スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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選り好みする砂嵐

 ホシノと合流した先生と俺は途中で2時間交代での仮眠を取り、アビドス高等学校までの道を走り続けた。

 ユメにも休息を取ってもらってはいるが、それでも夜通しのナビゲーションというかなりの負担をしてしまった。後でお詫びにサウナにでも連れて行ってあげよう。

 

 先生は何かと夜空の写真を撮影していた。普段の生活を送る中では砂漠で夜景なんて見られないからな。

 夜空は特別感も一入だったのだろう。それが登る太陽によって下方よりぼんやりと照らされて晴れていく様は感動的とも神秘的とも取れるもので、先生は泣いていた。

 

 子供の前で大人が泣くとは感心しないな。

 だが分かるよ。夜空も夜明けも共に素晴らしくて甘いものだ。

 

 だからこそ確かな形として残すことを求めるのだ。

 儚い一瞬を忘れぬように、何時でも振り返れるように。

 

「はぁ……生き返る……」

 

 右手側に砂嵐によって持ち込まれた大量の砂に飲み込まれたビルの群れを臨むカーブの先。

 アビドス高等学校へ続く一本道も左右は砂によって黄色く彩られている。その彩りの上にジープを停車させた俺は運転席のドアに寄りかかり、乾いた風と暑い日差しを浴びながらタバコを吹かしていた。

 

 運転中はタバコなんて吸おうものなら副流煙をホシノに吸わせてしまいかねない。

 

 こんなものは百害あって一利なし、己の肉体を不必要に痛めつけるマゾヒストの嗜好品だ。

 

 助手席に乗っている先生にガン開きの目を向けられている。

 振り返って見た訳では無いが、特攻服越しに浴びる熱い視線でそれくらいは読み取れる。

 

「酷いものだな」

 

 人の営みがあった形跡は大半が砂の下に埋もれ、残っているものも以前アビドス高等学校自治区を訪れた時より少なくなっている。

 

 どれだけ人間が繁栄を極めたとしても最後は自然環境によってその痕跡ごと容易く蹴散らされてしまうのだと、アビドス高等学校の現状を見ると痛感させられた。

 

 これを元通りに戻すのには、どれだけの時間が必要なのだろうな。

 

「……」

 

 時間が必要なのはアビドス高等学校自治区だけでは無い。

 

 小鳥遊ホシノ、彼女にも時間が要る。

 彼女は俺や荒事屋との初対面の際に行った行為や示した態度を未だに後悔して引きずり、乗り越えられていない。

 

 今でこそユメを真似てぽやぽやぁっとした緩い先輩をやっているが、その本質は昔と変わらず真面目で優しいまま。

 だからこそ俺に傷を負わせたことも、罵詈雑言を浴びせたことも、一年以上経過している今も尚引きずっている。

 

「バカ真面目め」

 

 後部座席をまるまる占領して丸まっているホシノは、ユメとの長電話の甲斐もあってかグッスリと眠れている様子だ。ヘイローも消えている。

 

 俺への後悔はユメを助けられてしまった事で容易くは拭い去れない呪いのようなものへと変わり果ててしまっており、今もホシノを苦しめている。

 

 それに対して俺がいくら気にしていないと言ったところで、彼女は自分を責め続けている。

 バカが付くほどに真面目で優しいから、ここまで己を傷付けてしまうしそれでもまだ終わりを迎えられない。

 

「本当に……バカが付く真面目っ子だ」

 

 彼女の俺に対する第一印象を考える時、想像する場面が2つある。

 

 1つは文字通りの第一印象を受ける場面、つまりは初対面時であるユメがまだまだ現役女子高生だった頃。

 あの頃のツンツンとした殺気立ち気味のホシノからすれば、俺の第一印象は間違いなく最悪だ。

 

 もう1つの場面、それは俺達がアビドスで活動を始めてしばらくたった頃

 この頃のホシノは俺や荒事屋の面々と関わる頻度が増えるうちに出会いたての頃とは顔つきも雰囲気も変わってきており、今のホシノに近い性格へと変わり始めていた。

 

 区別するなら初対面の頃のホシノを過去のホシノ、打ち解け始めたホシノを現在のホシノと呼ぶべきか。

 こんな風にホシノが現在のホシノへと変わり始めた矢先、ユメがアビドス砂漠で遭難して死にかけた。

 

 それを俺は荒事屋の人員と装備をフル活用しての人海戦術で対応することでユメの身柄保護を成し遂げたが、それが現在ホシノに俺達へ対する罪悪感や負い目といった負の感情を抱かせてしまっている。

 俺達がホシノに罵声や非難を浴びせなかったことも、彼女が俺達へとてつもない迷惑をかけさせてしまったという後悔となっている。

 

 だから現在のホシノに変わってからの俺に対する第一印象も、依然として最悪のままだ。

 俺達が悪いのではなく、自分を悪いと思っているが故の最悪という第一印象を、彼女は抱えたまま今に至る。

 

『私はさ、許されちゃいけないんだ』

 

 面と向かって言われた時は困ったものだ。泣きそうな顔で、乾いたアビドス砂漠を吹き付ける砂混じりの風を浴びながらそんな言葉を聞いた俺はどう返せば良いのかと悩んではみた。

 だけれども適切と呼べるだけの答えは出なくて、出来たのは無言で彼女を抱きしめるという行為だけ。

 

 彼女は自分を許されてはいけない存在だと思っている。真面目だからこそ己を許せなくて、迷惑をかけた俺に非難や糾弾をされないことに苦しんでいる。

 ここで俺が迷惑をかけさせやがって……なんて言えば少しは救われるのかもしれないが、そんなことはしない。

 俺は今を懸命に生きている子供にそんな不必要な言葉を投げ掛けられる畜生じゃない。

 

 今の小鳥遊ホシノは極めて危険だ。下手をすれば本来よりもずっと速いタイミングで黒服辺りと関わりを持ち、自分の罪を贖罪するのだとばかりに身を売り出しかねない危うさがある。

 

 如何に黒服含めたゲマトリアがストーリーを転がす存在であり彩りをもたらす存在なのだとしても、可愛い大切な元生徒であるホシノをくれてやる道理はない。

 

「……はぁ」

 

 ユメによるメンタルケアを受けても立ち直れない辺り、ホシノが抱える苦悩は相当なものだ。

 取り払ってやりたいが、俺自身が納得出来る方法を思い浮かべない。もう少し考えを巡らせたいがいい加減車に戻ろう。

 先生の問い詰めるような視線が背中に刺さって心が少し痛いしな。

 

 誰かを護衛したり逆に拉致している最中に銃撃戦に巻き込まれた時、護衛対象がパニックを起こして車外に飛び出してしまうのを避ける為に俺の車は特別仕様になっている。

 俺の持っている鍵を用いて施錠した場合、内側外側を問わずにドアを開ける事が不可能になる。

 

 そんなものに閉じ込められているものだから先生は俺を叱りたくても叱れない。

 運転を始めるとなればお説教がスタートされそうだが、それはまぁ眠気覚ましとして受け入れよう。

 

「巫山戯た砂嵐だな。クソが」

 

 ビルを飲み込んでいる砂漠を見ていると、無性に腹が立って俺は吐き捨てていた。

 

 先人達の営みの痕跡も、未来のある若者達の努力も、それ等一切に対する区別も容赦もなくこの砂漠は飲み込むくせに、ホシノの抱える苦悩は選り好みしているかのように飲み込まない。

 

 頭に来る。これでアビドス高等学校が現在抱えている借金をどうにかして完済したところで、待ち受けている原因も対策も不明な砂漠化をどうしろというのか。

 

 口臭ケアとして持ち歩くことにしているガムを2つ口に放り込んで車に乗り込もうとした俺の耳が、自転車のブレーキ音を聞き取った。

 アビドスで自転車と言えば、それはもう1人しかいない。車内にいるおっかない顔した先生から視線を離し、俺は音の聞こえた方を向いた。

 

「荒事屋のロゴが描かれたジープとなれば、貴女しか居ないと思った。久し振りだね、タイコ」

 

 こんなクソ暑い炎天下でも涼しい顔して自転車を乗り回すケモ耳スポーツガールは、俺との再会を笑顔で喜んでくれていた。

 

 俺もこんな過酷な環境下で頑張って日々を過ごしている知り合いと再会できたのは嬉しいが、こうもギラギラと照り付ける日差しの下では長話をする気も失せるというもの。

 

 運転手のドアを開け、いざ説教とばかりに伸びてきた先生の手をかわす。

 カップホルダーに嵌められていた中身を飲み干されて空っぽのペットボトルを手に取り、噛んでいたガムを吐き捨てると俺はケモ耳スポーツガールに顔を向けた。

 

「自転車は車の上に積むから後部座席に乗ってくれ。積もる話はそれからだ、シロコ」

 

 ルーフキャリアを指差しながらそういう俺に、砂狼シロコは「ん、分かった」とにこやかに答えながら軽々と自転車を持ち上げる。

 

 可愛い後輩の声が聞こえたのかホシノが目を覚ましたようで、彼女のヘイローがぼんやりと現れるのを後目に見ながら俺は自転車をルーフキャリアに取り付けるのを手伝うことにした。

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