Hashirama Archive   作:アテナ18号

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生徒の鑑

 

 「知っての通り、私たちヴェリタスはキヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる。システムやデータの復旧に関しては、それこそ数え切れないほど解決してきた……その上で、単刀直入に言うね」

 

 「ごくり……」

 

 

 

 

 

 「モモイ、あなたのゲームのセーブデータを復活させるのは無理」

 

 「うわぁぁあああん!もうダメだーーー!!」

 

 現在、ヴェリタスの部室。

 あの後───一時交戦を交えつつ、一悶着はあったものの見事G.bibleを手にした一行が向かったのは先ほど部員の口にもあった通り、ミレニアムの誇る天才ハッカー集団、ヴェリタスの部室であった。未来の輝かしい自分たちの功績に胸を躍らせながら───ついでにモモイはセーブデータの復旧を期待しながら───足を運び、今現在G.bibleの解析を頼んでいる状況である。

 

 「にしてもすまんな、いきなり押しかけて」

 「いえ、お気になさらないで下さい。私も一度お会いしたいと考えてましたから」

 

 騒ぐモモイを放置して、ハッキングやら何やらに全くと言って良いほど精通しておらず話についていけない柱間が他の生徒に声をかけて謝罪を述べる。物静かでどこか淡白そうな、メガネをかけた少女が言葉を返した。

 

 「す、凄いですね部長…!こう言うのってSFの世界だけかと…!」

 「画面がいっぱいあります…!」

 

 「結構ステレオタイプの想像通りなんだね、ハッカーって言うのも……」

 

 

 「……ちょっと待って、今のは聞き捨てならない」

 「え゛」

 

 ツクヨの言葉にある通り、それこそ漫画やアニメ、映画に出てきそうなザ・ハッカー集団と言わんばかりの近未来的なモニターや巨大なサーバー、コンピューターの数々に、脳内にある固定観念通りの存在なのだと口ずさんだミチルに食ってかかるのはヴェリタスの自称ホワイトハッカー、小鈎ハレ。少し顔を険しくして迫り来る彼女に一歩後ずさるミチルが汗を垂らして目を泳がせていた。

 

 「貴方の言うステレオタイプというのは身だしなみに気を使っていないようなヨレヨレのラフなパーカーを羽織ってたり、一人で何でも大企業のような強固なセキュリティプログラムを崩してしまうようなハッカーのこと?」

 「え、えと、あにょ……」

 「言っておくけどそんなことは不可能に近いし造形が安易だからってハッカーの抽象的なイメージ像がソレだと───」

 

 「……あれは何ぞ」

 「あまり気にしなくて良いですよ」

 「えっと、すいません、結局G.bibleのパスワードは……」

 

 「ごめんごめん!お待たせ!ミド!」

 

 ハレやコタマとは打って変わって快活そうな雰囲気の赤い髪が特徴的な生徒が威勢の良い声で近づいて来た。しかしその顔色とは裏腹に目の下に若干や隈が出ていることからも、ハッカーという特性も相まって彼女らの生活習慣が窺えるだろう。

 

 「あ、マキちゃん。どうだった?G.bible」

 「分析できたよ。うん、神ゲーマニュアル……G.bibleで間違いないね、アレは」

 「や、やっぱりそうなんだ!」

 「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。噂の伝説のゲームの開発者と作業所のIPも一致してたしね。転送された形跡も一度しかないからオリジナルだろうね」

 「す、すごい!」

 

 「……………」

 

 喜ぶ緑の背後で、少し険しい顔をするのはシャーレの顧問。千手柱間。オリジナルのG.bibleやら、その以前のアイピーがどうのこうのと分からない言葉の羅列に眉を歪めていたわけではなく───やはり彼の心に波風を立たせるのは、このG.bibleの入手に当たって耳にした、一つの単語に関してだろう。

 

 

 

───Divi:Sion System(ディビジョン システム)へようこそお越しくださいました───

 

 

 「(神ゲーマニュアル……ゲームの指南書に軍需工場のAIに関する情報が入っとるとも思えんが……何か分かれば良いのだが……)」

 

 勿論、ゲーム開発部のことを考えてやれば一刻も早くゲーム作成に着手したい彼女らの為にもG.bibleを解明してやるのは先決だが、柱間も柱間で別の思惑を持ってG.bibleの解析に積極的になっていた。と言っても現状この手の機械的な話には全くの無力で己の力のなさに歯痒い思いをするしかないのだが。

 

 「でも問題があって……ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの」

 「む、そうか…厳しそうか?」

 「いや、方法がないわけじゃないんだよね」

 「あのファイルのパスワードを直接解析するのは、多分ほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るんじゃないかな……」

 

 「なんだ、よく分かんないけど方法はあるんだ、良かった〜。んじゃ早くやろうよ」

 

 あっけらかんと能天気そうな顔でモモイが言うのだが、そう上手い話はないのだろう。それがね〜、と言葉を続けるマキが、少し困ったような顔を見せる。

 

 「そのためには『鏡』っていうツールが必要なんだよね。それ今生徒会に押収されちゃってて……もう!ユウカったら!」

 「……え?押収?そんなに危険なものなの」

 「……そんなことは無いよ。暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。ただ…世界に一つしかない、私たちの部長が直々に作成したハッキングツールでね」

 

 「部長って言うと…ヒマリ先輩?」

 「ヒマリ…?」

 「あ、そっか。アリスちゃんに……先生や、忍術研究部の皆さんもあったことありませんでしたよね」

 「あぁ」

 

 忍術研究部の三人の言葉を代弁するようにミドリの言葉を肯定すると、彼女がミレニアムの誇る大天才についての解説を行った。曰く、ミレニアムで未だ三人しか授与していない全知の持ち主だとか。

 

 「凄い方なのですね!しかし、何故没収されたのでしょうか?話を聞いている限り、悪い方には聞こえませんし…」

 「私はただ、シャーレのデータが気になりアクセスしようとしただけでして……不純な意図はなかったのですが……」

 「ま、まさか連邦生徒会にハッキングを行ったのか!?」

 「ふ、不純な意図しか感じられない……」

 

 眉間を指で抑える柱間がどデカいため息を吐き出して、困ったように表情を歪める。アリスの学生証の件に関しては彼女の居場所を用意するに当たり危険を明かしてくれたものかと感謝をする気持ちはあったのだが、こうして対面して言葉を交わすと存外ミレニアムも別ベクトルでゲヘナと張り合う危うさを柱間に見せつけていた。

 

 「うわあぁん!早く『鏡』を探さないと、部長に怒られちゃう!」

 「そのヒマリとやらからすれば無断で使われて与り知らん所で没収されとるわけか……」

 「まぁそりゃ怒られるでしょ…」

 

 「兎に角……整理すると、私たちも『鏡』を取り戻したい。それにG.bibleのパスワードを解くためには貴方達にとっても『鏡』は必要……そうでしょ?」

 

 ハレが一度ここまでの話をまとめて皆を一瞥しながら声を上げた。ただ彼女の言葉には何か深みを持たせているようで、それを理解したモモイが、あーっと声を上げる───の、だが。

 

 「なるほどね、呼び出された時点で何かあるのかなとは思ってたけど、だいたい分かったよ」

 「ふふ、さすがモモ、話がはや──「無理!」──……へ?」

 

 「いやだから、無理!そりゃ私たちだけなら協力したかもしんないけどさぁ……」

 

 「……?おいモモイよ。何故オレの方を見る」

 「いやだって、先生絶対許さないもん」

 

 マキが、よもやモモイが反対するとは予想外だったのか、気の抜けた声を漏らす。その後チラリとモモイが柱間に視線を向けるのだが、モモイとは違ってヴェリタスの考えが未だ理解できていない彼はその視線の意図に気付けず首を傾げるだけだった。

 

 「……一応聞くが、何をするつもりぞ」

 「えっと、鏡を取り返すために生徒会を襲撃……」

 「……貴様、オレの立場が先生と分かった上で良く聞かせたな、そんな話。許すわけないだろう」

 「えぇー!!大丈夫だって!気にしすぎだよ先生!」

 「ダメに決まっとろうが!ゲヘナとは別方向で頭が痛くなるの、ミレニアムは…!」

 

 「み、ミレニアムって何か凄い所だね……」

 「は、はい…」

 「主殿、大変そうです…」

 

 立場的に部外者の色合いが強いシャーレ部員の三人が、憐れみの目で柱間を見つめていた。その後もヴェリタスが抗議するように柱間に説得を試みるが、彼が首を縦に振ることはない。

 

 「なんでなんで!?このままじゃゲーム開発部も廃部になるかもしれないんでしょ!?いらないの!?神ゲーマニュアル!」

 「そりゃあある方が良いゲームを作れるのかもしれんが、それが犯罪を犯して良い理由にはならん」

 「で、ですが、別に私たちも何も武力行使に出ようというわけでは…」

 「……オレが頭を下げて交渉に願い出るくらいはしてやっても良い。ただ窃盗の加担はできん」

 

 「…ねぇお姉ちゃん、実の所先生がいなかったら協力してたの…?」

 「うん、まぁ……でもどうしよう。G.bibleは解析したいし……ヒマリ先輩に直接頼み込んでみようかな」

 「………?」

 

 激しく口論する柱間とヴェリタスの横で、コソコソと話をするのはゲーム開発部の姉妹。唯一、あまり話の分かっていないアリスだけが置いてけぼりになり首を傾げていた。

 

 「ねぇねぇ、武力行使じゃないって本来はどうする気だったの?私達呼んで」

 「おいモモイよ…」

 「まま、良いじゃん!話聞くだけだし!」

 「えっと、監視カメラとか隔壁とかの操作はある程度ハッキングで何とかなるから忍び込んで……だけど、ちょっと問題があって…」

 「問題?」

 

 「そこを守ってるのがメイド部なんだよね」

 「はい無理!解散!帰ろ帰ろ!!」

 「ちょ、ちょちょちょ待って!モモ!」

 

 「……メイド部?冥土?…そんなわけないか…」

 

 当然ながら馴染みのあるわけのない単語に疑問を呈する柱間。一応自身の知っている単語と照らし合わせてみるが元の世のことを考えると何とも物騒で、嫌な部活名に辟易としてその考えを捨てる。彼を見たミドリがすぐ様注釈を入れるように解説を行った。

 

 「ミレニアムの武力集団で、セミナーの抱える特務部隊のようなモノです。実力もミレニアムは勿論、キヴォトス全体で見ても有数で……」

 「なるほど、それが管理を行なっていると……」

 

 「無理無理無理無理!メイド部と戦うなんて冗談じゃない!そんなの走ってる列車に乗り込めとか、燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がマシ!」

 

 「それほどか…」

 

 些か過剰にも思えるほどの表現だが、彼女の必死な態度が本心から出た言葉であることは疑いようがない。何れにせよ一番こういう話に乗り気であろうモモイが手を引いてくれることは柱間としても気が楽で、この後のことを考え腕を組みモノを考えていた。

 

 そんな折、

 

 「でもでも!このままだとゲーム開発部は廃部になるかもしれないんでしょ!いいの!?」

 「そりゃあ良くないけどそれとこれとは───「なりません!!」

 

 モモイが反論しようとした矢先、その言葉に被せるように声を上げるのは今まで沈黙を貫いていたアリス。柱間含めて、皆が驚いたように彼女を見つめていた。

 

 「え、えっと、アリス?」

 「ゲーム開発部はG.bibleがなくても廃部になんかなりません!」

 「あ、アリスちゃん?どうしたの…?」

 

 「アリスはテイルズ・サガ・クロニクルに感銘を受け、ゲーム開発部に入部しました。確かに作りは粗いかもしれませんし、シナリオも破綻している箇所はありました。その後に色々な神ゲーをお勧めされて、比較するとお粗末な出来なのかもしれません」

 「う…!」

 

 「───でも、作り手の愛は本物でした。遊んでいると、伝わってくるんです。そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……胸が、高鳴ります」

 「アリスちゃん……」

 

 唐突な想いの吐露に、困惑するもの多数、感慨深く彼女を見つめるもの多数。そこまで穏やかな顔で淡々と語っていたアリスが、少々視線を鋭くしてヴェリタスの生徒を見つめると、そこでようやっと彼女の仄かな怒りに気付いた彼女らが焦ったように小さく声を漏らした。

 

 「───ミレニアムプライスで受賞することが大変なことは分かっています。それでも───絶対に廃部になる、なんてことはないはずです!」

 「そ、それはその……」

 

 「……モモイ」

 「え、う、うん、何?」

 

 「アリスは、未だぷろぐらまーとしては未熟です。頼りにはならないかもしれません。───でも、アリスはゲーム開発部の一員です!テイルズサガクロニクルで、アリスは夢を見ることがどういうことなのか、その感覚を理解しました!今度は、夢を見るのではなく、モモイとミドリとユズと共に、夢を届けてみたいです!」

 「アリス…」

 「アリスちゃん…」

 

 「アリスが保証します!G.bibleがなくとも、ゲーム開発部は神ゲーを作ることができるのだと!あの時感じたアリスの夢が幻想ではなかったのだと、今一度証明したいです!」

 

 感動的な物言いに、体を震わせるのはゲーム開発部の姉妹で、無言で佇むのは見守るシャーレ一行。対照的にバツが悪そうなのはヴェリタスの一行。アリスの言葉とは対照的に、ゲーム開発部の実力を疑うような発言を繰り返したからだろう。と言っても自分たちの実力を疑っていたのはモモイとミドリも同様で、客観的に見ればクソゲーランキング1位を獲得した彼女らの腕前を疑うのも仕方のない話なのだが。

 

 「え、えっと、あの……」

 「……あー…ま、ごめんね、マキ。そういうわけだから」

 「お姉ちゃん…!」

 「そ、そんなぁ!!」

 

 「───先生!ゲーム開発なら付き合ってくれるよね!?」

 

 「──あぁ、それならいくらでもな」

 

 ヴェリタスの手を振り解き、威勢の良い声で柱間を見上げて声を上げると、彼も嬉しそうに笑顔で返事を返す。完全に蚊帳の外になってしまったヴェリタスが困ったように肩を落としていたが、内容が内容なだけに柱間も同情する余地はなく、少し可哀想に思いながらもその場を後にしようとしたのだが───

 

 「ん?」

 「あれ、先生電話?」

 「あぁ……知らん番号だな…先に部室に戻っておいてくれ。後からオレも向かおう」

 「オッケー!っと……あーまぁ、一応ありがとね。G.bible解析してくれて、それじゃ!」

 「ちょ、ちょっとー!!」

 

 無慈悲に別れを告げるモモイに続いて退室した柱間が、ゲーム開発部と忍術研究部を見送り電話に出る。どうやら詐欺や悪戯電話という類ではなく、聞きなれない少女の声が響いてきた。

 

 「もしもし、シャーレの千手柱間ぞ」

 『唐突なお電話失礼いたします、ハシラマ先生。私────

 

─────ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカーであり、『全知』の学位を持つ眉目秀麗な乙女であり、そしてミレニアムに咲く一輪の高嶺の花である『特異現象捜査部』の部長、明星ヒマリと申します♪』

 

 

 「……な、なん、なんて……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………あの、お顔を上げていただいて構いませんから」

 「……本当にすまぬ…!」

 

 所変わって、ミレニアムの一施設の屋上。そこに佇むのはユウカと、とある理由によって彼女に召集されたメイド服の少女と────腰を直角に曲げて、眉間に皺を寄せる大人の男性が一人。ユウカはともかくとして、初対面の彼女らも困惑したように互いに顔を見つめあっていた。

 

 「あの、この男性は…」

 「シャーレのハシラマ先生よ、聞いたことはあるでしょ?」

 「あ、この方が…」

 「へぇー!貴方がシャーレの先生なんだね!ほら、クヨクヨしないで!アスナが元気づけてあげるから!」

 「あ、アスナ先輩、あまり無理に引っ張り上げない方が……う、うわ、大丈夫か、先生……」

 

 「任せろと言っておきながら……面目ない……!」

 

 生徒に励まされ、何とか顔を上げた彼の悲壮感たるやカリンが思わず具合を尋ねるほどで、ユウカもどうしたものかと頭を抱えていた。

 

 「え、えっと、それで本日はどのような要件でしょう?シャーレとも関係が?」

 「えっと、えぇ、まぁ、そうね、そうなのだけれど……」

 「えー!じゃあもしかして、ハシハマ先生と一緒に任務をするとか?じゃあじゃあ、ハシラマ先生が新しいご主人様だね!よろしくね!ご主人様!……ご主人様?どうしたの?」

 

 いつもなら、その大型犬のような生徒の明るい態度に気を緩め口角を上げる彼が、アスナの無邪気な声を聞く度に顔を歪めていく。ただただ純粋な瞳で覗き込むように様子を伺う彼女の柱間以上に距離感のバグっている態度に困った様子の柱間を見て、アカネが口を開いた。

 

 「あの、ハシラマ先生の様子はいったい……」

 

 「……ま、誤魔化しても仕方ないから単刀直入に言うわね」

 「?…はい」

 

 「────明日未明、ヴェリタスとゲーム開発部が襲撃に来るわ。……先生と一緒に」

 「はい。……はい?」

 

 「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『なに?セミナーは把握しているだと?』

 『はい、ヴェリタスの皆さんがそう画策していることはセミナーに私の方から伝えていますから』

 

 あのクソほど長い自己紹介を経て何とかヒマリの素性を理解した柱間が、唐突に素っ頓狂なことを言い出すヒマリに電話越しに驚いたような声を漏らす。と言うのも、ヴェリタスがゲーム開発部と共にセミナーの押収した鏡を奪い返そうとしていることを伝えていると言うのだ。

 

 『なるほど……まぁしかし、それなら心配することはない。ゲーム開発部はその話に乗らなかったからの』

 『あら、やはりそうなりましたか』

 『ん?まるで予想していたかのような言い回しだの』

 『えぇ、先生のこれまでの行動を鑑みれば到底許容できる話ではないでしょうから』

 

 『そうか……まぁ兎も角手を打っておいてくれて感謝する。ヴェリタスだけでも勝手にことを起こすかもしれんからな。何ならオレの方でも目を光らせておくか?』

 

 破天荒なヴェリタスのトップが───現在は一時的に別の部の部長に席を置いているようだが───マトモでホッと安堵の息を漏らす柱間が、提案するように話を持ちかけるのだが、やはり彼女も元ヴェリタスなだけあるのか、類は友を呼ぶというべきか、柱間を困惑させることに余念は無かった。

 

 『いえいえ、その逆ですよ。先生』

 『ん?逆?』

 

 『はい。先生にはその襲撃のサポートをしていただきたいのです』

 

 『………おい、何を言っておる』

 『ご心配なさらず。この件はセミナーの会長、つまりミレニアムの生徒会長も把握していることで、仮に襲撃が起こったとしてもその結果に関わらず不問に終わりますからゲーム開発部が謹慎を受けることもありませんよ』

 

 『いや、そうではなく!……待て、ミレニアムの生徒会長も把握した上で容認しとるのか!?な、何をやらせたいんだ貴様らは!』

 

 いよいよもって脳の理解の及ばない彼の頭に冷や水をぶつけるように、次の言葉を耳にした途端、彼の慌て様が嘘のように消え去り、声が低くなる。

 

 『───デカグラマトン』

 『…!…その名は……』

 

 『やはりご存知でしたか。その信奉者がアビドス砂漠にもいるという話を聞き及びましたので、アビドスに一時期腰を据えていたハシラマ先生ならばもしかするとと思いましたが……』

 『……まぁな、しかし、それが今何のかんけ──いや、まさか』

 

 『──AL-1S』

 

 ヒマリの言葉に一瞬固まる柱間が、ボソッと呟いた。

 

 『……知っておるのだな』

 『えぇ、それを調べるための特異現象捜査部でもありますから。本題に戻ります。要は彼女を試そうという話です』

 『試す?』

 

 『はい。つかぬことを伺いますが、ハシラマ先生はアリスについて何処まで把握しておりますか?───名もなき神々の女王、という言葉に聞き覚えは?』

 『───……あぁ、知っておる。確か、無名の司祭がどうこうと…』

 

 『……なるほど、聞いておいてなんですが、驚きました。ハシラマ先生がそこまでご存知とは。しかし、なら話が早く済みますね。要は鏡の奪取を通じて彼女の内在する危険性を測ることが目的です』

 

 『…………』

 

 口を閉ざしてヒマリの言葉に耳を傾ける柱間。彼女の発言は一見アリスを生徒として見ない、排斥しかねない危うい発言にも聞こえるが、事実ハシラマ自身もアリスの動向に逐一目を光らせていたため、何処かで手を打たないといけないのは事実なのだろう。

 

 『おや、勘違いしないでいただきたいのは、私としては現状アリスは可愛いミレニアムの後輩だと考えていますよ?それに現状容態も安定していますしね。そう深刻に受け止めず、身体検査のようなものだとお考え下さい』

 『う、うむ……まぁ、そうさな。オレよりはお前の方がそっちの方面には詳しそうだが……必要か?』

 

 『はい、と言うのも……まぁ私自身アリスを調べる必要性を感じているのもそうなんですが、もう一つ。頭の固いユーモアのかけらもない、合理性の塊のような天邪鬼を説得する為の材料にもなり得ますから、可能であれば実行に移したいのですよ』

 『そ、そうか』

 

 先ほどまで穏やかだった彼女の、少々穏やかでない台詞に彼女の仄かにゆらめく怒気を感じ取り、戸惑う柱間が言葉に詰まってしまう。

 

 『いやまぁ、ユウカ達が事情を把握しているのは分かった。……いや、把握しているのか?』

 『えぇ、言葉回しは違いますし、流石にアリスの正体については教えていませんが融通は利かせていますよ。まぁヴェリタスとゲーム開発部に忖度しろとも言っておりませんので、彼女も彼女で全力に事に当たるでしょうが』

 『そうか……まぁ、分かった』

 『ふふ、では交渉完了ということで…』

 『い、いや待ってくれ!』

 『はい?』

 

 満足そうな声を上げるヒマリを呼び止める柱間が、会話の最初にも出した、どうしようもない問題を口にした。

 

 『さ、最初にも言ったがヴェリタスとゲーム開発部は既に手を切っておってな…』

 『あぁ、その事ですか?簡単な話ですよ』

 『何か策があるのか?』

 

 『アリスの…かわいい生徒の未来のためです。頑張って説得して下さいね?』

 『は?』

 

 『それでは失礼致します♪』

 『あ、お、おい!ヒマリよ!おい!…………』

 

 無慈悲にも、通話の途切れた事を知らせる音が電話口に鳴り響く。呆然と立ち尽くした柱間が────覚悟を決めて、ゲーム開発部の部室へ向かうのだった。

 

 




ご清覧ありがとうございます!
直近だとストーリーがあまり進んでおらずすみません…!
原作のストーリーが破綻しないように動かすにはどうしたら良いのかと、それに悩んで遅くなってしまっています…今しばらくお待ちいただければと……
それではまた次回

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