スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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番外編 一
栗浜タイコなる女


「フフ……ふふっ、ふふふふっ」

 

 捕らえられ、自由を奪われているというのにも関わらず栗浜アケミは笑っていた。

 娯楽のごの字もないような独房の中、手足を鎖で繋がれてもなお彼女は笑う。心の底から楽しそうに、素敵な思い出を思い出しながら。

 

 監視員が注意しようとしたが、それを別の監視員が制止する。彼女の表情と目には『アレを邪魔するな』という警告の色が、強く宿されていた。

 

「嗚呼……楽しかったですわ、私の可愛い妹…」

 

 中身がおっさんである血の繋がりのない妹 栗浜タイコ

 

 あまりに荒唐無稽な話の数々はどれもが非現実的なものでありながら、自分に張り合い手玉に取った強者だという贔屓目を抜きにしても妙な説得力を有していた。

 

 話術の才能がある。人を騙して食って行けると思わせる語りを見せたタイコと姉妹となり2年近い。

 可愛い舎弟に囲まれながら過ごすものとは異なる幸福感を、タイコの鍛錬を名目とした姉妹間での愛し合いはアケミに与えていた。

 

「あんなに強く叩かれて…吐くほどの痛みを感じたのなんて何時ぶりだったかしら……」

 

 暴力性に振った性能をしているとアケミを表現するならば、タイコは対極的に俊敏さと技巧性に振った性能と言える。

 

 アケミ程では無いにせよ巨体でありながら小柄な舎弟達とも比較にならない俊敏性を持ち、相手の隙を突いたり焦りを誘発して放たせた無防備な技を利用してのテイクダウンを狙いにくるテクニカルな立ち回りを主体としていた。

 

 そこに隠し球である寸勁や鉄山靠、柔道における一本背負いといったこれまた高い技術を求められる強烈な技を組み込み、ここぞという場面で仕留めにかかるのがタイコの戦い方。

 

 それを、アケミとの鍛錬が変えた。

 彼女の腹部に残されている痛々しい打撃痕が、それを物語っている。

 

「まさかアレを模倣されるとは……まだまだ荒削りではありましたが、凄い才能……ふふっ、ふふふふふ!」

 

 アケミが闘争に明け暮れる中で編み出した、スケバンの極意を込めた呼吸法。

 使用後にそれ相応の負担がかかる呼吸法を、タイコは我流で模倣している。

 

 初めて目にした時は度肝を抜かれた。誇張表現ではなく、その時のアケミはエ〇ルみたいな顔をした。

 

 そこに打ち込まれた寸勁の威力といったらそれはもう……

 

「〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 思い出しただけで体が疼いてしまう。

 

 ズドンッ、と分厚い筋肉などお構い無しに肉体を貫き揺さぶる凄まじい衝撃と激痛。

 堪え切れずに吐き出した胃の内容物が放つ嫌な匂いと、喉をジリジリと焼くような感覚。

 

 自分の編み出した奥義を模倣された衝撃と、それを見てザワつく舎弟達の姿は彼女が朽ち果てて土に還ろうとも忘れることは無い。

 アケミに片膝を付かせたと理解して心の底から嬉しそうに笑うタイコの姿も、死ぬまで忘れることは無い。

 

『ごめんアケミ! お前を苦しめたっていうのに、今の俺は凄く嬉しい!』

 

 あんなに可愛らしい笑顔を向けられたら怒るに怒れなくなってしまうでは無いか。

 その後に訪れた負担によって動けなくなり倒れてしまった彼女の無防備な姿に、姉という立場を捨ててまで襲いかかりたくなるのを堪えた時の苦痛は今でも忘れない。

 

 ズルい。本当にズルい妹だとアケミは微笑みを隠せない。

 

「本当に……本当にズルい子ね…会いたくて堪らなくなるわ」

 

 本気を出せば容易く破壊できてしまう枷や鎖をガシャガシャと鳴らしながらアケミは悦に浸る。

 

 タイコは無自覚のうちに、キヴォトスでも単純な力でいえば最強格かもしれない少女を引きずり込んでいた。

 

 色恋に疎い人生を送ることで構築された恋慕の類にとことん鈍感な彼女は、遠く離れた矯正局に拘束されている義理の姉のうちで激しく燃え上がる姉妹愛と恋慕がごった煮になったドロドロの感情を知らない。

 

 鈍感でありながらアケミに並び立つ存在

 

 それが栗浜タイコという女だった。

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