次の日。
「ビクトリーーーー!!」
誰もいない境内の中で、一人の叫び声がこだまする。朝早くに起きてラジオ体操からの掛け声という日課をこなし、一日の気合を入れているのはスバルだ。屋敷にいる時は彼だけでなく、ガーフィールやエミリアも参加していた。ここにはそのメンツが誰一人いないが、やはりこれをしなくては一日は始まらない、ということで一人でも決行した次第である。そして、そんなスバルを神社から眺めている少女が二人。
「早朝から元気なことね。なんの意味があるのかしら。あれ。」
そのうちの一人、霊夢はまだ眠い目を擦り、あくびをしながら言った。
「きっと意味なんてないのよ。でも、そういうところがスバルらしいかしら。」
「そう。ところで、あんたは参加しないの?」
「ベティーは参加するよりスバルがああしているのを見ている方が性に合うかしら。」
「ふーん。そういうもんなのね。」
のんびりと二人が会話していると、すっきりした顔をしたスバルが近づいてきて、言った。
「よーし、それじゃ、朝食とするか!」
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そうして、スバルたちが朝食と朝の仕事を一通り終わらせてそろそろ人間の里へ出立しようと思ってた時のことだった。
「おーい!霊夢!遊びに来たぜ!」
突然、甲高い声が響き渡った。と思うと、金髪の少女が箒に乗って空から飛んできた。白い長袖に黒い上着を着て、その上から白い前掛けをつけている。色合いといい服装といいスバルは日本の魔女に近しいものを感じた。少女は華麗に箒から飛び降りると、目の前にいたスバルに話しかける。
「ん?誰だお前。」
唐突に素性を聞かれたスバルは、やや戸惑いつつもとりあえず自己紹介をする。
「俺の名前はナツキ・スバル!無知蒙昧にして天下不滅の居候!」
いつもの名乗りをあげたスバルを見て、少女は豪快に笑った。
「おお、元気があっていいな。私は普通の魔法使い、霧雨魔理沙だ。よろしく!」
「こちらこそよろしく。」
二人が挨拶をしている間に、霊夢が支度を終えて出てくる。魔理沙を見ても特に驚いたりしていないし、どうやら二人は知り合いのようだ。
「あら、魔理沙じゃない。何しにきたのよ。」
声に少し気だるげな色をのせて、霊夢は聞いた。
「別に用事がなくたっていいだろ?ところで、このスバルって・・・」
「ええ。新しい外の世界の人よ。」
「やっぱりそうか。」
魔理沙はスバルの素性を聞き、納得する。ここに他の世界から人が来るのはあまり珍しくないようだ。会話が途切れたのを見て、スバルは魔理沙に話しかける。
「こっちも質問なんだが・・・魔理沙は人間なのか?」
一見、魔理沙は萃香と違って普通に人間のようだ。ただ、スバルが知っている人間は箒に乗って空を飛ばない。霊夢とも知り合いみたいだから、たとえ妖怪でも大丈夫だろうが、一応知っておきたいのだ。
「そうだな。まだ、人間だぜ。」
そしてその質問に対する回答は、どこか含みのあるものだった。スバルはどういうことか気になったが、そんな引っ張るような話じゃないだろうと思ったので、他のことについて聞く。
「魔法使いって言ってたけど、魔理沙は魔法が使えるのか?」
「もちろんだ!スバルがあっと驚くような魔法だって、たくさん使えるぜ?」
魔理沙はかなり自分の魔法に自信があるのか、胸を張って言う。
「俺もベア子と一緒なら魔法は使えるんだよ。」
「そうなのか。ところで、そのベア子って誰だ?」
その魔理沙の質問で、スバルは自分のパートナーを見失っていたことに気づいた。霊夢もいつの間にかどこかへ行っている。
「そういえばベア子達はどこに・・・」
と言いかけて周りを見回していると、スバルはようやく神社側からベアトリスと霊夢が早くしろと言いたげな目でこっちを見ていることに気づいた。スバルと魔理沙は二人の方へ走る。
「お前たち、いつまで戯れてるのかしら。もう出発時間を過ぎているのよ。」
駆けつけ次第、ブスッとむくれるベアトリスの手をスバルはすかさず握った。
「ごめんなベア子〜。ほら、ベア子も魔理沙に挨拶しようぜ。一人で挨拶、できるか?」
「急に何を言い出すのかしら!子供扱いするんじゃないのよ!」
そうやって騒ぐ二人の様子を見て、魔理沙は少し驚いた顔をしながら、霊夢に尋ねる。
「おい、霊夢。あの小さい子は一体何者だ?」
一方、尋ねられた霊夢は何を言ってるのかわからないと言う様子だった。
「何者って?普通の小さい子じゃ・・・」
「そんなわけないだろ!少なくとも人間ではないはずだ。」
魔理沙はベアトリスのことをそう評価する。その発言を聞いて、久しぶりにすごい奴扱いされて嬉しいのか、ベアトリスは胸を張って魔理沙に答えた。
「そこの小娘はよくわかってるかしら。ベティーは大精霊、ベアトリスなのよ。」
魔理沙は自信満々の名乗りを受け、すぐに言い返す。
「そんなわけないだろ?こんな魔力を持った精霊なんていてたまるか!幻想郷魔法連盟が騒然とするぞ!?」
「何よその連盟。」
魔理沙の真剣なのかふざけてるのかわからないセリフに、霊夢が突っ込む。一方、精霊人生を一瞬にして否定されたベアトリスは、眉をぴくりと動かして魔理沙を睨んでいた。
「精霊を馬鹿にするなんて、いい度胸かしら。後悔するんじゃないのよ!」
そういうや否やベアトリスが魔法を使おうとしたのを見て、スバルは慌てて止める。
「待て待てベア子!多分そう言う意味じゃねぇから。」
スバルはこの状態に見覚えがあった。きっとルグニカと幻想郷では『精霊』と言う言葉の価値観が違うのだ。ルグニカに来た当初も、今までなんとも思ってなかった『魔女』と言う言葉が禁忌にされてたように。スバルはそのことを伝えようと、未だなんでベアトリスが怒っているのか分からず動揺している魔理沙に言った。
「えーっと、魔理沙、この世界で精霊ってどんな奴なんだ?」
「自然の力の一部みたいなもんだな。意識があるなんて話は聞いたことないけど。」
微精霊みたいなもんかと思いつつスバルは続ける。
「そりゃあ誤解もするわけだ。俺らが知って入る精霊はもっとしっかりした感じなんだよ。そして、このベア子はその中でも特別な方だ。」
特別と言う言葉を聞いて、ベアトリスは機嫌を戻した。
「そうかしら。矮小なニンゲン如きの尺度でベティーを図るんじゃないのよ。」
「おいベア子、言い過ぎ・・・」
傲岸不遜な言い方をするベアトリスをスバルは静止しようとしたが、魔理沙はそんなこと気にしてないように、
「ははは!そうだな!悪い。外から来たんだからこっちの尺度に当てはめたらダメだよな!」
大きく笑って、ベアトリスに手を差しだした。
「よろしく!ベアトリス。」
その眩しいような笑顔にベアトリスは少し恥ずかしそうにしながらも、
「ベティーも…まあ、少しだけ悪かったかしら。でも、精霊を侮るのは感心しないのよ。」
と言ってその手を握り返した。
「ところで、ベアトリスって魔法が使えるんだって?」
「そうかしら。ベティーの魔法はルグニカでも随一なのよ。」
「そりゃすげぇな!ぜひ見せてもらいたいところ・・・」
「はいはい、そこまで。」
そのまま魔法談議に突入する二人に静止の声を入れたのは霊夢だ。
「あんたら揃って目的忘れてるわね。さっさと人間の里に行くわよ。」
「なんだ、今から人間の里に行くところだったのか。」
軌道修正をする霊夢の言葉に魔理沙が食いつく。すぐに伝わるあたり、人間の里はかなり有名なところのようだ。
「私もちょうどあのへんに用事があったし、一緒に行こうぜ!」
こうして、四人は人間の里へ出発することになった。
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ところ変わって人間の里。スバルたちはいるかもしれない仲間を探して、歩き回っていた。人間の里はスバルの知識でいう江戸時代のような街並みで、今まで見たことない景色にワクワクする。
「ここいいなあぁ。結構活気があって。こういう新しいところに来るとワクワクするわ。」
「全くスバルはしょうがないかしら。」
子供のように目を輝かせながら周りを見ているスバルに、ベアトリスはやれやれと言った顔をする。
「そういうベアトリスだって、さっきから周りをキョロキョロしてるじゃないか。」
「こ、これは、違うかしら!」
すかさず魔理沙に揶揄われて、ベアトリスは真っ赤にした顔をぶんぶん振っていた。可愛い。
「それじゃ、私はこの辺で別れるとしようか。」
そのベアトリスの様子を堪能したところで、魔理沙が言い出す。
「二人とも、ありがとうな!楽しかったぜ!」
魔理沙が二人の方を見て言う。スバルも魔理沙を見ると、
「こっちこそ、ありがとうな。ほーら、ベア子。魔理沙お姉ちゃんにお礼言っとけよ。」
「子供扱いするなつってるかしら!」
ベアトリスをいじりつつ、お礼を言った。ベアトリスは恥ずかしいのか、顔を背けたままだが、
「ベティーも、まあちょこっとだけ楽しかったのよ。あ、ありがとうかしら。」
と言った。
「また今度、今度は魔法の話をしようぜ?じゃあな!」
魔理沙はそう言って笑うと、再び箒に跨って飛んでいった。
「幻想郷、嵐みたいなやつ多すぎねえか?」
あっという間に飛び去った魔理沙の方を見て、スバルがつぶやく。
「出会っているメンツがあれなだけだと思うけどね。」
その言葉に霊夢が答え、再び3人は里の中を歩き出した。
「そういえば、霊夢の言っていた心当たりがある場所ってのはどこだ?」
スバルは里に入る直前に霊夢が言っていたことを思い出す。
「もうすぐだわ。まあ心当たりってほどじゃないけど。」
そう言って歩くこと5分ほど。スバルたちはそこそこ大きい店のような場所に着く。着き次第、霊夢はおもむろにドアをノックして
「小鈴ちゃーん。いるー?」
と中に呼びかけた。それから程なくして
「はいはーい!」
と声が聞こえたかと思うと店の中から一人の少女が出てきた。赤茶色の髪を鈴のような髪留めで留めていて、黄色いエプロンをつけている、ペトラぐらいの子だった。霊夢はスバルたちの方を向くと、その子の紹介を始めた。
「紹介しておくわね。こちら貸本屋、鈴奈庵の管理人である小鈴ちゃん。」
「ご紹介に与りました、本居小鈴です。」
少女はスバルたちの方を見ると、丁寧にお辞儀をする。
「俺の名前はナツキ・スバル。んでこっちは俺のパートナーのベア子だ!よろしくな。」
「別に、よろしくしなくてもいいかしら。」
スバルたちも自己紹介をした。約一名、ツンデレを発揮しているがいつものことなので気にしない。
「よろしくお願いします!ところで霊夢さん、今日は一体何の用ですか?」
小鈴は二人に笑って言うと、霊夢に目線を変えて聞いた。
「この二人は外の世界から来たらしいんだけど、最近この辺りで同じ境遇の子を見たりした?」
霊夢の問いかけに小鈴は頭を押さえて考えるが、特に心当たりはなかったようだ。
「わからないですね・・・あっ!」
「どうしたの?」
考えている途中、急に変な声を出した小鈴に霊夢が聞く。すると、小鈴は思い出したかのように言った。
「昨日、珍しい本を拾ったんですよ。日本語じゃない、知らない言語で書かれている。もしかしたら何か関係があるかも!」
「へえ、その本、ちょっと見せてもらえる?」
「もちろんです!」
答えるや否や、小鈴はその本とやらをとりに店の中へ戻って行った。そしてしばらくすると、何やら一冊の本を抱えて戻ってきた。
「これです!」
そう言って小鈴が出した本を見てスバルは驚愕した。なぜなら、
「それ・・・福音じゃねえか!なんでこんなところに!?」
小鈴が持ってきたのは黒くて禍々しいあの魔女教どもが持っていたーー福音書だったからだ。スバルの心臓が急に鼓動を早める。幻想郷にこの本があるということは、もしかしたら大罪司教が幻想郷にいるかもしれないということだ。この異世界召喚も、奴らの仕業かもしれない。考えたくはないが、こっちで奴らに出会ってしまったりしたら今の所なすすべがない。それに、奴らがここで何かをしでかさないかも心配だ。なんにせよ、悠長なことはしていられなくなった。早くみんなを見つけて戦力を集めないと。そんなことを頭の中で考え続ける。
そんなスバルの様子を見て、霊夢はビンゴだと悟ったようだ。
「どうやら知ってるみたいだし、これは外の世界の本かしらね。」
「あっそのことなんですけど・・・」
霊夢の呟きを聞いて、小鈴が指摘する。
「霊夢さんもご存知の通り、外の世界の本って日本語で書かれているんですよ。でもその本は日本語以外の言語で書かれているんですね。出鱈目な記号が書いてある可能性も有りますが、私が読めるので言語で間違い無いと思います。だから、この本がお二方の世界の本だと言うなら、お二方は外の世界以外のところから来たってことになりますね。」
スバルはここにきて判明した、『外の世界』はルグニカとは別物らしいという事実に驚く。が、それよりも小鈴のセリフの中で聞き逃せないところがあった。
「小鈴、福音を読んだのか!?」
焦って聞くスバルの様子に疑問を覚えながら小鈴は答える。
「ええ、こんな面白そうな本読むに決まってるじゃないですか。」
福音についてはスバルも知らないことが多い。奴らの言っている通りだとすると、所有者の未来を描いているらしいが、眉唾物だ。安全なものかどうかも分からないため、できれば読まないでいて欲しかったが、別の世界の人間である小鈴にはそんなことはわからないだろう。とりあえずなんともないみたいだし、大丈夫なのだろうか。
そんなことを考えていると、、スバルは違和感に気づく。
「てかこっちの人間じゃないのに小鈴はなんで福音を読めたんだ?イ文字とかハ文字とかわからないだろ?」
その違和感について聞くと、小鈴は胸を張って答えた。
「私はあらゆる文字を読める程度の能力を持っているんですよ。」
「何そのすげぇ能力。」
衝撃の告白にスバルは耳を疑った。そんな便利な能力があるなんて、羨ましい。ルグニカへ行ってから文字を習得したスバルからしたら尚更だ。
「福音にはなんて書いてあったんだ?」
「特に不思議なことは書いてませんでしたよ?日記っぽい感じでした。いついつに、どこどこで、これをする、みたいな。」
小鈴の返事を聞いて、スバルは納得する。福音書が奴らの言う通り未来を予言する書なら、そんな感じのことが書かれているだろう。とりあえず、魔女教の内部事情なんかは書いてなさそうだ。
「そうか。えっと、その本、俺らに渡してくれるか?」
今の所大丈夫そうとはいえ、持っていると何か危ないことがあるかもしれない。そう思ったスバルは、福音を預かろうとする。しかし、
「すいません。もうちょっと、持っていていいですか?」
小鈴はそう言って、スバルの願いを断った。しかし、小鈴の安全のため、スバルも引き下がるわけにはいかない。
「実はその本、俺らのところの犯罪集団が持っている本なんだ。持っていたら危ないかもしれない。だから、渡してくれ。」
「そんな曰く付きの本、ここにはたくさんあるし、それなら尚更気になります。それに、この本を分析したらあなたの世界についてもわかるかもしれませんし!」
小鈴は意地でも福音を持っておきたいようだ。絶対に譲らないとでもいいたげな目線を受け、スバルは折れることにする。
「わかった。それじゃあもうしばらく持っておいてくれ。何かわかったら、教えてくれると助かる。」
「ありがとうございます!任せてください!」
「話はまとまったかしら?」
二人の睨み合いが終わったタイミングで、霊夢が声をかける。ベアトリスと二人、ずっと待ってくれていたようだ。
「この後も、捜索を続ける感じですか?」
「ええ、そうよ。」
小鈴は霊夢の返答を聞くと、
「幻想郷は結構広いですけど、頑張ってください!」
と言った。
「そうね。ありがとう。」
そうして3人とも小鈴の言葉に礼を言いながら、スバルたちは鈴奈庵を後にした。
実は、筆者はシューティングの原作しか触れていなくて、鈴菜庵を読んだことが有りません。なので、原作の小鈴はやらないようなことを話の中でやってしまっているかもと、結構不安です。読んでて違和感を覚える場所等ございましたら、感想などで優しく教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。