先の話し合いの後、霊夢は妖怪退治の仕事に行ってくるとのことだったので、スバルは境内の掃除や洗濯をしながらベアトリスと話し込んでいた。
「しかし、大変なことになったなぁ。」
「全くかしら。厄介なことこの上ないのよ。」
「ベア子も屋敷で寝たのが最後の記憶か?」
「そうかしら。目が覚めたらここの境内にいたのよ。」
「ということは陣営揃ってここに飛ばされていると考えるべきかもな。」
スバルは手を動かしながらも、陣営のみんなのことを考えていた。さっき霊夢から聞いた通りの世界だとしたら、みんな危ない目に遭っているかもしれないのだ。
エミリアは心配で今すぐにでも合流したいが、パックとの契約が切れて以降強くなったし、多分大丈夫、だろう。でもやっぱり早く会いたい。
ガーフィールとフレデリカの二人は強いし、あまり心配していない。
オットーも武力こそないが、加護なり交渉術なりでしばらくは無事でいると思う。
ラムはスタミナとかが色々心配だがあれでも全然戦えるし、ロズワールなんかは余裕だろう。
ペトラは心配だ。襲われても戦えないだろうし。早いとこ合流したい。
そんな風に考えているとスバルは大事なことに気づいた。それはレムのことだ。今のレムは眠ったままなので、早く見つけないとルーミアみたいな妖怪に食べられてしまうかもしれない。もしそうなった時に、スバルが近くに居れないのは非常にまずい。あまり考えたくはないが、もしレムが命を落としてしまうならスバルは死なないわけにはいかなくなる。しかし、それはレムが死んでしまったとわかった時にしかできないのだ。一番避けるべきなのはレムが死んでしまってそれに気づかずセーブポイントが更新されることでそうなったらスバルはーー
「そんなに焦って思いつめた顔をするんじゃないかしら。心配しなくても、きっとみんな無事なのよ。」
「・・・ぁ。」
「そうやって何もかも一人で抱え込むのはスバルの悪い癖かしら。」
「・・・そう、だな。わりぃ。」
「わかればいいのよ。」
ベアトリスの言葉で、スバルは聖域でのことを思い出す。傍の少女の手を取り、友人たちと協力したあの時を。
そして、急に小っ恥ずかしくなったスバルは話題を変えようとした。
「そう言えば、この世界って魔法とか使えんのかな?ベア子、その辺どう思う?」
その気持ちを知ってか知らずか、ベアトリスはなんでもないように答える。
「正直、こんなこと初めてだからやってみないとなんとも言えないかしら。」
「それもそうか。どっかで時間をとって確認しておかないとな・・・。」
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時は流れて、妖怪退治から帰ってきた霊夢を混ぜて3人で夕食が並べられたテーブルを囲んでいた。いただきますの合図とともに、3人とも食事を始める。
「あら。思っていたより美味しいわね。」
「さすがベティーのスバルなのよ。」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐があるぜ!」
この一年間、スバルも伊達に使用人をやっているわけではない。昔は野菜の皮剥きすら満足にできなかったが、今では数人の食事を一人で作るくらいはお茶の子さいさいなのだ。
「あれ?もしかしてエミリアたんに毒されかけてる?」
自然と頭の中をよぎった死語に疑問を覚えつつ食事を続けていると、ベアトリスが言った。
「にしても、不思議な味のする食事かしら。こんなの、ルグニカでは食べたことがないのよ。」
それもそのはず、今日の献立は、白米に鰤の照り焼き、そしてほうれん草の胡麻和えと味噌汁というザ・和食だ。ルグニカでは現状再現不可能な日本の味である。
「俺もまさかもう一度本物の和食を食べられるなんて思ってもいなかったよ。台所に味噌があった時感動したんだぜ?」
「私はよく知らないけど、外の世界にも同じ食材はあるんじゃないの?」
「ああ、その辺はややこしい話なんだが・・・」
とスバルが霊夢の質問に答えようとした時、
「帰ったぞ〜霊夢〜。なぁーんだぁ?人の気配がするなぁ。」
突然、酔っ払いのような声が外から聞こえた。その声を聞いた途端、霊夢はやや顔を曇らせて言う。
「はぁ。めんどくさいのがきたわね。」
「めんどくさい?というか今のって。」
「まぁ一応紹介しt」
「人が黙って聞いていれば、散々言ってくれるなぁ〜!」
霊夢が言い切らないうちに、一人の少女が3人のところにやってきた。身長はペトラよりも小さくて、橙色の髪をしている。それだけなら普通なのだが、彼女の額には大きくて立派なツノが二本あった。さらに手にはいかにも酒が入ってそうな瓶、と色々ツッコミどころはあるが、スバルはとりあえず誰なのかという目線を霊夢に向ける。
「こいつは伊吹萃香。うちに居候している大酒飲みの鬼ね。」
「こっちの世界にも鬼がいるのか。酒に強いみたいだし、ラムと飲み比べとかしたら面白そうだな。」
「お?飲み比べかぁ?いつでも受けてたつぞ〜。」
萃香は上機嫌になりながら右手の酒を煽り、霊夢に聞いた。
「おい、霊夢。こいつらは一体なんなんだ?」
「新しく幻想入りしてきた人たちよ。スバルとベアトリス。」
「そうかそうか〜新入りか。ゆっくりしていきな。ほら、酒でも飲んでよぅ。」
萃香はそう言うと手元の酒をスバルのコップに注ごうとする。
「お誘いはありがたいんだけど・・・酒は飲まないようにしてるんだ。ベア子も飲酒は絵面的にちょっと・・・。」
「子供扱いするんじゃないのよ!ベティは400歳以上だっていっつも言ってるかしら!」
「はっはっは!そうかお嬢さん。だがな、ここでは400歳なんてまだまだ若造だぞ?」
ノリノリの萃香から割と衝撃的な発言が出る。
「・・・まじ?」
「まあ、本当ね。一万年以上生きてるやつとかザラにいるし。」
「もしかして霊夢も・・・?あっ」
スバルはしまったと思った。しかし、時すでに遅し。
「あーら、失礼ね。私はちゃんと年相応の見た目よ。」
霊夢から急に怒りのオーラが発せられ、スバルに襲いかかる。
「わ、悪かった。」
そのオーラを受け、スバルはすぐに謝罪モードへ移行する。
「全く、スバルはしょうがないかしら。ほら、スバルもこの通り反省してるし、赤い小娘もさっさと許してやるのよ。」
「あなたスバルに異常に甘いわね・・・。ま、私も本気で怒ったわけじゃないし別にいいけど。」
そうしてスバルが許されたタイミングで、萃香が口を開く。
「そうそう。私ちょっと行くとこあるから。一週間ぐらい帰らねぇわ。」
「ふーん。何かあるの?」
「霊夢は知らなくてもいいやつだ。もうすぐに出る。」
「そう。わかったわ。あんま余計なことはしないでよ?」
「わーってるって。」
友人のように話す二人を見ていると、普通の人間のように見えてくるから不思議だ。異世界の鬼は美少女って鉄則でもあるのか、とスバルが考えていると萃香はスバルとベアトリスの方を向く。
「そういうわけだから、新入りたちもじゃぁな。」
「おう!今度は酒が飲める仲間見つけて待っとくよ。」
「はっはっは!そりゃぁ楽しみだな!」
そう言い残すと、萃香は急にその場から蒸発したように姿をくらました。あまりに突然の出来事に、スバルは目を丸くする。霊夢は事情を知っているのか、特に何もなかったかのようにしている。
「霊夢、萃香今消えてなかった?」
「ああ、あいつは体を霧にする能力を持ってるの。」
「なんだその物理無効の出鱈目能力・・・」
霊夢から衝撃の事実が発せられる。能力というのは加護みたいなものなのだろう。霊夢が空を飛んだのも能力なのか。
「なんだか、嵐のようなやつだったかしら。」
「妖怪ってのはだいたいあんなもんよ。それで、あなたたちは明日どうするの?」
霊夢はスバルの方に顔を向けると、聞いた。スバルとしては、ちょっとこの世界を見つつ、陣営のみんなを探しにいきたいところだ。
「そうだな・・・霊夢は明日仕事とかあるのか?」
「明日は暇ね。」
「そうか。他に俺たちの仲間がいるかもしれないし、情報が欲しいな。人がたくさん集まるとことか行けたらいいけど・・・」
「それなら人間の里に行きましょ。ちょうど買い物もしようと思ってたし。」
こうして明日の予定も決まり、スバルたちは無事幻想郷での1日目を終えることとなった。