Hashirama Archive   作:アテナ18号

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吐き気を催す綺麗事

 

 「これで全部ですかね!お疲れ様でした、皆さん!こちら、お飲み物をお持ちしましたよ〜」

 「あ、ありがとうございます!ノノミ先輩!」

 

 トラックの荷台に積んであった補給物資を全て運び終え、伽藍堂であった室内に山ほど積まれた物資の数々を視界に入れてホクホク顔のアビドス生達。何度も外と中を往復して一汗かいたがその苦労すらも心地よく感じられるほどの量で、やはりシャーレには頭が上がらないようである。皆が腰を下ろして休憩しつつ、今後のことについて話し合う。

 

 「取り敢えず当面はこれで何とかなるとして……かと言ってシャーレとしても貴方達にずっと補給を送れるわけじゃないわ。いやまぁ、ハシラマ先生ならやりかねないけど……流石に先生の財源も無限っていうわけじゃないからね」

 「は、はい!それは勿論!」

 「早いところ根本を絶たないといけませんね〜……」

 「っていうと、やっぱりアイツらのアジトを襲うってこと?」

 「まぁ、それが現実的じゃないかしら。問題はタイミングだけど……あら?」

 

 四人が机に座って向かい合い話をしていると、廊下から足音と声がする。たったったと勢いよく駆けるような足音に続いて、なすがままソレに引っ張られるように不安定な足取りを思わせるような音が続いていた。

 

 「ん!ホシノ先輩連れてきた……?」

 「うへぇ、家まで来るのは強引すぎるよぉ、シロコちゃん……ありゃ?誰?」

 

 勢い良く扉を開けたシロコが室内を見渡して見覚えのない顔を見つけて首を傾げる。続いて彼女に引っ張られるように入室した桃色の髪の少女も、シロコと同様に首を傾げて疑問を口にした。

 

 「あ、貴方達がシロコさんとホシノさんね。えっと、私は──」

 「……もしかして、入学希望者?」

 「え、ちが──」

 「うへぇ、本当?シロコちゃん。こんな可愛い後輩が一人増えるなんて、おじさん感激だなぁ〜」

 「いや、違うって言ってるでしょ!というか可愛いのは貴方──」

 「へ?」

 「あ、いや…………こ、こほん!」

 

 まぁ新入生なわけがないことは気づいているのだが、様子見も兼ねて見知らぬ生徒に悪ノリするように近づいて、椅子に座る生徒の綺麗な青髪を撫で回すと、当然の如く振り払われるのだが拒絶の手と同時に予想だにしていなかった彼女の失言が漏れ、周囲が一瞬ユウカに視線を向ける。

 

 「えっと、ミレニアム二年生、セミナー会計担当の早瀬ユウカです。今日はこちらのアビドス高校の支援要請を受け、シャーレ部員として来ました」

 「ん、シャーレ部員。ということは要請通ったんだ、アヤネ」

 「あ、はい!こんなに沢山補給物資をいただきまして…!」

 「うひゃあ〜!こりゃまた大荷物だねぇ。こんなに貰っちゃって、頭が上がんないや」

 「気にしないで下さい。シャーレは生徒の支援を目的とした法規的機関ですので。勿論無期限の供給は叶いませんが、この程度なら差し当たって問題ないでしょう」

 「今日来たのは貴方だけ?てっきり……先生、とかいう人が来ると思ったんだけど」

 「勿論先生も来てるわよ。今は席を外してるけど…」

 「ありゃ、そーなの?」

 

 ホシノの言葉に肯定するようにえぇと呟いた後、窓の外を眺める。モノを運んでいる最中、最後の荷物を持ち上げたユウカに対して彼が放った一言というのが、単にこの校舎を少し見て回るとのことだった。それなら後で休憩した後アビドスの人達に案内を頼めば良いと言ったが物資の運搬で疲弊している三人に気を遣わせたくないと言って聞かず、こちらの制止も振り切り妙に強情な態度で何処かへ消えてしまったのだ。事の経緯を一通り話すと興味があるのかないのか分からない適当な返事を返すホシノ。

 

 「ふ〜ん、見て回ったところで面白いモノなんか無いと思うけどねぇ」

 「ちょ、そんなことないって!何かあるでしょ!」

 「あ!私分かりました!」

 「えっと……ノノミ先輩?分かったって、何がですか?」

 「先生の目的地です!更衣室ですよ!」

 「はぁ!?」

 

 ノノミがいきなり変なことを口走り、理解を拒むセリカが驚いたように声を荒げるがニコニコと満面の笑みを浮かべる彼女には一ミリもその悲鳴が響いていないようで、セリカに続いてユウカも彼女を咎めようと試みるが無駄な足掻きであることには変わりなく彼女は言葉を続けた。

 

 「ちょ、何言ってるのよ!」

 「先生も男性ですから、乙女の誘惑には耐えられなかったのでしょう!アヤネちゃんとセリカちゃんのことを可愛いと申されていましたし、狙いは二人でしょうね〜!」

 「し、失礼ですよ!ノノミ先輩!」

 「ていうか、先生は可愛いとか言ってないでしょ!言ったのはノノミ先輩でしょ!!」

 「いやぁ〜罪な女だねぇ、アヤネちゃんとセリカちゃんは」

 「ん、白昼堂々更衣室に押し入る……凄い度胸」

 「ホシノ先輩も、悪ノリしないで下さい!!」

 「シロコ先輩に至っては何変なところに感心してるの!そもそもハシラマ先生が更衣室に行ってるわけないでしょ!」

 

 「……はぁ、先生、早く帰ってきてください……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「他のバイト?無理無理!私たち学生証持ってないもん!雇って貰えないって!」

 「だから、数合わせの傭兵バイトくらいしかやることないんだよねーウチら」

 「アタイもおんなじ感じー」

 

 「…なるほどのぉ。聞いた通りぞ」

 

 目の前で満足そうに、飯にありつきながら悲痛な現状を語る三人の少女。しかし彼女らの表情は至って平穏で、それは今の生活に慣れきっているのか感覚が麻痺しているのか───はたまた諦めか。もしくはその全てかもしれない。

 

 「んで、結局おっさん何者なの?」

 「オレか?オレはシャーレの先生をやっておる千手柱間ぞ!」

 「しゃーれの……しゃーれって何?」

 「さあ?リーダーが何か言ってたような気はするけど……」

 「まぁ先生なんだし、アタイらに教鞭垂れに来たんじゃね?」

 「そーなの?先生」

 「なに、可愛い生徒から目が離せぬだけよ」

 「え、きも。いきなり可愛いとか何言ってんの?」

 「ウチは先生のこと好きだぜ!飯食わせてくれたし!」

 「現金なやつだなぁ、まぁアタイもだけど」

 「ハッハッハ!どんな理由であれ生徒から好かれて喜ばぬ先生はおらぬ!嬉しいぞ!」

 

 いつもは閑散とする廃墟の一角に笑い声がこだまする。毎日毎日同じ事の繰り返しで大凡生き甲斐と呼べるモノのない彼女らにとって突如として現れた大人は味気ない日常における良いスパイスとなったようで久方ぶりに純粋な気持ちで会話に花を咲かせていた。

 

 「てか、なんで私らが生徒なの?私たち、そのシャーレとかいう学校通ってないけど」

 「あぁ、シャーレというのは学校名ではなくてオレの担当する部活の名前ぞ。キヴォトスにおる、助けを求める生徒に手を差し伸べるためのな」

 「へぇー、吐き気がするほど綺麗事言うじゃん」

 「まぁいいじゃん。その綺麗事を夢見る馬鹿な大人のおかげでウチら良い飯食えたんだから」

 「確かにー、綺麗事も捨てたもんじゃねーかも。サンキューな、先生」

 「なに、気にするな。オレがやりたくてやっとるだけぞ」

 

 彼女らと会話をして思うのは、やはり良識の欠如。今まで見てきたあらゆる生徒は年相応に知性から来る品格を持っていたが、彼女らにはそれがない。どこか現実を意識し子供の特権である夢を捨て、擦れている様子が見てとれる。

 

 「そんなことしててつまらなくねーの?」

 「つまらないものか!今日こうしてお前達に出会えただけでも大きな収穫ぞ!オレのような老いぼれには新たな生徒との交流が楽しくて仕方なくてのぉ!」

 「あっそ〜。楽しそーでいいな、先生は」

 「逆に、お前達はつまらぬか?今こうして、どこの馬の骨ともしれぬ、初対面の大人と話しておるこの時間が」

 「当たり前じゃん、せんせーならなんか為になる話してよ。つまんねー」

 「ふむ……そうさなぁ…為になる話か。ちょい待てよ………」

 

 為になる話と言われてなるほど確かにと考え込む柱間。勝手に先生を名乗ってはいるが本来教師とは道を教え説くのはそうだが基本的に教卓で教鞭をとっているモノだろう。ともすればオレは今彼女らにとって不審者の域を出ておらず、彼女らの言う通り何か話をするべきだろう。そんなことを考えながら、今し方食事を終えた彼の手には割り箸が握られていた。

 

 「ま、どうせんな話できないし──」

 「……うむ、ではまず」

 「──期待もしてねーけど、な!……あれ?」

 

 床に飲み干した空き缶を立てて、それを蹴り飛ばすカタカタヘルメット団の一員。小気味良い音を立てて宙をクルクルと舞うアルミ製の円筒が、崩落し吹き抜けとなった壁を通り抜け大通りまで飛んで行こうとして───フッと、唐突に視界から消え去る。アレ?と気の抜けた声を上げたのは蹴り飛ばした本人だけでなく取り巻きの二人も同じなようで、辺りをキョロキョロと見渡し───またしても、気の抜けた声を上げる。

 

 「…え?」

 「は?何アレ?」

 「……割り箸?」

 

 視線の先では、割り箸が壁に突き刺さり、それにぶら下がるようにしてアルミ缶がプランプランと左右に揺れていた。飲料缶に付いたタブの穴、本来であれば飲み口を作る為に空いた指を引っ掛けるための小さな穴に、器用に細い木の棒を通す神業。驚愕よりも困惑が先におとずれ口を開けたまま固まる三人が、一体何が起こったのか理解しようとして、ふとそういえばこの不思議な現象に一切動じず顔を向けることすらない男がいることに気づき、ソイツの顔を拝むため振り返ると───何かを投げたように、手をアルミ缶の方へと向けていた。

 

 「……オレの前職───忍の話をするとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どこ行ってたんですか!?遅すぎですよ!!」

 「いやぁ!すまぬな!やはり学び舎というのは何度見ても飽きぬモノぞ!つい目移りしてしまっての!」

 「ほら見なさいよ!やっぱり見て回るところあったじゃないの!」

 「いやぁ〜、先生もモノ好きだねぇ〜」

 

 シロコとホシノが到着して小一時間、ユウカとの仲もそれなりに深まるくらいの時間をもってしてもどうやら柱間は現れなかったようで、彼抜きで色々話を進めていたところ、忘れた頃にひょこっと彼が教室まで帰ってきて姿を現す。そんな彼に当然と言うべきかユウカは怒声を上げるが、そんな彼女を笑顔で受け流し見知らぬ顔の二人へと視線を向ける。

 

 「…で、お前達がシロコとホシノぞ?」

 「ん、砂狼シロコ。よろしく、ハシラマ先生」

 「そだよ〜。よろしくねぇ、先生」

 「うむ!よろしく頼む!……で、話の腰を折ってすまぬが、今は何の話をしておったのだ?」

 「今はカタカタヘルメット団の前哨基地襲撃の計画を立てていた所です。シャーレからの補給を受け物資が潤沢に揃っている今こそ攻勢に出るべきか、と。ホシノ先輩の意見ですが」

 「ふむ……詳しく聞いても良いか?」

 「あ、はい!」

 

 挨拶もそこそこに腰を下ろし話を聞く体勢に入る柱間。と言っても身構えるほどのことでもなく話は至って単純、最近のサイクルからしてあと二日後にはまた攻勢に出てくるであろうカタカタヘルメット団に対して、迎撃し物資が底をついたタイミングで今度はこっちが打って出ようという話だった。今までは補給もカツカツで防戦一方だったがシャーレの支援があればそこも問題ない為、根元を断つには絶好の機会だという話だ。

 

 「……なるほどの」

 「今のところその予定で考えていますが……ハシラマ先生からは何かありますか?」

 

 

 「──そうさな、ちと時間をくれぬか?」

 「時間、ですか?」

 「あぁ」

 「…ハシラマ先生は、この作戦に納得してないの?」

 「……まぁ、そうだの。誤魔化しても仕方ないし、誤魔化すことでもないか。───あぁ、納得はしておらぬ、理解はするがな」

 「な、なんでよ!暴力組織を何とかしないとって先生も言ってたじゃない!」

 「あぁ。そこは変わっておらぬ。このままではアビドスは疲弊する一方ぞ。カタカタヘルメット団の対処が最優先であることに変わりはない」

 「───じゃあ、先生はどうするつもりなの?」

 

 先ほどまでのおちゃらけた様子とは打って変わって、どこか距離感を測るような少し圧力を感じせる声色でホシノが柱間に尋ねる。寝ぼけているかのように細めてある瞳を少しだけ開いて、チラリと横目で柱間を見つめるが、ソレにさして動じる様子もなく堂々と答えるのであった。

 

 「オレが、話をつけよう」

 「話をつける……ですか?」

 「はぁ!?何甘っちょろいこと言ってるのよ!コッチはもう補給も弾薬も限界だって言ってるでしょ!?」

 「あぁ、だからオレが彼らを説得するまでの間、お前達に負担させる弾薬や補給の全てをオレで賄おうぞ。余計な世話をかけるのだ、追加で報酬も支払う。勿論、オレの財源も無限ではない。いつか底を尽きるだろうが………頼む!それまでの間だけで良い!オレに任せてはくれぬか!?」

 「せ、先生!頭を上げて下さい!そこまでしていただかなくても───「うるさい!!」ッ、せ、セリカちゃん!」

 

 ダンと重い音を立てて額をテーブルに擦り付ける柱間。彼はアビドス高校の生徒達の気持ちが分からないわけではない。私利私欲の為に母校を追われ、恨みや怒りの募らせいざ敵を討つと言ったタイミングで外野が待ったをかけてきたのだ。憤るのも仕方のないことだろう。

 

 「こっちは校舎も所々被害受けて虫の居所が収まらないのよ!そんな甘い事言って、馬鹿じゃないの!?」

 「せ、セリカちゃん!落ち着いて!」

 「アヤネちゃんもそうでしょ!?カタカタヘルメット団の奴らに話しつけてくるって、本気で信じてるの!?」

 「そ、それは……」

 「ん、確かに納得いかない」

 「し、シロコ先輩!?」

 「ほら──「先生、なんでそこまでするの?」……ホシノ先輩?」

 

 顔を上げる事のない柱間が、セリカの罵詈雑言をグッと堪えて、ピクリとも動かないまま頭を下げ続ける。その光景に罪悪感を覚えるどころか馬鹿の一つ覚えみたいに頭を下げることしか知らない大人の姿が火に油を注いでしまったようで、更にセリカがヒートアップしかけるが、そんな場を崩すようにホシノが一言呟くと、顔も上げぬまま柱間の声が室内に響き渡る。

 

 「……お前たちの話を聞くまでカタカタヘルメット団とやらの素性を知らずにおった。彼女らがやむなき理由で青春と学びを得られず住むに家無き現状を憂いているのであれば、ソレを見て見ぬ振りをして蹂躙するなど、オレにはできぬ!彼女らが学校にも通えず、職にも就けず、ここを襲うに至った現状はオレたち大人が作り出したモノぞ!責任はオレ達大人にある!!」

 「……先生って、たしかキヴォトス外の人だよね。ここは先生がいた場所とは別の場所だし、先生が責任を感じ──「オレは先生ぞ」

 

 

 「このキヴォトスの生徒達を見捨てるつもりなら、最初から先生を引き受ける必要はなかった。オレが先生になったその時から、全ての生徒を守ってやる義務がオレにはある」

 「……………」

 「頼む!お前達には迷惑をかける!到底受け入れられぬことかもしれぬが、少しばかりで良い!オレに時間をくれ!」

 

 

 

 「……おじさんはいいと思うよ、少しくらいなら」

 「ッ、本当か!」

 「ほ、ホシノ先輩!?なんでよ!?」

 

 ホシノが彼の願いを承諾すると、柱間とセリカが真反対の反応を返す。片やいい歳した大人には不相応な───それでいてどこか惹かれる満面の笑みを、片や理解できないといった雰囲気を隠そうともしない困惑と怒りの混ざった表情でホシノに顔を向ける。

 

 「先生が弾薬や補給はしてくれるって言ってるんだし、おまけに臨時収入も入ってくるんでしょ?お金が必要なのは本当のことだしさ〜。よくよく考えたらアジトまで突入なんて、おじさんにはちょっと重労働かなぁ。もうおじさんこの歳になると体が思うように動かなくてねぇ、うへぇ〜」

 「な、なによそれ!?重労働って、元はホシノ先輩が言い出した作戦じゃない!シロコ先輩は!?」

 「……まだ、完全に納得したわけじゃない」

 「な、なら───「けど」

 

 「ん、分かった。ちょっとなら待つ」

 「な、なんでよ!?納得いってないんでしょ!!」

 

 これ以上はないと思えるほどの笑みに、また一つシロコの言葉を受けて花を咲かせる柱間。反面、仲間を失ったセリカがシロコを問い詰めるがさして動揺する様子もなく、自然体で口走る。

 

 「勿論、先生が良いって言うなら蜂の巣にしてやりたい」

 「ならなんで───」

 「でも、確かに学校が……居場所がないって言うのは………しんどいことだから……カタカタヘルメット団の視点は、考えてなかった」

 

 一瞬、俯くように視線が下に向くシロコ。動揺を周囲に見せつけないほどほんの一瞬だったがそれがしっかりと柱間の目には映っていたようで、彼がシロコの背景や過去をそれとなく察し笑顔から一転、口を閉じ真剣な顔色に変わる。

 

 「ねぇ先生。その子たち、話をつけた後どうするの?」

 「オレのできる範囲で手助けしてやりたい。ただ庇護するだけでなく、学校に通いたいというならその支援は惜しまぬつもりぞ。勿論、他の道を歩むつもりなら、当人と真剣に話し合い決めたいと考えておる。彼女らの今の道が間違っておるなどと傲慢な言葉を吐くつもりもないが……真に子供としての純粋な夢を忘れておるのなら、それを再び目指せるよう支えてやりたいのだ」

 

 「なら、いいよ。その代わり私はホシノ先輩ほど大人じゃない。気が早い方だから私が暴れる前に、なるべく早く助けてあげてね、先生」

 「あぁ!勿論ぞ!誠に恩に着る!シロコよ!!ありがとう!!」

 「いやぁ〜、シロコちゃんがこんなに立派になっておじさんも嬉しい限りだねぇ〜、おーよしよし」

 「ん……!」

 「〜〜ッ、わっけわかんない!!ノノミ先輩は!?アヤネちゃんは!?何か思うところないわけ!?」

 

 先ほどまで自身の味方であったシロコがどんな心境の変化で先生の言葉に絆されたのかは分からないが、ホシノ同様柱間を擁護するような言葉を口にする。その怒りを周囲に振りまくかのように残りの二人にも喚き散らすが、どうやら自分の肩を持つものはいないようであった。

 

 「私は構いませんよ〜?確かに、シロコちゃんの言う通りカタカタヘルメット団の皆さんのことも考えないといけませんね!ラブ&ピースですよ、セリカちゃん!」

 「その、思う所はあるけど、先生に支援してもらってる身だし、話が穏便に終わるならそれに越したことはないから……それに、ずっとって言ってるわけじゃないから、少しくらいなら先生に任せても良いかな、って………」

 「なんなの!?皆アビドスが大切じゃないわけ!?アイツらが自分勝手に攻め込んできて、何も思わないわけ!?」

 「セリカさん、落ち着いて。あなたの気持ちも分かるけど───」

 

 「部外者は引っ込んでてよッ!!」

 

 

 

 「え、あ、その……」

 「───あ、いや、ちが、そういうわけじゃ………!」

 

 瞬間、場が凍り、赤く染まっていたセリカの顔がみるみる色を失っていく。どこか相手が大人だからという意識があったため八つ当たりにも近い強い口調を使ってしまっていたが、今彼女の視線の先にいるのは───申し訳なさそうに、悲しそうに視線を泳がせるミレニアムの生徒。しまったつい、という色を隠せるはずもないセリカが罪悪感を覚え、かと言って今更引き下がれるはずもなく、その場から逃げ出すように言葉を残して去っていった。

 

 「…ッ、わ、私は───認めないから!!」

 「せ、セリカちゃん!私、様子を見てきます!!」

 

 同級生が彼女の後を追うように教室から出ていく。残された者達が悲痛な雰囲気の中周りの人間の様子を窺うようにして、気まずい空気をなんとかしようと口を開く。

 

 「…その、ごめん、なさい。……軽率に、気持ちも分かる、なんて言うべきじゃ……」

 「謝っちゃダメだよ、ユウカちゃん。お世辞でもなく本心なんでしょ?ありがとね、気を遣ってくれて」

 「でも……」

 「そうですよ〜!わざわざ他の学園の方が支援に来てくださって、感謝してるんですから!」

 「………」

 「ん……さっきのはセリカが言いすぎた。あんまり気にしなくて良い。……でも、あんまりセリカのことを悪く思わないでほしい」

 「そ、それは勿論!」

 「……すまぬ、時と場を考えるべきであった」

 「先生も謝らないでよ〜。おじさん二回も同じこと言うの面倒くさいなぁ〜」

 

 ユウカに続いて柱間も申し訳なさそうに表情を歪める。勿論、この話をすれば衝突が起こることは百も承知であった。四人も理解を示してくれたのはむしろ僥倖だろう。だがソレと今自分の行いで生徒を傷つけたこととは話が別で、隣に座る自身を良く支えてくれるミレニアムの生徒が俯いている姿に胸を痛めていた。

 

 「感謝するぞ、ユウカよ。場を収めようとしてくれて」

 「でも、私……」

 「心配するな。お前の、他者を慮る気持ちはシッカリとセリカにも伝わっておるはずぞ。そう気に病むな」

 「………はい」

 「……今日はもう失礼しようかの。すまぬな、ホシノにシロコよ。出会ったばかりというのに碌に言葉も交わせず」

 「大丈夫だよ〜、先生がどういう人かはなんとなく分かっ──「ん、許せない」……し、シロコちゃん?」

 

 「私とホシノ先輩以外とはいっぱい喋ったのに私たちだけ一瞬でお別れは不公平。三人ともずるい。もう少し私たちとも交流を深めるべき」

 「ちょ、ちょっとシロコちゃん?あんまり先生に迷惑かけちゃ……」

 「───ハッハッハ!嬉しいことを言ってくれるの!だが、すまぬな、オレもシャーレの仕事を放置できなくての。また明日来る、その時までしばし待ってはくれぬか?」

 「ん……だったら朝一で学校に来るから先生もなるべく早く来て」

 「うむ、わかった!明日はもっと早く足を運ぼうぞ!」

 

 大口を開けて笑う柱間がシロコの頭に手を置き撫でると、何か変な優越感に浸っているのかノノミとホシノを見つめてフンスと鼻を鳴らし満足そうに頬を赤く染める。そんなやりとりが微笑ましいのか保護者のような暖かい視線でシロコを見つめる二人が、改めて感謝を述べる。

 

 「今日はありがとうね〜、先生も、ユウカちゃんも」

 「ユウカさんは、今日限りでしたっけ?」

 「ん、そうなの?ユウカ」

 「え、えぇ。私はシャーレの当番として付いてきてるだけだから、明日は私は担当じゃないから」

 「……残念、じゃあ……これ、モモトーク」

 「え?」

 「また暇な時連絡するから」

 「うへぇ、コミュ力お化けだねぇ、シロコちゃんは」

 「あ、ずるいですよシロコちゃんだけ!私とも交換しませんか?ユウカさん!」

 「え、あ、わ、分かったわ、ちょっと待ってちょうだい……えっと、モモトーク……」

 

 落ち込んでいたユウカがすごい距離の詰め方をしてくるシロコとノノミに呆気に取られ、慌てながらスマホをタップし目的のアプリを開く。流れに飲まれただけかもしれないが少なくとも先ほどまでの落ち込んだ顔は鳴りを潜めており、意図してか、はたまた無意識かは分からないがユウカの不安を一瞬にして取り除いてみせた二人には頭が上がらないなと、柱間が一歩引いて三人のやり取りを眺めていた。そんな彼に目をつけて、ホシノがそばに寄り声をかける。

 

 「ごめんね〜先生。セリカちゃんも、悪気があるわけじゃないんだけどね〜」

 「なに、部外者というのも何も間違っておらぬ。……何か、まだ言ってないことがあるのだろう?」

 

 「……うへぇ、先生って実はエスパーだったりする?」

 「なに、人より少し人生経験が多いだけぞ。ただ、そうさな……勿論、母校愛というのはあるのだろうが……言葉以上にオレ達を嫌悪していたような雰囲気を感じての」

 「…あー、ごめんね?別に隠してるわけじゃないんだけどさ」

 「何、また言いたくなった時で構わぬ。まずは……お前達の信頼を得てからの話ぞ」

 「おじさんはそれなりに既に先生のこと、信頼してるんだけどな〜」

 「そうか!それは嬉しい限りぞ!なら、また明日にでも話を伺おうかの」

 「おっけー。……先生」

 「ん?なんぞ?」

 

 隣にいる桃色の髪の生徒が小柄な体を少し傾け柱間を見上げて一言。

 

 「頑張ってね」

 「───あぁ!もちろんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え?先生、まだお帰りになられないんですか?」

 「あぁ、もう少しアビドス市街地や都市部を見て回ろうと思っての。なぁに、心配するな。呼んでおいた生徒と落ちあうことになっておる」

 「そうですか。なら良いですけど……気をつけてくださいよ、本当に」

 「あぁ!肝に銘じよう!……さっきのことが気がかりか?」

 「……はい、アビドスの皆さんは気にするなと言ってくださいましたが、結局セリカさんの気持ちを踏み躙った事実に変わりないので……不快にさせてしまったな、と」

 

 アビドス校舎前、車に乗り込んだユウカが早く柱間も乗り込むように促すと、彼がその申し出を断りアビドス市街に散策に出る旨を彼女に伝える。朝のやり取りが脳裏をよぎり彼を一人にして良いものかと考えたが、シャーレの人間を既に呼んでいるとのこと。少々不安は残るものの所々で頑固な彼のことだ。どうせこれ以上説得しても折れることはないだろうと半ば半分諦めのような気持ちで彼を送り出すが、彼が自分の前から立ち去る気配がない。どうやら自分では立ち直れていたつもりでも、仮初の表情は歪な形を描いていたようで、柱間が強引にその仮面を取り払う。

 

 「なぁに、今生の別というわけでもなし。今日は早めに帰り自分の中で話を精査するとよい。それで謝りたくなったり、言葉を伝えたくなったらまた来ればよい」

 「……そうですね。……本日は良い経験になりました。またシャーレ当番でお世話になることがあればよろしくお願いします、先生」

 「あぁ!ではな、ユウカよ!」

 「はい、お先に失礼します」

 

 ユウカがトラックに乗って街中へと消えていく、それを見送った後、さてと言って辺りを見渡し誰も見ていないことを確認してから───柱間も、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おせーよ!どこ行ってたんだよ!」

 「もう夕方じゃん!!」

 「いやぁ!すまなかったの!随分仕事が長引いてな!!」

 

 文句を垂れる不良達が、しかし怒気を孕んでいるというよりも期待に満ちた、待ちかねたような雰囲気を醸し出す。まるで映画の上映を楽しみにしていた子供かのように、廃墟の一角で───一人の男を出迎えて。

 

 「早く続き話してくれよ!───忍者の話!!」

 

 

 




ご清覧ありがとうございます!
ちょっとストーリーの展開が遅すぎる……余り話が発展せず申し訳ない
気長に次のお話を待っていただけると幸いです。
それではまた次回

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