スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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カイザーには好き勝手やらせません


根回し

いやぁ暴れた暴れた

 

 色々な各方面に喧嘩をふっかけるような必殺技によって試作品ゴリアテをスクラップに変えて満足した俺は、荒事屋の皆にアケミを拠点へ連れて行ってもらった。

 牽制してもらっていたカタカタヘルメット団構成員達も一緒に連行してもらっている。

 

「……くくっ」

 

 笑いながら頬に触れる。

 中年なら誰もが憧れたであろうスーパーイ〇〇マキックを模倣した俺とアケミの合体必殺技を放って気分が高揚しているのもそうだが、そのアケミにキスされたのが嬉しかった。

 

 嫌われていなかったと実感出来た安堵と、彼女からのキスが純粋に嬉しかったから。

 

「バレてたとはな……」

 

 アケミが身柄を捕らえられたあの日、俺はわざと手を抜いてヴァルキューレ警察学校が有利になるよう立ち回った。

 

 裏切りたかったからでは無い。方針が気に食わなかったからでもない。

 そんな感情を生徒相手に向けることは、例え気が狂ったとしても有り得ない。

 

 荒事屋を立ち上げてからというもの、アケミの働きっぷりは想定を遥かに超えるものだった。

 依頼をバンバン取ってきてはバンバン片付けてスケバンやチンピラ、ヘルメット団と立場や居場所を失った女子生徒なら垣根を越えて保護するべく日夜奔走していた。

 

 それを見た俺の感想は、本来なら七囚人とカテゴライズされてしまう危険人物のはずなのにここまで善行をするなんて、等という陳腐な感想ではない。

 働き過ぎだ。美人な顔にクマを作ってまで奔走する彼女が心配になって心配になって、無理矢理にでも休んでもらう為にわざと彼女を逮捕させた。

 

 嫌われてもおかしくなかったが、それでも構わないと思うほどにアケミは頑張っていたからな。心を鬼にして彼女を突き出したのだが……バレてた。

 

 連邦生徒会長失踪と時を同じくして発生した七囚人脱走事件で、アケミだけは矯正局に残り続けていたそうだ。

 俺の思惑を汲んで矯正局でも毎日の筋トレと制汗剤スプレー購入の為の脱獄以外は大人しく生活してたとか。脱獄してんじゃん、というツッコミは堪えたよ。

 

「……元気そうで良かった」

 

 獄中生活でも日々のトレーニングを欠かさなかったアケミは、本腰入れての脱獄の早々に本格的な戦闘行為に巻き込まれた形だが投獄以前と何も変わっていなかった。

 

 相変わらずの怪力無双。試作品ゴリアテをぶん投げるとか頭おかしいでしょ。最高かよ。

 騒ぎを聞き付けて面倒臭い手続きを済ませたヴァルキューレ警察学校の生徒が来る前に本拠地へ撤退して欲しい、そう言った俺への抱擁の強さと温かさも変わらない。

 

 本当に安心した。何も変わらないどころか、脱獄したてで本格的な戦闘行為を終えたばかりでありながら絶好調という頼り甲斐のある姿に心底安心させられたよ。

 

「さて。根回し根回しっ、と」

 

 周囲の建造物の壁をよじ登り、屋根を飛び移りながらドンパチの現場を離れて路地裏に身を潜めると携帯を開く。

 

 カイザーPMC理事には逃げてもらった。

 この先にも彼には色々と役割があるから、今殺してしまうのは既にグチャグチャになっている対策委員会編の流れを更にハチャメチャにしてしまう恐れがある。

 

 それに今は彼よりも先に連絡をして、今後の動きを都合の良い方向へ進める手筈を整えなければならないから。

 連絡したい相手の名前を電話帳から見つけ出すと、呼び出しを開始。携帯を耳に当てた。

 

『も、もしもし…タイコさん、でしょうか……』

 

 ワンコールで相手が呼び出しに応じる。

 オドオドして暗い印象を相手に与えつつも、彼女の秘める可愛らしさを隠し切れない声。

 

 私より先にカイザーPMC理事に接触されてしまうと、後々傷付くことになるから先手を打ってそれを防ぐ。

 

「そうだよ、タイコだ。こんな時間に悪いね。ハルカはもう寝ていた?」

 

 俺達荒事屋を飼い慣らそうとして食い殺された馬鹿な奴等とは異なり、対等に見てくれる好ましい相手であり大切な生徒でもあるマコトがトップに座す学校 ゲヘナ学園。

 

 そこに所属する生徒達で構成された企業 便利屋68に所属する可愛らしい女子高生の伊草ハルカは、俺の声に『い、いいえ!』と慌てたような声で否定する。

 

『まっ、まだ起きて、ました……あの、何かご用事でも……』

 

 慌てている様子でありながら少しばかり眠そうな声に聞こえたのは、育てている雑草の世話に熱中していたからだろうか。

 

 人の趣味に口を出すなんて野暮なことはしないが、少しは自分の身を案じて趣味よりも優先してもらいたいものだ……あの楽しそうな笑顔を見てしまうと、それもどうかと思ってしまうが。

 

「アルに電話をしたんだけど出なくてな。俺から()()をしたいから、代わってくれないか?」

『タッ、タイコさんから依頼っ、ですか!? わっ、わかりました…すぐ、お代わりします!』

 

 電話越しに聞こえるトタタタタ……という小さく可愛らしい足音。

 数回聞こえる扉を開ける音と、驚いている様子のハルカの『アル様! タイコさんから依頼が!』という声。

 

 ハルカより離れた位置にいるはずのアルの『なっ、ななな、なんですってーーー!!!!』という聞き慣れた声に笑いそうになる。白目も剥いているのだろうか。

 

 そんなことを思っていると電話が代わられて、便利屋68の社長でありブルアカの白目担当でもある陸八魔アルの咳払いがしっかりと聞こえた。

 

『こんばんわ、タイコ。貴女から依頼なんて珍しいわね。何かしら?』

「単刀直入に言う。カイザーグループからアビドス高等学校を襲撃しろという依頼が来るだろうから、それを断って欲しい」

 

 慌てていたのをどうにか落ち着かせた、そんな様子だったアルの雰囲気が俺の口から『アビドス高等学校』という名前を聞いた途端に引き締まるのを感じる。

 

『そう……分かったわ。()()()()()()()()()()

 

 便利屋68は、俺が実際に生きているこの世界において既にアビドス高等学校と接点を持っている。

 俺が便利屋68と対策委員会を引き合わせ、お互いに交流する機会を作って交友関係を結ばせている。

 

「奴等は己の私利私欲を満たす為に便利屋を利用してアビドス高等学校を襲撃するつもりだ。そんな事、俺は到底認めない。お前達と対策委員会を引き合わせた張本人として、断固阻止したい」

 

 何故、対策委員会と便利屋68を交流させたか。

 

 アウトローに憧れるアルでも根は心優しいから、交友関係を結んでいる相手を襲撃しろなんて言われても躊躇ってしまうのを期待したからである。

 

 彼女達がカイザーグループの欲望を叶える為の手駒として利用されてしまうのを、俺は受け入れることが出来なかった。

 誰かからの依頼を受けて動くのが便利屋68という企業の有り方であるとはいえ、その相手が欲望で綺麗にしようのない程ベッタベタに汚れ腐った大人なのは俺が認められない。

 

『先にタイコから連絡があったのもありがたいわ。先にカイザーグループから連絡があったら、困り果てていたはずだから』

「その時は依頼の報酬倍額にして断るよう迫っていたさ」

 

 既に連絡があったのならば依頼を断るよう依頼するつもりだったが、カイザーPMC理事を構うよりも優先して連絡したのが功を奏したらしい。

 

 俺を捕えるように誰かに言われているようなカイザーPMC理事の物言いから、既にゲマトリアと接点を持っている可能性がある。

 原作の流れから逸脱しているこの世界で奴等が原作通りの動きをするとは思えない。

 

 後々にホシノの身柄を捕らえて神秘がどうのと実験をする前に練習を…なんて言い出して便利屋の誰かを実験台にする為の足がかりにされるのも防ぎたかった。

 子供を支配し利用するのが大人である、等という巫山戯た考えを臆面もなく言い放つアイツの好きには絶対にさせない。

 

『……いいえ。困りはするだろうけど、きっとタイコから連絡が来る前に断っていたと思うわ』

 

 ホッとしていると、落ち着いた様子のアルの声が聞こえてきた。

 

『貴女は仲間を、友達を見捨てないし裏切らない。私はそんな筋の通っている貴女の姿勢に憧れているのよ。だから、私もきっと断ったわ。アビドスの皆に銃口を向けるなんて、絶対に有り得ない』

 

 直接面と向かって言われているのではないが、憧れているなんて言われると気恥しい。

 

 無駄足と言われれば無駄足だったが、それでも俺が交友関係を結ばせた効果は実感出来た。

 

「アル……アンタ、本当に格好良いよな。真面目っ子で優し過ぎるのはアウトローには向かないが、1人の人間としては好印象だ」

『そう言って貰えるのなら嬉しいわ。繰り返しになるけどお気遣いありがとうね、こっちも心配してくれているのが分かって嬉しかったわよ』

 

 コイツ、本当にアルか?

 アル大好きなハルカの目すら誤魔化せる変装のプロフェッショナルが化けているんじゃないか?

 

 そんな失礼な感想を抱かされるくらいにこの世界のアルは格好良い時は滅茶苦茶格好良い。ポンコツの時はとことんポンコツだが。

 

『その依頼は仕事としての依頼ではなく、友達としてのお願いとして聞き入れるわ。だから報酬も不要よ』

「……世話をかけるな。今度、一緒に柴関ラーメンでも食いに行こう。奢るよ」

 

 格好良い時は滅茶苦茶格好良いながらも基本的に金欠なのは変わらずで、ラーメンを奢ると言った途端に『皆の分も!?』と食い付いてきた。

 

 笑いそうになったが、周囲が騒がしくなってきたから終わりの挨拶もなしに電話を切る。

 面倒臭い手続きを済ませたヴァルキューレ警察学校の面々が寄ってきたらしい。このままここにいては見つかる恐れもある。

 

「退散するとしますかね……良かったぁ…」

 

 今日は良い日だ。

 

 復学の目処が立った子が居て、セリカを無事に守れて、アケミと合流出来て、便利屋がカイザーに利用されるのを阻止できた。

 

 荒事屋の本拠地に繋がっている地下通路への侵入口に作り替えてあるマンホールを塞ぐ重い蓋を退かし、安堵感と充実感に胸を満たしながら俺はまだまだ暗い夜のアビドスの闇に姿を消した。

 

 

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