スケバン憑依おじさん 作:百合豚丼
栗浜アケミ
夏のイベントにて突如として姿を現した七囚人のうちの一人で、その見た目以上の怪力を誇る。戦車を片腕で弾くようにひっくり返すとか聞いた事ないぞ。
アーノルド・シュワル○ェネッガーと殴り合えそうだと感じさせられる肉体は怪力だけではなく、その筋骨隆々さに相応しい防御力も併せ持つ。
弾丸が直撃してカンカン言うってなんだよ、金属かよ。
そんな彼女が俺の目の前に立っている。男性からしても高身長なはずの俺よりも高い位置にある顔が、俺を真っ直ぐ見据えている。
「ふむ……」
イベントの際に立ち絵を見た時も思ったが、顔だけを見ればかなりの美少女だ。
髪色や髪型もどこかのお嬢様を思わせる優雅さを感じさせ、その分肉体の筋骨隆々具合や手にしている得物の物騒さが引き立てられている。
「私の顔に何か?」
「ん? あぁ、失礼。美人だと思うとつい、ね」
嘘は言っていない。中身はおじさんだけど見た目はSMG装備のスケバンをベースとしたスケバン集合体なのだからセクハラにもならない…はず。
自分の舎弟達をコテンパンにした憎い相手が顔をまじまじと見てきて、いきなり美人だと言い出すなんて予想していなかったのだろう。
アケミが目を丸くさせてぱちぱちと瞬きをする。驚いた時にはありがちなリアクションだが、それも元が良いと大変映えるものだ。
「気が乗らないな。お前のような美人に敵意を向けられるという経験は」
「…でしたら、抵抗などされなければ良かったのです。私、大切な皆さんを傷付けられて怒っているんですよ?」
無茶を言ってくれるお嬢さんだ。対抗しなければ掻き集めた道具を奪われて、俺も怪我をしたり痛い思いをする羽目になるではないか。
顔付きはお嬢様だが思考回路はやはりブルアカ。綺麗なGTAと揶揄されるだけのことはある。
特攻服のポケットに入っているタバコの箱を取り出し、中から1本のタバコを押し出して取り出す。
それを見て、アケミは顔を顰めた。
「タバコを吸うの?」
まさか。未成年の女子達がいる場所でタバコなんて吸えるものか。
俺によって無力化されたスケバン達は、アケミの後方に控えていた他のスケバン達によって身柄を回収され撤退して行った。
この場にいるアケミにも、未成年の肉体に憑依している俺にもタバコは極めて有害だ。
「まさか。こうするのさ」
取り出したタバコを、不意に彼女目掛けて弾いた。デコピンの要領でコインを飛ばすのと似ている。
いきなりタバコが飛んでくるとなれば避けてしまうか、手で払い除けたくなる。
伝説のスケバンとはいえ未成年飲酒や喫煙とは縁の無さそうなキヴォトスで生活していては、タバコというものに対する感心具合や警戒具合は俺の元いた世界とは異なる。
「きゃっ!?」
慌ててタバコを払うアケミを後目に、俺は家の中へと逃走。2階へと駆け上るとベランダから隣の家の屋根へと飛び乗る。
アケミを相手にしてなんかいられない。前途有望な若人相手に使う言葉では無いが、あんな筋肉ダルマを真っ向から相手にして出し抜ける気はしない。
無理だろ。戦車ひっくり返すような人だぞ。関節技とか極めても怪力任せに振りほどかれるビジョンしか見えない。
持っている武器も直撃したら頑丈なキヴォトス人でも死にかねないような化け物武器だ。戦いたくない。
「凄いなこの体!」
キヴォトス人の肉体が凄いのか若さが凄いのか、今まで使ってきた肉体とは比べ物にならないくらい体が軽いし思った通りの動きをしてくれる。
加齢にタバコに飲酒、肉体にダメージを蓄積させる要素と長年付き合ってきた今までの肉体でこんな動きをしたらすぐに痛みで動けなくなり、翌日以降は筋肉痛に悩まされ続けるだろう。
軽くて思った通りに動く肉体の素晴らしさに感動していると、数秒前まで足場にしていた家屋の屋根が轟音と共に蜂の巣にされる。
「このッ、待ちなさい!」
いやおっかねぇなおい!
これってアケミが携行しているあの重機関銃の仕業だよな!?
あれってどう見ても生身で携行してぶっぱなす類の銃器じゃねぇだろうよ! フィジカルキャラにしたってやりすぎだわ!
「遠慮ってモノを知らないのかッ!?」
周囲にまだ人がいるかもしれないのに重機関銃で家屋を蜂の巣にし、そこにロケットランチャーぶち込んで木っ端微塵にしていく。
なんだあれは、生徒じゃなくてゴジラか?
いくら倫理観GTAとはいえ限度ってものがあるだろう? なんだ、矯正局送りにされた生徒達は倫理観そのものをどっかのドブ川に捨ててきたのか?
まだ酔っ払って滅茶苦茶を言う上司の方が幾分かまともかもしれないな、なんて思いながら逃走していた俺の左足を何かが掠る。
「いッ!?」
凄まじい激痛と共にバランスが崩れて、瓦屋根に顔面から倒れ込む。弾丸が直撃したのか、ロケットランチャーの爆発で吹き飛ばされた瓦礫が直撃したのだろう。
傾斜の付いている屋根にしがみつく余裕は無い。滑り落ち、足場にしていた民家の庭に停車されていた軽自動車の屋根に落下する。
「ッてぇ……マジか」
顔面を打ちつけた痛みや軽自動車に落ちた痛みもそうだが、何よりも気になったのはそれ等に繋がった原因である足の痛み。
どれほど酷い怪我をしているのかと不安になり左足を見たが、何かが掠った痕跡が表皮の軽い剥離で済んでいることに驚かされる。
あんなマッスルゴジラの猛攻の二次被害でこれで済むのか……キヴォトス人の肉体スゲェな。
自分の肉体の頑丈さに感心していると、通りと家の敷地を隔たるブロック塀に拳が突き刺さるのが見えた。
「おいおい……障子じゃねぇんだぞ?」
子供が張り替えたての障子に指を突っ込んかのようなノリでブロック塀に何度も何度も拳が貫通して、もろくなった所を体当たりで粉砕してアケミが姿を現す。
おめぇさてはゴジラじゃなくてジェイソンだな?或いはブロリーだな?
「ちょこまかと小賢しい真似をしてくれます。身の丈に似合わず機敏なのですね」
「そりゃまだまだ若いからな。無理出来るなら、無理出来るうちにやっといて損は無いぞ?」
歳を食うと無理も効かないからなぁ……昔なら長時間座りっぱなしで出来たゲームも、40超えると座りっぱもキツイし集中力続かないし頭痛くなるしで散々だ。
「ふふっ。面白い物言いですね。まだ私とさほど歳も変わらないでしょうに」
楽しそうに笑っているが、目は笑っていない。
さぁて……どうしたものか。
こんなフィジカルジェイソンと真っ向からやり合っても勝ち目は無いだろう。
ここキヴォトスにおいて『伝説のスケバン』なんてあだ名を付けられるほどの危険人物。あの怪力だ、ただのパンチ一撃でノックアウトされかねない。
こちらが持っているサブマシンガンも大した有効打は与えられないだろう。夏イベでの金属音みたいな着弾音は忘れない。
「……はぁ。しょうがない、か」
屋根での転倒や軽自動車への落下による痛みも幾分か和らいできた。両肘を支えにゆっくりと体を起こす。
それを見てアケミも武器を構える。これがまたどちらもかなりの威圧感があって怖いこと怖いこと。
「その怒りに付き合ってあげよう。だから終わったら帰ってくれ」
「随分と上からな物言いですね。私の可愛い舎弟の皆さんを可愛がっておいて、そんな態度を取ることを私が認可するとでも?」
怒りを掻き立てた原因は俺だ。ならば付き合うのが道理であり、怒りを適切に処理出来るよう向かい合うのがこの場においての大人としての責任。
少しでも俺への攻撃に怒りを込めさせ、終わった頃には怒りを発散させられるように敢えて上から目線な物言いをする。
狙い通りにアケミの表情が険しくなる。
「力でも武器でもこちらはお前に劣る。どうかお手柔らかに頼むよ」
「それは、無理ですわね!」
俺の言葉に軽く声を張ったのが、彼女の中でのきっかけとなったらしい。重機関銃のトリガーにかけられている指が力むのが見える。
そこに左前方へと体をグッと押し出して見せることで狙いを左へと誘導し、その誘導とは逆方向である右前方へ前転しながら飛び出した。
誘導に乗ったアケミは俺がいない方向へ弾丸をばら蒔いてしまっている。
サブマシンガンのトリガーを引いてアケミの乱射している重機関銃へ弾丸を浴びせる。
「私を狙わなくては勝てませんよ!」
「俺はお前に勝つ気などないさ」
伝説のスケバン相手に勝とうなんて思い上がりも甚だしい。戦車ひっくり返す奴にどうやって勝てって言うんだ。
だが、まだ殴り合い等の近接格闘戦ならギリギリどうにかなる算段はある。苦手な戦い方にはなるが、通る確率のある術が俺の肉体には中国拳法にハマって実際に中国で修行した母親の手によって染み付いている。
重機関銃を生身で持ち歩いて乱射するとかいう化け物じみた行為が出来る時点で恐ろしい以外の何物でもないが、そこもまだつけ入れる。
かなりの重さがあるのに、そこに発砲時の反動が加わる。多少だがその反動を抑えるのに力んでいる様子が見られ、射角調整には少々手こずっていた。
「まず、コレは没収だ」
一気に駆け出してアケミに肉薄。掴みかかろうとしてくる腕をくぐり抜け、重機関銃の銃口にサブマシンガンの銃口を押し当てる。
自分の反動で壊れてしまわないようにする為か頑丈な作りになっている重機関銃は、距離による威力減衰があったとはいえサブマシンガンの弾丸を浴びせてもビクともしなかった。
ならば銃口から直接、内部へ弾丸をぶち込んで破壊する。
「きゃあ!?」「ぐっ」
内部から前方へと弾丸を押し出す機能はあっても、前方から内部に向かって突っ込んでくる弾丸へ対応する機能はない。
銃身内に大量に撃ち込んだ弾丸は内部でどう暴れ回ったのか、爆発を伴って重機関銃を木っ端微塵にしてくれた。
爆発のエネルギーは俺のサブマシンガンにも伝わったらしく、こちらの銃も連鎖するように爆散してしまったが。
吹き飛んできた破片が頬を掠り血を流す俺の前で、アケミは驚きの悲鳴を上げただけで無傷。どんな筋肉してんだ。
「まさかエリザベスを破壊するなんて……ですが、まだ武器はありますよ!」
こちとらサブマシンガンの爆散でグリップを持っていた左手も痛いっていうのに、アケミはロケットランチャーを軽々と担いで連射してくる。
こっちの方が厄介かもしれん。連射速度では重機関銃に軍配が上がるが、こっちには爆発という範囲攻撃ができる要素がある。
着弾地点から離れていても爆風に飲まれればダメージは受けるし、爆風に乗って飛んでくる瓦礫やら破片やらでも俺の肉体は傷を負う。
「ッ……行くか」
あの遠距離からばら撒かれるどうしようもない破壊を止めるのには、俺にも遠距離からの攻撃を可能にする武器が要る。
その武器達が転がっている場所にも覚えがある。運が良ければ移動中の俺を狙ってロケットランチャーを撃ちまくり、弾切れを起こしてくれるかもしれない。
期待を胸に抱くという何時ぶりかも分からない心持ちで、俺は見慣れない通路を右往左往と駆け回り始めた。