『───というわけですので、AL-1Sに該当するような生徒、並びに機密情報は少なくともデジタルのデータとしては連邦生徒会には存在しませんでした』
「そうか……手間をかけさせたな、リンよ」
『いえ。しかし……会長の指示により制限していたエリアにそのような……』
電話越しに言葉を交わす柱間とリン。
モモイの突拍子もない発言に関しての一悶着は後述するとして───あの後、一旦AL-1S、もといアリスをミレニアムに連れ帰った一行だったが、道中柱間が連絡した先はミレニアムのセミナー───ではなく、連邦生徒会。
前述したリンの言葉にある通り元々廃墟は連邦生徒会長の名の元に立ち入りを制限していた区域であるため、連邦生徒会に何か情報があるのではと睨むのは当然の話でリンに確認を取ったのだが───しばらくして柱間一行がミレニアムに到着し、ゲーム開発部の部室で腰を下ろしていた所リンから返事が来て、先の会話へと至る。
『今現在該当生徒……アリスさんのご様子は?』
「今は……」
「……?」
「えっと……こんにちわ!アリス!」
「……?…ありす…?」
「ほ、ほらお姉ちゃん、やっぱり困ってるじゃん…」
「い、いやそれは分かんないでしょ!良い名前じゃん!アリスもそう思うよね?」
「……肯定。本機の名称、アリス。確認をお願いします」
「あ……気に入ったようですね…!」
「あはは!ほら見たか!私のネーミングセンス!」
「読み間違えただけでしょ……まぁ、本人が気に入ってるなら良いか」
「……特段変わった様子はないな。まぁ口調に少し引っかかる所はあるが……」
『口調、ですか?』
「あぁ。返答が機械的というか……出会った時もまるで体温が感じられず……生徒達が言っておったが、ろぼっと、と言うのか?そんな雰囲気だ」
『……見てくれは人間なのですよね?』
「あぁ」
『……分かりました。もう少しこちらでも調査を進めておきます。今しばらくその生徒に関してはそちらにお預けしてもよろしいでしょうか?』
断るべくもないリンの言葉に短く、分かった、と返事をして通話を切る柱間が子供をあやすようにアリスに話しかけるゲーム開発部の二人と忍術研究部の三人に視線を移す。
「あ、先生電話終わった?どうだった?」
「いや、ダメだった。特に収穫はないな」
「う~ん、そっかぁ」
「……いや、アイツなら何か知っておるか…?」
「ん?他に当てがあるの?先生殿」
「あぁ。こういうよく分からん事に関しては頼りになる、物知りな友人が一人な」
そう言ってどこかに電話をかける柱間が、名を名乗らず「オレだ」と名乗ることからそれなりに近しい距離感の人間であることが窺える。その後、アリスとコミュニケーションを試みる一行の傍で誰かと言葉を交わす柱間が首を縦に振り了承の意を示す言葉を口にして通話を切った。
「どうでした?先生」
「少し長話になりそうでな、実際に会って言葉を交わすことになった。結構いい時間だしの」
「確かに、もう夕方だもんね」
「えっと、となるとアリスちゃんだけど……どうしよっか」
ミチルの言葉に皆の視線が無機質な表情の一人の少女へと注がれる。いきなり全員から見つめられたことに関して、コテンと可愛らしく首を傾げるところを見るに、希薄ながらも人らしい感情を持ち合わせているようだ。
「アリスならウチで預かるよ」
「ん?しかし……良いのか?学生一人、それも物の勝手も分からない無垢な子ぞ。手を焼くと思うが……」
「良いの良いの!そもそも私がG.bible探そうって言って見つけた子だし!それに先生だって忙しいでしょ?アリスも先生といると人目引いて気疲れしちゃうって」
「ふむ…」
それっぽいことを言ってアリスの保護を申し出るモモイ。彼女の言葉にも一理あるなと顎を擦って考え込む柱間の様子を眺めどこかほくそ笑んだような姉の顔を見たミドリが、鋭い言葉で突っ込んだ。
「………もしかしてお姉ちゃん、先生がいない間にさっさとアリスちゃんの入部を済ませちゃおうとか考えてる?」
「ちょ!ミドリ!しー!」
「そ、そうなのですか!?モモイ殿!?」
「う、う~ん、ちゃっかりしてるなぁ…」
図星だったのか焦ったモモイが自身の口に人差し指を立てて黙るように妹へ注意するが、当然ながら眼前の大人はミドリの言葉をすべて耳にしており、唐突に口が回り出したのはそれでかと納得したような顔で呆れ気味に溜息を吐く。その後顔を上げた柱間に叱られると思ったのか少し身構えるモモイだったが───
「……まぁ、正直なことを言うと別に悪い考えとは思わん」
「え?ほ、ほんと!?」
「えぇ!?い、良いんですか!?」
そんな、警戒していた相手の口から出たのは意外にもモモイの意見を肯定する言葉だった。
「あぁ。まぁまだアリスの正体も分かっておらんし詳しいことが判明しなければ何とも言えぬが……仮に本当に身無し子であった場合、シャーレにしろミレニアムにしろ、はたまた別の自治区にしろ彼女の居場所は必要だ。となればオレの傍に置くよりは特定の学校に身を置いた方が健全だろうし、アリスの為だろう」
「そーそー!良いこと言うじゃん先生!」
「それにアリス自身現在記憶喪失という話ぞ。そのような生徒をこっちの都合でたらい回しにするのは精神衛生上良くない。それにどうせ交友を交わすなら同じ年代の者と共に過ごして人格形成をした方が良いだろう、オレのような老いぼれではなくてな」
「うんうん!」
「だがモモイよ。不義理なことはするなよ」
「そーそー……へ?」
調子に乗ったモモイが脳死で首を縦に振り満足そうに柱間の言葉に相槌を打っていた所、唐突に釘を刺されて間抜けな声を上げるモモイが特徴的な栗型の口をポカンと開けて、柱間を見上げていた。
「ゲーム開発部にアリスを勧誘するのは構わん。だがあくまで勧誘に留めておけ。この子がゲーム開発部に興味を持ち自身の口で、入部したい、と言ったのなら入部をさせると良い。だが右も左も分からぬ彼女に無理やり署名を書かせるような真似はするなよ。彼女も一生徒ぞ、自由に道を選択する権利がある」
「そ、それはもちろん!や、やだなぁ先生、そんな野蛮なことするわけないじゃん!」
「最初は問答無用で入部させようとしてなかった…?」
「ま、その前にミレニアムに入学させるところからか……詳しくはどういう手続きがいるのかは分からぬが……やはり結構かかるものなのか?」
当然として湧いてくる疑問に柱間がモノを尋ねると、流石に一度学習したからかミドリが何かを言い出すのを遮るように大声でモモイが口を開いた。
「結構も何もミレ───」
「あぁ!大丈夫大丈夫!!そこに関しては在籍してる人間の紹介があればいけるから!私がやっとくから心配しないでよ!」
「そうか?なら……今日の所は一旦任せても良いかの?」
「うん!まっかせといて!」
自信たっぷりなモモイの様子を眺めて満足そうに頷く柱間が膝に手をついて立ち上がると、それに続いて忍術研究部の三人も立ち上がる。別れ際に柱間がアリスの元まで歩み寄り、彼女の頭を軽く撫でた。
「ではな、アリスよ。また明日会おう。モモイとミドリと───……いや、兎も角、二人の言うことをきちんと聞くのだぞ?」
「肯定。アリスは才羽モモイと才羽ミドリの指揮下に入ります」
「うむ!ではアリスのことを頼んだぞ、二人とも。何か困ったことがあれば気軽に連絡してくれ」
「あ、はい…」
「おっけーおっけー!」
「ではな」
「失礼します!お二人とも!」
「し、失礼します…!」
「じゃあね~」
やはり人間らしくない、淡々とした口調に複雑な気分のまま笑顔を浮かべる柱間が、ゲーム開発部の二人に別れを告げると、彼に続いて忍術研究部の三人も別れの挨拶を行い部屋を退室する。残された二人が、片や気まずそうに、片や満足そうに息を吐いた。
「ふぅ~~~!セーフ!」
「セーフ、じゃないよお姉ちゃん……手続きどころか入学試験だってあるし、何より途中からの編入だとしても一日とかそんじょそこらで入学できるわけないじゃん……」
「大丈夫大丈夫!そこは何とかするから!」
「な、何とかって……」
「───それに、ユズの居場所を無くすわけにはいかないでしょ。寮に戻るわけにもいかないし」
「──……それは、そうだけど……」
おちゃらけた態度から一転、少し険しい表情のモモイが発した言葉に、口籠るミドリ。ゲーム開発部部長であり、自分たちの友人である彼女にまつわる過去の出来事を思い起こし気分を悪くするのだが、それでもとミドリが口を開いた。
「……でも、だからってアリスちゃんを入部させたら先生の言ってる通り利用してるってことに」
「それは無理やり入部させたら、でしょ?先生も言ってたじゃん!アリスが自分の口から言えば良いって!」
「………?」
丁度話題に上がった当のアリスは全く話の流れが読めず二人の顔を交互に見つめるのみで、そんな彼女の様子を不安そうに眺める妹を、奮起させるようにモモイが口を開いた。
「いけるって!少なくとも今からゲームを作ってミレニアムプライスで入賞するより、アリスにゲームを好きになってもらう方がいけるって思わない?」
「う、う~ん、まぁ、それはそうだけど……ゲームを好きになってもらうだけだと、ただのゲーマーでウチに入る理由が薄くない…?」
「なに言ってるの!私達だってユズの作ったプロトタイプが面白かったから入部したんじゃん!だから……!」
「……テイルズ・サガ・クロニクルを好きになってもらう…………うん、諦めよう。お姉ちゃん」
「き、気持ちは分かるけど日和るな~!!」
「古代文明の遺産?」
「えぇ。大雑把に言えばそのようなものです」
空が赤みがかり、夕焼けが照らす中、待ち合わせた場所で落ち合う二人がそのまま暖簾をくぐり、屋台に腰を下ろす。片やビジネスマンのような黒いスーツに身を包み、片やゆったりとした和装に身を包む異様な様相の二人が世間話をするかのような態度で言葉を交わしていた。
「そうか…」
「おや、自分で言っててなんですが……胡散臭いことこの上ない話です。信じるので?」
「まぁ……オレ自身伝承だったり、伝説の~だったり……直接的に、ではないがそういうのに踊らされた人間の一人だからな。今更その程度で驚きはせん」
「……クク、なるほど。先生も随分と口が緩くなったようで」
「信頼と受け取っておけ。しかし……何故連邦生徒会長は彼女を秘匿していた?話した限りは無害そうな少女だったが……」
その言葉を聞いて少し考え込む様子の黒服が、数秒置いて口を開いた。
「その廃墟に関してですが、我々ゲマトリアも強い関心を持って見守っておりました」
「……一体何ぞ、あの廃墟は」
「ディビジョン、という名のAIにより統率されし、無限の軍勢をコントロールし生産していた軍需工場です。今は稼働していませんが」
「軍需工場?ということは……」
「えぇ、AL-1S……アリスさんも例外ではありません。寧ろ、彼女こそがその要と呼べるでしょう」
「要?」
物騒な話になってきたと少し眉間にしわを寄せる柱間と打って変わってあくまで冷静な黒服が淡々と言葉を続ける。
「AL-1S……名も無き神々の王女。かつてこの地を支配していたとされる、名も無き神の信奉者である無名の司祭が残したとされる遺産です」
「……」
「先生は先ほど、無害そうな少女、とおっしゃっていましたが……」
「あぁ。機械的な返答ではあったが友好的に見えたな。ただ……記憶喪失とのことだった」
「なるほど……理由は分かりませんがデータが抜け落ちている状態であると。それはそれは、幸いでしたね」
「………」
「おや、何か不服で?」
「いや……まぁ、貴様の言う通りなら本来の記憶通りならば危険性を孕んでいたのかもしれぬが……」
複雑な顔で腕を組む柱間がモヤモヤする感情を隠しもせず顔色に出すと、黒服が不思議そうな声色で訳を尋ねる。やはり煮え切らぬ心の内を、吐露するように口を開いた。
「生徒の記憶が失われておる現状を、素直には喜べぬだろう」
「───クク、そうですか。なんともあなたらしい。───ですが、やはり彼女の記憶巡りの旅に尽力することはお勧めしませんよ。少なくとも、今は」
「……あぁ、分かっておる。彼女自身がそれを気に病まないと良いのだが……」
浮かない顔の柱間が、グラスを手に取り水を喉元に流し込む。酒でも入れたかのような深いため息が響き渡ると同時に大将の威勢の良い声が響いた。
「ヘイ!お待ち!まぁそう暗い顔すんなよ先生!詳しいこたぁ分からねぇが、腹でも満たしゃあ気も紛れるってもんよ!ほら、お前さんも!」
「……うむ、そうさな!泣き言を言っとっても始まらんか!取り敢えず、飯にしよう」
「クックック、えぇ。いただきましょうか」
発破をかけられた柱間が自身の頬を軽く叩いて気合を入れなおす柱間がいつもの調子に戻ったように笑顔で割り箸を手に取る。一膳黒服に手渡すと、手慣れたようにソレを受け取った黒服が小気味よい音を立てて割り箸を割り、麺に箸をくぐらせる。
その後、舌鼓を打つ二人の声色にお世辞が混ざっていなかったのは───やはりアビドスの名物を名乗るだけのことはあったのだろう。
「ちぃとばかし時間をくったな…」
「まぁ昨日丸一日ミレニアムいたからね、その分しわ寄せが…」
「アリスちゃん、大丈夫でしょうか…?」
「モモイ殿とミドリ殿が見てくれてるので大丈夫でしょう!」
翌日お昼過ぎ。
シャーレで事務仕事を終わらせた一行が真上に日が昇る頃、やっとこさミレニアムへと足を運んだ。というのもやはりミレニアムにつきっきりというわけにはいかず、その他の業務もあるためそちらの対処に回っていたらいつの間にか、というわけである。
たった一日であるがそれなりに構造を理解した忍術研究部が逸る足で道を行き、慣れたようにゲーム開発部へと足を運んだ。
のだが、
「っと、すまぬな、遅くなった───」
「ね?アリス、今度こそ『ファイナルファンタジア』を…」
「なに言ってるの!まだ二日目なんだからここは『ゼルナの伝説・4つのぼうし』だって!」
「いや、熱の冷めない内にこのまま『ロマンシング物語』の2をやるべき……!」
「……え、えっと、どういう状況…?」
「あ、アリスちゃんに詰め寄って何か話してますね…」
「それと、初めましての方が一人いらっしゃいますが…?」
「……ん?あ!遅いよ先生!」
「いやすまぬな、ちぃと仕事が長引いての!それで…?」
「───ひぇ…!」
眺めること五秒弱、やっとこさ客人に気付いたモモイが顔色を変えて笑顔で四人を出迎えるのだが───知らない人間が複数人。先ほどまで彼女にしては珍しく威勢の良い声でアリスに詰め寄っていたのだが、当然というべきか柱間達の姿を認識したユズが腰を抜かして───
「ろ、ロッカーに隠れちゃった…」
───姿を消してしまった。
「モモイよ、もしや今のが…」
「あー、うん。ウチの部長のユズなんだけど…」
「……?モモイ、何故ユズは棺桶に入ったのですか?まだHPは満タンに見えましたが…」
「う、うぅん、別に死んでるわけじゃなくて……いや社会的には死んでるかもしれないけど……」
「ゆ、ユズちゃん?その、皆良い人達だから…」
気軽に挨拶でもと思った矢先、早速出ばなをくじかれどこか気まずい空気の漂うゲーム開発部の部室。このままユズを無視して話を進めることもできないため、ミドリが懸命にロッカーに声をかけていた。
「──えっと、あの……ユズ、さん…?」
「…ん?ツクヨ?」
「ツクヨ殿?」
そんな折、ツクヨが前に出て、少し身を屈めながらロッカーに語りかけた。
「え、えっと、あの……わ、私も結構引っ込み思案な所がありまして……も、勿論ユズさんには私なんかよりもっと大変な理由があるのかもしれませんが……!」
「ち、陳腐な言い回しなんですけど、素晴らしい部活だなって…!モモイさんとミドリさんの、ゲームに対する熱も、伝わってくるんです…!わ、私も……ぶ、部長ほどじゃないけど、好きなモノを追う活動をしてるから、ちょ、ちょっとは分かります……!」
「で、ですから……も、もし良かったら、ぶ、部長さんともお顔を合わせたい、です…!」
その図体に反して最も繊細な心の持ち主であるツクヨが、自分も何か役に立ちたい、という健気な思いから必死にユズに声をかける。それをジッと見つめる周囲の人間が、はたしてどうなるかとロッカーの様子を窺ってると───
「……こ、こんにちは…」
「…!こ、こんにちは、ユズさん……!」
ゆっくりと、ロッカーの入口が開く。
扉を開けた先にいたのは柱間に次ぐ長身の持ち主で、勿論ロッカーの通気孔からその姿自体は覗いていたものの、改めて対面すると自覚する自分との体格差に少し恐怖を覚えるユズが、ツクヨと視線を合わせたり外したりを繰り返す。そんな彼女の恐怖を理解してか、さらに深く腰を落としたツクヨが微笑んだままユズを見つめていた。
「あ、あの、私──」
「…えっと、ツクヨさん、ですよね…?」
「え…?あ、はい…!合ってます…!」
自分の名前を把握してもらえていることがそれほど嬉しかったのか、元々浮かべていた穏やかな笑顔に赤みを増すツクヨ。そのまま視線を動かすユズがミチルとイズナにも視線を向ける。
「あと、ミチルさんと、イズナさん……」
「な、なんと!イズナのことも知っているのですね」
「え、うん、そうだけど……二人に聞いたの?」
当然名乗った覚えなどなく、ズバリ自身の名前を言い当てるユズにミチルが、同じゲーム開発部のメンバーに話を聞くという最も濃い線を疑ったのだがどうやらそういうわけではないらしい。
「いや、ユズってばどうやら昨日私たちが廃墟から帰ってきた時からロッカーにいたみたいなんだよね…」
「へ…?……え!?あ、あの時いたってこと!?」
「う、うん……そ、その、出るタイミング見失って……」
「あ、主殿は気づいていたのですか!?」
「ん?まぁな」
「な、なんと!?う、うぅ…!イズナはまだまだ未熟です…!」
ユズの見事な遁術に一行が翻弄され振り回されていたという事実に驚愕する者が複数人、柱間に変な対抗心を燃やすものが一人。ユズの気配に気づいていたという見栄を張ったような彼の言葉を疑わないのは何度も垣間見た彼の実力と、加えてゲーム開発部の三人は一度実際に彼に見破られた実体験があるからだろう。
「……先生?」
「ん?おぉ、アリスよ。すまんな、さわがしくして。昨日の今日だがオレ達のことが分かるか?」
「はい。アリスは昨日、先生並びに忍術研究部の方々、そしてモモイとミドリとエンカウントし、覚醒イベントを終えました。ユズの居場所を見破っていた先生は隠密のスキルを取得している盗賊や忍者などの高レベルのジョブであることが推測できます!」
「お、おぉ…?ず、随分饒舌になったが、また独特な言い回しをするようになったの…?」
「そうですよ!アリス殿!先生は今キヴォトスにいる忍者で最も最強の忍者です!キヴォトス外では忍者の王様だったんですよ!当然レベルも99です!」
「な、なんと!モモイ、貴重なカンスト勢です!リアルで初めて見ました!」
「あ、うん、そうだね…」
彼女の学習能力が高いのか、はたまたゲーム開発部の教育が優秀なのかは定かでないが、兎も角昨日とは打って変わって口数が増え、氷のように固まった仮面も剥がれ、年相応の子供のような笑顔を浮かべていることもあり一先ず満足して胸をなでおろす柱間がモモイに尋ねる。
「モモイよ、昨日話しておったアリスの入学の件はどうなった?」
「ん?それなら……ほら!これ、学生証!」
「お!上手く済んだのだな!良かった良かった!」
柱間の言葉に反応してアリスの懐を漁るモモイが学生証を取り出し彼に見せつける。ソレを見て満足そうにうんうんと頷くそうに首を縦に振る柱間なのだが───視界に映るミドリとユズの反応が何やら芳しくない。体調でも悪いかのように顔色を青ざめさせている。
「…?どうした?ミドリ、ユズよ。具合でも悪いのか」
「え?あ、い、いえ、な、なんでもありません…」
「わ、わ、私も大丈夫です……!」
「二人とも、大丈夫ですか?申し訳ありません、今は毒消し草を携帯しておらず……」
「だ、大丈夫大丈夫!気にしなくて良いから!アリスも、先生も!ね?」
「……ちとこっちに来い、モモイよ」
「う……はい…」
勘の鈍い柱間を以てして、流石に騙しきれない彼女らの苦虫を噛み潰したような顔とモモイの慌てように眉間を抑える柱間がモモイを手招きしてアリスから引きはがす。観念したような声を漏らしたモモイが重い足取りで彼に近づいた。そんな彼女に続くようにミドリとユズも慌てて彼に駆け寄った。
「……貴様、今度は何をした」
「ちょ、ちょっとちょっと!今度って何さ!前科持ちみたいな言い方はやめてよ!」
「す、すみません、先生……魔が差しちゃって……」
「ミドリ、それにユズよ。もしやお前達も共犯か?」
「う、うぅ……」
「……まぁ、取りあえず聞かせてくれるか?」
先生らしく彼らを叱るように、しっかりと腰を据えて彼らの話に耳を傾ける柱間。
と言っても話は簡単で───どうやら、ハッキング、つまりはデータの改ざんを行いアリスという生徒の情報を作成し、学生証を偽造したらしい。ミレニアムはゲヘナ、トリニティと並ぶマンモス校、生徒が一人増えた所で分かりようがないとのことだった。
「えぇ……普通にやばくない?それ…」
「だ、だって仕方ないじゃん!正規の試験とかやってたら無理だもん!」
「…お前達なぁ…」
昨日、アレほどゲーム開発部に親身になっていたミチルまでもがドン引きしてモモイに突っ込み、それに続くように柱間も口を開くが、怒りを通り越して呆れてモノも言えないようであった。
「で、でもアリスが私たちのゲーム気に入ってくれてから勧誘はしたからね!?そこは間違いないよ!」
「それと入学の話は別だろう。貴様、その様子だと当然だがユウカ……セミナーの方に話は通しておらぬな」
「そ、そりゃセミナー通したらアリスの入学なんか通るわけないじゃん!先生はアリスを追放するっていうの!?」
「それとこれとは話が違うだろう。不義理なことはするなと言ったはずぞ、オレは」
いつもなら柱間の方から折れてなし崩し的に生徒の意見に流される彼が、今回に限っては中々に食い下がりモモイの言い訳に屈することはない。困ったようにモモイがチラリと視線を横に移すがゲーム開発部の仲間は口を開ける様子は見えず、かと言って視線の先の忍術研究部はミチルを筆頭にあの顔色から察するに援護射撃は望めない。困ったモモイが仕方ないと切り札を切った。
「そ、それは………う、うぅぅぅうううう……こ、こうなったら……へい!アリスかもん!」
「?何ですか?モモイ」
唐突にアリスの名を呼ぶモモイに首を傾げる一同。それは一人待ちぼうけを食らっていたアリスも同様で、短い歩幅でモモイに駆け寄り純粋な瞳でモモイを見つめていた。
「おいモモイ、貴様何を…」
「アリスアリス、耳貸して」
「?わかりました」
「あ……」
柱間の言葉を無視してアリスに何かを耳打ちするモモイ。そんな彼女の様子を見て、流石に理解が早いのは彼女の妹と言ったところだろう。皆が首を傾げる中、ミドリだけ気まずそうにそっぽを向いていた。
そして、次の瞬間───アリスが、顔を青ざめさせる。
「せ、先生…」
「ど、どうした?アリスよ、そんな顔をして」
モノを言い終えたモモイがサッとアリスの後ろに回り込み自身の身を隠す。そんな彼女を視線で追う柱間が───悲しそうなアリスの顔を見て驚き、身を屈め彼女に視線を合わせる。
「あ、アリスは……ここを、去らないといけないのですか…?」
「な!?」
「うわ、終わってる……」
ミチルがモモイの所業を理解し、ハッキリと侮蔑の言葉を口にする。そんな言葉は意にも介さず、驚く柱間の視線の先、アリスの背後で悪い笑顔を浮かべるモモイがクックと笑い声を小さく上げながら柱間を見つめていた。
「(こ、コイツ…!)──そ、そんなことはないぞ!アリスよ!ここは貴様の居場所だ!」
「で、でも……あ、アリスは正式な試験を受けてないから、退学になるとモモイが……」
「そ、それはだな……」
先ほどゲーム開発部を叱責していた彼の勢いはどこへ行ったのやら、たじろぐ柱間が返答に困り手を右往左往させ動揺を隠せない。そんな彼の様子がアリスの不安に拍車をかけてしまったのか、彼女の目じりに涙がたまっていた。
「あ、アリス、本当にゲームが好きで、モモイとミドリとユズの作ったテイルズ・サガ・クロニクルに感銘を受けました…アリス、ここを去りたくないです……」
「うッ…!」
「さ、三人とも、す、凄く親切で、あ、アリスの為に色々教えてくれて……あ、アリス、ここが好きです!だ、だから、だから……うぅ……!」
「───し、心配するなアリス!お前は歴としたゲーム開発部の一員で、ミレニアムの生徒ぞ!」
「(あぁ…折れちゃった、先生殿…)」
辛抱堪らんくなった柱間がアリスの脇に手を伸ばし、彼女を抱き上げて背中を撫でる。子供をあやすように笑顔を浮かべ声を張り上げる彼が二重の罪悪感を心の奥で押し殺し、アリスを安心させるため口角を上げる。
「ぐす……ほ、本当ですか…?」
「あぁ!何があっても決して貴様を退学などさせぬ!オレが保証しよう!」
「……!……ぐすん。…パンパカパーン!アリスは正式な仲間としてゲーム開発部の仲間になりました!再加入イベントですね!」
「あ、あぁ……そう、だな…」
「良かったですね!アリス殿!」
「お、おめでとうございます、アリスちゃん……!」
「…む、むごい……」
やはり柱間にとってはなれない口調であるものの、自身で涙をぬぐい笑顔で声を張り上げる様子を見て安心する彼が、アリスには気づかれない程度に笑った口の口角をピクピクと痙攣させ、心の内でユウカに謝罪する。そんな彼を見つめるミチルが、顔を引きつらせて短的に感想を述べていた。
「いやぁ~~~!!良かったね、アリス!!」
「はい!これでアリスも正式なゲーム開発部のメンバーです!」
「先生も、話せば分かるようで良かった良かった!」
依然として気まずそうに視線を逸らすユズとミドリとは対照的に、肝の据わった───というか、神経の図太いモモイが笑顔で柱間の背中をパンパンと軽く。そんな彼女を見下ろす柱間が一瞬眉間にしわを寄せるが───はぁと観念したように溜息を吐いて、困ったように眉を八の字に曲げながらも穏やかな笑みを浮かべ───
「……あぁ。そうだ───な!!」
「───ッッッたあああああああああ!!!!」
───見事なゲンコツが炸裂した。
ご清覧ありがとうございます!
最近感想への返信が遅れてしまい、申し訳ありません…
現在溜まっている感想に関しては、明日まとめて返したいと思います
それではまた次回
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