Hashirama Archive   作:アテナ18号

26 / 54
シャーレの意思

 

 「ぐあッ!?」

 「り、理事!?」

 

 

 「…………え?」

 

 誰かが漏らした、気の抜けた声が響き渡る。理事から示された悪魔の提案にヒナの答えを待つことなく、その場の空気を切り裂くように放たれた一発の弾丸が、カイザーPMC理事の眉間を捉え、彼を後方へと吹き飛ばした。ヒナも含め、その場にいた者達が呆気に取られ瞬きを繰り返した後───カイザーも含めその場の人間が周囲を見渡す中、その出所を探るまでもなく凶弾を放った本人が姿を現した。

 

 「あら、今ので仕留めるつもりだったのだけれど……固いのは中身だけにしてほしいわね」

 「な、にもの───貴様ッ!!その声はッ!!」

 

 「…久方ぶりね。もっとも、こうして顔を合わせることになるとは思っていなかったのだけれど」

 

 「べ、便利屋の皆さん!?」

 「やっほ〜!メガネっ娘ちゃん!元気してた〜?」

 「はぁ……随分な大所帯だね、どういう集まり?」

 「あ、アンタら何しに来たのよ!?」

 

 突如発生した第三者の介入に、先程まで無気力感に苛まれていたアビドスの面々が息を吹き返した───わけではないが、項垂れていた頭を上げて、便利屋の皆へ視線を向ける。先ほどからの目まぐるしい状況の変化に脳が対応できず、現実を受け入れることができていないだけかもしれないが、既に心に余裕のないアビドスの人間にとってはそれが逆に精神を繋ぎ止める最後の頼みの綱となっていた。

 

 「貴様ら……ッ!依頼を放棄するに飽き足らず、今度は邪魔立てをするつもりかアッ!!」

 「あら、そんなことを言われてもね……私達は便利屋68、文句があるならクライアントに言ってもらわないと」

 「何者だッ!この私に楯突くような真似をするバカはッ!!」

 「クライアントの情報をベラベラと喋るわけないでしょ。……と、言いたいところだけど、特別に教えてあげる。便利屋68の経営顧問兼───

 

 

 

────連邦捜査部シャーレの顧問、ハシラマ先生から私達への依頼よ。アビドス高校を守ってくれ、とね」

 「な、なんだとッ!?どういうことだッ!!」

 「せ、先生が……?」

 

 ニヤリと微笑む彼女がカイザー理事を睨みつけたまま視線を外さない。

 

 「どういうことも何も……何かおかしい事を言ったかしら…?」

 「あ、あり得んッ!奴なら今───ッ」

 

 「……あり得ない?どういうことですかッ!!カイザー理事ッ!!今の言葉の意味はッ!!」

 

 自身の失言を自覚したカイザーがしまったという顔をして咄嗟に口を閉じるが先の言葉の違和感を覚えるのに時間を要する必要もなく───自信を喪失し、ただ静観を決め込んでいたユウカが物怖じすることなく前に身を乗り出し大声で怒鳴りつける。彼女の言葉を皮切りに───先生の身を案じる、そのただ一心で萎縮していたアビドス生や便利屋、そして風紀委員会の面々が視線を鋭くしてカイザー理事を睨みつける。

 

 「……ッ。……ふん!わざわざ出向いてくれた客人を、丁重に迎えただけだ」

 「───貴方……ッ!」

 「兎も角!奴が依頼を出せるわけが無い!どういうことだ!!」

 

 「あら、何もおかしなことはないでしょ?だって、私達が依頼受けたのは今朝だもの」

 

 「………は?」

 

 カイザー理事が、気の抜けた声を漏らす。そんな彼の反応に、面白そうに腹を抱えていたずらにムツキが笑うが、その声色が煽りに聞こえたのか、浮かび上がるはずのない青筋をこめかみに浮かべるカイザー理事が、ぷるぷると体を震わせる。

 

 「自分のいない間、アビドス高校を頼むって……それで、今しがた着いただけの話よ。何かおかしいことがあるかしら……?何だか、色々喋っていたけれど……電話越しと違って饒舌じゃない。流石一企業のトップね、随分舌が回るじゃない」

 「くっふふ〜!アルちゃん、かっこいい〜!これを狙って、思わせぶりな発言をしてたんだよね〜?」

 「と、当然でしょう……?見くびらないでくれるかしら…?」

 

 勿論、彼女にそんな高等なテクニックがあるはずもなく、思わせぶりな態度をとって馬鹿正直に話していただけなのだがそれでもカリスマ感を損なわぬように出来る限りのポーカーフェイスを保つのは流石に慣れというものだろう。そんな、ムツキとアルのやり取りを見て───ヒートアップし熱暴走仕掛ける頭を冷やし、あくまでも自分達の優位性は揺るがない事を示して言葉を続けるのは、流石にアルの言葉にもある通り伊達に企業の頭を張ってはいないのだろう。

 

 「───く、くく……ふぅ。……それで?アビドスを守る、だと?クク、笑わせるな!守るも何も、私に歯向かうのは寧ろその逆だッ!小鳥遊ホシノのいない今不法に占拠───」

 

 

───もっとも、その達者な口は、唐突に鳴り響く銃声により直ぐさま閉じることになったのだが。

 

 「……ゆ、許さない」

 「あ、が……ッ!?」

 「り、理事ッ!おいッ!!何してるお前達ッ!そいつを───」

 

 

 「許さない許さない許さない許さない許さない──許さないッ!!!せ、先生を───し、死んでください死んでください死んでくださいッ!!!」

 

 「は、ハルカさん!?」

 「ちょ、ちょっと!!アレ止めなくていいの!?」

 

 雄叫びを上げ、先程まで膠着状態だった場の空気を切り裂くように一人突貫するハルカ。焦点の定まらない淀んだ瞳でカイザーPMCを睨みつける。誰も彼もが政治的な駆け引きや───風紀委員会ですら無闇に手出しできていなかった現状を嘲笑うかのような彼女の蛮行に、ただ同業者である彼女の同志や上司達だけが何食わぬ顔で佇んでおり、見かねたアヤネとセリカが声をかけるが返ってくるのは開戦の狼煙であった。

 

 「止める?バカ言わないで。───カヨコ課長、ムツキ室長、ハルカを援護してあげて。直ぐに追いつくから」

 「くっふふ〜!りょうか〜い!さ、行こっかカヨコっち!」

 「……なるべく早くしてね、社長。流石にあの数相手だと堪えるから」

 「えぇ、分かってるわ」

 「ちょ、ちょっと!!何言ってるのよ!!なんで…!」

 

 「なんで?こっちのセリフよ。貴方達の方こそ、何をしているの?」

 

 その場から立ち去る二名の社員を見送った後、振り向きアビドス生を見つめるアルの瞳を見て、ゴクリと誰かが唾を飲む。いつか柴崎ラーメンで見せた弱々しい涙目の、どこか抜けた雰囲気の彼女とは同一人物とは思えない、一切の動揺も見られぬ泳ぐことのない視線。どこか高圧的で、慰めるような雰囲気など微塵も感じられない責め立てるような目でアビドスの生徒達を見つめていた。

 

 「何で……って……」

 「聞いたわ先生に、貴方達の事情を。それにさっきの会話もね。……何も言わずに頼れって言ったのにね、まったく。……こほん。貴方達の先輩がいなくなって、大変なことになってるようね」

 「…………」

 「それで?なんで目の敵を前にして、そんな弱気になっているわけ?さっきの会話、聞いてたわ。情けないったりゃありゃしない」

 「…ッ、貴方に何が分か───」

 

 「分からないから聞いてるのよッ!!」

 

 こんな時に呑気に───などと、口が裂けても言えない───かの、風紀委員長にすら劣らない覇気を纏い叱責する姿にそれを面として食らうアビドス生だけではなく、少し離れて傍観に徹していた風紀委員会の切り込み隊長や医療部までもが空気に呑まれて思わず彼女の姿に見入っていた。

 

 「先輩が消えた、生徒会がなくなり学校が存続できない。なるほど、由々しき事態ね。───それで、することが絶望して指を咥えるだけ?笑い話にもなりゃしないわ」

 「……だったら……だったらどうしろって言うんですかッ!!ここで反抗しても勝てるわけもないし、先輩も……帰ってこな───「なんで?」

 

 「先生が迎えに行っているんでしょ?」

 

 呆れたような態度であっけらかんと言い放つ彼女に怒りが込み上げるのは、先程までの会話を聞いていたと言う前提で彼女が先の言葉を口にしたため。彼女の言いたいことは分かる、自分たちはただ目の前の憎き敵の言葉を盲信し、勝手に自信を喪失している。それが便利屋の女社長には許せないのだろう。だがしかし───

 

 「……そんなに……そんなに簡単に言わないでよッ!!さっきまでの話聞いてたんでしょッ!?先輩は───「貴方達は誰を信じているのよッ!!」

 

 「先生はいつでも貴方達を信じていたはずよ!どんな時でも裏切ることなく、疑うことすらせずに貴方達の言葉に耳を傾けたはずよッ!それが仮にヘルメット団でも、私達便利屋でも、彼を陥れようとする怪しげな言葉でも────部外者は引っ込んでろって口にした、捻くれ者の言葉でもねッ!!」

 

 「ッ、そ、それは………」

 

 背後で爆発音と銃声が鳴り響く。戦闘が激化し互いの声が聞きづらくなるほどに苛烈さを増していくが、そんな中でも妙に耳に届くアルの言葉がアビドスの人間に突き刺さる。

 

 「私はね、アンタ達が先生とどんなやり取りをしたかなんて勿論知らないわ!でもね!何度でも、何度でも!先生は貴方達を信じて疑わなかったはずよッ!あの人はそう言う人だからね!!」

 「…………」

 「それが何!?貴方達は、たった一度、ハシラマ先生を信じることすらできやしないのッ!?」

 「…で、でも……!」

 「ここで諦めて───何が得られるって言うのッ!?貴方達の身の安全ッ!?愛する先輩を、仲間を見捨てて、学校を失った貴方達の未来に、一体何があるって言うのよ!!」

 

 彼女の言葉に、表情を歪める一行。しかしただ悔しさや後ろめたさから来る眉間の皺ではなく────きつく、下唇を噛み締めながら、ギュッと拳を握りしめる。

 

 「どうするのッ!?ここで大人しくあんな奴に首を垂れるの!?それとも、コイツらを退けて愛する母校で先生と先輩の帰りを待つのッ!?貴方達の握りしめた拳の矛先は地面じゃないでしょうッ!!」

 「黙れエッ!!」

 

 アルの声に被せるように、野太い男の声が場を支配する。銃撃により弾き飛ばされたハルカが後方へと下がり、それを受け止める形でムツキが彼女の側によると、再びカイザーPMCとその他の生徒達が距離を開けて睨み合う形となった。つまらなさそうに振り返ったアルがため息を吐きながら部下の前へと躍り出て、その先陣を切ってカイザー理事と睨み合う。

 

 「はぁ……はぁ……!!許さんぞッ!!便利屋68ッ!!よくも、邪魔を……ッ!!」

 「…………」

 「アビドス共ッ!!余計な言葉に耳を貸すなッ!!貴様らは大人しく学校を明け渡せッ!もし逆らうようなら───まともなバックもないただの一不良となった貴様らが、社会生活を送れると思うな───「うるさい」

 

 「話はそれだけ?」

 「なッ!?」

 

 「……余計な言葉に耳を貸す気は───ありません!!」

 

 「理事ッ!お下がりください!」

 「ぐ……!?」

 

 瞬間、ノノミのマシンガンから放たれるマズルフラッシュが轟音と共に瞬きその場にいる者達の音と視界を奪う。咄嗟に理事を庇うように前に出た重装兵が電磁シールドを展開し地面に突き立てると、盾へと垂直に突き刺さる無数の弾丸が跳弾し辺りの廃墟へ無数の風穴を空ける。

 

 「し、シロコ先輩…ノノミ先輩も……」

 「立って、二人共。ホシノ先輩なら心配ない、先生が何とかしてくれる」

 「……ありがとうございます、アルさん。本来なら、先輩である私がしっかりしないといけないのに……」

 「気にしないで、あの時ラーメン屋で励ましてくれた、その恩返しだとでも思ってくれればいいわ」

 「ふふ、励ましたのは私じゃなくてセリカちゃんですけどね。……セリカちゃん」

 

 「……大丈夫、ノノミ先輩。……その、勘違いしないでッ!貴方の言葉がなくても、別にッ!先生を信じていないわけじゃないから!!……でも、感謝しとく。ありがとう」

 「どういたしまして。……それと、貴方はどうするの?そこの、ミレニアムの人は」

 

 「え?あ……」

 

 ホッと、一歩引いて皆のやり取りを見つめていたユウカが突如話を振られて驚いたように瞬きを繰り返す。アビドス皆の視線が一様に集まり、先ほどとは打って変わって信念の宿った瞳に何処か臆してしまうのは───この場を先生に託されながら、アビドスの子達を支えてやれなかったためだろう。今目の前で啖呵を切り、威勢の良い言葉で皆を鼓舞したアルの仕事は、本来であれば皆を支えてやってほしいと先生に託された自身の役目のはずであった。故にこそ、そのアルを前にして奮起し立ち上がった彼女らに申し訳なさと後ろめたさを覚えて視線を泳がせていた。

 

 「その、私は……」

 「───ゲヘナの風紀委員会共ッ!何をさっきから突っ立っているんだッ!」

 

 ユウカの声を掻き消すように怒号が周囲に響き渡る。大楯を構える兵士の後ろから、顔を覗かせるように姿を表す理事にはもはや余裕の色はなく、憤慨をしている態度を隠そうともせずにただ傍観に徹していた風紀委員会に怒鳴っていた。

 

 「貴様らもッ、早くアビドスの奴らを黙らせろッ!お前達も被害者だろうがッ!まさかッ、貴様らもアビドスと手を組むなどと言い出しはしないだろうなッ!?ゲヘナの風紀委員会のトップが手を貸したとなれば、ただの慈善活動では済まさんぞッ!!」

 「……ッ!」

 

 「……事情は分からないけれど……やるなら相手になるわよ。ヒナ」

 「くっふふ〜!アルちゃんカッコいー!!」

 「はぁ……カイザーなんかより、こっちの方がよっぽどだね」

 「あ、あ、あ、アル様は私が命に代えてもお守りいたしますッ!!」

 

 アビドスと便利屋を挟んでカイザーPMCとは反対側に陣取る風紀委員会。咄嗟にアビドスの面々を庇うように踵を返し、ヒナと対面するアルが、愛銃を掲げ優雅に銃口をヒナへと向け、あくまで凛々しく立ち振る舞うが───額から一筋の汗を垂らしてごくりと唾を飲み込む程度に動揺を隠すことが出来たのは、例え所属は違えど部下を抱える一組織のリーダーとして、背後に控えるアビドスという庇護対象の前での、最大限の虚勢だったのだろう。ヒナは依然として何を考えているのか分からない顔で、険しさを増す便利屋やアビドスの生徒達とは対照的に眉一つ動かさずジッと視線を交差させた後、ため息を吐いて口を開く。

 

 「……そうね。外交問題に繋がりかねない以上、確証がない今個人的な意思でアビドスに手を貸すことは出来ないわ」

 「な…!?」

 「ちょ、委員長!!それはいくら何でもッ!!」

 「………」

 

 冷たく言い放つヒナの言葉に衝撃を受けるのはアビドスのみならず彼女の部下も同様で、イオリに至っては自分の上司であり組織の頭であることも厭わず声を荒げるが、そんな彼女の態度を意にも介さず口を閉ざす。皆が悲痛に表情を歪める中、ただ一人、カイザー理事のみが漸く回ってきた追い風に気をよくして笑いをこぼしていた。

 

 「クックック、ハッハッハッ!巨大組織の頭を張るだけのことはある!聡明な人間だな!では風紀委員長よ!直ぐ様私の言った通りに───「撤退よ」──………は?」

 

 

 

 「……小鳥遊ホシノがカイザーPMCに加入したという証拠がない限りはアビドスと貴方達、どちらに正当性があるのか私には判断付かないわ。だから、どちらか一方に手を貸すことは出来ない。中立的な立場として、私達は手を引くわ」

 「な!?」

 

 「……そ、そう。ふ、ふーん、えぇ、そうね、聡明な判断だと思うわ」

 「あ!アルちゃん露骨に安心してる〜!やっぱり怖いんだー!」

 「は、はぁ!?私が風紀委員会程度に日和ってるわけないでしょ!」

 「ちょっとやめてムツキ。あっちから引いてくれるって言ってるんだから、変に拗れて衝突でもしたらどうするの」

 

 わなわなと手を振るわせるカイザー理事に興味がないかのように視線を外して周囲に目配せを行い指示を出すヒナの元、隊列を整える風紀委員会。一先ずこの戦況を最も左右するであろう最高戦力───大凡一名───の、傍観という立場に安堵する者もいれば、やはり複雑な気持ちで拳を握る者も少なくない。その筆頭が先も露骨に態度に表していた風紀委員会の切り込み隊長で、やはり情に絆されやすい彼女が目の前で繰り広げられた惨状を目にして手を出すなと言われれば、唇を噛み締めるのも仕方のないことだろう。

 

 「き、貴様ッ!私の話よりもそんなくだらない人情話に耳を───」

 「アコ、直ぐ様他の隊にも連絡を」

 「承知いたしました」

 

 煽るかのように全く理事の話に耳を傾けず、そっぽを向いたまま部下と会話を行うヒナ。そんな彼女の姿に喚き散らし、怒りの抑えられない理事の姿のどこか無様な様相に溜飲を下げるアビドス生の元へとヒナがゆっくりと近寄り、小さな声で謝罪する。

 

 「……ごめんなさい。そういうわけで、手は貸せないわ」

 「い、いえ!!ホシノ先輩の件で、既にお世話になっておりますので!!」

 「アヤネちゃんのいう通りよ。ここからは学校の問題、私達で何とかするわ!」

 「ん、これ以上迷惑はかけられない」

 「ホシノ先輩の件、ありがとうございました!風紀委員長さん!」

 

 カイザーPMCの手前、露骨にアビドスに加担する姿勢を見せることは出来ないため頭を下げることは叶わないが、十分にヒナの思いは伝わったようで、目の前で見て見ぬ振りをすることになるヒナを邪険に扱うことなく、自信満々に持ち直した姿勢を見せつけると、ヒナが小さく微笑み数秒沈黙を貫くと、唐突に口を開く。

 

 「チナツ、イオリ」

 「え?は、はい、何でしょう」

 「な、何?委員長」

 

 「───風紀委員会のアビドスにおける任務"は"、終了とするわ」

 

 「……?……あ…!」

 「…?え、う、うん、そうだな………それがどうかしたの……?」

 

 チナツがヒナの意図を察したように声を上げるが彼女の言葉を待たずに、チラリと───アビドスと便利屋に紛れる、一人のミレニアム生へと目を向けるヒナ。周囲の目を掻い潜り、後方へと控えるユウカに視線を合わせると、一瞬戸惑った彼女が言葉の意図を理解して躊躇うように下唇を噛みしめるが───意を決して、口を開き声を上げる。

 

 「───イオリさん、チナツさん!早瀬ユウカからお二人にシャーレの任務としてアビドス高校の支援を要請します!」

 「え、えぇ!?ゆ、ユウカさん!?」

 「──承知しました。シャーレ部員、火宮チナツ。これよりアビドス高校の支援に当たります」

 「ちょ、ち、チナツ!?何言ってんだ!?」

 

 

 「───貴様ら……どういう意味か、わかっているんだろうなぁッ!!」

 

 先ほどヒナが明確に言葉で表明した中立の意思を投げ捨てるかのような要請に驚くのは、その提案を行なったユウカに対して焦ったように声をかけるアヤネ他アビドス生徒達だけでなく、それを了承し臨戦体制を整えるチナツを慌てて止めようとするイオリも同様に困惑しつつチナツに声をかけていた。次から次へと自分に歯向かう不穏分子が増える現状に、もはや返事を待つことすらなく怒りのピークに達しているカイザー理事が大声を上げて手を掲げ、発破の合図を取る。次の瞬間、彼のそばに控える一人の兵士がバズーカ砲からロケット弾が放たれ、生徒達を爆炎に包む。無論、その程度でキヴォトスの人間がやれるはずもなく、煙の中から現れる、球状のシールドを展開したミレニアムの生徒の姿に、こうなることは分かっていたとはいえ大したダメージにもなっていない様子を見て舌打ちをした理事がそのまま捲し立てる。

 

 「ミレニアム、そしてゲヘナッ!貴様らの個人的な話では済まさんぞッ!ここは我々の土地で既に自治権を持つ生徒会も存在しないッ!貴様らがやっているのは明確な違反行為だッ!然るべき対応を──「いいえ」──なんだと?」

 

 

 「私、早瀬ユウカと火宮チナツ、それに銀鏡イオリはシャーレの部員として先生の意思に従いアビドス高校の支援に当たります。シャーレは各学園や組織の定めた規則や法律による規制や罰則を無視でき、これは連邦生徒会長によって付与された権限であり、何物にも侵されることはありません。従って、我々シャーレ部員の行動は帰属する学園に責任の所在を預けるものではなく、全ては超法規的機関、連邦捜査部シャーレの顧問、ハシラマ先生の意思によってただ一意に決定されるものです」

 

 「……は?」

 

 「え、えぇ!?シャーレって、そんなにヤバい組織だったの!?」

 「ん、私も初めて知った…」

 「え?は、ハシラマ先生、説明してなかったの?」

 「は、はい…連邦生徒会に、生徒を支援する組織ができた、と……当時は学校の存続のために余裕がなく、藁にもすがる思いでよく確認してませんでしたから……」

 「でも、先生のフットワークの軽さを考えたら納得です!」

 

 屁理屈のような言い分に間の抜けた声を漏らすのはカイザー理事。先程まで激昂していた様子から一転、ポツリと一言呟き固まったのは、当然溜飲を下げたからではない。目の前で繰り広げられる、場の雰囲気にそぐわない和気藹々とした会話に沸々と怒りの込み上げるカイザー理事が、再度攻撃の合図を取ろうとするが───

 

 「───クルセイダーⅠ型巡航戦車ぁッ!!砲撃───あが…ッ!?」

 「り、理事!?おいッ!お前ら前に出ろッ!理事をお守りしろッ!」

 

 「………なるほどね、分かりやすくて良いじゃん」

 

 針穴に糸を通すように人の波を掻い潜りカイザー理事の肩をその弾丸で突き刺すのは、先程まで指を咥えて見守ることしかできていなかったストレスをその凶弾に込める、ゲヘナの風紀委員会───否、シャーレ部員、銀鏡イオリその人。ニヤリと白い歯を覗かせて前に出る彼女が、アビドス生徒達と顔を合わせる。

 

 「風紀委員会───じゃ、なかったな。えっと、今はシャーレ部員、ゲヘナの二年生、銀鏡イオリ。よろしく」

 「同じく、シャーレ部員、火宮チナツです。よろしくお願いします、アビドス高校の皆さん」

 「よ、よろしくお願いします!」

 「わぁ!ゲヘナの風紀委員会の方々がお力添えをしてくださるなんて、心強いです!」

 「くっふふ〜!まさか、風紀委員会と肩を並べることがあるなんてね〜!」

 「勘違いするなよ!呉越同舟って奴だ!先生が関わって無かったら、お前らなんて出会って直ぐ様豚箱にぶち込んでるんだからな!」

 「はいはい。ヒナのいない貴方達に、大して期待も恐れも抱いてなんかないわよ。せいぜいアビドスの為に頑張ってちょうだい」

 「はぁ!?何だその物言い!!先にお前からぶっ飛ばしてやっても───ちょ、ば、バカ!誰に銃向けてるんだお前!!」

 「い、今、アル社長に敵意を向けましたよね!?う、撃っても構いませんか!?」

 「……はぁ、落ち着いてハルカ。今はあっちが優先だから」

 「イオリも、良い感じにまとまったのですから、変に煽らないで下さい」

 

 つい先程までは予想だにできないほどに息を吹き返し、自分達へと反抗の意思を明確に示す生徒の群れに、プツリと、脳内のCPUが焼き切れる音が鳴り響く。片膝を突き、撃たれた肩を抑えながら、部下の手を借り立ち上がるカイザー理事が、壊れたかのように不敵な笑いを浮かべていた。

 

 「……ふ、ふふ……そうか、そうかそうか……はっはっは……ハッハッハッ!!」

 「な、何あれ…いきなり笑い出した…」

 「ん、壊れた。頭なんか撃つから」

 「え?わ、私のせい?」

 「バカ言ってないで。ほら、社長、構えて」

 

 「……──どいつもこいつも、先生先生先生先生……決めた、決めたぞ」

 

 オートマタである彼の、頭部の赤い眼光が、ひび割れたままその光を拡散させ怪しく煌めく。彼の込み上げてくる怒りが周囲に伝播するように、皆が戦闘を予感し臨戦体制を整える。アビドス、便利屋、そしてシャーレの計11名が、視界を覆い尽くすほどの大隊を前にして、一歩も引く気配を見せずに───アヤネとカイザー理事が、啖呵を切った。

 

 「───先生の、あのバカの守ろうとしたアビドス高校を破壊しッ!アイツに見せつけてやるッ!!私に刃向かった報いとしてなあッ!!」

 

 「───そんなことはさせませんッ!!私も───そして先生も、貴方達なんかに負けることなんて、絶対にないッ!!」

 

 二人の言葉によって戦闘の火蓋が切られた。カイザー理事は己が欲望のため、そして、生徒達はこの場にいない、シャーレの先生の意思を信じて───この場にいない、一人の仲間の命運を託し、突貫する。

 

 

 

 

 

────そんな、生徒の想いに応えるかのように、シャーレの先生は現在───

 

 

 

 

 「ど、どうするんですか〜!?せんせぇ〜!!」

 「ハッハッハッ!!いやどうしたもんかのぉ!!」

 

 

 

 

 

────しっかり捕まり、装甲車にて基地まで護送中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
終盤でたたみにいくと言った手前、ストーリーにあまり進展がなくすみません…!
人数が増えると、いかんせん描写が足りず、キャラが浮いてしまい技術不足を感じますね……反省しなくては
それではまた次回

感想、評価ありがとうございます!
活動の励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。