Hashirama Archive   作:アテナ18号

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無償の愛

 

 「アルちゃ〜ん、こっちは片付いたよ〜」

 「……えぇ、えぇ、はい、分かりました。………ふぅ、お疲れ様二人とも。今クライアントから連絡が入ったわ、仕事は終わりよ」

 「そ。じゃあ支度して帰ろっか」

 

 地面に倒れ伏す無数のオートマタやタレットが、ピクリとも動かず火花を上げて横たわる。大した外傷もなく、仕事人のような立ち振る舞いで表情一つ変えずに上着を翻してその場を後にする姿は、なるほど確かにキヴォトス一のアウトローを自称するだけのカリスマを漂わせるが、そんな仮面は社員の運転するレンタカーに乗って揺られる車内で儚く崩れ去った。

 

 「はぁ〜〜〜……急な話だったけど、ハルカ、ちゃんとやれてるかしら……」

 「朝から心配しすぎ───……でもないか、まぁ少しは落ち着きなよ、社長」

 「くふふ〜!ハルカちゃんに一人でこういう仕事任せるの、初めてだもんね〜!」

 

 アルの心を煩わせる要因は、言わずもがな現在先生、並びにアビドス生徒の元で別の仕事に勤しんでいるであろう、この場にいない社員の一人、伊草ハルカその人。先生がいるから大丈夫だろうと彼女を送り出したし、何より経営顧問として彼と提携しての彼からの初依頼であったため気を良くして一も二もなく了承したが、冷静になってやはり彼女一人には今回の任務は荷が重かったかと頭を抱えていた。

 

 「うぅ……アビドスの人達と上手くやれてるといいんだけど……」

 「そこは先生が上手く仲を取り持ってくれるでしょ」

 「そーそー。あ、カヨコっち〜、コンビニ寄ってくれな〜い?喉乾いちゃった〜」

 「いいけど……近くにあったかな……」

 

 何でもない会話で時間を潰しながら、帰路に就く一行。結局便利屋の事務所に戻るまで、彼女の顔が晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「無法地帯かと思ってたけど、そこはしっかりしてるんだ」

 「は、はい。マーケットガードとやり合うと面倒なことになるので、アル様もなるべく厄介ごとは避けるようにと…」

 『闇市に治安維持組織というのもおかしな話ですね……』

 

 ハルカが道を先導し、彼女についていく形でブラックマーケットを散策する一行。ハルカの言葉によると、ブラックマーケットと言ってもその規模は単なる市場とは比較にならないほど巨大で、一つの街に匹敵するほどとのこと。そんな巨大な巣窟に人や企業が集まれば当然というべきか秩序や治安も生まれ、それらを平定する組織も存在するらしい。ブラックマーケットに対する偏見は間違ってはいないようだが、自分達の知らなかった新たな知見に、アビドス高校に残ったアヤネが呆れたような、感嘆するような声を通信越しに漏らした。

 

 「しかし、大した活気ぞ。闇市と聞いておったからもう少し慎ましいものかとも思ったが、見てくれは繁華街とそう変わらぬな」

 「ん、アビドス自治区より賑やか」

 「事実だけど言わないでよ!シロコ先輩!」

 

 『あはは……こほん。ハルカさん、あとどれくらいかかりそうですかね?』

 「あ、えと、多分、まだ結構……一時間ほどは、かかると思います……」

 「うへぇ〜、こりゃ随分長い道のりだねぇ〜、おじさんには堪えるなぁ」

 

 そんな彼女らが現在向かっているのはブラックマーケットの一角に鎮座するジャンク品を取り扱う店。ジャンク品と言ってもガラクタを置いているわけではなく、表沙汰には取引できない非正規品や───生産終了した旧式の品々も取り扱っているとのこと。目的は言わずもがなヘルメット団のアジトにあった旧式の戦車に関する情報で、あわよくば顧客との取引に関する話も伺えればと足を運んでいる次第である。

 

 「気長に向かおうぞ、まだ朝方だしの」

 「そうね、今日は特に他にやることもないわけだし」

 「折角初めて来たわけですし、少し寄り道して行きますか?」

 「ん……ちょっと気になると言えば気になる。危ない匂い……!」

 『せ、先生に迷惑をかけない範囲でお願いしますよ!?』

 「ははは!!なぁに、少しくらい構わぬ!オレも、気にならないと言えば嘘になるからの。しかし、アヤネを残してオレ達だけで楽しむというのも少し気が引けるな、すまぬアヤネよ」

 

 『い、いえ、私の方はお気になさらず───ッ、皆さん!近くで銃声が!音の発生源がそのまま皆さんの方に近づいています!』

 

 どこか拍子抜けな名ばかりのブラックマーケットに気を緩めていた所、アヤネの言葉に警戒を高め身構える一行。ほどなくして彼女の言っていた音の発生源が曲がり角より姿を現し、ブラックマーケットに似つかわしくない小綺麗にまとまった背の低い少女が、絵に描いたようなチンピラ二人に追われて皆の元へと一直線に突っ込んでいく。

 

 「わわわ!?わぷッ」

 「おっと」

 「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

 「なに、気にするな。それよりどうした?なんぞ、追われとるようだが……」

 「そ、それが───え、え!?ど、どなたですか!?」

 

 後ろをチラチラと振り返りながら正面への注意が散漫になっていた少女の体に突然伝わる反作用。何か硬い壁のような感触と、自身にさす黒い影、どうやら誰かにぶつかってしまったと理解するのに時間は要さず、慌てて謝罪をして目を開くと、大凡ここキヴォトスでは見たことない大人の男性に驚き先ほどまで自分の置かれていた現状を忘れて男の質問に答えることなく尋ね返してしまう。

 

 「オレか?オレは───」

 「なんだお前ら!どけ!!アタシたちはそこのトリニティ生に用があんだよ!!」

 「あ、あうぅ……私の方は特に用はないのですが……」

 「ふむ、こう彼女は言うておるが、お前たち、この子に何の用ぞ?」

 「あ?知らねぇのかおっさん。トリニティはお嬢様学校でいっちゃん金持ってる学校なんだぜ」

 「だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

 「はぁ!?何言ってんのよ!!頭おかしいんじゃないのアンタたち!!」

 

 心底悪そうな笑みを浮かべてマスクの下で口角を上げるチンピラの言葉に、人一倍憤慨するのはセリカその人。やはり自分自身がそうであったためより強く拉致という言葉に反応してしまったのだろう。それはそれとして到底受け入れられない彼女らの言葉に表情を歪めるのは───便利屋の案内人を除いて───皆同じのようで、皆一様に顔から笑顔が消え、間もなく始まる戦闘を予見しガングリップを握りしめた───のだが、

 

 「あ!?邪魔すんなら死ね────ぐぇ」

 

 「……へ?あ、ちょ──」

 

───柱間も含め、皆が呆気に取られ───ショットガンを撃ったハルカを見つめていた。

 

 「あ、あの……み、皆さんに、き、危害を加えようとしていたので……お、お邪魔でしたでしょうか……?」

 「……あ、いや、助かったわ。ありがとうハルカさん」

 「…あぁ、よくやったの。良い判断ぞ!ハルカよ」

 「あ、は、はい!お、お役に立てたのなら、良かったです……!」

 

 彼女としては、今回の依頼は便利屋からすれば案内兼護衛であるため保護対象の柱間並びにアビドス生徒に銃を構えたチンピラを仕留めただけに過ぎず、決して正義感に駆られたわけではないのだが、余りにも迷いのない素早い行動に時折彼女の上司ですら持て余す凶暴性の片鱗をそこはかとなく醸し出していた。……なお、当の本人は皆からの視線の意図に気づかず、自分の仕事ぶりを評価されたことに対して上機嫌に頰を赤く染めていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほど……皆さんも探し物を……」

 「と言っても、おじさん達はヒフミちゃんと違って明確に何か実物が欲しいってわけじゃないんだけどね〜」

 

 あの後場所を変え、自己紹介を行った一行。その際、目の前の少女───阿慈谷ヒフミがブラックマーケットに来た理由を説明するに際してペロロ様の限定グッズを手に目を輝かせたのだが、同調してもてはやすノノミとは打って変わって、大凡万人受けしなさそうなそのデザインにド直球に苦言を呈した柱間が二人───主にヒフミ───に、圧をかけられたのは言うまでもないことだろう。

 

 「ヒフミさんはこの後どうするの?その、ペロロ様、だったかしら?限定グッズは手に入ったんだし、帰るのかしら?」

 「うぅ……そうしたいのは山々なんですが……」

 『先ほどの様子を鑑みるに、また襲われてもおかしくないですね……』

 「ふむ、ならオレがトリニティまで付き添おうか?」

 「え?」

 

 唐突に付き添いに名乗り出た目の前の男性に、驚きから声を上げるヒフミ。

 

 「えと、その……それはありがたい申し出なのですが……構わないのですか?アビドス高校の教員の方が……」

 「へ?あ〜…そう言えば、ハシラマ先生、としか言ってないもんね。違うよ〜ヒフミちゃん、ハシラマ先生はアビドスの先生じゃないよ〜」

 「え!?そ、そうなんですか?」

 「あぁ、オレは連邦捜査部シャーレの顧問、千手柱間ぞ!」

 「……え!?しゃ、シャーレの先生ですか!?」

 

 連邦捜査部シャーレと聞いて考え込む様子もなく、瞬時に反応を返すのはやはりトリニティなだけあって教養の深さを感じさせる。お国柄───と言うか、学園柄、世論にも聡いトリニティ生徒にとってやはり今世間の注目を引いているシャーレという存在を知らないはずもなく、その影響力に一目置いているのはティーパーティーのみならず一般生徒も同様であることは目の前のトリニティ生徒の例から察するに明白であった。

 

 「あぁ、と言っても今はアビドスに手を貸しておる身ぞ。お前とトリニティに出向くのは彼女らのブラックマーケットでの用事が済んだ後になる故、それまでは行動を共にすることになるが……それでも良いか?」

 「わ、私の方からお願いしたいくらいですが……アビドスの皆さんはよろしいのですか?」

 「まぁ、別に」

 「はい、構いませんよ!それに道中は一人でも多い方が楽しいですから!」

 「あ、ありがとうございます!で、では、少しの間ですがお世話になります、皆さん!」

 

 嬉しそうに喜色満面で頭を下げるヒフミの姿に笑みを浮かべるアビドス生。彼女が合流して中々に大所帯となった一行が、会話に花を咲かせてブラックマーケットを練り歩く。そんな彼女らの会話の内容と言ったら、やはり外部に疎いアビドス生にとって新鮮なトリニティの話。やれ校風だのやれ雰囲気だの。他にも学園の成り立ちに際して歴史のある文化的な学園だということに感嘆の声を漏らすこともあったが───結局アビドス生にとって一番の驚きは、お嬢様学校を名乗るだけのことを証明せんとばかりの0が無数に並ぶ学費であったことは間違いないだろう。その後も、取るに足らない雑談を交えて先に進む一行であった。

 

 「……………」

 

 ただ一人、話の輪に入らず、黙々と歩を進める生徒を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 「どうした?ハルカよ、そんな所で」

 「あ、せ、先生?い、いえ、な、何でもありません!」

 

 目的地へと向かう最中、やはり最初にハルカが口にした通り中々に道のりは長く休憩を挟むのも当然の話で、現在はたい焼き屋の屋台周りでくっちゃべりながら各々腰を下ろしていた───はずなのだが、一人姿が見えないことに気づいた柱間が辺りを散策し、そう遠くない場所で腰を下ろしてジッと道路脇を見つめていたハルカの姿を発見し声をかけた。

 

 「そうか?それよりも……ほら、たい焼きぞ」

 「あ、い、いえ、わ、私は……」

 「まぁそう遠慮するな!ほれ」

 「う、あ、そ、その……い、いただきます……」

 

 ハルカの隣に立った柱間が、ズボンに砂利が付くことも厭わずその場に腰を下ろすと少し上体を屈め、覗き込むようにハルカに視線を合わせて手に持つ二つの小ぶりな紙袋の内片方を差し出すと、遠慮しがちなハルカが結局柱間の押しに負けて恐る恐る受け取り口の中にソレを頬張る。熱そうにハフハフと息を漏らしながら、口の中で熱がおさまった頃、パリッと表面の焦げた柔らかい生地と香ばしい香りの甘い餡がハルカの頬を綻ばせ、彼女の顔を赤く染める。

 

 「お、おいひぃでふ……!」

 「ふふ、そうか、ではオレも一口………熱っ……ほふ、ん、美味いのぉ!」

 「…………」

 「ん?どうした?オレの……かすたぁど、とやらが気になるか?」

 「あ、い、いえ!す、すすすすみません!と、特に理由はなくて───」

 「ほれ、一口食うか?」

 

 何でもないように小さく微笑みながら、優しい瞳でハルカを見つめながら無理やり彼女の前に自身のたい焼きを差し出す柱間。彼の歯形を伴う断面からは白い湯気とカスタードクリーム特有のバニラの香りが漂い、遠慮がちなハルカを以てして退けることのできない魔力が彼女を惹きつけ、加えて柱間の期待するような視線に耐えきれず、勢い良くかぶりつく。目を閉じ小さな口をリスのように膨らませ、モチャモチャと甘い生地とクリームを咀嚼しながら顔を上気させるハルカの姿に、自然体に彼女の頭を撫でる。

 

 「こ、こっちも、おいひぃでふ……!」

 「そうかそうか!なら良かったぞ!」

 「……あ、あの……」

 「ん、どうした?」

 

 

 「わ、私の────い、いいいえ、す、すみません!!な、何でもな───」

 「そうさな、折角だし一口貰おうかの」

 

 何かを言い出そうとして、やはり遠慮してしまい最後まで続かなかった彼女の言葉を読み取り、ハルカの善意を受け取った柱間が返事を返すと、驚いたようにハルカが彼を見上げる。まるで餌を待つ鳥の雛のように口を開けた柱間を見つめて数秒間、ハッと意識を切り替えたハルカが慌てて自分の持つたい焼きを彼の口元に差し出すと、ソレに遠慮なくかぶりつく柱間。

 

 「……ん、うまいな」

 「あ、は、はい…!美味しいです……!」

 「うむ!満足したようで何よりぞ。やはりお前は笑顔が良く似合う」

 「え、あ、す、すみま───」

 「なに、謝らなくても良い。……それで、どうしたのだ?先は浮かない顔をしていたが」

 

 どうやら皆の元から離れ一人で路肩にうずくまっていた自身の不安は見透かされていたようで、先ほどまで絆され赤く染まっていた顔は蒼白に染まり、視線を外してしまう。

 

 「あ、あの、そ、それは」

 「すまぬな、言い出しづらいことなら無理に聞かぬ」

 「い、いえ、で、でも、先生がわざわざ気を遣ってくださった、のに、な、何も言わないのは───」

 「気を遣う?何の話ぞ?」

 

 そう言ってどこか演技くさい、しかし本当に気にしていないかのように抜けた表情で首を傾げる柱間が、直ぐにニカッと笑ってハルカの頭を撫でる。

 

 「オレはハルカと話したかっただけぞ!」

 「……っ、せ、先生……」

 「だから、言いたくないのなら気にすることはない。オレはこうしておるだけで満足だからな。ただ、オレはお前の先生だからの。少し生徒に対してお節介な所がある、それだけの話ぞ」

 「…………」

 

 彼の気遣いが暖かくもあり心苦しくもあるハルカが、敬愛する社長とは別ベクトルに親愛を覚える不思議な感覚に柱間を横目でチラチラと見つめる。劇的な邂逅や彼による救いがあったわけではないが、無償の愛を振りまく彼の、その真意を勘繰ることすら許さない押し付けがましいほどの生徒に対する愛情が、ある種そう言った他人の心情に聡くないハルカですら手にとって分かるほどに裏表がないことを言外に伝えてくる。

 

 「……ざ、雑草を、眺めてました」

 「…?雑草を?……これか?何でぞ?」

 

 意を決して口を開いたハルカの視線の先には、コンクリートに走った亀裂の隙間からその生命力をアピールするように名前も知らぬ雑草が力強く生えていた。取るに足らない、特段興味が惹かれるわけでもないソレをただジッと見つめたままハルカが言葉を続ける。

 

 「……雑草を見てると、落ち着くんです。きょ、今日は、ずっと緊張続きだったので」

 

 「私、雑草を育てるのが趣味で……」

 「その、雑草は、これと言った使い道もないし…いつもその辺にいるのに邪魔ばかりというか、迷惑かけてばかりで……」

 「価値もないくせにあちこちに顔を出すところとか……そういうところが……」

 「わ、私に似てる気がして……そ、その……」

 

 「…そうか」

 

 自分の言葉を肯定するでも否定するでもない柱間の態度に、ハルカが口を閉ざして数秒、気まずい沈黙が場を支配する。冷静になったハルカが、またも柱間の前で自身を卑下してしまった事実に自己嫌悪に陥ってしまう。彼がそういったことを望んでいないことくらい言葉を交わしていれば明確に分かることで、しかし例え激励を受けたとしても自分に自信を抱くことができない彼女が、苦しそうに表情を歪める。

 

 「す、すすすすみま───」

 「雑草か、言われてみれば特段気にすることもなかったの」

 「…え?」

 

 てっきり、また自身を叱咤するものとばかり思っていたハルカが柱間の意外な言葉に顔を上げると、微笑んでジッと雑草を見つめる彼の姿が目に映る。

 

 「ハルカ、お前にとって雑草が自分の写し鏡だとして……オレにとって何だと思う?」

 「せ、先生にとって、ですか?……その、取るに足らない、邪魔な存在かと……」

 「生徒そのものぞ」

 「生徒、そのもの、ですか……?」

 

 あぁ、と言って、一見貶しているように聞こえる彼の言葉は、しかし彼の雑草に向ける愛でるような瞳が否定する。例え如何なる理由があっても柱間が生徒を貶すことはないと。

 

 「オレは確かに生徒が好きだ。しかしこのキヴォトスにて生徒の数は余りにも多すぎる。名を知らぬ花の多いことよ」

 「だが、花屋に並ぶ美しい牡丹も、田畑に育つ無数の稲も、元は雑草ぞ。誰かが見つけたから、その名を得た」

 「…………」

 「オレはこのキヴォトスに来て多くの生徒と出会った。特別大衆の目につくわけでもない、しかしその地に根を張り生きる様々な雑草をな」

 

 「ハルカよ」

 「は、はい」

 

 先ほどまで雑草に向けていた顔をハルカに向け、二人の視線が交差する。

 

 「お前は自分を卑下するきらいがある。自信を喪失し、自分なんかがと己の価値を低く見積もる傾向がな」

 「す、すすすすみません!!折角先生が激励して下さったのに直ぐ───」

 「しかし……それでいて、雑草の姿に自己を投影し───心の安らぎを得ている。ハルカよ、お前は自分が嫌いか?それとも好きか?」

 「……それ、は………」

 

 彼の言葉に、返事の詰まるハルカ。自己嫌悪に陥る自分は、決まって誰かに───特に、自身の敬愛する便利屋の社長が良い例だろう───迷惑をかけた時と決まっている。そんな時の自分が好きか嫌いかで言われたら間違いなく嫌いだと自信を持って言える。誰かが止めなければそれこそ本当に死にたくなるほどに。

 

 そんな自己嫌悪を抱え───心を鎮めるために、雑草という名の自身を見つめ、心の安寧を取り戻すという矛盾に浸るのだ。伊草ハルカ(じぶん)が嫌いなハルカが、雑草(じぶん)を見つめて安心する。そんな矛盾に解答を持ち得ず、言葉に詰まる彼女の頭を、優しく撫でる。

 

 「お前は、心のどこかで自分に価値を見出せている。雑草という自分を好いて愛でるほどにな」

 「………そう、なのでしょうか……」

 「あぁ。そんなお前を、いつか好きになれると良いな。オレのように」

 「せ、先生は、自分が好きなんですか?」

 「ん?まぁ、嫌いではないが……何故オレの話になる?」

 「え?さ、先ほど、オレのように、と申されましたので……」

 

 何処となく会話の噛み合わない二人が互いに首を傾げながら言葉を交わし、ハルカの返答を聞いた柱間が合点のいったようになるほどと口にして大口を開けて笑うと、やはり困惑したままのハルカを安心させるように満面の笑みで語りかける。

 

 「違う違う!そういった意味でなくてな。自分を好きになれとは言ったが、厳密には"伊草ハルカを好きになれると良い"と言ったまでぞ!」

 

 「……………え、え、え!?そ、そそそそそそれ───」

 「ハッハッハ!こんな可愛い生徒を好きにならぬ教師などおらぬさ!!」

 「……あ、う、あ………!」

 

 察しの悪いハルカが、回りくどい言い方で愛を伝えられ、それでも理解に時間を要したのは素直に柱間の愛情を受けいれられない卑屈な自分が、ほぼほぼ解答にたどり着いても思い上がるなと自分を心の内で叱責していたからだろう。そんな彼女の心の内を先読みしていたかのように、素直に柱間の言葉を認めたがらないハルカの頭を撫で回し愛を口にすると顔を真っ赤に染めて金魚のように口をぱくぱくと開き言葉を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……ダメですね。全てのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません』

 「だろうねー」

 「そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね。それはつまり……」

 「私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?」

 「じゃあ何?私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」

 

 憤慨するセリカの言葉に、一様に口を閉ざすアビドス生徒達。先刻、皆が屋台で休憩していたのも束の間、あの後先生とハルカを呼び出しに来たノノミの後を追って合流した柱間とハルカを待っていたのは、少し隠れて何やら様子見をしている生徒たちの姿であった。話を聞くに、どうやらアビドスの利息の回収に来ている銀行員が、ブラックマーケットの闇銀行で取引をしている場に出くわしたとのこと。視界の先では引き継ぎ作業だろうか、集金記録にサインをしている様子が視界に映っていた。

 

 『ま、まだそうハッキリとは……証拠も足りませんし。あの輸送車の動線を把握するまでは……』

 「……あ!さっきサインしてた集金確認の書類、それを見れば証拠になりませんか?」

 「おぉ、そりゃナイスアイデアだねー、ヒフミちゃん」

 「……しかし、どうやって回収する気ぞ?」

 「それは……あはは、確かに考えてみたらもう書類は銀行の中ですし……無理ですね」

 

 良い考えだと思ったのだがと肩を落とすヒフミが、それ以外に輸送車の集金ルートを確認する方法は……と、腕を組んで唸るが当然そんな天啓が降りてくるはずもなく、良い案が出てこないまま場が煮詰まりかえっていると痺れを切らしたようにシロコが口を開く───筈だった。

 

 「うん、これしか──「先生」

 

 

────ところで、柱間のハルカへの激励は、結果的に大成功であった。

 彼女の自信はいつにも増して増長しており、彼女らしくもなく他人の言葉を遮り自ら意見を口にするほど自主性が高まっているのが何よりの証拠で、今ここに置いても珍しく便利屋の案内人が口を開くものだから、言葉を遮られたシロコ本人も含めて少し驚いたように彼女へと視線を向けていた。

 

 「ん?何ぞ?」

 「せ、先生は、あの書類があれば良いのですか?」

 「まぁ、そうさな。と言ってもくれと言って渡してもらえるわけでもないだろうが……」

 

 柱間が彼女の言葉を肯定すると、花が咲いたように満面の笑みを浮かべるハルカ。見たこともないほどに、自己肯定感に包まれた幸福な表情で再び周囲の人間を驚かせる。

 

───ところで、また別の話だがハルカは今回の任務に差し当たって柔軟な準備を取り行った。それは単に便利屋の株価を落とさない為でもあるが、アルの激励と、便利屋の経営顧問たっての依頼という信頼問題に関わるため、そして何より───自分一人であるため。カバーしてくれる仲間はおらず、自分一人でやり遂げなければならない、というプレッシャー。故にジャンク屋までの道案内と聞いて事前にルートの確認と────ハルカのルーティンとも言える、いつもの準備を行った。何があっても大丈夫なように。

 

 

 「わ、分かりました!では、取ってきますね!!」

 「ん?何を───」

 

 そう言って、アンテナ付きのリモコンを取り出したハルカがより一層笑みを深めて気合いを入れる。

 

────柱間に落ち度があるとすれば、それを、発破の合図だと気づけなかったこと。ソレを、細長い棒の生えたよくわからない直方体としか捉えられなかったこと。

 

 そして何より─────ハルカを、褒めすぎたこと。柱間からのハルカに対する無償の愛、それが引き金となり───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────次の瞬間、辺り一帯が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
あいからず筆がおっそくて申し訳ない…
なるべく早くストーリーを進めたいんですけどね…
それと、感想の返信が遅れてしまい申し訳ありません!
皆さんの感想には一通り目を通させて頂いおり、活動の励みになっており助かります!
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