スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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伝説のスケバン(2)

 見慣れない場所であり土地勘も無いのだが、俺は迷わず目的地に向けて進めているように思う。

 随分と目立つ痕跡が残されているのだから、それを見落とさないよう気を付けて辿れば良いのだから。

 

「待ちなさいッ!」

 

 誰が待つかよ、なんて言いたい気持ちを堪えて背後から猛ダッシュしつつロケットランチャーをぶっぱなしてくるアケミの動向に注意を向ける。

 

 ゴジラでありジェイソンでありブロリーであり、そしてグレゴリー・ラスプーチンだなこりゃ。

 走りながらロケットランチャー撃つとはどちらかといえば依代の激辛中毒神父だが。

 

「おっかねぇ!」

 

 背後から飛んでくるロケットランチャーなんて直撃すれば即死するだろ。カス当たりすらどうなるか分からない。

 カス当たりがきっかけとなって爆発なんてされたら超至近距離で巻き込まれる。

 そんなことになったら粉微塵だろう。ミンチよりひでぇや。

 

 狙っていた弾切れも起こりそうにない。

 喧嘩を売るような物言いをしておきながら逃げ回る俺にキレて乱射してくれたりしないかと思っていたが、どうもそう上手くは行かないな。

 

「そんなものだとは思っていたさ、クソッ」

 

 期待するものほど上手くは行かないものだ。

 それでいて奇跡的に上手く行ったとしても、ならばその対価だとばかりに何かしらの不都合が舞い込む。

 

 アケミの持っていた重機関銃を破壊できたのもそう。期待通りではあったが、その対価としてこちらのサブマシンガンも爆発してしまったし左手にも怪我をした。

 

「このっ、待ちなさいと言っているでしょう!!」

 

 アケミの声が聞こえたのと同時に頭上を巨大な何かが通り抜ける。

 

 車を投げて来た。戦車をひっくり返せるのだから軽自動車を投げるくらい、大して力む必要もなく可能なのだろう。

 目の前に軽自動車が落ちてくる光景は一瞬だが俺の頭を真っ白にし、思考を麻痺させて動きを止めさせる。

 

 背後から駆け寄ってくるアケミが手を伸ばしてくる気配がなければ、俺の肉体はそのまま立ち尽くしていただろう。

 咄嗟にしゃがみ込む。そのせいで背後から迫るアケミの両足を肉体全体を使って払う形になってしまった。

 

「うわぁっ!?」

 

 彼女の驚く声が聞こえた時、俺の肉体は弾かれたような勢いで動き出す。

 立ち上がり、ロケットランチャーを持っていない彼女の右手を掴んで引き寄せていた。

 

「ぐうぅっ、おっ」

 

 長身であり筋骨隆々の彼女の肉体は転倒の最中ということもあり、右手を掴んだ俺の両腕にズンッ!と強力な引っ張られる感覚が伝わる。

 

 重いと言いそうになったが女子高生相手にそれは失礼も良いところだと必死に堪え、アケミが自分自身の投げ付けた軽自動車目掛けて転倒してしまうのを阻止した。

 

「はぁ…怪我、無いか?」

「スレスレでしたが……ありがとうございますわ」

 

 何とか倒れ込まずに止まってくれたアケミが困惑した表情で振り返る。

 怪我の類は見受けられないし、背後の軽自動車にも彼女が激突したと思われる痕跡はない。

 

 彼女に怪我がないと理解すると安堵感に襲われて、俺はその場に座り込んでしまった。

 

「はあぁぁぁ……おっかねぇ……」

「貴女、馬鹿なんですの? 敵対している私を助けるなど……それに、車に激突したくらいでは私は怪我など負いませんわ」

 

 座り込む俺を見下ろすアケミの顔には『理解できない』と書いてある。

 彼女からすれば舎弟ボコボコにして喧嘩まで売ってきた相手が助けた形になるのだから、そりゃあそんな顔もするわな。

 

「阿呆なこと言うな。万に一つ、ということも有り得る。それに顔は男女共通の魅力の一つであって武器の一つだ。そこを傷付けるなんざ、俺は許さない」

 

 嘘は言っていない。

 

 アケミも大切な生徒だから、なんて先生目線で言いそうになったが彼女からすればそれこそ理解できない理由になってしまう。

 

 今の俺は先生ではない。シュロガキ辺りがウケケケ言ってそうだが、今の俺はサブマシンガン装備のスケバンをベースにしたスケバン集合体に憑依した冴えない中年のおっさんだ。

 

 それに歳を食ってからというもの、子供が傷付くのは見るに堪えなくなった。将来に希望が残されている子供が不必要に苦しむ様は見たくない。

 コテンパンにしたスケバン達も全員手加減はしているし、地面に叩き伏せた子もかなり手を抜いている。

 

「それにお前みたいな美人さんが傷付くかもって思ったら咄嗟に体が動いてたんだよ。なんだろうな、一目惚れでもしてんのかな俺は」

 

 これが以前の使い古した無駄にごつい中年男性の俺が言っていたらセクハラ案件でお巡りさんにしょっぴかれていただろう。

 女性の肉体に憑依しているからか、その手の一見アウトそうな発言がポロリしやすいみたいだ。

 

 セクハラじゃんね?とイマジナリーミカの声が聞こえた気がして慌ててアケミの顔を見る。

 茹でガニみたいに真っ赤っかになっていた。栗なのに。

 

「……どうした? 具合でも悪いのか?」

 

 よくよく見れば上半身はサラシを巻いただけでほぼ全裸に等しい。そんな格好で駆けずり回れば腹も冷えようというもの。

 

 心配する俺の声掛けに対してアケミはブンブンと顔を振り、ロケットランチャーを地面に立てると顔を手で隠してしまった。

 

 え、俺の発言にそこまで傷付いたの?同性でもアウトなん?

 

「あ、貴女は何度も私を美人だ美人だと…挙げ句は一目惚れだなんて! 言われ慣れていないので…恥ずかしいですわ!」

「そりゃあお前、面と向かって美人だと言うなんて恥ずかしいったらありゃしないからな。半分告白みたいなもんだろ、普通は言わん」

 

 俺は恥ずかしくないのかって?

 

 恥ずいに決まってるじゃんね。

 

「こっ、ここここっ告白!? あっ、あなた、何を言っているのかわかっていますの!?」

「それがさぁ……歳食うともう思ったことがポロポロと口から出て来っちゃうのよ」

 

「ですから! 私と貴女はほとんど同い年ですわ!」

 

 歳を食うと思ったことが口から出るのも事実だ。

 それを外見なら若い俺が言うことでアケミにツッコミをする余地が与えられて、彼女もその拍子で少しは落ち着きを取り戻せる。

 

 両手で顔をパタパタと仰いでいる。いちいち仕草に気品を感じさせるな……やっぱり、あれか?

 栗浜アケミ トリニティ総合学園在籍説は本当なのだろうか?

 

「全く……貴女と話しているとペースが乱されてやりにくいですわね」

「お? ならそのまま見逃したり……ウソウソ」

 

 わんちゃん見逃してくれたりしないかなぁ、という淡い期待は『逃がす訳ねぇべ』とでも言いたげなおっかない眼光が粉微塵に粉砕してくれた。容赦ねぇ。

 

 しっかし、どうするか。

 逃走していた勢いは完全に殺されてしまったし、目の前にアケミがいるから来た道を引き返して逃走しようにも振り返っている間に捕まるだろう。

 

 それに、まだアケミにはロケットランチャーが残されている。逃走を開始することが出来たとて、走り始めにロケットランチャーをぶち込まれて終わる未来が見える。

 

「……貴女の狙いは最初に出会ったあの民家で、落ちている銃を回収すること。そうよね?」

 

 バレてたか。まぁ、バレるわな。

 今の俺に容易く入手できる銃なんて、コテンパンにしたスケバン達が落とした銃くらいしかないからな。

 

「私に対しては豆鉄砲も良いところですが、こちらの武器を1度破壊された体験を踏まえると貴女に武器を持たせるのは大変危険。私としてもこれ以上武器を破壊されるのは出費がかさむので避けたいところですわ」

 

 ですので。

 

 言葉を区切ると、アケミはロケットランチャーを近くのブロック塀へと立て掛けた。

 

 軽くなりましたわね、なんてあんたの怪力なら髪の毛一本程度の重さしか感じねぇだろと言いたくなる物言いをしながら腕をクルクルと回し、その岩石みたいな拳を固めて差し出してくる。

 

 おいおい……確かにチロっと願ったりはしたがよ…嘘だろ…

 

「ここから先、私と貴女のサシで殴り合いましょう。本気は出しませんわ、出したら私は貴女を殺しかねませんし」

「そりゃあ有り難い心遣いだが……えぇ? 本気?」

「はい。本気と書いてマジと読むくらいには本気です」

 

 うわぁぁぁぁぁ……アケミと殴り合いかぁ…いや殴らないけど

 

 戦車を片腕でそれはもう容易くぱいんっと弾くような人物の拳なんて、喰らえば完璧にブロックしても骨がダメになるんじゃなかろうか。

 

 ガードではなく、いなして対応しなければならない。後は彼女の怪力そのものを武器にするか。

 

「少なくともあの暴力的な遠距離攻撃が来ない分、まだ良心的か…分かった。それでけっ!?」

 

 わかった、俺がそう言った途端にアケミが殴りかかってきた。体を左へ捻り、横転するような勢いで強引に避ける。

 

 ガンマンの早撃ちしてんじゃねぇんだぞ!?

 

 しかも俺が避けた拳、勢いのまま肘あたりまでコンクリートの地面にめり込んでるんだけど!?

 

「やはり、貴女は随分と身軽ですわね。身長だけなら私に近いというのにその身軽さ……過去に相手したどの方よりも優れていますッ」

 

 相手を認めるなら拳止めてくれねぇかなぁ!?

 

 テクニックなんか欠片も感じられない、純粋な暴力として振るわれる拳を捌くので手一杯な俺とは対照的にアケミは凄く楽しそうに笑っている。

 

「くッ、だあぁッ!」

 

 捌き続けるのも無理がある。拳の側面を押し退けて逸らすだけでも決して軽視できないダメージが蓄積している。

 

 幸いなことにアケミは重機関銃が超至近距離で爆発してもノーダメージでいられる強靭な肉体の持ち主だ。

 ならば抵抗感も多少薄れる。ヒュッという空気を割く音では無い、ブォンッと空気を押し退けるような音を伴う剛腕を躱し、伸び切る前にその腕を掴む。

 

「一本背負いィィッ!」

「くうぅっ!?」

 

 殴る勢いも利用させてもらい、肩でアケミの腕を担いでそのまま背負い投げた。体重差的にも普通にかければ成立しなかったかもしれないが、彼女の怪力に助けられた。

 

 アケミの肉体がコンクリートの地面に叩きつけられ、苦悶の声を漏らしている。

 心配になり、大丈夫かと声をかけそうになったが猛烈に嫌な予感がして俺は飛び退いていた。

 

「立ち回りがお上手ですわね」

 

 コンクリートに一本背負いで叩き付けたんだぞ…受け身もろくに取れていなかっただろ?

 

 なんで起き上がりざまに腕振り抜いて殴り掛かるって選択肢が浮かぶんだよ!

 伝説のスケバンにしたってツッパリ過ぎじゃあねぇか!?

 

「少しは怯めよ…伝説のスケバンってのは伊達じゃないな」

「伝説の……スケバン? なんですの、その名前は」

 

 ……はい? いま、目の前のスケバン、なんつった?

 

「いや、だから伝説のスケバンってお前の渾名だろ?」

「いえ、そんな伝説のスケバンなんて知りませんわよ」

 

 俺とアケミは同時に首を傾げた。

 

 伝説のスケバンという渾名を、アケミが知らない?

 

「……まぁいいや。忘れてくれ」

「…分かりました。続きと参りましょう」

 

 俺たちは一応、殴り合いをしているはずなのだが……

 

 空気が緩くなってしまった……

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