Hashirama Archive   作:アテナ18号

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今回は短めです。
すいません。


契約

 

 「………何だと?」

 「………」

 

 高層ビルの一室。いかにも重役の構える執務室といった雰囲気で、恰幅の良い一人のアンドロイドが歪むはずのない顔の眉間に皺を寄せるかのごとく、不機嫌そうな声色で声を漏らす。そのまま一言二言言葉を交わした後、吐き捨てるように受話器を乱雑に叩きつけ電話を切ると、不愉快そうにどさりと椅子の背もたれに体を預けた。

 

 「……そうか。ならば勝手にしろ、報酬の話もなしだ。……フン」

 「おやおや、随分と御立腹ですね。いかがなされました?」

 「………依頼していた便利屋が仕事を放棄した。……無様にアビドスに敗北した姿を晒し、次はいつ頃動き出すのかと思えば……こんなにも早く音を上げるとはな。ゲヘナの指名手配犯と聞いていたが、とんだ腰抜け集団だ、全く」

 「それはそれは……」

 「クソッ」

 

─────柱間が黒服との対談を終えヘルメット団と邂逅していた頃、アビドス高校はと言うと───結局、便利屋の襲撃を受けていた。

 その際、セリカの罵詈雑言を受けアルが心苦しそうに顔を歪めたのは想像に難くない。先生がその場にいないため若干の苦戦を強いられたものの───彼女ら自身にその自覚はないが───小隊としてキヴォトスの中でも屈指の実力集団であるアビドス高校の生徒達がシャーレの支援による潤沢な物資を携え防衛線を徹底すれば便利屋の猛攻を凌ぎ切ることなどわけはない。

 

……また、これも便利屋が知る由もないが───彼女らが恐れ慄くゲヘナの風紀委員長に、勝るとも劣らないキヴォトス最高の神秘、暁のホルス───小鳥遊ホシノがいる時点で最初から勝ち目などあるわけもない。悲しいかな、結束や人数差、絆や努力の力はあれど、その程度の積もった塵の形成する山は、圧倒的な個という暴風雨に儚く崩れ去った。そしてその後は一波乱あるはずもなく、キヴォトス一流のアウトローは三流の下っ端台詞を吐いてその場を立ち去る───こともなく、何処か清々しい様子で、諦めがついたのか潔く負けを認めその場を立ち去るのであった。

 

 そして翌日、どんな心境の変化があったか定かではないが───朝方、唐突に依頼主の元へと便利屋から、契約解除の話が入った。曰く、これ以上やり合っても勝ち目はない、便利屋にとって不利益しか被らないためアビドス高校への襲撃を取りやめる、と。

 

 「……まぁ良い。何、多少アビドスの連中がデータより遥かに強かっただけのことだ。本来ならヘルメット団のチンピラ程度で事足りたのだがな……」

 「……………」

 

────データに不備はない。

 

 隣に佇む黒服の脳裏にそのような言葉がよぎる。彼は知っている。アビドスの生徒が自分達の計画を脅かすほどに力を得ている外的要因を。このキヴォトスに現れた、生徒や大人、果てはゲマトリア(自分達)やキヴォトスそのものを巻き込みかねない新たな特異点を。

 

 腹を立てて苛立ちを隠せない仕事仲間がどれだけ熱暴走を起こそうが自身の知ったことではないが、彼の計画の破綻は自身の望みでもあるキヴォトス最高の神秘の入手にも支障が生まれてしまう。そのため彼は───

 

 「……そうですか。では、私はこれで」

 

────シャーレの名を出すことは、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アヤネよ、機嫌を直してはくれぬか……?」

 「……いやです」

 

 「……ちょ、ちょっとアレどうしたのよ」

 「ありゃりゃ、珍しいね〜、アヤネちゃんがあんな態度を取るのは」

 「まるでちょっと前のセリカちゃんみたいです〜」

 「ん、そっくり」

 「あ、あんなにブスくれてはないわよ!」

 

 場所は変わってアビドス高校対策委員会室。皆が各々学校に登校して皆が集まるのを待っている中、最後に現れたのはアヤネと先生だったのだが少し様子がおかしい。心優しく穏やかで、一際先生に信頼を寄せている節のあるアヤネが、珍しく機嫌を悪くして先生から視線を外していた。そんな彼女に、柱間は平謝りするのみで随分とショックを受けている様子であった。

 

 「ねぇねぇアヤネちゃん、いったい何があったのさ」

 「…………」

 「ん、拗ねてる」

 「す、拗ねてません……!」

 「ちょっと先生、いったい何したの。アヤネちゃんがこんなになるなんて相当よ」

 「い、いや、それはだの……」

 

 

 

 

 

 

 『……すまぬな、昨日アビドスがそのような状況だったと言うのにそばにいてやれず』

 『い、いえいえ!お気になさらないで下さい。先生がアビドスを奔走しているのは、アビドス高校の為であること私達一同理解していますので!』

 

 朝方、学校へ向かう途中アヤネとばったり出くわした柱間。彼自身は単に早めにシャーレを出てアビドスに向かったわけだが、話を聞くにアヤネは諸事情により今日は早めに登校しているらしい。と言うのもどうやら今日はアビドスの抱えている問題である法外な借金、その利息の支払日であるらしい。その手続きのために色々作業が必要なのだとか。

 その後も話を続けていると必然的に自分が不在であった時の話になり───とある理由により何があったのか柱間は把握しているのだが───柱間の努力も虚しく便利屋はアビドスを襲撃した。事前にとある人物から話を聞いてはいたが、やはり事実として当時現場にいてやれなかったのは先生として不甲斐ない思いで軽く柱間が項垂れ、そんな裏の話など知る由もないアヤネは慌てて彼を慰めにかかるのであった。

 

 『……それでだな、その襲撃者についての話なのだが───』

 『あ、はい!それについても調べておきました。後ほど学校で詳細を確認をご確認いただけますか?』

 『いや、それは確認させてもらうが、そうではなくてだの──』

 

 『あ、先生じゃん!おっはよー!』

 『……え?』

 『ん?おぉ、ムツキか!っとと、なんぞ?いきなり抱きついて』

 『べっつにぃ〜?先生が見えたから、つい来ちゃっただけだよ〜?』

 『ハッハッハ!そうかそうか!可愛いやつぞ!そら!』

 『きゃ〜♡』

 

 『……な、なな…』

 『ん?』

 『───何やってるんですかあ!?』

 

 先生と言葉を交わしていたら不意に後ろから声をかけ、その勢いのまま振り向いた先生の腹にダイブする一人の少女。忘れるわけもない───というほどめちゃくちゃ深い因縁があるわけでもないが───昨日の襲撃を企てた生徒の一人である便利屋68の一人、浅黄ムツキその人が何故か親密そうに先生と言葉を交わし───あまつさえ今、目の前で先生に脇の下から持ち上げられ、赤子をあやすように高く掲げられている。そんな、女子高生に対する接し方としては幼稚すぎるような対応に本人も満更ではないようで、双方が満面の笑みを浮かべて笑い声を上げていた。

 

 『何って、先生に高い高いされてるんだよ〜?あ、メガネっ娘ちゃんもやりたい?』

 『や、やりません!!それにメガネっ娘じゃなくて、アヤネです!そ、それよりも先生!どういうことですか!?』

 『いや何、これを説明しようとしておったのだが……』

 『あ、先生。アルちゃんがね、先生の経営顧問就任に際して祝賀会でもしないか〜だって』

 『話の邪魔をしないで───け、経営顧問!?』

 

 怒りを露わにして顔を赤く染めるアヤネが先生の言葉を遮るように口を開くムツキを咎めるが、聞き流せない単語を耳にして驚きを隠さず声を張り上げる。

 

 『あー……ま、そう言うわけぞ。まぁ今のところ形だけで兎に角何かをするという話にはなっておらぬがな』

 『そーそー、私たち便利屋四人ともシャーレの部員になったから、これからよろしくね?メガネっ娘ちゃん!』

 『な、何いってるんですか!?昨日襲撃したばかりなのにできるわけないじゃないですか!?』

 『あはは〜!ごめんね昨日は!でも仕事は仕事、プライベートはプライベートってことで。それにもうあのお仕事は断ったから、もうアビドスは襲ったりしないよ〜』

 『それは……!と、というか!なんで便利屋の方が先生とお知り合いなんですか!』

 『え〜?だって私達一緒にお買い物したし、ご飯も一緒に食べたもん。ねー!せんせ!』

 『そ、そうなんですか!?先生!!』

 『あ、あぁ。それはそうだが……あ、アヤネ?』

 

 『……………』

 

 察しの悪い柱間でも会話の流れやアヤネの態度からムツキに不快感を表していることくらい読み取れないわけもなく、頬を膨らませて口を閉じたまま涙目で先生に怒りを訴える姿に胸を痛めた柱間が、恐る恐ると声をかけるもそれに返事を返すことなくやはり無言でジッと睨み続ける。そして───

 

 『……先生なんか、知りません!!』

 

 

 

 

 

 

 

 「……と言うわけぞ…」

 「いや先生アイツらと知り合いだったの!?」

 「あぁ、ヘルメット団の様子を見に行った時に会ってな。彼女らの任務を引き継ぐ形で依頼を受けたらしい」

 「なるほどねぇ〜。アヤネちゃん、ま先生も悪気は無かったわけだしさ〜、便利屋の件も片付いたっぽいし、許してあげてもいいんじゃない?先生のことだし、多分その便利屋に頭下げてお願いしたんでしょ?アビドス高校を襲うのはやめてくれーって」

 「いや、オレは大したことは……」

 「謙遜しなくていいって先生、否定しないってことは図星じゃん。ほら、先生もこう言ってるし……」

 

 「………で、でも」

 

 中々に強情なアヤネの態度にどうしたものかと頭を抱えるセリカと、絶望したようにどんよりとした雰囲気を漂わせる柱間。そんな雰囲気をぶち壊すように場にそぐわない明るい雰囲気の声色が響く。

 

 「分かりました!アヤネちゃんはきっと、その便利屋の方に嫉妬しているんですね!」

 「せ、先輩!?な、なにを──」

 「ぬ、嫉妬ぞ?」

 「はい!先生は私達アビドス生に大変親身に寄り添ってくださいました!毎日毎日欠かさず足を運んで下さった大人が、いきなり自分と敵対していた人達と仲良くしだして嫉妬してるんです!言わば、独占欲ですね!」

 「ち、違います!!」

 「ん、気持ちは分かる。その便利屋とかいう人だけずるい。私達も抱っこすべき。ん、先生!」

 「だ、だから、違いますからぁ!!」

 

 顔を真っ赤にして否定するアヤネを他所に、満面の笑みでシロコを持ち上げる柱間。シロコもシロコで満更でもなさそうにフンスと鼻を鳴らし、呆れたセリカとホシノは半笑い、あいも変わらず茹で蛸のような色のアヤネがプルプルと握り拳を震わせ、ノノミはニコニコと笑みを絶やさずその光景を視界に収め────

 

 

────会議を始めると言うバカでかい声量のアヤネの怒声が室内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そ、それは……すごい行動力ですね……」

 

 あの後彼女の怒りを鎮め、何とか穏便に会議を進めることが出来たのだが、そこで話に出てきたのは当然と言うべきか前日に襲撃を行った便利屋68の詳細な情報。ともすれば───やはり柱間が彼女らと交友を経て、いかにして経営顧問に至ったかの話になる。しかし、便利屋との邂逅については兎も角として経営顧問になったのはつい昨日の出来事で────端的に言えば、夜間、シャーレで事務仕事をしていた際に便利屋から入った一つの電話。

 

────経営顧問になってほしい。

 

 要約すると一先ずシャーレとの繋がりを持っておきたいとの話だったが、アビドスに関する依頼も断った旨を聞いた柱間の喜びようは電話越しにも相手方に伝わるようで、アルの慌てようが伝わってくるようであった。そこからの柱間の行動力には目を見張るモノがあり、夜というのにシャーレからアビドスまでひとっ飛びし入部の申請届への記入を終え───経営顧問へと至る。

 

 そんな、柱間の行動に困惑気味に感嘆の声を上げるアヤネ。しかし周りの冷ややかな反応に対して一連の流れを説明する柱間は嬉しそうに顔を綻ばせており、その理由は察するまでもなく便利屋の心変わり。アビドス高校への襲撃はあったものの、最終的には和解の道を───選んだわけではないが、アビドス高校との衝突を避けてくれたことが嬉しくてたまらないのだろう。

 

 「言われてみれば、なんかアイツら逃げ帰る時もどこか清々しい顔してたわね……あの社長だけだけど」

 「一度挑んでみて、諦めがついたのかもしれませんね!」

 「というか、あの子の言ってた、仕事中に出会った良い人って先生のことだったんだねぇ〜」

 「ん、つまり……便利屋の社長はハシラマ先生のことが……!」

 「だ、脱線しないで下さいシロコ先輩!えっと、つまり、便利屋の皆さんはもう敵ではない、と……」

 「あぁ、オレが保証しよう」

 

 便利屋へのフラストレーションが解消されたわけではないのだが目立った被害を受けたわけでもなく、また信頼できる大人の言葉で保証されてしまうとそこに追求の余地はないようで話は自然と別の話題に移っていった。

 

 「……では次に、先ほど言った既に取引されていない型番についてです」

 「かたばん、とは何ぞ?」

 「ん〜、まぁ、それぞれの製品を区別するための記号みたいなものかな?各製品に型番って呼ばれる数字やアルファベットが書いてるんだけど、それを元にネットやら何やらで調べたら詳しい情報が出てくるんだよね」

 「なるほどのぉ……」

 

 便利屋の話が一旦終わり次に話題になるのはアヤネが調べた、ホシノの持って帰った戦略兵器の破片に関する詳細情報。製造元を調べればそこの取引先等の情報を特定し真犯人へ繋がるのではという淡い期待を込めての調査だったが、その結果は製造元も何もそもそも現在では取引すらしていない旧式の型番であった。

 

 「取引されていない、つまり現在では既に生産が終了しているモノになります。生産が中止された型番を手に入れる方法は……キヴォトスではブラックマーケットしかありません」

 「あ、ちなみにブラックマーケットっていうのは……う〜ん、闇市って言って伝わるかな、先生」

 「なるほど……非合法な裏の市場か。時折ヘルメット団の者達や便利屋が口にしておったが、合点がいったぞ」

 「ヘルメット団や便利屋みたいな指名手配犯なら御用達の場だろうねぇ〜」

 「えっと……結局、じゃあ次はブラックマーケットに行って情報収集、かしら?」

 「はい、その予定です。いかがでしょう、先生」

 「うむ、良い案ぞ。しかし……お前達の中にブラックマーケットに行ったことがある者は?」

 

 そう問いかけると、当然のことながら帰ってくる返事はない。それもそのはずでブラックマーケットは諸事情によって中退や退学、休学になった不良達の溜まり場となっている、連邦生徒会非認可の場所であり、裏を返せば真っ当に学校生活を送っていれば基本的に世話になることのない場所である。もっとも彼女らアビドス高校生達が世間一般的なところでの、真っ当な学校生活を送っているのかは甚だ疑問だが。

 

 「き、基本的にブラックマーケットにお世話になることはありませんから……」

 「おじさん、皆んながブラックマーケットに入り浸っちゃったら悲しくて泣いちゃうよぉ〜、ヨヨヨ〜」

 「先輩、その泣き真似ハマってんの……?でも、実際先生の言う通りね」

 「はい、流石に何か、伝手があると動きやすいのですが……あ!この前のヘルメット団のお三方に協力を頼むのはいかがでしょう?」

 「あ、いいじゃない!どう?先生、あの子達に連絡って取れる?」

 「む……いや、すまぬが無理ぞ。あ奴らのおったカタカタヘルメット団は今瓦解して、組織として形を成しておらぬような状況だからの。各々が時間を惜しんでバイトに勤しんでおる、あまり無理はさせたくない」

 「……なるほど、それなら無理強いはできませんね…」

 「なに、それより適任がおるではないか」

 

 適任?と一斉に首を傾げるのも束の間、誰のことを言っているのか察しのついた生徒達が次々に納得したり、マジで言っているのかと表情を歪めていたが、頭の回転の速いアヤネに限って今回は察しが悪く───もしかすると無意識的にその可能性を考えないようにしていたのかもしれない───柱間が答え合わせをするかのように口を開く。

 

 「便利屋に依頼を出せば良い」

 「……あ、なるほど、べんりや………べ、便利屋!?」

 「おー、お手本みたいな反応するねぇ〜アヤネちゃん」

 「ダメか?」

 「そ、それは……い、いえ、ダメではないんですが……は、話も把握しましたし……」

 「先生?便利屋の皆さんに依頼を頼むのは良いですが、便利屋ばっかり構っていてはいけませんよ?アヤネちゃんもたっぷり可愛がってあげてくださいね?」

 「の、ノノミ先輩!!」

 「あぁ!もちろんぞ!!」

 「先生も、変な約束しなくて良いですからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「す、すいませんすいませんすいません!!せ、折角せ、先生が便利屋68に依頼を入れてくださったのに、わ、私なんかが一人で出向いて……!!」

 「あ〜、えっ、えっと、ハルカちゃん、だっけ?そんなに気負わないでさ、気楽〜に……」

 「すいませんすいませんすいませんすいませんすいません……」

 「……こりゃダメね。どうすんのよ、これ」

 

 結局あの後アヤネの了承を得て便利屋68に連絡を入れたのだが、今日は仕事の都合上同時間帯に事務所にハルカしかおらず、アル自身に連絡を取ることはできたのだが彼女との話し合いの結果、ハルカがブラックマーケットの案内人として一人でブラックマーケット前の集合場所に佇んでいた。側に信頼できる社長並びに社員の姿はなく、目の前には先日襲撃した相手、極度な人見知りと引っ込み思案な性格の彼女にとってこの上ないストレス環境であることは火を見るより明らかで、出会って早々自己紹介もそこそこに平謝りを始めるハルカ。こんな、分かりきった結果が待ち受けているのにアルがこの場にハルカを送り出した理由としては───やはり、柱間の存在。

 

 「……ハルカよ、そこまで気負うな。自信を持て」

 「……せ、先生?」

 

 片膝を突きハルカの両肩に手を乗せ視線を交える。

 

 「ハルカよ、お前はオレが、便利屋にとってどういう存在か、アルに何と聞かされておる」

 「え、えっと、け、経営顧問で、業務におけるば、パートナー。て、丁重にお迎えして、敬意を払う相手、と……」

 「あぁ、そうだ。奴はオレを随分と高く買っておるようだ、どのような理由であれ生徒から好かれ嬉しくないことはないがの。……つまり、アルがオレに対して理由もなく無礼な態度を取ることはない」

 「え、えと、その……」

 「つまり、ハルカを送り出しても失礼に当たらない、と考えたわけぞ。それは、アルがオレを侮っているからか?」

 「ち、違います!!あ、アル社長は先生に対してふ、深い敬意を、は、払って……!!」

 「その通りぞ!分かっておるではないか!───ハルカならやれる、と考えたわけぞ」

 

 満面の笑みを浮かべ声を上げれば、不自然に柱間から視線を逸らしていたハルカがチラチラと彼の目を見ようと努力するがやはり視線が泳いでしまう。しかし、その僅かな視線の動きすらも、自身と目を合わせるための努力と理解すれば柱間にとって愛おしい生徒の健気な姿であることに変わりなく、優しい笑顔で語りかける。

 

 「ハルカ、アルを信じてみぬか?」

 「……アル様を信じる、ですか?」

 「あぁ、ハルカ、お前は、アルが白と言えば白であり、黒と言えば黒である、そうだな?」

 「は、はい!そ、その通りです!あ、アル様が判断をお間違えになられるはずは──「なら」

 

 「『ハルカならやれる』という判断も間違っておるはずがない」

 「───……そ、それは……」

 

 「ハルカよ、一番は自分の意思で考えることが重要だが、その足掛かりとして信頼できる第三者に身を委ね、精神を育むことは良いことぞ。オレ達に見せてはくれぬか?ハルカをこの場に送り出したと言うアルの判断を」

 「わ、分かり、ました……」

 

 「そうか!すまぬな、ありがとう、ハルカよ」

 

 そう言って背中に手を回しギュッと熱い抱擁を交わす柱間に対して慌てふためくハルカが顔を赤く染めて手をブンブンと振るが、その傍で置いてけぼりにされたアビドス生達はこの光景が予想できていたのか、またかという顔でため息を吐いていた。そんな彼らを他所に柱間のスキンシップはヒートアップし、背中に回していた手を離して距離を空けたかと思えばそのまま手をハルカの頬に持ってきて、赤子のようにもちもちとした肌を厚い皮の張った硬い手で揉み込む。

 

 「ひゃ、へんへぇ!?」

 「それと、もうちぃと顔を解さぬとな!顔が硬いぞ、ハルカよ。飯を食うた時も言ったが、お前には可愛らしい笑顔が良く似合う、お前のあの時の笑顔を見せてくれると嬉しいの!!」

 「わ、わかりまひた……!が、がんばりまひゅ……!」

 「そうかそうか!期待しておるぞ!」

 

 

 

 

─────その後彼の背後から女たらしと聞こえてきたのは───きっと空耳ではないのだろう。

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
今回はほとんど話が進まず申し訳ない……
それではまた次回

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