スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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ラーメン大好き栗浜さん

 アビドス高等学校対策委員会は先生と合流してからというもの、それはもう破竹の勢いと言っても過言では無いレベルでカタカタヘルメット団の拠点を襲撃しては制圧している。

 

 俺も先生と連絡を取り合い、襲撃に合わせて荒事屋構成員を派遣して敗走したカタカタヘルメット団構成員の身柄を回収させてもらっている。

 アニメ2話の描写では先生達に負けた構成員が砂漠の上を走って逃げていたし、下手をすれば逃走中にはぐれて砂漠で遭難……なんて事も有り得なくはないからな。

 

 生徒達を死なせはしない。開けた未来を用意されている彼女達の人生が不本意に終えられてしまうなんて、あってはならない。

 

「うん、うん、そうか。分かった」

 

 小腹が空いたから散歩中近くにあったジャンクフード店でチーズバーガーを15個くらい購入してドカ食いしてやろうかとも思ったのだが、足りる気がしなかったから止めた。

 アケミ捜索に注力する為に活動頻度を抑えている荒事屋だが、それでも活動自体は行っている。

 昨日は以前受けた依頼のそこそこ大口な報酬が振り込まれ、荒事以外にも手を出している色々なものからも利益が出た。

 それ等を組織の運営費や構成員達に分配しても少しは俺の手元に金が残った。

 

 金銭的余裕があるってのは良いな。弾薬代とかを複数店舗で比較してチラシと財布の中身と睨めっこ、なんて手間が省ける。

 

「復学の目処が立って良かったな……ウチに来て、もう半年くらいか?」

『はい! この半年間色々とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!』

 

 動物頭やロボット頭が行き交う通りから外れ、路地裏に滑り込むと建物の外壁に寄り掛かっていた。

 俺は顔が割れているから人集りの中に紛れていたとしても気付く人には気付かれる。そうなってはおちおち電話もままならない。

 ながら電話をしたくない、というのもあるしな。

 

 電話越しの泣くのを勢いで誤魔化そうとしているのが丸わかりな、可愛らしい強がりを見せる相手の顔を思い浮かべる。

 半年前にゲヘナ学園の万魔殿(パンデモニウム・ソサイエティ)を率いる生徒 羽沼マコトとお茶をシバいていた時に成績不振で退学処分となってしまった所をうちで引き取った、元風紀委員会所属の子だ。

 

 全体的に治安悪めなブルーGTAなキヴォトスの中でもゲヘナはトップクラスで治安が悪い。

 ネームドキャラもテロリスト、死体マニア、風紀乱し委員会、その他多数と癖強ばかり。

 ヒナに伸し掛る負担も相当なものだ。

 

 そんな学校に居た彼女も最初のうちは俺の言葉も聞かないわ暴れるわで大変だったが、今ではすっかり落ち着いている。

 

「いいっていいって。お前達がしっかり自分の足で生きていけるよう支えて、励ますのが俺の役割だ。真っ当にとまではいかずとも、本当にやってはいけないことをやらないで生きてくれればそれで良いんだよ」

 

 猪突猛進気味で目が離せない、それでいて素直で笑顔が可愛い子だった。

 復学後の為に蓄えをして、そのあまりでよくコンビニの美味しいお菓子を見つけては買ってきてくれた。

 

 復学する、それは本来ならば荒事屋からの脱退を意味する。世間に名の知れている巨大暴力組織に関与しているなんて知られてしまえば、復学取り消しなんてことも有り得るからな。

 

 マコトやヒナみたいに俺と面識があり、荒事屋の実態についての理解もある相手が復学先のトップや元所属組織の長でなければ、俺と彼女の関係も今日で終わりになっていた。

 

「部屋はそのままにしておく。学校の寮に戻るのか使い続けるのか決まったら連絡が欲しい。決まるまでは使い続けてくれて構わない」

『うっ……うぅ…頭目…私、復学出来て嬉しいはずなのにッ、悲しいですぅっ』

 

 とうとう泣くのを我慢出来なくなったらしい。

 我慢なんて体に毒なこと覚えやがって馬鹿な子だよ。

 

 泣きたきゃ泣きゃあ良いんだ。涙は女の武器って言葉があるくらいなんだし、男に比べりゃ幾分か泣くこと容認されているんだからさ。

 

「誰も急かしゃしねぇし、俺がさせねぇからさ。ゆっくり決めな」

『………あ"い"! あ"り"か"と"う"こ"さ"い"ま"す"ッ!!』

 

 それでは失礼します!なんて元気よく締めの挨拶が放たれて電話が切れる。あれだけ泣いてくれると頭目として嬉しいものだ。

 

 ながら電話をしない為に座っていたが、その間も空腹感はずっと腹に居座っている。

 立ち上がり、携帯をカバンの側面ポケットに入れる。内側だと鉄板が仕込まれているし鎖も入っているから、下手に降ると中で携帯がそれ等にぶつかって壊れる。

 

「……気に食わんな」

 

 ふと街を見れば、そこかしこに見えるカイザーグループの広告。

 

 アビドスの土地を買い漁り、蝕む邪悪な病魔。

 それ等が『ここまで侵食しているんだぞ』と己の成果を勝ち誇っているように見えて、それが酷く不快だった。

 

「さて……ラーメンでも食うか」

 

 電話をしながら街ゆく人達を眺めていると、やはりキヴォトスと言うべきか。ロボットもそうだが獣人の姿がかなりの頻度で見受けられる。

 

 ゲームだと特に犬の頭をした獣人の立ち絵を良く見かけた。猫の獣人や鳥の獣人も居たものの、立ち絵の種類が多いのは犬の獣人。

 市民の立ち絵をそんなに多く用意しても持て余す、みたいなメタ的理由があるのかもしれないが現実として今の俺が生きているこの世界においては、犬の獣人が最も多く繁栄しているのかもしれない。

 

 柴犬にパグにシュナウザー。その他多数の犬の獣人を多く見かけて、尚且つ空腹。

 そしてここがアビドス自治区内ともなれば、特に食べたい物が定まっていなかった俺が選ぶ店はただ一つ。

 

 裏路地を経由し、記憶しているアビドス自治区内で行き付けのお店を目指して右へ左へフラフラと歩くこと数分。

 お目当てのお店の扉を開けると、イカした傷を顔に持ちつつも可愛らしい見た目と声をした犬の獣人が俺を見て笑った。

 

「今日も来たのかい? いくら若いからって毎日ラーメン食べると太るし体調崩すぞ?」

「それを美味く作る貴方が悪いんだよ」

 

 柴関ラーメン。対策委員会編ではちょくちょくとストーリーにおける要所になり、セリカがバイトをしているお店でもある。

 

 柴大将のお小言を受け流し、普段使用している一番奥の個室に視線を向けた。

 

()()()()()()()()

「そりゃ助かる。醤油ラーメン超大盛りで、貴方の顔を見たら腹が減って仕方ない」

 

 お店に騒ぎを持ち込んだり内側で発生させるのが嫌だから、一番奥の個室が空いていなければここで食事は取らないようにしている。

 柴大将もそれを理解してくれているから、俺の視線を読み取って空いているかを教えてくれる。今日は空いているそうだ。

 

「あいよ! 腕によりをかけて作ってやるからな!」

 

 キラキラと眩しい笑顔の柴大将を見ていると、とてつもなくモフり倒したい衝動に襲われる。

 ニコニコ笑う柴犬とかズルいだろ、撫でろって言っているようなものじゃん。

 

 ちょこっと芽生えたムズムズする感情を抑えて個室に向かい、カバンを座席に置こうとした時。

 ガラガラと音を立てて柴関ラーメンの入口が開く。

 

「大将! 今日もよろしくお願いします!」

「お、いらっしゃいセリカちゃん! こっちこそ今日も頼むよ!」

 

 借金返済の為にと頑張っているセリカがバイトの為に現れた。

 そういえばモモトークに先生から、セリカとの関係に悩んでいるって相談が来ていたっけか。

 

 周りの生徒に頼ってみろ、後は頭使えって丸投げしてしまったけど、そうなるとそろそろセリカ尾行イベントが始まる頃合いかもな。

 

 便利屋68と再開する日も近いかも……なんて思っていた俺にセリカが気付いたようで、俺に向けて笑顔で近寄ってくる。

 

「タイコさんも来ていたのね! 柴大将、タイコさんの食べっぷりにいつも嬉しそうにしているんだから今日も頼むわよ!」

「言われなくても食うさ。セリカこそ、頑張り過ぎたなんて理由で倒れるなよ?」

 

 彼女は対策委員会の中でも特に借金返済の為にと日々駆けずり回っている。突然現れた先生という存在の手を借りることを拒んでしまうくらいには、その努力の度合いは相当なもの。

 モモトークでもその様子は見て取れて、社畜だった自分を棚に上げて過労で倒れるイベントなんかが用意されているのではとヒヤヒヤしたのを覚えている。

 

 結局そんなことは無かったのだが、今は目の前のセリカも血の通った生きた人物として存在している。

 無理をすれば倒れるのは生物として当然の反応だ。

 

 そんなことにならないようにと釘を刺す。俺の目付きが冗談を言っているのではないと聡い彼女は感じ取ってくれたようで、少し困ったような笑いを見せて頷いた。

 

「分かったけど……それはタイコさんもよ。無理をして怪我なんかしたら皆が悲しむんだから。いい? 無理しちゃダメよ?」

「はっ、まだケツの青いセリカに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ。ンな事よりさっさと制服にさ着替えな、大将が待っている」

 

 バイトを頑張ろうとしている子を引き止めてしまうのも気分が悪い。

心配してくれるのはありがたいし贅沢を言えばもう少し聞いていたかったが、柴大将1人で切り盛りしている柴関ラーメンにとって貴重な人手を俺が独占するのも迷惑になる。

 

 荒っぽい言い方をして追い払ったつもりだが、セリカは俺がこんな言い方をすれば怒って立ち去ると考えたのを見越したのだろう。

 フッと笑い、制服に着替える為に裏方へと引っ込んで行った。

 

「少しは良い方向に転んでいるっぽいな……良かった」

 

 原作ではこの時のセリカはいきなり現れた先生という存在をよく思わないせいで、元の着火しやすい性格と合わさって結構カリカリしているような印象を受けた。

 

 こちらの世界では違う。荒事屋構成員達も似たような荒っぽくて着火しやすい性格の子が多く、ウマが合うようで結構広い交友関係を築いている。

 

 それが彼女に対策委員会の皆と居る時とはまた違う安心感を与えているのか、ちょっとの挑発には乗らない落ち着きを得ていた。

 これなら先生と反発するなんてことは……なんて淡い期待も抱いたりしてみたのだが、どうもそうはいかなかったようだ。

 

「さて、と。何か面白いニュースでも」

 

 俺が使わせてもらっている個室には特別にテレビを置いてもらっている。そこでニュースを眺めながら超大盛りラーメンを食うのが至福のひとときなのだ。

 

 リモコンを操作して電源を入れ、ニュース番組を選択。

 超大盛りを注文したから提供されるまで時間がかかる。ダラダラとテレビを見つつ荒事屋の事業について少し纏めようか、なんて思った矢先にまたしてもガラガラと扉が開く。

 

「あれぇ? タイコちゃんがいる」

「タイコさん? あっ、本当です!」

「ん、たまに姿が目撃されるなんて噂はあったけど、本当だった」

「ラーメンお好きなんですか? きっと沢山食べるんでしょうね☆」

 

 そこに居たのは対策委員会の面々。

 

 そして、

 

「丸投げは酷くないかなぁ?」

 

 若干青筋を立てている先生。

 

 おい、待て。まさか今、セリカ尾行イベントの真っ最中か?

 

 そうなるとこれ、今夜セリカが誘拐されるってことになるのでは?

 

「……まぁな。じゃ」

 

 何とも歯切れの悪い言葉を残して個室に引っ込む。

 俺と相席しようと対策委員会の面々はしたようだが、そこに着替えたセリカが登場したことで注意がそちらに向いてくれた。

 

 ありがとうセリカ。後でなんか奢ろう。

 

 しっかし……なんだよ『まぁな。じゃ』って。もう少し洒落とかを効かせた物言いをすりゃ良いのに。

 

「今日なら、しっかり食っとかないとな」

 

 そうか、今日がセリカ尾行イベントであり誘拐イベントの日か。

 

 俺がアビドス自治区内にいることをカイザーは把握している。セリカの誘拐も原作以上に力の入ったものとなるだろう。

 

 そうとなれば腹拵えはしっかりとしておいて損は無い。

 ノノミの言う通り俺はラーメンが大好きだ。健康診断で医者におっかない顔で説教垂れられるくらい大好きだ。

 

 以前の俺なら胃もたれをするからとドカ食い出来なかったが、今の俺は肉体はかなり若い。それに比例して内臓機能も若くて元気だ。

 厨房にいる柴大将に個室から連絡できるようにと寄贈し、テーブルの下に隠すように設置されているトランシーバーを手に取る。

 

「大将。超大盛り醤油ラーメン、3つにしてくれ。大事な用事が出来たから景気付けがしたい」

『任せなッ! 手抜きなんかしないで一つ一つ魂込めて作ってやる!』

 

 柴大将の弾みに弾みまくった嬉しそうな声に、俺も笑みを堪えられない。

 

 トランシーバーを隠すと席に着き、ニヤケ面したスケバン集合体がうっすら反射しているテレビの画面を眺めて時間を潰すことにしよう。

 

 大将とのやり取りに意識が向いていたせいで、その間に流れていたニュースはほとんど聞き取れず内容も分からない。

 何やら脱獄がどうのと聞こえたような気もしたが……相変わらずキヴォトスは物騒だな。

 

 それに、分かることはある。

 

 もしも今夜、原作通りにセリカの誘拐が試みられたとしたら。

 

 俺は間違いなくプッツンするだろうということは、明確に理解していた。

 

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