スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
「……なるほど。スケバンというキャラクターに俺の情報が上書きされたと言った方が適切か」
鏡に映る自分の姿を見て、俺は自分の新たな肉体についての理解を深めていた。
身の丈は183cmくらい。
おそらくこれは元となったキャラクターなスケバンというモブキャラクターであり身長の設定がないせいか、見た目はスケバンだが男性だった頃の俺の情報が上書きされたかのどちらかだろう。
肉体は女性らしさを損なわない程度でありながらしっかりと筋肉が付いている。
極めて失礼な表現ではあるが、栗浜アケミのような筋肉ダルマでは無い。シルエット的には錠前サオリに近い。
これに関しても身長と同様の理由だろう。ブサイクだったからせめて肉体だけは鍛えようと週5でジムに通い、元警察官の父や自衛隊所属の弟、総合格闘技のアマチュアをしている姉にシゴいて貰ったから肉体は出来ていた。
「服装や髪型はスケバンと名前に付いているキャラクターの情報を寄せ集めた集合体、といった具合だな」
顔付きと髪型はベースがサブマシンガンを持っていたスケバンになっている。個人的にはスケバンの中で一番好きなキャラクターだったから嬉しい。
前髪はサブマシンガンのスケバンを元として、マシンガン装備の海辺スケバンの前髪を足したような具合。
上半身は通常のマシンガン装備のスケバンで、下半身はスナイパーライフル装備のスケバンを組み合わせている。
履物はサブマシンガン装備の海辺スケバン。
このように、スケバンと名前に付くモブキャラクター達の要素を詰め込んだのが今の俺だ。
ヘイローが円形を五重に重ねたものなのも、俺を形成するスケバンというモブキャラクターが5種類存在することに起因すると考えれば納得出来た。
「問題は……ここがキヴォトス確定な所だなぁ……」
ブルーアーカイブの舞台 学園都市キヴォトス
年若い女の子たちが物騒な銃を握り締めて勉学に励み、部活に勤しみ、気に入らないことには弾丸をぶっぱなして抗議する透き通るGTAな世界観の世界。
そこでスケバン集合体に憑依したとなると、必然的に銃撃戦へと発展しかねないゴタゴタに巻き込まれる恐れがある。
本来は存在しないとはいえモブキャラクターの集合体となれば、遅かれ早かれ巻き込まれよう。
そうなった時、俺は人を撃てるのか?
昨今では外国人流入による治安の悪化やそれを司法が裁けないことに対する不満の声が高まってきていたとはいえ、他国に比べればまだまだ平和だった日本生まれ日本育ちの俺に、このサブマシンガンを人に向けて撃てる自信はなかった。
「元先生だし生徒を撃つのもな…」
ブルーアーカイブを遊ばせてもらった1人のユーザーとして、1人の先生として生徒相手に銃撃戦を仕掛けるのも気分が乗らない。
「良し、無力化で行こう」
撃てないのならば撃たなくて良い。撃たれる前に仕留めて無力化すれば問題ないだろう。
ともなれば用意が要る。俺は屋内の物色を始めて使えそうな物を掻き集め始めた。
元の家主は色々と道具を残してくれている。それ等を有難く徴収させていただき、再びリビングへと集める。
荷物をまとめる為のロープ、使い半端のガムテープ、電池の切れた時計、ハンドガンの空マガジン、ドライバーセット……他にも使えそうな物が残されていた。
リビングを外から覗き込めないよう遮蔽してくれているカーテンを取り外す。日差しが射し込んでぱぁっと室内が明るくなり、あまりの眩しさに目を細めた。
床に敷いて掻き集めた品々の中でも大きめな物を乗せて包む為だった。
「……あっ」
おかしい。太陽にしては、いささか眩しすぎる。
リビングの中を照らす光が太陽光ではなく、外から覗き込もうとしていた武装した少女たちの装備する懐中電灯の物だと気付いた時、俺の口からは間抜けな声が漏れていた。
それと同時に窓ガラスが弾丸の雨によって穴だらけにされて割れる。
「あっぶねぇぇぇぇぇぇ!!」
咄嗟に体が動いた。程よく付いている筋肉が動きを阻害せず、機敏な動きを可能にしてくれてソファーの後ろへ転がり込ませてくれた。
程なくして銃撃の雨は止む。やめろ、という声が聞こえた気がした。
「随分とデカイのがいるじゃん」
金髪のマシンガン装備のスケバンが粉々になった窓ガラスを踏み締めて、隠れている俺に向けて話し掛けてくる。
アニメを見ていても思ったが、声は可愛らしいのに持っている武器が物騒過ぎやしないだろうか。
「何か色々集めてるみたいだしさ、親切心で少し分けて」
「無理だ、諦めろ」
少し分けて、と言って少しで満足する輩ではない。
倫理観GTAな世界のスケバンなんて『逃げたら一つ、進めば二つ、奪えば全部ゥ!』という思考回路だろう。
年下であり年若い子を相手に大人気ないが、俺も抵抗する。
ソファーの陰から身を乗り出し、持っていた電池切れの時計をフリスビーの要領で投げ付ける。
「あでッ!!」
顔面にクリーンヒット。後ろにいる仲間と思しきスケバン達も俺からの攻撃に驚いているのか、動きが止まっている。
「今っ」
好機とばかりに飛び出して、怯んでいるMGスケバンに肉薄。
左手で顔面を掴み、左足をスケバンの左踵の後ろに当て、俺の足を引いて足払い。後方に倒れる勢いに頭部を押す勢いを乗せて、後方へ叩き伏せた。
「ぐえっ?」「貰うぞ」
伸びた彼女からMGを拝借。それを未だに呆然としているスケバン達へ向けて投げ付けた。
かなりの重量だったのに軽々と投げられる。筋力もそうだがキヴォトス人のフィジカルすげぇ!
弾丸の直撃を耐えるキヴォトス人でも巨大な塊であるMGの直撃は避けたかったらしい。残りのスケバン達も回避行動を優先し、こちらが動きやすくなる。
「ごめんよ」
叩き伏せてグロッキー状態にさせたスケバンを座らせて盾にし、その陰に伏せて道具を手元へ寄せる。
SRを持つスケバンに狙いを付けるとマイナスドライバーを投げ付けて回避させ、避けた先に小型レンチを追加で投擲。
胴体に直撃させて怯ませている間に破壊された窓から飛び出して右手首を取りながら背後へ回り、関節を極める。
「いででででで!?」「大人しくしてくれよ」
銃で撃たれる痛みと関節を極められる痛みは別物で、体をやけくそに振るった所で振り払えるものでは無い。
関節を決めながら地面へと押し倒し、左手首も掴んで背中に回して両手首をガムテープで、足首をロープで縛る。
持ち主を失い足元に転がるSRを拾い上げてマガジンを外してコッキングレバーを引き、弾丸を抜き取る。
「こ、このっ」「遅い、そして近い」
顔のモデルになってくれたSMG装備のスケバンは至近距離での攻撃を仕掛けてきたけど、目の前で仲間二人をあっさり下されて動揺したのか狙いがブレブレ。
しかも俺の射程範囲内にいる。銃という強力な遠距離武器の利点を活かせていない。
拾い上げたSRの銃口近くを握り、ゴルフクラブを振り抜くように彼女のSMGを打ち上げた。
格闘戦では勝ち目がないと悟ったスケバンが弾き飛ばされたSMGを拾いに行こうとする素振りを見せたが、そうは問屋が卸さない。
俺が持っているSMGで銃撃して遠くへ弾き飛ばして回収不可能にし、武器を拾えなくなった彼女の顎に銃口を押し当てる。
「俺は君を傷付けたくはない。大人しく、手を後ろ手に組みながらしゃがんでくれ」
「わ、わかったよ…」
言われた通りに動いてくれた彼女の手首もガムテープで縛る。足首も忘れずに。
何をするんだと言いたげな視線を向けられると胸が痛んだが、俺もこの銃撃戦を切り抜けるので頭がいっぱいなのでね。
「終わったら解放するよ、ありがとう」
「余所見するなぁ!」
ショットガンを持ったスケバンが横槍を入れてくる。
浴びせられる散弾は伏せて回避し、無力化したSMG装備のスケバンを方に担いで車の陰へと移動。
隠れている俺を炙り出すためにショットガンを乱射しながら接近してくる彼女に向けて、スクラップ状態の車の陰からハンドガンの空マガジンを放り投げた。
「なっ!!」
視界に動くものが飛び込んでくるとそちらに気が向いてしまう。不意に飛び出してきたとなれば尚更だ。
ショットガン装備のスケバンも注意が逸れた。そこに飛び出して行って肉薄すると、彼女の得物に掴みかかって力づくで奪い取る。
追い詰めていたはずの相手に一瞬で追い詰められたとなって、スケバンも軽く混乱しているような様子が見えた。
騒がないのは、俺が奪い取ったショットガンを彼女に向けて構えているからだろう。
「座りなさい。撃たれたくはないだろう」
銃口を動かして座るように促すとスケバンは座り込む。女版不良みたいな意味合いのスケバンと名乗る割には素直だ。
スライドロックを解除し、ポンプして弾丸を排出。背後から目をかっぴらいて突っ込んできたハンドガンを握るスケバンへ、牽制するように振り抜く。
「あっぶ」「すまない、痛いぞ」
体を反らせて回避したスケバンに飛びかかり、体重を活かして押し潰す。この身の丈に筋肉量だ、かなりの重さはある。
銃を軽々と振り回すキヴォトス人の少女相手にどれだけ通用するかは怪しい攻撃だが、押し潰しでの無力化を狙ったのではない。
起き上がってスケバンをうつ伏せの姿勢へと体位を変換し、家の中へと放り投げる。マシンガンを投げられるのだ、少女くらい容易い。
倒れている彼女に乗ると右腕を背中側へと絞り上げる形で止める。
これ以上は痛みを伴うことになるのを彼女も理解してくれているらしく、暴れないし何も言わない。
「これで全員か?」
これ以上のスケバンが居ないかを確認したが何も答えない。お前に答える義理なんてねぇ、とでも言いたげだ。
まぁそうだろう。元より素直に口を聞いてくれるとは思っていないし、無理に口を割らせようという気も無い。
しかし、どうしたものか。ここで解放すればまたすぐにでも襲いかかってくるだろう。
今後の扱いについて少し頭を捻ろうか…そう思った矢先、俺の耳が重々しい足音を聞き取る。
ズンっ、ズンっ、という音が近寄ってくる。
その足音を聞いた途端、俺は猛烈に嫌な予感に駆られて弾かれたように家の外へ飛び出した。家の中にいるのはマズイ、そんな気がしたから。
「私の大切な舎弟の皆さんが中々戻ってこないと思って見に来ましたが……なるほど、貴女の仕業ですね」
そこには、デカい女がいた。
色々とでかい。身の丈の筋肉も胸も、威圧感も何もかもがでかい。
「皆さんを可愛がってくれたお礼です。私もお相手して差し上げましょう」
「勘弁してくれよ。あんた、栗浜アケミ……だよな?」
おめぇはどこのランボーだ、あるいはコマンドーだ。
そんなツッコミをしたくなるバカでっかい銃を装備した少女 栗浜アケミが俺の前にいた。