スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
先生を無事にアビドス高等学校の校舎内まで搬入する任務を終えた俺は真っ直ぐ帰宅……なんてことはせず、敷地を出て細い裏路地に入り込むとタバコを蒸かしていた。
道中は案の定、先生からの喫煙に関するお説教祭りだった。誰かに喫煙を叱られるなんてこの世界で初めての体験だったから、少し嬉しかったのは内緒。俺はマゾじゃない。
青春を謳歌すべき前途洋々たる若人達が集う学校でタバコを吸う、なんてことは出来ない。
副流煙云々の健康面での悪影響は勿論の事、ブルーアーカイブという世界において重要な役割を占める学校でこんな百害あって一利なしの代物を使うのは気分が悪いからな。
「……くくっ、あの顔は傑作だったな」
後部座席で眠っていたホシノが頭側のドアをいきなり開けられて飛び起きた時の顔と言ったら傑作も傑作だ。
右目は半開きで左目はやけに大きく開いて、口もぽかーんとマヌケな形に開いて口の端からはヨダレを垂らす。
とても人には見せられない、それこそ将来を共にする伴侶とかが相手でもないと見せられないひっどい顔をしていた。
それを大切な後輩であるシロコに見られたと気付けば今度は顔を真っ赤にしてワタワタと……あの時の彼女に天ぷらの衣を付けたら自身の体温でカラッと上がったんじゃないかな。
「これは見つかったら面倒なことになりそうだが……後でユメにも見せてやるか」
飛び起きたての顔と赤面顔、どちらとも俺はどさくさ紛れに携帯で撮影していた。
ホシノは浮気バレを誤魔化さんとするかのようにシロコの相手で精一杯だったから、俺が盗撮したことに気付いていない。
バッチリと撮影出来ていることを確認し、ぽやぽやした顔の下に真剣なモノを隠し持っている少女の見せる年相応な可愛らしい表情にまた少し笑わせてもらい、タバコを携帯灰皿に押し付ける。
「さて……よっ、と」
空き家となった民家とその前に通る通路を隔てているブロック塀に手を掛け、よじ登ると民家の玄関上に備えられている屋根へと飛び乗る。
そこから2階のベランダ、屋根へとよじ登ると腹ばいに伏せて、数秒前までタバコを味わっていた通路を見下ろした。
ほどなくして聞こえてくる複数の足音と、その主たちが現れる。
「……なんか、くさいな」
「本当だ…誰かオナラでもしたか?」
「オナラの匂いじゃないでしょうよ…」
赤や黒のフルフェイスヘルメットで頭と顔を隠している武装した少女達によって構成させている暴力組織、カタカタヘルメット団。
数日前に俺達荒事屋が依頼を受けて壊滅させた分派組織であるベコベコヘルメット団と源流を構成する少女達が、狭い通路を大勢で群れ成して行進している。
というかタバコの匂いをオナラと間違えるなよ、心配になるじゃないか。耳鼻科行け。
(やっぱり、
アビドス対策委員会編では1回1回の戦闘で現れるカタカタヘルメット団が少なくても18人前後くらいしか居ない。多くても30には満たなかった気がする。
ゲームであれば難易度バランスや描画限界、アニメであれば作画コストや納期等の問題といったメタ的に無双ゲーを思わせる大量のザコ敵を配置するのが難しいとはいえ、それでもそこが少し不自然だった。
校舎を奪い取る為であればカイザーの事だから、大量のカタカタヘルメット団を寄越してもおかしくないはずだ。
別にカタカタヘルメット団が小規模な組織、という訳でもないだろう。現にベコベコヘルメット団を筆頭にヘルメット団の名を冠する分派組織が複数確認されている。
(これがまるっとアビドス高等学校に向かったとなれば厳しいか)
通路を行進する面々だけでも軽く50人はいる。
ここ以外の通路を行進している部隊もいるだろうから、総勢は100は軽く超えてくると見た方が良い。
こっちの方がリアリティがある。校舎を奪い取ろうとするのならこれくらい大勢のカタカタヘルメット団を押しかけさせ、人と武器の物量で押し潰してしまう方が余程合理的だ。
俺達が暴れまくったのもこれだけの軍隊構成を促してしまっているのは……まぁ、否定しようがないのだが。
(派手に暴れたからなぁ…)
努力するユメ達やドロップアウトした生徒達を食い物にするような汚い連中を私達は徹底的に襲撃し、奪ってメリットのある物資や技術を強奪し、その首魁を殺して来た。
ゲーム内での挿絵はある意味適切と言えて、彼女達を食い物にして利益を得ようとする輩は大半がアンドロイドだ。モニターの頭に機械の肉体を持つ、血の通わない機械仕掛けの存在。
バラバラにしてパーツを分別し、その手の業者に回せばこれがそれなりな金になった。
頭部だけは残しておいて見せしめにも使ったし、俺達に悪事を暴かれた連中の悲惨な末路を見た奴等への抑止力にもなった。
それをカイザー側も理解しているからこそ、これだけ大勢のカタカタヘルメット団をアビドス高等学校の奪取に差し向けたのだろう。
今でこそ撤退したが未だに影響力を残し、進出希望をウリとしている荒事屋から邪魔されるかもしれない……そんな恐れと警戒がある中で、その頭目と鉢合わせてしまった。
そうなれば大群を用意するくらいは当然だし、その判断が出来ないとなると同じ大人として困るしな。
(ある程度は減らしておかないとな。万に一つも起こり得る)
全滅させるのは容易いが、それではダメだ。
先生の指揮能力によって普段なら苦戦を強いられていたアビドス廃校対策委員会の面々が戦いやすさを実感し、先生という存在のありがたみや頼り甲斐を理解する場面がつぶれてしまう。
携帯を見る。
荒事屋内部で独自開発したマップアプリを起動すると、俺がいる地点を中心として半径20m範囲内の空撮映像が映し出される。
かなり多い。複数の通路を大量のカタカタヘルメット団構成員が行進しているのが見えた。
こりゃ100や200じゃきかないな。もっといる。これが全部アビドス高等学校に乗り込んだとなれば押し潰されるだろう。
(先生は死にかねないしな…減らすに限る)
ホシノ達は肉体が丈夫で弾丸を多少食らった程度では痛がるくらいだが、先生は違う。下手な流れ弾1発でも当たり所によっては即死も十分に有り得る。
彼の前にこれだけの武装集団を立たせるのは危険だ。
指揮を執る云々の前に殺されてしまっては指揮系統はガタガタになるし、何より少女達に『人が銃によって死ぬ光景を見てしまった』というトラウマを植え付けてしまいかねない。
ホシノは特に酷くショックを受けるだろう。
心を許していない相手とはいえ目の前で死亡する、あるいは死にかけるなんて光景はユメが遭難して間一髪救助された時の光景と重なるだろう。
(……多分、原作でホシノ達の前に立つ部隊はこれか)
空撮映像を凝視し、構成員数の少ない部隊を割り出す。
総数は25名。これくらいなら先生の指揮の下に動くホシノ達なら対応可能だろう。
その25名にピン付けをし、攻撃禁止と情報を書き加える。
その他は『撃破了承』とピン付けをして、画面下部でピカピカと明滅する『作戦伝令』というバーをタップ。
アビドス砂漠を移動している最中にユメへ部隊を派遣するよう頼んでおり、自治区に乗り込み待機している荒事屋実働部隊に行動開始の指示を出した。
「さぁ……やるとしますか」
あれこれと思考を巡らせている間に部隊は通り過ぎていた。背後に着地し、ジープに積んでいた特注のカバンを開いて中にしまっていたチェーンを取り出す。
ハンドガンも取り出すと特攻服の内ポケットにしまい込み、取り出した鎖を振り上げる。
しなりを十分に効かせてアスファルトの地面に叩き付けると、その音に驚いて目の前を行進しているカタカタヘルメット団の部隊が振り返った。
「……なんだ? スケバン?」
「……嘘だろ、タイコじゃないか!? あの、荒事屋の頭目、技巧のタイコにソックリだぞ!?」
混乱と動揺が広がって行き、慌てふためきながら各々が得物を構える。
近辺に潜伏していた実働部隊の各隊長格より戦闘行為に入ったという報告が携帯の画面に届くのを確認すると、電源を落としてレッグホルスターに押し込んだ。
鎖の両端はチェーンフックになっており片方はカバンの持ち手、もう片方は竹刀の柄頭に開けてあるフックを通す様の穴を通し、1つの武器として連結した。
「そうだ。俺が荒事屋頭目 栗浜アケミが妹 栗浜タイコだ。そっちと同じく色々とこちらも訳ありでな。ワルいが……遊んでもらうぜ」
竹刀を右肩に担いで巨大暴力組織の頭目に相応しいだけの凄みってやつを演出しながら、俺は目の前の集団へと突っ込んで行った。
先生には生徒達と原作通りの親密な関係を築いてもらいたい。
俺はその為の裏方に徹する。いわゆる、仕込みというやつだ。
「良い装備を恵んでもらえているんだろう? ガッカリさせてくれるなよッ!!」
「うっ、撃て撃て撃てェ!」
突進してくる俺を迎撃しようとカタカタヘルメット団構成員達が各々の得物を乱射してくるが、構うことなく突っ込む。
竹刀の軸としても用いている超硬合金板仕込みのカバンで飛来する弾丸を受け止めながら、俺はアケミ仕込みの大暴れを披露する為に普段とは異なる不慣れな呼吸を始めていた。