スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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ワイルズたのちい


グレーマーケット(1)

 本来であればブラックマーケットと呼ばれる区画。

 連邦生徒会の管理が及んでおらず非合法の武器や弾薬、一般には流通しない品々が手に入る。

 違法な物品の取引や不認可の違法倶楽部等が存在し、闇市にも拘らずその学園自治区数個分にまで拡大しているこの区画だが、ここ一年前後で名称が変更された。

 

 治外法権がまかり通りクリーンでは無いが、無法と呼ぶにはある程度の秩序が構成されている。

 来訪者を無意味に襲えば襲撃され、あまりに不当な値段を付けての販売は摘発され、地域全体の風紀を乱す行為に及べば鎮圧される。

 

 区別は無い。生徒であっても違法行為に及ぶ企業であっても、悪事を働こうものならば地下に巣食っている強力な集団によって即座に叩き潰され、取り込まれてしまう。

 

「ここが……()()()()()()()()……」

 

 しっかりと管理が行き届き整備されている表通りよりも雑然としており、治外法権による管理が行き届いている。

 故に本来の名称であるブラックマーケットではなく、グレーマーケットと呼ばれるようになっていた。

 

 恐ろしさを感じさせる実態と、それとは相反する落ち着いた雰囲気を帯びている区画に先生は声を漏らした。

 

 セリカ誘拐未遂事件の翌日。

 カタカタヘルメット団と連携を取っていたカイザーPMC所属のオートマタ兵士が持ち込んでいた戦車の破片を対策委員会は回収し、何かしらの接点があるのでは無いかと疑った。

 そこに舞い込んだ、見知らぬ相手からの電話。低めの女性の声だった。

 

『グレーマーケットなら、何か分かるかも』

 

 全く同じ言葉を、全く同じ抑揚で、全く同じタイミングで3回告げると電話は終わる。かけ直しても公衆電話から相手は掛けてきたのか繋がることは無かった。

 

 罠があるのでは。

 しかし、カタカタヘルメット団が良質な武器を持つ事が可能な理由があのオートマタ兵士と関係あるのならば、グレーマーケットに行く価値もあるのでは。

 

 数日かけての熟考の末、対策委員会と先生はグレーマーケットの調査を決定。こうして赴いているのだった。

 

「凄いね……色々なものが売ってある」

「ウン、ソウダネ」

 

 銃器から弾薬、爆弾、手榴弾、ガス式グレネード……パッと見でもそんな多種多様な武器類から、怪しい薬品に一部ではコンドーム等のアダルトグッズまで、それはもう手広く扱われている。

 

 いきなりコンドームだの媚薬だのを露店に広げている店舗に出くわした時は先生大慌て。何だ何だと興味を持ちそうになる面々を引っ張った事で軽く疲弊させられた。

 おかげでシロコの言葉に対しての返事がか細い。大人の威厳ZEROである。

 

「賑わっていますね」

「それだけ需要と供給があるってことね……」

 

 非合法の代物は、手にしてはいけないと分かっていても手に入れたくなる魅力を秘めている。

 それを求めてグレーマーケットを訪れる者と、その需要に応えようとする者。

 

 この両者の存在が活気を生み出している。非合法な品々の取り引きが行われているとは思えないほど和気藹々とした活気を。

 ノノミはその光景を微笑ましそうに見ているが、セリカは毛嫌いするような侮蔑の視線を送っている。

 

「……」

 

 ホシノだけは、何も言わずに周囲を警戒していた。

 普段のポヤポヤ〜っとした緩い雰囲気ではなく、以前の彼女を思わせる真剣な目付きで建物の陰や商品棚の裏といった、隠れようと思えば隠れられる場所に注意を向けている。

 

『先生……』

「うん、分かっている。()()()()()()()

 

 空中に浮かんでいるドローンからの映像によって広範囲を見渡せるアヤネの緊張した様子の声に、先生は少しでも落ち着いてもらおうと優しい声色で続きを述べた。

 

 グレーマーケットに立ち入ってからというもの、常に誰かに見られている。

 見慣れない集団が来た、と警戒する様子では無い。その手の視線には好奇心が多少なり含まれるものだが、今の彼女達に向けられているものはそれと異なる。

 

 苛立ちや不快感、その手のネガティブかつ攻撃的な感情だ。

 そんなものを向けられてしまってはシロコ達も勘づくというもの。

 

 自然な風体を装いつつ、アヤネによる空中からの監視も込みで警戒を強めていた。

 

「そこの旦那。いやぁ、可愛い子大勢連れてんねぇ」

 

 そこに声をかけたのは対策委員会から少し離れた位置でアダルトグッズを専門に取り扱う露店を営む、薄汚れた黄色い機体色のオートマタ。

 両手をスリスリと擦り合わせて上体を前方へ屈め、それはもう典型的なゴマすりの姿勢で声を掛ける。

 

「そこまでぞろぞろと引き連れていると男冥利に尽きるってモンでしょうよ。誰か、本命でも?」

 

 生徒をそんな目で見るつもりがない先生は、即座にそのオートマタを敵と認識した。殴りかかってやりたかったが、鉄製のオートマタを殴っても自分が痛いだけ。

 反撃されれば勝ち目はない。生徒達に他者へ暴力を振るう姿を見せる訳にも行かず、不快感を表に出しそうになるのを必死に堪えて口を開いた。

 

「認めてくれるのは嬉しいですが、僕は先生ですので。生徒達にそんな感情を向けるなんて言語道断だとおm」

 

 言語道断だと思っている、そう言いたかったが言えなかった。

 とたたたた、という軽い足音が聞こえた。

 

「だっ、誰か助けてくださぁぁぁぁい!」

 

 気持ち悪い鳥をモデルとしたカバンを背負った少女が、オートマタに追い掛けられている。

 追跡しているオートマタは武装しており、逃げる少女を今にも銃撃しそうな勢いだ。

 

 気に食わないオートマタに反論するよりも先に、まずはあの少女を助けないと。

 対策委員会の面々に少女救出を伝えようとした矢先、気に食わないオートマタが()()()()()()()

 

「貴様ァ……先生が生徒相手に色恋なんざ抱いて良い訳ねぇだろうが! まして情欲の類なんざ以ての外だァ!」

「「「タイコ!?/タイコさん!?/タイコちゃん!?」」」

 

 どこから現れたのかタイコがオートマタを殴り倒していた。

 

 足音が聞こえた訳では無い。周囲を警戒していたのだから、接近してくるのであれば分かるはず。

 座標バグでワープしてきたかのような突然の顔見知りの出現に驚いていると、周囲もにわかに騒がしくなり始めた。

 

「うぎゃっ」「ぎっ!?」「あがっ!!」

 

 周囲の至る所から電子音声が聞こえてくる。

 少女を追跡していたオートマタも次々とどこからか銃撃を受けて機能停止し、倒れ込む。

 

 何かに攻撃を受けたような声があちらこちらから聞こえ、次第にそれも全て静かになる。

 殴り倒したオートマタの首から全身へ指示を伝達するケーブルを引き抜いて破壊したタイコが立ち上がり、逃走していた少女を受け止めた対策委員会と先生を見た。

 

「やっぱり来てくれた。そうなるよう()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、来てくれて助かるよ」

 

 グレーマーケットに来るよう仕向けた。

 

 タイコの発言に先生はどういうことかと問おうとしたが、それを許さない人物がいつの間にかタイコの背後に仁王立ちしていた。

 

「話は私達の拠点でしましょう。まずは黙って着いて来なさい。後ろの皆様方も、どうか此方へ」

 

 男性の中では比較的大柄である先生よりも大柄なタイコ、その彼女よりも更に大柄であり筋骨隆々な少女 栗浜アケミ。

 

 彼女がタイコに背後から抱き着いて、頭頂部に頭を乗せながら真剣な眼差しで先生を牽制しつつどこかへ誘導しようとする。

 ホシノ以外は面識が無い相手。しかも、見上げるような巨体と厳を思わせる頑強な筋肉。力づくで押さえ付けられようものなら、抗いようが無い。

 

「皆様。まだ周囲に小バエが集っているかもしれませんので害虫駆除、よろしくお願いしますわ」

 

 張り上げた訳でもないのに良く通る彼女の声は、周囲の建造物に身を潜めていた荒事屋構成員達に一斉に声を上げさせた。

 

 それだけではない。露店を営んでいる店員やガードレールに腰掛けて談話をしていた不良生徒、道行く通行人、その殆どが彼女の言葉に頷いている。

 

「ブラックマーケットに巣食い、悪事を働くものを叩き潰して取り込む巨大で強力な組織……それって」

 

 ノノミの言葉にアケミが顔をしかめる。巣食うだなんてそんな害虫みたいな例えをされて不服な様子。

 

「ここは連邦生徒会の管理も満足に行き届かない場所だ。俺達みたいな大規模な組織が身を潜めるのには、これ以上ないうってつけの場所なんだよ」

 

 対照的にタイコはニコニコと笑っている。

 

 周囲に響き渡る銃声とそれを浴びせられたであろうオートマタの悲痛な電子音声が響き渡る中、皆はとある店舗へと通された。

 

 ドローンやその部品や拡張パーツの販売、メンテナンス、建築物の建築やリフォームを一挙に請け負うと大々的に看板に掲載している店舗 Re:Oだ。

 

『あら、お客様かしら』

 

 店番を務めているのは円盤型の滞空能力を持つドローンであり、誰かの音声を無線で届けているのか入店してきたタイコに声を掛けてくる。

 

「大切なお客様だ。案内する」

『そう。貴女がそこまで言うのなら問題は無さそうね。ゲートは開けたわ』

 

 ガシャン、と音を立てて店の入口がシャッターによって封じられる。対策委員会と保護された少女、先生は引き返せなくなった。

 

 同時に店の奥の壁を隠している商品棚が床下へと格納され、顕となった壁の中央に縦一直線の亀裂が入る。

 そこを中心として壁が左右へと開き、エスカレーターが出現した。

 

「乗ってくれ。カタカタヘルメット団やオートマタ、カイザーコーポレーション、それ等のこちらが知り得ることの全てを、辿り着いた先で話すとしよう。セオ、エレベーターガールを頼む」

『はいはい。皆さん、エレベーターに乗ってちょうだい。頭目と()()()は2人用のエレベーターで後を追うから』

 

 セオと呼ばれた円盤型ドローンがエレベーターに乗り込み、小さい作業用アームを動かして手招きをする。

 

 皆は顔を見合せ、頷いた。知りたい事を知っている人物がいて、それが顔見知り。

 罠ではあるまい。タイコは誰かを陥れたりするような性格の人間では無いことはみなが理解していた。

 

 それに、そんな彼女がわざわざグレーマーケットにくるよう仕向けた理由も気になる。

 問い詰めてやろう、保護された女子生徒以外の全員が示し合わせるでもなく同じ意見を抱いていた。

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