次の日、スバルたちは早朝から人間の里に向かっていた。マナを節約するため歩きでの移動である。
「たしかペテルギウスが現れたのは今日の昼過ぎだ。それまでに何としても小鈴から福音を・・・いやでもそもそもあいつはどうやって福音が鈴奈庵にあることを知って・・・」
「スバルー、何ぶつぶつ言ってんのよ。」
「ひゅい!?」
思考を整理するために独り言を言っていたスバルに霊夢が声をかける。
「いやいや、なんでもねえよ。」
「何でもないことばかりね。それで、里についたけどこれからどうするの?」
霊夢に言われて前を見てみると、そこには目的地である人間の里があった。まだ早朝だからか、人はほとんどいない。
「やっと着いたか。神社から結構歩くんだな。」
「私もいっつも飛んでるからわからなかったけど歩くと結構遠いのよね。だから参拝客が来ないのかなぁ。」
博麗神社の悲しい事情が漏れたところで、スバルは二人に目的を伝える。
「とりあえず鈴奈庵に行こう。いろいろあって福音を回収しなくちゃならねえ。」
「あー、あの黒い本だっけ?小鈴ちゃんが興味持ってた。」
思い出すように霊夢が言う。いろいろあっての内容に特に突っ込まれなかったのでスバルは安心しつつ、話し続ける。
「後、ちょっと具体的には言えないんだが・・・危ないやつがいる、かもしれねえ。そいつもできれば倒したい、が・・・」
スバルの脳裏に前回の光景がフラッシュバックする。黒い霧の初見殺しがあったとはいえ、この三人ではペテルギウスに対してやや戦力不足かもしれない。もちろん暴れられたら戦わない選択肢はないわけだが、前と同じことにならないためにも無策で突っ込むことは避けるべきだろう。
「無茶はだめだ。誰も欠けないようにしないと。」
「そんなに強敵なの?自分で言うのもなんだけど私結構強いわよ。相手が何かは知らないけど、ぶっ飛ばしてやるわ。」
自信満々で霊夢が言う。
「いいや、頼もしいけど必要にならない限りは戦闘は控えよう。戦うにしても、準備が必要だ。」
「・・・分かったわ。」
スバルの真剣な表情を見たのか、霊夢はそれ以上何も言わなかった。
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三人は鈴奈庵へ駆け込んだ。前の周回では昼に現れたペテルギウスだったが、その時には既に手遅れだった。朝早くからやってきているとはいえ、もしかしたらもう手遅れかもしれない。そう思うと余計に足が早まり、着くころには全力で走っていた。
「小鈴!居るか!」
「わわっ!」
スバルが勢いそのままにドアを開ける。そこには本を何冊か抱えた小鈴がいた。大きな音を立てていきなり入ってきたからか、目を丸くしてこちらを見ている。
「ス、スバルさんでしたか。朝早くから元気ですね。」
驚きから覚めた小鈴がスバルに言う。どうやらまだ立てて、喋れて、生きているようだ。そのことを確認するとスバルは安心し、息をつく。
「スバル~、置いてくんじゃないかしら!」
「何よ、急に走り出して。」
スバルの後に続いて、ベアトリスと霊夢もやってくる。どうやら途中から置いて行ってしまっていたらしい。
「霊夢さんとベアトリスさん。おはようございます。」
「おはよ、小鈴ちゃん。」
小鈴はやってきた二人に笑顔で挨拶すると、一番乗りのスバルの方を向いて尋ねた。
「それで、何の御用でしょうか。」
「えーっと、福音の話がしたいんだけど・・・」
「分かりました。持ってきますね。」
そう言うと小鈴は小走りに奥の方へ行って真っ黒な福音書を取ってきた。見たところ、小鈴にも福音にも異常はなさそうだ。
「調べてみてどんな感じだった?」
「ちょっと難航しているんですよね。明らかに普通の本とは違う力のようなものが込められてはいるんですけど、幻想郷由来じゃないからか力の性質がつかめないというか。」
残念そうに小鈴が言う。
「あいつらの力なんて、頑張って解析するだけ無駄かしら。どうせろくな事じゃないのよ。」
「それでも気になるものは気になるんですよ!もうちょっと調査したら糸口がつかめるかもしれないんですけど・・・」
小鈴がじれったそうに福音を見る。その表情にはなんとしても解き明かしたいという気持ちが如実に現れていた。
「頑張ってくれているところ悪いんだが・・・ちょっと事情が変わってな。一旦福音を返してほしいんだ。」
「事情、ですか?」
「ああ。この本をもともと持ってるやばい奴らが幻想郷に居るかもしれなくてな。そいつらがそれを取り返そうとやってくるかもしれねえ。そしたら、」
「本を持っていたら標的になるってことですか。」
「ああ、そうだ。」
スバルの言葉を聞いて小鈴は考える。ちょっと考えたのち、福音を少し見ると小鈴はスバルに返した。
「分かりました。そういうことなら一旦これはお返ししますね。」
「そう言いたい気持ちもわかるけど、ここは身の安全を第一に・・・え?」
そう簡単には渡してもらえないだろうと思っていたスバルはその返答に目を丸くする。
「意外と簡単に渡したわね。良いの?」
「まあこの二日間で結構調べましたしね。これだけやって成果ゼロならこれから進展するかも怪しいし、それに・・・」
「それに?」
「スバルさんがそこまで私の身を案じてくれているんだから、渡さないわけにはいきませんよ。」
小鈴は笑顔で言った。
「そっか。ありがとな。」
「ええ。また大丈夫そうだったら、見せてください。」
「ああ、そうするよ。」
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三人は鈴奈庵を出て、歩いていた。
「人間の里での用事ってこれで終わり?」
「そうだ。もっと時間かかると思ったけど思ったより早く終わったな。」
時間に余裕を持たせるために朝から来たのだが、結果的にはまだ朝方だ。本来はここでペテルギウスに備えた動きをする予定だったのだが、これでは早すぎる。異様な気配を悟られて他のところで暴れられたり、潜伏されたりしたら厄介だ。となると、もう片方の問題を進展させたい。
「じゃあ、このまま神社に戻る?」
「ちょっと待ってくれ。もう一か所、行きたいところがある。」
「行きたいところ?」
「紅魔館だよ。」