次の日、三人は朝早くから紅魔館に来ていた。朝一番に紅魔館に行きたいと言い出したスバルを二人ともやや不思議そうな顔で見ていたが、とくに追及されることはなかった。門は相変わらず開いているように見えるが、恐らく見えないバリアが張られているだろう。
「それで、紅魔館にやってきたけどどうやって入るつもり?ごり押しはできないわよ。」
何か策はあるんでしょうね、と言わんばかりの顔で霊夢はスバルに聞く。
「もちろん方法は考えてある。ベア子なら分かるんじゃないか?」
「ベティーならわかる・・・ってまさかアレを使うのかしら!?」
「おう。それだそれ。」
勝手に通じ合ってる二人を見て霊夢は何が何だかわからないという顔をする。そんな霊夢の方を向くとスバルは、
「ただちょっと手荒な方法になるからフォローは頼んだ。」
と言い、ベアトリスの手を握る。
「え?それってどういう・・・」
「行くぞ!E・M・T!」
霊夢の言葉を待たずにスバルは叫ぶ。その瞬間、二人の周りに紫色のオーラが現れる。それを確認し次第、二人は門に突っ走っていった。
「ちょっと!あぶないっ、て・・・?」
霊夢は飛び出した言葉をひっこめざるを得なかった。なぜなら二人は何事もなく門の奥にいたからだ。
「やっぱりE・M・Tだったかしら!こんなことで使ったらもったいないのよ!」
「別にいいだろ。魔力とマナが似た存在ならできると思ったんだ。これでオリジナルスペルが通用することの確認にもなるしな。」
二人は何やら話をしているが、霊夢は未だ状況がつかめず、混乱している。
「ちょっと、どういうことよ!なんであんたたちそこの門を通れてるわけ?」
「えーっと、簡単に言えば俺とベア子のオリジナル魔法だよ。」
「魔法・・・。まさか魔法を使えるなんて。」
そういや霊夢には魔法を見せたことがなかったか、なんてスバルが思っていると、突如、後ろから声をかけられる。
「これはまた大胆なご来館で。本館にはどういったご用件でしょうか、お客様。」
「うおっ!」
慌てて声がする方向を向くと、そこには一人の女性が立っていた。銀髪のボブカットで、もみあげあたりから三つ編みをしている。服装は典型的なメイド服で、何より目を引くのは・・・両手にナイフを構えていることだ。恐らくこの館のメイドなのだろうが、おもいっきし警戒されている。まあ正直無理もないことだ。スバルはできるだけ疑われないように、慎重に話し出す。
「怪しい入り方をしたのは悪い。けど攻撃しようとかそんなことは思ってないから、できればナイフを下ろしていただけると・・・」
「そんなこと言われても、信じられませんわ。第一、当館は現在一切の来客をお断りしています。お帰りください。」
「まあ、そりゃそうか。」
取り付く島もない様子のメイドにどうしたものかと思っていると、霊夢が門の外から声をかける。
「あんたにも立場ってもんがあるとは思うけど、安心なさい。スバルは何もしないわ。」
「かつてここに土足で上がり込んできて暴れ倒したあんたに言われても信用できるわけないじゃない。」
「・・・」
が、ダメだった。
「はぁ、まあ聞くだけ聞きますわ。何の御用ですか?」
しかし頼み込みが功を奏したのか、何とか話を聞いてもらえるようになった。
「お、おお。ありがとう。えーっと、ここに桃髪のメイドがいないか?」
「桃髪のメイド、ですか。」
メイドは暫く何か考えてそうな顔をしたのち、スバルに言う。
「ええ、居ますわよ。彼女に用事でしょうか?」
思っていた通りの答えが返ってくる。メイドの排他的な態度といい、ますますスバルの考えが現実味を帯びてきた。
「ああ。知り合いだと思うから話がしたいんだが・・・いいか?」
「なるほど。構いませんよ。準備をするので、少々お待ちください。」
そう告げると、メイドは一瞬で虚空に消滅した。明らかに消えたとしか言えないその様子を見て、スバルとベアトリスは驚愕する。
「き、消えた!?」
「どうなってるかしら!?」
そんな二人を見て、霊夢はやや新鮮なものを見たというような顔をしながら説明する。
「ああ、あんたたちは見たことなかったわね。あいつは時を操ることができるから、それで移動したのよ。」
「時を操るって、なんだそのチート。そんなやつ一生相手にしたくねえな。」
そんなことを話していると、メイドが無から湧いてきた。
「お待たせしました。準備ができましたので、ご案内いたします。」
「それじゃ、行くかーっと、霊夢は?」
スバルは未だ門の外にいる霊夢の方を見る。できればついてきてほしいと思うスバルだったが、
「霊夢はお断りです。それが呑めないなら帰っていただきますわよ。」
メイドに厳しくそう言われ、諦めるしかなかった。
「遅れましたが、私は紅魔館のメイド長を務めさせていただいております、十六夜咲夜と申します。以後、お見知りおきを。」
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咲夜に案内されて中に入った二人は、館の大きさに目を見開いた。ただ大きいだけならそこまで驚くこともないのだが、なんというか、見た目よりも物理的に不可能なくらい大きいのだ。廊下は無限に続いているようだし、部屋の数も尋常じゃない。
「こうしているとロズワールの屋敷に初めて来たときのことを思い出すな。」
「ベティーとスバルが初めて会った時かしら。忘れるわけがないのよ。」
「あのときはどこぞのいたずらっ子が廊下をループさせてたけど、ここはそんな風には見えないんだよな。」
「げげ、かしら。」
二人で思い出に浸っていると、前を歩いていた咲夜が立ち止まる。
「この部屋でございます。私は業務に戻りますが、話が終わるころには迎えに上がりますので。」
と言うと、再び虚空に消えた。長い廊下の中で二人は取り残される。
「話を聞いている限り、ここにラムがいるのかしら。」
「そのはずだ。なんでここに居るのかは分からねえけどな。」
二人は軽く確認すると、ドアを開けて部屋の中に入る。
「こんなところでも会うとはね。知らない場所に来てもなお、バルスの顔を見なければならないラムの気持ちも少しは考えてほしいものだわ。」
そこには、腕を組み不遜な態度で座っているラムが居た。
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「ラム!無事だったか!」
「ラムより数倍貧弱なバルスに心配される謂れはないわ。不快よ。死になさい。」
「久しぶりでも相変わらず辛辣だな姉様は!」
出会って早々軽口の応酬をしつつ、スバルとベアトリスはラムの向かい側に座る。
「まあ本当に元気そうで何よりだよ。色々話はあるんだが・・・」
「多忙なラムがわざわざ時間を作ったのよ。手短にしなさい。」
「つれないこと言うなよ姉様。でもまあ、さっさと本題に入るとするか。」
スバルは少し呼吸を整えると、意を決したように言う。
「ラムは他に、ここに来てしまった陣営の誰かを見たか?」
スバルの真剣なまなざしを見て、ラムは少し考える。そうして返ってきた答えは、スバルを喜ばせるものだった。
「レムを見たわ。というか、ここに居るわよ。」
それはつまり、レムの安全が保証されたということだ。その言葉を聞いた途端、スバルの心が跳ねる。
「マジで!?レムも、無事なのか!」
「傷一つないわ。深く感謝なさい。」
ラムは得意げな顔をして言う。確かに、ラムがレムを見つけてここに連れてきてくれたのだとしたらお手柄だ。
「いや本当に助かった!まじでありがとう!」
スバルはひとしきりラムに感謝を述べると、いったん落ち着く。
「ただ、ラムが見たのはレムだけね。他がどうなってるかは知らないわ。」
「そうか。分かった。」
これで、初めて自分たち以外が幻想郷に来ていることを確認できたことになる。スバルとしては、合流して今後のしっかりとした予定を立てたいところだ。
「それなら、ラムもレムも俺らが今いるところに来てくれないか?とんでもない異常事態だし、できれば固まって行動したい。」
しかしその言葉に対する返答は、スバルの望むものではなかった。
「それは無理な相談ね。ラムもレムも、ここを離れることはできないわ。」
断られるとは思っていなかったため、スバルは分かりやすく動揺する。
「なんでだ?スペースなら多分大丈夫だと思うんだが・・・」
「そういう問題じゃないわ。バルスが何と言おうと、無理なものは無理ね。」
「わかった。せめて理由を教えてくれ。」
「バルスが知る必要はないわ。」
ラムは頑なに理由を言おうとしない。スバルがどうしようかと思っていると、突然部屋の中に人影が現れた。咲夜だ。
「そろそろ、お話は宜しいでしょうか。」
咲夜はスバル達の方を見て言う。
「いや、まだ話させてく」
「ええ。もういいわ。」
続けようとしたスバルの言葉にかぶせてラムが言う。またもや意図の分からない発言だったのでスバルは驚いてラムを見た。
「ラム!?どうして」
「そのままの意味よ。これ以上、話すことはないわ。」
「ちょっと、待て・・・」
スバルが抗議の声を上げようとした瞬間、スバルの目の前からラムが消えた。どうなっているのかと思っていると、そのまま部屋に残っていた咲夜が言う。
「私の能力で時を止めている間に移動していただきました。お客様も、お帰りください。」
留まる理由もなくしたスバル達は、諦めて帰るしかなかった。
ラムのキャラが超心配です。