「……黒見セリカを連れてくる、だとよ。仲間想いの良い友人を持ったな」
「ッ、あのバカ……!!」
「ったく、ウチらが体張った意味、パーじゃん……!」
「本当に面倒くさいことしやがって。おい!トラック出せ!迎えに行くぞ!」
アビドス砂漠地帯、空に広がる満天の星とは打って変わって、カケラの光も無く手元のライトと月明かりのみを頼りに互いの顔を合わせ言葉を交わしていた。幹部であることを示すツノの生えたドクロマークの刺繍された赤いセーラー服に身を包むヘルメット団の周囲には複数の取り巻きと───地面に倒れ伏す、二人のヘルメット団員。彼女らの浅ましい策略は予想通り大した時間稼ぎにもならず、その後は語ることもなく蜂の巣に遭い現在に至る。
そんな、彼女らの体を張った努力も、どうやら仲間の涙ぐましい友情の前に儚く消え去るらしい。
「そいつら見張ってろ。絶対に逃すんじゃねぇぞ」
「うっす」
「クソ……!!」
「……はー、アホらし。何やってんだろな、ほんとに」
結局心が折れた自分達の友人は、決死の想いで逃したアビドス生をヘルメット団に売り渡すらしい。何ともあっけない幕切である。視界の先へと消えていく一台のトラックを視界に収め、小さくため息を吐いて星空を見上げていた。
「……何やってんだよお前ら、バカじゃねぇのか」
「あ?お前らが言えた口かよ。アタイらみーんな学のねぇバカだからこんな傭兵なんかやってんじゃん」
「そーそー!バカがバカにバカって言ってら!おもしれー」
「ッ、このッ!上手くやらないと金貰えないんだぞ!バカ!!」
「ッ、てぇなぁ!!ウチら動けないんだから殴んじゃねぇよバカッ
!!」
「うるさいッ!!」
抵抗もできない二人の少女を、銃のストックで何度も殴りつけるヘルメット団員達。減らず口を叩かなくなってもその勢いは止むことを知らず、無言になった二人が頭を通り越してぼんやりとした意識の中、ガツンガツンと頭部で反響する音をどこか遠くに捉えながら───意識を手放すのであった。
「………!」
一人の少女を背中に背負い道を歩く───元、カタカタヘルメット団員。既にトレードマークとも言える黒いヘルメットと黒いセーラー服は身につけておらず、これからの立ち上いで直ぐに顔が割れるようにだろうか、はたまたヘルメット団からの決別の意かは分からないが───素顔を晒し、服も真っ白なカッターシャツを身につけていた。迷いなくゆっくりと道を歩いていると遠くの方から車の走行音が段々と近づいていることを理解して、その場で立ち尽くして取引相手の到着を待っていた。
「…お前一人だな。分かってるとは思うが───変な気を起こしてみろ。お前の仲間がどうなるかくらい……分かってるな?」
「…あぁ。…アイツらはどこに?」
「あぁ?アジトの方だよ。ま、逃げられない程度に痛めつけはしたが殺してはねぇさ。安心しろ」
「お前ッ!」
「あ゛?おい、怒鳴りてぇのはこっちだぞ。本当に余計なことしやがって!!今回みたいな大口の依頼が、オレ達にゃどれくらい大事かテメェみたいなバカでも流石に分かるよな!?」
「………」
「仲間に入れてやった恩も忘れて、変な気起こしやがって!!バカだとは思ってたがこんなレベルのバカだとは思わなかったぜ!!クソ野郎!!!」
彼女ら以外誰もいない、砂に埋もれた廃墟と化した市街地に怒声が響き渡る。それは、今日明日一日を食いつなぐ、その日暮らしを余儀なくされる生徒の悲痛な叫び。彼女の言葉に言い返すこともせず閉口するのは、やはり彼女もその言葉に思うところがあるからだ。
「……それは」
「あーもういいよ。お前に怒鳴り散らしてんのがアホらしくなってきた。さっさと要件だけ済ませて消えてくれ」
「……ねぇ」
「あ?」
「他の方法、とか……」
「あ?何の話だよ」
唐突に、意を決したように口を開く少女。だがそこに確固たる意志や想いがあるわけではないようで、咄嗟に口を突いて出てしまったのだろう、言葉がまとまらずしどろもどろになりながら、文章になる前に単語がポロポロと漏れ出てしまっていた。
「いや、その、こんなことしなくって。……食い扶持と言うか、別の仕事……」
「…あのさぁ、いきなり何?オレのこと煽ってんの?ちゃんと喋ってくんない?」
「いや、その……やっぱ、生徒襲うのは、不味い……」
「……はぁ〜〜、あぁそう。なるほど。……なるほどね。つまり、なんだ」
「お前らは、変な正義感に目覚めてこんなことしたってわけか」
「ち、ちが───「ふざけんなッ!!!」ッ、いたッ!!」
銃声が星空の下響き渡る。それと同時に膝を折り曲げ体勢を崩す少女。彼女の視線の先では硝煙を上げる銃口が自身に向いていた。
「キメェなマジで!?そんな理由でこんなことしたのか!?今までアビドス襲ってたくせしてよッ!!」
「………ッ」
「あーもう!!ちょっとでもお前らのこと考えたオレがバカだったよッ!!さっさとセリカを寄越して消えろバカがッ!!」
冷静さをかき、ズカズカと膝を突く少女の元へと歩を進めるリーダー。元部下であった彼女の影に隠れる背後の生徒を強奪しようと近くまで寄った瞬間───
「……悪いわね。セリカさんではなくて」
「……は?だ、だれ──な、何しやがる!?」
唐突に、発砲音が鳴り響く。
ユウカのサブマシンガンから放たれた弾丸が的確にトラックのフロントライトを打ち抜き、辺りを暗闇に染める。当然の如く動揺したヘルメット団員達が慌ててウェポンライトを点灯させるが闇に染まったこの環境において───敵の位置も把握できていない状況では自分の居場所を教える自殺行為に過ぎないようで──
「あが…!?」
「ぐぁ……ッ!」
───背後から後頭部を強打され、意識を手放す。
「……ん、こっちは終わったよ。ユウカ」
「お疲れ様、シロコさん。さてと……」
「クソ……ッ、うわ!?いたッ!!」
「……流石に、三対一は無謀がすぎる。諦めて大人しくするべき」
目の前と後方に控える三名の生徒。その内一人は見覚えがないが、もう一人は知っている。ターゲットであるアビドス高校の生徒の一人であったはず。それが何の因果か、自分の元部下と行動を共にしているなどと予想できるはずもなく、慌てて銃を構えるがやはり数の暴力に叶うはずもなく瞬時に組み伏せられ取り押さえられる。
「いた!痛たたた!!」
「大人しくするって言うなら解放する。変な気は起こさない?」
「わ、分かった!分かったから!大人しくするから離せ!!」
「……ん、分かった」
「チッ、クソッ、なんでアビドス生が……!そこの奴に至っては誰なんだよ……ッ!!」
「ん、言う義理はない」
「クソッ、……………」
「…………」
地面に落としたヘルメット団リーダーの銃を足で払い飛ばしたシロコが、確認をとり彼女の拘束していた腕を解き解放すると、彼女に背を向けユウカの方へと顔を向ける。その一瞬の隙を見逃さず、コッソリと本部へ連絡を取ろうとするリーダー、自分の懐へと手を伸ばし、部下へと連絡を取ろうとした瞬間───
「あっ、ちょッ!?」
「……なるほど、これが貴方の連絡相手……ユウカ、渡しておく」
「ありがとう、シロコさん」
───自分に背中をつけていたアビドス生が咄嗟に振り返り自身の手から携帯を取り上げる。そこには自分が連絡を取ろうとしていた相手の連絡先、その通話ボタンが表示されていた。自分に隙を見せた───いや、見せていた生徒の鮮やかな手際に舌打ちをするヘルメット団リーダー。
「ッ、おまえ、わざと───」
「ん、普通こんなに早く解放されたら何か意図があると疑うべき。貴方達が連絡を取り合っているというのは……貴方の部下から聞いてたから。かと言っていきなり何の交友もない末端の部員に貴方から連絡が来たら不審がられる。こうした非常時に貴方が連絡を取る相手を把握しておく必要があった」
「お、俺から?な、何を言って───「……あ?マキ?ちょっといいかしら?」
要領を得ないシロコの発言に困惑気味に声を漏らすヘルメット団のリーダー。そんな彼女の声を遮るようにユウカが口を開く。
「音声データ送るから合成音声作ってくれないかしら?いや音声ソフトじゃなくこっちの指定する定型文でいいからさ。謝礼も出すわ」
「……ごうせい、おんせい……?」
「………いやセミナーじゃなくて私の個人的な依頼なんだけど………何よ、どうせ今日も部室篭って深夜にゲーム三昧でしょ。………あーはいはい、そうよね、ゲームのイベント周回で忙しいものね。………ところで先日の不審なミレニアムサーバーへのハッキング、怖いからチヒロ先輩にでも報告───そう、良い返事が聞けてよかったわ。じゃあ至急取り掛かってちょうだい。……ふぅ、こっちは何とかなりそうね」
スマホの通話を切りため息をついて懐にしまうと、ヘルメット団のリーダーが自分にジッと視線を向けていることに気づくユウカ。黙っていても良かったが、事態が飲み込めず困惑している雰囲気を感じとり不憫に思って、まぁ別に隠すことでもないかとネタバラシを行った。
「貴方、随分長話してたでしょさっき。貴方の部下……いや、元部下かしら。まぁこの子と」
「………は?」
「その時録音した貴方の声の音源から音声を新規に作成するのよ。黒見セリカを捕まえた、とか、あの二人は解放してやれ、とかね」
「……なに、それ……」
「まぁ、馴染みないと意味わからないか……兎に角、貴方じゃない貴方が喋るって考えて頂戴。その為にもそこそこ音源が必要だったけど……色々喋ってくれて助かったわ」
「───お前ッ!!──ガハッ……!?」
「……リーダー」
結局、自分を見下ろす青髪の生徒の言っている言葉の意味は余り理解できなかったが、色々喋ってくれて、と言われた瞬間に不自然に変な正義感のような言葉を振り翳していた自分の部下に目を向け怒鳴る。このためか、この為にあんな変な言葉を吐いたのか、と。瞬間、後頭部に強い衝撃が走りヘイローが点滅する。朦朧とする意識の中周囲を見渡せば、銃のストックを自分の頭からゆっくりと離すアビドス生徒の姿と───
「……時間稼ぎもあったけど……さっきの言葉は、本心だよ」
───何か言っていた部下の姿が最後に映った。
「……ん、リーダーから……はい、もしもーし」
『……黒見──セリカは──確保した──』
「あ、そうなんすね!お疲れ様です!」
『……迎えが…行くから……あの二人は──そいつに渡せ──』
「あの二人……?あぁ、人質の二人っすね!オッケーっす!」
『それが終わったら──解散していい』
「わかりましたー。……あ、切れた。なんかノイズ酷かったな。電波悪いのかな」
リーダーからの返事を待って、アジトにて腰を下ろしていた団員の一人が吉報を受け取りうーんと背を伸ばす。空はまだ暗いものの既に青みがかっており、睡魔でうとうとと船を漕ぐ頭を振って何とか眠気を押し退ける。あくびを噛み殺して地面に倒れ伏す二人に近寄り声をかけた。
「良かったな。黒見セリカは確保したからお前ら解放だとよ」
「…………チッ」
「……ごめん、先生」
「先生?……んまぁいいや。後で迎えが来るらしいから、それ乗ってどっか行けや。……お?来た来た、あれかな?」
視界の先から、眩い光を放つトラックが一台自分達の元へ近づいてくる。そこそこ離れた場所で静止し、運転席から降りてきたヘルメット団員が豊満な胸を揺らしながら駆け足で自分達の元へ駆け寄ってくる。
「お待たせしました〜」
「ん、おつかれ。これ、この二人連れてけだって。ほら、立てよ」
「うッ……」
「あ、いえいえ!皆さんお疲れでしょうから後は任せていただいて大丈夫ですよ?私の方で二人とも運んでおきますので!」
「そうか?悪いな。じゃあ頼むわ。よーしお前ら!もう解散して良いぞー!」
「……お二人とも、立てますか?」
「………」
「………クソ…」
ヘルメット団員の一人が、リーダーの言葉に従い皆に解散を言い渡した瞬間辺りから声が上がる。やはりこの時間までずっと起きているのは体に応えたようで、散り散りになりながら雑談を交えつつその場を後にするヘルメット団員達。そんな彼女らにまぎれこむように、地面に倒れ伏す両名に肩を貸してトラックまで運んだ後に荷台を開ける。
「では、すみませんが一旦荷台に乗ってもらえますか?ここを離れますので」
「……わーったよ……」
「………ふん」
光一つない、暗闇に染まるトラックの荷台。足元一つ確認出来ず、不親切にもライトすら付けてくれないため、ゆっくりと足の踏み場を確認しながら中へ乗り込んだ。今更反抗する気力も起きず、バタンと扉が閉められた後、ガタンガタンと舗装されていない砂山を走り始めたトラックに揺られて、はぁと大きなため息をついた。
「……何がしたかったんだろうな、ウチら」
「………知らね。こんなことになんなら黙って従っとけば良かったな、リーダーに」
「……本当に?」
「…………うそ、先生裏切ったらぜってー後悔してた」
「……はぁ〜、マジどうしよっかな。明日から」
今後のお先真っ暗な展望に頭を抱えるヘルメット───否、元ヘルメット団員達。元々彼女らが群れていたのは個としての自分達など傭兵として何の価値もないことは百も承知で、無能だと分かってはいても烏合の衆を形成しなければいけないほどの弱者であったからだ。そんな母集団から排斥された、たった三人に行く当てなどなくブラックマーケットに足を踏み入れようものなら食い潰されるだけで、自分達の居場所は完全になくなってしまった。
「……先生に、頼る……ってのは……」
「………いやだ……これ以上、迷惑かけたくない」
「そんな悲しいことを言ってくれるな。オレは常に生徒の味方ぞ!!」
「「わーーーッ!!!?」」
「ちょ、落ち着けッ!!オレぞ!!先生ぞ!!!」
涙目で声を震わせながら、体育座りしていた自分の膝に顔を埋め、震える声で拒絶の言葉を口にすると、それを不服に思ったのか、先に乗車していた柱間が唐突に声を上げ───当然の如く、そんなこと知る由もない二人が大声をあげて喚き散らすのが落ち着かせるように柱間が声を上げる。
「は!?へ!?え?え、え??せ、先生??」
「あぁ!先生ぞ!!一日ぶりだの!!会いたかったぞ!!」
「え、え、な、なんで先生がヘルメット団のトラックに──「ヘルメット団のトラックではありませんよ〜?」……は?」
運転席の方から声が聞こえてそちらに顔を向けると、サーとカーテンが開き窓越しに運転席から光が差し込んできた。高い声で上機嫌な様子を隠そうともしない、ヘルメット団───であるはずの、運転手がヘルメットを外して素顔を晒しており、そこにはターゲットの一人であるアビドス生徒の顔があった。
「あ、あんた……」
「はい!アビドス高校二年、十六夜ノノミです!大丈夫でしたか?お二人とも」
「あ、うん………え、え、えっと、ちょっと待って。わけが分からない、どういうこと?」
「……セリカちゃんを助けていただいて、ありがとうございます」
「───……じゃ、じゃあ……」
「あぁ、事情は把握しておる。セリカも、あの子も無事ぞ」
「……そ、っか。そうなんだ………」
運転席からの微かな光で互いの姿が確認できるくらいに薄暗い荷台の中で、今度こそ全身の力が抜け切ったようにその場にへたり込む二人の少女。そんな姿を視界に収めて小さく微笑んだ後、柱間が二人に近寄り───断りを入れることもなく、背中に手を回して自身の方へと抱き寄せる。
「ち、ちょ、せ、先生?」
「え、な、なになに!?」
「……良くやってくれた。お前達はオレの───自慢の生徒ぞ……!」
絞り出すような柱間の声にピタリと動きを止める二人の少女が戸惑ったような困ったような───すがるような表情で彼を抱き返す。運転席では、二つの啜り泣く声を耳にしてノノミが一人、小さく微笑んでいた。
「……クソ、なんなんだよ……なんなんだよッ!!ふざけやがって……ッ!!」
「リーダー……」
「………」
悪態を吐きながら砂の山を行くカタカタヘルメット団。アビドス生と───知らない生徒と結託した元部下の策にはまり、全てが失敗した。意識を失い目が覚めた後、空は既に明るみを帯びており、遠方のビルの背後から太陽が顔を覗かせていた。仲間に連絡を取れば既に人質も解放されているようで自身と相手では会話が噛み合わず───頭を掻きむしって苛立ちを隠すようなこともせずにアジトへと歩を進めている最中である。そんな気まずい空気の中、取り巻きが何かを言い出せるわけもなく、閉口して彼女の後をついていた。
「…全員、集めろ」
「え?」
「全員集めろっつったんだ!!」
「で、でも…」
「でももクソもあるか!?もう後がねぇことくらい分かってんだろッ!!」
焦って部下に怒鳴り散らすヘルメット団のリーダー。それには一つ訳があり、今回依頼主からいつもの資金援助に加え戦車の貸し出しまで行なわれている。これが単なる戦略増強か───一向に成果を上げない自分達への最終通告か、それが分からないほどの頭ではない。
故に───
「………は?」
───アジトに格納された"
『取り敢えずその戦車とやらはぶっ壊しといたよ〜』
「お疲れ様です。特に依頼主から受け取った強力な武装などは他にはないんですよね?」
「う、うん」
「とのことです。帰還してください、ホシノ先輩」
『りょうかーい。うへぇ〜、疲れたー……』
「……以上で本作戦は終了になります。後はホシノ先輩が帰ってくるのを待つだけですね。お疲れ様でした、皆さん」
「ん、特殊作戦みたいで楽しかった。またやってみたい……!」
「ダメに決まってるでしょ!というか私が捕まってたのよ!不謹慎なこと言わないでよシロコ先輩!!」
「ハッハッハ!確かにスリルはあったかもしれぬな!」
「はい!私もドキドキしちゃいました!」
「あのねーー!!!」
『そっちは随分楽しそうだねぇ〜』
久方ぶりの笑いの絶えない教室にセリカ自身悪い気はしないようで先輩方の言葉に怒鳴りつつもどこか呆れてため息を吐くにとどまっていた。元カタカタヘルメット団の少女の話によると、拉致という強硬手段に出たのは最近依頼主から主力戦車の貸し出しがあり、リーダーが納期を焦っていたというのもあったらしい。であればソレを何とかしなければ彼女らの戦意を削ぐことなど不可能で、ましてや戦車を用いて学校まで攻め込まれたらどれだけの被害が出るか分からない。結果として破壊工作に乗り出すことになったのだが、アジトに単身乗り込む危険行為にやはり白羽の矢が立つのは最もアビドス生の中で自力の高い小鳥遊ホシノのようで、夜間とは言え万一見つかることも考慮に入れながらスニーキングミッションに赴いたのであった。幸いにして合成音声による解散命令が出ていた為会敵することはなかったのだが。
「……はぁ……それで、そこの三人が……」
「………」
「……え、えっと」
「………その」
振り向き、部屋の隅で固まる三人の少女に顔を向けるセリカ。既にトレードマークであるヘルメットを外しており、各々がぎこちない表情でセリカに視線を合わせたり、外したり。やはり罪悪感に苛まれているようで、居心地が悪そうに視線を泳がせていた。
「……悪いけど───直ぐには受け入れられない。……あなた達の姿を見れば、色々頑張ってくれたのは分かるけど。……いきなり拉致られて、起きたらヘルメット団が裏切って私を助けてくれた、なんて言われても無理がある」
「………ごめん」
「……でも、良いわ。……信じる」
「………え?」
「セリカちゃん……?」
恐る恐るといった様子でヘルメット───元、ヘルメット団員達がセリカを見上げると、頬をぽりぽりと指先で掻いてそっぽを向くセリカが三人の視線に気づいて慌てたように口を開いた。
「か、勘違いしないでよ!……アンタ達が信用ならないってのは本当。アンタらが私達を信用できないようにね。……でも、先生なら信用できるでしょ。お互い」
「…………」
「それに……その……助けてくれた皆んなに対しても、認めないっていうのは不義理だし。……それに」
「………え?わ、わたし?」
セリカがその場にいる柱間、アビドス生徒達を一瞥した後───気まずそうに、しかし意を決して少し離れた位置に佇むミレニアム生へと顔を向ける。互いに何処か距離感を掴めず、沈黙が場を支配して数秒───セリカが、頭を下げた。
「ちょ、せ、セリカさん!?」
「……助けてくれて、ありがとう。……それと、初日にあんなこと言って、ごめんなさい」
「い、いや!別にアレは──「ユウカよ」……せ、先生?」
「遠慮するな、言いたいことを言えば良い。お前達に既に学園という垣根はない。腹を割った友ぞ」
頭を下げた、セリカの姿に慌てたユウカが駆け寄り言葉を口にするが、そんな彼女の肩に手を置いた柱間が彼女を諭す。やはり何処か別の学園の生徒に余計な世話をかけたという引け目があったのは図星のようで、自分の中にあった───着飾らないのであれば、不満や文句と言った邪な気持ちが溢れ出てしまった。
「……その、最初は、余計なことをしてしまったかなって、心配になりました……」
「………」
「それと……本当に、少しだけ……そんなに言わなくても、良いじゃないか、とも」
「……ごめん、なさい」
「…セリカさん、顔を上げてくれる?」
「……えっと────ゆ、ユウカさん?」
「──でも、そんなの些細なことよ。無事で良かったわ!本当に!」
頭上から聞こえる言葉にゆっくりと頭を上げて、慎重に顔を覗いてみようとして───唐突に自身の手に重なる圧力を伴う暖かさに驚いて目を見開けば、満面の笑みで自分の無事を喜ぶユウカの姿が視界に映る。ともすれば安堵するのも束の間やはり何処か恥ずかしいようで顔を赤く染めながら視線が泳いでしまっていた。
「あー……え、えっと、ありが、とう。……そ、その」
「あら〜、セリカちゃん、お顔が真っ赤ですよ?」
「ちょ、ち、ちが!別にこれは、違うから!!」
『え〜、良いなぁ。おじさんもセリカちゃんの可愛いところ見たかったなぁ』
「撮っておくから後でホシノ先輩には共有してあげる」
「こ、こらー!!勝手に人の顔撮るなー!!」
「う゛ぅ゛ー!!良かっだの゛ぉ!!二人ともッ!!」
「うわ!?せ、先生泣いてるんですか!?」
「この歳になると、ん゛ん゛!!…涙腺が緩くての……」
一気に賑やかになる教室内。セリカを茶化すアビドス生徒を他所に、片や良い歳こいた大人がとめどなく涙を溢れさせ、いよいよもって収拾のつかない状況に笑い声のみがこだまする。三者三様の反応を示す皆の姿に、瞬きを繰り返して戸惑ったような三人の少女達。
ただまぁ───これが謂わゆるハッピーエンドなのだろうと理解して、そっと目を閉じるのであった。
「……結局、失敗か。大した痛手も与えられず、このザマとは」
依頼先から任務の失敗の旨を受け取り、不快感を露わにして通話を切る。恰幅の良い一人の男がため息を吐いて振り返り窓ガラスに映る外界を見下ろすが、眼前に広がる取るに足らない繁華街の風景を視界に収めたところで溜飲が下がるはずもない。
「……専門家に依頼するとしよう」
観念したように肩を落とし、新たに連絡を入れるのはやはり傭兵───否、厳密に言えば何でも屋。自分達の足がつかないという意味での使い勝手で言えばどちらも同じことではあるのだが。───曰く、かのゲヘナ学園の風紀委員から指名手配を受け、自由と混沌を謳うかの学園の数多あるテロリスト集団のなかでも特に戦闘力に秀でている、特記戦力の一つ。その名を───
『……はい、どんなことでも解決します。───便利屋68です』
ご清覧ありがとうございます!
やっとこさ序盤のセリカ誘拐イベが片付いた……遅すぎる。
オリ展開にして自分で苦しむってアホなんじゃないか……。
遅筆ですが、もしよろしければお待ちいただければ……。
それではまた次回