スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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荒事屋の頭目

 アビドス高等学校に押し寄せた数十名規模のカタカタヘルメット団は先生の指揮を受けて効率的な立ち回りを可能にした廃校対策委員会に撃退され、典型的な悪役の撤退セリフを吐き捨てて逃走。

 

 突然の奇襲からの逆転。それを可能とした先生という未知の存在が味方してくれる力強さをシロコ達は噛み締めていた。

 

(とりあえずは、どうにかなったかな)

 

 先生も額の汗を拭い、自分の指揮で生徒達が効率的な立ち回りを可能とした事実を噛み締める。

 

 平穏な日々の中で成長してきた自分とは異なる、アニメや映画等でなければ縁もゆかりも無かった実銃と日々を過ごしている自分より一回りも年下の少女たち。

 拳を振るう代わりとばかりにトリガーを引いて弾丸をばらまき、弾丸を受けても痛がる程度で済んでしまう。

 先生の基準に照らし合わせれば人外とも言えてしまう彼女達の力になれるのか、最初の頃は不安しかなかった。

 

 自分は下手な流れ弾1発でも死ねてしまう脆弱な存在。

 それが果たして力になれるのか。自分よりも頑丈な肉体を持つ彼女達の支えとなれるのだろうか。

 

(このまま頑張ろう)

 

 日々尽きることのないその悩みも今回の一件で少し自信が持てた。自分みたいに弱い存在でも力になれる、そう再認識出来た。

 

 襲来したカタカタヘルメット団を追い払ったホシノ達に労いの言葉をかけようとした先生だったが、小さいながらも確かに聞こえるドタドタという音がそれを阻止する。

 

 音が聞こえる方向を見ると、追い払ったばかりのカタカタヘルメット団が猛ダッシュで戻ってきた。

 

「アイツらまた来たの!? 今追い払ったばっかりじゃない!!」

「余程元気が余ってるんですねぇ〜。羨ましいです☆」

 

 セリカは目に見えて不愉快がっており、ノノミは呑気にカタカタヘルメット団の元気を羨ましがっている。

 

「……何か、おかしくないですか?」

「うん。おかしい」

 

 撃退されて直ぐにまた襲ってくるなんて不自然な行為を疑問視したアヤネとシロコは、砂煙を巻き上げながらという猛烈な勢いで走ってくるカタカタヘルメット団の姿に違和感を感じていた。

 

 予備の兵装をたんまりと持ち込んでおり準備を整えてきた…と考えるにしては、自分達の所属している組織を表すヘルメットのバイザーが割れっぱなし。

 中には武装の類を持たず素手で逃走している者や、割れたバイザーの奥から涙で潤んでいる瞳を覗かせている者もいる。

 

 再襲撃を仕掛けてきた様子には到底見えない。

 

「まるで何かに追われているみたいだ」

 

 先生の感想が今のカタカタヘルメット団の様子に対して最適だ。

 何かに追われ、捕まるまいと本気で恐怖し逃げている。

 

 部隊の隊長格である赤い服に赤いヘルメットを被った構成員が校門を潜ろうと肉薄してきたのを、ホシノがショットガンを構えて制止する。

 

「何の用事かなぁ? まぁ、()()()()()()()()()()()

「たっ、たすけてっ! 殺される!」

 

 気付けば愛車を残して姿を消した人物が何かしたんだろうなぁ、と想像していたホシノの声を遮るように隊長格の少女は助けを求める。

 

 殺される。

 誰かにこっぴどく叱られる事を恐れて誇張表現で用いることがあるが、本来の意味は極めて物騒であるその言葉を、何かに追われている様子の人物が放つと鬼気迫るものがあった。

 

 何が来ているのか。

 弾丸を食らっても死なないような頑強な肉体を持つ彼女達が、一体何にそこまで怯えさせられているのか。

 

 アビドス対策委員会に緊張が走りかけたが、それはドローンを用いて空中から周囲を観察していたアヤネの「あっ!」という声で阻止された。

 

「皆さん大丈夫です! 荒事屋です!」

「荒事屋って……タイコの率いている組織?」

 

 アヤネの嬉しそうな声色とは不似合いな悪い噂がそれこそ弾丸のように飛び交っている巨大暴力組織 荒事屋。

 

 先生も数々の噂を耳にしたことはあるが、その姿を直接見るのは初めてだった。

 

「み、見えました! もう奴等ッ、すぐ後ろに!!」

「おわったああああああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜!!!!」

 

 背後まで迫ってきているという報告を聞いたや否や、隊長格の少女は発狂したように泣き崩れた。

 数分前まで争っていた相手達の目の前でありながらヘナヘナと座り込む。

 何処からか微かに、しゃ〜っという水が出てくるような音が先生には聞こえた気がした。

 

 それを気にする余裕が彼になかったのは、逃げてきたカタカタヘルメット団の背後から現れた大量のスケバン軍団の気迫に気圧されたからかもしれない。

 

「あれが……」

 

 初めて目にする荒事屋が纏う気迫に、先生は言葉を失った。

 アビドス高等学校の正門正面に伸びる道路を横列で埋めつくしている荒事屋はほんの一部に過ぎないが、それでも初見である先生を圧倒するには十分だ。

 

 黒い特攻服やセーラー服に身を包み、衣類と同じく黒一色に塗り染められた武器を携え、黒い筆文字で荒事屋と書かれたのぼりを掲げて行進してくる。

 

 軍隊のような私語の存在しない形式張った行進ではなく、どちらかといえば超大規模になった登下校中の女子達といった具合だ。

 近所迷惑にならない程度の声量で和気あいあいと言葉を交わし、中には隣の人の肩を軽くどついたり手を繋いでいたりと強い結束で繋がった友人によって構成されている、というが見た目の印象。

 

「うへぇ……おじさん達が何かしたってわけじゃないんだけど…凄い威圧感だねぇ〜……」

 

 見た目だけならば超大規模になった登下校中の女子達。

 

 しかし彼女達が纏っている気迫はそれとは真逆。

 見えている腹部や四肢には良く鍛え抜かれた筋肉が女性らしさを損なわない絶妙な塩梅で取り付けられており、細身ながらも屈強さを醸し出している。

 

 目付きもそうだ。楽しそうに笑っているのに、目元だけは油断を感じさせない引き締められたものになっている。

 周囲を隈なく観察し、伏兵が潜んでいないかを入念に警戒し、前方に捉えている獲物との距離をじわりじわりと詰める。

 

 見た目と相反して気迫はまさに統率の取れた軍隊そのものと言って良い。

 誰一人として慢心せず、自分たちには害を及ぼさないと分かっているホシノすら怯ませていた。

 

「ん……タイコさんも居る」

 

 横列を組みながら行進する荒事屋の先頭を歩くタイコはニコチン等を含まないリキッドたばこ(電子タバコ)を蒸かし、右肩に竹刀を担いで左手に握る鎖をガリガリと擦りながら歩いている。

 

 タイコとしては如何にリキッドたばことはいえ、ながらタバコなんて行為をしたくはなかった。

 しかし荒事屋構成員達が『リーダーが最前線をタバコ蒸かして歩くと様になるから!』と言うものだから、仕方なく行っている。

 

「……」

 

 サングラスによって視線は外からは分からない。

 物騒な見た目と気迫のせいで、それ等に不似合いであるサンダルで歩いていることにも誰も気付けない。

 

「あわ、あわわわわわわわ」

「ひぃっ、めっ、めがあっった!!」

「きゅう……」

 

 怪我の具合を確認したいだけのタイコなのだが、敗走した先で荒事屋とその頭目に鉢合わせてしまったカタカタヘルメット団構成員達の心的ストレスは最高潮だ。

 

 極度の緊張が感覚を鋭敏にさせてしまっているのか、タイコの放つ威圧感を不必要なまでに増幅させてしまっている。

 サングラス越しのタイコの視線にも気付いてしまい、目線が合ったと察した途端に語彙力が消失して壊れたラジオのようになったり泡を吹いて気絶してしまう。

 

外の世界で見た漫画でこんな光景あったなぁ……

 

なんだっけかなぁ……

 

 気圧されるあまりに1周回って変な冷静さを得てしまった先生の感想を知る由もなく、タイコが率いる荒事屋は行進を続ける。

 

 気絶したカタカタヘルメット団構成員に接近すると近くにいる荒事屋構成員が身柄を回収し、隊列の中へと引きずり込む。

 実際には呼吸状態の確認や誤嚥を起こしていないか確認しているだけなのだが、絵面だけを見れば黒い巨大な怪物に飲み込まれているように見えなくもない。

 

 それが最後に残された隊長格の少女からすれば仲間を食われたように見えるものだから、彼女の混乱や恐怖は想像を絶するものだろう。

 

「っ、ぁ、あっ、うっ……」

 

 目の前に仁王立ちするタイコの姿に声が出ない。何かを言おうとはしているのだが、それも叶わない。

 

「……怪我は、無さそうだな」

 

 バイザーが割れているくらいで目立った怪我はない。

 ホッと一安心したタイコだが、彼女の言葉は隊長格の少女にはこう聞こえていた。

 

「怪我は、無さそうだな。これで商品価値は下がらない。使い道がある

 

 悪い噂の数々と極度の緊張が、全く思ってもいない心の声を生み出してタイコの言葉の後ろに付け足してしまう。

 

「うわっ、うっう、うっうあああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 パニック状態に陥った少女は弾かれたような勢いで立ち上がったかと思うと、タイコに向けて右手を握り締めて作った拳を突き出してきた。

 

 それをタイコは体を捻って躱す。鎖によってカバンと竹刀を繋いでいる異形の鎖鎌とでも呼ぶべき武器を手放すと、殴った勢いで前方に踏み込んでいる少女の後頭部に左前腕を添えた。

 右腕は少女の腹部へと添えられる。しっかりと密着したのを確認すると左前腕を下方へと押し下げ、少し遅らせて右腕を上方へと押し上げる。

 

 くるんっ、と空中で前方に回転した少女は背中からアスファルト舗装の地面に落下。ヘルメットで保護されている後頭部を強かに打ち付けて静かになった。

 

「この子を頼む」

 

 ヘルメットを外して呼吸を確認したタイコは背後に控えている荒事屋構成員を手招きし、気絶した少女の身柄も回収させる。

 

「……ふぅ」

 

 特攻服の襟に手を掛け、何処ぞの極道達が行うような上着の早脱ぎを行ったタイコはドサッと地面に座り込む。

 普段は特攻服によって隠されている背中には、サラシによって部分的に隠されてしまっている『荒』の文字が彫り込まれていた。

 

(つっっっっ……かれたぁ……)

 

 自分一人で相手した50人に手こずった訳では無い。その背後から遅れてやってきた戦車の相手に少し手間どった。

 

 速攻で仕留め切る為にアケミとの特訓で見様見真似でコピーした『スケバンの真髄が込められた呼吸法』を使ったのが、そこで仇になったのも手間取った要因である。

 

「はあぁぁぁ〜〜……風が気持ちいいぜぇ〜……」

 

 特攻服という外気と肉体を部分的にだが隔てている障壁が失われ、剥き出しとなった肉体に乾いた風が吹き付ける。

 

 縮小と拡大を肺が繰り返す度、顔を顰めたくなるような痛みに襲われる。

 

 不快感はない。むしろ、タイコにとっては愉快な痛みですらある。

 

 深さと速度、1呼吸毎に込める気力、普段と異なる呼吸を維持しつつ戦闘をこなす為の集中力。

 

 様々な要素を求められる呼吸法は源流こそアケミ独自の技術だが、それによって齎されるものはアケミの用いる呼吸法とは異なる。

 アケミが怪力をもたらす呼吸法なら、タイコの呼吸法は素早さをもたらす事を主目的とした呼吸法。

 足運びを速やかに、体捌きを軽やかに、思考には冴えをもたらし、対価として酷使した肺への激痛を引き起こす。

 

「くくっ……見てる見てる」

 

 その激痛を心地よく思いながらタイコは先生を見つめた。

 彼もタイコを見つめていた。

 

 2人は『生徒を助けたい』という考えこそ一致している。

 生徒達を助けたい。この厳しい世界に苦しんでも、絶望しても、前を向いて歩いて欲しい。この考えは寸分違わず合致しているのだが、己の立場は別々の場所に見ている。

 

 生徒達の成長を見守り、後押しする。時には先に生きた者としての背中を見せ付けて道を示し、また時には身を呈してでも守る。

 時に背後から支え、時には先頭に立って守るのが自分だというのが先生の立場。

 

 居場所が無い生徒達にとっての居場所を作り、失った居場所を取り戻すまで手厚く仲間と共に支え、得意を活かして生きる上で必要な蓄えをさせ、必要性を僅かにでも感じれば進んで先頭に立ち降り掛かる火の粉や向けられる魔の手を叩き潰す。

 背後から支え、隣に立って励まして、先頭に立って力を振るうのが自分だというのがタイコの立場。

 

「……確かに、立場が違うね」

 

 今回は特に先生とタイコの立場の違いが浮き彫りとなった。

 

 後方から指揮を執る先生と、自ら前線に立つタイコ。

 肉体の頑丈さや戦闘能力、戦闘にかける意欲や熱意の違いがあるとはいえ、立場がかけ離れている。

 

 とはいえ、どちらも生徒にとっては頼れることには変わりない。

 こうして今回アビドス高等学校襲撃に関与したカタカタヘルメット団 総勢451名はその全員が、先生の指揮を受けた廃校対策委員会の反撃とタイコ率いる荒事屋の猛攻によって鎮圧・吸収されてしまった。

 

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