Hashirama Archive   作:アテナ18号

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前回から日が空いてしまい大変申し訳ありません!
細かい事情は活動報告に載せておりますが、端的に言うとエアコンが壊れてダウンしておりました……申し訳ない。
今週からまた投稿を再開しますのでよろしくお願いいたします!


一騎当千

 

 「はぁ……はぁ……!クソッ!!あのクソガキどもが……ッ!余計な手間をかけさせる…ッ!!」

 「理事、いかがいたしますか?」

 「基地へ連絡しろッ!!待機させている対デカグラマトン大隊を全て集結させるッ!!」

 「は、直ちに」

 

 「……クソッ!!」

 

 撤退するカイザーPMC理事が怒りに身を任せ拳を壁面へ叩きつければ装甲車の重厚な内壁と金属でできた拳がぶつかり合う鈍い音が車内に反響し、彼の部下に緊張感を覚えさせる。元よりそこまで喧嘩早く怒りっぽい性格でもないが、それは単に普段彼の立っている立場が上下関係の前者に位置するからであり、久しく見ていない窮地に立たされる彼のピリついた雰囲気が周囲にも伝播し、部下一同が出るはずのない唾を飲み込むほどの緊迫感に苛まれていた。

 

 「…おい、前線はどうなった」

 「は、は!……ロストコンタクト、おそらくは壊滅したものかと」

 「……チッ」

 「………」

 

 部下の言葉に、予測できていた返答とは言え万一の希望を抱いて尋ねてみれば何のことはなく案の定予想通りの、期待を裏切る言葉に更に苛立ちを募らせる理事が腕を組んでふんぞりかえる。人差し指を立てて二の腕をこづけば、人肌とは異なる金属同士の軽微な衝突音がメトロノームのように反響し、その一定のリズムがやはり彼の部下に余計な重圧を与えていた。

 

 「……おい!」

 「は、は!何でしょうか」

 「早く連絡を取れッ!何をしているんだッ!」

 「そ、それが……」

 「なんだッ!」

 

 無言の空気に耐えられないのは理事も同様なのか、言葉の端々から感情を滲ませながら怒鳴り散らす。そんな彼の視線の先には、先ほど基地への連絡を命じられた武装兵が一人。大隊の招集を命じたにも関わらず先ほどからその旨の通信を行わないため、よもや圧に呑まれて閉口したのかと勘違いした理事が声を荒げるが、どうやらそういったわけでもなく気まずそうに腰を低くして兵士が口を開く。

 

 「基地と、連絡が取れません…」

 「は?ふざけているのか、貴様」

 「い、いえ!しかし、返事がなく…」

 「ジャミングか?機器の故障か?」

 「いえ、そのいずれでもないようで……」

 

 「……チッ!ったく、何なんだ…!貸せッ!」

 

 痺れを切らした理事が部下に当たり散らすように声を上げて手を伸ばせば、慌てて通信機を理事に手渡し恐る恐る様子を伺う兵士。ひったくるように部下の手から機器を奪った理事が苛立ちを隠すことなく口元持っていった、その刹那───

 

 

 「───ぐお!?」

 「ッ!!なんだ!?」

 

───轟音と共に、車体が大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ば、バカやろうッ!なに勝手に撃ってんだッ!!」

 「い、いや、だってカイザーのマーク付いてたし…」

 「だからってこっちから仕掛けるバカがいるか!!」

 

 視界の先、爆炎に包まれる一つの装甲車を眺めるのは共通のヘルメットが特徴的なチンピラ集団、カタカタヘルメット団。そのリーダー格と思われる、特徴的な赤い衣に身を包む少女が、部下に対して声を荒げていた。

 

 「でも、先生ならこうしたぜ、リーダー」

 「そーそー!アタシらは心を入れ替えたんだからさ、ここは景気良く…」

 「〜〜〜ッ!!あぁもう!!先生先生って、あん時と言い本当に迷惑しかかけねぇな、テメェらは!!───おいッ!!構えろッ!!やるぞお前らッ!!」

 

 そう言って、周囲に控える大勢───と言っても、数えるのにそれほど時間は要さないほどの小隊に過ぎないが───に指示を飛ばすヘルメット団のリーダー。部下の勝手な暴走で撃ち込まれた対戦車用のロケット弾を受け、しかし破壊に至らず急停止する車内から現れることが予見されるカイザーPMCの兵士達。幸いにも周囲に他の敵兵はなく、数で言えば自分達が有利であることは疑い様がないが、自分達のようなはみ出し者の集まりと職業軍人では個々の練度や装備に圧倒的な差が存在する。事実として────ここに来るまでにも、唐突に始まったカイザーPMCの侵攻で事態も飲み込まぬままに随分と数を減らしてしまった。

 

 「いくぞッ!!幸い相手は少数だッ!ぶっ潰してやるッ!!」

 

 故に、やられっぱなしが性に合わないのはこういった寄せ集め集団の性なのだろう。リーダーの掛け声で士気を高めた集団が、声を上げて銃を構える。未だ動きを見せない不気味なカイザーPMCに嫌な予感を覚えながらも、今か今かと衝突の時を待ち構えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ユウカさん、次の路地を右に」

 「分かったわ。……にしても、ひどいわね」

 「あぁ、ゲヘナでもそうそう見ないぞ、こんな惨状……」

 

 車窓から外の景色を眺めて、苦々しく呟くのはゲヘナの風紀委員会所属、銀鏡イオリ。破壊という一点に於いては見慣れた光景である瓦礫の山々や、時折すれ違う気絶して倒れ込む路上の人々に、そこまで表情を歪める理由はその景色がいつまで経っても変わることなく視界に映り続けるからだろう。

 

 『柴崎ラーメンは無事かしら…』

 『…今は無事を祈ろう、セリカちゃん』

 『事が全て片付いたら皆んなで食べに行きましょう!勿論、先生とホシノ先輩も連れて!』

 『賛成』

 『あ、いいな〜。ねぇアルちゃ〜ん、私達も食べに行こー、これ終わったらさ』

 『え、えぇ?いや、それは……その、アビドスの子達と先生との団欒が終わってからで良いでしょ……?その、無粋じゃない?そういった祝勝会に割って入るのは…』

 『…社長、小声で喋ったつもりだろうけど全部音入ってると思うよ…』

 『え、えぇ!?嘘ぉ!?』

 『あ、あ、あ、つ、通話切った方がよろしいでしょうか!?』

 

 「…ったく、便利屋の奴ら、こんな時にも緊張感がないんだから」

 「ふふ、でも、良いんじゃないですか?今くらい。ずっと気を張り詰めたままというのも気が休まりませんし」

 

 ユウカの運転する、連邦生徒会から支給された車両の助手席と後部座席にそれぞれ座る、風紀委員会の二名以外に通信端末越しに響くのは、言わずもがな先ほどまで行動を共にしていたアビドスと便利屋の面々。あの後カイザー理事を追って基地方面へと向かうこととなった一行が、流石に歩いて行くには時間を要しすぎるため一旦各々が分かれて、シャーレの一行はユウカの乗ってきた連邦生徒会の車両に、アビドスは学校の備品である車両に、便利屋は仕事で使っているレンタカーに乗って、それぞれが基地へと向かうこととなった。

 

 そして現在、通話を繋ぎっぱなしにして互いに常時連絡を取りつつ現地へ向かっている最中である。

 

 「……それで、大丈夫、なのかしら……いや、実力を疑ってるわけじゃないのだけれど」

 「なんだ、ユウカ。不安なのか?」

 「えぇ。流石に一人は不味いんじゃ……。逆に、イオリさんは心配にならないの?」

 

 「…んーまぁ、噂は聞くからな。まぁウチの委員長ほどではないだろうけど」

 

 凄惨な街並みを視界の端に収めながら言葉を交わす、深みを持たせた彼女らの会話の話題は────先刻、カイザーPMCを一時撃退した際にアヤネの元に届いたとある一人の協力者に関する連絡。電話越しに出たその人物に、素っ頓狂な声を上げたのが皆の耳にも未だ残っており───その電話に出た少女の、余りにもインパクトの強い口約束に、疑心暗鬼になっているのが今のユウカである。

 

 『ユウカさん達は、同じシャーレ部員ですよね?実際に戦うのを見たことはないのですか?』

 「ハシラマ先生のお仕事のお手伝いは基本事務作業ですので……ハシラマ先生が何処かしら他校に出向き問題を解決するのなら兎も角、先生自らシャーレの仕事で生徒をそういった戦闘行為に関与させたがりませんから」

 『あー、確かに。……でも、本当に一人で足止めなんて出来るのかしら?カイザー理事も逃げ帰ったとは言っても、一緒に着いて行った護衛も出鱈目な数居たわよ。それこそ、私達が皆んなで相手どった大隊にも引けを取らないくらい』

 「まぁ、その自信があるからあんなこと言っただろ?任せるしかないだろ」

 

 『……そうですよね』

 

 ユウカに代わり、アヤネの不安そうな声が通信端末越しに皆の耳に届く。活気付いていた彼女が、こうも声を曇らせるのは、やはり先ほど自分にかかってきた───少なくとも表面上は───善意100%の慈悲深い言葉による罪悪感なのだろう。

 

 

 

 

───はい、もしもし、アビドス高校一年生、対策委員会所属、奥空アヤネですが……。

 

───失礼いたします。唐突なお電話申し訳ありません。私、トリニティ総合学園三年生、ティーパーティー所属───

 

 

────桐藤ナギサと申します。

 

 

 

 『……でも、話には聞いてたけど、慈悲とか慈愛とか……本当に絵に描いたような聖人だったわね。詳しいことは聞かずに、こっちの要件を素直に聞いて……普通ゲヘナの風紀委員長みたいにもうちょっと慎重に判断しそうなものだけれど……』

 「む……ウチの委員長が冷たいって言いたいのか」

 『あ、いや!そういうわけじゃないわよ!』

 『あらあら、みっともないわね。こういう時にも変にトリニティへの対抗心かしら?ゲヘナの風紀委員は』

 「なんだと!?」

 「イオリ。先の言葉は失礼ですよ。相手方にも、ヒナ委員長にも」

 「う、それは……その、ごめん」

 『いや、その……私の方こそ無神経だったわ、ごめんなさい』

 

 『二人とも、仲直りできて偉いですよ〜!今はナギサさんのお言葉と───"その人"を信じましょう!』

 

 ノノミの言葉に、顔を合わせることはないものの各車両に乗り込む各々が言葉を飲み込み意識を切り替える。先ほどまで雑談の絶えなかった車内は静寂が包み込み、ある者は銃の手入れを、ある者は武装や残弾の確認を行い、間もなく行われるであろうカイザーPMCとの邂逅を予見し、士気を高めていた。

 

 

 

───故に。

 

 

 「ッ!?何!?今の音!」

 『こちらも聞こえました!何か、重たいものが衝突したような……』

 「分かりませんが……急ぎましょう!ユウカさん!」

 

 唐突に、遠方から響いたであろう───それだけの距離を以てして、皆に緊張感を与えるほどの轟音であったことは確かである───鈍い音に、付近を走る三台の車両が速度を上げる。何か嫌な予感を覚えるものの、間違いなく言えることはまずカイザーPMC関連のいざこざであることは間違いないだろう。先ほどの彼らとの衝突から数十分、息を吐く暇もなく再びの戦闘に、やはり自身を奮い立たせる一行。大隊を前にして、一切の気後れを見せず気を張り詰めていた───

 

────の、だが。

 

 「……な、なに、これ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────先刻。

 

 『……なるほど、カイザーPMCが』

 「は、はい。ですので、その、今先生に会いにアビドスへ向かっているというトリニティの方が誰かは分かりませんが、今はアビドスに足を踏み入れない方が良いかと……」

 

 戦闘後、唐突にアヤネに届いた連絡はこの非常時において彼女を驚愕させるのに十分な内容であったようで、その要件自体は、現在私用で先生に会うためにアビドス高校へ向かっている一人のトリニティ生徒に関して、入校許可を得るためお伺いを立てたいという至極真っ当なモノであった。その依頼主がキヴォトスにおける一二を争うマンモス校のトップでなければ。

 

 『……アヤネさん、この非常時にお手数をおかけしてしまい大変申し訳ありませんが、少々頼みがあります』

 「え?」 

 「ちょ、ちょっと。ナギサさん、って言ったっけ?後にしてよ、今こっちはこっちで忙しいんだからさ」

 『無理は承知の上です。アヤネさん』

 「は、はい。何でしょうか?」

 

 『どうかトリニティに、アビドスへのお力添えの許可をいただきたい』

 

──────。

 

 「───はぁ!?」

 「と、トリニティがですか!?な、なんで!?」

 

 スピーカー越しに聞こえる、予想だにもしない言葉に返事が一瞬遅れ、素っ頓狂な声を上げるのはアビドスの生徒ではなく銀鏡イオリ。彼女の心境を代弁するようにアヤネが言葉を発するが、電話口の彼女はさも平然とした態度で粛々と、事前に用意していた文章を読み上げるように淡々と言葉を連ねる。

 

 『何故も何もなく───困っている方に手を貸すことの、何が疑問なのでしょう』

 「だ、だって、お前!そんな、気軽に人助け感覚、じゃないんだぞ!外交問題にだってなりかねないし、ウチの委員長だって……!」

 

 『ふむ、であれば───これが、トリニティ総合学園。そう受け取っていただければ幸いです』

 「ッ!!お前ッ!!」

 「イオリ」

 『……申し訳ありません。蔑む意図があった訳ではありませんが───しかし、言わんとすることは理解しています。その上で、しかしやはり、この差し伸べる手を引く理由が私には見つけられません』

 

 アビドス生徒でもないイオリがナギサに食ってかかるが、そんな彼女を軽くあしらうティーパーティーの言葉はどこかシャーレの意思にも近しい博愛精神を感じさせるもので、ごくりと唾を飲み込んだのは、果たしてアビドスの生徒に限らないのかもしれない。

 

 「その、本当によろしいのですか…?」

 『はい。寧ろ、お願いしているのは私の方ですから。…それでは、了承していただける、ということで構いませんか?』

 「は、はい!是非お願いしたいです」

 『ふふ、分かりました、感謝いたします。この非常時における豪胆な選択、愛する母校を守るための迅速な決断に敬意を表します、奥空アヤネさん』

 

 「くふふ〜!アルちゃ〜ん、器がおっきいねぇ〜、トリニティの子は」

 「わ、私も負けてないわよ!」

 「……どうせまた何か企んでるだけでしょ、ティーパーティーは」

 

 トリニティの協力が取り付けられたことに喜色を滲ませるものがいる一方、特にトリニティとの確執を覚える風紀委員会等のゲヘナの人間や元来嗅覚の鋭いカヨコなどはその慈愛で取り繕う仮面の下の胡散臭さを感じ取って不快そうな顔を隠そうともしない。そんな彼女らを置き去りに、アビドスの生徒とナギサの間で話が進んでいく。

 

 「…えっと、それで、お力添えというのは具体的には何を?」

 『文字通り、お力添えを。その撤退中のカイザー理事の足止め、こちらでお引き受けいたしましょう』

 「え、えぇ!?お、お力添えって、文字通りお力添えですか!?その、金銭面的な支援とかではなくて!?」

 「お、おい!流石に不味いだろ!私はシャーレの仕事って名目があるけど、お前はトリニティのトップなんだぞ!その名目で手を貸すのは!」

 

 『お二人共、再三になりますが───それが、トリニティ総合学園の意思、ということです』

 

 「ッ、……ふん!」

 「……わ、かり、ました。感謝します!……で、でも、その、どうやって、でしょうか?トリニティからアビドスまではかなりの距離があるかと思いますが……」

 「ん、確かに……今から来ても遅い」

 「そうですね〜、ナギサさん。何かお考えがあるのですか?」

 

 やはり、電話越しにも感じる、どこか覇気と圧を孕む言葉に彼女が一高校の、組織のトップであることを自覚する。彼女の言葉を否定することも遮ることもできずに、喉まで出かかった言葉をゴクリと飲み込んで彼女の言葉を了承するが、直後に出てきたアヤネの疑問にアビドスの生徒達が一様に首を傾げると、何がおかしいのか小さく微笑むナギサが何でもないように返事を返した。

 

 

 

 『いるではありませんか。現在、アビドスの近くまで足を運んでいる一人のトリニティ生徒が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────言葉を失い、立ち尽くすアビドス生徒に、シャーレの人間に、便利屋達。各々がタイミングは違えどほぼ同時に現地に辿り着き、銃を握って車外に出るものの、戦闘に介入しない────否、することが許されない。

 

 視界の先では今もなお無数の兵士が銃を乱射し、戦車の主砲が火を吹きパワーローダーが両肩に搭載した機関銃を掃射する。その火砲の数を見ればおそらく互いの大隊の衝突は想像に難くないが────先の、ティーパーティーの会話で、彼女らは知っている。目の前の光景を見て尚も信じ難い事実として────おそらく、視界に広がる、火炎と粉塵に包まれる戦場にて、カイザーPMCの前に立ちはだかっているのが───たった一人の生徒であることを。

 

 

 「────ギァ゛ッ、ハハハははハハハッ゛ッ゛!!死ィ゛イネェぇえええ゛エエ゛ッ゛ッ゛!!!」

 「や、やめ───ぐが……ッ!?」

 「クソォッ!!止まれッ!!止まれェッ!!!」

 

 

 「……え、えっと、あの方が、ツルギさん、なんですか…?」

 「え、えぇ、シャーレの仕事での様子とは、随分違うけれど……」

 

 一騎当千。

 このキヴォトスにおいて特に顕著な傾向として、数より個、というのは存在する。勿論ゲヘナの風紀委員会や目の前で暴虐の限りを尽くす、剣先ツルギを頂点に頂く正義実現委員会に見られるような、数の暴力も存在するにはするのだが───ゲヘナの少人数から成るテロリスト集団や、アビドスのような片手の指の数ほどの集団や───七囚人を鎮圧した実績を持つSRTの精鋭部隊が基本的に小隊での行動であることも、個の有する力の及ぼす影響が大きいことを示唆する何よりの証拠だろう。

 

 で、あるならば。

 

 存在するのだ。

 有象無象の、大隊にも及ぶ風紀委員会を蹴散らす便利屋68のような精鋭を。

 

 たった一人で片手間に踏み潰す、空崎ヒナのような怪物が。

 

 

 

 歩く戦略兵器、と謳われるような人間が。

 

 

 「ッ、ツルギさん!!後ろッ!!」

 「ギァ?」

 

 「────ッ、てェッ!!!」

 

 「───ッ、グが……!」

 

 「つ、ツルギさ───ッ」

 

 目の前で繰り広げられる殺戮ショー────比喩表現であって、勿論本当に殺しているわけではないが───に気を取られていた一行だが、ツルギが一瞬足を止めた隙に彼女の視界の端、巡航戦車の主砲が光を放ち、次の瞬間、ツルギの頭を目にも留まらぬ何かが通り過ぎ、鈍い音と共に彼女が残像を描いて宙を舞う。痛々しい光景に視界を歪めるのも束の間、流れ弾が一行の元に雪崩れ込み、咄嗟にシールドを展開する。

 

 「危ないわね……って、そうじゃなかった!つ、ツルギさんは──きゃ!」

 「うぉ!?……ぶ、無事、なのか……?」

 

 「……問題ない、あの程度」

 「ほ、本当に大丈夫そうですね……」

 

 ユウカが何とか敵の攻撃を防いだのも束の間、そういえばと空を舞ったシャーレ部員の安否を確認しようと辺りキョロキョロと見渡していた所、彼女らの輪の中にドスンと地面に亀裂を作りながら、獣のような前傾姿勢で着地したツルギがゆっくりと面を上げる。仲間のはずのその姿に恐る恐るイオリが話しかけるが、声に反応したツルギが首を傾け視線を向けた瞬間、先生の前で見せる乙女な姿とは似ても似つかない、おどろおどろしい目つきに小さく悲鳴をあげた。

 

 「け、剣先ツルギさん!わ、私はアビドス高校対策委員会の奥空アヤネと言います!その……」

 「話は後だ。事情は把握してる。先ずは目の前のアイツらを片付けてからにしよう」

 「あ、は、はい!」

 

 アヤネの言葉を遮るように落ち着いて語る彼女の姿は、先の戦闘狂には見えなかった、リーダーの風格を漂わせる。暴力を見せつけ、その上で理性的な彼女の姿に畏敬の念を覚えると共に頼り甲斐をヒシヒシと感じ、体に緊張感が走っていた。

 

 「………」

 「……な、何かしら」

 

 「(怖い怖い怖い怖い怖い!な、なんで私の方をジッと見てくるのよ〜!?)」

 

 強気なセリカやイオリまでもが口を閉ざしツルギの雰囲気に飲まれる中、ゆっくりと皆を一瞥する彼女がアルを見つけてピタリと首の動きを止めてジッと見つめ続ける。

 

 「…お前、スナイパーか」

 「え?え、えぇ……そ、そうだけど…」

 

 「そうか、なら援護を頼む」

 「え?あ、うん……わ、分かったわ」

 

 いったい何をされるのだと震えながら身構えていたアルに飛んできたのは、意外にも素直な支援要請で、いい意味で拍子抜けしたアルがホッと息を吐いて銃を構える。

 

 「……前線は、私が一人でやる。お前達は自衛か……中距離からの支援射撃に専念してくれ」

 「な!お、おい!それは無茶が……いやなさそうだけど!で、でも!」

 「言いたいことは分かる。ただ私は基本ワンマンプレイだからな……戦場での背中の預け方を知らない。お前達を巻き込んでしまう」

 「ま、巻き込むって……いやでも、正義実現委員会の仕事とかはどうしてるんだよ、普段」

 「私ごと、だ」

 「す、すごい組織ですね……」

 

 「……すまない、お前達の実力を疑ってるわけじゃないが万一もある。理解してくれ」

 「あ、いや、頭は下げなくていいから!……わ、分かったよ、意地張って悪かった。大人しく後ろで待機しとくよ」

 「助かる。それと───」

 

 「くたばれッ!!」

 「あ!危な───」

 

 

 

 

 

 「───お前も、私のことは気にせず掃射してくれて構わない」

 「あ、はい!わかりました〜!」

 

 流石に長話が過ぎたのか、痺れを切らした敵の一人が狙いを定めてツルギの脳天に射撃をお見舞いするが、少し体幹がぶれて仰け反ったものの、反った身体を再び立てて見せる額に傷一つなく、ノノミに一言伝えて正面へと向き直る。暫定的なリーダーのいない寄せ集めの集団を統率するように皆の前に出て、両手に抱えたショットガンを地面へと威嚇のように叩きつけると軽い揺れと共に大地に亀裂が入り、眼前に広がるカイザーPMCが怖気付いたように片足を下げた。

 

 皆が銃を構え、カイザーPMCと睨み合う。次の瞬間、アヤネが声を上げて開戦の狼煙が上がった。

 

 「───で、では、皆さんッ!!戦闘開始ですッ!!」

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
あと2.3話でアビドス編の本筋のお話も終わりですかね……やっと終わりが見えてきた少し気が楽です。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます!
今しばらく続きますが最後までお付き合いいただければ幸いです!
それでは、また次回

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