三人は急いで鈴奈庵へ向かう。途中で見かける人々は一人残らず狂っており、何とも痛ましい光景だった。
「マジで例外なく影響を受けてやがる。ふざけんじゃねえぞ・・・」
スバルがつぶやいたその時だ。
「霊夢!」
と何やら近くから呼ぶ声が聞こえた。三人は止まり、声のする方を見る。そこには銀髪で青い帽子をかぶっている、やや長身の女性が居た。しかしその顔は苦痛に歪んでおり、片手で頭を押さえている。
「慧音、あんたまでかかってるの!?」
「そういうお前は平気そうだな。さすが博麗の巫女と言ったところか。」
どうやら霊夢の知り合いらしい。他の人間と比べると症状は軽いようだが、それでも辛そうだ。
「いったい何が起こってるわけ?」
「分からない。突然黒い霧のようなものが広まったかと思うと、みんなこうなってしまった。人間はおろか、里内の妖怪も全滅だ。」
「妖怪も?」
「人間より症状は軽いようだけどね。なんにせよ今まともに動けるのはお前たちだけだ。里の人々を頼むよ。」
慧音はそう言い残すと近くの建物の中へ入っていった。
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それからほどなくして、三人は鈴奈庵の前についた。一見、特に他の場所と変わったことはない。
「それで?鈴奈庵に来たけど、ここからどうするの?」
「とにかく福音だ。俺の考えが正しければ、あいつは福音を狙うはず・・・」
ドゴォン!!!
スバルがそう言った直後、周囲の建物が大きな音を立てて崩れだす。そしてその破片が、スバルたちに向かって降ってきた。
「なっ!」
「防御結界!」
うろたえるスバルの横で、霊夢が数十枚のお札を投げつける。するとそれらの間に当たった破片がはじき返された。まるで透明な壁ができたかのようだ。破片はスバルたちの居ない所で降り注ぎ、砂煙を立てる。
「わりぃ、霊夢。油断してた。」
「ったく、気をつけなさいよ。」
しかしこの奇襲で確信が持てた。スバルは大声で、居るはずのやつに聞こえるように言う。
「出来るならもう二度と会いたくなかったぜ。なあ、出て来いよ、ペテルギウス!」
スバルの叫びに応えるかのように、崩れた瓦礫の中から、ありえない角度に関節を折り曲げた人影が現れる。その指先は自分の顔を掻きむしり、その目には狂気の光を宿していた。
「お久しぶりデスね。魔女から多大な寵愛を受けたにもかかわらず報いようとしない叛徒、ナツキ・スバル!」
そうやって出てきたのはーー1年ほど前にスバル達と戦い、死んだはずだった魔女教大罪司教、ペテルギウス・ロマネコンティだった。
「はじめましての方もいるようデスね。ワタシは魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ・・・デス!」
ペテルギウスは相変わらず手を横に広げ、首を曲げておなじみの名乗りをする。
「スバル、知り合い?」
「俺の世界で暴れ倒していた犯罪者だよ。間違いなく倒したと思ってたんだが・・・」
しかし奴は今目の前で動いている。それが奴が死んでいない何よりの証拠だろう。
「それとも、これが幻想入りってやつなのか・・・?」
スバルが考えていると、突然ペテルギウスが爪を嚙みながら喋る。
「確かにワタシはあの時、ワタシ自身の『怠惰』により試練を遂行し損ねたのデス。しかし!しかししかししかしぃ!魔女の寛大なお心により!再びこの地にて再臨したのデス!これは間違いなく試練の続きを魔女が求める証!そしてワタシは勤勉に!今度こそ!その行為に報いるのデス!ああ・・・脳が、震えるぅぅぅ。」
そのあまりの異様さに、霊夢はあきれ顔をする。
「なんか・・・やばいやつね。」
「まあそうだ。あいつ、魔女から直々に拒否されたってのにまだあんなことぬかせるのな。・・・ベア子?」
繋いでいた手が震えた気がしてスバルが見ると、ベアトリスは目を見開き呟いていた。
「ジュース・・・」
そうこうしているうちにペテルギウスは懐から黒い本を取り出す。
「しかし、アナタの行動は相変わらず福音に記されないのデスね。これもひとえにアナタが多大な寵愛を賜っているからなのデスか・・・」
「!?」
なにやら喋っているが、そんなことはスバルにはどうでもよかった。なぜなら、ペテルギウスが持っていたのはーー部分的に血がついていることを除いて、数日前に見たものとそっくりだったからだ。そのことを理解した瞬間、スバルの頭に血が上る。
「おい、ペテルギウス!てめえ、その本どうやって手に入れた!」
「福音はワタシの寵愛の証!常にワタシとともにあり、常にワタシを導き、常にワタシと魔女とを繋ぐのデス!」
「そんなこと聞いてるんじゃねえよ!答えろ!なんでその本がてめぇの手にあるんだよ!それは小鈴が持ってるはずだろ!」
スバルは鬼気迫る形相で問いただす。あまりの勢いに霊夢とベアトリスはやや驚いていたが、スバルの言葉を聞くとはっとしたようにペテルギウスの方を見た。
「そうデスね・・・。小鈴というのがどなたかは知りませんデスが・・・」
「再臨するにあたり一時的に手放してしまったワタシの代わりに福音を預かっていた勤勉な少女なら・・・その役目を遂げ、尊い命を
ペテルギウスはケタケタ笑いながら言った。ーー考えうる限り、最悪の答えを。
「ペ・テ・ル・ギウスーーーー!」
「ちょ、スバル!」
ベアトリスの静止もむなしく、スバルは勢いよくペテルギウスに突撃する。
「感情に身を任せ、ただ突っ込むのは思考の放棄・・・それすなわち『怠惰』、なのデス!」
ペテルギウスは背後から無数の黒い手を出す。それはかつて見た権能、見えざる手にそっくりだ。そして、それを突っ込むスバルに向けて放つ。
「エル・ミーニャ!」
「!?」
スバルはタイミングよく魔法を詠唱し、自分に迫る見えざる手をかき消した。そのまま続いてペテルギウスに向けて詠唱する。
「エル・ミーニャ!」
無数の紫矢がペテルギウスに向かって降り注ぐ。当たれば対象の時間を静止して砕く、必殺の矢だ。
「ウル・ドーナ!」
しかし、ペテルギウスは周りの土で自分をドーム状に囲んで防御した。防がれたのを確認すると、スバルは霊夢のところへ戻る。
「スバル、大丈夫なのよ?」
「ああ。自暴自棄になったふりしてみたがダメか。」
「なんだ、あれ演技だったの?」
「そんなことはねえ。小鈴が殺されたのは許せねえし、キレてるのは事実だ。けど、それで暴れたってなんにもならねえんだよ。」
「っ、そうね。あんな奴、許せるわけないわ。異変もそうだけど、それ以上に。」
「・・・そう、かしら。」
三人が話している間に土の壁は崩れて中からペテルギウスが現れる。
「そうデスか、演技でしたか。・・・やはり、ワタシの権能を見るアナタとは決着をつける必要がありますね。いいデス!やるのデス!あの時に代わり、今ここで試練を遂行するのデス!」
叫びながら見えざる手を大量にスバルたちへ伸ばす。
「エル・ミーニャ!」
その手が届かないよう、すかさずスバルたちは魔法で手を落とす。
「今、なんで何もないところに魔法を撃ったの?」
「あいつには見えざる手って能力がある。その名の通り見ることができない手だ。そんでもって破壊力もある。平たく言うと、捕まった時点でゲームオーバーだ。」
「便利な能力ね。・・・そんなのどうするわけ?」
「俺は何故か見えざる手を見れるから、手の方は引き受ける。霊夢は何とかあいつに攻撃を入れてくれ。霊夢って巫女だろ?なんか神聖な力的な攻撃を頼んだ!」
「具体性のないお願いね。了解!」
三人は戦闘しながら作戦会議をする。スバルとベアトリスは魔法を叩き込み、見えざる手が届かないようにした。そして霊夢はお札や針を飛ばす。一方のペテルギウスも、周りの家を壊したり、魔法を使ったりして攻撃を入れようとしていた。どちらも惜しいところまではいくが、お互いに決定打はなく、戦況は硬直し始める。戦闘をしつつ、スバルはとあることが気になっていた。
「ところでベア子、なんであいつは権能を使えるんだ?魔女因子は相変わらず俺の中にあると思うんだが・・・」
「その認識で間違いないかしら。ベティーも分からんのよ。ただ・・・」
「ただ?」
「ここは幻想郷かしら。理解のできない不思議な現象が起きてもおかしくはないのよ。」
「常識に囚われるなってことか。うおっ!」
不意に周りの建物が崩れ落ちる。話していて一瞬反応が遅れた二人は今にも下敷きになろうとしてーー
「まったく・・・またじゃない。」
「お、おう。サンキュ。」
間一髪で霊夢が拾ってくれたおかげで助かった。しかし、ペテルギウスはそれを見逃すほど甘い相手ではない。三人が一緒になり、スバルたちが動けないのを見計らって大量の見えざる手を伸ばす。
「油断大敵、デス!」
「まずい!」
そのまま三人は、束になった黒い手に包まれて握りつぶされーーなかった。
「「E・M・M!」」
「夢符『二重結界』!」
スバルとベアトリスは魔法で自身への干渉を防ぎ、霊夢は結界で見えざる手の射程範囲から逃れる。
「間一髪、ギリギリセーフってところか。」
「そうね。そして、ここで決めるわよ!」
さっきの攻撃にたくさん使ったからか、ペテルギウスの見えざる手が明らかに少なくなっている。千載一隅のチャンスに、霊夢はすかさず技を出す。
「霊符『夢想封印』!」
霊夢が叫んだ瞬間、霊夢の周りに大きくてカラフルな光の弾が7つほど現れ、ペテルギウスの方に発射される。
「エル・ミーニャ!」
スバルも追い打ちをかけようと球同士の隙間から魔法を放った。それぞれが着弾して大きく砂埃が上がる。見る限り、逃げる隙間はないはずだ。
「ないはずだったんだがな・・・」
砂煙が薄くなるにつれて、ドーム状の建物が現れる。ウル・ドーナで難を逃れたのだろう。
「全員の力を合わせて追い詰めるその連携!実に、じつにじつにじつうに、勤勉デスね!」
何が楽しいのか、ケタケタ笑いながら声高に言う。
「デスが、そろそろ終わらせる時デス!」
そう言うと、ペテルギウスはスバルたちの方へ向かい、唱える。
「さぁーー『怠惰』であれ!」
その瞬間、ペテルギウスを中心に黒い霧が放出される。反応する間もなく、三人はその黒い霧に巻き込まれた。
「けほっ、げほっ、・・・なんだったんだ今のは?」
黒い霧が徐々に晴れ、だんだん周りが見えるようになる。隣には相変わらずベアトリス。こちらも特に変化はないようだ。
「ただの目くらましか?大げさなことしやが・・・」
「ぐ、ああああっっ!!」
しかし、異変は起こっていた。霊夢が突然、里の人たちと同じように苦しみだしたのである。
「霊夢!どうした!何が・・・」
「離れて!」
「!?」
駆け寄ったスバルだったが、当の霊夢に叫ばれて目を丸くしながら離れた。
「あの霧、なんだかわからないけど超苦しいし暴れたくさせてくる!私は抑えとくから、あいつを早く倒して!」
「わ、わかった!って、あいつはどこに・・・」
「スバル!上かしら!」
ベアトリスに言われて上を見ると、そこには巨大な見えざる手があった。
ーー頭から50センチメートルもない高さに。
あ、これ終わったわ。
そんな考えが頭をよぎる間もなく、三人は潰されーー血だまりになった。
ペテルギウス、いかかでしたでしょうか。作者的には今のところ一番書き方を悩んだキャラです。この作品のペテルギウスは、もともとアニメ時空だったのが幻想入りする過程で強化が入ってこうなったって感じです。強化の内容はweb限定の権能を一部アレンジしております。どうアレンジしたかはそのうち本編で出てくるのでここでは割愛させていただきます。スバルはあの権能については何も知りません。おそらく読んでいて混乱する方がいらっしゃると思うので、補足として書かせていただきました。