Hashirama Archive   作:アテナ18号

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幕間2
桜花爛漫ー忍びの心得


 

 

 

 「────」

 

 ジーっと、とある動画を目を輝かせ見つめる一人の少女。

 目は口ほどに物を言うとあるが、その燦然と輝く瞳以上に彼女の心境を写したような大きな尾が興奮を抑えきれないように左右に揺れていた。

 

 「───あ」

 

 無言で動画を眺めていた彼女が小さく声を漏らす。

 と言うのも彼女がこの動画を見るのは今この一再生が初見ではなく、早朝───最近世間を騒がせているとあるニュースの影響か急浮上したこの動画を見つけ、その後朝の修行や支度まで忘れて食い入るように眺めているのだ。

 

 そんな彼女があっと呟いた理由は、もう何度も目と耳にした、それでも飽きることのない心を撃つキメ台詞を予見してだろう。

 

 

 

────忍とは、忍び堪える者。

 

 

 「わ……わぁ……!」

 

 某生物のように語彙力を失った少女が満面の笑みで口を開き、声にならない声を上げる。

 特定の言葉を口にしたわけでもないのにそのトーンや声色からは喜びを隠し通せないほどに感情が滲み出ており、動画を終えると無言でシークバーを戻して何度も再生を繰り返す。

 

 そうして画面に張り付くこと小一時間。

 空腹により時間の経過を認識した彼女が窓の外を眺めると、自身がこの動画を見始めた青暗かった空と比較して、思ったよりも外は明るみを帯び始めており自身がどれだけこの動画に───何より、()()()()に心を奪われていたのかを自覚するのだった。

 

 「……シャーレ……シャーレ……───あ!」

 

 もっと知りたい。

 そんな一途な思いで検索をかけた彼女の目に、シャーレの公式アカウントのツイートが目に飛び込んでくる。それが彼女に対してこれ以上ない吉報であったことは、大型犬のように左右に振られる彼女の尻尾を見れば一目瞭然だろう。

 

 

───本日は百鬼夜行連合学院に出張に出ております。御用の方は───

 

 

 最後まで文章を読まず、スマホの画面を消した少女が急いで支度を整える。先ほど鳴っていた腹の虫のことなど忘れて扉を開け放つ彼女が、喜色満面、大きな声で叫ぶのだった。

 

 

 「───今行きます!──先生!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ……悪くないの、良い着心地ぞ!」

 「えぇ、よくお似合いですよ」

 『おぉ!凄い様になってますね!先生!』

 

 「あぁ、ありがとう」

 

 店主とアロナに感謝を述べる柱間が見つめる先は店内に設置された大型の鏡。そこにはいつもの普段着ではなくいつの日か────彼が火影として在籍していた頃に着用していた、締め付けを感じさせず通気性の良いゆったりとした着物と袴に似たデザインのモノに袖を通していた。

 

 場所は、百鬼夜行連合学院にある有名な仕立て屋。

 なぜ彼がそこに足を踏み入れているのかと言えば、シャーレに数日前かかってきた一本の電話が理由である。

 

────百夜ノ春ノ桜花祭、通称、桜花祭。

 

 元々百鬼夜行連合学院とは観光業を中心に発展してきた自治区であり、様々な文化と生徒が交わり地域の伝統として根付いてきた歴史の深い自治区である。人力車が日常的受け入れられ、柱間が安心感を覚えるほどの心地よいアナログ感はそれこそミレニアムとは対照的な場所だろう。

 

 そんな観光業の中でもこの自治区で一際力を入れている行事が今回の桜花祭しかり所謂お祭りであり、今回シャーレに連絡を入れた百夜堂の看板娘、河和シズコの所属するお祭り運営委員会はその企画から運営、全般的な管理まで全てを一手に担う、百鬼夜行にとっては中枢を担うと言っても過言ではない組織であり、そんな彼女らから嬉しいことに桜花祭という百鬼夜行のお祭りの中でも最大規模の祭りへの招待が届いたのだ。

 

 ただ、やはり噂のシャーレの先生を招待したいというのもあるが、どうやら単に楽しんで終わりと言うわけではないらしい。

 自身の───シャーレの本懐を忘れぬよう身構え百鬼夜行に向かったわけだが───折角の祭りだからと服装を整え、現在に至る。

 

 『先生、この後はどうされますか?まだシズコさんに呼ばれた時刻まで時間がありますが……』

 「そうだのぉ……一応、シャーレとして動く可能性もある故、生徒会に一言断りを入れておくべきか……お、丁度良いな」

 

 アロナの言葉に思案していた柱間が視界の先より迫る人力車を見つけ、呼び止めるように手を上げるとこちらに気づいた車力が笑顔で近づいてくる。そんな彼女に小さく微笑み返す柱間がジッと人力車を見つめていると───

 

 

 

 「あっあっ危ないですーーー!?」

 

 「ん?──っとと!」

 「わぷっ!」

 

 

───突如として、背後から誰かが柱間の方へと走ってくる。

 

 振り向きざまに彼女との避けられない衝突を理解した柱間が衝撃を受け流すように若干後ろへと数歩下がる形で少女を受け止めると、彼の胸に飛び込むようにして何とか立ち止まるのだった。

 

 「いた──くない…?」 

 「大丈夫か?」

 

 「は!す、すみません!えっと、大丈夫ですか!?お怪我などは……」

 「あぁ、気にするな。特に何ともない」

 「そ、そうですか…それは良か───

 

 

 

───え……?」

 

 柱間の胸に顔をうずめていた生徒が慌てて距離を取り頭を下げる。見ず知らずの人間に迷惑をかけたことによる後ろめたさと緊張感故だろうか、彼女の特徴的なケモミミと尻尾が強張りピンと張って固まっていた。そんな彼女を安心させるように何でもないように服の皴を伸ばし軽く整えると、安心したように彼女の体から力が抜けるのだが───自身と目を合わせた途端に、唐突に言葉を失ってしまっていた。

 

 「ん?どうした?」

 

 「───え、え、ええーー!!ま、ま、まさか───」

 

 「待てー!逃がさないんだから!」

 「ぬ?」

 「え!?も、もうこんなところまで!?」

 

 自身を見つめて固まる少女が遠方より聞こえる声にびくりと体を震わせて、涙目になって振り返る。その仕草と先ほどの様子、そして何より言葉から彼女が誰かしらから逃げてきたのは明白で、逃走する少女にぶつかるという何処かこのシチュエーションに既視感を覚えながら目を凝らす柱間。確かに必死な形相でこちらに迫る、数人の少女の姿を確認してもう一度目の前のケモ耳の特徴的な生徒に目を向ければ慌てふためきオロオロと取り乱していた。

 

 「えっと、えぇっと!ど、どうすれば!?」

 「…ふむ……」

 

 「──お待たせしました!」

 「───まぁ、良いか、後で考えれば。───よっと。おい!お前!」

 

 「え?あ、は、はい!なんでしょうか!?」

 

 二人の元に辿り着く人力車の車力が快活な笑顔で柱間に声をかけると、一瞬悩んだ後に人力車に乗り込み、少女に声をかけた。

 

 「何か訳ありだろう?お前も乗ると良い」

 「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「た、助かりました…ありがとうございます!」

 「なに、気にするな。悪い奴には見えなかったからの」

 

 ガラガラと、少し速度を落とした人力車に揺られながら二人が言葉を交わす。隣り合うと二人の身長差がより際立ち、まるで親子のように少女が柱間を見上げていた。

 

 「しかし大丈夫だったか?何やら随分追われておるようだったが…」

 「そ、それは───その……」

 

 「……ふむ、訳ありか。分かった、深くは聞かぬ」

 「えっと……よろしいのですか?」

 「あぁ、なに、誰しも人に言えない事情の一つや二つあるものぞ。勝手に連れ出したのはオレの方だしの。気にするな」

 

 

 

 「あ、ありがとうございます!イズナ、感激です!」

 

 

 

 「───貴様、イズナというのか?」

 「え?あ、はい!───は!そ、そう言えば名乗っておりませんでした!助けていただいた御仁にとんだ失礼を!」

 

 穏やかな顔で少女と言葉を交わしていた柱間が───名前を聞いた瞬間、少し目を見開いて、身を乗り出すように少女の方へ体を向ける。

 

 「百鬼夜行連合学院一年生、久田イズナと申します!」

 「……そうか、良い名だな」

 「そ、そうでしょうか?えへへ……」

 

 神妙な面持ちの柱間が少し目を閉じた後、微笑みながら彼女の名を讃えて再び微笑み背もたれに体を預けると、その言葉を受け取った字が嬉しそうに照れながら尻尾を揺らす。時折柱間の体と触れ合う彼女の尾の感触が、彼にこそばゆさと心地よさを覚えさせていた。

 

 「それで……その……」

 「おっ、すまぬな、オレも名乗らなければ。連邦捜査部シャーレの───「せ、千手柱間先生、ですよね!」──あ、あぁ、その通りだが……」

 

 「わぁ〜〜〜!!イズナ、感激です!まさか、本当に先生と出会えるとは思いませんでした!!」

 「ん?オレに出会える?」

 「はい!あの…こちらを今朝拝見いたしまして」

 

 名乗りを上げようとした柱間の言葉に被せるように彼の名前を口にしてズイッと身を乗り出し柱間に顔を近づけるイズナ。少し驚き片眉を上げて訝しむ様子を隠せない柱間が、イズナの発言に引っかかり尋ねるとスマホを取り出し画面を見せる。

 

 「……あぁ、今朝方チナツに頼んでおった連絡か。なんぞ、オレに用でもあったのか?」

 「はい!是非一度先生にお会いしたくて!」

 「ハッハッハ!こんな冴えない老いぼれに何のようかは知らぬが、嬉しい限りぞ!」

 

 「そ、そんなことありません!先生は冴えない老いぼれなどではなく、尊敬すべき立派な忍者です!!」

 「ん?忍者?……あぁ、もしかしなくともあやつらの動画を見たのか?お前」

 

 自虐しながら笑い声を上げる彼の言葉を、何故か必死に否定するイズナの言葉に首を傾げる柱間がイズナに尋ねながら───彼女の太腿に巻かれたモノを見て、あぁと納得の声を上げる。

 

 「はい!先生の巧みな忍具さばき……見事でした!!」

 「なるほど、脚に巻いたそれは飾りではなく立派な忍具ということか」

 「はい!先生ほどではありませんがそれなりに心得もあり───あ」

 

 「……ハッハッハ!技に磨きを掛けるのは良い事だが食を疎かにするようでは本末転倒よな!」

 

 「ち、違うのです!いつもはちゃんと食べてますがハシラマ先生に会えるかもしれないと考えると居ても立ってもいられず!」

 

 柱間としてはイズナから鳴る腹の音を少しデリカシーなさげにいじったつもりだったのだが、どうやら彼女にとってはそういう単純な話ではなく尊敬する忍に叱責されたモノと思い違い、必死に弁明を行なっていた。しかしその思い違いがその場で解消されるわけでもなく、結局笑いながら彼女の頭を撫でて口を開く。

 

 「そうかそうか!それは嬉しい限りぞ!……なら丁度良いな、少し飯にでもするか。オレも祭りと聞いてな、少し飯を抜いてきたのだ」

 「あ!先生も桜花祭を見に来たのですね!」

 「あぁ。実を言うとある人間から招待を受けてな、ただ祭りを楽しみに来ただけというわけではないのだが……うむ、ここら辺で良いか。おぉい、ご苦労だったの、適当な場所で降ろしてくれるか?」

 「了解でーす!ご利用ありがとうございましたー!」

 

 「あれ?もう降りちゃうのですか?中央通りに入ってからでも……」

 

 未だ祭りの屋台の立ち並ぶ中央通りからは距離があり、そんな場所で降りると言うモノだから疑問を覚えたイズナが柱間に質問する。

 

 「あぁ。……よっと。オレとお前が人力車に乗り込んだ所は見られておるからな。このまま突っ込んだらまた見つかるやもしれぬ。それよりは中央通りの数多の人の波に身を隠しながら、追っ手には亡霊を追い続けてもらった方が良い」

 「な、なるほど……!勉強になります!」

 「代金はこれで……うむ、ありがとう!ではな!……さて」

 

 代金を手渡し、その場を後にする人力車を遠目に眺めながら軽く手を振り見送った後、振り向いてイズナを見下ろす柱間。視線の先ではいちいち感化されやすい彼女の性が、やはり先ほどの柱間の言葉で必要以上に彼の株を勝手に上げて、目に見えて分かりやすく耳や尻尾にその態度を表していた。

 

 「イズナよ、オレは百鬼夜行の祭りは全然知らぬからな。案内してくれるか?」

 「あ、はい!!お任せ下さい!先生!!」

 「ハッハッハ!頼りになるの!では行くとしようぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───ほぉ!確かに良い眺めぞ!圧巻よ!」

 「はい!イズナはご神木と百鬼夜行の街並みが同時に見渡せるこの場所が、大好きなんです!」

 

 サクラ大福を手に辺りを一望する二人がいるのは、とある家屋のベランダ。一般向けに開放されているそこから周囲を見渡すと先のイズナの発言にもある通りやはり一番目を引くのは巨大なご神木で、祭りの名を象徴するかの如く天にも届かん巨大な木が満開の桜で百鬼夜行連合学院全体を彩っていた。

 

 「……本当に良い場所ぞ。この光景を眺めていると里を思い出す」

 「里?ですか?」

 

 「あぁ、オレのいたな。……キヴォトスと違って随分"あなろぐ"な場所でな、車や便利な機械などなく、果ては建物も木造ばかり。キヴォトスに比べれば利便性は遠く及ばぬが……里全体を覆う無数の木々が風に揺られ木の葉の掠れる自然の音を奏でる、穏やかな場所であった」

 

 目を細め、動画でも、そしてここに至る道中でも見せなかった表情に────吸い寄せられるように視線を注ぐイズナ。横から茶々を入れることもなく言葉を失い暫くの沈黙の後、柱間が無言で大福を頬張ったタイミングで意識を切り替え、恐る恐ると言った様子でイズナが尋ねる。

 

 「その……キヴォトスと違って、というのは?先生はキヴォトスの方ではないのですか?」

 「ん?何ぞ貴様、随分オレに執着しとった割にはそんなことも知らぬのか?確か、動画でも言うとったと思うが……」

 「あ、あれ?そうでしたっけ?す、すみません!イズナ、先生の忍者のお話にばかり気が向いてまして…!」

 「……そうさな、イズナの言う通りオレはキヴォトスの外から来た人間ぞ。さっきも言ったがここと比べて随分古臭い場所であった……」

 

 「里、と言っておりましたが、どこか小さな村の出身なのですか?先生は」

 

 ん?と疑問を口にした柱間が、確かに出自という意味では戦時前の千手一族の拠点を思い起こし小さな村と言えるかもしれないと一瞬考えるも、しかしキヴォトスからすれば小さいかもしれないが自身の治めていた里を思い返せば決してあの世界で小さい村とは言えないだろう。

 

 何故イズナがそんな発想に至ったのか考えると直様要因に思い至る。単純に里という単語への認識が異なるのだろう。

 

 「あぁいや、オレのいた場所では……そうさな、キヴォトスでいう学園に該当するモノが里と言ってな。……いや、五大国があるからそっちか……?まぁ、お前の想像する小さな集落というよりは、もっと大きな都市を想像してもらって良い。オレがこの光景を眺めて想起する程度にはな」

 「なるほど…!興味深い文化です!先生のいた場所は何という所なのですか?」

 

 

 

 「……木の葉隠れの里……という名だ」

 

 一瞬、イズナに名を聞かれた柱間が素っ頓狂な顔をして瞬きを繰り返した後目を閉じて何かを考えた後、正面を向いてジッと遠方をながめつづける。その後、感慨深そうに───故郷の名を呟く彼の横顔に、理由は分からぬまま見惚れるイズナ。子供のように無邪気な柱間が時折見せる、偉大な里長としての顔に、知らず知らずのうちに惹かれてしまうのだ。

 

 

 「木の葉隠れの、里……」

 「あぁ。────しかしちと直球すぎぬか?イズナよ」

 「へ?」

 

 ご神木を眺めていた柱間がゆっくりと目を閉じたかと思うと、突如として先ほどまでの真面目な雰囲気が崩れ去り、緩い態度で苦言を呈する柱間がイズナに語りかける。唐突な変わりように驚くイズナが返事も返せぬまま柱間が一方的に話し続ける。

 

 「いやなぁ、その里というのがさっきも言ったが木々に囲まれた場所でな?木の葉隠れの里って、見たままぞ!何の捻りもないぞ!」

 「え、えぇ!い、いえ、そのイズナは良い名だな、と!……せ、先生はお気に召さないのですか?」

 

 

 「………いや、良い名だ。何の捻りもない、そのまんま。頑固なアイツらしい名付け方だ」

 

 アイツ、という言葉に、第三者のイズナでさえ何か言葉以上の重みを覚え、発言が二転三転する彼の言葉を茶化すことすらできずに無言で耳を傾ける。ただ一つ言えるのは───この一連の会話で、柱間が時折子供のように楽しそうな笑顔を浮かべるが、それが作り笑いではないこと。言葉にできぬまま、目の前の男性の思い出語りが自分との話題作りのためではなく、本心で語っているのだと理解できた。

 

 「……すまぬ、話が逸れたな。ま、良い場所ぞ。しかしオレの故郷など聞いてどうしたい?」

 「そ、その、是非忍者の話を聞ければな、と!それと、本物の忍者の文化を知っておきたくて!」

 「ハッハッハ!オレが忍かどうか、確定はしていないのにか?気の早やいやつぞ!」

 「え!?せ、先生は忍者ではないのですか!?」

 

 「さてな、忍は素性を───」

  

 「──明かさない……!」

 

 柱間の言葉に続くようにイズナが言葉を繋ぐと柱間が無言でコクリと首を縦に振る。その一連の動作でさえ何かイズナは風格、というものを勝手に感じ取ってしまうのか、感動したように尻尾をブンブンと振っていた。

 

 「しかし……よっぽどの関心だな、そこまで忍者が好きなのか?」

 「はい!それに……イズナには夢があるんです!」

 「夢?」

 「はい!」

 

 互いに腰を下ろして語っていた所、夢という言葉をキッカケに気持ちが昂ったのかイズナが立ち上がって少し身を乗り出す。その雄大な光景に自身の述べた夢の光景を重ねるように。

 

 「キヴォトスで一番の忍者になるという夢です!」

 「……一番の忍者、か」

 

 「………は!?す、すみません!」

 「ん?どうした?」

 

 一番の忍者、と聞いた柱間が小さく微笑む。何を定義に一番か、と聞かれればそれはミチルとツクヨの前でも言った忍びの在り方と目標の話にもなってくるだろうが、大雑把にわかりやすく一番というなら各五大国の影になるだろう。そんな、子供らしい夢を微笑ましく思って笑っただけなのだが何かイズナのトリガーを引いてしまったのか、少し顔を青ざめさせ涙目になるイズナが突然謝罪を口にして、困惑した柱間が尋ね返す。

 

 「い、いえ、その……こんな夢を持ってる人なんて今どき───「知っておる」──え…?」

 

 

 「火影………一番の忍になってやる、と言って目を輝かせる子供を何人も見てきた。……立派な夢だ」

 「───……で、でも、先生がいたとこではそうでも……キヴォトスでは、あまり普通の夢ではないのですよ…?」

 

 「ならば尚更大した夢ではないか。お前はその夢が普通でないという自覚を持ちながら、それでもめげずに一番の忍になるため努力してきたのだろう」

 「……先生……」

 

 反射的に自身の夢を語り取り乱していたイズナがよもや自身の背中を押してくれるとは思っておらず、客観的に見て荒唐無稽な自身の夢を応援してくれるという初めての経験に目頭を熱くさせ、柱間をジッと見上げていた。

 

 「イズナよ。オレが忍びは何と言っていたか、覚えておるか?」

 「えっと、忍とは忍び堪える者──あ」

 

 「その通り、お前は正にそれだろう?誰に認められるわけでもなく、ただただ夢を追い忍び耐え続けている。今もなお、な。オレがお前を褒めぬ道理はない。誇れ、お前は立派な忍びぞ」

 「───え、えへへへ……そ、そうですか……!」

 

 先ほどまでの落ち込んだ様子は何処へやら、耳をぴこぴこと揺らして恥ずかしそうに、それでもなおにやけ面を隠すことはできず顔を赤らめていた。それでもなお心の昂りを抑えられないようで、閉じていた目を見開き輝かせながら大声で柱間に詰め寄った。

 

 「い、イズナ!そう言っていただけたのは初めてです!イズナの夢を応援してくれるなんて……!」

 「何、思ったことを言ったまでぞ、世辞は苦手だからな」

 「改めて、イズナは立派な忍者になってみせます!……で、ですから、その……」

 

 「あぁ、いつなんどきも、オレはお前を応援しよう」

 「───ありがとうございます!先生!」

 

 

 自身と彼女の間にある忍という言葉には大きく乖離があることは以前の忍術研究部の二人との邂逅やイズナ自身との会話により理解はしているが、それでも忍びという馴染みのある夢を追いかける若者を応援したくなる気持ちは他にも優って大きいようで、無意識のうちに彼女の頭を撫でてしまう。しかし当然ながら嫌悪感を示すことなく、寧ろ彼女の気持ちをより高めてしまったようで尻尾の振りが早くなり、思わず笑ってしまう柱間であった。

 

 

 「……あ!雇い主の依頼を終えていないのを思い出しました……!」

 「ん?何か仕事中だったのか?それはすまぬな、勝手に連れ出して」

 「い、いえ!先生には窮地を救っていただきましたので!それに、先生とこうして話せてイズナは大変嬉しかったです!」

 「あぁ、オレもぞ」

 

 「それではすみません!イズナはお先に失礼します!依頼が終わった後、また一緒に桜花祭を楽しめたら嬉しいです!」

 「あぁ、また回ろうぞ!」

 「はい!それでは!」

 

 

 「……一番の忍者、か。つくづく里を思い出させるな……」

 

 そう言って何かを懐かしむように去っていくイズナの背中を視線で追う柱間。彼女が完全に視界から消えた後、時間を確認して自身も元々の目的地へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 




感想ありがとうございます!
今回はイズナの話でした、と言ってももう一話だけ続きますが。
正直柱間書く時点で彼女は出したかったんですが時系列的に出せず、やっとこさという形です。
今話から数話アビドス前のように何話か幕間を挟みますのであらかじめご了承ください!
それではまた次回

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