つ少女がいない為に契約が出来ていなかった。
魔法少女の素質は生まれ持っているものであり、後天的に備わるものではない。そして、その素質を持って生まれてくる少女の割合は1%にも満たないとされている。そして、そういった素質を持っていても魔獣との戦闘に巻き込まれて亡くなってしまったり、戦う意思がない、才能がない者も多くいるために魔法少女になってくれる少女が中々現れることはなかった。
加えて、魔法少女として戦えるのは20代前半が限界とされている。それ以上になると変身すら出来なくなることばかりであり、基本的に20歳が限界とされている。当然ながら二十歳を過ぎてから素質があったと判明するパターンすらあった。故に国は総力を挙げて捜索し、戦ってもらえるように最大限の支援をしていたのだ。
因みに、そういった事情の為に生まれたのが妖精と契約をしないでなれる魔法少女だ。彼女たちは素質がなかったが疑似的な契約を果たすことで魔法少女になっている者達でそれが魔獣との戦線を安定させる要因にもなっていた。
「……本当なら貴方のような少女を戦いに向かわせるのはいけない事なんでしょう。ごめんなさい」
「せ、先生! 謝らないでください! 私が決めたことなんですから!」
先生と呼ばれた女性もかつては魔法少女を夢見た時期があったが結果的に素質はなく、疑似的な契約も無理だと判明して諦めた経緯があった。だが、今考えれば魔獣との恐ろしい戦いに参加しなくてよかったと考えていた。自分の心はそこまで強くはないと。故に彼女は魔法少女達が安心して戦えるようにそれにかかわる仕事についたのだ。
「彩佳ちゃん。水を差すようで悪いけど怖くなったらいつでも逃げていいからね。魔獣との戦いは怖くて大変なんだから」
「大丈夫です! 私、元気だけが取り柄なので!」
えへへと笑う彩佳という少女に女性はかつての自分を思い出し薄く笑みを浮かべるのだった。
……しかし、そんな彼女たちの裏側で、東京本部が未曾有の事態に襲われているとはさすがに予想は出来ないのであった。
『宮木司令。その報告は事実かね?』
東京本部地下最深部。そこには日本国内に存在する統一戦線全体に指揮を出す総合指揮所が存在した。ここはまさに日本の生命線であり、ここが落ちる事は日本が落ちると同意義なほどの重要な施設だった。
それ故にここには常に数名の魔法少女が在留し、
そして、今まさにそれに付随する最悪の状況が発生し、日本エリアの統一戦線司令長官である宮木は急遽五十嵐首相との通信を開いていた。
「残念ながら事実です。約1時間前、日本上空、宇宙区間にて大規模な
宮木の断言する言葉に首相は顔を青くしながら呻く。彼らが言う邪悪エナジー。それは魔獣を生み出す未知のエネルギーであり、人類にとっては毒よりも恐ろしいものだった。
魔獣はこのエネルギーが人間が持つ負の感情に触れる事で発生するとされており、魔獣の元となるだけの事はあり、人間がこの邪悪エナジーに触れ続けると肉体が崩壊する。
魔獣はこれをまき散らしながら暴れ、倒される際には体内の邪悪エナジー全てを周囲に吐き出すために戦闘地域は一時的に一般人が立ち入る事は出来なくなる。そういった事が幾度となく起きるために人間の生活は荒れ果てる原因となっていた。
『それは魔獣なのですか?』
「それについては調査中であり、断言は難しいです。ですが、人間の負の感情を糧に発生するとされている魔獣が人間等いるはずのない宇宙空間で発生したのならこれまでの研究結果を覆すこととなり、大なり小なり混乱は出るでしょう。尤も、これを公表する場合に比べれば微々たるものでしょうが」
『いえ、これに関しては公表をするつもりはありません。各国及び統一戦線上層部のみで共有しましょう。これは明らかに公表するべきではない情報です』
「我々もそう考えています。故にこの情報を知る者には緘口令を敷いています」
もしこれを公表すれば……、全ての魔法少女ですら相手になるかわからない存在が上空にいると知れば人類はパニックになり、中にはやけを起こしてとんでもない行動に出る者も出てくるだろう。そうならない為にもこの情報は秘匿するべきだと宮木も首相も判断したのだ。
「幸いにも邪悪エナジーを感知しただけで何か起きたという報告はありません。今は望遠鏡等をもちいて観測する所から始めようと考えています。魔獣なら撃破乃至撃退を目的とした情報収集を行います」
『わかりました。各種手続きはこちらで引き受けましょう。一刻も早く詳細が判明するようにお願いします』
「勿論です。我らにお任せください」
その言葉を最後に、首相との通信は閉じられた。すべき報告を終えた宮木は息を吐き、心を落ち着かせる。首相の協力で情報収集はスムーズに行われるだろう。そして、その結果、今回の邪悪エナジーの原因が魔獣の発生だった場合……。
「日本の、いや……。人類の滅亡か……。関西大魔災よりひどい事になるぞ……!」
統一戦線結成後の中で最も被害を出した関西大魔災。個体名がつけられる程の凶悪な魔獣が出現し、駆け付けた魔法少女22名、国連軍対魔獣部隊2000名の死者を出し、現在も浄化が追い付かず、立ち入り禁止となる程の瘴気を吐き出したことで西日本は致命的ともいえる大打撃を受けることとなった。
あの時でさえ絶望的な状況だったのにそれを超える魔獣が発生したかもしれない。そう思うだけで宮木は絶望感を味わい、体が崩れ去りそうな幻覚に襲われるのだった。
そして、調べた結果、邪悪エナジー発生場所には何もなく、それが余計に警戒心を与えることとなり、統一戦線に精神的疲労を与える事になるのだった。