Hashirama Archive   作:アテナ18号

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背中合わせ

 

 

 

 

 「ど、どうするんですか〜!?せんせぇ〜!!」

 「ハッハッハッ!!いやどうしたもんかのぉ!!」

 

 現在、シッテムの箱。

 片や大口を開いて大笑いし、片や慌てふためき手をブンブンと振って落ち着きなく先生に詰め寄る。いつもであればシッテムの箱に来た先生を歓待し雑談に花を咲かせる彼女が、一も二もなく柱間の元へ忙しない様子で駆け寄る理由は言わずもがな───ここ、シッテムの箱外、即ち現実世界における柱間の状況にある。

 

 彼は今、カイザーPMCに捕縛───と言っても、身体的な拘束を受けているわけではなく、あくまで任意同行という形で複数名の武装兵と共に装甲車に乗車しているだけであるが───され、アビドス砂漠にあるカイザーPMCの基地へと向かっている最中である。

 

 そんな状況の中、無言の車内の空気に耐えられなくなったわけではないが、わざと懐からシッテムの箱を落としそれを拾い上げる体でアロナに指紋を読み取らせ、シッテムの箱内にてアロナと合流へ至った。

 

 「まぁ落ち着けアロナ。取り敢えずホシノにまだ何事もなかったようで良かったではないか」

 「そ、それはそうですけど〜…こうしてる間にもホシノさんが黒服さんの元まで辿り着いちゃったらどうするんですかー!」

 

 「……そうさなぁ、それなんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……おや?』

 『───すまぬな、事前の連絡もなしに』

 

 先刻、ヒナがホシノと戦闘を行っていた頃───その常人離れした脚力により理外の速度で黒服の元まで辿り着いた彼が、ノックもなしに不躾に扉を開く。何事も二手三手先を読んだかのように他人を手玉に取る彼にしては珍しく意外そうな声色で柱間の登場に声を漏らすも、直ぐ様納得したのか首を縦に振って返事を返す。

 

 『…… あぁ、なるほど。───ホシノさんが動いた、と。そういうことですね』

 『相変わらず話が早いの。それで、アイツは?』

 『幸い、まだ顔を合わせておりません』

 

 『そうか……』

 

 私の言葉を信じるならですが、などという煽り文句を口にしないのは、柱間の為人を今更試すような真似に黒服自身が価値を覚えておらず、何よりも彼の性格を考えれば無駄な問答であることは分かり切っているからだろう。顎に手を当てて考え込む彼の、珍しく余裕のなさそうな顔色に茶化すことはせずただ無言で見守っていたところ、柱間が意を決して口を開くが、その予想できた問いに対する答えも同様に予め決まっていたようで淡白そうに黒服が言葉を返す。

 

 『……黒服よ!再三とはなるが先のホシノとの契約、考え直してはくれぬか!?この通りぞ!』

 『……顔をお上げください、先生。そして、申し訳ありませんが私の答えは変わりません』

 『しかし……』

 

 『そもそも、私はあくまでホシノさんに提案しているだけです。何も契約を強制しているわけではない。ホシノさんにその気がないなら契約が締結されることはありません。説得するならば、私ではなく彼女の方でしょう』

 『それはそうかもしれぬが……』

 

 『……やはり解せませんね』

 『なに?』

 

 黒服が机に肘をついて手を組みながら変わることのない顔で柱間を見つめつつ、そんなことを呟く。声色からは普段他人をおちょくるような、どこか楽しそうな雰囲気は微塵も感じられず、言葉通りに困惑の色を滲ませていた。

 

 『貴方は自分で理解していらっしゃる。私に声をかけても意味がない、その懇願に私が応じることもない、と』

 『………』

 『しかし、では先の言葉がダメ元や……無理を承知で分の悪い賭けをしているのかと言えば、そういう様子でもない。断られると分かっていて、貴方は私に何を期待しているのです』

 

 神秘の探究者と謳った彼が、目の前のたった一人の男の定義を確立するに至らず、そんな───気を配る価値の見出せない、夢見がちなただの一般人に振り回されている自覚を覚えて───心の中でチラつく僅かな嫌悪感に苛まれながら、しかし苛立ちを表立って見せることはなく、あくまで毅然とした態度で柱間に問いかける。真剣に、彼の言葉に耳を傾けていた柱間が、そんなことかと彼を悩ませる問いを一蹴するような発言の後言葉を続けた。

 

 『それは既に言ったはずぞ』

 『どういうことです?』

 

 『確かに、オレは心のどこかでお前に言っても無駄かもしれないという一種の諦観はある。勿論、まるっきり諦めたわけではないが、現実的に考えて情に絆されるような男ではないのかもしれない。それこそ、言葉で分かりあうことなど非現実的な理想論だとな』

 『ならば──』

 

 『だが、信じる者がおらねば理想は叶わぬ』

 

 『……そう言えば言っておりましたね。そんなことを』

 

 口元に小さく笑みを浮かべる柱間と対照的に、つまらなさそうにため息を吐いて首を左右に振る黒服。そんな彼の様子を見ても気分を害することもなく、ただただ柱間が自身の考えを黒服に語る。

 

 『手遅れになってからでは遅いが、手遅れになるその瞬間までは足掻きたい。ホシノに声をかけはするが、お前を無視したくもないからの』

 『それはそれは……高く買っていただけているようで光栄です』

 『あぁ、貴様の蒔いた種かもしれぬが、世話になっておるのは事実ぞ。感謝しておる』

 

 『……そうですか。……先生、悪いことは言いません。用が済んだのなら速やかに退室されることを願います』

 『ん?まぁ、もう出る予定ではあったが……どうした?』

 

 『……いえ、少々忠告が遅かったようで』

 

 一通り会話を終えて、室内に沈黙が訪れる。その静寂に耐えられなくなったのか黒服が柱間の退室を促すが、元よりその気であった彼が妙に急かすような発言に首を傾げ、思わず立ち止まり振り返る。勿論、依然として漆黒に染まる彼の顔色一つ変わるはずないのだが、彼がスマホを眺めてため息を吐く様子を見るに、何か都合の悪いことでもあったのかと推測するが、その答えは時間を要することなく扉の開閉と同時に行われた。

 

 『………クク、こいつがそうか…』

 

 ガチャリと、丁寧に扉が開かれ現れるのは、柱間を前にして中々にガタイの良いアンドロイドが一人。如何にも重役といった雰囲気でその喉元から重低音を響かせながら、不躾にも柱間を値踏みするかのような視線を注ぎ続ける。彼の入室と同時にゾロゾロと武装した兵士が室内に侵入し、柱間を取り囲んだ。

 

 『……穏やかな様子ではないの。貴様は誰ぞ』

 『おっと、これは失礼。私はカイザーコーポレーションの理事を務めている者だ』

 『なに?では……』

 

 『あぁ。アビドス高等学校の借金をしている相手でもある』

 

 カイザーPMC理事の言葉を耳にした途端、少々眉間に皺のよる柱間。あくまで自身が上だという態度も崩さず、クックと不敵な笑みを浮かべてカイザー理事が柱間に話しかける。

 

 『さて、お前は……シャーレの先生、そうだな?』

 『あぁ』

 『そうかそうか。いや何、アビドスの話で、是非とも一度話がしたいと思っていてな』

 『それは構わぬが、後にしてくれるか?今は用事があってな』

 

 『そうか、困ったな。私としては直ぐにでも話がしたいと考えていたのだが………』

 

 カチャッと音が鳴る。自身を取り囲む無数の銃口に今更動じることもないが───顔に険しさのま増す柱間。そんな彼の様子が面白おかしいのか、見下したような態度で心にもないようなことを口走るカイザー理事。

 

 『……何の真似ぞ。子供でもあるまい、冗談では済まぬぞ』

 『ふむ、何の話かな?私はただ、シャーレの先生と有意義な時間を過ごしたいと言ったまでだが…』

 

 『銃を下せ』

 

 たった一言。

 周囲を一瞥し放った言葉に、思わず息をすることも忘れて、無意識の内に一歩下がってしまったのは彼を取り囲む複数の兵士と、彼らを統率するカイザー理事その人。彼の愛する肉親を以てして悪寒を走らせるその圧に、よもや正面から受け止められる筈もなくハッと自分が怖気付いたことに気づいたカイザー理事が怒りを募らせる。

 

 『ッ、貴様…!』

 

 『もう一度言う、銃を──『先生』─…?…なんぞ?黒服』

 

 自身の名を呼ばれ振り返る柱間の視線の先には、やはり依然として紳士的な態度で焦る様子もなく振る舞う黒服の姿。いつもの不敵な笑いは影を潜め、真剣な声色で柱間に語りかける。

 

 『どうかここは、理事のお話に耳を傾けて下さってはいただけないでしょうか。私の顔を立てると思って』

 『………』

 

 『あくまで、私からのお願いです。柱間先生にとって、悪いようには致しませんので』

 

 『……!黒服、貴様……』

 

 柱間が、少々驚いたように目を見開いた。彼の言葉に少々引っかかったのもあるが、何より───形だけかもしれないが、初めて頭を下げる彼の姿に少々熱を帯びた自身の頭を冷やし目を閉じる。しばしの沈黙の後、ふぅと小さく息を吐いた柱間がカイザー理事に向き直り、口を開いた。

 

 『分かった、話を聞こう』

 『感謝します、先生。理事も、それで構いませんね?』

 

 『……チッ!……着いて来い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……まぁ、ソレに関しては大丈夫だと思っておる」

 「えぇー!なんでですか!」

 「そうさなぁ、勘ぞ!」

 「勘!?勘なんですか!?」

 「あぁ。まぁ落ち着け、勿論全てを信頼して賭けておるわけではない」

 「そ、そうなんですか?」

 

 「うむ。信頼するということは思考を放棄していいというわけではない。オレもオレで出来ることを考えねばな」

 

 そう言って目を閉じる柱間が瞑想するように意識を覚醒させると、眠りから醒めるように視点が現実へと移り変わる。どうやら目的地に着いたようで、車両が止まり慣性によって少し身体が揺れた後後部の扉が開き、兵士の一人が柱間の降車を促す。

 

 「着いたぞ、降りろ」

 「あぁ」

 

 薄暗い車内から外に出ると差し込む日差しに一瞬目が眩み瞼を閉じる。だんだんと目が光に慣れてきた頃辺りを見渡すと、見たこともない厳つい建造物が立ち並んでいた。

 

 「着いて来い」

 「分かった」

 

 少し辺りを見渡した後、大人しく命令に従う柱間が、さてどうしたもんかと心の中で呟きながら、今後のことを考えつつ、施設の中へと姿を消していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「く、クソッ!たかだか小隊にも満たない烏合の衆だぞッ!早く始末しろッ!」

 

 焦ったように怒鳴り散らすカイザー理事の眼前に広がるのは、未だ数に余裕を持ちながらも一向に好転しないカイザーPMCと生徒との抗争。傭兵や不良集団などと違い、鍛えられた職業軍人が洗練された動きで攻撃を仕掛けるも────その奮闘を嘲笑うかのように、拙い連携で蹂躙する生徒達。

 

 「覚悟しろッ!規則違反者どもめッ!」

 「あがッ!?」「うぐッ!」

 

 カイザーの憎き敵であるアビドスの最前線を切るのは、軽い身のこなしで華麗に相手の照準を逸らし、針を縫うように死角から的確に銃弾を打ち込む風紀委員会の切り込み隊長。巨大なシールドを展開する前線の兵士の脇へと滑り込み、中距離から放たれる神秘を込めた弾が、盾に接触した瞬間、辺りに拡散して背後に控える兵士もろともその重装備を打ち貫く。

 

 「ッ、チッ…!」

 「今だッ!やれッ!」

 

 イオリが空になったマガジンを捨てリロードを行おうとした矢先、弾切れに気付いて舌打ちを放ち後退しようとするが、そんな隙を見逃すはずもなく前線の兵士が叫ぶと一斉に彼女へとフォーカスを合わせた兵士が同時に機銃を発射する。バカにならない数の無数の弾丸が彼女を襲い、当たる瞬間、イオリがこれから予見される痛みに苦い顔をするが───

 

 「無事?イオリさん」

 「っと、サンキュー」

 

 「そ、良かったわ。シロコさん!」

 「ん、了解」

 「イオリさん!こちらへ!」

 「ッ、分かった!」

 

 滑り込むように間に割って入るユウカを中心に、小型の球状の膜が生成される。ある弾はそのシールドに弾かれ、ある弾はその球面に沿うように滑らかに軌道がずれてあらぬ方向へと飛んでいった。

 

 「うぉ!?」

 「ぐわぁ!!」

 「下がれッ!ミサイルポッドだッ!!」

 

 ユウカの声に応えるようにシロコがドローンを起動すると、シールドを展開するユウカと傍に控えるイオリ諸共、二人を巻き込みミサイルを放つ。爆炎と砂煙を巻き起こし前線に控える兵士を後退させながら、敵の目を奪うように煙幕で視界を遮ると、生徒達の上空を旋回する一機のドローンがイオリの元へ近付いていく。

 

 『イオリさん!補給物資です!』

 「サンキュー!よし!いくぞッ!」

 

 マガジンを交換し、再び前線へと駆け上がるイオリ。ユウカとイオリがそれぞれヘイトを買い、どんどんと前線を押し上げる。獅子奮迅の如き働きでカイザーPMCの戦力を削いでいくと、やはり遠方で控えるカイザー理事が悪態をついて苛立ちを募らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ボッカーン!!きゃはは!ポップコーンみた〜い!」

 

 一方、背中を預けて戦う彼女達の別の戦場では、イオリ達とは打って変わってド派手な爆発や機銃の乱射によって豪快に前線を押し上げていた。カイザーPMCの大隊を前にして全く見劣りしない大火力によって並みいる敵兵を打ち破り、着々と優勢に場を運んでいく。

 

 「覚悟してくださいね〜、全弾発射〜!」

 

 「ぐわぁ!!」

 「クソッ!アイツらを止めろおッ!!」

 

 場を荒らす主軸と化すのは、共に戦場にそぐわない明るい声色の両名。ムツキの投げ込んだ爆弾により後方へ気を取られている内に、間髪入れずに放たれるノノミのマシンガンによる掃射で戦線が崩壊していた。そんな二人を野放しにするはずもなく優先的に排除しようと狙いを合わせるのだが───

 

 「どこ見てんの、よッ!」

 「あぐッ!?」

 「あんまり前は張りたくないんだけどね…!」

 「ぐあッ!?」

 

 その隙をカバーするようにセリカとカヨコが殴り込み、ヘイトを集める。セリカが軽快な足を活かして滑り込み弾丸を避けつつ銃を撃って気を引き、カヨコは周囲の状況を確認して最低限のダメージを入れつつ、後方への注意を逸らし、物陰に隠れる。そうして意識が散漫になった頃、再び訪れる爆破と掃射。無尽蔵とも思えるカイザーPMCの軍勢に底が見え始め、活気付く生徒達とは裏腹に、やはり顔が曇るカイザー理事。彼が焦りを隠すように叫びながら発破の合図を取ると、砲塔が敵を捕える。しかし生徒達にはやはり焦った様子はなく、その態度が益々怒りを増長させ、一切の躊躇なく攻撃を仕掛けるのだが───

 

 

 「ッ、撃てエッ!!───………は?」

 

 「……全く、侮られたものね」

 「ひゅ〜!アルちゃんやるぅ!!」

 「かっこいいです〜!アルさん!」

 「ふふふ……これくらい朝飯前よ……!」

 

 確かに鼓膜を破かんばかりの轟音と共に放たれた120mm弾が───空中で爆散する。初速1500m/sという常人には目で捉えきれぬ理外の速度を持つそれが、味方に被害をもたらしたのは砲手の誤射などでは到底なく───爆炎と煙のはるか先、生徒の最も背後で控える悪のカリスマがその異名───自称ではあるが───に恥じない装いで、ただ一人、赤紫色のコートをたなびかせ、優雅に銃口を正面へと向けていた。

 

 「そ、そんな…ありえん……!」

 「あらそう。なら知っておきなさい、これが便利屋68の実力よ。分かったら次はもう少し便利屋に高い値をつけることね。次があるのかは分からないけれど」

 「───調子になるなよ若造がアッ!!」

 「理事ッ!ここは理事だけでも一時撤退を…!」

 

 「……ッ!クソッ…!」

 安全圏から眺めるカイザー理事が、側で自身を宥める部下の声に少し落ち着きを取り戻す。未だ下がらぬ溜飲を何とか呑み込み、周囲の状況を確認すれば、未だ劣勢とは言えぬまでも事態が好転する様子は見られず、このまま戦ってもジリ貧になるだけかと顎に手を当てて考える。今回の作戦のため、本来であればアビドス砂漠の果てに駐在するデカグラマトン大隊までも本作戦のため呼び寄せており、砂漠の基地まで戻ることができれば勝ちの目はまだまだあるだろう。そう考えて、何とか怒りを抑え込み、不服そうな態度をとりながらも背中を向けて姿を消していく。

 

 「…チッ!…私は一旦基地へ戻る」

 「ハッ!」

 

 「ちょ、待ちなさいよ!こらあ!!」

 

 遠目に見ても、カイザー理事がこの場から去っていく様子が見え、何とか押し返すことができたのかもしれないと喜ぶ者がいる一方、やはり怒りの覚めやらぬアビドス生徒、その筆頭であるセリカは背を向けるカイザー理事の姿に怒りを覚え怒鳴り散らすが、その行くてを阻むようにカイザーPMCの兵士達が壁を作る。

 

 「……どうしても通さないって感じだね」

 「…チッ!だったら良いわよ!アンタら全員ぶっ飛ばして、意地でも追っかけてやるんだから!覚悟しなさいよ!」

 

 敵将の撤退によって活気付いたアビドス勢力に対して、防衛戦と化したカイザーPMC。その後も生徒達による一方的な蹂躙が続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで……最後!」

 「ぐわあ!!」

 

 「…ふぅ。お疲れ様でした!皆さん!便利屋の皆さんと、風紀───あぁ、えっと、シャーレの皆さんも、本当にありがとうございました!」

 「別に良いよ、あんなの目の前で見せられて、こっちもむしゃくしゃしてたからさ」

 

 セリカが最後の一人の意識を奪うと周囲の敵対反応はなくなったようで、しばしの沈黙の後アヤネが戦闘終了の音頭をとると皆が肩の力を抜いて息を吐いた。ただやはり皆が皆キヴォトスでもそれなりに上位の精鋭集団であることを思わせるほどに見てからほどの消耗はしておらず、少しばかり時間が経てば皆の乱れていた呼吸も整ったようでなんでもないように話を続けるのだった。

 

 「お怪我をした方はおりませんか?」

 「あら、じゃあハルカを診てくれるかしら?一番弾を受けたのはあの子だから」

 「え?え?え?」

 「分かりました。……ハルカさん、少々失礼しますね」

 「え?あ、は、はい」

 

 素直に言葉に従うハルカが、その場で簡易的な治療を行うチナツになすがまま身体を明け渡す。元より上司の指示であるため逆らうはずもないのだが、日夜風紀委員会と抗争に明け暮れる彼女にとって、少し鈍感な気のある彼女でも自分でも風紀委員会に世話になっている事実に違和感を覚えるほどの常識はあり、複雑な気持ちで大人しく治療を受けていた。

 

 「……で、この後どうするの?貴方達は」

 「勿論、追いかける」

 「はい!シロコちゃんの言う通りです!このまま放っておけません!」

 「…行く当てはあるの?」

 

 カヨコの発言に、うーんと唸るアビドス一行。言われてみれば確かにと、彼の行き先に心当たりのあるはずもなく、折角攻勢に出られると考えた矢先に足止めを喰らってしまい、ガッカリと肩を落としてしまう。 

 

 「…えっと、カイザーコーポレーションの本社、でしょうか…」

 「多分違うと思う。まだ諦めてるような雰囲気はなかった、多分カイザーPMC関連の施設」

 「……あ!じゃあ、あそこじゃないですか?」

 「えっと、どこ?ノノミ先輩」

 「ホシノ先輩の手紙に書いてあった、アビドス砂漠にあるというカイザーPMCの基地です!」

 「あ、なるほど!確かに、その可能性は高いわね!」

 

 皆が顔を合わせて頷き、次の目標を定めて意気込む打倒カイザーPMC一行。元から先生に頼まれアビドスを最後まで護衛する気の便利屋は勿論、既に上司や仲間が撤退した風紀委員会の二名に関しても引き続きアビドスに協力する姿勢は惜しまない。勿論大前提として正義感から彼女達を見捨てておけないと言うのはあるのだが、第一に心配なのは───

 

 「なるほど、じゃあ早く行こう。先生が世話になってるらしいからな」

 

───やはり、先生の身の安全だろう。

 勿論、先ほどアルが激励した言葉の通り、先生を信頼していないわけではないが、それは彼の身を案じないということにはならない。イオリの言葉に数名が同意を示すように首を縦に振り、アヤネが一旦アビドス高校へ帰還して乗り物で現地へ向かおうと提案した矢先───

 

 「……あれ?」

 「ん?アヤネちゃん、誰から電話?」

 「えっと……すみません、知らない番号ですね……」

 

 アヤネのスマホの着信音が鳴り響く。このタイミングで誰からだろうと───一瞬、先生からの連絡であることを内心期待しつつ───スマホを覗けば、見たことない番号からの連絡で、少し訝しむアヤネ。恐る恐る電話に出たアヤネが───次の瞬間、驚き叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────。

 

 「…………………」

 

 カリカリと、ペンの走る音と、時折聞こえるのは飲み物を小さく啜る音。ただ一人の人間が作業をするには些か広すぎる、静寂の支配する大きな部屋で、顔色一つ変えずに事務仕事をこなす少女が紙の束を処理し終えると小さく息を吐き、すこし首回りの凝りをほぐすように軽く首を捻る。

 

 「…………ん……」

 

 人前で見せることのない、少し弱みを曝け出したような小さな吐息は誰にも届かず虚空へと消えていき───そんな、一分にも満たない休憩を終えると誰の視線があるわけでもなしに、文句の一つも言わずに元の作業へと復帰する。その態度こそが、彼女の、一見冷徹そうな瞳が仕事へ臨む彼女の姿勢から来る誠実さの表れであることの何よりの証拠だろう。

 

 「…………ん?……」

 

 そんな折、彼女のデスクに控える固定電話の着信が鳴り響く。ただの電話に少し迷ったように手を止めて受話器を見つめるその仕草は、一見どこか優柔不断な様子に見て取れるかもしれない。

 

───しかし、彼女の脳裏をその1コール間という瞬く間によぎるのは、事前に聞いていたアポイントメントの話であるならば────この部屋の、全面ガラス張りの窓から見える景色と合わせて、地上よりはるか高層のビルの一室であることを考慮すれば、中々に組織の重役であることが窺える。

 

 少し考えた仕草を見せた後に───先方を待たせるわけにもいかず、手を止め受話器を手に取った、清潔感の漂う少女が、電話越しに口を開いた。

 

 

 

 

 「───はい、こちら連邦生徒会行政官並びに会長代行───七神リンです。どういったご用件でしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
やっと終わりが見えてきた……綺麗に話を畳みたいけど、ちょっとやっぱり人数多すぎたなってなる今日この頃です、あんまり風呂敷広げすぎてもいかわなぁ……
それではまた次回

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