Re:ゼロから始める幻想郷生活   作:半霊

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S2 神社と巫女と妖怪と

目を覚ますと、そこにはやはり広大な青空が広がっていた。死んでから景色が一変して、普通に屋敷の中で目覚めてーーなんてこともなく、ほんの少し前に戻ったようだ。望んでいることではなかったが、さっきの事件により異世界たるこの世界でも死に戻りは機能するらしいと言うことがわかった。そんなことを考えているとだんだん意識が覚醒してきてーー

 

「おぇっ!」

 

ついさっき体験したことを思い出す。そう、自分は食われたのだ。あの少女のフリをした何かに。

 

「おぇっおえおえっ」

 

思い出すだけで吐き気がしてくる。堪えようのないそれを少しでもマシにするため、スバルはひたすらにえずいてしばらく過ごした。ひとしきりえずいて落ち着いてくると、頭も働き、さっきの惨劇を避けるために動き出そうとする。

 

「とにかくあいつに出会っちゃだめだ。可愛らしい見た目してとんでもねぇことしてきやがる。見つかってから逃げることもできるかわからない以上は、近づかないに越したことはねぇ。」

 

そう結論付けると、スバルはとにかく走り出した。目的地なんてものはないが、少しでもここから離れなければならない。人がたくさんいる場所につくことを願いながらとにかく走る。走る。走って走ってーー

 

 

「これって・・・」

 

 

そこにはルグニカに来てからしばらく目にすることのなかった、威厳ある神聖な建造物であるーー鳥居と神社が建っていた。

____________________________________________

「ここは・・・日本、なのか?」

 

目の前にある神社を眺め、スバルはそんなことを呟く。なんせ日本以外で神社があるところなんて見たことがない。日本風の異世界である可能性だって捨てきれないが、そうではないだろう。なんせ、

 

「博麗神社、ねぇ。」

 

鳥居の真ん中に神社の名らしき日本語が書かれているのだ。たとえ日本風の異世界でも、言語まで同じなんてことはそうそうないだろう。しかしスバルは、ここが日本であるとはとても思えない。スバルの知る限り、日本に少女の姿をした人喰い化け物はいないのだ。

 

「もうどうなってんのかわかんねぇよ。けどまあ、神社だと言うなら神主なり巫女なりいるはずだろ。」

 

少なくとも、さっきみたいな化け物はいないはずだ。とにかく誰かに話を聞かないと始まらないので、スバルは鳥居をくぐり、境内へ入った。すると、

 

「あら?うちに人間の参拝客なんて、珍しいことは重なるのね。」

 

高校生ぐらいの少女が箒を持って、スバルを出迎えてくれた。背丈はスバルより少し低く、セミロングの黒髪を左右の謎の髪留めで止めている。頭には大きなリボンがあり、紅白の脇が出ている服を纏っていた。色合いから見るに、この神社の巫女なのだろう。

 

「あー、忙しいところすいません。ここってどこなんでしょうか?」

 

少女は少し年下に見えるが、初対面なので敬語で話しかける。

 

「どこも何も、博麗神社だけど?」

「えーっと、そう言うことじゃなく・・・」

 

説明が難しいな、とスバルが思っていると、

 

「ああ。もしかしてあんた、外の世界の人?」

 

急に少女は納得したように言った。外の世界、という言葉がどこを刺すのかはわからないが、まあ異世界なんだし間違ってはないだろう。

 

「そ、そうなんだ。外の世界?からきてて・・・」

 

スバルの割り切れない言葉を聞くと、少女は納得顔でスバルに話し始めた。

 

「ここは忘れられたものたちの辿り着く場所、幻想郷。人間や妖怪やその他もろもろが暮らす、辺境の地よ。」

 

スラスラと紡がれる厨二病を喜ばせるワードにスバルは圧倒されながらも、少女の話を聞いていた。

 

「幻想郷・・・」

「そ。外の世界とは結界で隔てられているんだけど、時々あんたみたいに流れてきてしまう人がいるのよね。あ、私は博麗霊夢。よろしくね。」

 

少女、いや霊夢はそんなことをと話すと、自分の名前を名乗った。若干その勢いに押されつつも、スバルも名乗り返す。

 

「お、俺の名前はナツキ・スバル。無知蒙昧にして天下不滅の無一文!」

 

いつもの名乗りを終えたスバルに、少女は聞き逃せないことを言った。

 

「にしても今日はすごいわね。二人も外からやってくるなんて。」

「二人?」

「ええ。頭に王冠をのせてピンクのドレスを着た小さい子が・・・」

 

「!?」

 

その言葉を聞いて、スバルは目を見開いた。頭に王冠、ピンクのドレス、そんな情報に当てはまる人物は知りうる限り一人しかいない。

 

「ベア子!?ベア子がいるのか!?」

「そのベア子って子かはわからないけど、知り合いみたいね。神社の中に居るし、会ってきなさい。」

「ありがとう!」

 

スバルは礼を言うや否や神社に飛び込み、襖を開ける。そこは畳にちゃぶ台、と典型な和室だった。そして、豪勢なピンクのドレスを着ている少女。彼女は騒がしい声に、何事かとこっちを見て、みるみるその表情を喜びに染める。

 

「スバル!スバルなのかしら!?」

「ああ俺だベア子!無事でよかった!」

「それはベティーのセリフかしら!全くスバルはお騒がせな契約者なのよ!」

 

二人はひしひしと抱き合い、再会の喜びを噛み締める。二人ともどこか全くわからない異世界で再会できたので、その喜びもひとしおである。

 

「ああー、ベア子の巻き巻き髪が疲れた心に沁みる〜。」

「ってどさくさに紛れて何やってるかしら!」

 

流れでスバルがベアトリスの髪をいじり始め、ベアトリスも心地良さそうにする。そんないつもの流れを満喫していると、霊夢が二人の様子を見に神社の中へ入ってきた。

 

「へー。随分と笑顔になっちゃって。スバルの様子から察してはいたけどだいぶ仲良しなのね。」

「おう!俺とベア子の仲は異世界であろうと引き裂けないぜ!」

「そうかしら!」

 

二人は思いっきり笑って霊夢にガッツポーズをする。その様子はまるで、長い時を共にした兄妹の様な、お互いへの信頼が透けて見えるものだった。

 

「何言ってるかはあんまりわからないけど、びっくりしたわ。その子、私と会ってから今まで全然喋らずに部屋の隅っこを見て泣いていたのに。」

「な、泣いてなんかいないかしら!」

 

突然の霊夢の暴露に顔を真っ赤にしながらベアトリスは反論する。その反応が答えを物語っているということに、気づいてない辺りが愛おしい。

 

「ま、ベア子はそう言う子なんだよ。気を悪くしないでやってくれ。」

「別にいいわ。」

 

興味なさそうに言う霊夢に、スバルは聞かなくてはならないことがあった。

 

「俺ら以外に似たような境遇の人が最近現れなかったか?」

「今のところはスバルたち以外には見かけてないわね。」

「そうか・・・。」

 

もしかしたら他の仲間と会えるかもしれないというスバルの希望は、いとも簡単に打ち砕かれる。ベアトリスがいる以上、他の仲間も転移している可能性は高いだろう、とスバルは考える。そんなスバルの様子を見て、霊夢が言った。

 

「外の世界から来たのなら、あんたたち住む所とかないんでしょ?」

「ま、まあ、そうだな。」

 

なぜかこちらのことを把握している霊夢に驚きながらも、スバルは肯定する。

 

「それじゃ、しばらくはうちに泊まりなさい。帰るめども、早めにつけるから。」

 

霊夢の口から出た思いもよらない提案に、スバルは耳を疑う。

 

「そりゃあ、ありがたいけど・・・。いいのか?」

「いいも何も、それが私の仕事なのよ。」

 

スバルはそんな仕事あるのかとか色々突っ込みたいと思いつつも、とりあえずは厚意に甘えることにした。

 

「わかった。よろしくな!」

「ええ。さて、他になんか聞きたいこととかある?」

 

霊夢の言葉を聞いて、スバルは一瞬逡巡した。先ほどの少女らしき化物とのことを話していいものか悩んだからだ。死に戻りができる以上、例のペナルティも健在と考えるべきだろう。スバルは魔女の逆鱗に触れないように、気をつけて霊夢に聞いた。

 

「この世界がどんなところかもう少し知りたいかな。ここに来るまでに空を飛ぶ幼女とか見たから。」

「空を飛ぶ幼女?・・・そいつ、どんな姿してたか覚えてる?」

 

スバルの言葉を聞くと、一瞬霊夢の語気が荒くなった。地雷でも踏んだのかと気をもみつつ、スバルは続ける。

 

「えーっと、金髪のショートヘアで身長は十二歳ぐらい、白い長袖の上に黒い上着を着てた。あと、頭と胸に赤いリボンをしてたな。」

「金髪に黒い服…ああ、あいつか。スバルはそいつを見かけた後どうしたの?」

「なんか不気味だったから走って逃げたよ。」

 

実際は不用意に近づいて一度食われているのだが、話がややこしくなるので黙っておく。

 

「空を飛ぶ時点でニンゲンとは思えないかしら。一体何者なのよそいつ。」

「いやロズっちは空飛んでたけどな?」

「あれをただの人間と解釈するかは大いに議論の余地があるのよ。」

「うーわ、否定できねぇ。」

 

とスバルたちがロズワールの人間性を疑っていると、霊夢が二人に話し始めた。

 

「そいつはルーミアっていう人喰い妖怪ね。普段は闇を身に纏っていることが多いんだけど・・・なんにせよ、近づかなくて正解だわ。」

 

先の霊夢の口上にあったが、改めて妖怪だと聞くとスバルはなかなかに信じられなかった。彼女の姿がとても人間らしかったのもそうだが、そもそも常識的に、妖怪は存在しないと思っていたからである。

 

「俺の妖怪のイメージ以上に人間っぽかったんだが、本当に妖怪なのか?」

「間違いないわ。ここの妖怪とか神とかはみんな人型なのよ。そんなのがいっぱいいるから、幻想郷で人型の生物に会ったとしても、すぐに人間だとは思わないこと。ちなみに私は人間。」

「神・・・?」

 

スバルはしれっと言われた神とかいう聞き逃せない単語について言及しようとするが、その前にベアトリスが声をあげた。

 

「ちょっと待つかしら。妖怪って一体なんなのよ。てかなんでスバルはその説明で納得しているのかしら。」

 

ベアトリスの言葉を聞きスバルは気づく。彼女が元いたルグニカには、妖怪らしき概念が存在しない。お化けらしきものはホロゥという名で広まっていたが、妖怪とお化けを一緒にしていいかはスバルも悩むところである。

 

「妖怪ってのは闇夜に現れては人間を食べたり殺したりする化け物のことだよ。まあ、ホロゥに近いっちゃ近いな。」

「なるほどなのよ。」

 

話がひと段落したところで、霊夢は二人に告げる。

 

「まあそういうわけだから人里以外のところは基本危険地帯なの。だからあんまり不用意に外出とかしないでくれる?うっかり食べられたりしたら帰るもんも帰れないからね。」

「いや怖・・・。」

 

かなり物騒なセリフに恐怖しつつ、スバルは他の質問をする。

 

「元の世界に帰れるのはいつなんだ?」

「わからないわ。幻想郷の中と外を繋ぐ奴がいるからそいつに話を聞いてみないことにはなんとも。」

 

少々心許ない答えに不安を覚えるが、帰れるとは言われている以上、いつかは帰れるのだろう。それだけでもルグニカに転移した時よりはマシだ。

 

「とりあえずはわかった。けどそのままお世話になるのは申し訳ねえっていうか・・・」

「別に気にしなくていいわよ。私にとってはいつものことだし。」

「いやいやいやいや、そうは言ってもなあ。」

「スバルのこれは病気なのよ。諦めるかしら。小娘。」

 

なんとかしてやることが欲しいスバルは考えを巡らす。そして、彼の頭に前の世界での仕事が浮かび上がってきた。

 

「そういえば、家事って、誰がやってるんだ?神主とかいんの?」

「私よ。ってかここには私しかいないわ。」

「神主不在の神社ってどういうことだよ!しかし、それなら。」

 

スバルは一呼吸おくと、ポーズを決めて霊夢に言った。

「俺に、家事のお手伝いをさせてくれ!!!」

 

 

「くしゅん!かしら」

 

 

一瞬固まった場に、ベアトリスの可愛いくしゃみが響く。

 

「ふーん。まあやってくれると言うならお願いしようかしら。」

「ああ。俺ってばここに来る前は天下不滅の使用人。料理洗濯掃除裁縫なんでもござれのスーパーマンだったからな!」

「そうかしら!恐れ慄くのよ!」

「なんでベア子が自慢げなんだよ!?」

 

なぜか胸を張るべアトリスにツッコミを入れつつ、スバルは心の中で考える。どうしてこんなことになったのか、他のみんなはいるのか、分からないことは山ほどあるが、

 

「やってやるぜ。運命様、上等だ!」

 

とりあえず、そう心の中でこぼし、ナツキ・スバルの幻想郷生活がスタートした。

 

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