機動戦士ガンダムSEEDScary   作:機械仕掛けの守護天使

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 救いのない世界に救いをもたらすのは二次創作の醍醐味(救えるとは言っていない)。執筆時に哀戦士とかガンダムシリーズの主題歌を聴いてたら思いのほかシリアスな文体になってしまったが、地球に降りる頃にははっちゃけているでしょう、多分。

 シグーの武装を間違えていたために修正しました。


旧版・リブート前
PHASE 01 ヘリオポリス崩壊


 

 きっかけは、それそのものはある事件だった。だがそこに至るまでの歪みと軋轢

は、40年の時をかけて蓄積していったのだろう。

 C.E(コズミック・イラ)30年ごろにピークを迎えた遺伝子操作ブーム。受精卵の段階で遺伝子操作を受けることで生まれついての超人となる『コーディネイター』と遺伝子操作を受けないで生まれた『ナチュラル』。生まれ浮いての格差がそこにあった。

 個人で見た時には確かにコーディナイターはナチュラルに勝る。しかし彼らはマイノリティだ。マジョリティたるナチュラルからの迫害、数の暴力に追い出されるように、彼らは宇宙コロニーに、『プラント』に居住地を移していった。

 

 プラントは豊富な宇宙資源から得たエネルギーを無重力を生かした工業生産物を様々な問題を抱える地球に供給していた。しかしその利益の多くは地球の国々に搾取されていたのである。

 

 プラントはその搾取に怒り、独立と対等貿易を地球に求めた。しかし話し合いは毎度決裂し、その度にプラント・地球間の緊張は高まっていったのだ。

 

 いくつかの事件を経て『地球連合』はプラントに宣戦布告。その僅か3日後に引き起こされた『血のバレンタイン』事件により、戦争は過激化の一途を辿ることとなった。

 

 そうして11ヶ月が経つ頃、中立国オーブに属する工業コロニー『ヘリオポリス』は大混乱に陥っていた。突如として侵入してきたザフトのモビルスーツによって襲撃を受けていたのだ。攻撃に抗う力を持たない一般市民は逃げ惑いつつも、なんとかシェルターへと避難して行く。しかしそれらのシェルターはMS(モビルスーツ)『ジン』の攻撃に耐え切るには心許ないことに気づいている彼女は、足早に()の元へと向かっていた。少女の手を引きながら。

 

「離せ!」

「無茶を言わない……! オレの仕事はキミのボディーガードだ。確かめたいのは判るけれど、命あっての物種だよ……!」

 

 オーブの首長ウズミ・ナラ・アスハの娘、カガリ・ユラ・アスハ。少年のような格好をしている彼女の手を引くのは、個人的な護衛として雇われた女傭兵トウカ・ラナ・カミナガ。金髪にサングラス、ライダージャケットという風貌であり、カガリよりも背が高く力も強い。もしこの光景を第三者が見ていたならば、いかつい金髪の不審者が同じく金髪の少年を誘拐しているように見えたことだろう。

 

「どうする気だ!」

「シャトルまで戻ればナイトバードがある……!」

「逃げるのか?」

「このまま出発しても戦場に突っ込むだけだよ。待機するしかないさ。」

 

 そういった瞬間、トウカのすぐ横にあったシェルターが流れ弾で吹っ飛んだ。幸いにして無人であったらしいが、二人も衝撃波で吹き飛ばされた。トウカが咄嗟にカガリを庇うように抱えて受け身を取ったので二人とも頭を打たずに済んだが、カガリは腕を少し擦りむいた。

 

「無事かい? おひい様……」

「なんとか。トウカはどうなんだ?」

「左腕の感覚がない。()()()らしいね。」

「!……急ぐぞ。」

 

 二人して宇宙港に駆け込むと、民間用の小型シャトルへと辿り着いた。

 

「トウカ……」

「言われなくともわかるさ。仕事内容の変更だね……?」

「そうだ! ザフトの連中、流れ弾を気にしていない! このままでは民間人も巻き込まれるぞ!」

「引き受けるのはいいけど、キミの護衛はどうするんだい? シャトルで留守番はお勧めしない。ナイトバードのコクピットに籠る前提でここまで来たんだよ?」

「二人乗りで頼む。こうなれば一蓮托生でいい……!」

「……ノーマルスーツの着方は判るね?」

 

 流石に獅子の娘、剛気なことだ、とトウカは思った。本当なら戦場に連れて行くのは褒められた行いではない。しかし、ザフトが民間人相手に遠慮しないことはさっきの流れ弾でよく分かった。分かってしまった。

 何よりカガリは一国のトップ、その娘。他の国民を見捨てて逃げるわけには行かないという思いもあるだろう。ならばその妥協点として、二人乗りが選択肢として存在し、彼女らはそれを選んだ。トウカ・ラナ・カミナガは傭兵として『選ぶ』ことを尊ぶ主義を持つ。そのために命を賭けることとなろうとも。

 

 二人してノーマルスーツに着替え、漆黒の機体へと乗り込む。座席は一つだけ。操縦者であるトウカが座り、カガリがその右後ろに掴まる。ナイトバードのコックピットは一般的なMSより狭い。だがその分厚い装甲に守られているために一人用シェルターじみた耐久性を持つ。機体外部の装甲はともかく、コクピット周りの『コア・ボール』はジンのマシンガンをも耐えられる。ある程度爆心地から離れていれば核爆発からもパイロットを守り通せるのは実証済みだった。流石に直撃すればどうしようもないが。

 

「片腕で大丈夫なのか?」

「神経接続だからね。義手のコネクタが生きてたら大丈夫さ。」

〈メインシステム、コンバットモード起動。NRPデバイスオンライン。〉

 

 無機質なシステムボイスがそう告げ、神経接続が問題なく完了したことを確認したトウカはペダルを強く踏み込んだ。

 

 コロニーは筒状の機構を回転させる遠心力で擬似重力を発生させている。人類の宇宙進出が果たされたコズミック・イラであろうと人工重力はまだない。そのためにコロニーの空、中央に近づくにつれ重力の影響は小さくなる。

 ナイトバードのアポジモーターを切り、低重力と慣性を利用しながら目視での索敵を行う。

 

「歩兵は兎も角、ジンをなんとかするべきだろうね。……大丈夫?」

「気持ち悪い……」

「すまない。一人乗りの時と同じ感覚で発進してしまった。」

 

 参った、とトウカは頭を抱える。ナチュラルのカガリにはナイトバードの機動力とそれに伴うGに耐えられない。

 

「さっさと終わらせるべきか。……いた! ジンだね。戦ってるのは……ビンゴだよ、おひい様。」

「な!」

 

 ジンと相対するもう一つの巨人。異教の神の姿を模したようなそれ。四本の角を生やしたかのような頭部には二つの眼。スラリとしたボディは胸部と腹部が鮮やかな青と赤、四肢は輝くような白をしていた。その容姿はある神話を知るものならばこう呼んだことだろう。『ガンダム』と。

 

「──お父さまの……うらぎりものッ……!」

「決めつけるのは早計さ。マスターからの受け売りだけどね、ウズミさんは知らない可能性があるとさ。」

「国の長が知らなかったでは済まされない!」

「そりゃそうさ。理不尽だけど、このままじゃウズミさんは退任だろうね。後釜に座るのが、あれの開発を推し進めた俗物にならないと良いのだけれど。……飛ばすよ……!」

 

 機首を遙か下のジンに向けペダルを踏み込むと、ナイトバードは殺人的な急加速でもって降下を始めた。耐G機能を持つノーマルスーツ越しであっても内臓を締め上げるような圧がコクピットを襲う。

 

「ぐぅううぅ……」

「我慢だ、おひい様……! ちぃッ、システム、リミッターセット!」

〈リミッター設定完了。6G以上でロックがかかります。〉

 

 トウカは左肩の75mmバルカン砲でジンを冷静にロックオンした。

 

 ビームサーベルを構え、ガンダム『GAT-X105 ストライク』に斬りかかろうとするジンは、突如として鳴り響いたロックオンアラートに慌てて距離を取った。しかしストライクが射撃を行う素振りはない。

 

「黒いモビルアーマー? あれも連合の新型か!」

 

 ジンのパイロット、ミゲル・アイマンは突如として飛来した見慣れぬ機体にそう当たりをつけた。連邦の使う宇宙戦闘機メビウスよりは大きく、そして何より速い。そのMAはジンの周りを円を描くように旋回しながら、上部2つのガトリングのうち左側のものでジンをロックオンしている。

 

『ザフトのパイロットに次ぐ。こちらは独立傭兵ジャグラー部隊。貴公らの行動はヘリオポリス市民を危険に晒している。直ちに撤退しない場合、実力行使で排除を行う。』

 

 オープン回線で一応撤退を呼びかける。ボイスチェンジャーを介して低い男のように加工した声はガンダムのパイロットにも聞こえていた。

 

「独立傭兵?」

 

 ジンは少し躊躇ったかのように動きを止めたが、しかし次にはマシンガンの銃口をトウカの機体へと向けていた。

 

『交戦の意思あり、と判断する。残念だ。』

 

 それだけ告げてトウカは回線を切断した。ジンのマシンガンが弾丸をばら撒くが、トウカはその弾幕の隙間を縫うようにジンに接近する。数発は被弾するが、装甲に僅かな傷がつくのみだ。

 

 ──ガコン……!

 

 と音を立ててナイトバードが変形する。畳まれていた腕部が伸び、後ろに倒れていた腰下が下方向へと展開。頭部に被さっていた機首が持ち上がり、バックパックとなる。

 赤いモノアイを光らせて『ACM-X006ナイトバード』がミゲルのジンへと迫る。

 

「MSだと!」

「終わりだ。」

 

 ジンに向かってアサルトブーストで急接近しつつ、直前で低くしゃがみ込んでマシンガンを回避。そのまま振りかぶった左腕でアッパー気味に殴りかかる。

 左腕にマウントされた大掛かりな金属杭が射出され、ジンの右脇の下から頭部までを貫いた。ジンは全身から力が抜け、しかしナイトバードのパイルバンカーに串刺しにされているため倒れることもない。だが首や肩から断線したケーブルやフレームの破片が飛び出し、電気系統が火を吹いている。右腕は完全に千切れ、頭部のメインカメラも陥没して光が消えている。

 

『命までは取らない……疾く、去れ。』

 

 システムダウンの直前、接触回線で告げられたその言葉はミゲルのプライドをひどく傷つけるには十分だったが、しかし彼にできることはなく、打ち捨てられたジンから脱出するしかなかった。システムが完全にダウンし、自爆させることさえ不可能だった。またコクピットの直撃こそ避けられたが、右腕に激痛が走る。折れてこそいないだろうが、すぐに再出撃は不可能というのは明白だった。

 

 ガンダムのコックピット、そのシートの後ろで大西洋連邦所属の技術士官マリュー・ラミアスはジンを一撃で倒した漆黒のMSをただただ見つめていた。黒いMSの肩横にペイントされた「祈りを捧げる赤髪の守護天使」、その横顔を模したエンブレムと、J・1の文字。J・1はおそらくJuggler 1の略であろうことは分かった。ジャグラー部隊の第一席次。

 

「……あれは、メタス? オーブのネェル技研の機体……」

 

 オーブにもう一つ存在するMSを製造している企業。『ネェル・デバイス技術研究所』通称ネェル技研は、その本社をオーブに置きながら国外展開も行うモルゲンレーテとは異なり、小規模な本社で企画や設計を行なったのち、他社の工場に生産を委託している中小企業だ。主な、と言うより唯一販売しているMSは『ACM-N005 メタス・ワーカー』だけであり、作業用可変MSである。そのスペックは宇宙空間での作業用重機としては非常に優秀で、コロニー補修を請け負う会社や、ジャンク屋組合などが好んで使うことも多いのだが、戦闘用としては到底ジンを倒せるようなスペックはない。しかし目の前の黒いMSは細部やカラーリングこそ異なるものの、シルエットや変形機構がメタス・W(ワーカー)と同一だった。

 

「改造機体?」

 

 だとしても妙なのは、あまりにもスムーズな動き。技術者だからこそわかる視点ではあったが、モニターに映るメタスの動きはザフトのジンより遥かに滑らかで、まるで生き物の、人間そのもののような動きをしていたのだった。あれはストライクのOSどころかザフトのコーディネイター用OSよりも高性能ではないか。鹵獲したジンのOSを搭載したのではああはいくまいとマリューは結論付けた。

 

『そこの白いモビルスーツ、連合軍だな? 改めて、独立傭兵ジャグラー部隊の第一席次を預かる者、CS(コールサイン)J.1(ジャグラー・ワン)。機体名ナイトバードだ。民間人の防衛依頼を受けている。』

『こちら大西洋連邦所属ストライク、マリュー・ラミアス大尉です。救援感謝致します。しかし、このストライクは連合の機密。見られたからには貴方にはしばらく我々と行動を共にしてもらう必要があります。』

『了解だ。指示を頼む。ただ、私を戦力として使うのならば専守防衛のみでお願いしたい。専用回線の周波数を送る。』

 

 オープン回線で言葉を交わしつつ、トウカはラミアス大尉からの指示を仰いだ。シートの後ろではカガリが不服そうな表情をしていたが、怒鳴らずに我慢できただけ十分だ。

 

 ──〈おまえはいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ!〉

 

 ──〈きさま……ラウ・ル・クルーゼ!〉

 

「このプレッシャー……ッ?」

 

 突如としてトウカの脳裏に言葉が走った。強い存在感を放つ二人が、外で戦っているのを感じる。ムウ・ラ・フラガは分かる。連合のトップガンで『エンデミュオンの鷹』の異名を持つ男だ。地球軍の宇宙戦闘機は5機でようやくジン1機と互角らしいが、ムウはMS相手に単騎で渡り合えるという触れ込みだった。それは地球軍のプロパガンダによるもので、トウカとしてはそこまで信じていなかったが、どうも事実であったらしい。

 

 しかしそのムウと戦っているであろう存在、クルーゼと呼ばれた男の動きが、少し妙だった。

 

「近づいてくる! 『構えろ、ガンダム!』」

 

 慌てて回線を開いて叫んだためにうっかりガンダムの名を出してしまったが、それどころではなかった。──ドォン……! と大地が揺れる。

 

 新たなMSがコロニーに穴を開けて、そこから舞い降りてくる。後に続いてムウのMA『メビウス・ゼロ』が追いかけてきたが、銃弾で貫かれ落ちていった。しかしパイロットは無事なようだ。

 

 トウカは冷静に両肩のバルカンで侵入者のMS、クルーゼの『シグー』をロックした。

 

 シグーの乱射するライフルを大きく躱しながらスラスターによる滑走で距離を取る。その横でガンダムが数発直撃してすっ転んだが、無事に立ち上がった。

 

『こちらJ.1。話し合いできなさそうだ。交戦する。ラミアス大尉、許可を。』

『こっちはモルゲンレーテに武器を取りに戻らないといけない!』

『おとこの子……⁉︎ ラミアス大尉はどうした?』

 

 無線の返答が若い少年の声だったことに驚いて一瞬素の口調が出てしまいつつ、大尉の様子を聞けば、先ほど転んだ時に気を失ったらしい。一人用の操縦席ゆえにシートベルトがないのはトウカ達と同じ状況か。

 

『掴まれ!』

 

 シグーの銃撃を縫うように回避しながらMA形態で腕だけ展開させたナイトバードをガンダムに肉薄させる。ガンダムはナイトバードの手を取り、後ろ向きにぶら下がるような姿勢となった。

 

 また、轟音が響いた。クルーゼの侵入時よりもさらに大きな音だ。カガリは咄嗟に耳を塞ぐ姿勢を取り、トウカも首を竦めた。

 

 ヘリオポリスは資源採掘用の小惑星に居住区の筒が突き刺さったような外観を有し、内部には本物の鉱山がある。

 その鉱山の岩盤が衝撃で崩れつつあった。もうもうと立ち込める土煙を掻き分け、白亜の大天使が姿を現す。

 

『戦艦……コロニーの中に……⁉︎』

 

 少年の唖然とする声が接触回線を通して伝わってくるが、トウカとカガリもまた慄いていた。

 

 ガンダムと同じくして秘密裏に建造されていた新型艦『アークエンジェル』。全長300メートルはあろうかという巨大さで、それでいて落ちてくるような危うさもなく浮かんでいる。

 

「なんてことを……」

「同感だ、おひい様。それに、下手をすればオレ達も危険さ。下の白いのはともかく、ナイトバードは友軍識別信号を持ってない。下手に動くと狙われるかもね……」

 

 大天使はクルーゼのシグーを認識すると、船尾よりミサイルを発射した。クルーゼはミサイルを迎撃しながらコロニーシャフトに回り込んで盾にする。シャフトに当たったミサイルが爆発する度に地表が揺れて嫌な音を立てる。

 

「地震なんか目じゃない恐怖があるね……」

 

 地球が崩れることはまずないだろうが、人工物であるコロニーはそうも行かない。

 

 ナイトバードはガンダムを懸架したままモルゲンレーテに到達する。

 

『武器──これか⁉︎』

『見つけたか?』

 

 放っておかれたトレーラーに載せられたままの『ランチャーストライカー』、それをガンダムは自らのバックパックに接続した。

 

『使えそうか……?』

『接続はできました。照準も……いけそうです!』

 

 長い砲身、320mm超高インパルス砲『アグニ』を構え、ガンダムはシグーに狙いを定める。

 

(ビーム兵器か。……!)

 

 クルーゼのシグーはコロニーの壁を破壊して侵入してきた。だがシグーの武装にアグニほども巨大なものは見当たらない。

 

「まずい……! 『ガンダム、少し待──』」

 

 トウカの静止は間に合わず、ガンダムは引き金を引いた。ナイトバードのモニターはホワイトアウトして見えなくなるが、それはガンダムも同様だった。

 

「避けた……」

「見えたのか?」

「いや。」

 

 モニターの景色はホワイトアウトしたままだ。だが何が起きたか予想はつく。

 

『こ……こんな……』

 

 ガンダムから少年の怯えを孕んだ声が無線を通じて入ってくる。

 

「『どうした?』……あぁ……」

「な……」

 

 

 モニターが復旧すると同時にトウカ達は見た。コロニーの地面にぽっかりと大穴が開いているのを。

 

「バッカやろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 カガリの絶叫が狭苦しいコクピットに木霊した。

 

 シグーはどこにも見当たらないことを鑑みれば、おそらく空いた穴から逃げていったのだろう。

 

『……一先ずの危機は去ったようだ。ラミアス大尉はまだ気を失っているか?』

『はい。その、実はガンダムに乗る前に銃で撃たれていて。』

『分かった。あちらの公園にベンチがある。そこに寝かせるべきだろう。頭を打ったのなら脳震盪の可能性もある。』

 

 それだけ伝えて無線を切った。

 

「……はぁ。」

「落ち着いたかい、おひい様?」

「これが……落ち着けるものか!」

「それでいい。あれを見ても冷めてるようならそいつは人でなしさ。……オレもそうなってる。」

「それは……」

「まともな神経の持ち主なら、他に仕事が選べるのに傭兵になどなりはしないよ。」

 

 そうは言いつつも、トウカの表情には明らかな焦燥と不安が浮かんでいた。

 

「おひい様。オレとおひい様、髪色一緒だね。」

「そうだな。肌の色と、片目の色も同じだ。」

「よし、それじゃおひい様は今からオレの妹ということで通す。」

「はぁ⁉︎」

「だってアスハの名を出すわけにはいかないだろう。」

「それは……確かに。」

「カガリ・カミナガ、日本系の名前だから違和感もないはずさ。」

 

 トウカは意を決すると、ナイトバードをガンダムの傍に停め、膝立ちでしゃがみ込んだ。

 

『こちらも、一度機体から降りる。』

『わかりました。』

 

 2体のモビルスーツが同時にコクピットハッチを解放する。そしてトウカは見た。アメジスト色の瞳をした少年が、女性士官を抱えて降りてくるのを。2人ともパイロットスーツを着ていない。マリュー・ラミアスの方は技術者のつなぎのような服装だが、少年は明らかに私服だ。

 

「キラ……なのかい……」

 

 ヘルメット越しに目が合った。お互いに驚愕に目を丸くし、しばし、唖然とする。

 

(あの子が? ガンダムに乗っていたってことはキラが、キラ・ヤマトがこの世界の主人公? この地獄のような世界の? ……冗談ではない!)

 

 トウカは史実を知らない。知らないが、知る者がいる。かと言って未来を知ろうとはしなかった。人生とは先行き不透明であるからこそそうで、変に知識を仕入れてならばトウカはこの世界を現実ではなく物語としてみてしまうようになる。それを危惧してのことだった。

 それを、今彼女は後悔していた。あの優しくものぐさな男の子が戦争に巻き込まれると言うのが許せないでいた。戦争に優しさは無く、そして面倒なことばかりだ。キラの性格でそんなところに放り込まれれば心が砕けてしまいかねない。

 

「トウカ?」

「知り合いか?」

「幼馴染だよ、おひ…カガリ。キラ、積もる話もあるけれど、ひとまずラミアス大尉の治療が先だ。」

 

 三人がかりでマリューをベンチに寝かせる。そこへ向こうのほうからキラの同級生たちが駆け寄ってきた。彼らが何やら言いながらガンダムに触ろうとするのを見て、トウカは声を荒げる。

 

「触るな! キミたちは人様のものに勝手に触ってはいけないと親から習わなかったのか、バカ者!」

「ご、ごめんなさい!」

 

 キラの友人たちはトウカの剣幕に恐れて慌ててガンダムから離れた。

 

「そんなにキツく言わなくても……」

「甘いねキラ。ラミアス大尉はあれを最高機密といった。外側を見ちまうのは不可抗力でも、内側を見れば後戻りできない。下手をすれば銃殺刑もあり得るんだ。」

「そんな⁉︎」

「それも沙汰次第だ。ラミアス大尉に判断を仰ぐしかないさ。だがあまり理不尽なこともないだろうさ。おまえたちはオーブ市民だからな。地球連合の独断で殺される可能性は低い。そうでしょう、ラミアス大尉?」

 

 トウカがマリューの顔を覗き込むと、キラとカガリも釣られて覗き込んだ。彼女はうっすらと目を開けて、そしてゆっくりと身を起こした。

 

「まだ痛みますか?」

「えぇ、そうね。……メタスのパイロットは?」

「オレですよ。」

「おんなの子?」

「ふふふ。傭兵が女の子だと舐められるもので。通信機にボイスチェンジャーがついているんです。国籍はオーブ。本名はトウカ・ラナ・カミナガ。今年の6月で17になります。」

「そう。それで、貴女の依頼主は?」

「こっちです。妹のカガリ・カミナガ。」

「妹がいたんだ?」

「後で諸々紹介するよ。」

 

 キラは視線をトウカと、続けてカガリに向けた。確かにトウカとカガリは似ている。違うのは、トウカの方はかなりの高身長であり、左右で瞳の色が違うオッド・アイである。左目はブラウンで、右目がアメジスト色。半分だけとはいえ同じ目の色だったことから、2人は友達になった。またトウカは髪に茶色いメッシュを入れている。この茶色もまた、キラの髪色と同じだ。

 

「で、どうでしょう大尉。オレ達の処遇はどうなりますか?」

「然るべきところに連絡を行い、その上で決めることとなります。」

「大尉の権限ではこの場で沙汰は下せない、と。」

「ええ。」

「そういうわけで……! キミ達もしばらくこちらのラミアス大尉と一緒に行動しなくてはなりませんよ!」

「なんで!」

「冗談じゃねえよ、なんだよそれ!」

「ぼくらはヘリオポリスの民間人ですよ? 中立です。軍なんて関係ないです!」

 

 マリューが子供たちの言い分を黙らせようと口を開いたのを、トウカは右手で制した。

 

「理不尽と思う? その通り……民間人だ? その通りさ……! だけど、どれだけ理不尽でもルールってものがあります。遊びでやってるんじゃないんだよ……! 軍事機密というからにはそれだけ重たいんだ……! 自国民の命がかかってる……その点マリューさんは実に誠実だ。他国民だからってキミたちの命を切り捨てることもできたのに、保護してくださるとおっしゃる。上からの指示を仰ぐと言うことはつまり、それまで守ってくれるってことさ。……でしょう、大尉?」

 

 そう言ってトウカは大尉に振り返り、パチリとウィンクした。その顔はひどく蠱惑的な色気を纏っていた。

 

「え、ええそうね。そうです。大人しくついてきていただけるのならば、あなたたちの安全は可能な限り保証します。」

 

 子供達は渋々、といった表情ではあるが、大人しくマリューのそばに並んだ。

 

 マリューと子供達、カガリはガンダムのパーツを載せたトレーラーで停泊しているアークエンジェルへと向かい、トウカとキラはモルゲンレーテの跡地で使えそうなパーツの回収を行うこととなった。

 

『久しぶりだね、トウカ。』

『あぁ。5年ぶりくらいか。……工業カレッジに進学したんだね。』

『うん。機械いじりは得意だから。』

『そうか。モルゲンレーテにでも就職するのかい?』

『トウカがいるならネェル技研でもいいかも。』

『モルゲンレーテほども給与は高くないよ。』

 

 プライベート回線で、2人だけの話をして、笑い合う。

 

『妹がいたんだね?』

『そうだね、カガリはお前と同い年さ。』

『?……それって……』

『本当に妹ならおまえが知らないはずはない。……本名がバレるわけにはいかないのさ。だから妹、と。だからそう振るまってくれるね?』

『分かったよ。でも心配しなくてもそっくりだからバレないと思う。』

『っふふ。そうか。おまえのお墨付きがあるなら大丈夫そうだ。』

 

 2人は月の幼年学校で知り合った。トウカの方が1つ年上で、1年はやく卒業し、そして地球に降りてそれきりだった。

 

『杖なしでも歩けるようになったの?』

『……治ったわけじゃない。むしろ逆でね。義足なんだよ。神経接続でホンモノ並みによく動くのさ。……いや、オレの場合は本物以上だったね。』

 

 トウカ・ラナ・カミナガは生まれつき体に幾つかの障害を負っていた。右目がほとんど見えていないのと、左足の付随で、月にいた頃は常に杖がなければ歩けなかった。

 

『地球に降りてすぐテロに巻き込まれてね。それで両親と死別することになった。』

『そんな……!』

『すまない。いきなり話すべきじゃないね、コレは。』

 

 ──「青き清浄なる世界のために!」──その叫びが聞こえたと思えば、熱と衝撃が彼女たちを襲った。父親のダン・カミナガとラナ・カミナガはトウカを庇って即死。トウカ自身もその後に瓦礫で手足を潰された。

 近くに病院があり、すぐに搬送されたはいいが、ぐちゃぐちゃになった手足は切除するしかなく、両足の太ももの半ばからと、左腕を肩からバッサリ。利き腕でもある

右腕が無事だったのは不幸中の幸いと言ったところだった。

 

 カミナガ夫妻はお互いの両親とは絶縁していた。それはナチュラルとコーディネイターでありながら結婚するのに反対され、それを押し切って駆け落ちしたからである。故に両親を亡くしたトウカは天涯孤独になってしまった。

 

 それを引き取ったのがネェル技研の代表だった。

 

『マスターは両親を知っていて、それでオレのことも気にかけてくれていた。だから両親が死んだ後、すぐオーブから飛んできて、それでオレの保護者になってくれたのさ。』

 

 そして技研の最新技術を注ぎ込んだ神経接続式の義肢でもって、トウカは手足が健在の頃のように否、それ以上に動けるようになった。その際「オレの失った手足より自由だ……!」と悪気なく叫んだところ、マスターは顔を真っ青にしてしまったのだが。実際に生身より自由なのが始末が悪い。

 その後、マスターから元ネタを教えられてトウカも真っ青になるしかなかった。

 

『敵襲か⁉︎』

『なんだって⁈』

 

 コロニーがまたもや衝撃で揺れ、複数のMSが侵入してくる。

 

『ミサイルを積んでいる……気をつけて! 撃ってくるよ! ちぃッ、コロニーにもお構いなしか!』

 

 トウカはナイトバードをブーストさせてジンに向かって飛び上がる。ガンダムの中ではキラが顔色を失っていた。ジンの装備が持つ破壊力がコロニーに向けられることを恐れていたのだ。

 

『キラ、武器を取れ! 攻撃される!』

 

 キラがソードストライクに換装している間に、トウカは庇うように前へと躍り出た。

 ナイトバードの肩部ガトリングバルカン2つともをジンに向ける。発射されたミサイルに対して弾幕を張り、迎撃を試みる。

 数発のミサイルを撃ち落とすことに成功したが、打ち落としきれなかったミサイルはナイトバードを追う。トウカはそれをクイックブーストを噴かせて機体を左右にスライドさせることで回避した。とんでもないGが彼女の内蔵を締め上げるが、これも高軌道型MSの宿命というものである。

 しかし回避したはいいが、外れたミサイルがコロニーのメインシャフトや地上とメインシャフトをつなぐ細いシャフトに当たって爆発する。細いシャフト、と言っても中央のメインシャフトと比べての話にすぎず、ちぎれたシャフトが複数の建物を押し潰してゆく。このままではコロニーは持たない。

 

『ミサイル持ちを優先すべきだね……!』

 

 両肩のバルカンを乱射して牽制しながらアサルトブーストでジンの内1機に急接近を試みる。

 

『落ちろ!』

 

 左腕を振りかぶり、パイルバンカーの先端をコクピット目掛けて突き出す。前に倒した機体と違い、殺さない手加減は不可能だった。

 胴体に大穴を開けたジンは、コロニーの重力に引かれて落下を始める。トウカは左腕を振ってパイルに付着した血液とも機械油ともつかない液体を払った。

 

「これが……戦争……」

 

 あまりにもあっさりと、人の命が1つ消えた。トウカは明確な殺意を持って敵を討った。その様をキラは恐れた。それはまだ彼が常人である証左に他ならない。

 

 ナイトバードは上を見上げた。

 

「赤いガンダムか……『一応聞くが、撤退する気は? これ以上はコロニーが持たない。』」

『殺しておいて、戯言を!』

 

 オープン回線から聞こえてくるのは明確な拒絶の意思。確かにトウカはザフト兵を殺した。ならばその怒りはわからないでもない。だが、

 

『殺しに来たんだ。殺されもするさ……!』

 

 とは言えども、ナイトバードの武装ではガンダム初め『GAT』シリーズの持つフェイズシフト装甲を貫けない。バッテリー切れになるまで攻撃を続けるか、あるいは装甲の無い関節部を狙う必要がある。

 

 向かってくる赤いガンダムとの間に、キラが機体を割り込ませた。

 

『ここはぼくが! トウカはアークエンジェルを……』

『1人で大丈夫なんだね……分かった……死なないで。』

 

 ナイトバードをMS形態へと変形させてミサイルの雨を縫うように飛ぶ。その後を赤いガンダム『イージス』は追いかけることをせず、ストライクの方を向いた。

 

 トウカはイージスの追ってこないのを確認すると、アークエンジェルの方へ飛んだ。75mmバルカンではジンの装甲を貫くのは難しいため、武装やエンジンを狙って数機を撃墜しつつ、アークエンジェル相手に通信回線を開く。

 

『こちらJ.1! カガリ達は無事か?』

『こちらアークエンジェル艦長マリュー・ラミアス。子供達は全員船に収容したわ。』

『了解。……艦長?』

『後で話すわ。友軍識別信号を貸与します。流れ弾に気をつけて。』

『了解だラミアス艦長。しかし、こちらもそろそろ弾切れが近い。着艦許可をもらいたいガ……ッ!』

 

 ヘリオポリスはいよいよ限界だった。ミサイルの爆発以外に、撃ち落とされたジンもまたバッテリーや推進剤、弾薬に引火して爆発していたのだ。蓄積したダメージはシャフトを一本、また一本と破壊していき、コロニーはその形状を保てなくなりつつある。そしてとうとう自らの回転の遠心力に耐えきれず、あちこちが捻じ切れ始めた。

 

『乱気流か。機体の制御が効かない……!』

 

 コロニー内部の空気があちこちの穴や亀裂から抜けてゆき、それによって発生した空気の流れがナイトバードを襲う。

 

 ──〈なぜ……なぜきみがッ! ヘリオポリスにっ……中立のコロニーに、なんでこんなひどいことをっ……!〉

 

 脳裏に言葉が走った。それはキラの声だった。悲しみと恐怖。そして怒り。

 

 ──〈おまえこそ……! どうしてそんなものに乗っている⁉︎ コーディネイターのきみが……なぜ地球軍のモビルスーツなどにっ……!〉

 

 彼に向けられる声。トウカに走ってくるもう1人の言葉。彼もまた月の幼年学校で出会った友人。

 

(嗚呼……アスラン、キミもそこにいるのか。そうか。オレはお前の仲間を殺したんだね……)

 

 コロニーが完全に崩壊し、シェルターが脱出艇として宇宙の暗闇に射出された。

 

 そしてナイトバードもまた乱気流に流されるままに、真空の宇宙空間に投げ出される。

 

 ──〈うあぁぁぁ──!〉

 

 ──〈キラ!〉

 

 宇宙空間に投げ出されようとするキラのガンダムを、アスランのガンダムが助けようと寄っていく。しかし荒れ狂う乱気流がそれを許さない。

 

 ストライクは隔壁の破片やその他のデブリと共に宇宙空間へと押し流された。

 

 トウカは蒼く煌めく宇宙を見ながら、キラの声を頼りにナイトバードのブーストを噴かした。

 

「居た! 『キラ、聞こえるか?』」

『トウカ?』

『無事で良かった。』

『ナイトバードも無事かしら?』

『艦長殿か。J.1、機体とパイロット共に無事だ。着艦許可を求む。』

『許可します。2人ともアークエンジェルへ帰投してちょうだい。』

『了解した。』

『了解しました。』

 

 トウカはメインモニターを見つめた。なんの事はない真っ黒で、僅かに星の瞬く宇宙がどこまでも広がっている。

 ナイトバードの上にガンダムを捕まらせ、トウカはアークエンジェルに向かった。

 




オリジナル機体
「ACM-X006 ナイトバード」
所属 独立傭兵ジャグラー部隊
開発 ネェル・デバイス技術研究所
生産形態 試作機
全高 24.0m
頭頂高 17.3m
全長(MA時) 20.5m
装甲素材 特殊チタン合金
動力 バッテリー

 技研の開発した宇宙作業用可変MS「ACM-N005 メタス・ワーカー」をベースに戦闘行為に耐えうるよう再設計された試作機。なおメタス・WはZの原点ではなく、ADAPT版を参考にしているためナイトバードのデザインもそれに近い。アームビームガンや頭部バルカンはない。代わりにクイックブーストや格闘戦に耐えうるよう腹部が改修されている。そのほか原点のメタスよりやや小さい。

 主人公機にメタスを選んだのは作者の初めて組んだガンプラがメタスだったから。また変形機構が単純と言うのもある。脚部にスカートがなく、肩が前後に長いなど、どこかACっぽいと感じたのも一因。
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