Hashirama Archive   作:アテナ18号

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パーティプレイ

 

 

 

────特に、惹かれない。

 

 

 興味がないとのたまいつつも、遠目に柱間とアロナのゲームプレイ画面を遠目に眺めていた彼女が抱いた感想がソレだった。あまりにも突飛な展開、斬新すぎるゲームシステム、理不尽な即死トラップ、酷評される理由がこれでもかと盛り込まれた内容に、何故こんなものに王女は惹かれたのかと半ば困惑すら覚えつつも、しかしやはり二人の輪の中に混ざってコントローラーに手を伸ばしたいかと彼女が聞かれれば答えはNOだろう。視界の先で一喜一憂しながら楽しそうにゲームを進める二人を蔑むような瞳で見つめていた。

 

 

───そんな彼女が初めて焚きつけられたのは、ゲーム開始から小一時間ほどたった時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 「どうしようかノォ」

 「防具はさっき拾いましたし、攻撃力を上げておいた方が良いんじゃないですか?」

 

 

 「……………」

 

 柱間とアロナがゲームを始めて暫く。

 

 二人が世間でクソゲー呼ばわりされてるソレに特に不快感も示さず順調に進めることができているのは、単に二人の性格が由来しているのもあるかもしれないが、特に柱間に関してはゲームに対する経験値が少ないのも理由としてあるのだろう。

 

 「金がちと足りんなぁ…何か売るか」

 「ですね!先生のプレイスタイルなら聖水は売っても構わないんじゃないですか?」

 「そうさな。となると…」

 

 そんな彼らは今現在何をしているのかと言うと、装備の新調である。柱間にとって初めてのRPGということもありレトロゲームにしてはチンタラした進捗の中、遭遇した敵全てと戦う逃げるコマンド禁止の忍者とは思えないストロングスタイルの彼が中々に潤ってきた懐と店に並ぶ無数の武器防具と交互に睨めっこしながら何を買うかを吟味していた。

 

 そんな折、

 

 「……………」

 

 何故か不快そうに二人の後方、部屋の隅からゲーム画面を眺めるケイ。

 

 特段二人が無理にケイをゲームに誘ったり、チラチラと様子を窺ったりしたわけではない。柱間とアロナは至って普通にTSCにのめり込んでいただけではある。だけではあるのだが、ケイにとって苛立ちを覚えることが一つ。

 

 「うぅむ……亜鉛の剣は無理か、竹やりで我慢ぞ」

 「またお金が貯まったら買いましょう!」

 

 

───足りるだろ、お金。

 

 「…………」

 

 心の中で呟くケイが、眉間に皺を寄せる。

 名もなき神々の王女の覚醒を促し、彼女の戴冠する王座を継ぐ鍵であるケイは言わずもがな現代の技術力に置いてミレニアムの全知すらをも遥かに凌駕するAIであるのだが、であれば人間にとって複雑な演算など意識せずとも片手間に済ませてしまうほどにオーバースペックであることは間違いない。

 

 ともすれば、柱間とアロナが画面と睨み合いながら購入や売却を行なっているわけだが、即座に変わる画面を見ながらその全ての品と買値、売値を暗記して効率良く売買することなど造作もない。そもそも、現在の柱間の購入はケイほどに頭が回らなくても、RPGに不慣れな人間のしてしまう凡ミスといった所だろう。

 

 「……あ!しまった!そもそもお古は必要ないのだから売れば良かったのか!」

 「し、失念してました〜!」

 

 「………」

 

 案の定、新しい武器を買って装備しようとした所、行き場を失った元の装備が手元に余り、ケイの予測した通りになってしまっていた。無名の司祭達が残したオーパーツである自身の目の前で、何とも雑な計算を見せつけられた彼女に苛立ちが募るが、彼女が今更コントローラーを手にすることはない。ただただもどかしさが募るだけである。

 

 「ちょっとお金が余っちゃいましたね……何か買いますか?」

 「そうさなぁ……」

 

 「(…………まさか)」

 

 落ち込んでいても仕方がないと気を取りなおす二人が、お古の剣を売って得たお金で少し潤った財布を眺め、どうせなら追加で何か買おうと再度商品を眺めていた。と言っても残金はそう多くはなく、比較的安めの頭防具を眺めていたのだが────嫌な予感を覚えるケイ。

 

 そんな彼女の予想は─────悲しいことに的中してしまう。

 

 「……あ!しまった!またやってしまった!」

 「か、買い物にばっかり頭がいってすっかり忘れてました!」

 

 「──────」

 

────また新たに二人の手元にできてしまった使わないお古の兜。

 

 あまりの二人のバカさ加減に絶句し、ピクピクと眉を動かすケイが────ピキッと、深い青筋を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………なんか、さっきもココを通った気がするの」

 「十字路ばっかりで、迷っちゃいそうです……」

 

 

───迷っちゃいそう、じゃなくて迷ってるだろ。

 

 「……………」

 

 また暫くして。

 

 一番目のボスを倒し二番目のボスへの道中のダンジョンで足踏みする柱間とアロナ。当然ながら薬草やMPは有限で前述した通り消耗の激しいプレイングスタイルも合わさって、ボスにたどり着く前に死屍累々のパーティが単純なループギミックの森に惑わされ同じ景色を何度も何度も繰り返していた。ともすればノーヒントでこのループを抜け出せというわけもなく───このゲームに関してはそんな理不尽要素があってもおかしくはないのだが───十字路の内、黄色の蝶が飛んでいる道を行けば良いと言う単純なものなのだが、

 

 「……お!景色が変わったぞ!」

 「よく分かりませんけど進んだみたいですね!」

 

 「…………」

 

 テキトーに何度も何度もしらみ潰しに歩を進めていた所、景色が変わる。かと言って十字路が丁字路に変わっただけではギミックに変化はない。四択が三択になっただけまだ完全パチンコスタイルの柱間からすれば随分と正解の確率が上がったものだが、当の本人とその彼を支える自称スーパーAI、アロナちゃんは能天気も良いところで、そろそろボスに辿り着かなければリソースが危ういという状況で呑気に道を選んでいた。

 

 「アロナよ、どっちが良いとかあるか?」

 「え〜っと、そうですね……」

 

 「…………」

 

 何故かプレイしている柱間よりも緊張しながらアロナの回答を待つケイ。冷静に考えればこのシッテムの箱のメインOSを担当しているならば、その力は───認めたくないが───少なくとも、自身と同等のスペックは有する。ならばこの程度のギミックにも気づかないのもそうだし、先ほどのクソ雑売買も不可解極まりないのだが、それでも画面の中のキャラクターの命運は、目の前のポンコツAIに委ねられてしまったらしい。固唾を飲んで彼女の回答を見守っていると───

 

 

 「う〜ん……上にしましょう!さっきは下だったので!」

 「そうか、ならばそうしよう」

 

 「(………ほ)」

 

───無意識に、心の内で安堵の息を吐く。

 

 既に柱間とアロナに対する好感度は地の底であることに変わりはない。自身をシッテムの箱内に拘束し、あまつさえ余計な交友を押し付けてくる。アロナに至っては世話をしている、という自分に酔っているのか、何度も何度も懲りずに笑顔で話しかけてくる様子。ケイからすれば傍迷惑この上ないだろう。

 

 そんなケイの、アロナを見る目が今の選択によってコンマ一ミリ程度上方修正された。アロナの指示を受け柱間がコントローラーを動かし画面上に向かって歩いていく主人公達。その光景を視界に収めて安心していたケイだったが───現実は非情である。

 

 「……待ってください!やっぱり下に行きましょう!同じ方向ではないと見せかけての引っ掛けな気がしてきました!」

 「下か?」

 「はい!」

 

 

 「──────」

 

───言葉を失ったケイが、心の中で呟いた。

 

 

 クソバカドアホポンコツAI。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、ケイの心をつき動かしたのはTSCではない。

 

 上記から分かる通り、柱間とアロナのあり得ないほどに雑なゲームのプレイングであった。

 

 例えば、味方のHP残量に関わらず脳死で全回復を使い無駄にMPを浪費したり。

 例えば、適当に装飾品を付け替えるせいで素早さの順序が逆転し、バフを入れる前にアタッカーが敵を殴ってしまったり。

 例えば、耐性を比較するとどう考えても前の防具の方が優秀なのに、防御力が5高いという小学生みたいな理由で無耐性の鉄装備をつけてみたり。

 

 正直、個人で遊ぶ分には特に誰も気にしない健全なプレイングであることに違いはないのだが────ケイにとってはそうではなかった。

 

 こうすれば綺麗に収まる、ああすれば有利に事が運ぶ。優秀な頭脳を持つ彼女は瞬時にそのゲームの特性を眺めているだけで把握し、エアプであるというのに目の前の二人よりもTSCのゲームシステムに対する理解が深かったのだ。

 

 だからこそ、苛立ちが止まらない。わざとやっているのではないかと思うほどに下手くそなゲームプレイに歯軋りを覚えるほどに怒りが込み上げていたのだった。

 

 それでも我慢して、彼女は眺め続ける。

 自身の中の、ゲームに対する葛藤を認めたくないかの如く、無心になるよう努めて────その行為自体が、彼女の存在とその意義からして異常である事を薄らと理解しながら、その事実からも目を背けて。

 

 

 

 

────だからだろう。

 彼女が爆発してしまったのも、そういったフラストレーションの蓄積が原因かもしれない。

 

 

 はたまた────彼女も単に、TSCに惹かれただけの一生徒であったのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 「うぅむ、どうしたもんかのぉ」

 「どれも高いですね…」

 

 

 「………」

 

 まだ冒険も序盤を抜け切らず、未だ二人旅が続く寂しげな勇者パーティが再度武具屋で商品を眺めていた。次の、いかにも炎属性の敵が出るという火山に備え装備の新調を図る二人が、それでも装備を全て一新というわけにもいかないのが実情である。うんうんと悩みながら────そして、背後からの冷たい視線に気づかないままカーソルを動かしていた。

 

 「……よし!これにするか!」

 「おお!思い切りが良いですね!先生!」

 

 そう言って柱間が選んだのは、アロナの言葉にもあるように思い切りの良さを表したような、その店で一番高価な鎧である。特に何か考えたわけでもなく、「長い間防具も変えてなかったしここで奮発するのもありか」程度に選んだソレにカーソルを合わせる。後は決定を押せばいつものように購入が終わる────

 

 

 

 

────その、はずだった。

 

 

 

 「…………」

 「……ん?お!ケイ!どうした?やる気に────「バカなんですか?」──ん、ん?」

 「え、えっと、ケイさん?」

 

 いきなり二人の元まで歩み寄ったかと思えば、開口一番柱間を罵倒するケイ。余りにも唐突な言葉にショックを受けるよりも先に困惑して手元が固まってしまう柱間に、命令するかのように言葉を続けるケイ。

 

 「一つ前の街へ戻りなさい」

 「え、いや…なぜ──「早くしなさい」──あ、あぁ…」

 

 「け、ケイさん?どうしたんです──「黙っていなさい、バカAI」ば、ばか!?」

 

 強い命令口調のケイに逆らえず、縮こまりながら彼女の指示に従って一つ前の街へと呪文で飛ぶ柱間。地獄のような空気に耐えかねたのか、アロナがケイに話しかけるがついでのように罵倒され、アロナも涙目になりノックダウンしていた。

 

 「着いたが…」

 「ここで兜と胴体を買いなさい」

 「え、なんで───「早くしなさい」─う、うむ…」

 

 有無を言わさぬ発言に、肩身の狭い思いをしながら言われるがままに店に入って店主に話しかける。当然というべきかさっきの店よりも随分と型落ちで、防御力も劣るコレらを安上がりとは言え何故買う必要があるのかと悩んでいた所、ソレを見越してからケイが口を開いた。

 

 「装備の説明も貴方は読めないのですか」

 「ぬ?……あ!なるほどな!よく覚えとったの!ケイ!」

 

 指摘されて装備の備考欄を眺め、そこに書かれたフレーバーテキストから炎耐性を匂わせる説明を読んでようやっとケイの意図を理解した柱間が彼女を褒めるが、返ってくるのは相も変わらず罵倒である。

 

 「この程度のことも思いつかない貴方の頭が不出来なんですよ。仮にも他人に教鞭を垂れる人間がこの程度のことも思いつかず、金銭の扱いも粗雑。ハッキリ言って教員失格でしょう」

 「……面目ないぞ……」

 「わー!そ、そんなことないですから!元気出して下さい!せんせえ!!」

 「貴方もです。シッテムの箱のメインOS、アロナ」

 「え、えぇ!?わ、私もですか!?」

 

 「序盤からずっと思ってましたが、高度なAIにあるまじき凡ミス、まともにHP管理もできず、直ぐにリソースを枯らし知育レベルの低次元なギミックすら解けない。サポートなどと宣って、その実態は適当に相槌を打つだけのボット。恥を知りなさい」

 「う、うわあぁぁあん!!ケイさんがぐれちゃいました!!」

 

 柱間を元気付けようとしたら、何故か巻き添えで自身まで殴られるアロナが励まそうとした柱間共々、隣で涙目になり声を上げる。ゲーム的にはケイの指示で進展したはずなのに、そのコントローラーを握るプレイヤーは肩を落とし、その傍らでは少女が涙ぐみ、その正面では冷たい瞳で二人を見下ろす地獄のような空気感になっていた。

 

 そうして沈黙が場を支配して数秒、気まずい空気の中仕事は終えたと言わんばかりにケイがその場を後にしようとするのだが───そんな彼女を、当然の如く呼び止める柱間。

 

 「っと、ちと待てケイよ。何処へ行く」

 「元の場所に戻るだけです」

 「お前も一緒にやらんか?」

 

 「やりません。貴方達の手腕が余りにも見ていて不快感を覚えるほどに醜かったために口出しをしただけです。勘違いをしないで下さい」

 

 キッパリと言い放つケイ。その言葉に悲しそうにするアロナだが、彼女とは対照的に柱間は笑みを宿したまま言葉を続ける。

 

 「そうか……しかしな、情けない話だがこの後もこういうことをオレは繰り返すだろう」

 「……であれば何です」

 「またもやこういう展開になるかもしれぬ」

 

 「……だから、一緒にゲームを遊び、サポートしろと?」

 

 言わんとすることを理解してケイが視線を鋭くするが、柱間の顔色は変わらない。穏やかな表情で、あくまでゲームの誘いをする態度を崩さずケイに言葉をかけ続ける。

 

 「サポート、と言わずにな。一緒にどうだ?結果的にお前に支えてもらう形になるかもしれないが、お前の苛立ちも少しは軽減されるやもしれぬぞ」

 「…………」

 

 「さ、ケイさん!こちらへどうぞ!」

 

 いつのまにやら、アロナが新たに座布団を用意してパンパンと軽く叩き、ケイに着席を促す。柱間とアロナに挟まれる形となり、随分と居心地が悪そうだったが───一歩ケイが踏み出すと、アロナと柱間が分かりやすく顔色を変えた。

 

 「……勘違いしないように。私は不快な思いをしたくないだけで、このゲーム自体に興味はありません。ゲームに対する積極的な姿勢を期待し、声をかけるなどしないで下さい」

 「あぁ、それで構わぬ。では、冒険の再開と行こうぞ!」

 「はい!三人パーティで出発です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────結論から言うと、ケイは口を開いた。それも自発的に。

 

 それだけ聞くと良いことだろう。付け加えるなら三人の中で最も活発に喋っていたかもしれない。喋ったは喋ったが二人への罵倒ばかりでゲームに関する言及はほとんどない、などと言うこともなく、ゲームの内容に関することばかりを口走っていた。ならば柱間とアロナにとっては僥倖という他ない───

 

 

 

 

────はずなのだが。

 

 「待ちなさい、ここでエンカウントを一旦挟みなさい」

 「ぬ?な、何故だ?回復ポイントで回復したし、さっさとボスに挑んだ方が…」

 「このままだと余計に戦闘を挟んでボスまでに一戦分消費してしまいます。この回復ポイント付近でエンカを消費すれば次のエンカウントまで猶予ができるので、その後回復を経てボスと戦うべきです。そんなことも分からないのですか」

 「う、うむ…分かった」

 

 

 

 

 「先生!ここは防御を──」

 「いいえ、殴って構いません」

 「えぇ!?HPギリギリですよ!?一旦防御しながら回復した方が───」

 「このボスはローテ行動になっています」

 「ろーてこうどう?」

 「ローテーション、決まった行動を周期的に繰り返すということです。先ほど凍える波動を撃ってきたので次はこちらの様子を窺う無駄行動をします。この程度、観察していれば気づける筈です。そんな事も分からないとは、随分と低次元なAIですね」

 「そ、そんなに言われるほどアロナちゃん悪いことしましたか!?」

 

 

 

 

 「やっと手に入れたぞ!では早速…」

 「いりません、元の武器のままで良いです」

 「え?い、いやしかし伝説の剣ぞ?攻撃力も……」

 「攻撃力だけです。道具として使った時の効果も弱いしそれ以外の付帯効果はありません。それなら今まで使って来た煉獄剣の方が追加ダメージ効果も含めるとダメージ期待値が高いです」

 「でも、伝説の剣ですよ?雰囲気も見た目もカッコいいですし…」

 「大事なのはデータです。名前と見てくれに踊らされ武器としての本質を見失うなど言語道断です。その武器は後衛に持たせて、もしもの時の保険として道具使用をするのが関の山です。さっさと主人公のインベントリから外して下さい」

 「あ、あぁ……」

 

 

 

────名もなき神々の王女、そしてその彼女の戴冠する王座を継ぐ鍵であるケイ。

 

 AL-1S───現アリスのことを想いながらも彼女の意思を確認する事なく、ただただ名もなき神々の王女としての覚醒こそが彼女のためだと信じて疑わないある種の傲慢さは、ことゲームの進行においても遺憾無く発揮されてしまった。こうしろああしろ、こうすれば最適解だとゲームの進行を一意に決定してしまい、その自由度を狭める彼女の言葉に、肩身の狭い思いをする柱間とアロナ。そんな彼らには目もくれず、ケイは変わらず指示を出し続ける。彼らの司令塔としてではない、自身が不快にならないために。

 

 

 

 ケイは、指示厨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーっと、ここは……」

 

 依然変わらず、ケイの指示に従いつつ冒険を進める柱間とアロナの二人。最初こそ反論していたものの、質の悪いことにケイの指示は実に的確で確かに彼女の言う通りに進めれば中々に冒険が上手く行くのだ。勿論全てが全て彼女の指示というわけではなく野良のバトルでの細かい選択などには口を出さない。と言っても何か言いたそうに表情を歪めはするのだが。そんなわけで、息苦しさを覚えてもゲームの結果がケイは正しいと伝えてくるため、返す言葉がないのである。

 

 

────ただ、そんな永遠に続くかと思えたケイの絶対王政も───TSCによって、呆気なく終わりを迎えた。

 

 「祝福の錫杖を使いなさい」

 「…これか?」

 

 冒険の中盤から終盤にかけて、とある塔の最上階にて、台座の上で天に道具を掲げ神に祈れと老人に言われる主人公一行。失敗すると天罰を喰らうと言われ、本来ならアイテム欄と睨めっこをしながらどれだどれだと頭を抱える場面なのだろうが、もう既に分かっていたようにケイが口を開き、特段反論もしない柱間が言葉通りにアイテムを取り出し、主人公に使用させる。すると空が黒く染まりイベントシーンのようなものが始まり、やはりケイの思惑通りに話が進んだ───

 

 

 

────ように、見えたのだが。

 

 「……あれ?なんかおかしくないですか?」

 「ん?」

 

 「は?そんなわけが────」

 

 

 

 

 『神を愚弄するカア!』

 

 

 

 「は?え、え、え?」

 

 

 「……最下層まで落ちましたね」

 「落ちたのォ……」

 

 「───な、なんで……!?」

 

 

────画面に、謎のテキストが現れたかと思えば台座の床が開いて落下していく主人公達。そのまま人生ゲームのゴール付近のペナルティマスを踏んでしまったかの如く、最下層まで真っ逆さまに落ちていき、スタート地点まで戻されてしまった。その事実に柱間とアロナは端的に感想を述べ────ケイは、理解ができないといった顔で目を見開いていた。

 

 

 「ふっふっふ〜……ケイちゃん、失敗しちゃいましたね〜!」

 「黙ってなさいッ!自分が正解を出したわけでもないくせに他人のミスをあざわらう、最低なAIですねッ!」

 「さ、最低!?」

 「そもそも何ですか?そのちゃん付けは。私がミスをしたからといきなり上から目線ですか。実に不愉快で気持ちが悪いです。腐った性根が窺えますね」

 「うわあぁぁあああん!!そんなに言わなくてもいいじゃないですか〜!!」

 

 「ちょ、落ち着かぬか!二人とも!!」

 

 初めて見せたケイの表情に、チャンスとばかりにこれ見よがしに少し煽るような口調で話しかけたら、その万倍のカウンターパンチを食らったアロナが涙を流す。そんな二人を柱間が、一旦床にコントローラーを置いて宥めていた。

 

 「……なるほど、分かりました」

 「ぬ?分かった?」

 

 「えぇ、このゲームの制作者の捻くれた性格と解答が。次は間違えません」

 

 ふぅと息を吐いて怒りを抑えるように拳を握るケイが少し考え込んだ後に、答えが分かったと口走る。ここまでの短い付き合いでケイの言葉が当てずっぽうでもなく彼女の中にちゃんとした理論があることは柱間も理解しており、彼女の言葉を信じて再び数十分時間をかけ───再度、何とか塔の最上階に辿り着いた勇者一行。

 

 「それでケイよ、さっき言っとった解答だが…」

 「白銀の燭台を使ってください」

 「燭台?……コイツを、か?何故だ?」

 

 「序盤でソレはゴーストを払うために使われましたが、その際西洋地方では炎の神を崇めており、その燭台は神を崇める儀式で用いた道具の流れ物、との説明がありました。ここは南の地域ですがこの塔で崇められている神は先ほどの炎の神の信仰宗教から派生したもののはずで本質的には西と同じ神を信仰しているとの話でした。なのでその燭台が最適なはずです」

 

 「…なるほど、確かにソレらしいの」

 「それ以外に大事なもの欄に適した道具はありません。それ以外あり得ません」

 

 特大のフラグを立てて、柱間を急かすケイ。

 一度失敗したにもかかわらずよっぽどの自信があるのかいつもの鉄仮面に戻ったケイがジッと画面を見つめると、先ほどと同じようなムービーが流れ空が暗くなり────

 

 

 

 

 

 

 

 「───な、なん、なん、で……!?」

 

 「落ちたな…」

 「落ちましたね……」

 

 

───ケイは見事、フラグを回収するのだった。

 

 「あり得ませんッ!もう他に該当するアイテムはないはずですッ!それ以外にさっきの神と結びつける道具はないはずです!」

 「お、落ち着いて下さいケイちゃん!でも……確かに他に思い当たるものがありませんね……先生はどうですか?」

 

 

 「……ちと、一つ試したい道具があるの」

 

 そう言うと、アロナはおお!と呟き、ケイは何も期待せずフンと鼻を鳴らすだけ。

 

 「そんなもの、あるわけないでしょう。ただの当てずっぽうではないのですか」

 「まぁ…結構当てずっぽうかもしれんが…何となくこれだという確信があっての。次試しても良いか?」

 

 「ふん、勝手にしたらどうです。どうせ当たるわけがないでしょう」

 

 ケイが見下したような言葉を柱間に返すが、それに対して特に不快感も示さず、また特にめげる様子も見せずに3回目の登頂を開始する柱間。流石に3回目ともなれば柱間でも複雑なマップを覚え、もはや若干悪夢と化して来た頂上からの絶景が画面に映る。そして台座に登り、柱間が選んだ武器にアロナは驚きの声を、ケイは侮蔑と呆れが混ざった視線を柱間に向けた。

 

 次の瞬間、先ほどと同様にイベントムービーが始まり、空が暗く曇り始め────

 

 

 

 

 『ククク、おもしろい!我がもとまで来るが良い!』

 

 

 

 

────塔の頂上から空に向けて、光の橋が現れた。

 

 

 「はぁ!?」

 「す、凄いです先生!!」

 

 「ハッハッハ!やっぱりの!」

 

 成功に終わったらしい柱間の選択に、素直な賞賛を贈るアロナと理解を拒むケイ。矢継ぎ早に言葉を飛ばすのはやはり納得がいかないケイの方で、今日一番と思えるほどに大きな声で柱間に怒鳴り散らした。

 

 「理解できませんッ!おかしいですッ!不可解ですッ!何故────

 

 

 

───何故ッ、神へ祈りを捧げるのに、『ゴッドスレイヤー』を掲げてるんですかッ!喧嘩を売ってるんですか!?それにただの店売り品じゃないですかソレ!?」

 

 「いやなに、ソレがモモイらしいと思ってな」

 

 ケイの怒号に、何でもないような態度で言葉を返す柱間。彼女の指摘通り、ソレはストーリー中に手に入れた大事な品でも何でもない、ただの店売りの武器。しかも名前が名前だ、フレーバーテキストにもガッツリ神殺しと書いており、普通に考えれば神への祈りで掲げる道具ではないだろう。ただ、シナリオ制作者がモモイで、これはTSCである、という視点がケイには足りなかった。そこが柱間との決定的な違いだろう。

 

 「ももい、と言うと…」

 「このゲームの制作者の一人だな。しなりおらいたー、とやらをやっておるらしい。どうせアイツのことぞ、深くは考えずゴッドという単語だけでこの武器を連想したのだろう」

 「そ、そんなバカなことがあるわけッ!!」

 

 

────神、神ねぇ……あ、直前の街でソレっぽい武器売ってるじゃん。プレイヤーも手に入れやすいしこれで良いでしょ。

 

 

────えぇ、武器の名前神殺しだよ、誰も分からないんじゃ……

 

 

───だから良いんじゃん!引っ掛けにもなって!

 

 

 案の定、柱間の予想は当たっていた。似たような光景を、頭の中で想像できた柱間の勝ちと言ったところだろう。別に対戦ゲームでも何でもなく、競う必要はないのだが────ソレでもニヤつく柱間と、納得いかないように眉間に皺を寄せるケイ。柱間が指を一本立ててケイに声をかけた。

 

 

 「ふふ、ケイよ」

 「ッ、な、何ですか…!」

 

 

 「99敗────1勝、と言った所だな!」

 「ッ、たった一回で随分な喜びようですね…」

 「あぁ!なんせケイに勝てたのだからな!大きな一勝ぞ!」

 「流石です!先生!どうですかケイさん!先生の実力は!」

 

 完全に虎の威を借る狐と化したアロナが、自分のことのように柱間を自慢してフンスと鼻を鳴らす。その二人の姿にケイが歯軋りを行った後───短く一言。

 

 

 

 「───く、クソゲーッ!クソゲーですッ!!」

 

 

 

 

 

────彼女の冒険は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ソレではまた次回

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