スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
俺のミスだった(今作2度目)
連邦捜査部S.C.H.A.L.E
連邦生徒会長が失踪して先生がシャーレに就任して云々というブルーアーカイブ本編の冒頭の出来事が起こってからというもの、俺はそのシャーレに関する情報を集めようとしていた。
何しろ、本編Vol.1の舞台であるアビドス高等学校と俺は既に接点を持ってしまっていたから。
本来であれば死亡しているはずの生徒である梔子ユメを依頼の中での流れであったとはいえ、救出することに成功してしまい俺は話の流れを変えてしまっている恐れがあった。
先生に会うつもりは無くとも、迷惑をかけてしまうのは避けたかった。その為にも動向を探り、なるべく鉢合わせないように気を付けていた……つもりだった。
プロローグ開始時点で矯正局から脱獄しているはずのアケミを捜索していたのもあり、先生との接点は減っていたはず。
アビドス高等学校と先生が接点を持つ間にもある程度の空白期間があると思われる発言をアロナがしていた事もあり、作中で語られなかったシャーレの活動についても少し興味があったしな。
「……はぁ」
「対面していきなりため息は酷いなぁ…」
色々とやったその結果が
シャーレオフィスに招かれた俺は執務室へと通され、そこで生徒たちを導く人物である
見た目としてはアニメの先生の胴体にゲーム開発部先生の筋肉の縮めた版みたいなのを搭載して、頭は便利屋先生のメガネを取り付けた感じ。
なんとも言えないキメラ感が異質な胡散臭さを醸し出しており、俺は一目見て『当分こいつはまともな顔で見れそうにないな』と感じていた。
「ため息も吐きたくなるさ。あの先生ともあろう方がこんな反社会的勢力の頭目にご依頼なんざ……連邦生徒会の面々の怒りに染まる顔が容易く想像出来る」
表舞台に立つべきではないと思っていたし、関わらないように気を付けてもいた。
誰が想像出来るんだよ。表舞台の住人から接触してくるなんてよ。俺には想像出来なかったわ。
断ろうとしたけどユメが『そこをどうにかぁ!』と食い付いてきたのも最悪だ。
彼女は砂漠でぶっ倒れて脱水症状を起こし、間一髪で救助は間に合ったが後遺症として歩行機能障害が残った。
これではアビドス高等学校の生徒会長を続けられないとなり、小鳥遊ホシノと相談して合意の上でユメを荒事屋のオペレーターとして雇い入れる事にした。
そう、彼女はアビドス生なのだ。
そんな彼女がアビドス高等学校への案内を依頼する内容を見て、放っておけるはずが無かったのだ。
「手厳しいね……それで、依頼の件は」
たはは、と困ったように笑いながら先生は依頼についての話を振ってきた。
その目が、俺には少し気に入らなかった。
「お受けしかねる……と言いたいが、それだとうちのオペレーターに泣かれるからな。受ける前に質問がしたい」
話を被せた俺に対して不快感を示すことなく、先生は俺の質問を受け入れる姿勢を見せる。
なるほど……生徒の質問なら答えるよ、というスタンスか。先生らしいといえば先生らしいな。
なら、遠慮なく行かせてもらおうか。
「何故ウチに頼んだ。名前の通り俺達は荒事を生業にしている組織であって道案内は生業じゃない」
普通に考えておかしいだろう。荒事屋、なんて名前の組織に道案内を頼むなんて。風呂屋に米炊いてくれって言っているようなものだ。
それに悪名についても理解しているだろう。実際は違うにせよ、内情を知らない奴からすれば俺達はかなりの極悪組織だ。
とても先生が頼るべき相手ではない。便利屋68のような何でも屋ではなく、誰かの苦痛を利用して暴れ回る事で稼ぎを得ている組織だぞ。
俺の問い掛けに先生は逡巡するような一瞬の沈黙を置いて、俺の顔を真っ直ぐに見据える。
「一度君に会ってみたかったから、かな」
「ナンパならお断りだ。俺は野郎からのナンパなんざ受け付けちゃいないんでな」
思っていたものと違う言葉がすっ飛んできて少しは驚かされたが、大して面白くは無い。
冗談を言う為に呼び寄せたのなら帰るぞ、と言葉ではなく席から立とうとする姿勢で示すと先生はごめんごめんと謝ってくる。謝るくらいならハナからやるな、と言いたかったが堪えた。
「どうして君は荒事屋という組織を運営しているのかな? そしてどうして事実では無い噂を否定せず、好き勝手な流布を許しているのかな?」
「質問を一度に複数投げ掛けるな。尋問官か貴様は」
先生という立場からすれば気になるのも当然か。組織の名前が名前だし世間に流布している噂の中身も生徒が関わっているにしては汚いものだしな。
それこそ便利屋68のような一見してクリーンそうに見える名前であれば彼も気にしなかっただろう。
「それに答える必要性が見受けられない。まさか先生ともあろう人が
図星なのだろう。先生が微かに顎を引く。
確かに先生という立場からすれば生徒がドンパチ撃ち合って傷付くのは見たくない光景だろうし、それに進んで突っ込んでいこうとするどころか争いを引き起こそうとする立場にいる俺を心配するのも当然ではある。
「先生には先生という立場があるが、仮に失われたとて貴方には大人というもう1つの立派な立場がある。挨拶代わりとばかりに弾丸飛び交うキヴォトスではやや不安だろうが……それでも生きる術は己で確保出来るだろう?」
先生は先生であり、それ以前に1人の大人だ。自分の事はある程度は自分でどうにかできる。
どうにかしようという気力や意地を振り絞れれば、という前置きは付くが。それが出来ないダメな大人なら、そもそも先生という立場は得られまい。
「それに対して生徒はどうだ。生徒という立場を失った時に残されるのはどれだけ大人びようが諦観していようが、未熟さを抱える1人の
「……生徒で居られなくなった子達の受け皿だと、そう言いたいんだね?」
話の先は少しは読めるらしい。話が進めやすくて助かる。
そして、その次に飛んでくる言葉も読みやすい。
「「でも、ならどうして大人を頼らない?」」
ほら、完ぺき〜な読みだ。先生が目を丸くしている。
「大人なんてのは存外、歳を無駄に食っただけでその中身は餓鬼とそう大差ない。ある意味じゃ、餓鬼より劣悪ですらある」
「…随分、大人を毛嫌いしているね」
当たり前だ。このキヴォトスにいる大人は皆が皆悪い人という訳では無いが、その分悪いヤツはとことん悪い。
生徒に依頼をしておいて代金を踏み倒すヤツ、危険な事や面倒事は生徒にやらせて自分だけは楽に結果を得ようとするヤツ、生徒を支配して道具のようにするヤツから食い物にするヤツ……ロクデナシはとことんロクデナシだ。
ストーリー中で出てくる大人共なんて、利用した生徒達相手にロクなお礼すら行っていない始末だ。
利用するだけ利用して、ありがとうと言う時も純然たる感謝ではなく『役に立ってくれて、手ごまとして動いてくれてありがとう』みたいな吐き気を催す感謝の言葉だ。反吐が出る。
「大人は生徒に比べて長く生きて、その長い人生の中で酸いも甘いもある程度味わった。その比率次第ではあるんだろうが、ろくでもない奴はとことんゴミだ。そんな奴に彼女達を任せるなんてハイリスクすぎるギャンブルと変わらん」
居場所が無い生徒達にとっての居場所となるのが荒事屋。
荒事屋とは受け皿であり、隠れ蓑でもある。
暴力のアケミ、技巧のタイコなんて一括りで扱われることもある栗浜姉妹によって統治されている組織なんて、手を出すのは相当な命知らずか噂を気にしない豪胆な馬鹿のどちらかだ。
その豪胆な馬鹿も居るには居た。金で従わせようとする輩が何人もな。
アケミの妹であり並び立つと言われる俺を飼い慣らしたとなればソイツには泊が付くし、他の奴を圧倒できる体の良い勲章みたいに見ているのがヒシヒシと感じられたよ。
だから仕留めた。もう、ソイツらはこの世にはいない。
「悪い噂をそのままにしているのも彼女達を守る為だ。先生は甘い果実を食う為に、竜が眠る巣穴に踏み入るか?」
大人は信用ならない。それが俺の結論だ。
無論そこには俺自身も含めている。今はアケミの妹として、荒事屋の頭目としての自覚を持って動けているがそれが何時不意に崩れるかは分からない。
頼る相手としてはある程度の適性を持ちつつも、その裏に潜む危険性を何度も何度も憂慮しなければならない存在…それがこのキヴォトスにおける
「……生徒が苦しんでいるのであれば、それを可能な限り取り払って少しでも楽しい人生が待っていると知ってもらえるよう務める。それが大人という存在だと、僕は考えている」
先生なりの大人という存在の形は、俺も理解しているつもりではいる。
子供たちの成長を見守り、後押しし、道を示して、時には身を呈してでも守るのが大人。
子供たちの道行きにおいて責任を取るのが、大人である。
「それは俺も同意見だ。だが見方が違う。立場が違う。覚悟が違う。全てにおいて俺とお前は違う。悪くは無いがな」
俺がやっているのは中身がおっさんとはいえ、傍目から見れば子供同士が同じ傷を舐め合っているだけ。
それを悪いこととは思わない。まだまだ発展途上の子供には傷を舐め合える仲間がいた方が、この先に待ち受ける様々な困難や絶望に立ち向かおうという意思を持てる。
問題なのはそれが制限なく堕落し、傷を舐め合いながらも助け合っていたのが変わってしまうこと。助け合うのが足の引っ張り合いになり、ズルズルと深みへ落ちて行くこと。
それを避ける為にも俺は力を求めた。アケミにそれはもう手酷く、それでいて愛の籠った指導を受けて力を付け、荒事屋の頭目に相応しいだけの気迫を手に入れた。
「お前は上から引き上げて、俺は下から押し上げる。違っていても、成そうとしていることは同じだ」
先生は俺とは違う。先に生きている者として生徒たちに背中を見せ付けて、人生における指標となるのが彼に与えられている役割。
俺とは違う。だが、同じでもある。
生徒達を助けたい。この厳しい世界に苦しんでも、絶望しても、前を向いて歩いて欲しい。
その一心で彼女達と共に歩んでいることは、俺と先生は共通している。
「……理解したよ。君のやっていることを否定するような物言いをしてしまっていたね。申し訳ない」
「お、いいねぇ。素直に謝れる男は嫌いじゃあない。少しタイコポイント上がったぞ」
頭をすんなりと下げる姿にも感心する。大人になると色々とプライドだのなんだのが邪魔して、簡単に下げられるものも下げられなくなるからな。
タイコポイント等という言い出しっぺの俺ですら何なのか分かっていないポイントについて言葉にして、先生が頭を上げるよりも素早くアメリカンスピリットを1本取り出す。
「そのポイむぐっ」
開かれた口に、取り出したアメリカンスピリットを差し込んだ。
未成年がタバコを持ち歩いている。先生はギョッとしていたが、俺がジッポライターを取り出して火をチラつかせると明らかに視線が火へと向いていた。
「ほれ、顔寄せな」
「…すぅ……はぁ……俺、先生失格だなぁ…」
最初に会った時、微かにだが先生からはタバコの匂いがした。消臭剤の類で誤魔化したようだが愛煙家の俺の鼻は誤魔化せない。
火の付いたタバコを一吸いすると俺の居ない方向へ紫煙を吐き、先生は苦笑いをした。
「人間なんてのはダメなところがあった方が返って好印象なのさ。それじゃ、依頼についての話を詰めるとするか」
「……それって!」
苦笑いしていた顔がぱぁっと明るくなる。表情筋が豊かなやつだ、羨ましいよ。
アケミに俺は表情筋が固いと言われた。俺としてはそこそこ表情豊かな方だと思っていたのだが、自分と他人ではこうも違うのかと少し学んだ経験だ。
「俺もアビドス高等学校には少し用事があった。そのついでだと思って受けるとするさ」
特攻服の内ポケットに入っている折りたたみ式端末を取り出し、依頼相手検索の場所に連邦捜査部S.C.H.A.L.Eと入力。
数多来ている荒事屋への依頼の中から該当の依頼を引っ張り出すと、依頼を受けた事を意味する拳とその周りに亀裂が走っている電子ハンコを押した。
「連邦捜査部S.C.H.A.L.Eからのアビドス高等学校への案内依頼、確かに受領した。依頼達成までの間、何卒よしなに」
依頼を受領したことを言葉にして伝えて、右手を差し出した。
「ありがとうタイコ! それじゃ準備をするから、ちょっと待っていてくれるかな! バスの代金とかも用意して」
「ああ、アビドスまでは車で行く」
嬉しそうに俺の右手を両手で掴んでブンブンと握手を交わした先生は立ち上がると、バスや電車を乗り継いで向かうつもりだったのか公共交通機関への代金を用意しようとしていた。
便利ではあるが、それで遅れでも生じたとなれば案内依頼が滞ったという実績が残り荒事屋の評判が落ちる。
責任の所在も第三者に渡る。それは俺のプライドが許さない。
俺の車の鍵を見せると、先生はまたしてもポカンとした。
「おいおい。ここは女子高生が戦車を乗り回す世界だぞ? それに荒事屋は今のところは黒字も黒字でな、新車を買う余裕くらいは持ち合わせている」
エンジンスターターのSTARTボタンを押して、俺は口を開いた。
「代金はいいから40秒で支度しな」
個人的に『何時かは言ってみたいけど場面が分からん名台詞ランキング』の中でも上位に入るセリフを吐けて、俺は少しご機嫌になった。