────Cleaning & Clearing、通称C&C。
ミレニアムに所属するとある一つのサークルで、主に美化活動に伴う掃除などのサービスを提供する集団である。
……という表の顔、言わば内情をひた隠すためのカバーとしての意味合いはもはや形骸化していると言っていいほどに彼女らがミレニアムにて轟かすのは、その圧倒的な武力と名声だろう。元より上記で挙げたような理由からその名が付けられたC&Cだが、昨今では『掃除』を隠語として捉える者も少なくない。
C&C、その実態はセミナーの抱える少数精鋭のエージェント集団で、構成メンバーはわずか四名。各エージェントにはそれぞれに数字に付随したコールサインが与えられるが、それは任務遂行の上での彼女らの単なる識別番号というわけではない。言わば力の象徴ともいえる肩書にも近い崇高な呼び名である。
コールサイン
コールサイン
コールサイン
この中では最年長となる三年生のアスナのコードネーム01を筆頭に、彼女らは自分達C&Cの実力に絶対的な自信を持ち任務に当たる。キヴォトス全土はさておき、少なくともミレニアムにおいては比肩する者などいないだろう。
ともすれば彼女らはやはり、かの『暁のホルス』や『ゲヘナ最高戦力』、『トリニティの戦術兵器』に並ぶ実力を備えているのかというと───待ったをかけ、頭を悩ませてしまうのは現状の失態の数々だろう。来ると分かっていた侵入者を迎撃できず、あまつさえ一人のエージェントは本業を忘却し敵と戯れ、挙句の果てには自分達の尻拭いという形でミレニアムタワー内に大穴を空ける結果となった。それなのにどうして、しかし本当に彼女らC&Cはミレニアム最強のエージェントと言えるのだろうか?
────答えは、YES。
彼女らは、別に自分達の実力を過信しているわけではない。勿論、自分達がかなりの上澄みであることは自覚しているが戦闘を専業とする仕事の性質上、上記で挙げた各校の実力者の話も耳に入ってくる。それに敵うと驕るほど馬鹿でもない。
それでも彼女らは、やはりC&Cはキヴォトス最強の集団であるという自負がある。それは何故か?
単純だ。いるのだ。その比肩し得る"最強"がC&Cに。こと力に至っては全幅の信頼を置くリーダーが、彼女らの傍に。
────コールサイン
コールサイン
他の追随を許さないその圧倒的な実力から畏敬の念を持ってそのコールサインにつけられた名は────約束されし、勝利の象徴。
ミレニアムサイエンススクール三年生、美甘ネル。
ミレニアム最強の鋭い眼光は今───
「敵よ!捕まえてッ!!」
────シャーレの先生を捕らえた。
「はぁ…ふぅ…ッ!ったく…!降りるのも一苦労ね…!」
少し時間を遡り柱間達がアスナと戯れていた頃───別のスナイプポイントに向かうため場所を移るアルは急いでエレベーターに乗り込み階下へ向かった───わけではなく、何十階層もあるビルの階段を一生懸命駆け下りていた。というのもこれは単にエレベーターが併設されていなかったという話ではなく、ユウカの助言である。
───ミレニアムタワーは兎も角その他の建造物のセキュリティにまでセミナーは手が回らないわ。今回は相手にヴェリタスがいる関係上エレベーターに乗り込んだ状態で制御盤等をハッキングされたら面倒だから、位置がバレたと思ったら周囲の電動設備の使用はなるべく控えてちょうだい。
「そうは言っても…!何階あると思ってんのよ…!ふぅ…!」
暗闇に染まる物静かな建物内にアルの足音が響き渡る。窓から差し込むぼんやりとした月明りのみを頼りに足早に駆けていくアルがゴクリと唾を飲み込んだ。
「うぅ…し、仕方ないとは言え薄気味悪いわね…」
彼女の足を急かすのは勿論任務に対する焦りもあるのだろうが、加えてただ一人闇夜を孤独に走る、周囲の暗闇に対する本能的な恐怖もあるのだろう。振り向いたら誰かがいるような、言い知れぬ不安に駆られる彼女が早く外に出たい一心で進める歩幅は心なしかいつもより大きかった。
「……よし、もうそろそろ…!」
うっすらと見える階層の表記に出口が近いことを確認するとおもむろに安堵するアル。早くこんな場所から出てしまおうとより一層速度を上げる彼女が───
───足を止める。
「………え。な、なに……?」
突如として周囲一帯の明かりが点灯する。一階の玄関口へ向かう細い通路に立つアルが、戸惑ったように───そして、隠せない恐怖を覚えキョロキョロと辺りを見回した。
「……え、え!?……ご、誤作動…?」
そうしてアルが困惑するのも束の間、全ての明かりが同時に消えて再び暗闇が訪れる。特段オカルトや幽霊を信奉している彼女ではないが、再び喉を鳴らして慎重に歩を進めた。
「……ッ、で、出てきなさいッ!!」
─────。
玄関の広間に出るや否や大きな声を上げて銃を構えるアル。当然彼女にとっても視界が開けているわけではなく依然として不明瞭なことに変わりはない状況で自分自身の位置を教えてしまうような行為に及んだのは、先ほどの怪奇現象に対する恐怖が少なからず動揺を誘ってしまったのだろう。
「……な、何もないわよね……ふぅ…」
銃を下ろす彼女がカッカと駆け足で音を立て出入り口の自動ドアへと近づいていく。そちらへ寄るほど月明りによる自然光が増し、その明かりにホッと安堵の息を漏らすアルが背後の窓から差し込む光を背負って伸びる自身の影に視線を落とし───
「……へ?」
────自身より遥かに大きな影が伸びてることに気付いた瞬間───
「───わあッ!!!」
「きゃあああああああああああ!!?!?」
───彼女は意識を手放した。
「───おい、何もんだッ!テメェはよオッ!!」
「ッ、シャーレの先生ぞ!よろしくの!」
鈍い打撃音が廊下内に響き渡る。
その光景に───目を見開いたのは、攻撃を仕掛けた張本人の美甘ネルその人。ユウカの声に反応し銃を振りかぶり、銃身による打撃で目の前のモモイの意識を奪い取ろうとした瞬間───柱間が手を伸ばし、手の甲で彼女を庇う。彼の実力の証明はその一動作だけで十分だったようで、一拍遅れて反応し後ろに身を引くモモイや咄嗟に攻撃を仕掛けようとするイズナの焦る表情とは対照的に───好戦的な笑みを浮かべて柱間へと襲い掛かった、
「え?───きゃ!」
「え!?わぷ!!」
正面に迫るネルを見て───二人を守りきれないと悟ったのか、柱間がモモイの服の首根っこを鷲掴みにしつつ背後へ投げ飛ばす。突如飛来した姉を受け止めることが叶わずミドリが彼女に巻き込まれるような形で後方へ転がっていった。
「ラァッ!!」
「ッ」
至近距離まで迫り、そのまま短い足を突き出しハイキックを繰り出す彼女は銃口を突きつけない所を見るにシャーレの先生と聞いて銃の使用を抑える程度には好戦的な態度とは裏腹に理性があるらしい。ソレを腕をクロスさせて受け止める柱間が全身から力を抜き、投げ飛ばしたモモイ同様に後方へと飛んでいくのだが、よもやソレを逃すはずのないネルが再び地を駆けるのだが───
「ッ、邪魔すんなアッ!!」
「行ってくださいッ!!主殿!!」
「───分かった!感謝する!」
背後から飛来するクナイを、目で見ず風を切る音のみを頼りに超人的な反応速度で顔を逸らして回避したネルが振り返る。自身よりも一回り小さい小柄な生徒の放つ覇気に唾を飲み込むイズナが声を張り上げると短く言葉を返して振り向き───
「わ!?」
「ちょ、先生!?」
「二人とも!口を閉じておれ!!」
「…え、ちょっと待って!嘘でしょ!?」
もみくちゃになって倒れている二人を両脇に抱えて走る柱間の眼前に迫るのは、やはり巨大な大穴。自身を抱える大人の言葉に嫌な予感を覚えたモモイが顔を青ざめさせるがその予感はどうやら当たっているようで───
「そら!!」
「「わああああああああッッ!!」」
────二人の悲鳴がその場に木霊し、大穴の中に姿を消した。
「い、イズナ!?」
「部長も、お逃げください!!」
「───あーもう!ここまでやっといて逃げる場所なんかないでしょ!やれるだけやってみるよ!私も!」
咄嗟の出来事に追いつけず、困惑するように声を漏らしたミチルが破れかぶれにイズナの隣へ並び立つ。そんな二人の様子を───退屈そうに睨みつけるのは、ミレニアム最強。ダブルオーの名を持つ彼女が引き金に指をかけた。
「容赦はしねぇぞ」
「臨むところッ!!」
「そうか、じゃあ死んどけやッ!!」
「「わああああああああ!!!」」
「────」
至近距離で叫ぶ二人の悲鳴が耳に届かないほどに、ヒューッと風を切る音が鳴り響く。両脇に抱く姉妹が柱間の体に抱きつくようにしがみつき、落下の恐怖から目を閉ざしていた。そんな中、冷静にチラチラと周囲を見渡す柱間が───苦言を漏らす。
「……もうか!早いノォ!」
「え!?なに!?先生なんて───」
少し顔を顰める柱間が、それでも何処か楽しそうな、嬉しそうな表情で不敵に笑みを浮かべながらチラッと背後───上空を見つめる。そんな彼に釣られるように恐る恐る目を開くモモイが彼の視線を追うと───
「待てやゴラア゛アア゛ッ゛ッッ゛!!!」
「うぇえ!?噓でしょお!?」
「もうイズナさん倒したの!?っていうか何アレ!?」
「うむ!噂以上ぞ!」
視界の先に迫るは先ほど別れたばかりのメイド部の部長、美甘ネル。自由落下を行う三人に対し、自身の得物に巻き付くチェーンを巧みに操り爆破によって剥き出しになった鉄筋へと鎖を引っ掛け自身の体を手繰り寄せることで、某マーベルヒーローのように俊敏に動き回りドンドンと距離を狭めていた。
「先生!やばいよこのままじゃ!──うわ!?」
「せ、先生!?い、嫌な予感が…!」
「───一旦さらばぞ!二人とも!」
柱間の両脇に抱えられた二人がネルの姿に焦りを隠せず動揺するが、そんな彼女らの体に回されていた腕が解かれ、代わりにその手が二人の服の首元を鷲掴みにする。ミドリが顔を引きつらせるが彼女の嫌な予想は───次の瞬間、体が引っ張られる感覚と共に現実のものとなった。
「そら!」
「うわ!?」
「ひぃ!?」
「───さて……」
体を空中で捻って二人を投げ飛ばす柱間。小さく悲鳴を上げる姉妹が廊下へと滑り込むのを見届けて満足そうに頷いた後今度は背中を下方へ向け空を仰ぐように自由落下を行うと───ニヤリと笑う小柄な少女と視線が合った。
「──はッ!サシでやる気か!!」
「どうだろうの!」
「おもしれェッ!!」
モモイとミドリには目もくれず、彼女たちの降り立った階層を通り過ぎた二人が宙を舞いながら相対する。次の瞬間、威嚇か───はたまた本気か、銃口を柱間へと向ける。その、自身を狙った得物の射線上にいる彼は───やはり不敵に笑い、指を揃えて手招きし掛かってこいとアピールするだけだった。その光景に同様に口角を上げるネルが引き金に指を伸ばし───そっと銃を下ろす。
「──よっと!バレバレか!」
「っと。たりめぇだろ」
落下していた柱間が、剥き出しになった鉄筋に足の甲を引っ掛け足を軸に時計回りに回転して飛び上がり廊下へと降りると、追いかける形でネルもチェーンを巻き付け体を引っ張り柱間の正面へと降り立った。
「てかシャーレの先生っつってたろ。どちらにせよアンタに使えるわけねぇだろうが」
「すまんの、気を遣わせて」
「…つうか、んなシャーレの先生が白昼堂々ミレニアムを襲撃か?聞いた話じゃ随分な聖人って話だったんだがな」
「う、そ、それはだな……」
「あ?んだよ。犯罪者が訳ありとか言ってんじゃねぇぞ、クズが。……おい、私だ。敵のパツキン二人は8階だ、そっちは任せる」
事情を知らないネルが罵詈雑言を飛ばすと目に見えて落ち込む柱間。この場にユウカや、事情を知っている他のメイド部のメンバーがいれば彼の───なけなしの名誉は保たれたのかもしれないが、勿論彼に対する擁護の声が上がるはずもない。そもそも彼の性格上、全てを知った上で加担した以上、責任の所在をヒマリに押し付けることもないだろうが。
「……返す言葉もない」
「……んだよ、随分素直だな。……テメェとやり合ってみてぇ気持ちはあるがユウカに言われたからな。自覚あんなら抵抗せずにとっ捕まってくれると楽なんだがよ」
「───重ね重ねすまぬ、もうちぃと粘るとしよう」
「──はッ!そうかよ!」
投降の勧告に応えず、先ほどイズナが投擲していたクナイをキャッチし収めていたものを懐から一本取り出す柱間。ソレを逆手に持ち少し身を屈め抵抗の意思を示すと───嬉しそうに、好戦的な笑みを浮かべ声を荒げ、柱間に襲い掛かるのだった。
「ハッ……はぁ…!ふぅ…!はぁ…!キッツ…!」
ミレニアムタワー内部某所───セミナーの会計が汗を垂らしながら、息を荒くして階段を急いで駆け上がる。彼女の周りには数機のドローンが飛んでいるだけで便利屋はおろかメイド部の姿さえない。それは彼女自身が、自分に構わず先に最上階へ向かうように仕向けたからだろう。ではそこまで呼吸を乱すほどに急いで登るくらいならエレベーターを使えば良い話なのだが───頑なにそうしようとしない理由は単純で、現在エレベーターが使用できないからだ。それこそが最上階を目指している理由にもなるのだが。
『ふぅ……』
『くっそー!』
『流石に無理ぃ……』
少し時間を遡り、ユウカが階段を駆け上がる少し前。C&Cのリーダー、美甘ネルに全幅の信頼を置くユウカとアスナは柱間の対処を彼女に一任し、向かうはゲーム開発部の姉妹のもと。ネルから入った通信を元に情報を共有し、現地へ向かったのだが───そこには既に捕縛された二人の姿と、便利屋の三人、そしてアカネの姿があった。
『あ、お疲れ様です、ユウカ』
『えぇ、そっちもお疲れ様』
『さて……随分ひっかきまわしてくれたわねぇ!』
『う…!』
モモイを見下ろすユウカが怒りをあらわにしてモモイを睨みつける。彼女の憤怒は相当のもので、当てられた本人でない周囲の人間を身震いさせるほどであった。
『まさかここまでやらかすほどのバカだとは思ってなかったわ、本当に!』
『ちょ、ちょっと待ってよ!あのでっかい縦穴は知らないよ!?アレはそっちの策でしょ!』
『アンタらが襲撃してきたからその手に頼らざるを得なかったんでしょ!』
『す、すみませんすみませんすみませんッ!!』
両者の責任の押し付け合いの板挟みになったハルカが謝罪を連呼する。そんな仲間の姿にムツキはきゃっきゃと笑うだけで、カヨコはどうでもいいように溜息を吐いていた。
『…にしても、どこか余裕ねアンタら。もうちょっと焦るものだと思ってたけど』
『え?……あ。あー!く、くっそぉ!まさか捕まっちゃうなんて~!も、もう終わりだあ~!!』
『大根役者……』
確かに捕まって落ち込んでいるのはそうなのだが、それでもあまりに落ち着いている彼女らを見て疑問に思ったユウカが尋ねると、素っ頓狂な声を上げたモモイが少し固まった後に、いくら何でも演技臭い芝居をかます。ぼそっと聞こえた妹の罵倒に顔を引きつらせるが、それを聞いた瞬間焦ったのはユウカで彼女の胸ぐらをつかんだ。
『……え!?ちょ、ちょっと!!この後に及んでまだ何かあるの!!』
『ちょ、ちょっと…苦し…!』
『吐きなさい!吐けー!!』
『ぐぇぇ!?』
『ゆ、ユウカ待って!お姉ちゃんが別のもの吐いちゃうから!』
首をガクンガクンと揺すられるモモイが悲鳴を上げ、慌ててミドリがユウカに声をかける。そんな慌ただしい彼女らの様子を眺めるC&Cの二人がどうしたものかと顔を見合わせていると───
────爆発音のような、破裂音のような───SFのレーザー光線を彷彿とさせる煌びやかな音が遠方より炸裂した。
『ッ、…?何、今の…?』
『何でしょうか……私も聞き覚えの無い音ですね……』
少し驚いたその場の人間が顔を上げて音の出所を探るようにキョロキョロと周囲を見渡した。と言っても音が微かに聞こえるほどに遥か遠くであることに変わりなく、いったい何だったのだろうかと首を傾げていた所───
───今度は皆の耳にハッキリと、鈍く重たい金属の衝突音が轟いた。
『ッ、な、何!?今の音!!』
『うわ、ビックリしたぁ。何の音だろうね?』
ユウカの焦りようとは対照的に、落ち着いた様子のムツキが不思議そうに軽い口調で尋ねるが、誰も回答を持ち合わせない。その後、緊張感と沈黙の走るその場を───耳を澄ませ考え込むように目を閉ざしていたアカネの言葉が響き渡った。
『……!まさか…!!』
『え?…ちょ!どこ行くのアカネ!便利屋の皆さん、ちょっとこの二人見張ってて!』
『おっけー!』
『アスナ先輩!ついて来て!』
『はいはーい!』
何かを思付いたように顔を上げるアカネが険しい表情でその場を後にする。慌てて追いかけるユウカが息を切らして現場にたどり着いた時に目に入ってきたのは───爆破とシールドバッシュで無理やりエレベーターの扉をこじ開け覗き込むアカネの姿だった。
『ちょ、何やってるの!』
『……やはり…ユウカ、見てください』
『え、何よ……んしょっと………?………え、何アレ!?』
アカネに誘われるがまま、落ちないように慎重に顔を覗かせるユウカが目を凝らして下層を見下ろす。と言ってもそこはエレベータの通り道でしかなく、特に目を引くものがあるはずもないのだが───視界の先、アカネの銃のライトで照らされた先にはエレベータが鎮座しており、その天井にトグロを巻くように断線した牽引用のケーブルが束ねられていた。
『……何か、とてつもない力で鉄鋼製のケーブルが断線しています、断面が赤熱していることから焼き切られたものかと。先ほどの音はアレを焼き切った音と───一階の床と衝突した音でしょう』
『はぁ!?え、エレベーターの線ぶったぎったってこと!?誰が───『ユウカ』
大穴に続いて、エレベータの断線という情報にセミナーの予算や費用、負担という文字が重なり頭がくらむ。怒りのまま怒鳴り散らそうとした彼女の言葉を──冷静な、それでいてどこか冷徹な声色のアカネの声が遮った。
『急ぎましょう。これはとどのつまり──最上階層付近に、既に何者かがいるということです』
『ッ、そ、そうね。他のエレベーター……って、待って。まさか───』
『まぁ、そうするよね~』
アカネの言葉に同意するようにユウカが目の前の使い物にならなくなった移動手段ではなく別の足を探そうと口にした瞬間、嫌な予感を覚えて顔を青ざめさせる。
次の瞬間、さきほどの爆発音が遠方より再び鳴り響き───それがエレベータの断線を告げる音だと理解したとき、泡を吹いて倒れかけるユウカだった。
「やりましたね!ユズ!」
「う、うん……怖かったぁ……もう帰りたいぃ…!」
場所は移り変わって、ミレニアムタワー最上階。サブプランとして───単独行動でミレニアムタワーを登っていたユズがハレの指示の下、反省部屋から脱出したアリスと合流した後に見事【鏡】を見つけることに成功した。ハッキングツールを押収品保管室から慎重に運び出した彼女が───アリスの攻撃によって空いた壁の大穴の先、夜空に浮かぶ───一台の、【鏡】を積んだエンジニア部製のドローンを見つめて、ホッと一息ついていた。
「これで鏡は問題ないんですよね?ユズ」
「う、うん。エンジニア部の人達が後で回収する手はずになってるから。……こ、この後どうしよう」
「もちろん仲間を助けに行きます!モモイとミドリの下へ向かいましょう!」
「だ、だよね……うぅ…」
アリスの性格上その返事は分かり切っていたし、何より二人を見捨てる気など元々なかったのだが、それでも現状たった二人で立ち向かわないといけないという事実に涙目になるユズが不安そうに身を震わせた。そうして踵を返して歩き出そうとした二人だったが───
「見つけましたよ、お二人とも」
「ひぇ…!」
「はっけーん!え~っと……ユズちゃんにアリスちゃん、だったかな?」
「む…!背後を取られてしまいました!ですが幸運なことに一ターン先制される最悪の事態だけは避けられたようです!ユズ!戦闘準備です!」
怯えるユズと対照的にキリっと表情を引き締めるアリスが凡そ携帯銃としての運用を想定されていない巨大な銃身を振り回し、自身に迫る二人へと銃口を向ける。すると合点が言ったようにアカネが声を漏らした。
「……なるほど、貴方がエレベーターを…」
「?エレベーターを分断しようと言ったのはユズなのでユズの功績です!依頼達成の報酬はユズが受け取るべきです!」
「あ、あああアリスちゃん!?ち、ちちちち違うんです!そ、そうだけどそうじゃなくて!!」
「は……はぁ…!ふぅ……!…追いつい、た…!」
言葉を交わす彼女らの背後、また一人ドローンを引きつれたセミナーの会計が駆け付けた。先の二人と比べて明らかに呼吸を乱し、ストレスからかどこか顔も険しくなっていた。そんな彼女の表情に、再びユズが小さく悲鳴を上げる。
「ひぃい!」
「む、現れましたね!ボスの出現です!」
「だれ、が、ボスよ!……って、アリスちゃん!?なんでここに…!?」
「ユウカ、多少手荒くなるかもしれませんが構いませんね?」
ハンドガンを構えたアカネが目を光らせてユウカに尋ねる。あくまで単なる確認に過ぎず彼女の意思はゆるぎないようで、鋭い視線で二人を睨みつけていた。そんなアカネの言葉に応えるようにユウカが大きく声を張り上げる。
「えぇ!痛い目を見せてあげてちょうだい!」
「了解です。それでは──お掃除を開始いたします」
「ふふ!じゃ、やろっか!二人とも!」
アスナも同様に銃を構え、更にユウカの背後から多くのドローンが増援に現れる。その圧巻の光景に戸惑ったユズが先輩であるという立場も忘れ、アリスに声をかけていた。
「ど、どどどどどうしよう!アリスちゃん!?」
「…………」
目の前の光景とユズの不安を煽るような声色に───しかし一切の動揺も見られないアリス。
一瞬目を閉じ考え込んだ彼女が───カッと目を見開き、光の剣を地面に突きさした。
「あ、アリスちゃん!?何を──「ユズ!!」
「衝撃に備えてください!!」
ユズに対する警告は同様に敵への牽制にもなり、少し身構えたメイド部の二人がいったい何をと足を止めた刹那───レールガンが光り輝き、嫌な予感を覚えたアカネがすぐさまユウカの下へと駆けつけた。
「ッ、ユウカ!身を屈めてください!」
「え!?な、何!?」
「───光よ!!」
次の瞬間────皆の視界が、白く染まった。
ご清覧ありがとうございます!
鏡奪還が長くなってしまい申し訳ありません……次回で鏡奪還は終わってやっとこさゲーム開発に進んでいくと思いますので今しばらくお待ちいただければ…
それではまた次回
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