スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
全部ワイルズが悪いんです。
もう止まらんよ、とタシンおじさんも言っています。
エレベーターは10数分にも渡る長い下降を経て、ブラックマーケットにその名を捨てさせグレーマーケットと名乗らせるに至った存在の巣窟へと至る。
「…………すっげぇ……」
エレベーターが接地してすぐにバリケードと戦車、術機関砲、アサルトライフル装備の荒事屋構成員という厳重な警備態勢が敷かれ、そこを超えると周囲の見た目が一変する。
壁面や床こそ剥き出しの岩盤だが、下手に壁を作るよりも余程頑丈で信頼が置けると判断されての事。
コンクリート造りのグレーマーケットの地中に、屋敷を思わせる内装が突如として出現した。
先生の感想は至極当然。ホシノ達も初めて訪れたグレーマーケットの地下に、こんな巨大施設が存在するとは夢にも思っておらず言葉を喪失している。
「明日のテスト、勉強みてくれたから乗り切れそう!」
「おっ? なら無事合格したら何か奢ってもらおうかなぁ」
「下着とかどう?黒いの」「馬鹿なのかな?」
吹き抜けの玄関ホールは天井の岩盤に取り付けた鎖から垂れ下がるランタンによって明るく照らし出され、壁面にはキャンドルスタンドが固定されており光量が確保されている。
そこを荒事屋の面々が談笑しながら歩き回っているのだが、その人数も尋常ではない。
休日の市街地と並べる程の大人数が、岩盤の壁面と床を持つ屋敷を行き来している。
「これって……」
「連邦生徒会の管理が行き届かない。つまりは、俺達みたいな規模のデカい組織でも隠れ蓑にするのには調度良い暗がりってことだわな」
アケミに抱き締められたままのタイコが先生達の背後から現れ、セオと呼ばれた円盤型ドローンをポンポンと叩く。
丁寧に扱ってちょうだい、そう言い残してドローンは何処かへと飛び去った。残された皆に、彼女は笑みを見せる。
「何処からこんな大規模施設を作る資金を、て顔だな。そこも含めてまぁ説明するから、まずは会議室に向かおう。お前達を待っている人が結構居るからな」
着いてきてくれ。
タイコはアケミに引っ付かれたまま玄関ホールに設置されている白レンガ造りの階段を登り、先生達も後に続く。
「あ、先生じゃん! こんにちは〜!」
「アビドスの子達だっけ。あんま無理し過ぎないでよ〜? ユメさん泣くぞぉ?」
「トリニティの子……あぁ、よくグレーマーケットに出入りしてるあの子か。そこそこ距離あるはずなのに頑張ってるねぇ〜…飴ちゃんを上げよう」
すれ違う荒事屋構成員達も、組織の名前とは真逆とも言えるフランクさで次々と挨拶をしたり話しかけて来たり、時には飴をくれたりと絡んでくる。
「こ、こんにちは。元気そうだね」
「……うん。無理はしないよ。先輩、泣かせる訳には行かないしね」
「あ、ありがとうございます……」
見慣れない場所で親切にされることに嬉しさともむず痒さとも取れる、胸の中がムッズムズする感覚に居心地の悪さを感じてしまい先生達の歩調は早まりそうだった。
それを察したタイコが少し歩調を早め、彼女に引っ付いているアケミも歩調を合わせて早める。
木目調の床材が使われている2階廊下を1分近く歩くと、会議室というパネルが取り付けられている扉が廊下左壁面に現れた。
黒い木製のドアノブがタイコの手によって捻られ、ぎぃいいぃーーーッと音を立てて開かれる。
中に招かれていた人物達の視線を引くには十分な音だ。
「ホシノちゃぁぁぁぁん! 久しぶりぃぃぃぃぃ!!」
「へぶっ」
今日は特別に非番とさせてもらった荒事屋人気ナンバーワンオペレーター 梔子ユメがホシノ目掛けて電動車椅子で突進。
目の前で急停車し、そのまま豊満な胸でもってホシノの頭部を丸呑みにしてしまう。
「やっぱりこうなったわね。貴女達が来たと報告があった頃からずっとソワソワしていたもの」
「……アル?」
数分前までカッコつけの練習とブラックコーヒーを飲んでは顰めっ面をしていたアルが、内ももをつねりながら飲めば痛みで顔を顰める余裕が無くなると知って早速実践。
見事に表情は澄ましているがコーヒーカップを持つ右手をぶるっぶる震えさせている姿に、シロコは首を傾げる。
「ノ、ノノミ、さん……お久しぶり、です。お元気でしたか?」
「はい☆ 私は常に元気いっぱいですよ〜。ハルカちゃんもお元気そうで何よりですぅ〜☆」
ノノミの包容力に心を開いているハルカは、普段のオドオドした様子を少しばかりだが軽減させながら話しかけていた。
「ゴメンね。公衆電話とはいえ私の素性を明かすのは危ないだろうと思ってさ」
「ううん。話を聞いた時に何となくだけどカヨコっぽいなとは思ったからさ。色々気を使わないといけないから大変だよね」
グレーマーケットに来るよう唆した元凶でもある鬼方カヨコの謝罪に、セリカは怒りを誤魔化す歪なものでは無い純粋な笑顔を浮かべながら右手を上げた。
それにカヨコも微笑み、自分の右手を上げると手のひら同士を打ち合わせる。
「眼鏡ちゃん♪ ねぇねぇ見えてる? また一緒にお茶しようね〜♪」
『ムツキさん!! お誘いは嬉しいのですがドローンのカメラを触らないでください!』
電源が切れて1人だけ蚊帳の外、なんてことがないようにと充電ケーブルを接続されてテーブルに置かれていたドローンを持ち上げ、浅黄ムツキは遠距離にいるアヤネに眩しいくらいの笑みを見せた。
対するアヤネは笑顔に見とれることはなく、ムツキがドローンのカメラに触れて汚したり傷付ける事を気に掛けている。
本来ならば柴関ラーメンで初顔合わせをした後、アビドス高等学校の校舎の所有権を巡って争うことになる便利屋68と対策委員会。
それがこの世界においては、タイコの策略によって全く違いながらもある意味では本来通りでもある関係性を構築していた。
「……フフ」
まだ本題に切り込んでもいないのに和気藹々と沸き立つ会議室の光景に、タイコは苛立つのではなく微笑んでいる。
見た目こそホシノ達と同年代だが中身は倍以上を生きている中年であり、だからこそ年頃の少女達が年相応に楽しそうに言葉を交わす姿を微笑ましく見つめている。
「楽しそうね」
アケミの指摘に対しても否定はしない。
楽しいのだ。汚い欲望や不要な疑念に翻弄されて苦しむ事を強いられている少女達が、例え一時のものであろうとも同年代の子達と楽しそうに触れ合う姿を見る事が、タイコにとってはたまらなく楽しい。
荒事屋を結成し、居場所を失った少女達の受け皿とし、それを今日に至るまで育て上げ続けた甲斐が有るというもの。
自分達を飼い慣らそうとした汚い大人共が築いた物を全て奪い取った。
小さな会社であればそのまま乗っ取り、幅広い分野に手を伸ばしている会社であっても末端から取り込んでジワジワと侵食して資金や技術を吸い上げる。
アビドス高等学校とカイザーコーポレーションの間に構成されている様々な面倒事にも対応できるだけの力を、居場所を失った子供達によって形成されている暴力組織は有していた。
「楽しいとも。贅沢を言わせてもらえば、あそこにお前が加わってくれるとなお楽しいのだけどな」
自分を後ろから抱き締めているアケミに話を振っても、彼女は頭を左右に振るだけ。
様々な会社を同化・吸収している組織の大頭目であるアケミは、自分の持っている力や影響力を理解している。
組織の皆は良い子ばかりであり気さくに挨拶をしてくれるし、緊急性も必要性も感じられない他愛も無い話もしてくれる。
それでも、自分がいることで不必要な威圧感や緊張感を与えてしまうのではないだろうか。
どれだけ親しまれていようとも、アケミの背負っている看板はあまりに大きい。
それに気圧され、要らぬ負担を与えてはしまわないだろうか。
心優しい彼女だからこそ、有り得ない不安を想像して二の足を踏んでしまっている。
「私も、現状で十分満足していますわ。それを言うなら私の方こそ、貴女にはもっと広い交友を持ってもらいたいものですが」
「話の逃げ道に私を使わないでちょうだい」
コーヒーの注がれているコップを置いて不服そうにアケミを見つめるのは、この場どころかキヴォトス全体で見ても最強格と呼ばれる人物であり、荒事屋とも面識のある人物。
ゲヘナ学園風紀委員会のトップ 空崎ヒナ
彼女の不服と嫉妬の籠った視線にアケミはにこやかな笑みで返すと、見せ付けるようにタイコをぎゅっと抱き締める。
「さて。場も温まってきたことだ、そろそろ話を進めよう」
タイコを両手を打ち鳴らすと、乾いた音が盛り上がりを見せる会議室内に響き渡る。
皆の視線が向けられる中で、テーブルに備え付けられているボタンを押す。
彼女とアケミの背後に頭上からスクリーンが降りてくる。
「まず、端的に今後の流れを話しておこう」
そう前置きして、タイコは語り始めた。
「我々荒事屋は今後、カイザーコーポレーションを構成する一組織であるカイザーPMCと全面戦争をする」