Hashirama Archive   作:アテナ18号

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赤評価でおったまげてます。
また幻術なのか!?


数多の変数

 

 ゲヘナより帰還した柱間が早速シャーレ部員のスカウトに成功したことを自慢げにリンに報告して、呆れられながらも称賛する彼女の声を受け取って数日、シャーレの業務にも慣れてきた彼がチナツとイオリの二人の手を借り交友を深め、今までよりも充実した時間を過ごしつつ理解したことが一つ。

 

 パソコンに弱い。

 これは柱間という超アナログ人間単体の言葉を指しているわけではなく───勿論、彼が大きな要因ではあるのだが───シャーレの現在の人員を鑑みての話だ。柱間は言わずもがな、イオリも彼よりは電子上での作業に慣れていると言っても本業は現場の切り込み隊長、チナツも時折委員長の仕事の手伝いをすることがあるとは言え、シャーレに舞い込む膨大な量の仕事をこなすには少々心許ない。

 最優先すべきは早く柱間が現代の技術に慣れることだが、リンからの提案で先日の礼も兼ねてミレニアムに行くこととなった。ミレニアムサイエンススクール、科学技術に特に力を入れている、キヴォトスの最先端を行く学区であり、その研究分野は多岐に渡るがおそらく今シャーレに必要な人材が最も多く存在する場所だろう。

 

 本来は生徒の悩みや問題を解決するため現地に赴くはずのシャーレの先生が、逆に助けを求めスカウトに向かうなどという何処か情けない話に複雑な気持ちで足を運ぶ柱間が、そんな憂鬱な気持ちなど、現地に辿り着きシャーレ近辺とは比較にならない技術の結晶を遺憾なく見せつけるミレニアムの街の光景を見れば吹っ飛ぶようで、子供のように目を輝かせる彼がミレニアムサイエンススクールへと足を運び、そして現在───

 

 「くっそぉ!!モモイよ!もう一度!もう一度対戦ぞ!!」

 「ふっふっふ〜!ハシラマ先生も諦めが悪いねぇ〜!私に勝とうなんて、あと百年は早いんじゃないの?」

 「お姉ちゃん、普段まともにやり合える相手がいないからって初狩りは良くないよ……」

 「しょがり?なんぞそれは。オレの知らぬゲームの技術ぞ?」

 「な、何でもないよ先生!ほらほら、試合始まるよ!」

 「お!よぉし、次は負けぬぞ!!」

 

───ゲームに勤しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ここに至るまでにはとても深い訳があるはずもなく、いつものようにシナリオライターのモモイがシナリオ作成のリフレッシュという名のサボりを兼ねて部室を抜け出し中庭を散歩していた所、校内に一人見知った顔と見知らぬ顔が親しげに会話している所に遭遇する。普段ならセミナーの冷酷な算術使いが誰かと言葉を交わす光景に特段惹かれる理由もないのだが、相手がキヴォトスでは見かけない大人の男性であることに多少の興味を持ち近づくモモイ。

 

 『こんちわ、ユウカ。その人誰?』

 『え?あぁモモイ……って、唐突ね。今話してる最中なんだから後にしなさいよ』

 『ごめんごめん!で、その人誰なの?』

 『話聞きなさいよ!』

 

 良い良い!と渋い声でユウカを宥める男性が、体の向きを変えモモイへと視線を移す。

 

 『モモイ、と言ったか。オレはシャーレで先生をやっておる、千手柱間というものぞ!よろしくの!』

 『しゃーれ?…あ、シャーレねシャーレ。シャーレの先生……そう言えば最近ちょっと名前聞くけどなんだったっけ?』

 『貴方ねぇ…!はぁ、すいませんハシラマ先生、この子、悪気がある訳じゃなくて……』

 『ははは!構わぬ、ユウカよ。実に子供らしくて良いではないか』

 

 自分の舐め腐った──という自覚は彼女にはないのだが──発言に、どこか気を良くした先生を、興味があるような無いようなテキトーな視線を送り続けるモモイ。それがどうやら彼の気を引いたようで、先程モモイが口にした疑問に自己紹介という形で回答するのであった。

 

 『っと、シャーレの先生とはなんぞ、という話だったの。まぁ、端的に言えば生徒の悩みを解決する何でも屋ぞ』

 『ほぉ〜〜〜何でも屋……じゃあ───』

 『先生にゲームの購入費せびったら即刻廃部よ』

 『ひど!?』

 『ひど、じゃないでしょ!!初対面の相手に何頼もうとしてるのよ!!』

 『まぁまぁ、良さぬかユウカ。別に欲しいものの一つや二つくらい───』

 

 モモイの肩を持とうとした柱間の口が、ユウカの「軽く二万は吹き飛びますよ」と言う発言を聞いて閉じてしまう。ここで数日過ごせば否応にでも着いてくる金銭感覚。故に確かに見ず知らずの人間に中々の大金を要求していたモモイの図太い性格にユウカが怒りを露わにするのも仕方ない話であることを理解し、しかし柱間も柱間で困ったように頬を掻いて甘い態度を崩さないようであった。

 

 『まぁ、その程度なら…』

 『ほんと!?』

 『ダメに決まってるでしょ!!先生も甘やかさないでください!!』

 『うっ……』

 『えー!!先生が良いって言ってるんだから良いじゃん!!』

 『良くない!と言うかアンタの所は早く実績上げないと脅しじゃなく廃部になるんだから、遊んでばっかじゃなくて早く仕事しなさいよ』

 『だから今こうしてアイデア探しの旅をしてる最中じゃん!……あそうだ!!』

 

 何か閃いたようなモモイが首を痛めるような角度で柱間を見上げると、自身を見つめる生徒の何かを期待するような瞳に首を傾げる。

 

 『ハシラマ先生、そのシャーレってとこで色々やってるんでしょ?何でも屋とか言ってたし。ちょっと話聞かせてよ!今ゲームのシナリオ作成で詰まってるんだよねー』

 『オレの話ぞ?それは構わぬが……しなりお?』

 『うん!いやあ、昨今のユーザーはマンネリマンネリうるさくてさぁ〜、かと言って気をてらったものを出したら前のシステムが良かった〜、なんて言い出すものだから困るよねぇ〜。そういう人に限って実はゲームやらずに炎上の流れに乗って油を注ぎたいだけの悪質ユーザーなんだから』

 『……いや貴方達の作ったゲーム、たしか評価の余地を許さないくらい満場一致のクソゲーだったじゃなかったかしら』

 『ちょ、ちょっとユウカ!しー!』

 

 『(……ふむ、また分からぬ言葉の羅列よ。しかし数万もするゲームか……子供にはちと過ぎた遊び──などと、賭け事を綱に教えたオレの言えたことではないの……)』

 

 先ほどから連呼されるゲームという言葉。勿論友人間での組手や遊びをゲームと称したり、趣味は悪いが戦争や闘争をゲームなどと称したりする輩もいるが、まぁ購入費やら作成やらの話を聞くと花札や麻雀、もしくは類する盤面上での遊びだろう。その程度に当たりをつけると、なるほどソレの作成に携わるとは何とも学生らしい良い塩梅の部活だなと感心していた。

 

 『んで、どうなの先生?何か面白い話でもない?』

 『面白い話、と言われてものぉ。オレもシャーレに就任してまだ日も浅い、大した話はできぬぞ』

 『良いから良いから!こいうのは何からインスピレーションが生まれるかわかんないんだから、取り敢えず聞いてみるのが大事なんだって!』

 『ふむ、まぁよう分からぬが雑談というなら是非もないぞ!と言ってもここで立ち話もなんぞ、ユウカよ。どこか落ち着ける場などは───『よし決まり!こっち着いて来て!』

 

 生徒とのコミュニケーションの場を設けようとした柱間の言葉に割り込むように声を上げるモモイが、無遠慮に先生の手を握り引っ張っていく。背後でユウカの呼び止める声が聞こえたがそれを無視して廊下をかけ、勢い良く部室の扉を開くと彼女と瓜二つの少女が訝しげな様子で柱間を見上げるのだった。

 

 『お帰りお姉ちゃ……誰、その人』

 『ふっふっふー!聞いて驚かれよ、なんとこちらは今キヴォトスで話題沸騰中、泣く子も黙る天下の大王、シャーレの先生であ〜る!!』

 『随分語弊のある言い回しぞ…』

 『シャーレの先生?確か、連邦捜査部が行政権を奪還するに際して色々言ってたっけ』

 『うむ、そのシャーレで間違いないぞ。オレは千手柱間、今言った通りシャーレの先生をしておる。よろしくの!』

 『あ、ご丁寧にありがとうございます。才羽ミドリです。えっと、そこの……才羽モモイとは、双子の妹の関係です』

 『ほぉ!双子とな!道理で似た顔つきぞ』

 

 姉妹、という点にシンパシーを感じたのか、仲の良い双子の関係に満足げな柱間。勝手に上機嫌になっている大人を置いておいて、ゲーム機やお菓子で散らかった床に無理やりスペースを作りクッションを置くとモモイが先生に座るよう急かす。

 

 『いや〜、ごめんね先生。普段はもうちょっと片付いてるんだけどさぁ〜』

 『お姉ちゃんがやりたいゲーム機引っ張り出して片付けないからでしょ』

 『何言ってんの!これはゲーム機が散らかってるんじゃなくて私のわかりやすい場所に配置してるの!言わばゴッドポジションってわけ!』

 『何その言い訳……』

 

 もう少しマシな言い訳はないのかと呆れる視線を妹から受けるが当の本人は自信満々で彼女の視線をサラッと流し、一種の癖のように帰ってきて早々携帯ゲーム機へと手を伸ばしていた。

 

 『えーっと、配合のチャートどこまで進めたかな……』

 『ちょっとお姉ちゃん!流石にお客さん招いておいてゲーム機触るのはやめようよ!』

 『あ、ごめんごめん!いつもの癖で……』

 『はぁ…それで、えっと、シャーレの先生。一体ここには何の用ですか?大方、お姉ちゃんが無理言って連れてきたんだと思いますが…』

 『ちょ、ちょっと!聞き捨てならないなぁ!しっかり先生の了承はもらったんだからね!』

 『うむ、モモイの言う通りぞ。オレの話を聞きたいと言うての。それとミドリよ。シャーレの先生、などと長い名称はいらぬ、気軽に先生やハシラマ先生とでも呼んでくれ。……ふむ、しかし』

 

 柱間が首を回して部屋全体を一瞥する。彼の視線の先にはまずモモイの手元にある───ミドリの発言から察するに───おそらくゲーム。いや、ゲーム機、と言っていたからゲームをするための機械だろうかなどと考えつつ視界を動かすと、続いてそれと類似する形状の道具の数々が視界に映っていた。そんな柱間の考えなどつゆ知らず、モモイは首を傾げ、ミドリは初対面の人に散らかった部室を眺められたことに対して、ばつが悪そうに表情を歪めていた。

 

 『モモイよ、貴様の持ってるそれや……ちょうどここに落ちておるコレが"ゲーム"か?』

 『え、いやそっちはコントローラーだけど……え、先生ゲーム知らないの?嘘でしょ?』

 『いや何、花札や麻雀、その他体を動かす遊びをゲームというなら心得ておるが……そう言った類のものは初めてぞ』

 『え、ほんとですか?聞いたことも?』

 『うむ』

 

 二人が信じられないようなものを見る目で柱間を見つめる。勿論自分達が極度のゲーマーであるため人一倍この手の話題には敏感であることくらい自覚はあるが、それを抜きに考えても現代社会でゲームを見たことすらない、というか知識にもないというのは流石につまらない冗談を疑うが、正面で胡座をかく男の裏表のなさそうな顔が嘘ではないことを雄弁に語っており、双子がヒソヒソと言葉を交わしていた。

 

 『……ちょっとお姉ちゃん、大丈夫なのこの人?』

 『い、いやぁ、なんかおっさんくさいとは思ったけど……ここまでとは思わなかったし』

 『というか、結局何のために連れてきたの、この人』

 『なんか面白い話聞けないかなって、最近筆が進んでなかったから……』

 『お姉ちゃん……』

 『し、仕方ないじゃん!こんなアナログ人間なんて思わないもん!』

 

 『(………若者の文化に付いていけず生徒に罵倒される。完全にジジイぞ……)』

 

 当の本人達は柱間に聞こえないようにトーンを押さえているつもりだが、彼の超人的な聴覚が密室で唯一音を奏でる二つの声を捉えられぬはずもなく、目に見えて沈んでいた。そんな先生の様子を見て、自分達の会話が聞こえていたという事実に気づいた二人が慌てて弁明を行う。

 

 『は、ハシラマ先生!元気出して下さい!別に先生を馬鹿にしているわけではないので!』

 『そ、そうだよ先生!先生にも良いところあるって!例えば……声とか!渋いし!』

 『お、お姉ちゃん…フォローになってないよ…』

 『え、嘘?』

 『よいぞ、気を遣わなくとも……流行り物についていけぬオレの落ち度ぞ……』

 『もー!先生もいつまでもいじけないでよー!大人なんだから!』

 

 大の大人が少女二人に励まされる、何とも情けない光景が広がる。その図体からは想像もできないほど繊細な男を何とか立ち直らせようと四苦八苦するが、返って来る言葉はとことん自責の念であり、遂に我慢の限界を迎えたモモイが大きく声を上げた。

 

 『んもー!そんなにショックなら今から知れば良いじゃん!ハシラマ先生もやろうよ!ゲーム!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──ぬわー!!あとちぃとばかしだったのに!」

 「ほっほっほ〜!オレに勝つにはあと百年ほど研鑽を積んでもらわないと行かぬの〜!!」

 「お姉ちゃん何それ、もしかしてハシラマ先生の真似?全然似てないけど…」

 

───そして、現在に至る。

 最初の塞ぎ込んでいた空気は何処へやら、まるであどけない子供のように、純粋にゲームを遊ぶ男の姿がそこにはあった。元より中々の負けず嫌いである柱間が、両手の指ほどの連敗を重ねてもめげずにモモイに挑むのは無理からぬ話で、モモイもモモイでたかだか十数戦しただけで飽きがくるほどの人間ではなく、何より連勝を重ねて上機嫌になり当初の目的も忘れてゲームにのめり込む。

 

 「ハシラマ先生らしく言うなら、そうだな〜……まだまだ若いものには負けぬわい!」

 「ハハハ!確かに、ゲームなら貴様に一日の長があるの!オレは若輩者ぞ!」

 「さて、次々──の前に、喉乾いたや。ミドリ、ジュース残ってたっけ?」

 「何かお姉ちゃんが徹夜でイベント周回するって言ってめちゃくちゃ買い込んで余った妖怪maxならあるけど」

 

 んじゃそれでいーやと言って足の踏み場のない散らかった部室内を何とかゲーム機を避けながら慎重に歩き、冷蔵庫から妖怪maxを取り出すモモイ。その内一つを先生に押し付けるように手渡すと、キンキンに冷えた円筒に首を傾げる柱間を放置して元の場所に腰を下ろす。

 

 「これは何ぞ?」

 「あれ?知らない?妖怪maxっていうエナドリだよ。コレ飲んだら眠気が一発で吹き飛ぶから徹夜にはもってこいなんだよね。ミレニアムでは皆んな飲んでるよ」

 「いや重量と音からして中に飲料水が入っとるのは分かるが……なるほど、こう開けるのか」

 「…え?……ハシラマ先生、もしかして……」

 「……まぁ、案の定こんな形の水筒は初めて見たぞ…」

 「えぇえええ!?い、いや水筒じゃなくて缶だよ!カンカン!!飲料缶!!見たことないの!?嘘だあ!流石にそれは嘘だって!!マジで言ってるなら病院行ったほうが良いよ先生!!」

 

 モモイがタブを指に引っ掛け飲み口を作ると、それを見よう見まねで行い缶の口を開き満足げに顔を綻ばせる柱間。彼の放った一言に引っかかったミドリが恐る恐ると言った様子で尋ねるとどうやらその嫌な予感は的中し、いよいよ以て柱間の正体に不気味さを覚えていた。

 

 「アナログ人間とかいうレベルじゃないって!!記憶喪失とかじゃないの先生!?」

 「うぅむ。記憶喪失ではないが、まぁ似たような状況ではあるのかもな……」

 「えっと……どういうことです?何か訳ありなんですか?」

 

 ミドリから質問を受けた柱間が、一旦受け取った妖怪maxを近くのテーブルに置き腕を組み軽く説明を行う。自身がキヴォトス外から来たこと、そことは文化が違いすぎて様々なことの勝手が分からないことなど。それを聞いた二人が露骨に安堵の息を吐く。先ほどまでの時代錯誤とも取れる発言の数々の辻褄が合ったためだ。

 

 「なーんだ、そういうわけだったんだ。ビックリしたー!流石にゲームも飲料缶も知らないなんてあるわけないと思ったからさー。本当に病気かと思ったよ」

 「でも、なんで直ぐ言わなかったんですか?流行りについていけずにーなんて言って落ち込まなくても……」

 「まぁ、なんぞ。オレもこれからはキヴォトスの生活に慣れていかぬとな。いつまでもオレの知らぬことだから、では通せぬ。それに、ゲームを知らなかったのは事実ぞ」

 「ふ〜ん、なんか大変そうだね、先生」

 

 よく言えば自分に厳しい、悪く言えば意地っ張りな彼の難儀な性格をうかがえる発言に、てきとうに相槌を打つモモイ。しかし、と言って先ほどの柱間の発言をほじくり返し言葉を続ける。

 

 「キヴォトスの外って随分遅れてるんだね。なんか生きづらそ〜」

 「ちょっとお姉ちゃん、失礼だよ」

 「構わぬ、ミドリよ。事実ぞ。勿論、オレは元の世界の文化やしの……人の在り方も好きだが、ここの世の方が客観的に見れば……いや、オレ視点でも素晴らしいとこぞ」

 

 一瞬木の葉隠れの里を想い、そこに生ける火の意志、耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ彼等の姿に意地を張りそうになるが、やはり彼の目指していた平和という一つの理想郷を限りなく体現しているこの世界の方が、絶対的な評価方法はないにしろ客観的に見れば幸せなのだろう。勿論、元の世界を否定するわけでもない。親友と成した木の葉隠れの里を───ナルトとサスケ、自身達とは異なる結末を願った二人が果たしてインドラとアシュラの因縁を断ち切る事ができたのか、何よりあの里を───そんなことを、特に何かを意識したわけでもないモモイの単純な疑問に対して考えてしまう。

 

 「……?大丈夫ですか?ハシラマ先生」

 「……ん、いやなんでもない。兎に角、生きづらい世だったのは確かぞ。比較するものでもないがの」

 「ふ〜ん、あじゃあさ!そっちの話も聞かせてよ!シャーレの話だけじゃなくてキヴォトス外の話も!」

 

 そう言われて困ったような顔をする柱間。と言うのも、彼の言うキヴォトス外はモモイ達の想像するキヴォトス外ではなく、厳密に言えばキヴォトスではない場所(忍の世)だからだ。勿論戦争の生々しさ、子供には聞かせられない汚れた謀略の数々を語るつもりはないが、それ抜きにしてもキヴォトス外として柱間のいた世界の話を語って認識を歪めるのは如何ともし難い。さてどう説明したものかと先ほどのテーブルに置いた飲料缶を再度手に取り一息つこうと妖怪maxを口につけた瞬間───

 

 「───ブフッ!!」

 「うわ!?」

 「ちょ、きたな!!何してんの先生!?」

 「げほ…っ!ごほ…っ!な゛、な゛んぞこれ゛……ッ!?」

 「何、って、ただのエナドリ………え!?まさか炭酸も飲んだことないの!?」

 

 突如として口から水飛沫を噴き出す柱間。大の大人が精密機械の散乱する室内で口内から妙な色に着色された液体を、あわや生徒に吹きかけると言う扉間も真っ青な水遁を披露しかけたが、噴き出す瞬間何とか口元を抑え被害を抑えるに成功した───ものの、上着が濃い染みを作っていた。

 

 「す、すみません!そこまで気が回ってなかったです!その、炭酸飲料って言ってキヴォトスではメジャーな飲み物でして……」

 「そ、そう゛な゛のか……んん゛、恐ろしいモノを飲んどるの。喉が破裂するかと思ったぞ……」

 「うわぁ〜……まぁゲームにかからなかっただけマシかぁ。えーっと、タオルタオル……あ、あった。はい先生、これで拭いて」

 「す、すまぬ。……はぁ、慣れるとは言ったが、先は長いぞ……」

 

 また一つ、痛みを経て大きな経験をした柱間が、自身にどんよりとした暗い影を落とす。二人も二人でフォローと言うよりどこか気の毒な視線を送って柱間が上着を脱ぐのを見つめていた。

 

 「先生、こっち来てからずっとこんな調子なの?」

 「まぁ、そうだの。種類は異なるが似たような激動ぞ。初日よりはマシかもしれぬが……」

 「何かあったんですか?」

 「いやなに、廁も風呂もオレの知っておるモノと勝手が異なったからの。先日は、洗濯をしようとして暇な時間に風呂場で衣類を擦っておったら当番の生徒に呆れられながら洗濯機の使い方を教えてもらったばかりぞ!ハハハ!!」

 「ハシラマ先生いつの時代の人……?……あそうだ!!」

 「どうしたのお姉ちゃん?」

 

 先生の話を聞いた直後、唐突に自身の作業デスクに腰掛けるモモイ。何かしらの作業を行いつつブツブツと言葉をつぶやく姿に、あぁ、何かしらのインスピレーションを得たのかと納得していると、できた!という威勢の良い声と共に振り返る。

 

 「主人公は一国の主人!様々な別れや経験を経て皆に尊敬される王となったがある日突然異世界へと呼び出される!そこでは全ての文化が違って右も左も分からないのに王になれと言われて崇められ、訳もわからぬまま───……いやだめだこれ……」

 「まぁさも珍しくもないありふれた転移モノだね。ハシラマ先生の話聞いて思いついたんだろうけど、特に引かれはしないかな……」

 「で、でもそこはほら!なんかハシラマ先生からは生々しそうな話聞けそうだし、それを題材にすれば他の作品よりリアリティのあるものが作れるんじゃない!?」

 「キャッチコピーが弱すぎて手に取ってもらえないでしょ。私達は直に見聞きしてるからインパクトあるけど、ゲームのイラストやテキストで再現されてもあまり衝撃はないと思うよ」

 「だめかぁ〜……」

 「……すまぬ、何の話ぞ?」

 

 自分が置いてけぼりで話を展開する二人についていけず、二人の会話が途切れた頃を見計らい声をかける柱間。

 

 「お姉ちゃんはゲーム開発部のシナリオライター……えっと、私達ゲーム開発部はその名の通りゲームを作っているんですけど、お姉ちゃんはそのゲームのお話を考える役なんです」

 「ゲームのお話ぞ?」

 「そ。さっきのは格ゲーって言ってストーリーとかはない───こともないんだけど、そうじゃなくて小説みたいにガッツリ………小説は分かるよね?先生」

 「あぁ、それくらいなら。オレはあまり嗜む方ではなかったが」

 「良かった〜。ま、そんな感じで凝った話が土台になって、その舞台で自分の操る主人公が冒険する、ってな感じのゲームもあるんだよね。要は、架空のお話に没入して楽しむ!ってわけ」

 「他にも色々なゲームがあるんですが、私たちが今手がけてるのはそういった類のゲームで……兎に角、そのお話作りに行き詰まってるって感じです」

 

 なるほどと言って柱間が顎をさする。彼の知っているゲームは先ほどの格闘ゲームしかり賭け事しかり、そこに快楽としての娯楽以上の付加価値は無かったが、時代が進めば読み物との融合を果たしストーリーの悲哀や感動を求めるのかと感心していた。ついでにモモイの語ったゲームのストーリーが自身の経歴と少々合致していて若干肝を冷やしていた。

 

 「すまぬな、余りオレの話は参考にならないようで」

 「いいのいいの!別に何か聞けたらラッキー!ってくらいだったし、楽しかったから!」

 「モモイはしなりおらいたー……ミドリは何の役ぞ?」

 「えっと、私はイラストレーター……えっと、ゲームに使う色んな絵を描いてます」

 「ほぉ!絵師ぞ!それは良い!キヴォトスにいるとソレがどれだけ多大な影響を与えておるかオレでも分かる。素晴らしい技術ぞ!」

 「あ、ありがとうございます」

 「……しかし、見た所画材が見当たらぬな。何ぞ、こことは別に画室があるのかの」

 

 あ、それは、と言って、まぁペイントツールを知っているわけもないだろうと考えていたために柱間の疑問は予定調和だったようでタブレットとスケッチブックを取り出す。

 

 「こっちのスケッチブックに書いた下書きを……液タブで仕上げるんです。筆や絵の具じゃなくて、こう言ったデジタルツールを用いるんですよ」

 「…ほぉ〜…これが、こう仕上がるのか。まるで別の絵ぞ」

 「あー!懐かしい!これテイルズ・サガ・クロニクルの原画じゃん!!」

 「って、お姉ちゃん!勝手に過去のスケッチブック開かないでよ!」

 

 柱間に説明するために取り出した、部屋の片隅に整頓されてあるスケッチブックの束。そのうち一つを取り出してモモイが眺めていると、懐かしくも苦い記憶であるTSCの原案の数々が姿を表す。そのことに気づいたミドリが咄嗟に声を荒げると、ごめんごめんと言いつつスケッチブックを戻して一息着くのだが───

 

 「ているずさが……何ぞ?」

 

───よりにもよって、何でそこに食いつくんだという点に柱間が反応してしまう。

 

 「え、えっと……テイルズサガクロニクルって言う、まぁ、ゲームなんですけど……」

 「ほぉ、ゲームの一つか!……ぬ?ミドリのスケッチブックに、原画……絵のことか?テイルズサガクロニクルの絵が描いてあるということは……」

 

 「ん〜…まぁ、私達が作ったゲームなんだよね〜……」

 

 やはりと言うべきか、こちらの苦い顔とは裏腹に満面の笑みで興味津々といった様子の柱間に心が痛む二人。と言うのも言葉の節々から彼がお世辞でもなくゲームを好いてくれているのが伝わり、何よりこのゲーム開発部に対するリスペクトを感じてしまうのだ。それだけに、勿論あのゲームを世間一般から見た単なる駄作、で終わらせるつもりはないが折角ゲームを好いてくれた初心者にお出しするのは、ハッキリ言って、ない。自分達で作ったモノだが、ない。それはありえない。というかやっちゃいけない。

 

 「ほぉ!それもそうぞ!ゲーム開発部なら、作ったゲームの一つや二つもあるの!是非遊んでみたいぞ!」

 「え、えーっと……す、すみません先生、今ここにはなくて…」

 「ぬ?そうなのか?なら…折角ゲームに興味を持った所ぞ。自分で買ってみ───」

 「わーわーわー!!そんなことしなくて良いから!!せ、先生どこで売ってるとか知らないでしょ!?次会う時までに私達で用意しとくから!!!」

 「お、それはすまぬな!買ったら言ってくれ、金は出そうぞ、オレのわがままだからの」

 「は、はい……」

 

 何とか彼の奇行を止めることができたものの、契りたくもない口約束をしてしまいどうしようと汗を垂らすモモイ。柱間のゲームに対する理解が甘いため、発売元がゲームの元データを持っていないというトンチンカンな主張に疑問を持たずに済んだが、言ってしまえば処刑の日が延びただけ。どうしようこの空気と困っていた所、救世主が扉を開け柱間に声をかける。

 

 「ハシラマ先生、書きましたよ───って、何よこの空気」

 「ユウカ?何しに来たの?」

 「何しに来たの、じゃないわよ……あんたが勝手に先生連れて行っちゃったんでしょうが」

 「おぉ、すまんのユウカ。…うむ、確かに。感謝するぞ、ユウカよ」

 「シャーレ当番の際はよろしくお願いしますね」

 「シャーレ当番?」

 

 あぁ、とミドリの疑問に答える柱間がユウカから受け取った書類を懐にしまいながら立ち上がる。シッテムの箱で時間を確認するとかなりの時間ゲーム部に長居したようで、面白くも末恐ろしいゲームの魔力というモノに戦慄していた。

 

 「シャーレ当番と言っての、シャーレでオレの仕事を手伝ってくれる生徒をスカウトしておる」

 「シャーレ当番って何するの?」

 「基本的にはオレの作業の手伝いぞ。特にオレがパソコンに弱くての、慣れる努力はしておるのだが……」

 「あぁ、なるほど」

 「ユウカは完全ボランティアでそんなことやるの?」

 「いや、給与は出すぞ。流石に無償でというのはオレも心が痛むからの」

 「あ、そうなんだ、納得」

 「ちょ、ちょっと!私がお金目当てみたいな言い方やめなさいよ!」

 

 あくまで善意で先生に協力するというのは彼女自身綺麗事でも何でもない事実のようで、というのもやはりサンクトゥムタワーの制御権が失われた際の被害はミレニアムでも看過できないモノであり、普段ほのかな笑みを絶やさぬ自身の親友でさえ、目の下にクマを作り声をかけた際には思わず恐怖してしまうほどの徹夜残業であった。それを、右も左も分からない状況で文句の一つも言わず解決してくれた先生への感謝の念は計り知れず、この程度で恩返しになるのならと書類にサインをした所にそんな勘違いをされたらたまったものではない。

 

 「ハハハ!そう声を荒げずとも分かっておる。重ね重ねすまぬな、ユウカよ。頼りにしておるぞ」

 「いえ、ハシラマ先生には恩がありますので」

 「それ、私達もサインして良いの?」

 「勿論ぞ!今シャーレは猫の手も借りたい状況だからの」

 「どうしたの、お姉ちゃん?突然」

 「いや〜何?ここで知り合ったのも何かの縁だし?まぁ手伝ってあげてもいいかなーって思っただけだよ?」

 「どうせアンタは新作ゲームの小遣い稼ぎがしたいだけでしょ」

 「ちょ、人聞き悪いなあ!私はただ善意でハシラマ先生を手伝おうとしてるだけなのに!どっかの冷酷算術妖怪と違ってさ!!」

 「何ですってぇ!!」

 「ちょ、暴力反対!!」

 「ハハハ!まぁどのような理由であれ手伝ってくれるものは大歓迎ぞ!!」

 

 ユウカがモモイに制裁を加えている光景を視界に収め、生徒達のじゃれあいに満面の笑みで笑い声を上げる。結局その後モモイとミドリも書類に記名し、計三名の名簿を受け取って満足げに頷いていた。

 

 「うむ!確かに受け取った!感謝するぞ、モモイ、ミドリよ」

 「せんせー!手伝った時は奮発してよねー!」

 「ちょっとお姉ちゃん!」

 「ハハハ!勿論ぞ!……さて、もうそろそろ失礼するかの、他所もみて回りたいのでな」

 

 部屋を後にしようとする柱間。前回と違って時間の余裕があり他の部室も回るようで、惜しみつつもゲーム開発部に別れを告げる。短い間だったが自身の人となりを伝え緊張感をほぐすには十分だったようで、モモイは兎も角ミドリの懐疑的な視線は影を潜め、小さく笑みを浮かべていた。

 

 「感謝するぞ、二人共」

 「ハシラマ先生も、また暇な時来てねー!本来ならもう一人部員いるんだけど───」

 「ん?おぉ、ならロッカーにおるのがそうか?」

 「……へ?」

 

 先生の去り際、彼にもう一人の部員のことを告げようとするモモイ。今日は体調不良により部室に来れないとの話だったのだが、それもかえって良かったかもしれない。というのも、彼女が極度の人見知りであり今日出会った先生のような、陽の塊のみたいな人間と出会ってしまったら太陽光に照らされた吸血鬼の如く灰と化してしまうだろう。故に、彼女のことを考えれば事前に自分達姉妹だけが先に交流を持てたのは良かったのかもしれない。

 

 などと考えていた矢先、先生が変なことを言いだす。なぜロッカーを?自分達は彼女のことを話していないはずだが───いやそもそも、今日ユズは来ていないわけで───

 

 ガタン

 

 そんな彼女の思考をぶった斬るように柱間の言葉に呼応してロッカーが震える。何故、という疑問と共に歩を進め、問答無用でロッカーの扉を開け放つ。するとそこには───

 

 「なんでいるの!?今日来ないって言ってたじゃん!!」

 「うぅ………」

 「ふむ、その子がさっき言ってたもう一人の部員ぞ?」

 「あ、はい。あの、ゲーム開発部の部長で…」

 「ほう!部長とな!」

 「ひぇ……!」

 「あ、ちょ、こらー!ユズ!閉めるなー!!」

 

 部長と聞いて少し大きい声を出した柱間にビビり、バァンと大きな音を立てて扉を閉めるユズ。バレてしまったものは仕方ないと紹介しようとしたモモイの意志など関係なく、非力な彼女が全力で内側からロッカーの扉を引っ張っていた。

 

 「す、すいません。ユズちゃん、ちょっと人見知りなところがあって……悪気があるわけじゃ……」

 「構わぬよ、初対面の名も知らぬオレを警戒するのも仕方のないことぞ。だからモモイその辺にしておいてくれるかの」

 「えー!ユズもシャーレ当番の名簿に一緒に名前書けばいいじゃん!このタイミングで!」

 「強制するものではないからの。ユズとやら、部長であるお前の統べるゲーム開発部、誠良い場であった!素晴らしい部員に恵まれておるの!次来た時は腹を割って話そうぞ!」

 「…は、ひゃ、は、はひぃ………!」

 「うむ、良い返事も貰えたし、これで退散するかの」

 

 元気を振り絞りながらも聞こえた了承の言葉に満足し、その場を後にする先生。ユウカもいなくなり部員だけになった頃、ゆっくりと、恐る恐ると言った感じでロッカーの扉が開く。

 

 「…せ、先生、行った……?」

 「行ったけど……いやそれよりも何でずっと黙ってたのユズ!」

 「う、うぅ……出るタイミング見失って……そ、それに大きかったし……」

 「大きかったって、いやそりゃ確かに───いやでも本当に大きかったな……どれくらいだろ?」

 「ひゃく……はちじゅうくらい……?」

 「というか、何でユズに気づいたの?……本当に何者なの?ハシラマ先生って」

 「さぁ………?」

 

 

 

 「そ、それより、モモイ」

 「ん、何?」

 「……TSC、どうするの……?」

 「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
次回はトリニティを書き、ようやく本編──の予定だったんですが、もしかするともう一校書くかもしれません。幕間が長引いて申し訳ない…。
それではまた次回

評価、ご感想ありがとうございます!
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