Hashirama Archive   作:アテナ18号

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場数慣れ

 

 『───ウタハ先輩のいる場所から300メートルほど南西方向にもう一人、誰かいる…!』

 「何で何で何で!?スナイパーは一人だけじゃないの〜!?」

 「ど、どうしましょう!?主殿!」

 

 「……………」

 

 曲がり角で身を潜め騒ぐゲーム開発部と忍術研究部。と言っても流石に全員で固まったらかなりの大所帯になってしまうため、ツクヨとユズは現在席を外しているわけだが。

 彼女らがそれほどに動揺する理由は───C&Cを止めたにも関わらず、依然遠距離から撃ち込まれる鋭い凶弾である。カリンから放たれていた狙撃が止まり、意気揚々と足を踏み出そうとしたものの───再び窓ガラスが割れ、先頭を突っ走るモモイの額をかすめて壁に亀裂が入った。急いで引き返し身を隠した一行だが、時間をかけてジリ貧になれば敗北を喫するのは自分達で、いつまでもここで足を止めてはいられず、かと言って何か解決法が思いつくわけでもない。そんな状況に焦りが募っていた。

 

 「どうだ?ミドリ」

 「……えっと、すみません、見覚えがなくって……赤い長髪に、ロングコートを羽織ってます。ツノも生えてるから……ゲヘナの人?」

 「ゲヘナ!?なんで!?傭兵でも雇ったの!?ユウカは!!」

 

 

 「───なるほど、アルか」

 

 身を隠しながらチラチラとスナイパーのスコープで狙撃地点を一生懸命確認していたミドリが人影を確認して容姿を口にすると、覚えがあるのかボソリと柱間が呟いた。

 

 「し、知ってるの?先生」

 「あぁ、便利屋68と言ってな。言わば傭兵もこなせる何でも屋だ、アビドスの件でユウカとも交友を持ったからな、その縁だろう。……そう言えば、ミチルの動画チャンネルのファンとか言っとったの、アイツ」

 「え?ほ、本当?」

 「え?ミチルってチャンネル運営してるの?」

 「う、うん。まぁ部活動の一環で忍者の広報活動を……」

 「ふ〜ん……あ!じゃあさ!ミチルが盾になるように歩けば撃ってこないんじゃ……」

 「い、いやだよ!仮に上手くいったとしてもファンの善意を踏み躙るような真似は絶対に嫌!!」

 

 冗談なのか本気なのか分からないモモイの発言に慌てて首を横に振るミチル。その後も暫く考え込むような一行だったが定期的にアルから威嚇射撃が行われ、出るにも出れない状況が続いていた。

 

 「ねぇねぇ先生!どうしよう!このままここで足踏みしてたら──」

 「………試してみるか…」

 

 「…先生殿…?」

 

 皆が一様に焦る中、冷静に周囲を見渡した柱間が通路脇に設置された"ソレ"の位置を確認した後、通路脇のスイッチを全て止める。通路内に薄く響いていたファンの音が止まり廊下が静まり返った。

 

 「ハレ。廊下一帯の天井のエアコンの電源を入れてくれるか?風向きは廊下の奥側で頼む」

 『え?まぁ、ソレくらいならこっちで出来るけど……』

 

 

 

 「よし。お前達───オレの合図と同時に突っ走れ、良いな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───……止まったわね。諦めたのかしら…?」

 

 冷たい夜風に身を晒し紅いコートを風に靡かせる便利屋の社長がジッとスコープを覗き込むが、一向に角から出てくる様子のない引率柱間の率いる生徒会襲撃犯一行。かと言って気を抜くこともなく、久方ぶりに入ったミレニアムのセミナーからの警備任務という超大口の依頼で下手を打つわけにもいかず───先生と忍術研究部の二人に対する引け目はあったモノの、そこは公私を分けて任務に当たっていた。

 

 「……!───ふん、舐められたモノね…ッ!」

 

 そうして柱間達を監視していたアルの視界の先。突如先陣を切って飛び出したのは彼らを率いる柱間その人。よもや彼がそんなことを考え単身飛び出ているわけもないとアルも理解はしているが───"先生"に対して銃は撃てないだろうと侮られているように感じ、少し頭に血を上らせて───躊躇なく引き金を引く。

 

 「………ふふ、それ以上出ないことをオススメするわよ、先生」

 

 視界の先で、彼の前方を横切るように廊下の壁に銃弾が突き刺さる。ソレを見て足を止めた柱間の様子を見てほくそ笑むアルが未だ残弾はあるが即座にマガジンを入れ替えようと手を伸ばす。現状自身一人しかいない関係上、相手に弾切れのタイミングを悟らせず折を見てタクティカルリロードを行い、なるべく射撃の手を止めないことが大事だから。

 

 だからこそ、ここでアルは柱間が立ち止まっている間にマガジンを交換しておく───ハズだった。

 

 

 「…………は?」

 

 スコープから一瞬目を離そうとして───思わず、動きを止める。視界の先、柱間が先ほどの自身の銃弾に驚いたかと思えば、何歩か後退し謎に位置調整をするように不自然に足を止めた後───こちらを見て、ニヤリと口元に笑みを浮かべ指を立てていた。そして、互いの距離は遥か遠く音は聞こえないながらも、口の動きで何を言っているのか理解した瞬間───マガジンに伸ばしていた手を止め、即座に引き金に指をかける。

 

───当ててみろ。

 

 「────舐めないでちょうだいッ!!」

 

 柱間の分かりやすい挑発に対して頭に血を昇らせて照準を定めるアル。狙いを変えて足を狙うアルが、ゴクリと唾を飲み込んで額から汗を垂らす。当ててみろと挑発を受けたモノのまさか柱間に本当に銃弾をぶち込むわけにもいかず、狙うは彼の羽織。風に吹かれて横に広がる彼の大きな上着を照準に合わせる。あくまで自分の狙撃の腕前を侮るような彼に対する威嚇射撃で、この攻撃で彼の足を止める───はずだった。

 

 「───なッ!?」

 

────瞬間舞い散る、白い粉塵。廊下に充満するソレが、アルの視界の先を埋め尽くす。

 

 何が起こったかは至極単純で、柱間の大きな羽織に隠れるように彼の背後の廊下脇に設置されていた消火器を撃ち抜いてしまった、それだけのこと。初歩的なミスをやらかして舌打ちをするアルが、ハッと息を呑む。

 

 「(───ここまで読んで、私を煽ったの!?どこに撃つかも分からないって言うのにッ!!)」

 

 慌てつつもスコープを覗くアルが視界の先で、その煙の中に逃げ込むように曲がり角から多くの生徒が走り出す。焦りが止まぬまま足止めしようと引き金に指をかけるのだが───

 

 「ッ、そうだ、弾切れ…ッ!」

 

 先ほど、リロードよりも自身の気持ちを優先してしまったことで発生した大きな隙。ソレがまるでばれているかのように何の躊躇もなく白煙の中に走り出す一行の姿を確認したアルが焦りを募らせた。

 

 「(なんで…!これも計算した上で挑発したってこと…!?私のマガジンの容量なんか分かるわけないのに…!)」

 

 急いで空になったマガジンを投げ捨て新たに装填するアルが、顔を歪めて急いでリロードを行う。柱間にまんまと出し抜かれた事実に不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「ふふ、やってくれるじゃない…!……良し」

 

 永遠にも思えたリロードを終え、顔を上げるアルがスコープを覗き込み柱間達の様子を確かめる。果たしてまだ煙の中に籠っているのか、それともこのチャンスに廊下を走り抜けているのか、何れにせよ急ぎ彼らの足を止める必要があったのは確かだが───

 

 「………え!?アレ!?ど、どこッ!?」

 

────何処にもいない。

 

 既に煙は晴れ、全面ガラス張りの廊下のどこにも柱間どころか生徒の影一つない。見落としたかと何度も何度も廊下の端から端まで確認するがどこにもおらず、まさかこの一瞬で廊下を渡り切ったのかと考え、やはりあり得ないと否定しようとしたのだが────

 

 

 「(───いや、あり得る!どうやったか分からないけど、あの人なら!)」

 

 いつかの食事の席での記憶を思い出すアル。煙に包まれた状況と言い、あの日の事を想起してしまい、舌打ちをして下唇を噛み締めるアルが悔しそうに立ち上がって通信を入れた。

 

 「……ごめんなさい。敵を逃したわ…!ポイントを移動する」

 

 急いでその場を後にするアル。その姿を遠方で何者かが確認していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……よし、移動したようだな。オレ達も動くか。ありがとうミドリ、返しておこう」

 「あ、はい」

 

 とある教室の中からわずかにスライド式の窓を開き、そこからアルの様子を眺めていた柱間が、彼女が動いた事を確認して双眼鏡代わりに使っていたミドリのSRに付いていたスコープを彼女に返す。何でもないように立ち上がる柱間がガラガラと扉を開けて再び廊下へと足を運ぶと、慌てて他の生徒も彼の後を追いかけた。

 

 「ほ、本当に上手くいっちゃった……何者?先生」

 「流石です!主殿!」

 

 煙に隠れていた一行が───そのまま、隣接した教室の中に飛び込み息を潜めること数秒。柱間の指示に従ってただ教室内で静かにしていただけだがどうやら危機を脱したらしい。ホッと安堵の息を漏らして廊下を歩いていた。

 

 「その…なんで、あのタイミングで狙撃が止むって分かったんですか?」

 「ん?あぁ……まぁ、半ば賭けみたいなもんだったがな」

 

 足早に廊下を行く柱間一行。慎重に、かつ遅すぎない程度に急いで進みながらミドリが柱間に尋ねた。

 

 「ミドリ、貴様の銃は確か"すないぱぁらいふる"、だったな?装弾数は5発」

 「え?あ、はい。あれ?そうですけど……言いましたっけ?」

 「何を言っておる、前回廃墟に行ったとき交戦したろう?」

 「え?……え、あの一回で把握してたんですか!?」

 「あぁ」

 「凄い記憶力だね……」

 

 若干引き気味に驚くモモイ。この何処か常人離れした所は既に慣れたのか特に反応しないミチルと、対照的に毎度のことながら目を輝かせるイズナが二人の会話を見守っていた。

 

 「でも、それだけで……」

 「それだけではない。イオリとハスミも同様に"すないぱぁらいふる"の使い手で同じく5発だ。オレの知っとる三人ともが偶然、と言うには一致しすぎとる気がしてな。もしかしたらキヴォトスではソレが主流なのかもしれぬと踏んで試してみたら案の定だ。ま、違ったら違ったでまた別の手を考えたがな」

 「なるほど……どうなんでしょう、あんまりそういった話は聞いたことはないですけど」

 「ソレでもどこ狙うか分かんないのに良く消火器に誘導できたね。アレもお祈り?」

 

 「いや、ある程度は誘導したぞ?その為に風も吹かせたろう?」

 

 風?と言われて皆が一様に首を傾げていた。そんな中一早くイズナが声を上げる。

 

 「なるほど!だからエアコンを!」

 「えあこん?」

 「あぁ、わざと羽織を靡かせてな。煽ってもアルがオレを撃ち抜くことはないだろう。必ず威嚇射撃に済ませるはずぞ。だから分かりやすい的を作ってやった。……彼女の良心を悪用した形になるから少し心が痛むがな」

 「いや、でもだからって廊下で仁王立ちして立ち止まるのは肝が据わってるってレベルじゃないよ、先生殿……」

 

 先ほどの緊張した空気より一転、雑談に花を咲かせる襲撃犯一行。直前までの焦りを難無く解消する柱間の姿に、何処か安心感を覚えたことも大きいのかもしれない。心に余裕が生まれたことにより今現在も緊張感が漂っていることには違いないのだがどこか足取りが軽くなっていた。

 

 そんな折──

 

 

 「……三人、となると……」

 「え?どしたの先生」

 

 唐突に先陣を切る柱間が足を止めてボソッと呟く。そんな彼の様子を見て疑問符を浮かべるのはゲーム開発部の二人で───流石に付き合いの長さで察しのついたイズナが、即座にクナイを両手に構え───通路奥の暗闇に向かって投擲した。

 

 「爆裂手裏剣ッ!!」

 「───ちょ────」

 

 屋内ということもあり爆風と熱が通路に篭り、その威力を物語るように熱波が柱間達にも襲いかかる。少し目を細める一行が、爆発する寸前に聞こえていた小さな悲鳴にも気づかず、イズナの唐突な奇行に驚いていた。

 

 「ちょ、イズナ!?」

 「先生!そういうことですよね!」

 

 「……いやまぁ、そういうことだが……容赦ないの、イズナ」

 

 「──ゲホッ、ゲホッ!!」

 「うわ!?だ、誰!?」

 

 煙の中から現れる、三人の生徒。爆破の衝撃というよりは硝煙の香りが鼻や目に沁みたのだろうか、目尻に小さく涙が浮かんでいた。

 

 「けほっ、いきなりッ、やってくれるね……!」

 「ごほ、久しぶり、せんせ───ちょ」

 

 「先手必勝ッ!!」

 「ちょ、イズナあ!?」

 

 未だに涙ぐみ、笑みを浮かべながらも柱間を睨みつける───便利屋68の社員達。その一人、ポニーテールの特徴的なイタズラ娘が咳き込みながらもやはり余裕のある顔を見せてニヤリと笑うのだが───そんな彼女らの前に躍り出るのは、柱間との訓練により容赦の二文字を忘却した久田イズナ。仲間の制止する声も聞かず、怯んでいる今が好機と前に出る。

 

 「ッ、くふふッ!調子に───乗らないでよねッ!!」

 

 ムツキが小慣れた手つきで肩にぶら下げたバッグを外し、勢いを付けて投擲する。その威力で言えばイズナの爆裂手裏剣を凌駕し、彼らを混乱に陥れることはわけないのだが───

 

 「(───主殿なら──)──お返しッ、しますッ!!」

 「えぇッ!?嘘ぉ!?」

 「ちょ、やば…!」

 「え、え、えッ!?」

 

 イズナが想起するのはいつかの柱間との訓練。爆裂手裏剣を使った際の弱点を露呈した時の思い出。キヴォトスでは通じた常識の否定。ならば───彼女らもあの時の自分と同様のはずだと、自分が最強の忍者の指導を受けているというアドバンテージを遺憾なく発揮するため、ムツキの投擲物から逃げるのではなく前に出て、自分達の元まで辿り着く前に持ち手を掴んで逆に投げ返した。

 

───そして、結果から言えば対処としては満点だったようで、再び三人を爆風の中へとかき消した。

 

 「すごーい!やるじゃんイズナ!」

 「……あれ?イズナは?」

 

 

───いたッ!?

 

 爆発が起こり、目を閉じ細めたモモイ達がまだ見ぬ刺客相手に大立ち回りを行うイズナを褒め称えるのだが、その本人が見当たらず辺りを見回すと、唐突に煙の中から痛みを訴える悲鳴が聞こえる。

 

 「───皆さん!ここはイズナにお任せ下さい!」

 「いたたたた!」

 「い、イズナ!?」

 

 煙が晴れ、皆の目に映ったのは服が所々焼けこげたイズナが後ろ手にムツキを拘束する姿。多少無理のある形で両の手首を捻られたムツキが珍しく痛みを口に出していた。

 

 「む、ムツキ室長!」

 「ッ、ダメ!ハルカ!」

 

 「───とりゃ!!」

 「うわ!?」

 「え?きゃ!!」

 

 その光景を眺めて慌てたハルカがショットガンを手に突っ込むが、突如イズナがムツキをハルカの方向へ投げ飛ばす。戸惑う彼女を巻き込み壁に叩きつけると、踵を返して今度はカヨコの方へと地を駆け彼女の足止めに行った。

 

 「く…!」

 「───さぁ!早く!」

 

 「え、えっと……先生?」

 「………まぁ、じゃあ行くか。折角だしの」

 「お、オッケー!んじゃ頼んだよ!イズナ!」

 

 「はい!任されました!」

 

 目を輝かせるイズナに温度差を感じて何処か複雑な気分の柱間がゴーサインを出すとイズナを尻目にその場を後にする一行。地面に倒れ込む二人がいたたと口にしながら起き上がる頃には既に姿を消しており、追いかけようと試みるのだが───

 

 「───ふんッ!!」

 「ッ、くぅ…!」

 

 「──っと、大丈夫?カヨコっち」

 「ご、ご無事ですか?カヨコ課長」

 「うん……でも……」

 

 「ここから先へは───いかせませんッ!」

 

 廊下の奥へと進もうとするハルカとムツキに向かって今度はカヨコを突き飛ばす。その姿を見て足を止める二人。カヨコを受け止め安否を確認するムツキ達に休む暇も与えず彼女らに肉薄するイズナ。その姿に舌打ちを打つのはつい先ほど彼女に投げ飛ばされたカヨコその人で、彼女には珍しく焦燥感を覚えていた。

 

 「(───強い、この子……!)」

 

 勿論、かの風紀委員長ほどの絶対的な暴力性は感じないのだが、それでも先ほど見せた判断力、間髪入れずに攻撃を行う容赦のなさ、合理性、身体能力、いずれもが高い水準でまとまっており、加えて───

 

 「うわあぁぁアアアアッ!!!」

 「そんな闇雲に撃ったところで──当たりませんッ!!」

 

 「───うわッ!?」

 

────妙に、白兵戦に強いのだ。

 

 言わずもがな便利屋68の前衛を張るタンクは伊草ハルカだが、彼女には特別高いスキルが存在するわけではない。それでも肉体的な強度にモノを言わせて前に立つという性質さえ満たせれば前を張れるのがココキヴォトスという場所の常識で、特段普段はそれで問題はないのだ。

 

───だから、これも白兵戦のイロハを柱間に教授してもらったイズナのアドバンテージなのだろう。

 

 「(………やはり)」

 

 地面をスライドしながら射撃でカヨコの手を止め、爆弾を投げ込もうとするムツキの手を、ハルカに密着することで止めるイズナが三人の動きを眺めながら脳裏で呟く。

 

 「(……主殿と比較すると───まるで遅いッ!!)」

 

 瞬きをしても視界から消えず、不意を突けば動揺する、そんな───至って普通の反応を示す三人を前に自信を付けるイズナ。いつかの時のように自分の欲求を優先して失敗しないように、あくまで足止めを念頭に入れて意気込み、一旦距離を取って自身の懐に手を突っ込み、大きな声で叫んだ。

 

 「秘技───爆裂手裏剣ッ!!」

 「ッ、下がってッ!!ハルカ!!」

 「は、はい!」

 

 たった一度、不意をつくように投げたイズナの技を覚えていたのはカヨコで、技名を耳にした瞬間に瞬時に反応できたのは流石というべきだろう。

 

────だからこそ、これもその聡明な部分を逆手に取ったイズナが一枚上手と言った所だろうか。

 

 「………?」

 「あれ…?」

 

 「───しま…!」

 

───一番最初に気付くのは、やはり鬼方カヨコその人。

 

 いつまで経っても爆発しないため疑問に思う三人の前方の地面に突き刺さるのは何の変哲もないクナイが二つ。初見時は暗闇に投げ込まれたため彼女ら自身カンシャク玉の存在を認知しておらず、今現在視界に映るクナイにカンシャク玉が付いていないという違和感に気付けないのも仕方ないのだが、それでも自分達が騙されたということに気づけただけでもカヨコの頭脳に疑いようはない。

 

───だからと言って事態が好転するわけではないのだが。

 

 「──フンッ!!」

 「痛ッ!!きゃ!!」

 

 防御姿勢を取りクナイに気を取られていたハルカの眼前に突如迫るのはイズナで、万力を込めてハルカの手首を強く叩き軽く捻るとショットガンを手放してしまう。地面にガツッと重い音を響かせた後───それをムツキの方へと蹴り飛ばすイズナ。スルスルと地面をスライドしてムツキの足元へと転がっていった。

 

 「ハルカちゃん!」

 

 「とりゃあ!!」

 「え、え、えッ!?───うわ!!」

 

 ムツキがハルカの名前を呼びながら自身の足元に転がってきたショットガンを拾おうと手を伸ばす。それを確認したイズナがハルカの襟や脇腹を鷲掴みにすれば、当然銃を失った彼女が組み手や投げ技に対する対処を心得ているわけはないようで、されるがまま彼女に投げ飛ばされた今度はカヨコに身体をぶつけていた。

 

 「ッ、くぅ…!───ムツキ!!」

 「え?──ちょ!!」

 

 「───甘いですよ!悠長しすぎ、です!!」

 「うわ!?──ったぁ…!!」

 

 銃を拾うために一瞬地面に視線を向けてショットガンを拾い上げ、顔を上げた時にはこちらへ迫るイズナと目が合い驚くムツキが咄嗟にショットガンを手放すという選択肢が取れず、両の手を銃で塞いでしまい困惑している間にイズナが彼女を後方へと蹴り飛ばす。何とか胸元を自身の銃で守ったムツキが後方へと軽く吹っ飛びながら倒れ込み、ガツンと背中を廊下に打ちつけた。

 

 「ムツ───「秘技ッ!!」

 

 ムツキを呼ぶカヨコの声に被せるようにイズナが声を上げた、次の瞬間───

 

 「───爆裂手裏剣ッ!!」

 

 

───その場の四人が、爆風の中に包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ミレニアム、校舎内部。

 

 イズナの足止めもあり順調に歩を進める四人。そんな彼らを待ち受けていたのは───やはりC&C。コールサインゼロワン───一ノ瀬アスナが深い笑みを浮かべ、無邪気な顔で四人に襲い掛かった。戦闘が好きだと豪語する彼女が流石にモモイやミドリ、ミチル達では太刀打ちのできない実力差を見せつけるのだが───

 

 「モモイッ!伏せろ!ミドリ!ミチル!」

 「はい!」

 

 「ッ、と。やるね!」

 

 モモイがアスナの姿を見失った瞬間に、周囲を見渡すよりも早く柱間からの指示が飛ぶ。咄嗟に屈む彼女の頭上を銃弾がかすめ、回避行動を取るアスナが距離を取った。

 

 「かわされた…!」

 「ごめん、先生殿!」

 「いや、それで良い。無理に深追いするな」

 「でもでも!ここで時間を食ったら…!」

 

 「焦るなモモイ、逆に考えろ。他のC&Cは行動不能で便利屋も同様、ここさえ乗り切れば良い。焦らず事を運べば良い」

 「わ、分かった…!」

 「うむ!その意気ぞ!」

 

 「(……ふ〜ん)」

 

 決して三人と遠くない位置で三人に指示を出す柱間を見つめるアスナが、笑うのを止めて真剣な顔で考え込んでいた。

 

 「(……驚いた。お世辞にも戦闘能力が凄いとは言えないけど……チームワークって言っていいのかな、特にあの二人。その点においてはベテラン級)」

 

 まるで瓜二つの姉妹を値踏みするような目で見つめるアスナが、次に視線を送るのは彼女らの背後で控える大人の男性。

 

 「(───そして何より、シャーレの先生。生徒が自分の指示に一歩遅れて従う事も織り込み済みで───一歩先を行く私の行動に、二歩先の指示で対応させる。恐ろしく場数慣れしてる。下手したら私より……)」

 

 話に聞けば、弾丸一つで致命傷になるというシャーレの先生。そんな彼が弾丸飛び交う戦場で生徒を安心させるためか笑みを絶やさず、不安になって焦る生徒を落ち着かせるためにやはり落ち着いた態度で動揺を欠片も見せていなかった。

 

 「(なるほどね、ユウカが懸念するわけだ。───)……ふふ!ねぇ!先生!!」

 「ん?どうした?」

 

 「先生さ!───C&Cの顧問にならない?」

 「えぇ?」

 「い、いきなり…?」

 「なに?オレが?」

 

 「だ、ダメダメダメダメダメッ!!先生はウチの顧問なんだから!!絶対に渡さない!!」

 

 唐突なスカウトに驚く姉妹と柱間。いきなりのことで戦闘の手を止めてしまう一行の中、一際大きな声を上げるミチルが柱間の前に立ち塞がり、小さな体を大の字に広げていた。

 

 「えー?良いじゃん良いじゃんちょっとくらい!先生は嫌?」

 「C&Cはミレニアムの正規のエージェント、だったか?まぁ付きっきりは無理だが別に嫌では……」

 「ほらほら!先生も良いって言ってるよ!」

 「そ、それでもダメ!ダメったらダメ!先生はウチの顧問だから!」

 

 「うわ、あんなに焦るミチル初めて見た…」

 「そんなに先生のこと好きなんだね…」

 

 二人のひそひそ声なんか耳に入らないように大きな声で騒ぐミチル。渦中の柱間はどうしたもんかと頭を掻いているが、悲しいのはミチルが知らないだけで柱間は既に便利屋の顧問でもあるという事実だろうか。それでも無垢な彼女は自分達の先生だとその場を譲らなかった。

 

 「ふ〜ん、じゃあさ、先生」

 「ん?なんぞ?」

 

 

 「───私が勝ったら、C&Cに入ってよ!」

 「───ハッハッハ!うむ、勝てたらな!」

 「ちょ、しぇんしぇいどにょお!?」

 

 「やったあ!じゃあ────いくよ!」

 

 焦るミチルを放置して、不敵な笑みを浮かべるアスナが銃を構える。次の瞬間────室内に、無数の銃撃音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう…!アスナ先輩ったら何で連絡がつかないのよ…!」

 

 アカネが部屋から脱出したという知らせを聞いて、自分も無数のロボットを引き連れ部屋を出るユウカが苛立ちを隠せないように歩を早める。

 

 「便利屋の人達も決して弱くはないはずなのに……どうやってかわしたのかしら……」

 

 ブツクサと言葉を呟くユウカが歯痒い思いをしながらエレベーターを降りて目的の場所へと向かう。最後にアスナとの通信が途絶えた場所へと辿り着いた彼女の目に飛び込んできたのは───

 

 「───それでね!リーダーったら……ん?あ!ユウカ!お疲れ様!」

 「ん?おぉ、ユウカか!」

 

 

 

 「───何やってるんですかあッ!!!」

 

 

 

────二人まとめて簀巻きになり楽しく談笑する、柱間とアスナの姿であった。

 

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
最近は毎週更新が遅れてしまい申し訳ありません…
活動報告でも連絡させていただきましたが、暫くの間土曜更新から土日更新へと変更させていただきます。ご理解いただけると幸いです。
それではまた次回

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