キャラクリTS転生者の、さいかわ衣装をハック&スラッシュ!   作:ゆめかわ!

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環境を整えようとしたら、テンプレ

 いよいよ、私の我慢は限界を迎えようとしていた。

 この世界にやってきてから、ずっと耐えてきた。

 耐え続けてきた。

 しかしそれも、ついには耐えきれないときがきてしまったのだ。

 そう――

 

 

 風呂に入りたい!

 

 

 元々、私はオタクにあるまじきことだが、風呂には毎日はいるタイプだ。

 というか風呂に入ることが好きだ。

 温泉とかも結構入りに行く。

 だからこそ、思う。

 流石に十日以上風呂に入らないのは、幾らなんでも耐えられない。

 それを見越して『常時健常体』というユニークスキルまで取ったのに。

 これ、スキルポイントが私の取ったスキルの中で一番重かったのに!

 それでもなお、私は風呂に入れないことが耐えられない。

 

 これが、前世の姿だったらまだ我慢しよう。

 風呂に入る意味が、最低限の清潔さと私が気持ちいい以外の理由がないからだ。

 でも、今の私は違う。

 私――エリーシャはさいかわ冒険者だ。

 世界で一番可愛くて、最高に可愛い冒険者なのだ。

 それがどうして、風呂を我慢しなくてはならない?

 

 現在、私の収入はだいぶ当初の見積もりよりも高くなっている。

 『鏡魔術』と「剣術」のスキルレベルが上ったことで、ダンジョンTA(タイムアタック)の効率も上がった。

 潜るダンジョンも、新人向けの洞窟ダンジョンから、レンガ造りの迷路型ダンジョンに切り替えることもできた。

 これなら、多少生活の質を上げてもいいのではないか。

 今のところ、まだ欲しい装備の目標金額には届いていないが、あと二十日あればお釣りが出るくらいの進行度。

 

 とくれば、泊まる宿を変えるしかない!

 強い決意でもって、今借りている安宿を私は後にした。

 

「――というわけでキグさん、いい宿ないですか?」

「それで聞くのがアタシって……いやいいけどさ」

「ギルドの人は、何だかよそよそしいんですよ」

「そりゃあ、ねぇ」

 

 ねぇ……って何?

 怖い、怖いよお!

 

 とにかく、私は現在いい宿の場所をキグさんへ聞きに来ていた。

 あれ以来、キグさんとは結構仲良くしていると思う。

 そもそも最初に着た時は、手持ちのお金が無かったから、もう一回店に来る必要があったし。

 その後も、街のいろいろなことはキグさんから教わったのだ。

 

「……ふ、まぁいいさ。アンタがそのつもりなら、ね」

「またなにか早合点してますね……」

 

 そして、多少付き合ってわかったことだが、キグさんの勘違いは単純に本人が早合点によるものらしい。

 何でもかんでも、いい感じに早合点してしまうのだとか。

 ただ、この人の早合点は完全に早合点だけど、最終的にいい感じになるらしい。

 なので、いい感じにならない相手――本人がピンと来ない相手に早合点は発生しないのだ。

 早合点された相手は大成するとか、なんとか。

 まぁ、ありがたい話だな。

 

「そういうことなら、いい宿があるよ」

「本当ですか?」

「ああ、風呂に入るなら……いっそ、入りたいだろ?」

 

 で、何やら妙案があるらしい。

 

「……温泉」

「温泉!?」

「それも……天然だ」

「天然!」

 

 マジか!

 でかい湯船じゃなくて、地下から汲み上げてるあの温泉か!

 温泉はそんな詳しいとは言えないけど、結構好きなんだよ。

 

「そこにします、場所は?」

「まぁそう逸らないの。場所はこのあたりだけど――」

「よし解りました、ありがとうございます!」

「ちょっと頼みたいことが……って、あー、行っちゃった」

 

 うひょー!

 

 

 =

 

 

 というわけで、ミニマップを頼りに言われた場所までやってくると。

 

 

「おいゴルァ! 早くこの場所を明け渡せつってんだよ!」

 

 

 何やら、もう見るからにチンピラって感じのチンピラが宿の前で一人の少女を恫喝していた。

 年の頃は二十になるかどうか、キグさんと同じくらいだろうか。

 緑のインナーが入った黒髪の、気弱そうな少女だ。

 こういう気弱そうな少女の髪にインナー入ってるの、なんか異世界を感じる。

 背丈は私より少し大きいくらいで、小柄な部類。

 ただ、そのバストは豊満すぎた。

 うお、すっげ。

 とか、そんなこと言ってる場合じゃない。

 

「……こんなテンプレっぽい展開、今どきある……?」

 

 今、眼の前で起きているのはチンピラが美少女――恐らく宿の主人――を恫喝している光景だ。

 あまりにもテンプレである、ここから美少女を救って好感を持たれるやつである。

 いやでも、世の中そんなテンプレなことある?

 そうだ、まだわからないぞ。

 こっから黒髪緑インナー気弱美少女が、ワンパンでチンピラを伸してしまうかもしれない。

 

「おい、なんか言ってみろや、ああ!」

「ひぃ!」

 

 あ、これはなさそうですね。

 とすれば、放ってはおけない。

 彼女はおそらく、私がこれから泊まろうとしている宿の主人なんだから。

 私は勢いよく助走をつけると、跳んだ。

 

 

「はい、ジャマですよ」

 

 

 メコ、と三人いるチンピラの一人に飛び膝蹴りを叩き込む。

 全く想定していなかったのだろう、ドタマに一発、大きいのをそいつは食らった。

 

「ぐえ!」

「なんだ!?」

 

 吹っ飛ぶ男に気付いて、他のチンピラもこっちに視線を向ける。

 本当にチンピラ相手に無双しようとすると、こんな展開になるんだと感心しつつ。

 

「よってたかって、女の子を虐めるのは感心しませんよ」

「え、ひう……」

「なにもんだ、てめぇ!」

 

 私は少女の前に立ち、彼女をかばいながらチンピラたちを話をする。

 

「エリーシャです、冒険者の。覚えてもらう必要はありませんが、私が世界で一番可愛いという認識は持っておいてください」

「はあ?」

「こんなちんくしゃ、こっちから願い下げだよ」

 

 はっ。

 これだから胸の大きい女しか興味のない男は。

 この機能美がわからんのだろう。

 

「そいつからこの宿のある土地をぶんどらなきゃならねぇんだよ、よそ者は引っ込んでろ!」

「でしたら、今の私はよそ者じゃないですね。彼女の宿のお客さんなので」

「……え? あ、あの、それは、その。困ります。……見ての、通り、なので」

 

 私の言葉に、反応したのは黒髪緑インナーの少女だ。

 見ての通り、チンピラに狙われている宿ということだろう。

 チンピラというか、その上の組織か。

 全員体の見えるところに同じ入れ墨してるからな。

 流行ってるのでなければ、こいつらを束ねる組織があるはずだ。

 それはともかく。

 

「ガキが……! 後悔するなよ!」

「あ、に、逃げてください!」

 

 チンピラの一人が突っ込んでくる。

 これはいけない、私相手に正面から無策で突っ込んでくるなんて、絶対にやっちゃいけないことだ。

 

「そーれっと」

 

 私は迫りくる男の前に、鏡を出現させる。

 突然の鏡に足を止められず、激突。

 更には鏡の向こうからも激突して、痛みは二倍だ。

 

「ぎゃあ!」

 

 勢いよく吹っ飛ぶ。

 転がって、私の飛び膝蹴りで吹っ飛んだ男にぶつかって止まる。

 

「こ、こいつ……聞いたことがあるぞ、最近冒険者に、鏡を扱う面は恐ろしくいいが、頭のおかしい女がいるって……!」

「いやいやそれほどでもないですよ、ってちょっとまってください?」

「くそ、逃げろ! 逃げるぞ、ちくしょう!」

 

 顔がいいと言われて後ろの文言を聞き逃してしまったが、変なこと言ってなかったか?

 まぁいいや、最後のチンピラは戦うことなく逃げていってしまった。

 転がしたチンピラ二人も、それに気付いて去っていく。

 追う必要はない……か、そこまでするのは面倒だし。

 

「大丈夫でしたか?」

「あ、は、はいい……その、本当によかった、んですか?」

「よかったもなにも」

 

 女の子は、あいつらに敵対してよかったのかと、いいたいらしいが。

 

「私は貴方の宿に泊まりたいんですよ。お名前を聞いてもいいですか?」

「えっと……しゅ、シュクハ……です」

「じゃあ、シュクハさん。よろしくおねがいします」

 

 かくして私は、新しい宿を見つけた。

 しかも、結構な格安で。

 なんでもキグさんいわく、キグさんとシュクハさんは幼なじみらしい。

 シュクハさんの宿、粛々荘はあのチンピラたちに狙われていて、普段はキグさんが追い払ってるんだけど。

 キグさん一人じゃ対応しきれないときもあるから、私に用心棒を頼めないかと。

 そういう話だったそうだ。

 まぁ、そういうことならば。

 私にできる範囲でよければ、これからも宿を守らせてもらおう。

 

 そう思いながら入った天然温泉は、入ってすぐ解るくらいのアルカリ泉で。

 それはもうたっぱたぱで気持ちよかった。

 

 

 <>

 

 

 エリーシャという少女は、なんというか憧れてしまうくらい自由だとシュクハは思った。

 本人は気さくに振る舞っているけれど、その(かんばせ)は思わずシュクハがドキッとしてしまうくらい神秘的で。

 エリーシャの性格もあいまって、とらえどころがない。

 

 そんな少女が、あっという間にチンピラを撃退してしまった。

 鮮烈で、劇的だ。

 シュクハの癖が、変な方向へとネジ曲がる。

 

 エリーシャとしては、普通にしているつもりなのだ。

 というか、異世界に転生してさいかわ美少女になったことである程度気が大きくなっているところはあるけれど。

 本人の気質は至って穏当。

 前世の頃から、それは変わっていない。

 ただ、それを補って余りあるくらい、エリーシャが特別であると言うだけ。

 

 それほどの美少女を、エリーシャはキャラクリしてしまったのだ。

 本人は異世界の美少女率の高さも相まって、こんなものかと納得しているものの。

 そのせいか、かえってそれがエリーシャと周囲の感覚の差異を産む。

 そしてそれがエリーシャの”特別感”を増しているのだが。

 少なくとも、本人がそれに気付く様子は、今のところない。

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