────トリニティのティーパーティーがシャーレの先生と邂逅した。
そんな話が情報部を通じて耳に入ってきたのがつい昨日のことで、少しの焦りと苛立ちを覚え顎に手を当てたのはゲヘナの風紀委員のNo.2、行政官天雨アコその人。シャーレという名を聞いてはいたし、全く関心を寄せていなかったわけではない。ただティーパーティー自らが対面したという事実がアコの中で重要度合いを跳ね上げ、そしてトリニティに先を越されたという事実に歯噛みしていた。
ともすれば、やはり急ぎシャーレの先生について調査を行い、可能であれば身柄の確保という強引な手法を想定するのはやはり彼女も根っからのゲヘナ生である何よりの証拠だろう。故に急遽───丁度良いタイミングでアビドスに潜り込んでいる指名手配犯を口実にアビドスへ風紀委員を突入させ、そこで発生するアビドスとの衝突をキッカケに先生の身柄を拘束する。そこまでが彼女の想定であった。
あったのだが────
「何をしているのですイオリッ!!早く鎮圧して下さいッ!!」
『ッ、あ、アコちゃん、で、でも……』
「あぁもう!!チナツ!!貴方からもイオリに言ってください!!」
『……申し訳ありません、アコ行政官。承諾しかねます』
「な……!?」
『アコとやら』
「ッ!!」
『矛を収めさせよ』
───どうして、こうなってしまったのか。
「……はぁ〜……」
「どうしたのアルちゃん、またおっきいため息吐いて」
「いや……なんか、これで良いのかしらね……」
「これで?どゆこと?」
お昼時、腹ごしらえのため最近では常連と化した柴関ラーメンへと足を運ぶ便利屋一行。彼女達にしては珍しく最近の事務所の収支は黒字続きで、というのもやはり柱間から彼女らに連日入った依頼が大きい。つまりはいつまで続くか分からない臨時収入であることに変わらないのだが、それでも当面の間はカップラーメンを分け合うひもじい思いとは無縁の生活を送れるほどに財源が潤っているのは間違いないだろう。そんな、喜ばしい事態に浮かない顔をしているのはそんな便利屋を纏め上げる社長その人。つい先日までは先生と敵対する事態に顔を青白く染め上げ、かと思えば経営顧問という形でシャーレと協力関係を結び───ついでに各々がシャーレに所属して───喜色満面、かと思えば今度はため息を吐いて俯く二重人格を疑うほどのメンタルのぶれ具合に社員達も困惑していた。
「その……業績が良いことは喜ばしいことよ?でも、でもねぇ……なんか最近、仲良しこよしみたいな、私の望んでいる裏の世界のアウトローとは全く別方向に風が回っているような……」
「はぁ……なに、じゃあ柱間先生との契約も解除する?」
「そ、そういう話はしてないでしょ!?」
「そ、じゃあ諦めなよ。あの人が経営顧問になった時点で前よりは表立って事も起こせないでしょ。裏のアウトローが表立って、って言うのもおかしな話だけど」
「うぐ…………はぁ………」
「まーまー、別にブラックマーケットの仕事は今でも受けてるじゃん、全部が全部ダメってわけじゃないんでしょ?」
「それは、まぁ……」
「じゃあそれでいーじゃん、一先ずはさ〜」
「はぁ…結局、そうなるのよねぇ……」
「………あ、あぁぁぁああああ、あ、あの」
ん?と声を上げたアルが声のする方へ顔を向けるとやはり吃っているのはハルカその人で、不安そうに目を左右に泳がせながら人差し指同士を合わせモジモジと表情を曇らせていた。
「どうしたの?ハルカ」
「そ、そそそそそそ、その、あ、アル様は、は、ハシラマ先生がお邪魔、なのですか……」
「い、いや、そういうわけじゃないわよ?」
「そ、そうですか………」
あぁ、いつものハルカの癖かと察しのついたアルが、彼女を刺激して突っ走らせないようにやんわりと否定すると、ホッと安堵するように表情を和らげるハルカの意外な反応に首を傾げる。今の自分の言葉に彼女の機嫌を良くする何かがあったのだろうか?
などと考えていると、他の社員はハルカの反応の理由に察しがついたようで、口元に手を当てて悪戯っぽく笑うムツキが揶揄うようにハルカに近づき声をかけた。
「───くふふ〜!ハルカちゃん、どうしたの〜?そんなに嬉しそうにしてさぁ!」
「え!?い、いいいいえ!!べ、別に、そ、その、特には!!!」
「え、えっと……ハルカ?どうかしたのかしら?別に、何か思うところがあるなら遠慮せず言っていいわよ?」
「う、あ………そ、その………」
顔を紅潮させたり、青ざめたり、表情の移り変わりの激しいハルカが一層顔色を二転三転させて、恥ずかしそうに、それでいて申し訳なさそうに口を開きかけ───
「…………う、うぅ………」
「ありゃ、黙っちゃった」
「……珍しいね、ハルカがそんな風に口閉じるのは」
「ど、どうしたのハルカ!?ま、まさか私の知らない所で先生に何か……!!」
「あはは!!違う違うアルちゃん!そうじゃなくてね、ハルカちゃんは、アルちゃんの命令でも先生と敵対するのが嫌なんだよね〜?」
「そ、そそそそそ、そんなことは───アル、さま?」
「……う、うぅ………!成長したのね、ハルカ……!!」
「あ、あぁぁあああああアル様ッ!?わ、わ私が何か粗相を!?」
ムツキの言葉を即座に否定するハルカが困惑して固まる理由は、自身に向かって歩み寄るアルの姿。一瞬見せた、その胸の内を察することのできない、ただただ驚愕した彼女の顔。焦りでも困惑でもない初めて見るアルの表情に、やはり彼女の性格柄致し方なしか自身の落ち度を探るハルカの頭を優しく撫でつつやんわりと否定する。
「いいえ…!逆よ…!うぅ、これが子を持つ親の気持ちなのね、カヨコ……!」
「いや知らないけど……でも、珍しい、というか初めてだね。ハルカが社長命令に背くなんて」
「そ、そそそそそそんなことはありません!!あ、アル様が望まれるなら───」
「いいえ、いいのよ、ハルカ……うぅ、でもハルカが先生に懐いて嬉しいような悲しいような………」
敬愛する上司が自身を抱き締め、優しく抱擁し頭を撫でている事実に脳がパンクしそうなほどに沸騰しかけるハルカが必死に弁明を行うが、なおも愛おしそうに彼女を愛で続けるアル。
「……ふふ!やっぱりハルカに任務を任せて正解だったわね!ハシラマ先生も、流石私の認めた経営顧問だわ!!」
「くっふふ〜!アルちゃん、さっきまであ〜んなに思い悩んでたのに、わっかりやすーい!!」
「……ま、社長が満足ならそれでいいけど」
何故アルがこれほどまでに上機嫌なのか、顔が紅潮してそれどころではないハルカに考察する余裕はなくただ彼女に抱かれながら、おぼつかない千鳥足で歩を前に進めるのみで成す術もなく流れに身を任せていた。
そんな折、
「……あ、噂をすれば……」
「ん?どうし……あ、あの子達、確かアビドスの……って、先生もいるじゃない!」
「……んー、でもなんか微妙な顔してるね、どうしたんだろ?」
喜色満面、嬉しそうに顔を綻ばせるアルがもうそろそろ柴崎ラーメンに辿り着くという道中、視界の先で見知った顔を見つける。と言っても経営顧問である先生はともかくとしてアビドスの生徒達とは別に仲良しこよしというわけでもなく、アルからすれば襲撃日以降初の邂逅ということで、前日のハルカの依頼があったことからそれなりに便利屋を受け入れてくれていることは察しがつくのだが、それでも気まずさを覚えるのは必然の話である。
さて、どう話しかけたものかと思案しているとその傍らに当然というべきか先生の姿を見つけ、気が緩む一行。ただ違和感を覚えるのは彼の表情で、いつもなら自分達と目が合うや否や手を振り名を呼び、喜びの感情を隠そうともしない彼が今日に限って気まずそうな顔をするのだ。どうしてかと首を傾げていた、次の瞬間───
爆風が視界を遮った。
「………ターゲットに直撃ですね」
「よし。歩兵、第二小隊まで突入準備」
部下を引き連れ先陣を切るイオリが指示を出し隊を動かす。ゲヘナ自治区でないからと油断して呑気に雑談している指名手配犯に憂さ晴らしも兼ねて鉄槌を下し、清々した気分で追撃を行うため歩を前に進める。
「この調子だと結構楽に終わりそうだな」
「気を引き締めてください、イオリ。今は委員長も不在ですし、不服ですが便利屋の実力も本物ですから」
「分かってるよ、油断はしないって」
チナツの言葉に意識を切り替え、鋭い視線で土煙を見つける。それが晴れた際に覗かせるのは、果たして地面に倒れ伏すターゲットか、それとも不屈の精神で立ち上がる忌々しい指名手配犯か。背後から聞こえる、自走砲の装填完了を知らせる言葉を耳にしてゆっくりと手をかざす。高々と上げた手を今か今かと振り下ろさんばかりのイオリが煙の中から覗かせる姿に期待するのは、余計な徒労をかくことのない、既に意識を失った便利屋の姿で───
「───すまぬ!!ちと待ってくれイオリ!!!」
「───え!?せ、先生!?」
「ま、待ってください皆さん!!一度銃を下ろして!!!」
───実際に現れたのは、ダメージを受けた便利屋と、おそらくアビドスの生徒と、先生の姿であった。
「ゲホッ!ゴホッ!!な、何なのよいきなり!!!」
「こほ、まさか、こんな所まで追ってくるなんて……!」
「大丈夫ですか!?便利屋の皆さん!」
「けほ、大丈夫大丈夫!それよりも、おっひさー!メガネっ娘ちゃん!」
「だ、だからメガネっ娘ちゃんじゃありません!!奥空アヤネです!!」
先生を先頭に、その背後で───急遽予定が入り抜け出したホシノを除いて───アビドスの面々が各々便利屋に肩を貸して立ち上がらせる。ムツキに肩を貸すアヤネが怒りを隠さない様子で鋭い視線をゲヘナの風紀委員に向けていた。
「何者ですか!!貴方達は!!!所属を名乗ってください!!!」
「い、いや……しょ、所属?ゲヘナの、風紀委員だけど……」
「他の学校の生徒が堂々と戦闘行為……」
「明確な違反行為ですね!」
「ま、待て!ウチの活動内容は事前に話が行ってる筈だろ!私たちはただそこの指名手配犯を───」
「はぁ!?ゲヘナの風紀委員の話なんか聞いてないわよ!!」
「…え?」
「……はぁ」
全てを察してため息を吐くチナツと、困惑して気の抜けた声を漏らすイオリ。そんな二人を憐れんで───かは分からないがハシラマが声を上げる。
「……チナツ、前言っていたアコとやらに連絡を取ることは可能か?」
「はい、急いで繋ぎます。……大変申し訳ありません、ハシラマ先生、お手数をおかけします」
「なに、気にするな。お前達も苦労するな」
「え、えっと、先生?ど、どういうことなんだ?」
『あまり望ましくないすれ違いがあった、という話ですよ、イオリ』
ホログラムにより肉体が投影され、通信機器越しに、ではあるが皆の前に姿を現すのはゲヘナ風紀委員のNo.2、行政官である天雨アコ。毅然とした態度で余裕を崩さず、顔には小さく笑み浮かべるその表情は、今この場においては嫌味のような不気味さその場の人間に覚えさせる。
『初めまして、アビドスの皆さん、そしてシャーレの先生。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』
「行政官……ということは、風紀委員会のナンバー2……」
『あら、実際はそんな大したものではありませんよ、あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』
「……アコさん、私はアビドス対策委員会の奥空アヤネです。先ほど口にされた『望ましくないすれ違い』に関して弁明をお願いいただけますか?」
両学園の生徒が火花を散らして睨み合う。と言ってもその視線の色は異なり、見下すように蔑みを持って微笑むのがどちらかは言うまでもないだろう。
『ふむ……対策委員会、ですか。私は生徒会の方と話がしたいのですが』
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私たちが生徒会の代理みたいなもの、言いたいことがあるなら私らに言いなさい!」
『あら、そうですか……ふむ……』
アビドス生徒達の怒りの視線を自覚した上で、歯牙にも掛けずに顎に手を当て考え込む姿が余計にアビドス生徒達の怒りを買うも、やはり平然とした様子でニッコリと微笑んで正面へと向き直る。
『失礼しました、対策委員会の皆さん』
「ん……」
『私たちゲヘナ風紀委員会はあくまで私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです』
「理解できるわけないでしょ!というか、アヤネちゃんの質問に答えなさいよ!」
「セリカちゃんの言う通りです!行政官さんのおっしゃった、望ましくないすれ違い、とは結局何なのでしょうか!」
「そ、そうだアコちゃん!アコちゃんの方から話を通してるんじゃないのか!?」
とても演技くさく、苛立ちを煽るようにしおらしい表情で申し訳ないような雰囲気を醸し出すアコ。眉を八の字に曲げた彼女が悲しそうな顔で事の顛末を語り出した。
『それに関しては大変申し訳ありません……実は、私の元に便利屋がアビドス自治区に潜伏しているという話が入ってきたのが今日の朝方でして……』
「……確認を取る時間も惜しいから、無断で事を起こしたって事?」
『いえ、無断での戦闘行為など外交問題にも発展しかねない事態ですから、急いでアビドスに部下を通じてコンタクトを取り、了承していただきました』
「ですが、そんな話私達は耳にしていません!」
『えぇ、ですので部下の間で伝達にミスがあったのでしょう。大変申し訳ありません』
「はぁ!?何その言い訳!通じると思ってるわけ!?」
『あら、でも言い訳でもなく事実ですので……それで、どうでしょう。その便利屋の身柄、引き渡していただけるでしょうか?』
結局、罪悪感は全くと言って良いほど感じていないのだろう。この話誰しも───風紀委員会の末端の戦闘員に関しても彼女の言い分を信じる者がいるはずもなく、当然の如くアビドス生徒達は彼女の一言一句から滲み出る舐め腐った態度に拳を握りしめていた。
そして、そんな中で居心地の悪さを覚えるのが便利屋。勿論にっくき風紀委員会を前にしての緊張もあるが、自身が引き金で両校の衝突───というか、恩人に迷惑をかけているという事実に、アルが胸を痛めるのは当然の話で、これ以上世話になってはいられないと自分を奮わせ立ち上がる、のだが。
「……こ、こほん!!迷惑をかけたわ───「ふざけないで下さい!!」───へ?」
「あなた方が行っているのは自治権の観点からして明確な違反です!!便利屋の処遇は私たちが決めます!!手出しは無用です!!」
『そうですか』
「ちょ、ちょちょちょちょ!!!」
「くふふ〜!!メガネっ娘ちゃん、カッコいー!!」
まさか庇われるとは思ってもいなかったアルが白目を剥いて慌てふためく。
「な、なに意地張ってるの!貴方達にメリットなんてないじゃない!?アイツら絶対に攻撃してくるわよ!?大人しく引き渡しなさいよ!私たちは私たちで何とかなるから!!」
「い、嫌です!確かに、意地を張っているところはあるのかもしれませんが……」
「便利屋のハルカさんには、お世話になりましたからね!」
「へ?わ、私ですか?」
「ん、恩人だから、見捨てたりはしない」
「で、でも……そんなこと言ったら最初にアビドス襲撃したじゃない……」
「あーもう!うるさいわね!!もう水に流したって言ってんの!!素直に受け取っときなさいよ!それとも、アンタら大人しくお縄に付くの!?どーなのよ!!」
アウトローを目指し、馴れ合いを嫌っていた彼女が、やはり憧れと理解は遠い感情のようで自身を庇うアビドスの生徒達の言葉にキュッと胸が締め付けられる。それと同時にセリカの言葉で焚き付けられたアルが「昨日の敵は今日の友って結構熱いシチュエーションじゃないかしら!」などと、呑気に闘志を燃やしていることに誰一人として気づくはずもなく───こりゃ絆されたなと彼女を一番に理解する便利屋の面々が、勇ましく銃を握るアルを見てある者は嬉しそうに不敵な笑みを浮かべ、ある者はため息を吐き、ある者は口に手を当てて特徴的な笑い声を漏らしていた。
「……舐めないでちょうだい!私たちは便利屋68、あんな風紀委員長もいない飛車角落ちの有象無象に遅れをとるものですか!!ムツキ!!カヨコ!!ハルカ!!!」
「は、はい!!」
「くっふふ〜!!さっすがアルちゃん!!!そう来なくっちゃ!!」
「はぁ……ま、何となくこうなる気はしてたけどね」
戦闘態勢に入った便利屋を見て、笑みを浮かべて肩を並べるのはアビドス一行。先頭に立つ柱間が彼女らのやり取りに割り込むことなく背中だけを向けて立ち尽くし、浮かべる笑顔を見るのは対面に立つ風紀委員会だけで、彼の笑顔に首傾げていた。
「さ、先生!指揮を頼むわよ!!」
「お願いします!先生!!」
自信満々と言った様子で声を上げるアルとアヤネ。そんな彼女達に申し訳なさそうにハシラマが、気まずい様子で少し汗を垂らしながら頰をかいて皆の方へ向き直る。
「…あーいや、その、気合を入れてくれた手前すまぬが…別に、戦いはせぬぞ」
「……え?」
「な、何言ってんのよ先生!流石にこれはいくらなんでも戦う流れじゃない!というか先生でも止められないでしょ!!」
「いや、そうは言うがな……ほれ、見てみよ」
「見てみろ、ですか?………あれ?」
『何をしているのですイオリッ!!早く鎮圧して下さいッ!!』
「ッ、あ、アコちゃん、で、でも……」
焦って怒号混じりに声を荒げるのは行政官であるアコその人。予定通りに衝突が起こりそうでほくそ笑みつつ風紀委員会に指示を出そうとしたのだが───動かない。特に大隊の切り込み隊長であるイオリが、二の足を踏み、いつもの活気が感じられない。頭が麻痺したとなれば当然現場の部隊が動くはずもなく───というか、イオリだけでなく何故か一部の生徒達もイオリと同じように困惑していたのだが───風紀委員会全体が機能不全に陥っていた。
『あぁもう!!チナツ!!貴方からもイオリに言ってください!!』
「…申し訳ありません、アコ行政官。承諾しかねます」
『な……!?』
冷静な様子で現場にいる他の部員に声をかけても、自身の言葉に反旗を翻すばかりで、一気にプランが崩れ去る。そんな自分に追撃をかけるように───
「アコとやら」
『ッ!!』
「矛を収めさせよ」
どこか圧をはらむその言葉に、上司たる行政官の言葉でないはずなのに彼女の指示も待たず音を立てながら銃口を下げる風紀委員達。それに気を配る余裕もなく、ゴクリと唾を飲み込んで先生と相対する。
「アコ、聡明な貴様なら既に風紀委員が使い物にならないのは分かるはずぞ。それに、オレとしても彼女らと争う気は起きぬ。それでも引く気はないか?」
『有り得ません!!そもそもこれは風紀委員会として正当な行為です!!』
「そうか……さて、どうしたものかのぉ」
「…………ねぇ、先生」
「ん?なんぞ、カヨコ」
「先生、昨日何してた?」
唐突に、カヨコが柱間に声をかける。彼女の問いに答えるようにトリニティでの一件を語ると、あぁと納得言ったように声を漏らすカヨコ。
「なるほどね。先生、アコの目的は私たちじゃなくて先生だよ」
「ぬ?オレ?どういうことぞ?」
「ど、どういうことですか?カヨコさん」
『……カヨコさん』
「どうせ、トリニティのトップに遅れをとるわけにはいかないとか、そんなくだらない理由でしょ、アコ」
何かしらの関係を匂わせる、二人の一瞬のやり取りに、場に緊張感が走る。
「ま、自分で言うのもアレだけどこんな冒険してまで私たちを追う理由がないからね。というか、本当に私たちが目当てならそんなに急ぐ必要ないでしょ。アビドスからの返答を待って行動を考えればいいし」
「た、確かにそうね……」
「となると風紀委員の頭が次に注目してそうなのは先生だけど……尋ねてみたら案の定だね。先生、ゲヘナとトリニティの確執は知ってる?」
「まぁ、それなりにはな」
「じゃ、話が早いね。先生がトリニティのトップと邂逅したって言うのを知って、焦ったんだと思う。大方、私たちを出汁に使って風紀委員会を動かし……この、アビドスとの衝突の混乱に乗じて、流れで先生をゲヘナに誘致───もとい、拘束する予定だったんじゃないかな」
「な、なによそれ!普通に犯罪じゃない!!」
「そ、そうなのですか!?アコさん!!」
カヨコの言葉に焦りと怒りを覚えたアヤネが怒鳴るが案の定認めるわけもなく、何でもないように躱すアコ。
『さて、何の話でしょうか…?私はただ、風紀委員会の仕事を全うしようとしたに過ぎませんが』
「ま、そう言うよね。認めちゃったらしっかり犯罪だし」
「つまり、なんぞ?アコもオレと話したかったのか?」
『……は?』
皆の心の声を、アコが一人で代弁する。最初に思わず吹き出してしまったのはムツキ本人で、面白おかしいように腹を抱えて大笑いしていた。
「アッハハハハ!!せ、先生!!おっかし〜!!!」
『ハァ!?私が先生と!!何をおっしゃっているのですか!!!』
「いや、しかし……カヨコの話が本当ならそう言うことではないのか…?」
「せ、先生……多分、そんな生やさしい話ではないのでは……」
「うむ、しかしなぁ……」
「ふふ……よかったじゃん、アコ。先生自らゲヘナに向かってくれそうだよ?」
『か、カヨコさん……!!』
先ほどまで臨戦態勢であったアビドスと便利屋一行が、笑顔と呆れ顔で染まり、先生は何でもないように立ち尽くす。先ほどから自身の策と脳内を先生の一挙手一投足にかき乱されるアコに休む間もなく、先生から声がかかる。
「ところでアコ、貴様はナンバー2と言ったな?風紀委員長はどこぞ?」
『それを貴方達に伝える義理は──』
「無断なのだろう?」
『な!?』
「頭の回らぬオレでもそれくらいは分かる。ここで矛先の定まらぬ刃を下ろしてくれたなら、この件についてもオレがある程度便宜は図ってやろうぞ。オレもゲヘナにはまた行きたいと思っておったしの?どうだ?悪い話ではないだろう?」
『くっ………!』
「せ、先生……!すごい、手慣れてるわ…!」
「ん、まるで先生みたい…!」
「いや先生でしょ……」
それは、確かに甘い蜜のようで、正直アコとしてはここから収拾をつける方法が自身で思い浮かばない。そんな中で、過程は少々───というか、かなり異なるが本来の目的は達成できる上に、委員長に余計な心労をかけなくて良いというのは何ものにも変え難い話である。言わば彼女の決心を揺らげているのは、たった一つ残った彼女のプライドのようなもの。
下唇を噛み眉間に皺寄せた彼女がうんうんと唸った結果────
「さて、こうして会うのは初めてだの、よろしくぞ!───アコ!!」
「は、はい。よろしくお願い致します……」
ご清覧ありがとうございます!
まだまだストーリー完結まで時間がかかりそうですが今しばらくお待ちいただければ……
それだはまた次回
感想、評価ありがとうございます!
活動の励みになります!