Hashirama Archive   作:アテナ18号

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桜花爛漫ー渦巻く春の桜

 

 

 

 

────柱間がニヤとの会談を終えてシズコの元へと足を運んで暫く。

 

 やはりと言うべきか再び起こった魑魅一座との抗争。そこに増援に現れた修行部も加わり攻勢に出たのだが───当然現れるイズナの姿。謎に柱間へ執着を向ける彼女が柱間と対峙したものの、かと言って直接攻撃するわけにもいかず、勢い任せに出たは良いもののどうしたものかと悩んでいると───自身が先ほど生徒に向かって投げたクナイを拾い上げ、こともあろうにイズナを挑発した。

 

 しかし、彼女自身伝え聞く先生との力量差は自覚しているつもりで中々に踏ん切りが付かないように狼狽えており、そんな彼女を見かねた柱間が再び口を開き、彼女を煽るように口を開く。

 

 「心配するな、お前の危惧しとるようなことにはならん」

 「む……それは、イズナでは先生のお相手は役者不足、ということでしょうか?」

 

 「さてな。それこそ確かめてみたらどうだ?」

 

 分かりやすい挑発に、焦るのが魑魅一座と抗争する生徒達。生徒相手に何をとち狂ったのかと間に入ろうとするも魑魅一座を放置することもできず視界の先で対峙する二人を冷や冷やしながら見守ることしかできずにいた。

 

 対照的に、その挑発に乗って勢い付くのは当の本人であるイズナ。常識として把握しているキヴォトスの人間とその他での力量差に、腕を交えるまでもなく勝敗が分かりきっている勝負に何故か心が燃えたぎる。それに何より、視界に映るシャーレの先生の、実に様になっている立ち姿に今更引く理由が見つからなかった。

 

 自身の銃を肩にかけ、自身の太ももに掛けてあるクナイを一つ手に取り構えると、柱間が小さく笑う。

 

 「すまんな、気を遣わせて」

 「…行きます!先生!」

 「あぁ、こい」

 

 大地を駆けるイズナの俊足は戦の世に生きた柱間を以てして感嘆の声を漏らすほどで、勿論そこには"生徒にしては"という前提があるものの素直に感心していた。側から見ればまるで瞬間移動したかのようにイズナが消えたかと思えばいつのまにか密着していた二人がクナイを片手に鍔迫り合いを行い、ギチギチと金属の擦り合う音が鳴り響いていた。

 

 「……ッ!?あ、あれ……!?」

 「ふむ!流石にっ、ごっこ遊びではないな!良く馴染んでおるの」

 

 軽口を叩く柱間とは対照的に、顔つきが険しくなるのはイズナ。体格差は明白だがそこはキヴォトスにおける一般常識を当てはめれば何の指標にもならず、事実ジリジリと後退するのは柱間であり"キヴォトスの外の人間"であることを遺憾なく発揮する非力な様が見て取れる。ともすれば何故イズナがここまで困惑しているかというと、あれほどに啖呵を切った柱間の、拍子抜けするほどの腕力に落胆しているのだろうか?

 

 否、その逆。

 

 「(───先生は、キヴォトス外の方では!?)──くッ!」

 「おっと?」

 

 カチンと、鍔迫り合いを嫌ったイズナがクナイを振りぬき力任せに柱間のクナイを弾くがまるで受け流されたかのように、先ほどまで自身を押さえつけていた剛力を感じられないほどに軽い感触に居心地の悪さを覚える。自身が大振りで得物を振りぬいたのに対し、彼は軽く肘から上を持ち上げる程度でいなされるのは、やはり二名の圧倒的な体格差。実際に手にかけるかは置いておくとして、イズナが徒手空拳で必殺の一撃を入れるには彼の懐に潜り込まなければいけないのだが、それを許さない30cmの身長差が彼女の進軍を阻み、彼の一歩に追いつくために、こちらは二歩を強要される。

 

 「くぅ!」

 「っと!」

 

 「……す、すごい……え、なんで先生戦えてるの……?」

 

 何度も何度も、寸分たがわずイズナの攻撃に合わせ器用にクナイの刃を合わせる柱間。後退する足を止めイズナと再び鍔迫り合うと、余裕そうな表情で見下ろす彼とは対照的に必死な形相で腕に力を込めるイズナ。もはや彼女の脳内に試合う前に存在していた加減の二文字は掻き消え、目の前に突如として現れた忍びの頂に対する無意識下での敬意と情熱が彼女を突き動かしていた。

 

 「イズナよ、こうして体格差がある相手に真正面から向かうのは得策ではない」

 「へ?」

 「足や膝を狙って体勢を崩したり、手首もしくはオレの握っている得物そのものを狙うなどの工夫が必要ぞ」

 

 「な、なるほど……!なら、とりゃ───ありゃあ!?」

 

 

 「───ただ、付け焼刃の作戦を実行するものでもないかもしれんの!ハッハッハ!」

 

 柱間の言葉を聞きながら、確かにそうだと姿勢も思考回路も前のめりなイズナが徐に柱間の体を観察する。そして得物を握る手首周りは空いている手も含めてガードが堅そうだと判断したのか大きく足を下げて膝を曲げ、足払いの要領で柱間の足を狙うが───その瞬間、足を滑らせたかの様にすっころぶイズナ。単純な話で足払いを行い姿勢が不安定になった瞬間に柱間がクナイを握る手から力を抜いて腕を引いただけ。勝手にこの不毛な鍔迫り合いに付き合ってくれるだろうと勘違いしていたイズナが突如として自身のクナイを押さえつける柱間の得物から力が抜けたことにより、力の矛先を失ったイズナの腕が空振り姿勢を崩してしまった。そんな彼女を見下ろしながら柱間が愉快そうに笑っていた。

 

 「シャーレの先生は戦術指揮に長けている、という話でしたが……これはいったい……」

 「ねぇねぇツバキ先輩ミモリ先輩!あの人凄いよ!」

 「ふぁ……」

 

 割って入ろうとしていた他の生徒まで既に彼の心配はしていないようで、巧みにイズナをあしらうその光景に半ば圧倒されていた。別段生徒一人を相手取るのなら実際大した功績でもないのだが、それがキヴォトスでは珍しい大人の男性によるものというのが物珍しさに拍車をかけているのだろう。その人物がシャーレの先生であるということに知っている人間は尚更。

 

 「──や、やっぱり───凄いです!先生は!」

 「なぁに、大したことはない。それで……続けるか?」

 

 「──勿論!忍者は何があっても決して諦めません!」

 「ふむ、良い意気だ」

 

 再びクナイを片手に柱間へと突貫するイズナ。しかしその顔は未だ険しさの残るものの、明らかに上機嫌に口角が上がり、喜びが隠し切れないでいた。それは確かに実在した誠の忍との手合わせに対する興奮であり、そんな彼女に柱間も笑みを絶やさず相手をする。修行部を前にして、これこそ修行であると言わんばかりのサシでの勝負に心を躍らせていたのだ。

 

 「ふッ!くぅッ!──とりゃ!」

 「ん……ぬ!?」

 

 「はぁ……!ふぅ……!──追い詰めましたよ!先生!」

 

 肩で息をするイズナが額から汗を垂らしつつ、時折吹く桜を乗せたそよ風を心地よく感じながら柱間を後方へと押し出していく。そんな彼の足が唐突に止まる───否、止まってしまった。道脇の巨大な桜の木へと背中をぶつけながら。

 

 「先生!これでイズナの───せ、先生?」

 

 「…………ふむ、もうそろそろか」

 

 火照った体を撫でる涼しい風と、柱間を追い詰めたという事実に高揚感を覚え頭を上げるが彼女の視界に映った柱間の顔は焦った表情でも、ましてや先ほどまでの余裕たっぷりの顔でもなく、明後日の方を向いて何か耳を澄ませる様子。当初のイズナならそれが自身を侮っている様子にも見て取れ怒りがこみ上げたのかもしれないが、直感的に感じ取ったのは不吉な予感。ここまで彼を押し運んだのは自身のはずなのに、ここまでの流れが全て彼の想定通りに運んでいるかのような、一瞬の動揺も見られない柱間の顔に困惑と動揺を覚えてしまっていた。

 

 「イズナよ、忍の遁術とは動物の習性に倣うことがあってな。特に闇夜での活動なら人より奴らに分がある」

 「はぁ……ふぅ……へ?は、はぁ…?」

 

 「そしてもう一つ。活用せねばならん重要なものが一つ、何か分かるか?」

 「え?えと、えと……」

 

 「───自然だ。──よっと!」

 

 しぜん?とイズナが疑問を口にした瞬間突風が吹き荒れる。ただそれは別段柱間がいつかの時のように大きく息を吐いたわけでも、ましてや大人のカードを贅沢に使い忍術を行使したわけでもない。時折イズナを含めその場の者たちを優しくなでていたただの風、それが瞬間的に少し強めに吹き荒れただけの、何でもない自然風である。この場の戦いに何の影響も及ぼさない、ただの風のはずであった。

 

 その刹那───柱間が、背中で桜の木をどついた。

 

 「な!?──ッ!目が…!」

 

 満開の桜の花が突如として風に乗りイズナの視界を奪う。風下にいるイズナに向かって多量の桜の花びらが舞い散り、彼女の大きな瞳に飛び込んだピンク色の欠片に思わず目を閉じてしまうイズナ。時間にして一秒にも満たない、字のごとく一瞬の隙であるが瞬間的にイズナの目を奪うことができれば柱間にとってそれ以上は必要なく───目を閉じる彼女の手頸に鈍い痛みが走る。

 

 「いた!?───わぷっ」

 

 思わずクナイを手放したイズナが、慌てて目を開こうとするが今度は瞼の隙間から入ってきていたはずの日の光が遮断され、視界が暗闇に染まる。と言っても手足を拘束されたわけでもなければ体に不自由が生じたわけでもないためすぐさま自身に被せられた布か何かを剥いで目を開くのだが───既に、目の前から柱間の姿は消えていた。

 

 「……え?」

 

 「……さて、文字通り形勢逆転ぞ!イズナよ」

 

 声のする方を振り向けばクナイを器用に指で回しながら羽織を脱いだ柱間が愉快そうに笑っていた。彼の言う通り先ほどとは立ち位置が変わり、今度は柱間がイズナを追い詰めている構図となり、そのさらに背後では興奮したように飛び跳ねる修行部の子や、ポカーンと呆けて言葉を失うお祭り運営委員会の委員長の姿があった。

 

 「───す、凄い!本当に凄いです!先生は!」

 「ハッハッハ!なぁに、さして難しいことでもない。これくらい貴様も直ぐに慣れる」

 

 「な、ならイズナもとっておきを!イズナ流忍───あれ?」

 

 自身が手玉に取られているというのに、イズナが覚えるのは悔しさではなくただただ純粋な敬意と興奮。呼吸を乱しながらもパァッと花が咲いたように満面の笑みを浮かべ、柱間に負けず劣らずのバカでかい口で声を出していた。そんな彼女がとっておきと言って太ももに手を伸ばし───あるべき感触が得られず手が空振りしてしまい困惑する。

 

 「あ、あれ!?イズナのクナイは!?───か、かんしゃく玉も!?ど、どこに───ぁ」

 

 

 「……ま、こうなるな」

 

 ガラガラゴトゴトッ、と、柱間が何かを地面へと落とす。言わずもがなイズナから拝借した道具たちで、それを見たイズナが驚愕して目を見開いた。

 

 「な!?い、イズナの!?」

 「普段は銃を使っての遠距離戦が主だろうから、まぁ別にあまり気にせんでも構わぬが……少なくともオレのような手合いと白兵戦を行うならこれくらいは想定しておかぬとな」

 

 「う……」

 

 「ま、そういうわけぞ。手の内を隠すことと全力を尽くさないことは違う、手遅れになってからでは遅いからな。……こんなふうにの」

 「え?……あ!?」

 

 今度は何だと柱間が背負っていた何かを見せつけるように前に出すと、そこにあったのは見間違えるはずもない自身の愛銃。先ほどまでは興奮気味に息を荒くしていた彼女が、自身の欠点を洗いざらい剥き出しにされダメ出しをされているかのような感覚にバツの悪そうな顔をしていた。

 

 「そして……忍なら、目的を忘れてはいかんな」

 「へ……?あ……」

 

 

 「ねぇねぇねぇねぇ!さっきの見てたよ!すごかった!おじさん誰なの!?」

 「こ、こらカエデちゃん…!す、すみません!シャーレの先生にとんだ失礼を…!」

 「ハッハッハ!構わん!っと、お前達が修行部だな?自己紹介は後にしよう。まずは……」

 

 チラリと、カエデとミモリから視線を外した柱間がイズナを見下ろす。

 

 

 目的を忘れてはいけない。

 

 

 気づけば他の魑魅一座が全員逃げ出し、残された自分が柱間とシズコ、並びに修行部に囲まれ逃げ場のない状況であることを理解して顔を青ざめさせる。それは単に自分が失態を犯してしまったこと以上に、自分の任務を忘れて柱間との戦いという自身の欲求に走ってしまった忍にあるまじき行為を恥じてのもの。涙目になって柱間を見つめていた。

 

 「う、うぅ……イズナは忍失格です……」

 「お疲れ様です、先生!でも、まさか本当に勝っちゃうなんて……何者なんですか…?」

 「なに、最初から加減無しならこうはならなかった。シャーレの先生に関する噂に救われたの」

 

 「……んまぁいっか……さて!とうとう捕まえたわよ!魑魅一座!色々吐いてもらうから観念なさい!」

 「い、イズナは魑魅一座ではありません!」

 「なに言ってんのよ、一緒にいたじゃない」

 「それは雇い主に雇われている協力者であって───」

 

 

 「……雇い主?」

 

 

 「────あ、あ、あ、あぁぁぁぁ……」

 「ちょっと!雇い主って何の話よ!言いなさい!」

 「そ、それは言えません……い、イズナは忍者ですので……!」

 「自分で忍失格って言ってたじゃない!」

 

 「う………ッ!!うぅ……」

 

 やってしまったと言わんばかりにヘナヘナと耳を閉じて尻尾の垂れさがるイズナ。口を開けば開くほどボロが出てしまい、増して瞳の縁に涙を浮かべる。そんな彼女が逃げ出さない理由は当然逃げ場がない、というのもあるのだが柱間が確保している銃。このキヴォトスにおける銃の所持は免許やライセンス以上に重要なもので、アレを柱間に預けたままこの場を離脱することができないでいた。

 

 

 「イズナよ、ほれ」

 「へ…?──わわ!」

 

 「ちょ、先生!?折角とらえたのに!」

 

───それを察してか柱間がイズナに銃を投げると、慌ててソレを受け取ったイズナが少しの間ポカンと気が抜けて呆けていた。

 

 「やめておけシズコ、イズナは決して口を割らぬ。──立派な忍だからな」

 「!せ、先生……」

 「で、でも!それじゃまた振り出しに……!」

 

 「振り出しにはならぬ、しっかり収穫はあった。──イズナよ」

 

 「は……ハイ!」

 

 声をかけられたイズナがその場に姿勢を正して立ち上がる。

 

 「後ろの彼女はお祭り運営委員会の委員長をやっておる。勿論、桜花祭の運営もな」

 「そ、そうなのですか!?で、でも、イズナは…ッ!」

 「あぁ、分かっておる。何かすれ違いがあったのだろう。勿論、オレが嘘をついて貴様を誑かしている可能性もあるしな」

 「そ、そうなのですか!?」

 「その可能性もあるというだけの話ぞ。それほど貴様がオレを信頼してくれていることは嬉しい限りだがな!」

 

 そう言って豪快にイズナの頭を撫で回す柱間。生徒とは分かっているものの、彼女の大きな尻尾やケモ耳に庇護欲をくすぐられる柱間が思わず手に力をこめてしまう。

 

 「……まぁ、そういうわけだ。イズナよ、今一度落ち着いて考え直すと良い。無理にここで貴様を追い詰める真似はしたくない」

 「……良いのですか?」

 「あぁ。そこまで尽くすにはその雇い主とやらにも何か恩があるのだろう?」

 「…はい、イズナの夢を、応援してくれて……忍者と言ってもバカにせず…」

 

 「うむ、良い人間に恵まれたな。自分で答えを出してくると良い。また何かあれば、遠慮せず声をかけてくれ。オレはずっとお前を待っておるからな」

 

 「…………ッ、分かりました!イズナ、このご恩は一生忘れません!」

 

 そう言って頭を下げるイズナが腰を直角に曲げて頭を下げる。つくづく何故これほどに誠実で真面目な人間が魑魅一座に加担して桜花祭の妨害を行うのかと疑うほどに善良な彼女が、踵を返してその場を後にするのだった。その背中を見届けて、満足そうに笑う者と不服そうに表情を歪ませる者、三者三様に顔色を変える柱間と生徒が言葉を交わす。

 

 「もぉ〜〜……本当に良かったんですか?あのまま逃して……」

 「あぁ。それに───……いや、何でもない。兎も角、彼女のことはオレに任せてくれ、悪いようにはせぬ」

 

 柱間の言葉にやはり納得できぬまま、モヤモヤを残したままため息を吐くシズコ。

 

 「いえ、良い対応だったと思います。私も彼女が悪い子には見えませんでしたから……」

 「そう言ってくれるか、えっと…」

 「あ、失礼致しました。私、修行部副部長の水羽ミモリ、と申します。初めまして、シャーレの千手柱間先生」

 「なるほど、お前達がニヤの言っておった修行部か。あぁ、よろしく頼む。それで……」

 「先生、ここで立ち話も何ですし一度百夜堂に戻りませんか?彼女の言っていた、雇い主、とやらの話についてもじっくり話し合いたいですし」

 

 「……………」

 

 「先生?」

 「……いや、何でもない。そうするか……お前達も構わぬか?」

 

 何か考え込む様子の柱間が顔を上げて修行部に確認を取ると、素直に従う彼女らと共に踵を返して百夜堂に向かう一行。しかしその道中、やはり何処か顔色の晴れない柱間が時折眉を顰めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 夕暮れ時、人目に付かないように街中を歩き回るイズナが、周囲をキョロキョロと見渡しながら余り優れない顔色で歩を進めていた。目的の人物はシャーレの先生、先ほど答えを出してこいと言われた手前───やはり、雇用主の獣人も自身を褒めてくれる良い主人であることは変わらず、結局回答を出せなかったことは悔やまれるものの、再び言葉を交わしたいと思って彼を探していた。

 

 「……あ!……電話中?」

 

 目的の人物を見つけたイズナが駆け寄ろうとして足を止める。何処かに電話をしている様子で一旦様子見に徹するイズナだったが、そんな彼女よりも一足先に柱間へ声をかける人影があった。

 

 「……あれ?魑魅一座の方々…?」

 

 一瞬先生の身を案じたもののどうやら危険な雰囲気ではなく、笑顔の柱間が彼女らと言葉を交わし道の先へと歩いていく。距離が遠く何を話していたのかは定かではないが、別段危害を加える様子も見えないため、今しばらく先生が一人になるタイミングを見計らっていたのだが───

 

 

 「……あれ?こっちって……」

 

 段々と通りから外れて桜花祭の喧騒とは程遠い暗闇へと姿を消していく三名。それだけではなく、何か見覚えのある路地に確信を覚えたイズナが嫌な予感を覚える。未だ辿り着くことのない柱間達の目的地に心当たりがあるためだ。

 

 「……やっぱり…!」

 

 柱間達を追って着いたのは彼女が先ほどまでいた雇い主との会合所。とんぼ返りする形になってしまったが、あまり察しの良くない彼女でも柱間にとって良くないことが起こっているのではないかと勘繰って緊張感が走る。しかし、かと言ってここで割って入り魑魅一座の邪魔をするのは依頼の内容に反してしまう。様子を窺うために屋根裏に上がり柱間達を見守っていた。

 

 「命令通り連れてきたよ!」

 「よくやった、魑魅一座。やればできるじゃないか」

 

 「……!」

 

 屋根裏から見下ろす薄暗い部屋に繋がった通路の奥から、自身の雇い主が現れる。眼帯をつけた黒い衣装に身を包む猫の獣人が、ニヤリと笑いながら柱間の前に姿を現した。

 

 「……やっぱりお前さんか、当たってほしくはなかったがな」

 「ほう?儂が主犯格だと分かっていたということか?」

 

 「さっき気づいたばかりだがな」

 

 そんな彼の姿を見て、イズナが見たことのない悲しげな表情を浮かべる柱間。この状況に対してか、はたまた別の理由かは分からないが彼の表情に何故か不安がよぎる。

 

 「さっき?」

 「あぁ、貴様、百夜堂でこう言ったな?学生が金を使うことが気に食わん者もおる、と」

 「確かに言ったが……まさかそれだけで?」

 「いや、オレもあの時は同意した。何しろ似たように学生を裏から指示して事を起こしたバカを相手取ったばかりだったからな。特に違和感を覚えんかった」

 「では何故……」

 

 「学生達の反応ぞ」

 

 二人の、大人のやり取りを固唾を飲んで見守るイズナ。数の差は歴然で、一対多の状況に全く動じない柱間が声色一つ変えずに言葉を続ける。

 

 「学生の反応?」

 「あぁ。魑魅一座に雇い主がいる、というのが判明した時に信じられないという顔をしてな。後で詳しく話を聞いてみても、わざわざ金を払って依頼を出す理由が分からん、とな」

 「それがどう儂の話と……」

 「主犯格が学生の可能性だって大いにありうる。なんならさっき言ったようにシズコら学生は『雇い主』という言葉に意外そうな反応を示した通り、あくまで魑魅一座によるイタズラって線を考えていたようだ。だが貴様は……"学生が"という言葉を使っておった」

 

 「………」

 

 「主犯格が学生だったとして……シズコ達に対して『学生が金を使うのが気に食わない』はおかしい。つまり貴様は理由は分からんが……犯人が大人であることにある程度察しがついていた。となれば魑魅一座単独の事件ではなく裏で支持している大人がいることもな。……まぁ、察しがつくまでは良い。それにあそこでお前は、あくまで自分なりの考察って姿勢だったしな。だからオレも単なる当てずっぽうでしかなかったが……よもや本人とはな……」

 

 「……すごいです……先生…!」

 

 立場上敵であるはずのイズナが、柱間の推理に目を輝かせて感嘆していた。しかし視線の先の尊敬する相手の顔が曇っていることに、やはり心が締め付けられる。

 

 「……さてまぁ、こんな馬鹿げたことをした理由は聞かなくても、百夜堂で言った通りか?」

 「百夜堂……あぁ、伝統云々の話か?違うわい、口から全部出まかせってわけじゃないが……儂の目的はいたってシンプル、金だよ」

 「………」

 

 「百夜ノ春ノ桜花祭、この祭りの度にどれだけの金が動くか、この規模を見てアンタなら分かるだろう?なのにそれをあのチビどもが握っとる。それが気に食わんのだ」

 

 「……な!?」

 

 聞いたこともない、雇い主の話に驚愕するイズナが声を漏らす。咄嗟に口を閉ざすとどうやら聞かれていないようで一安心するも、次に脳裏をよぎるのはゾッとする冷や汗。盲目に従う忍びとしての真っ当な心意気を貫いていた彼女が───明確に悪に加担していたのかもしれないという不安が心をざわつかせる。

 

 「祭りを素敵なものに?そのためなら大枚はたいてミレニアムに依頼するのも必要なことってか?ハッ!笑わせるな!儂に任せれば、あいつらよりはるかに多くの金を稼げたというのに!」

 

 「……だから桜花祭の邪魔をしたのか」

 

 「あぁ、そうさ!桜花祭が失敗すれば責任を問われあのチビどもはお祭り運営の任を解かれる!そうすりゃその席に儂が座るって寸法よ!これでも商店街の会長だからな、それくらいの根回しはできる」

 

 

 「………そん、な……イズナは……!」

 

 誰にも見られていない場所で、顔を青ざめさせるイズナがワナワナと震える両手で頭を抱える。自信を喪失し垂れ下がったままを押さえ込むように手に力を込め、後悔に下唇を噛み締めるが頭をよぎるのは自身が正しい行いをしていると信じてやまなかった、忍者として暗躍する桜花祭での記憶。それが全て単なる傀儡であった事を自覚し、鼓動を速めていた。

 

 「……それをイズナは知っておるのか?」

 

 「……ッ!」

 

 眼下で表情を険しくさせ、怒りを滲ませる柱間の言葉に、イズナは怯えたようにビクリと震える。その怒りの矛先が自身に向いていないことに気付くには、彼女はいささか冷静ではいられず、尊敬する忍に軽蔑されていると思い込み涙を浮かべていた。

 

 「イズナ?……あぁ、あの自称忍者か。そうだな、アイツはよく働いてくれたよ。大して金をかけてないのに適当にごっこ遊びに付き合ってやれば、何の疑問も抱かずに言う事を聞いたからな。ご命令とあらば何でもこなすのが忍びの道、だとか。笑わないようにするのが大変だったくらいだぞ」

 

 

 「……ッ!!……嘘……だった………」

 

 ボソリと、言葉を呟くイズナが雇い主との会話を思い出す。忍者としての活躍を応援し、信じると言った彼の言葉が嘘であることと同時に、自分が頭を下げていた裏で彼はほくそ笑んでいたのだと。そんなこともつゆ知らず必死に働いていた自身の哀れな過去に俯いていた。

 

 「もうやる気まんまんで『忍びとして全力を尽くします!』なんて言った時には、いくら儂でも笑いが止まらなかったさ!」

 「今なら言えるけど、あの歳で忍者とか笑わせるよな!」

 「正直、隣で見てるだけでも笑いを堪えるのが大変だったっす」

 

 

 「……………」

 

 自身の夢を笑う言葉に、頭頂部のケモ耳を塞ぎ膝に顔を埋めるイズナ。夢を笑われたことなど一度や二度ではないが、今回こそはそんな夢を応援してくれる主人と仲間に出会えた、かけがえのない機会だったばかりにそのダメージは計り知れず、何も言わずに無言で表情を隠していた。

 

 「……ふ、そうか」

 「お?なんだ?やっぱり先生も笑いが堪えきれないか?」

 

 「………え……?」

 

 何も聞きたくないと耳を塞いでいたイズナが、妙に響く小さく笑った大人の声に反応して顔を上げる。直前に裏切りを経験し、絶望していた彼女がそれでも彼の短い一言に悲しみにくれる声を小さく漏らしたのは───それでも彼なら、笑うことなく応援してくれると心の片隅で信じていたからだ。それを否定するような彼の声が、イズナの心にヒビを入れる。

 

 「そりゃそうでしょ。コイツ、イズナとよく喋ってましたからね」

 「楽しそうにごっこ遊びに付き合わされてましたよ!」

 

 「……いや、いやです……嘘……せ、先生……」

 

 「…………」

 

 「………なん、で…………」

 

 否定してくれと心の内で願うイズナが思わず声を漏らすが、視線の先の柱間は小さく口角を上げ目を閉ざしたままで何も言わない。そんな彼の様子に、言葉を失うイズナが膝を崩してうずくまる。先ほどの、桜の木の元での立ち合いが茶番であったことを理解した彼女が涙の流れる顔を覆い───

 

 

 「……やっぱりアイツは立派な忍ぞ」

 「…はぁ?」

 

 

 「………はぇ……?」

 

 涙でグズグズに汚れていた顔を上げたイズナの曇っていた瞳に光が宿る。視線の先の彼が自信に満ち溢れた顔で、一瞬チラリと天井を見つめる。その一動作が───これから吐くセリフを、自身に当てたものであることを証明していた。

 

 「貴様らの反応でよく分かった。キヴォトスにおける忍とは、どういう扱いであるかをな」

 「どういう……って、そりゃ魔法とかファンタジーとか御伽話だろ。幼稚園児なら兎も角、あの歳で信じるって笑わせんなよな」

 

 「あぁ、その通りだ。幼子の夢見る架空の像、それこそが忍。あの歳にもなって名乗れば人に笑われても仕方がない、それが常識なのだろうな」

 

 「………ッ」

 

 気分が急高下するイズナ。自身を褒め称えたかと思えば魑魅一座の言葉に同調する彼に再び表情を歪めるが、よもや彼の表情がそれで終わりなはずがないと閉じたくなる目を開いて柱間の言葉に耳を傾ける。

 

 「故に───奴は、それだけ笑われても忍者という夢を辞めなかった。奴自身から聞いていたとは言え……こうしてその実態を理解すれば、イズナがどれだけ堪え忍んできたか想像に難くない」

 「………先生……」

 

 「はぁ?コイツ、頭おかしいんじゃねぇのか?」

 「ははは!バカの夢を応援するコイツも相当のバカだな!」

 

 「……ッ!先生は───「そう言えば」

 

 自身の背中を押す柱間をバカにするような発言にカッと頭に血が上るイズナが声を出して身を乗り出しかけた瞬間、柱間が口を開き声を大きくする。そんな、彼の待ったをかけるように割り込んだ言葉に立ち止まるイズナが、柱間に視線を奪われていた。

 

 「まだ、名乗っていなかったな」

 「あ?知ってるよ、シャーレの先生だろ?」

 「いや、そっちじゃない。元々オレはキヴォトスの外から来てな」

 

 「はぁ……それがどうし──「オレはッ、忍五大国ッ!!」

 

 唐突に大声を上げた柱間に驚く面々が言葉を失い、一歩後ずさる。あくまで笑みを浮かべたまま、彼が芸能のようにドンと身を乗り出して名乗りを上げる。

 

 「火の国木の葉隠れの里、初代火影──千手柱間ぞッ!」

 

 

 

 

 「……ぶふ!!ははははははは!!何言いだすかと思えば!!しぃ、忍び五大国ぅ!?ほかげぇ!?なんだその設定!!」

 「イズナの真似事にしてももうちょいあるだろ!!」

 「お、お腹痛い……!」

 

 「───先生」

 

 皆が嗤う中、それでも自信満々に威風堂々とした態度を崩さず余裕の笑みを浮かべ続ける柱間に目を輝かせるイズナ。彼はこのキヴォトスで忍が笑われても仕方がないという風潮を否定もしなかった。ただ態度で雄弁に語っているのだ。───笑われて行こう、忍とは忍び耐える者である、と。

 

 「郷に入っては郷に従え、忍という存在に疎遠なお前達に忍を笑うなと強要はせん。……ただ、生徒の夢を笑われ続けるのは癪でもあるな」

 「はは……ひぃ、腹痛い……んで?癪だったらなんだぁ?えーっと、初代、ほかげ、だっけかぁ?ぶふ!」

 

 

 「いやなに、忠告でもと思ってな。貴様ら忍を舐めすぎだ」

 「はぁ?何言って……」

 

 

 「オレが考え無しに大声を上げたと思っているのか?」

 「……は?何──「ミチル流忍法ッ!!」

 

 「……え?───ぐわあッ!!」

 

 柱間がにやりと口角を上げて何か思わせぶりな発言をした瞬間、窓ガラスの割れる音が鳴り響く。次の瞬間、室内に飛んできた、かんしゃく玉を括りつけた小さな手裏剣。手裏剣とクナイという違いはあるものの、イズナの爆裂手裏剣を思わせるそれが部屋の中央、魑魅一座と会長を巻き込み爆発し、彼らを煙の中に包み込む。

 

 「───や、やった!ね、見た!ツクヨ!ドンピシャ!」

 「は、はい…!練習の成果が出ましたね、部長…!」

 

 「───良いタイミングぞ!ミチル!」

 

 「あ、先生殿!……んしょっと、久しぶり!大丈夫だった?」

 「あぁ、お前のおかげでな」

 

 割れた窓ガラスの向こう側に、何かを投げた構えのまま体を固めたミチルが日頃の石切りの成果を実感し、その場の緊張感にそぐわないような高い声でキャッキャと喜び、そんな彼女の様子にツクヨが笑顔で相槌を打つ。柱間に声をかけられたミチルが窓を乗り越え彼の下に駆け寄り、ソレに追従するようにツクヨも彼の下へと駆け寄った。

 

 「でもビックリしたよ!いきなり電話で呼ばれて、場所聞いたら『道行く人々に尋ねろ』なんて……」

 「はっはっは!すまんな!ちとオレもどこに連れていかれるか分からなくての!生憎この図体と見てくれぞ、目立つから大丈夫だとは思っておったが……」

 「近くまでは来ていたのですが、中々……いきなり、かすかにですが先生の声が聞こえたので、何とか……」

 「というか、え?先生拉致されてたってこと?」

 「ま、そうなるな」

 「じゃ、じゃあ敵じゃん!」

 「あぁ、敵ぞ。というか、それに察しがついとったから茶々を入れたのではないのか?」

 「いや、何か先生銃向けられてヤバそうだったから咄嗟に……ま、まぁ結果オーライってことで!」

 

 「……こ、のぉ!」

 

 世間話のように言葉を交わす三人の前方、煙の中から物音が聞こえる。その瞬間敵の攻撃を予感した三人が各々身構える。

 

 「よくもやりやがったなぁ!」

 「ちょ、やば!今更だけど敵多すぎない!?」

 「ど、どうしましょう!部長!」

 「ま、やるしかないの!二人とも!得物を手に取れ!」

 

 「くたば───ぎゃあッ!!」

 

 「………あれ?」

 

 

 

 「───イズナ流忍法、爆裂手裏剣」

 「うわ!?だ、だれ!?」 

 

 先ほどの、ミチルのモノよりも一回りほど大きな爆破が再び魑魅一座を爆煙の中に掻き消した。驚いて瞬きを繰り返すミチルが、いつの間にか柱間の前方で片膝を付き首を垂れるイズナに驚き後ずさる。

 

 「……主殿!」

 「あ、主殿?お、オレがか?」

 「はい!」

 

 唐突な主宣言に少し引き気味にも見える柱間に対して、そんな彼の様子など目にも入っていないように瞳を輝かせながら先ほどまでの落ち込み具合が嘘のようにイズナが口を開く。

 

 「イズナは遂に見つけました!何があってもイズナの夢を笑わない、そして───最高の忍びになるための姿勢を教えてくださった、真なる主君を!」

 「いや、しかしな──「先生」

 

 「先生がキヴォトス外最高の忍者なら、イズナは必ずや───先生にも負けない、キヴォトス最高の忍者になってみせます!ですが、この身はまだまだ未熟……どうかイズナを傍に置き、先生を超えるその時まで、その背中を学ばせては頂けないでしょうか!?」

 

 イズナが懇願するように顔に皴を寄せ瞳を閉じる。頭を下げた彼女が微動だにもせず風に揺られた彼女の髪や衣服がたなびいていた。そんな彼女を先ほどとは打って変わって真剣な瞳で見下ろす柱間が───小さく笑うことなど想像に難くなく、大きな声で彼女の名を呼ぶ。

 

 「───百鬼夜行連合学院一年生、久田イズナよ!」

 「は、はい!」

 「木の葉隠れの里の火影、千手柱間が任務を言い渡す!見事オレの背を超えキヴォトス最高の忍者になってみせよ!」

 

 「──ッッッ、了解です!主殿!」

 

 「さしあたっては───目の前の、桜花祭の中止を目論む魑魅一座と商店街会長の捕縛ぞ、行けるな?」

 「お任せ下さい!主殿ッ!」

 

 感極まったように体を震わせるイズナが得物を構え、振り向き柱間に背中を向ける。彼女の顔にはもはや不安の色は欠片もなく、大軍を前にして一切の気後れも見られない。

 

 そして、そんな二人のやり取りを傍で見守っていた忍術研究部の二名。まるで時代劇のような、堂に入った二人の会話に───

 

 「主殿って……えぇ……なにその特殊プレイ……先生殿そういう趣味が……?」

 

────普通にドン引きしていた。

 

 「め、めったなことを言うなミチル!そういうことじゃなくてだな!」

 「いやだって……」

 「わ、私は良いと思いますよ?その……」

 「や、やめてくれツクヨ!そういう反応が一番きついぞ!」

 

 「…ッ、バカにしてんのかあ!!」

 

 先ほどまでの雰囲気をぶち壊すようなやり取りに、しびれを切らした魑魅一座が声を荒げる。その言葉を皮切りに戦闘態勢に入る一同だが──

 

 「……ん?ちょ、先生殿!何してんの!?」

 「ん?あぁ、見ての通りぞ。オレも手伝おう」

 「えぇ!?あ、危ないですよ、先生!私の後ろに!」

 

 なぜか指示に徹するはずの柱間が、イズナからパクり懐にしまっていたままのクナイを片手に前へ出る。当然のように驚き戻るように声をかける二名だが。

 

 「───背中を見せろと言ってくれたばかりだからな」

 「…!主殿……──お二人とも!先生なら大丈夫です!イズナが保証します!」

 

 柱間がイズナを見て微笑むと、イズナが驚いた顔をした後に───嬉しそうに微笑み尻尾を左右へ振っていた。直接柱間と稽古を行ったイズナがミチルとツクヨに声をかけるが、やはり煮え切らない表情の二人。そのまま開戦の狼煙が上がり───終わった後には、ポカンと口を開く忍術研究部の二人が、イズナと同調して目を輝かせながら柱間に駆け寄っていったのは、想像に難くないだろう。

 

 

 その後、騒ぎを聞きつけ集まってきたお祭り運営委員会や修行部により退路を断たれ、陰陽部により連行されるニャン天丸。連行される間際、独眼やらなんやらと喚き散らしていたが───何はともあれ、こうして桜花祭を騒がせていた魑魅一座の騒動は幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぇ~、そんなことがあったんだねぇ」

 「うぅ……大変だったんですね、イズナちゃん……!」

 「え、ツクヨ。泣いてるの…?」

 「は、はい……私たちの動画も、たまにいわれのない言葉を書かれることも……それを面と向かって言われるなんて……」

 「い、いやたしかにアンチコメントもたまに届くけど……う~ん、でもそっか。そう考えると確かに気持ちも分かるかも」

 

 現在、桜花祭。

 空は漆黒に染まり、その暗闇に負けることのない人々の明るい表情と屋台や町中を照らす提灯の明かりが辺りを眩く照らしていた。あの後、イズナは事件に関与していたものの柱間の弁明もあり何より犯人捕獲の功績が認められ無罪放免となり、忍術研究部の二人と柱間に加わって桜花祭を楽しんでいた。当初こそやはり申し訳なさからか辞退しようとしていた彼女だったが、事情を知らないながらも積極的なミチルの勧誘により付き添う形となった。

 

 「でも、主殿と出会えた、そのことが何よりの収穫です!忍びとして間違ったことをしてしまいましたが、無駄にはなりませんでした!」

 「まぁ、そんな時に先生殿と出会ったら脳焼かれちゃうよねぇ、そりゃあ」

 「は、はい!先生は凄い忍者ですから……!」

 

 皆々が口々に先生を褒めたたえる。イズナも含め無意識に口が饒舌になるのは、このキヴォトスにおいて忍びという狭い界隈のコミュニティで会話ができることに新鮮味を覚えているからだろう。イズナは言わずもがな、忍術研究部にとっても新しい部員が欲しいと考えていたところに、こんなドンピシャリな人材がいると夢にも思っていなかった。それこそ出会い方も、素性を知らない互いが慕う主人を介して手を結ぶという何ともドラマチックなモノ。

 

 生憎と主人は手洗いでこの場にいないのだが。

 

 「それで、その、お二人なのですが……」

 「っと、ごめんごめん!話聞いてばっかで名乗ってなかったね!私たちは……」

 

 

 「忍術研究部のミチル殿とツクヨ殿、ですよね?」

 

 「……え!?ウチのこと知ってるの!?」

 「はい!今朝、忍術研究部の動画を拝見させていただきました!主殿の動画を!」

 「ぶ、部長!凄いです!私たちのチャンネルの視聴者とこんな出合い方!奇跡ですよ!」

 「あー……な、なるほど、先生の動画かぁ……急浮上してるもんね、アレ…」

 

 「……その!お二人にお願いがあるんです!」

 

 唐突に大きな声を出すイズナが声を出し足を止めて二人を見つめる。突然の行動に忍術研究部の二人が驚き互いに顔を見つめて瞬きを繰り返していた。

 

 「え、えっと、どうしたの?イズナさん…?」

 「私も、忍術研究部に入れていただけないでしょうか!?」

 「え?ウチに?……えーっと、その、アレだよ?今回の件で直感的に何となくってのはやめといた方が……」

 

 「何となく、ではありません!」

 

 「わ、わぉ……」

 

 ずいっと体を乗り出すイズナの圧に押されたミチルが少し後ろに後ずさる。

 

 「先ほど拝見しましたミチル殿の手裏剣さばき、見事でした!アレは動画でも行われていた、水切りの努力の賜物だと思います!それほど研鑽を積むことに余念のない忍術研究部の方々となら、イズナはキヴォトス最高の忍者を目指せると!」

 「あ、ほんとにちゃんと見てるんだね……」

 「それに、動画内の部室に『犬連れ忍者』や『忍者ニンペロさん』のグッズも拝見いたしました!」

 「……え!?どっちとも知ってるの!?イズナさん!」

 「はい!」

 「ぶ、部長…!期待の新人さんですよ、これは……!」

 「う、うぅん……」

 

 「どうか、イズナを忍術研究部に…!」

 

 頭を下げるイズナを見下ろすミチルが眉間にしわを寄せて考え込む。彼女の言葉には間違いない信念が宿っており、今日の件も併せて彼女の忍者を目指す覚悟に疑いようはない。観念したように溜息を吐いたミチルが小さく微笑み───

 

 

 「……ごめんね、イズナさん。まだ無理かな」

 

───彼女の受け入れを拒否した。

 

 「え…!だ、ダメ、ですか…?」

 「な、なんでですか部長…!イズナちゃんは……!」

 「待って待って二人とも。勿論、イズナさんは立派な忍者だと思うよ。忍術研究部に相応しい人だと思う」

 「では何故…」

 

 「私たちを知ったのが今朝で、見たのは先生の動画って言ってたよね?やっぱり、その動画だけじゃないんだ、私達って」

 

 諭すようにやんわりとした口調でミチルがイズナを宥める。

 

 「それは──」

 「うん、勿論イズナさんも分かってると思う。今日言葉を交わしただけでも何となくお互いのことを理解したとも思うんだ。でも、やっぱり今までどう私たちが忍びに対して取り組んできたか、知ってもらってから入ったほうが良いと思う。それはイズナさんの為にも、私たちの為にもなるからね!」

 「部長……」

 「勿論動画を見ても印象が変わらない可能性だってあるし、だったら最初っから入部を許可してよって話になるかもしれないけど……」

 

 「……いえ、分かりました!確かに、ミチル殿の言う通りです!少し短絡的だったかもしれません!今一度忍術研究部への理解を深めたいと思います!ですが、もしその時も意思が変わらなければ……!」

 「うん!その時は歓迎するよ!だからまってるね!イズナさん!」

 「はい!にんにん!」

 

 その後、戻ってきた柱間が、一瞬見ないうちに随分仲の良くなった三人を見て理由も分からぬままに顔を綻ばせると、再び祭りを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、『少女忍法帖ミチルっち』に新しく上がった動画には───忍者が四人、映っていたそうな。

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
投降が遅れて申し訳ありません!
長くなりましたがこれにて桜花爛漫は終了です!
次回は何か再びイベストか、オリジナルストーリーになると思います!

少しこの作品に関して重要な話を。
今後、メインストーリーでも積極的に忍術研究部の三名を取り上げることになると思います。それを予めご了承いただければ幸いです。

それではまた次回
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