Hashirama Archive   作:アテナ18号

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常識破り

 

 「……えっと……つまり、私達はどうすれば…」

 「まぁ、特にヴェリタスやゲーム開発部に肩入れする必要もないわ。通常通り事に当たってちょうだい」

 「そうか……まぁ、分かった」

 「ほらほら!ご主人様も元気出して!」

 「本当にすまぬ……」

 

 噂に名高いシャーレの大人の第一印象が何とも情けない弱々しい姿で、伝え聞く話とのギャップや乖離を覚え肩透かしを食らったカリンとアカネが憐れむような視線を送っていた。

 

 「…アスナ先輩、残念ながら先生は敵性勢力である事が判明しましたので、本作戦においては残念ながらご主人様ではありませんよ」

 「あ、そっかぁ〜……じゃあ何て呼ぼう?」

 「普通に"先生"で良いんじゃないか…?」

 

 「……ちなみにですけど、忍術研究部の三人は…?」

 「おそらく、付いてくるな……一応シャーレの業務になる。それに……ミチルは兎も角、他の二人…特にイズナが乗り気でな……」

 「まぁ、ですよね……分かりました。……なんか、複雑な気分です。事前にお互い了承しているし茶番のようなものですが、仮にも先生と矛を交えるというのは……」

 「返す言葉もない…」

 

 ユウカと柱間が互いに眉を顰め、困ったようにため息を吐く。今一詳しく状況を飲み込めない他三人が事情を完璧に把握したわけではないものの少し気の毒そうに二人を眺めていた。

 

 「…そう言えば、ネル先輩はどうしたの?私用か何か?」

 「あぁ、そのことなんですが……」

 

 胃を痛める二人の奇妙な沈黙が数秒続いた後、場の空気を切り替えるためかユウカが落としていた視線を上げてアカネに目配せするのだが、その言葉を受けた彼女が少し悩むようなそぶりを見せて柱間を見つめると、ん?と声を漏らした柱間が意図を察してその場を立ち去ろうとする。

 

 「そうさな、襲撃してくる張本人に聞かせられん話もあるだろう。話も済んだしオレも一旦捌けるとしよう」

 「申し訳ありません」

 「いや、すまんなこっちこそ。初邂逅がこんな形になるとは……」

 「いえ。今回の件が片付いたら改めて正式にご挨拶に伺いますね、先生」

 

 「あぁ、また会おう。ではな」

 

 そう言って互いにアカネと柱間が握手を行い、これから争う者同士とは思えない和やかな雰囲気で別れの挨拶を交わした柱間がその場を後にする。残された4人が去る柱間の背中を見つめ、姿が消えたのを確認してから口を開いた。

 

 「なんか、気の毒だな…シャーレの仕事でミレニアムに来たらよく分からないイザコザに巻き込まれて……」

 「う〜ん、残念。良い人そうだったんだけどな〜」

 

 「……それで、ネル先輩は?」

 

 先ほど意味ありげな視線を柱間に送り言葉を中断したアカネに再び問いかけるユウカ。今度こそ彼女の言葉を受けてアカネがゆっくりと口を開いた。

 

 「はい、実は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ネル先輩がいない?」

 「はい、私の盗ちょ……情報によると現在のメイド部は完全な状態ではありません」

 「ねぇ先生殿、今あの人盗聴って……」

 「……分かっとる、分かっておる。…一旦話を聞こう」

 

 いきなりの柱間の身の代わりように驚愕しつつも喜ぶのはヴェリタス一行で首を傾げるのはゲーム開発部に忍術研究部。ミドリや忍術研究部の三人なんかは呆れや怒りを通り越して、あまりの転身に心配になって声をかけていたのだが、イマイチ彼からは要領の得ない回答しか返ってこない。アレほどの啖呵を切らせたアリスの事が心配ではあったが、アリスの入学試験のようなモノと言えば本人がゲームのクエストのように捉えてワクワクしていたのは不幸中の幸いと言えたのかもしれなかった。

 

 「じゃあ……今メイド部って三人だけ?」

 「そうなるね。んでこっちが私達にゲーム開発部に……えっと、シャーレの人達も手伝ってくれるんだっけ?」

 「はい!お任せ下さい!ご命令あらばこのイズナ、命にかえても任務を達成してみせます!」

 「が、がんばります……!」

 「ま、まぁ、一応手伝いはするけど……」

 

 話を振られて、妙に温度差のある返事を三人が返す。個々の戦闘力に目を瞑れば人数という点では圧倒しているのだが、それでも安心しきれない程度にメイド部の脅威というのはミレニアムの生徒にこびりついているようで、うぅんとマキが腕を組んで唸り声を上げる。

 

 「……ねぇねぇ、この中でエンジニア部とコンタクト取れる人いる?私達あんまりあそことは関わらなくてさ」

 「エンジニア部?それならアリスの件で色々お世話になったけど……」

 

 「…アイツらまで巻き込む気か、貴様ら……」

 

 呆れたようにボソリと呟く彼に憐れむ視線を向けるミチルには目もくれず、柱間に突っ込まれたマキが慌てて弁明を図る。

 

 「や、やだなぁ先生!強制じゃなくて頼むだけだから!無理って言われたら素直に引き下がるから良いでしょ?」

 「そそ!それにエンジニア部もエンジニア部で結構問題児集団だし結構乗り気かもしれないよ?」

 「問題児?そうは見えなかったが……」

 「たしか、レジャー施設のロボットに、発注にない仕様を付け加えてミサイルや火炎放射器を勝手に搭載したとか聞いたことあります」

 

 「……ミレニアムにはバカしかおらんのか…!」

 

 柱間の嘆きにわはは!と笑い声を上げるのは他人事のようなゲーム開発部姉妹の姉と、ヴェリタスの赤髪の少女。ミチルが笑い事じゃないと遠目で眺めていたが、結局は───謂わゆる悪事に手を染めるのだから自分がとやかく言えることではないなと傍観に達していた。

 

 その後、話し合いはそこそこにその場を後にしてエンジニア部の部室へと向かう一行。複雑な気分で頭を揉みほぐす柱間が────やはり許諾して良かったのかと自責の念に駆られつつ道を歩いていると、その表情の意図を勘違いした無邪気な顔のアリスが残酷にも声をかけてくる。

 

 「安心して下さい!先生!」

 「ん?」

 

 「アリス達ならきっとやれます!アリスはゲームで最も強力な力を知りました!仲間との友情です!こんなに多くの仲間に囲まれたアリス達ならきっと目的を達成できます!頑張りましょう!先生!」

 「ぶふ!!」

 

 「……ふうぅぅぅぅぅぅぅ……そうだな、頑張ろうぞ、アリス」

 「はい!」

 「しぇ、しぇんしぇいどにょ……」

 

 アリスの的外れな慰めの言葉に、思わず吹き出すモモイ。悪気のない彼女の言葉にキュッと心の締め付けられた柱間が、いつかの弟のような深いため息を吐いて肩の力を抜き───どこか遠い目でアリスの頭を撫でると、威勢の良い返事が返ってくる。そんな彼の様子を、可哀想なものを見るような目で眺めるミチルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……それは、私達の力を少々侮っているのでは?」

 「いいえ、そんなことないわ。貴方達の力は正当に評価しているつもり。勿論、ネル先輩抜きで貴方達各個人にフォーカスした上でね」

 

 少し険悪なようにも聞こえる、アカネとユウカのやりとり。それを少し緊張した面持ちで眺めるカリン。アスナは不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

 「その上で言うわ。───貴方達だけでは無理よ。それほどなの、あの人───ハシラマ先生は」

 

 三人の信頼に泥を塗るような発言を自覚しつつも、ピシャリと言い放つユウカ。彼女のハッキリとした物言いに、少しムッとした表情を浮かべるカリンと、冷静に彼女の言葉を受け止めるアカネ。

 

 「……それほどですか?あの方の戦術指揮は」

 「えぇ、それほどよ。私はたった一度彼の指揮を受けただけだけど……それでも断言できるわ。指揮官としてあの人以上の人間に、私は出会った事がない」

 「……ユウカ、あの人のことが好きだからってそんなに持ち上げるのは…」

 「は、はぁッ!!?そんなわけないでしょッ!!私があの人のこと──、と、というかッ!そんな話はしてないでしょッ!!正当に評価しての感想よッ!!!」

 「あらあら、そうなんですね。確かに良い人そうでしたし……」

 「うんうん!顔もカッコよかったもんね!」

 

 「ちょっと!!アカネッ!アスナ先輩もッ!!茶化さないでッ!!」

 

 カリンの天然な発言を皮切りに慌てるユウカを出汁に使って彼女をおちょくり場の雰囲気を和ませるC&C。肩でハァハァと荒く息をするユウカを眺め、咳払いを一つ行うアカネが口を開いた。

 

 「……分かりました。ユウカの言葉を信じましょう。……では、当日はどうしますか?最優先目標は先生───指揮系統の麻痺を狙いますか?」

 

 自分達を侮るようなユウカの発言を受け入れ柔軟に意見を変更し、主人の言葉に従うのは流石に優秀なエージェントを自称するだけのことはあるのだろう。彼女の言葉を受けて、うぅんと腕を組んで唸るユウカ。

 

 「どうなのかしらね……こんなに持ち上げておいて今更なのだけれど、先生、見て分かる通り乗り気ではなかったでしょ?」

 「あぁ、めちゃくちゃ嫌そうだった」

 「そうなのよ。だから先生自身が作戦を立案して指揮まで取って───とするかは疑問なのよね……あくまで貴方達C&Cと出会った時の戦闘指揮を取るだけに留まるんじゃないかしら」

 

 「……なら、それこそ第一に先生を鎮圧してしまった方が良いのでは?」

 

 「………うぅん、そうなんだけどね……」

 「…何か懸念点が?」

 

 アカネの言葉を否定するでもなく、かと言って肯定というには口籠ってハッキリと口にしないユウカの態度を訝しむアカネ。

 

 「……あの人、普通じゃないのよ」

 「普通じゃない?…どういうこと?」

 

 「いや、その……なんか勘が良いというか、肝が据わってるというか、運動神経が良いというか………思い返してみれば、呼吸を乱した所も見たことがないわね」

 「えっと……つまり、手を焼くかもしれないってこと?」

 

 「えぇ。まぁ流石に貴方達なら大丈夫だとは思うけれど……民間人、というよりは一つギアを上げて警戒しておいてちょうだい」

 「分かりました。……しかし、結局私達だけでは、という話の根本的な改善にはなっていませんね」

 「傭兵でも雇うのか?」

 

 「そこら辺のチンピラ雇うよりは企業のドローンやタレット、アンドロイドを配備する方がよっぽど良いわ。………う〜ん……」

 

 シャーレの先生の介入により生まれる、戦力差。それは柱間の指揮による戦力増強は勿論だが───加えて、シャーレの三人も作戦に関わってくることとなる。それを考慮して話し合いを始めたわけだが───

 

 「……取り敢えず、警備ドローンの数を増やすとして……仕方ないわね……人員に関しては私の方で当たってみるわ」

 「当てがあるので?」

 

 

 

 「えぇ。確証はないけれど……信用できる相手ではあるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────夕刻。

 

 ヴェリタス並びにゲーム開発部の襲撃にピリつく生徒会を第一に襲った衝撃は───なんと、アリスの単騎特攻。かと言ってその作戦によって成功したのはたかだか彼女らの意表を突くくらいのことで、当然と言うべきか彼女の光の剣が真価を発揮することもなく敢えなく撃沈して反省室に叩き込まれることとなった。

 

 「にしても、まさか指紋認証を突破するために無理やり扉を打ち破るだなんて」

 「確認しました。エレベーターのセキュリティロックを直ぐに修理するのは難しそうです。丸ごと取り替えるしか……」

 

 セミナーのオペレーターから聞こえてくる報告に頭を抱えるユウカが直様取り替えるように指示を出す。その際、アリスとエンジニア部の繋がりを感じ取ってエンジニア部名義のシステムを避けたことは流石にセミナーにて現場の指揮を取る彼女と言った所だろう。

 

 

 一方その頃───

 

 「うぅっ!アリスが連れて行かれちゃった!」

 「落ち着いてモモイ、計画通りだよ」

 「アリスちゃん……待ってて、直ぐに助けてあげるから」

 

 「状況が状況なら感動的なセリフなんだけどなぁ……」

 「…………」

 

 無言の柱間の心を代弁するようにミチルがぼやく。彼女の視線の先ではゲーム開発部の三人がアリスの身を案じて言葉を口にするが自分達で仕掛けて仲間が捕まって、それで助けると言っているのだから酷いマッチポンプである。ヴェリタスとセミナーのトップが両陣営とも承諾しているという前情報がなければとっくに降りていた話で、結局承諾してしまった手前自分が偉そうに講釈垂れることもできず、ただ今は彼女らの指示に従う人形と化していた。

 

 「取り敢えず……一つ目の仕掛けは上手くいった感じかな?」

 「『こちらエンジニア部、トロイの木馬を侵入させることに成功した』だって。あっちも上手くいったみたい」

 「ひゅーっ、それは一安心。もし失敗してたら、アリスが意味もなく監禁されただけ……ってことになるところだった」

 「じゃあ、次のステップに移ろうか」

 

 淡々と、悪の作戦会議を進める一行のやり取りを黙認しながらも気まずい顔をする柱間が、口を閉ざしたまま眉を顰めていた。そんな彼をみかねてミチルが彼の服を引っ張り気を引いた。

 

 「先生、ちょいちょい」

 「…ん?どうした、ミチル」

 「まま、いいからこっち来てよ」

 

 「?…あぁ」

 

 「ん?どうしたの?二人とも」

 「ごめんね〜、ちょっと先生殿と個人的に話したいことがあってね〜」

 

 何でもないような表情で緩い笑顔を浮かべるミチルが声をかけてきたモモイに手を振り、柱間を連れてその場を後にする。全く何の話も聞かされていない柱間は何のようかと疑問に思いながら、彼女に連れられその場を後にするのだった。

 

 「……ふぅ、これだけ離れてれば大丈夫かなぁ」

 「どうした?誰かに聞かれたらまずい話なら……」

 

 「いやいや、先生の話だよ」

 「ん?オレの」

 

 「うん、だって先生殿めちゃくちゃ嫌そうじゃん。……大丈夫?脅されたりしてない?」

 「い、いや、それは……脅されてるわけではないのだが……」

 

 心配するミチルが柱間にモノを尋ねるのだが、動揺して言葉を濁す柱間を見て、やっぱりかという顔を隠そうともせずため息を吐く。

 

 「ねぇ先生殿、それって───まぁ、言葉を濁すってことは言えないことだよね、私たちには」

 「まぁ───……いや、そうさな。全てを言うわけにはいかないが───ミチルになら、少しは言っても良いか……」

 

 「へ?い、良いの?」

 

 当然断られると思っていた反面、ミチルになら、という言葉が自身への信頼感を表しているようで少し嬉しくなってピョコピョコと耳を揺らすミチル。そんな彼女を見て少し荒んだ自身の心が癒えるようで、小さく笑った柱間が口を開いた。

 

 「……実を言うと、ヴェリタスとセミナーのトップはこの襲撃を把握しているようでな」

 「……え゛、バレてるの!?これ!!」

 「あぁ、その上で────襲撃でどんな被害が出ても、ヴェリタスとゲーム開発部の容疑に関しては黙認する、というのがトップの意向らしい」

 「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと待って……頭こんがらがってきた………」

 

 柱間の言葉に漫画のように目をぐるぐると回すミチル。唸り声を上げつつ必死に考えるミチルが、頭の中で話を整理してモノを尋ねる。

 

 「……え、えっと、セミナーやヴェリタスのトップは分かってて何で放置してるの?黙認する、とか言ってたし……」

 「……まぁ、簡単に言えばアリスの入学試験のようなモノらしい」

 「へ?アリスちゃんの?……あれ、アリスちゃんのやる気を出すための、先生の口から出まかせじゃなかったんだ」

 

 いきなりアリスへと話が移り、意外そうな声を上げるミチル。

 

 「あぁ。アリスが廃墟から見つかったと言うのはバレていてな……今更不正入学のことを取り立てたりはしないが───今回の襲撃でアリスのことを測る、と」

 「ふぅ〜ん……筆記試験とかじゃないんだ。なんでこんな回りくどいことするんだろ、メイド部って人達ともやり合うらしいし、危ない気がするけど……」

 

 「それは……分からんな」

 

 分からない、という言葉は半分本当で半分嘘。

 半分嘘、というのはアリスの正体に関してのことで、彼女が危険性を内包するオーパーツであるため、それを確かめるためにも今回のような危険な任務を貸し与えたのだろう。ただアリスの正体────名もなき神々の女王、について教えられるはずもなく、言葉を濁した。

 

 そして、半分本当というのは、柱間自身本当に分からないのだ。普通に実技で測ったり、経過観察ではいけないのかと思ったが、これに関してはヴェリタスとセミナーのトップ───黒服の教えもなく、自身達の力だけでアリスの正体にまで辿り着いている彼女らの方がアリスについては詳しいだろうと、深くは考えずアリスのために話を承諾したのだった。

 

 「…ねぇねぇ、この話皆んなに通しちゃダメなの?そしたら誤解も解けるだろうし……なんか、先生が悪事を容認してる、みたいな目で見られるのはちょっと嫌というか……」

 「その言葉は嬉しいが、やめておけ。最悪ツクヨとイズナなら構わんが……後の人間には伝えるな」

 「な、なんで……?」

 

 

 「………何しても罪に問われない、とアイツらが聞いた時何をしでかすか本当に分からぬ」

 「あ、あぁ……なるほど…………」

 

 自身を思いやるミチルの発言に微笑む柱間が彼女の頭を撫でた後遠い目でボソリと呟くと、彼の顔を見たミチルが納得の声を上げて気まずそうに口を閉ざす。確かにそれはそうだと擁護する言葉も思い浮かばず、沈黙が訪れた。

 

 「……しかし、イズナとツクヨの奴が乗り気なのは意外ぞ、てっきりこういう悪事には、貴様同様嫌悪感を表すものかと…」

 「あー……そ、それは、えっとぉ……」

 

 「?……思い当たる節があるのか?」

 

 柱間の何気ないボヤキにミチルが視線を泳がす。柱間譲りのようなその見るからな分かりやすい慌てように柱間が視線を向けると、数秒間の視線逸らしという弱々しい抵抗を見せた後、観念したように口を開いた。

 

 「……た、多分、先生殿の指示だから……」

 「……な、なに?オレ?」

 

 「う、うん。……あにょ、イズナはほら、ニャン天丸の件にあった通り、結構他人の言葉に流されちゃうタイプでしょ?多分自分で深く考えるのがまだ苦手で……使命とか任務とか、そういうのを優先しちゃうタイプ。勿論良し悪しの判断が難しいなりに自分でもあの件以降気をつけるようにはしてるだろうけど……それでも困った時、絶対に間違えないで済む、って彼女の中で決まってる指標が一つある」

 

 

 「……オレかぁ……!!」

 「う、うん。先生殿がOK出してるってことは正しいことだ、って……あ、危なっかしいけど信頼通り越してちょっと盲目的なところがあるから、先生に対して……」

 

 眉間に皺を寄せて下唇を噛む柱間。そんな彼を見て言いにくそうに、けれどもハッキリとモノを言うミチルが恐る恐るながらも全て言葉にすると、文字通り頭を抱える柱間が数秒経ってからもう一人の部員についても尋ねるが、そっちは存外単純らしい。

 

 「……ツクヨは?」

 「あ、いや、彼女周りに巻かれやすいからもっと単純で、イズナが乗り気で、先生もOK出してるしいっか!くらいの軽いノリじゃないかな……イズナよりは違和感を抱いてるとは思うけど……」

 「……そうか、部員のことをよく見ておるな。流石ぞ」

 「ま、まぁ先生みたいに当事者じゃないから客観的に見れてたっていうのもあるけど……」

 

 悲痛な面持ちで俯く柱間。何と声をかけたものか、言葉が見つからずオドオドとツクヨのように取り乱していたところ、ゆっくりと顔を上げる柱間が呟いた。

 

 「……今更どうこう考えても仕方ない、取り敢えずはモモイ達に付き合おう」

 「せ、先生殿、思う所があるなら早めに言うに越したことは……」

 「いや、よい。今言っても作戦までに時間がない、アリスは突っ込ませた後だしの。それに……」

 「そ、それに……?」

 

 

 「………もしかしたら、あやつら───モモイ達の考え方の方が正しいのではと少しだけ考えるようになってな」

 「えぇ!?な、ないない!!生徒会襲撃しようとしてるんだよ!?なんなら廃墟に行く時だって私が我儘言って───」

 

 「そう、それだ」

 「え?な、なに?」

 

 自分の言葉を遮るように柱間が言葉を被せる。それ、と言われたが思い当たる節がなく、首を傾げるだけであった。

 

 「ミチルよ、確かに常識的に考えれば禁止区域に行くのは危険性極まりない。ただ、結果的に考えればアリスを見つけることができたな?」

 「そ、それはそうだけど……」

 「そして身分を偽装しようとした時、そして実際にした時もオレは叱ったが実際に上手くいってアリスの入部、入学は一時的に認められた」

 「う、うん……」

 「……そして今回、アリスの言葉で一時は止まったモノの───元々モモイはオレがいなければヴェリタスの作戦に協力するつもりであっただろうし───結果的に、それが正解だったわけぞ。…セミナーのトップが容認してるわけだしの……」

 

 「ま、待って先生殿!だからあっちが正しいって言ってんの!?ないない!それは流石に結果論だって!!」

 

 喋るたびに声のトーンが下がっていき、ズルズルと肩を落としていく柱間。何となく彼の言わんとすることを察して大声で否定するが、当の本人はすっかり自信を喪失してしまっている様子だった。

 

 「オレはモモイの奴にゲンコツをかましたが……よくよく考えればマトモな解決策を用意するわけでもなく、義理は通せというばかりだった口先だけの男ぞ……それならまがいなりにもアリスの身分……アリスの居場所を作ってやったモモイの方が、正しいことをしておるのかもしれん……」

 「い、いやいや!だからって容認するのは違うでしょ!先生が怒ったのは正しいことだよ!私もそう思うもん!」

 「キヴォトスはオレの常識が時折通じんことがある…皆が皆銃を携帯しておることとかな。なら……結果を鑑みると、ミレニアムではヴェリタスとかゲーム開発部のぶっ飛んだ発想が丁度良い塩梅なのかもしれぬ、とな、最近思い始めて……」

 「ないないないない!目を覚まして先生殿!」

 「はぁ……オレは無力ぞ……」

 「しぇんしぇいどにょお!!!」

 

 すっかりと自信を喪失し、体育座りでどんよりと顔色を悪くして塞ぎ込む彼の背中をさすり、慰めるように声をかけるミチル。結局彼の様子が元通りになることはなく、数分経って気まずそうな顔のミチルに手を引かれ現れる、落ち込んだ様子の彼に首を傾げる一行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────迎える作戦決行時。

 

 夜間になり暗闇に染まり、ゲーム開発部の姉妹とシャーレの四人が固まって施設の中を歩く、この気が乗らない非常時においてもやはり彼女らを率いて先頭を歩くのは柱間で、それは生徒並びに若者を庇う一つの彼の性のようなもので、慎重に歩を進めていた。

 

 そして迎える、とあるガラス張りの廊下。ココこそ現在C&Cの一人───角楯カリンの担当する場所で────つい先ほど、アカネがヴェリタスのトロイの木馬により隔離されてしまい動けなくなった非常事態において、彼女をカバーするためにその得物を握る、絶好のスナイプポイントである。

 

─────あぁ、問題ない。直にターゲットは射程に入る。

 

 数分前の自身の発言。

 無線から入ってくる情報を頼りに、ただ待ち構え、いつものように狙撃するだけ。何てことはない、いつもと変わらぬ任務のはずだった。

 

 「──くっ!!」

 「っと、元々打ち合わせていたことだが、ヒビキも容赦がないね」

 

────彼女の前方で爆風が巻き起こる。

 

 現在、彼女のスコープが覗くのは悠々自適に廊下を歩くゲーム開発部達ではなく、数メートル先のミレニアムの技術者。瞬時に発砲するが彼女を庇うように椅子型のドローンが高速で移動し───加えて、援護射撃で飛んでくる迫撃砲が、彼女の照準をずらす。

 

 「ッ、ちょこまかと…!」

 「っと、私の目的は君を倒すことではなく時間を稼ぐことだからね。今現在の区画を抜けられるだけの時間を稼げればそれでOKさ」

 

 余裕を持った、ウタハのセリフがカリンの不安を煽る。

 事実、彼女の言葉通りミレニアムタワーの全てが全面ガラス張りの訳がない。当然内壁に囲まれる通路もあるし、事実現在アカネが捕まっているのはミレニアムタワー中央部の区画だ。自分達C&Cの情報を知った上で、スナイプされる危険性のある外壁周りの通路を選択していると言うことはそこを通らざるを得ないということで、ここを流せば自分はチャンスを失ってしまう。

 

 チッ、と小さく舌打ちを打つ彼女が動きを止める。

 

 「おや?諦めてくれたのかな?」

 「……あぁ」

 

 「……ふむ、意外だな。噂に聞くC&Cは、もう少し粘るものかと思ったが……」

 

 まさか諦める、と言う言葉をそのまま受け取るはずもなく、何かを警戒して身構えるウタハ。すると目の前でおもむろに無線機を取り出すカリンが語り始める。

 

 「……私ならお前を鎮圧するのは訳ないが、それまでにどれだけ時間がかかるのかは不明だ。私───私達の目標はあくまで襲撃者の捕縛。それが最終目標で最優先すべきことだ」

 「…………」

 「だから───"私"は諦める。────悔しいが、頼めるか?」

 

 無線機の通信をオンにして、何処かへ連絡を入れるカリン。そんな彼女の様子を訝しむウタハが耳を澄ませる。現状アカネは隔壁で閉じ込めており、目の前のカリンは動けない状態。ともすれば現在居場所の不明なアスナであろうかと推察していると────どこかカリスマを感じさせる、余裕を持った声が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 『えぇ、ここからは便利屋68に任せなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
最近は投稿遅れが毎週続いて本当に申し訳ありません……
また、現在溜まっている感想につきましてもこまめに返事を返さず重ね重ね申し訳ありません…!こちらに関しては明日全て返信したいと思います。
それではまた次回

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