スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
荒事屋 栗浜タイコ
「あっ、荒事屋だ…荒事屋がぶへでっ!!」
ヘルメットで頭をすっぽりと隠している不良少女達で構成されている暴力組織、カタカタヘルメット団。
その分派組織であるベコベコヘルメット団の拠点が襲撃を受けた。
ちなみにベコベコヘルメット団とは『ベコベコになるまで使われたヘルメットこそ美しい』というかなり変わった癖を持つ者達で結成されている団である。
その本拠点であるキヴォトス内のとある廃ビル。
普段と変わらない略奪行為に走ろうとしていたベコベコヘルメット団は『荒事屋』と呼ばれる組織の構成員に取り囲まれていた。
襲撃を通達していたベコベコヘルメット団の構成員が、背後から行われた狙撃によって地面へと倒れ伏す。
荒事屋の出現は直ぐにベコベコヘルメット団全体に通達され、廃ビルの中にいた構成員達は窓の外を見て絶句する。
「う、嘘だろ……もうこんな近くに、こんなに大勢!」
廃ビルをぐるりと取り囲む大量のスケバン。
特攻服や制服の色は黒を基調として統一されており、荒々しい勢いを感じる筆文字で荒事屋と書かれた白い登りを立てている。
ざっと見、500名近い荒事屋構成員がベコベコヘルメット団本拠地を完全に包囲していた。
ここに目視出来ないが遠距離からの狙撃やバックアップを行う後方支援隊も同行しており、その総数は630名に登った。
「タイコさん。目視できる範囲でビル外で活動しているベコベコヘルメット団構成員は確認されません」
「分かった。後は俺が行くから皆は外で待機して、逃げ出そうとする輩は捕らえてくれ。怪我はさせるなよ」
荒事屋の頭目である中身中年男性のスケバン集合体 栗浜タイコは待機している荒事屋構成員達に待機を命じ、1人でビルへと向かって歩いて行く。
引き締まった肉体はアケミとの鍛錬によってしなやかさを保ちつつも、よりしっかりとした筋肉を登載するに至った
身軽さと屈強さを混在させる彼女が左手にはサブマシンガン、腰にはベルトにマウントを取り付けたショットガンを装備して右手に持った竹刀の先端を地面に擦り付けながら近寄ってくる。
「ね、ねぇあれ本当に相手するの!? 降参した方が良くない!?」
「技巧のタイコだよ……勝てる訳が無いよ! 相手は伝説の栗浜姉妹の片割れなんだぞ!」
迎撃の為にビルから出てきたベコベコヘルメット団構成員達は、圧倒的数の優位を前にしても慌てる様子のないタイコの姿に怯えの色を示す。
数ヶ月前に投獄された栗浜アケミを義理の姉に持つタイコは、アケミと合わせて世間では『栗浜姉妹』『暴力のアケミ、技巧のタイコ』と一括りで呼ばれることもある。
投獄される際の2人の暴れっぷりから『伝説の栗浜姉妹』とも呼ばれるようになり、姉を捕らえて投獄まで漕ぎ着けることが出来たのは奇跡とまで言わしめた。
そのタイコが目の前にいる。
真っ黒なサングラスで目付きや視線が分からず、大量のベコベコヘルメット団構成員を前にしても冷静さを崩さない沈黙がより恐怖を掻き立てる。
「バカ! 荒事屋に私たちみたいなのが捕まったらどうなるかの噂聞いたことないの!?」
へっぴり腰を発動している仲間のヘルメットを叩いた隣の女子は幾分か勇敢ではあるが、アサルトライフルを構える手は震えている。
荒事屋は叩きのめした相手が女子高生に相当する年齢であった場合、使用していた武器や弾薬を奪い取り身ぐるみを剥がした上で頭目のお眼鏡にかなわなければ闇に葬ってしまう……そんな噂が流れていた。
そんな組織の頭目を前にして、強気な姿勢を保つのも至難の技だった。
「ベコベコヘルメット団。お前たちはいくらか派手に暴れ過ぎた」
右手に持っていた竹刀の切っ先をコンクリートの地面に突き刺し、特攻服の内ポケットに入れていたメモ帳を取り出しながらタイコは低い声で喋り始める。
竹刀がコンクリートに突き刺さるという異常な光景は、タイコの低くもはっきり聞こえる威圧感のある声のせいで霞んでいた。
そのメモ帳に綴られているのは、今回ベコベコヘルメット団本拠地を襲撃するに至った依頼者達からの悲痛な訴え。
住宅に侵入されて家財を破壊されたり金品を強奪された、脅されて金を巻き上げられた、荷物をひったくられた等の被害を訴える声を、タイコは余すことなく記録している。
「住居侵入に窃盗、強盗、恫喝、その他色々と好き勝手やったらしいな。お前たちをどうにかしてくれという依頼が大量に舞い込んだよ……抵抗は辞めておけ。俺も手荒な真似はしたくない」
これは紛れもない本心なのだが、如何せん見た目に説得力が無さ過ぎる。
180cmを超える巨体
サブマシンガンとショットガンという2種の銃器
コンクリートに突き刺せる異常な硬度の竹刀
真っ黒な特攻服とロングスカートを風にたなびかせるサングラス姿のスケバンだ。
どこからどう見たって手荒な真似をしたがらないタイプの人間ではない。
むしろ進んで手荒な真似をしたがる手合いの人間だ。最高に気分が良いから相手してやるよと言いそうな見た目の人間だ。
「安心しろ。悪いようにはしない」
「そんなのっ、信じられるわけないじゃないッ!」
物言いも最悪だ。悪意がないと信じさせる気がないだろうと指摘されても否定できない物言いをしている。
前述の容姿と武装の相手がゆっくりとした歩調で近付いてくるとなれば、ベコベコヘルメット団構成員に走る緊張は指数関数的成長を遂げてしまう。
遂に緊張のピークへと到達してしまった1人が、手に持っていたハンドガンの引き金を引いてしまう。火薬の炸裂音が轟き、放たれた弾丸が空を割く。
「……仕方ない。仕事開始だ」
放たれた弾丸を軽く首を傾けて回避したタイコの心底残念そうな声と、背後に控えている荒事屋のザワ付きがベコベコヘルメット団のその後を暗示していた。
「ムンッ!」
ロケットランチャーを持ち出してきた時は多少驚きこそしたものの、あれくらいアケミの持っていたものに比べれば可愛いものだ。
人間相手にロケットランチャーをぶっぱなすとかいう倫理観の欠如も甚だしい行為を、特注でしつらえた超硬合金製の芯の入った竹刀で迎え撃つ。
スケバンって言ったらやっぱり竹刀だろう。この認識は古いのだろうか。
飛来するロケット弾の側面を竹刀で殴打して射線を逸らし、今回のターゲットであるベコベコヘルメット団の団長へと肉薄。
「団長はやらせなあぐぁっ」
ハンドガンを持つ少女が飛び出して来たが、そのハンドガンをサブマシンガンで撃ち飛ばして武装解除させた。
そのまま左手で左腕を掴んで引っ張り姿勢を崩し、竹刀を手放してフリーになった右手を少女の顎に当てて押し上げる。
右足は少女の右ふくらはぎへと蹴り付けるような勢いで掛け、顎に当てた右手を押すことで肉体そのものを床へと叩き付ける。
気絶したのを確認すると竹刀を回収、逃走を企てていた団長の足元目掛けて投げ付けた。
「ひいいぃっ!?!?」
両足の間にすっ飛んできた竹刀がコンクリートにぶっ刺さるなんて光景を見たら、そりゃ悲鳴も上げるし足がもつれて転ぶわな。可愛そうに。
逃走が失敗したとなって彼女はもう気力を失ったようだ。その場に座り込んでしまって動かない。
こうなればもう逃げることも出来ない。団長の身柄を確保したとなればベコベコヘルメット団は勢いを失い、いずれは他のヘルメット団に吸収されるだろう。
「団長を無力化した。回収頼む」
『分かりました。今から向かいます』
今回は襲撃先が本拠地であるビルということもあり、荒事屋の人員の半数近くを動員した。
1階から最上階までを俺1人が駆け上って鎮圧し、無力化した構成員を後から突入する荒事屋の面々が拘束する。
アケミの妹というのは同じスケバン達に一目置かれる立場であり、彼女からも『私を認めさせた女』という触れ込みがあったことで俺の元にも沢山のスケバン達が集まってくれた。
成績が上がらない、学費が払えない、学校で居場所が無い……そういった様々な理由で拠り所がない彼女達を、俺は見捨てられなかった。
明日に希望を持って生きて貰えるように居場所を作り、何時かは日の光を浴びて大手を振って生きていける為の土台となり、そんな未来に持ち越せる幾らかの蓄えが出来る場を作る。
アケミの重機関銃の弁償代を稼ぐのと同時並行で打ち立てた目的を果たす為、集まってくれたスケバン達と結成したのが荒事屋だった。
彼女達の得意分野を稼ぎに活かすとなれば、これが一番手っ取り早いし確実だ。キヴォトスという倫理観GTAな世界も上手く噛み合っている。
捕まったら俺のお眼鏡に叶うやつ以外は闇に葬られる……なんて物騒な噂もついているが、それもアケミの箔に繋がるのだから良しとしよう。
歳を食うと嫌われる事には存外慣れるものだ。
「お待たせしました、タイコさん。ベコベコヘルメット団構成員の身柄、全員確保しました」
「ありがとう。手加減はしたつもりなんだが、ひどい怪我を負っている子は居なかったかな?」
現在居る最上階より下の階は完全に荒事屋によって占拠されており、拘束した身柄と金目になりそうな物の搬送が行われている。
これから身柄を確保したベコベコヘルメット団構成員達を拠点に連れ帰って治療し、押収した物資の中から大切な物だけを取り除いて残りを売却。
ヘルメット団以外の生活基盤が見込める者は身柄を解放し、見込めない者は荒事屋の一員として取り込み食い扶持を与えながら面倒を見ることになる。
「大丈夫です。ベコベコヘルメット団総勢 334名 皆大した怪我はしていません」
「そうか……良かった。皆もやることを終えたら撤収よろしく」
最上階ともなるとかなりの高さがあり、取り外されている窓から吹き込む風は中々の寒さがある。
風邪をひかせては悪いからと荒事屋の皆にも撤収を指示し、1人残った俺は窓際にたつとアメリカンスピリットを1本咥え、ジッポライターで火を点けた。
深く息を吸い込んで紫煙を体内へと招き入れ、喉の焼けるような感覚を楽しみながら深く息を吐いて胸の内にくすぶるモヤモヤ感を乗せて吐き出す。
「キヴォトスは子供には存外生きづらいのかもな」
学園都市と呼ばれる通り、キヴォトスは数えるのが嫌になるくらいの学園が寄り集まって構成されている。
そうなると各学園に所属する生徒の中には成績不振や学費が払えない等々の理由でドロップアウトする者が出てしまった場合、受け皿が無い。
どういう構造なのかは不明だが家庭と呼べるものが見受けられず、受け皿が無い子達はスケバンやヘルメット団といった不良少女として生きていくことになる。
あまりに救いが無い。学園に所属するかしないか、その二択しか用意されていないのは理不尽とも言える。
その点で見れば、俺のやっている荒事屋は第2の居場所としては最適なのかもしれない。
稼ぎこそドンパチだがその金で学費を払って復学する子もいるし、復学せずに周りの子達から勉強を教えて貰って社会に出ていく子も出始めている。
「やっていることは組織化された東横キッズみたいなものだがな……はぁ…」
これで良いのだと割り切れれば楽なのだが、どうしても日本で生きていた頃に培われた倫理観が『それで良いのか?』と疑問を呈してくる。
良いのだと言い聞かせても、疑問は常に湧いて出てくる。
タバコは何も答えてはくれない。俺のモヤモヤをある程度持って行ってくれるだけで、大した役割は成さない。
「……はぁぁぁぁ」
アケミが投獄されるのも本来の流れを守る為に見逃したが、それも心残りだ。苦しい思い、寂しい思いをしていないと良いが……
深い深いため息を吐いていると携帯に通知が入る。
エリザベスの弁償代を払った際にアケミから貰った携帯の画面には、荒事屋で依頼者とのやり取りを担当する
「……あ?」
送られてきたメールを見ると、題名には『どうしましょう!』と書いてあり依頼人の欄にアルファベットが記入されている応募フォームのスクショが添付されていた。
「…………ウッソだろおい」
アルファベットを読んで、顔を背けた。
なんでだ、なんで荒事屋にそんな依頼をするんだ。
俺たちは荒事を生業にする組織だぞ。そこに護衛を頼むってなんだよ。バカかよ。
いやバカだわ。生徒の足舐めたりお散歩プレイしたり混浴したりする風紀激乱し馬鹿だったわ。
しっかりしろ風紀委員会……風紀委員会?
「恨むぞぉ……
表舞台に立つべきではないと思っている俺にとって、依頼人の欄に書き込まれている連邦捜査部S.C.H.A.L.Eという文字と、依頼内容の『アビドス高等学校への案内依頼』という文字は劇物も劇物。
吸っていたタバコを握り潰した俺の顔は携帯の画面にうっすらと映り込んでおり、それはまぁ大層複雑そうな顔をしていた。