スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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技巧

「ひいぃっ!! こっ、この! こっちにくごお」

 

 高性能な人工知能によってもたらされてしまう恐怖に囚われたオートマタ兵士がアサルトライフルを乱射しようとしたが、タイコが先に動く。

 頭部への強烈な打撃を受けてしまい思考回路が破損し、機能停止した元同胞の残骸を引きちぎり投擲武器とした右マニュピレータを投げ付けられる。

 

 右肩に投擲が命中し怯みながらも乱射を敢行したが、左手に持つ鉄板仕込みのカバンを盾として接近。

 彼女の射程圏内に捉えるとカバンを振り抜いて銃身を殴る。

 

 盾にも武器にもなるカバンを手放すと左手がアサルトライフルを掴み、引き寄せた。

 オートマタ兵士は前方へとつんのめる形となり、彼とすれ違うように位置を入れ替えつつ竹刀の柄を握っている右腕を振り上げた。

 

 カバンと竹刀を繋いでいる鎖が、カバンを手放したことで地面に無造作に寝そべっていた。

 それを右腕を振り上げることで引き寄せ、オートマタ兵士の足を払わせた。

 倒れたオートマタ兵士の背部を踏み付け、後頭部に右手に握る竹刀の切っ先が向けられる。

 

「これ以上やらせるなぁッ!!」

 

 物言わぬ残骸と化したオートマタ兵士は5分足らずで42機体にもなる。

 銃火器を用いず生身の身体能力と鉄板仕込みのカバン、超硬合金仕立ての竹刀と鎖だけを用い、戦闘用に開発・調整されているオートマタ兵士が打ち倒されている。

 

 1機でも数を減らされればそれだけ不利を背負う。数的有利を得ながら数的不利を予感したオートマタ兵士達が同胞を守るべく弾丸の雨を浴びせた。

 

「そんな豆鉄砲で()()を仕留められると思ってんのかァッ!!」

 

 ギロリと、深淵のような瞳がこれ以上やらせるなと叫んだオートマタ兵士を睨み、舐められたものだと怒りを露わにする。

 

 左手に握っているカバンの持ち手を手放し、接続している鎖を握る。

 この鎖は普段カバンに入れている短めのものではなくジープに搭載している長さと重さ、そして頑丈さに秀でている物。

 

 両手でしっかり持ったとしてもズンっと来る重量を誇るその鎖を、タイコは左腕一本のみでムチのように振り回し始めた。

 

 相当な速度が出ているのが姿のブレている左腕から見て取れる。

 鎖も左腕同様に姿がブレて半透明な銀色のドームのように見えた。

 

ガガガガガガガガガガッ!!

 

 大量の弾丸が放たれる音

 

 固い物質同士が激突する音

 

 それ等が止まったかと思えば半透明な銀色のドームは消え去り、そこには胴体部を踏み抜かれ頭部を刺し貫かれ元同胞であり現スクラップと、それを踏み付けている無傷のタイコが立っていた。

 

「……は?」

 

 誰ともなく発した声はやけに鮮明に聞こえる。

 

 生温い攻撃では仕留められないことくらい分かっていた。だから包囲した上で、フレンドリーファイアが起こり得ることも皆が承知した上で弾幕を浴びせた。

 

 同胞を減らされない為の攻撃がフレンドリーファイアを容易に起こし得る事も分かってはいたが、タイコに怒りの矛先を向けられているという恐怖がそこまでの思考に至ることを許してはくれなかった。

 

「ウソだろ!? なんでくさr」

 

 なんで鎖で

 

 振り回した鎖によって全ての弾丸を叩き落とされ、無傷の姿を見せ付けられた言い出しっぺのオートマタ兵士がそう言いかけたが途中で言葉が途切れる。

 再開することはない、乗った鎖の片側に取り付けられている鉄板仕込みのカバンが頭部を直撃し、粉砕したから。

 

「ひぃ!?」

「随分とオレを舐め腐ってくれるじゃァねェか。おら、続きを寄越せよ。こちとらまだまだちっとも暴れ足りねぇぞッ!!」

 

 隣にいた同胞が残骸と化する光景にオートマタ兵士の間での恐怖がより高まる。

 

 そこに怒り狂ったタイコが怒声を上げながら突進し、鎖の握る部分を細やかに切り替えながら得物を振り回して暴れ狂う様は、蹂躙と言っても差し支えなかった。

 

 ガードは出来ない。

 どれだけ身構えていても直撃してしまえば装甲は砕け、可動部は千切れ、内部の精密機械は衝撃を受けてイカれ、甚大な被害を受ける。

 

 そんな代物を自在に操りオートマタ兵士を一網打尽にするタイコの姿は彼女の技量を物語っていると言えるだろう。

 元の重量に遠心力も加わる長大かつ過重な鎖を制御する力もさることながら、技巧のタイコの異名を持つに相応しい技術力だ。

 

「このッ!」

 

 ロケットランチャーやガトリングガンといった超重力・超反動の重火器を同時使用可能にする為に開発された屈強な外見をしたヘヴィタイプが動いた。

 鉄板を何重にも重ね合わせたかのような分厚いシールドで鎖を受け止めて攻めの手を止めさせ、殴り掛かる。

 弾幕が効かないとなれば物理攻撃で仕留める。その判断はタイコを超える体格の彼ならではの効果があるように見えたが、相手が悪かった。

 

「デカイだけの木偶の坊がッ!!」

 

 タイコは体を僅かに傾けることで拳を躱し、殴る勢いが死んでしまわないうちに素早く右手首を左手で掴む。

 体を反時計回りに前後反転させ、ヘヴィタイプ・オートマタの腹部側へ背中を叩き付けるように密着させる。

 右腕を殴る勢いが向かう先である前方へと引っ張りながら、己の右肩へ担ぐ。

 

「舐めるなッつッてんだよオレはよッ!!」

「がっ……」

 

 一連の流れを滞りなく流れるように行うことで、2mを超える巨体が弧を描きながら宙を舞い、地面へと叩き付けられる。

 ヘヴィタイプ・オートマタの勢いを利用しての片手一本背負い。

 

 頭部に触れると寸勁を放ち、弾幕の嵐にも耐える設計の装甲はそのままに内部の器材へ衝撃を流し込んで破壊。

 黒々とした逞しい体格のヘヴィタイプ・オートマタは、ただのデカくて邪魔な粗大ゴミへと変貌することになった。

 

「ヘヴィタイプでもダメなのか!?」

「せっ、戦車だ! 戦車を前に出せぇ!」

 

 誰かがそう叫ぶと堅牢な装甲に全身を包むカイザーグループ所有の重戦車部隊が前進し、主砲をタイコに合わせる。

 

 本来ならタイコにぶつける為、タイコが出現しなかった場合はセリカを威圧して捕縛を容易にする為という2つの目的を持ってこの場にいる重戦車は、その超重量に見合う破壊力と防御力を有している。

 

 頑丈な建築物にすら風穴を穿ち、粉砕する重戦車の主砲。

 

 並大抵の銃撃や砲撃を寄せ付けない、堅牢なる重戦車の装甲。

 

 そんなものが直撃すればどれだけ頑丈な肉体を持つキヴォトス人とて即死は免れない。

 

 勝った。

 そんなムードが湧き上がる。

 

「まさか生身相手に主砲をぶっぱなす日が来るとはな」

 

 重戦車を操る搭乗員達も、堅牢な装甲に周囲を包まれている安堵感から産み出される余裕を噛み締めていた。

 

 オートマタ兵士部隊の士気が盛り上がる。勝ちの目が見えてきたと沸き立つ。

 その中で数十機、タイコの()()()()()()()()()()を見てしまった数十機のオートマタ兵士だけはその活気に呑まれることは出来なかった。

 

「何度同じことをオレに言わせれば学ぶ。オレを舐めるなよ」

 

 残念がるように呟くと、タイコは重戦車が動き出すよりも先に動いた。

 一気に駆け出して重戦車部隊へと突っ込んで行くと、目の前に立ち塞がっている重戦車の操縦手が外部を視認する為の覗き窓を発見。竹刀を全力で投げ付けた。

 

 ガシャン、ズダンッ

 

 切っ先を前方に向けながら投擲された竹刀は狙い通り、覗き窓に直撃。

 防弾ガラスをあっさりと粉砕して車内まで侵入し、操縦していたオートマタ兵士の頭部を刺し貫く。

 

「え……は?」

 

 先手を打たれたのも車内に攻撃を通されたのも、その攻撃で仲間を1機破壊されたのも、全てが想定外。

 まさかの出来事に言葉が失われる。

 

 竹刀が引き抜かれ、完全に車内から抜け出たのと同時に同じ重戦車部隊に所属する別の戦車や周囲のオートマタ兵士から続々と通信が入った。

 

『何をしている! 操縦手は無事なのか!?』

『グズグズしていると殺されるぞ!!』

『早く動けって! 上に居るんだぞ!?』

 

 戦車上部にタイコがいる。

 主砲でも副砲でも狙えない位置を取られている。

 

 その報告に車内は安堵感も余裕も吹き飛んでしまう。一瞬にしてパニック状態へと陥ってしまい操縦桿を代わりに握る兵士が定められない。

 

 通信も入りっぱなしになっており、車内で慌てふためき恐慌状態へと陥ってしまっている様は周囲に筒抜け。

 竹刀を逆手持ちするタイコにも、分厚く頑丈な装甲越しに車内の騒ぎは聞こえていた。

 

「オレを殺すなら……衛星兵器か戦艦の主砲でも持って来い!!」

 

 戦車長が車内と社外を行き来するのに用いるキューポラの蓋に狙いを定め、逆手持ちした竹刀を突き立てる。

 

 手動開閉式であれ自動開閉式であれ、分厚ければその分重量が増すことになる。

 かといって軽量な素材では防御力に期待が持てず、キューポラの蓋は装甲と比較すれば遥かに薄いながらも他素材より頑丈でもある鉄の板を用いていた。

 

 それが貫かれる。如何に薄いとはいえ鉄板だが、弾くことも無くすんなりと竹刀は貫通した。

 幸いにも恐慌状態へと陥った仲間達を落ち着かせようと戦車長は車長席を離席しており、座面の上方から突き刺さった竹刀に貫かれるのは避けられた。

 

 代わりに、タイコと狭い車内で相対するという最悪を経験する羽目になったが。

 

『撃つぞ! 悪く思うなよ!』

 

 部隊に所属する重戦車 7両がたった1両を包囲して砲口を突き付ける。

 

 狭い車内に入ってしまえば逃げ出すのには時間を要する。

 そこを狙い撃ちすれば仕留められるという判断は、仲間を見捨てるどころか犠牲にする非道なものだが『タイコを仕留める』という一点に執着するなら最適かもしれない。

 

 それが読まれていなければ、だが。

 車長席に降り立ったタイコは車内で暴れるのではなく、即座にキューポラをよじ登って車外へと逃げ出していた。

 

 通信機器を握れないほどに錯乱していた同胞のケアを優先していた戦車長は逃走を阻止出来ない。

 

「待て!! あいつ、逃げっ」

 

 逃げたと叫んでも、もう遅い。引き金は引かれている。

 7両の重戦車の砲口が火を吹いて砲弾を放ち、取り囲んだ1両を蜂の巣にする。

 

 大爆発が発生し、夜のアビドスを喧しくも明るく照らし出す。

 タイコを仕留めた。そんな誤情報がオートマタ兵士に広まりかける。

 

 ヘヴィタイプ・オートマタがタイコによる蹂躙を止めるまでに振り回した得物の犠牲となった兵士は、全体の約4割近くにも登った。

 希望を抱きたくなるのも無理からぬ事だったが、彼等の目の前にすとんっ、と降り立ったタイコの姿がそれを許してくれない。

 

「戦車なぞ恐れるに足らん!! オレぁ…技巧の栗浜タイコだァァ!!!!

 

 再び放たれた大咆哮と共に鎖が振り回される。

 竹刀とカバンが地面や周囲の建造物を切り裂き、射程圏内のオートマタ兵士を粉砕する。

 

 またしても甚大な被害を受けることになるのか。

 オートマタ兵士の間に絶望感が忍び寄ろうとした、その時。

 

「それ以上やらせるものかァァァ!! 栗浜ァァァァァァッ!!!!」

 

 巨大な何かが空から落下し、砂埃を巻き上げながら着地。

 

 オートマタを粉砕する威力のある超広範囲攻撃を真正面から受けても擦り傷程度に抑えてしまう巨人が、巻き上がる砂埃を巨大な腕部で切り裂いて姿を現す。

 

「見るがよい栗浜タイコ! 我々の技術の粋を集めた超強化外骨格! 最高純度の素材で組成した装甲とアクチュエーターを搭載した、最新兵器の()()()を!!」

 

 アニメで聞いたセリフを本来よりも早いタイミングで、試作品という気になるワードを付け加えて吐くカイザーPMC理事を飲み込む巨人を見上げ、タイコはハンッと鼻で笑った。

 

「御大将が早々にお出ましたァ手間が省けるなァ!! そんなにオレに殺されたいかッ、ガラクタァ!」

 

 荒事屋オペレーターのユメから入った連絡を聞き漏らさないよう右耳に取り付けているインカムを押さえながら、タイコはカイザーPMC理事へ暴言を浴びせる。

 

「相変わらず口が悪いな貴様は…だが、まぁいい! 本来ならば殺してやりたいところだが、今はそうもいかない。捕らえるに留められる幸運に感謝することだな!」

 

 散々苦い思いをさせられてきた相手に暴言を浴びせられても、カイザーPMC理事は怒る様子も怯む様子がない。

 ゴリアテの改良品と思われる巨大兵器にそれだけの自身を持っていることが窺い知れた。

 

「試作品だの捕らえるだのと……そんな腑抜けた心構えで、オレを止められると思っているのか?」

「無論だ! 現に貴様の振り回し攻撃は擦り傷程度に抑えている! 試作品の段階で既にこれだけの防御力! 貴様を仕留めるには十分過ぎるッ!!」

 

 多数のオートマタ兵士を屠った超広範囲の鎖振り回し攻撃。

 

 これをほぼノーダメージに抑え込めるのは確かに有利と言える。

 単純でありながら極めて厄介な攻撃をほぼ無力化出来ていることになり、それを兵士に見せ付けることで落ち掛けていた士気を高める副次効果も認められた。

 

 伝播しかけていた絶望感が振り払われ、拳を突き上げて雄叫びを上げ始める。

 己を鼓舞し、助けに現れたと都合の良い解釈をしてカイザーPMC理事を称える。

 

「強がるなよ肥満ガラクタ。オートマタを壊され過ぎて財布と倉庫の金を吸われるのが見ていられなくなったんだろ? ンで、もののついでと出来たての玩具を見せびらかしに来たってか。お可愛いこと」

 

 余裕を崩さないタイコとは対照的に、タイコの攻撃をほぼ無力化出来る相手の出現にカタカタヘルメット団を牽制していた荒事屋には動揺が走っていた。

 

 援護をすべきでは。荒事屋にそんな考えが広まりかけていたが、それはカバンを手放した左手を軽く振り上げるタイコの仕草で食い止められる。

 

「なんだ、降参か? 攻撃が通らないのだから当然と言えば当然だ、実に懸命な」

「バカ言うな。テメェをぶちのめす算段が付いて喜んでんだよ」

 

 荒事屋構成員は皆、それなりの強さは保有している。

 それでもカイザーPMC理事を飲み込む試作品ゴリアテの相手は務まらない。

 

 行方不明()()()()()()()()()()()()()()()を除いては。

 

「理事! 後方の戦車部隊から報告です! 戦車がッ、戦車が()()()()()()()()()()()()()()()()との事!!」

「…なんだと? 戦車が、投げ飛ばされうぐぉ!!」

 

 何十トンとある戦車が投げ飛ばされた。

 

 意味不明な報告に情報の錯綜を疑ったカイザーPMC理事だが、試作品ゴリアテにその報告通りに戦車が投げ付けられたことで倒れてしまう。

 

 その光景に、タイコは口角の吊り上がりを隠せない。

 セリカを襲われた怒りが消え去り、弾む口調で戦車を取り除こうとゴリアテの腕部を動かすカイザーPMC理事へ語り掛けた。

 

「ニュースはしっかり見ておかないとなぁ? 今日の昼頃だったか、()()()のニュースをやっていたんだがお前は見たか?」

「脱獄囚がなんだと言うのだ!! それが貴様と何の関係が」

 

 余裕を感じさせる笑みに苛立ちを隠せなくなったカイザーPMC理事が怒鳴っている所に、今度は戦車ではなく4発のロケット弾が直撃。

 

 咄嗟にゴリアテの腕部を盾にして本人への被害は無いが、爆発が生み出す黒煙に視界が遮られる。

 

 視覚の一時的な無力化。

 それを補おうとする聴覚が、オートマタ兵士の悲鳴と荒事屋構成員の歓声を聞き取る。

 

「私の可愛い妹を捕らえる……アンタ、確かにそう言ったわね?」

 

 この場に居ないはずの、最悪な相手の声も。

 

 荒々しくも律されているタイコの纏う気迫とは真逆の、ただひたすらに撒き散らされる強烈で暴力的な気迫が、カイザーPMC理事に襲い掛かる。

 

「姉さんセンサーがビンビン作動していたから見に来てみれば、私と妹にボコされた雑魚ロボットが息巻いているなんて……面白いこともあるものね、タイコ?」

「そんなセンサーが備わっているなら俺達がアンタを探していたのを察知してくれよ。妹に寂しい思いさせるなんて姉失格だと俺は思うんだがどうだ、アケミ?」

 

 技巧のタイコの姉

 

 暴力のアケミこと 栗浜アケミ

 

 出現

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