Hashirama Archive   作:アテナ18号

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一蓮托生

 

 「廃部?」

 「はい、ゲーム部は現状部活としての条件を何も満たしていませんから、これ以上の継続は認められません」

 「そ、そんなことないよ!私達だって全力で部活動してるもん!」

 

 普段は姉妹と現在ここにはいない部長の声、併せてゲーム音が鳴り響く部室内はいつにも増して大所帯で、口論を行う姉妹とセミナー役員、その仲を取り持つように柱間が言葉を交わす様子を、少し離れた場所で忍術研究部の三人が眺めていた。

 

 場所はゲーム開発部の部室。エンジニア部の見学も終わりそこそこに時間が経過した頃、もうそろそろと三人を連れてゲーム開発部の元へと向かおうとした柱間だったがどうやらユウカも同様に彼女らに用があるらしい。ノアと一旦別れる際に元々あった拒否感は消え去り笑顔で見送ってくれる彼女へ微笑み返す柱間が道中ユウカに話を聞けば、上述の通りゲーム開発部の廃部に関する話であった。となればシャーレを呼んだのも十中八九それが理由だろう。

 

 「モモイはこう言っとるが……」

 「校内に変な建物立てたかと思えばカジノみたいに装飾してギャンブル大会、レトロゲームを探すとか言いながら古代史研究会を襲撃……これの何処が部活動なのかしら?」

 「そ、それは……」

 「事実なのだな……」

 

 少しくらい擁護でもと思った矢先に語られるゲーム部の悪行に思わず頭を抱える柱間。ミレニアムの学校としての規模と、先ほど語られた話を聞くに彼女らに支給されている部費も子供の小遣いという額ではないのだろう。

 

 「ユウカよ、部活維持の条件とやらは何になるんだ?」

 「部員数が規定人数に達するか、ミレニアムの部活として見合う結果を出すかのいずれかです。ミレニアムは結果至上主義な所はありますから、後者の方が重要視されますね。と言ってもゲーム部はそのいずれも満たしていないのが現状ですが……」

 「足りないって、何人足りないの?」

 「い、一応あと一人いれば人数自体は満たせるんですけど……」

 「一人?一人くらいなら……なんてウチが言えた話じゃないけど、何とか集まるんじゃない?自分で言うのも何だけど私達の部活みたいにニッチな部活でもないし……ゲーム開発、ってことはプログラマーとかが必要なのかな……そこら辺もミレニアムなら見つかりそうなもんだけど」

 「この一ヶ月散々やってみたけどダメだったの!『ぷー!VRですら古いのに、何がレトロ風ゲームだよ』ってバカにされるのはもううんざり!」

 「ぶ、VRって古いんですね……」

 「イズナも驚きました…!」

 「い、いや流石にミレニアムが最先端を行きすぎてるだけだと思うけど……」

 

 中々にぶっ飛んだ発言が出てきたことに引き気味に驚愕する忍術研究部の三人。勿論ミレニアムの技術力の進歩は目を見張るものがあり、事実としてVRという遊びをキヴォトス全体で見ても一般的なものにまで普及させうる実力はあるのだが、やはりミレニアムとそれ以外で見ると技術の進捗に雲泥の差があり、特に彼女らが百鬼夜行というのも相まって認識にかなりの差異が生まれていた。

 

 「じゃあ……成果、というのは何になる?やはりゲーム開発部ならば作ったゲームの売り上げになるのか?」

 「それでも良いですが一番分かりやすい指標となるのはコンテスト等の入賞経験ですね」

 「こん……てすと?」

 

 「発明品の品評会のようなものです。ミレニアムは学校柄そのような場に事欠きませんから、しっかりとした実力と努力を積み重ねていれば決して手の届かない話ではありません。勿論コンテスト毎にその難易度は変動しますが……まぁ、廃部の話が上がっている時点でお察しだとは思います」

 「そ、それは……」

 

 いつになく冷たい目でゲーム開発部二人を見下ろすユウカ。彼女の視線の先で口籠る彼女らの様子を見るに成果は芳しくないことが窺える。それでも同情を寄せるのはどうやら柱間だけではないらしく、あまりにもあまりな言葉に割り込むように口を開くのは忍術研究部の部長、千鳥ミチル。やはり部活の承認で苦心する気持ちが人一倍理解できるのか、渦中のゲーム開発部員よりも困ったように眉を八の字に曲げてユウカに執りなしていた。

 

 「ま、待って待ってユウカ!それでも一度は部として承認されてるわけだからその、光るものはあったわけなんでしょ?」

 「まぁね。実際……評価は散々だけど、ゲームを作った実績もあるし……熱意は評価したつもりだったのだけれど」

 

 その続きは言葉にせず、やはりゲーム開発部の二人に目配せを行うユウカ。その視線が何よりも途中で区切った言葉の結末を物語っているようで、バツが悪そうに目を逸らす姉妹を見て慌てて口を開くミチル。

 

 「な、ならもうちょっとだけ猶予をちょうだい!その、ゲーム開発部の子達もシャーレを呼んだのは間違いなくこの件に関してだろうし……な、何も考えなしってわけじゃないだろうから!」

 「部長……」

 

 「どーだか。どうせ何も思いつかないから取り敢えず噂のシャーレに──「違うッ!」

 

 少し───少なくとも表面上は───小馬鹿にしたような態度のユウカの発言を大きな怒鳴り声で遮るのはゲーム開発部のシナリオライター、才羽モモイ。先ほどまでの及び腰だった彼女とは打って変わって身を乗り出すように強気な彼女に目を見開くユウカが、へぇと挑発的な声色で彼女を煽る。

 

 「何か考えがあるのかしら?」

 「あるよ!要は実績があれば良いんでしょ!」

 「要はって、貴方簡単に言うけれどね……それが出来てないから──」

 

 「ミレニアムプライス」

 

 モモイが口にした言葉に、首を傾げるのはミレニアム外の人間。柱間一行とは対照的に狼狽える双子の片割れや再度言葉を失うセミナーの会計の姿にそのカタカナ言葉が何か大層な意味合いを含んでいることは想像に難くない。

 

 「そこで受賞すれば文句はないでしょ!そのための準備や切り札だって用意してるんだから!」

 「そ、そうなの!?」

 「ちょ、なんでミドリが驚くのさ!?」

 

 「ユウカよ、みれにあむぷらいす、とは何ぞ?」

 

 腕を組んで生徒のやり取りを眺めていた柱間が痺れを切らしてユウカにものを尋ねると、呆れたようなため息を吐いて説明を始めるのだが、その態度の理由はモノを知らない柱間に対してではなく荒唐無稽なことを言い出すモモイに対してのもので他ならないのだろう。

 

 「……ミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合う、ミレニアムでも最大級のコンテストです。ここで受賞できるのならばその実力に文句のつけようもありません。……モモイ、貴方、本気で言ってるの?ミドリも把握してないみたいじゃない。ここで私を丸め込む為の口から出まかせを言ってるなら考え直しなさい」

 「く、口から出まかせじゃないよ!本当に策があるの!」

 

 「ユウカよ、オレも折角ミレニアムまで足を運んで話も聞かず踵を返したくはない。お前の苦悩も分かるが少しだけ時間をくれぬか?彼女らと誠実に向き合うことを誓おう。決して贔屓などせぬ」

 「そうだそうだー!ちょっとは私の話にも耳を傾けろー!この冷酷算術妖怪めー!」

 「なぁんですってぇ!?」

 

 「落ち着けユウカ。モモイよ、お前も図に乗るな。普段の振る舞いからユウカが真っ当に業務に臨んでいることは理解できる。お前を擁護するようなことを言ったがどちらに非があるのかと言えば貴様の方だろう」

 「う……ご、ごめんなさい……」

 

 あまり耳にしない、普段生徒を甘やかす彼の少しばかり厳しい言葉に萎縮し覇気を失うモモイの様子に、再びため息をこぼすユウカが呆れつつ仕方ないと言葉を漏らす。

 

 「……はぁ、アンタを擁護してくれる先生やミチルさんに感謝しなさいよ、まったく……分かったわ、そのミレニアムプライスまで待ちましょう。でも結果が全て、それだけは忘れないことね」

 「わ、分かってるって!」

 「……それでは先生、申し訳ありませんが……」

 

 「あぁ。任せてくれ」

 

 ユウカが小さく頭を下げてゲーム開発部を一瞥した後退室する。緊張の糸が解けた一同が揃って溜息を吐き腰を抜かしてその場に座り込んだ。

 

 「い、いやぁ~~……生き延びたぁ~…」

 「生き延びた、じゃないよお姉ちゃん……先生と、あと忍術研究部の皆さんも、ご迷惑をおかけしてすいません……」

 「へ?あ、良いよ良いよ!こっちこそごめんね?いきなり口出しして」

 「オレの方も気にするな、さっきも言った通りそこは厳粛に対応するからの」

 

 姉に代わり礼儀正しく頭を下げるミドリを宥める二人。少し時間をおいて落ち着きを取り戻したモモイが、改めてと前置きをして尋ねる。

 

 「今更なんだけどさ……えっと、どちらさま?」

 「あ、そうだね、ごめんごめん!──こほん。百鬼夜行連合学院三年生、忍術研究部部長の千鳥ミチル!よろしくね!それで後ろの二人が…」

 

 「同じく百鬼夜行一年、忍術研究部所属、久田イズナです!」

 「に、忍術研究部所属、大野ツクヨです…!あ、い、一年生です……!」

 

 シャーレと関りを持ち外部の人間と顔を合わせる機会の増えた彼女らの、中々に小慣れてきた挨拶を受けて姉妹も各々自己紹介を済ませる。先ずは一息つこうということで腰を下ろそうとするのだが、足の踏み場の無い床を見つめて困ったように狼狽える忍術研究部一行。慌ててクッションを用意し乱雑に散らかったゲーム機を無造作に押しのけ無理やりスペースを作るモモイが、慎重に歩きながら飲み物を用意し、六人が囲むには少々手狭な小さめのテーブルの上に紙コップを並べながら会話を続ける。

 

 「へぇ~、忍術研究部ねぇ~。やっぱり百鬼夜行はそういう古風な文化っぽいのが揃ってるの?」

 「あー……まぁ、結構狭い界隈のコンテンツではあるんだけどねぇ……かくいう私達も正式な部活じゃないし」

 「へ?そうなの?なんか訳あり?」

 「……そう言えば部長、何故忍術研究部は非認可なのでしょうか……?や、やはり活動内容が認められていないのでしょうか……?」

 

 「え゛」

 

 言われて見ればと考え込むツクヨが純粋に抱いた疑念をミチルに尋ねると、濁った声色でドキリと心臓を跳ねさせる忍術研究部の部長が回答を濁す。

 

 「え、えっと、ま、まぁ……そ、そんなもんかな……」

 「そ、そんな……!う、うぅ、部長……すみません……!私が力不足なばかりに……!」

 「ちょ、違う違う!そんなことないって!ツクヨとイズナには本当に助けられてるからさ!!」

 「そうですよ!ツクヨ殿!忍は忍び耐える者、です!このまま活動を続けていれば必ず理解が得られるはずです!」

 「な、なんかそっちも色々大変そうだね……」

 

 「…………」

 

 一瞬、言葉を濁してそっぽを向いたミチルの態度に何か事情を感じ取る柱間。無意識に視線を逸らしているのか自分と目を合わせようとしない彼女の態度に思うところはあるものの───

 

 「……ま、挨拶もそこそこに本題に入るとするか。二人とも」

 

───今回ミレニアムまで足を運んだのはあくまでゲーム開発部の要請によるもの、ここでミチルの抱える問題を蒸し返す必要もないかと一旦脳裏にしまい込む。

 

 「あ、うん」

 「それでお姉ちゃん、何か切り札とか言ってたけど……本当にミレニアムプライスにゲーム出すの…?二週間後だよ…?」

 「に、二週間ですか!?イズナはゲーム開発には詳しくありませんが、流石に時間が足りないのでは……?」

 「……あ!じ、実は密かにモモイさんがゲームを作っていたり、とか……!」

 「いやまったく?そもそも私シナリオライターだし、まぁプログラミングも全くできないわけじゃないけど一人じゃ無理だよ」

 「そ、そうなんですね……」

 

 助け舟を出したツクヨの言葉が自信満々なモモイが真っ向から否定する。その隣では引き気味のミチルがやっとこさかなりの問題児を庇ってしまった事実に気づいて頭を抱えていた。

 

 「……モモイよ、それでオレを呼んだ理由とは何ぞ?オレはゲームの開発などやったことはないが……」

 「え、そんなの最初っから先生には期待してないよ」

 「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」 

 「ズバッと言うな、貴様……」

 「そうじゃなくて、ちょっと付き合ってほしい場所があるんだよね」

 「場所?」

 

 「うん。先生ってG.Bible(ジーバイブル)───って、知ってるわけないか」

 

 「じぃ……ばいぶる?……あぁ、聞いたこともないの。お前達は?」

 「い、いや、知らないけど…」

 「イズナも聞いたことありません…」

 「私も…」

 

 また自分がモノを知らないだけかと忍術研究部の三人に尋ねてみた所、どうやら今回に限ってはそういうわけではないらしい。首を傾げるシャーレ一行に簡素な説明を行うモモイ。

 

 「えっとね、簡単に言うと昔いた伝説的なゲームクリエイターの人が、在学中に残したとされる神ゲーマニュアル!」

 「おぉ!神ゲーマニュアル!それが切り札というわけですか!モモイ殿!」

 「そ!ソレさえあればミレニアムプライスの受賞を貰ったも当然って寸法!」

 「ゆ、夢がある話ですね…!」

 「な、なんか胡散臭さ全開じゃない…?」

 「オレもそう思うの……」

 

 「私も同意です。お姉ちゃん、それどっかのゲームクリエイター学校の広告に騙されてない?」

 

 純粋な気持ちでモモイの言葉に首を縦に振るのは忍術研究部の一年生達。漫画や映画に謳われるロマンを感じ取ってモモイと共に胸を躍らせていたが、しっかりと現実を見れる冷静沈着な三人が訝しむような眼でモモイを見つめていた。

 

 「違うよ!G.Bibleはあるって!だって───ヴェリタスに頼んで、稼働記録まで調べてもらったもん!G.Bibleは確かに実在するの!」

 「……え?お姉ちゃんわざわざヴェリタスの人にまで頼んで調べてもらったの?」

 「うん!だからG.Bibleは絶対にある!とある場所にね!」

 

 「……ヴぇり……何ぞ?今度は」

 

 先ほどから続くカタカナ語のオンパレードにもうそろそろ脳がパンクしかける柱間が、何とか話をかみ砕こうと必死に頭を凝らしていた。

 

 「ヴェリタスって言って、ハッカー……えっと、要はネットを使っての情報収集が得意な人たちがいるんです。お姉ちゃんの言う通りその人たちがG.Bibleの存在を仄めかしているのなら、まぁ少なくとも本当に実在はするんだと思います」

 「へぇ~……眉唾と思ったけどあるんだね、そんな便利なモノ」

 

 「……まぁ、分かったような分からんような……それで、結局オレを呼んだ理由は何ぞ?そのG.Bibleに関してか?」

 「そ!」

 

 随分話が脱線しつつも何とか話が見えてきそうで一安心する柱間。眉間にしわを寄せる彼とミチルの背後では、話を飲み込めているのか飲み込めていないのか分からない凛々しい顔で正座するイズナと、周囲の人間の様子を窺うように視線を泳がせるツクヨが話の中心に立つモモイと柱間を交互に見つめていた。

 

 「詳しい話はまた後でするとして、さっき言ったヴェリタスの人たちの助けもあってG.Bibleの場所に当たりはついたんだけど……」

 「……そう言えば、付き合ってほしい場所、と言っておったな……もしかするとその"ジィバイブル"とやらの場所が問題なのか?」

 「あったりー!先生話が早いね!」

 「え?そんな辺鄙な場所なの?」

 

 柱間の言葉を聞いて器用に指をパチンと鳴らすモモイ。次の瞬間彼女が放った言葉に、驚くシャーレの一行と、げんなりと表情を歪めるミドリであった。

 

 

 「実は───立ち入り禁止の廃墟なんだよね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………あ…!主殿の合図です……!行きましょう……!」

 「は、はい……!」

 

 「……先生、何者なの…?」

 「本物の忍者…?」

 「まぁ、そういう反応になるよねぇ……」

 

 

────現在、ミレニアムの地図にない場所(廃墟)にて。

 

 周囲を警戒してなるべく音を立てずに足を運ぶ彼女らが、巡回するロボに見つかることなく廃墟を探索できる理由は───本来背後に控えるべき、シャーレの先生が先行して指示を出しているに他ならないのだろう。

 

 

 「……ふぅ、緊張するなぁ」

 「でもアイアンギアみたいでワクワクしない?ミドリ」

 「ちょっと、真剣にしてよ、お姉ちゃん。……ちょっと分かるけど」

 「イズナも、不謹慎かもしれませんが忍者のような任務でワクワクします…!」

 「ツクヨ、大丈夫?体痛くない?」

 「だ、大丈夫です…!」

 

 人一倍身長が高く、身を屈めるのも一苦労なツクヨを労わるミチルが時折背後を振り返りながら皆の様子に気を配るのは、流石に年長者としての気配りが現れているのだろう。無事見つかることもなく柱間の下にたどり着いた一行が三者三様の反応を見せながらほっと溜息を吐く。

 

 「いやぁ、緊張したぁ…!」

 「ふむ、ご苦労だったの。と言っても今しばらく続くがな」

 「良いよ良いよ全然!私何だかワクワクしてきたかも!」

 「ハハハ!そうかそうか!…っと、ふふ、いかんいかん。声を抑えなくてはな。まぁ気が滅入ってないようで何よりぞ」

 

 瓦礫と生い茂る木々の陰に隠れ言葉を交わす一行が、緊張感をほぐすためか顔に笑みを宿して一息ついていた。

 

 「でも先生殿、今更だけど当てあるの?」

 「さあな、取りあえず……巡回しとるということは何か見つかっては不味いものでもあるのだろう」

 「……あ、先生!ピンと来たよ!つまりあのロボットの数が増えるほど重要な施設に近づくってことじゃない!」

 「ふふ、察しが良いな、モモイよ。オレもそう考えていたとこぞ」

 「な、なんと!凄いですモモイ殿!先生と同じ考えに行きつくとは…!」

 「ふっふっふ!ステージが進んでゴール地点に近づくほど警備の目が増えるのはスニーキングクエストだと当然だからね!」

 

 「……あの、先生殿」

 「ん?どうした、ミチル」

 

 楽しそうに言葉を交わす一行を微笑ましく眺めていた柱間が再び足を踏み出そうと距離を取って周囲の様子を確認していたところ、背後から少し遠慮気味にミチルが声をかける。そのどこかいつもの覇気が見られない彼女の姿を心配した柱間が身を屈め視線を合わせると、やはり戸惑ったように目を泳がせるミチルがたどたどしく口を開いた。

 

 「いや、その……我儘を言ったかなって」

 「我儘?」

 

 「う、うん。だってその───

 

 

───先生は乗り気じゃなかったでしょ?この話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『だめだ』

 『えー!!なんで!?』

 『そりゃそうだよお姉ちゃん……私だって訝しんでるもん』

 

 数刻前。

 

 G.Bibleに関連して廃墟に関する話を一通りモモイから聞いた柱間が、生徒に甘い彼には珍しく頑なに態度を変えようともしないで首を横に振る。それも当然というべきか、連邦生徒会長が出入りを厳しく禁止していたともなれば何の準備も無しに彼女らを通すわけにはいかないだろう。あまり長い付き合いではないからこそ、彼の表面上の優しさを都合よく汲み取りどうせ協力してくれると高を括って全てを馬鹿正直に話してしまったモモイの末路がこれである。もしくは何も考えていなかっただけか。

 

 『少なくともオレが連邦生徒会……リン辺りに話を伺い情報を集めてからだ。今日明日という話にはならぬ』

 『それじゃダメなの!ミレニアムプライスは二週間後なんだよ!?一日でも惜しいんだって!ゲーム開発舐めてるの!?』

 『お姉ちゃん、それ過去の自分に跳ね返ってくるからやめよう……』

 『うぐ、それは……』

 

 『兎も角、危険な場所と分かっていてお前達の立ち入りを許すわけにはいかぬ。すまぬな』

 

 彼に一切の非はないのだが、やはり生徒が頼ってくれたという事実に対する裏切り行為とも言える自身の言葉に罪悪感を覚え、なだめるようにモモイの頭を撫でながら謝罪を口にするのは元来の人の好さが表れているからなのだろう。

 

 『うぅ……』

 『えっと……い、今からでも、部員の募集に切り替える、というのは…』

 『もうそれは試したって言ったじゃん!』

 『あ、す、すみません……』

 『ちょっと!お姉ちゃん!怒鳴らなくったっていいでしょ!』

 『あ、ご、ごめん…』

 

 『…………』

 

 あれほど活気にあふれていた部室内に沈黙が訪れる。大人である自分が付いており、加えてユウカに任せろと言った豪語した手前生徒達に嫌な思いをさせてしまったことを恥じながら、空気を切り替えようと口を開きかけた柱間の言葉が───とある生徒によって遮られる。

 

 

 『先生殿、私からもお願い』

 『ぶ、部長…?』

 

 『ミチル?』

 

 拗ねたようにそっぽを向くモモイとは対照的に、ある種ゲーム開発部の二人よりも真剣な瞳で柱間を見つめるミチルが彼から視線を外すことなく言葉を続ける。

 

 『その、先生殿が二人の身を案じて言ってるのも分かるし、先生が二人の気持ちを蔑ろにしてるわけでもないのは分かってるつもりなんだけど……』

 『…………』

 

 『でも、多分………二人の、部活の存続を思う気持ちは、先生殿より理解してるつもり。忍術研究部が、その……アレだから…』

 『ミチル……』

 『ミチルさん……』

 

 柱間とミドリが同時に彼女の名前を呼ぶ。先の発言がどれだけ柱間を軽んじているのかをミチル自身理解していないはずもないが、それでも言葉を区切らないのは、やはり自身の部活の存続のために奔走する彼女らの境遇と自分を重ねてしまったからだろう。

 

 『先生殿だって、生徒の為ならどんな無茶だってしたはずだよ。話に聞くアビドスだって……イズナの時だって』

 『ぶ、部長…!そ、それは……』

 

 『だったら、この子たちにとっては今がその時なの!(あたし)自身、忍者物のグッズとか集めてるから少しは分かるよ。先生殿から見たら散らかってるだけの部屋かもしれないけど……ちょっとやそっとのゲーム愛じゃこうはならないと思う。本当に生半可な気持ちであんなこと言ってないよ』

 『…………』

 『もし先生殿がダメって言っても……(あたし)はシャーレ部員としてじゃなく千鳥ミチル個人としてこの子たちに付き合ってあげるつもり。でも───叶うなら、先生殿に認めてもらったうえで、先生殿に恥ずかしくない行いをしたいの』

 『………ミチル』

 

 

 『お願い!先生殿!』

 

 緊張した様子でミチルと柱間を交互に見つめる忍術研究部の二人とゲーム開発部の二人。ミチルを見下ろす柱間が腕を組み眉間にしわを寄せ、唸りながら天井を仰いだ後に───観念したように息を吐いた。

 

 

 『…………はぁ、分かった分かった!……そうさな。……危険を顧みず守りたいモノのため奔走する、そういった人間を見たばかりだというのに意固地になって忘れておったやも知れぬ』

 『!じゃ、じゃあ……!』

 

 

 『───飯を食ってからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その、先生に、言いたくもないことを言わせちゃったんじゃないかなって……」

 「…………」

 

 いつも天真爛漫に見える彼女の、見てくれからは想像の付きにくい責任感や上級生としての自負が垣間見えることには、やはり彼女はイズナとツクヨに尊敬される忍術研究部の部長で間違いないのだろう。今も柱間が皆の下から離れるまでこの話をしなかったのは、自身の情けない姿を見せないため───というよりは、皆に余計な心配をかけないため。それを柱間も分かってか、少し身を引いてミチルを手招きし自身の方へ寄せていた。

 

 「え、えっと先生殿?」

 「………それはオレのセリフぞ。言いたくないことを言わせてしまった、先にオレが謝るべきだった。すまぬ」

 

 「え!?い、いや(あたし)は別に……!」

 

 先生のことだからと内心少し慰めの言葉が来るのではないかと予測していた彼女に帰ってきたのはまさかの謝罪。罪悪感を抱いていたところに加えて頭を下げる様子を眺めては狼狽するのも仕方ない話で手を右往左往していたところ、柱間が顔を上げて言葉を続ける。

 

 「お前は優しい子ぞ。それが事実であれどうあれ……先生よりも理解している、などと言いたくはなかったろう?」

 「そ、それは、その……」

 

 

 「感謝しておる。ありがとう」

 「ち、ちょ、しぇ、先生殿!?」

 

 そう言って、初めて交わす柱間との熱い抱擁に驚くミチルがいつも以上に言葉を崩して慌てふためくがその態度とは裏腹に体は拒絶することなく素直に受け入れる。

 

 「やはりオレは生徒のこととなると庇護ばかりが先行してな……それが良くないと多方面で学んでばかりいるのに、ここぞという時に生徒を信頼できない。悪い癖ぞ」

 「そ、そんなことないって!こ、今回は実際危険な話だし、先生の判断も妥当だったと思うし…!」

 「あぁ、勿論生徒の身を案じることは間違ったことではない。その思い遣りが生徒を救うこともあるとオレ自身信じておる。だが……オレは今回、はなからゲーム部の立場に立ってやれていなかった。同じ判断をするにせよ、彼女らの立場に立ってやることを忘れておった。……お前と違ってな」 

 

 「そ、それは……単純に、境遇が似通ってたっていうか…」

 

 そう言って背中に回していた手をミチルの頭に持っていき軽く撫でてやると、怯えていた瞳が甘えるような上目遣いへと変化していた。

 

 「ミチルよ、勘違いしないでほしい」

 「勘違い?」

 「あぁ、オレはお前の顔を立てて意見を変えたわけではない。お前の話を聞いて考え直した結果、意見が変わったのだ」

 「……うん」

 

 何とも自分に都合の良い言葉だが、彼の凄い所は世辞にも聞こえる耳障りの良い言葉が落ち込む生徒を持ち上げるための口からの出まかせではなく本心であると一言で分からせる、その誠実さだろう。普段の行い、とはよく言ったもので時にはデリカシーの無い子供のような彼の態度が、こういった場での彼の発言に対する信頼を底上げし、生徒との信頼に繋がっていた。

 

 「教師が生徒の背中を押すことはあっても、その道を閉ざすことなどあってはならぬ。そのことを貴様は気づかせてくれた」

 「い、いや、(あたし)はただ思ったことを口にしただけで……」

 

 「ハッハッハ!ならより一層信頼できるの!それが今回良い結果を招いたのだからな!──頼みがある、ミチル」

 「た、頼み?な、なに?──うわ!?」

 

 この場でいきなり自分に頼み事というなんとも脈絡のない会話に首を傾げるミチルが戸惑いながらも、彼女自身が自分の顔に贖罪の色をにおわせるような及び腰で恐る恐る様子を伺うと、頭に置かれていた柱間の手が後頭部へと回され彼の方へと引き寄せられる。

 

 「オレは生徒の背中を押すのが仕事だが、時に踏み出す一歩に踏ん切りがつかず選択を誤るときもある。今回のようにな」

 「い、いや、別に先生殿が間違ってたわけじゃ──」

 

 

 「だから、お前にオレの背中を押してほしい、今回のように」

 

 「………へ?」

 

 素っ頓狂な声を漏らすも、隠せない喜色が顔色に表れるミチルが無意識のうちに柱間からの期待とも呼べる先の言葉に頬を緩める。そんな彼女の様子を見てニヤリと微笑む柱間がまくしたてるように言葉をつづけた。

 

 「ふふ、この歳にもなってオレもガキっぽい所があってな。生徒の前ではカッコウを付けたいのだ。イズナなんかにはオレの背中を見せるといった手前、助けてくれなどと情けないセリフはあまり吐けたものでもない」

 「え、えっと、じゃあ、何で(あたし)には……?」

 

 

 「お前の姿が、オレよりもカッコイイと思ったからだ。お前に背中を押して欲しい。頼めるか?」

 

 

 

 

 「……ふふ!しょうがないなぁ!先生殿は!良いよ!その大役、この千鳥ミチルが請け負った!」

 

 

 すっかりいつもの調子を取り戻したミチルが頬を赤く染めて満面の笑みで笑い声を上げる。そんな彼女を見て微笑む柱間が踵を返して声を上げる。

 

 「……さて、ミチルよ。この先少し敵影が増えている様子ぞ。少し身震いしてきたかもしれぬ」

 

 柱間の、らしくない言葉に振りであることを理解したミチルが、言葉とは裏腹に全く怯える様子も見せず勇猛な笑みを浮かべる柱間の姿に思わず吹き出してしまう。それは嘘にしてももう少し演技でもすればいいのにという突っ込みと──彼の、不器用なりな優しさへの笑いだったのだろう。

 

 

 「───大丈夫!先生殿ならやれるよ!だって先生殿は(あたし)の知ってる───めちゃくちゃカッコイイ忍だもん!」

 

 「───ハッハッハ!そうかそうか!そこまで言われれば前に出ないわけにはいかぬな!」

 

 べったべたな誉め言葉に、これ以上なく嬉しそうに笑い声を上げる柱間。ざざっ、と彼が足を踏み出したことにより靴底と摩擦によって擦れあう砂利の音が小さく鳴り響く。

 

 

 「───先生殿、ゲーム開発部の子たちの為にも廃墟の探索、お願いね!」

 

 

 

 「──あい分かった!その大役、この千手柱間が請け負った!」

 

 

 次の瞬間、その場を駆けるように小走りで姿を消す柱間に軽く手を振ったミチルが嬉しそうに小さく微笑んだ。やはり背伸びをしてみても彼は大人だなぁと自身の高校生としての幼さを自覚したミチルが踵を返して皆へと声をかけようとして────

 

 

 

 

────途中から全部見られていたようで、一同と目が合った瞬間叫び声をあげたことにより柱間の隠密は無駄に終わるのだった。

 

 

 

 




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