機動戦士ガンダムSEEDScary 作:機械仕掛けの守護天使
独自設定と組織とキャラクターをどんどん追加していきます。
Side ディエゴ・トレギア
少し前、俺は財団を設立していた。名を『タイコンデロガ』。人権保護ボランティアを目的とした団体だ。ブルーコスモスの中でもマシな連中を引き込んで、真の環境保護と人権保護を目的とした団体だった。ブルーコスモスに対抗する目論見もそうだが、一番はハーフコーディネイターの拠り所を作ることだった。
ナチュラルに非ず。しかしコーディネイターとも言い切れないどっち付かずの彼ら。どちらからも目の敵にされる彼らは、実はブルーコスモスに行くものが多かった。
コーディネイターの全てが好きでそう生まれたわけでもなく、自らの存在意義に嫌気がさし、その結果ブルーコスモスを拠り所とする。大抵いいように使い潰されるのがオチだが、それでも他に行き場がない。
戦争が始まる数年前。ナチュラルとコーディネイターの対立が日に日に悪化していた頃。ブルーコスモスの過激派が各地でテロを起こせば、その報復とばかりにコーディネイターが蜂起を始める。
*
時折起こる武力衝突。そのための道具に、コアモビルワーカーたちも使われた。違法改造による武装化コアモビルたちが、ぶつかり合うのだ。そして特に優れた改造技術と操縦技術を持った者たちは、流れのアウトローや傭兵となった。
また、罪を背負うこととなった。高々便利なモビルワーカーを世に出したくらいだと思っていた。手軽にパーツを完走できるのだから兵器転用も手軽だという事実に気が付かなかった。無論、技研は兵器転用を禁じている。戦闘用パーツ製造のライセンスも発行はしていない。
だが、それがどれだけの抑止になるというのか。ルールをきちんと守るだけのモラルがある者ならば、そもそも戦争など起こしはしないと考えればわかることだろう。
「
「トウカか……もう16時か。」
「ニュースをご覧になっていたのですか?」
「あぁ。また武装化コアモビルだ。巷じゃACMとも呼ばれてる。アーマード・コアモビル、だ。この世界にあるはずではなかった兵器群だ……性能で言えば、地上戦においては数を頼めばジンとも戦えるだろう……」
「ジンといえば、プラントで開発されているMSでしたか。性能としてはいかほどでしょう?」
「でかい的だな。今はまだ。何せモビルスーツという概念が発生して3年も経っていない黎明期だ。兵科としても運用コンセプトが定まっていない。というより究極の汎用機という立ち位置ゆえに、コンセプトを定める必要がない、か。現状の
二足歩行ユニットを製造しているコアモビルメーカーは殆どいない。四脚や六脚、変わり種で三脚といった多脚スタイルが多い。特に作業用クレーンの役割を持たせるのなら、安定感を重視するからだ。あるいは無限軌道を備えたタンクスタイルか。宇宙ではロケットの側面から胴体が生えたようなホバータンクタイプも使われるが。
総じて完全な人型をしたコアモビルは現状存在しないと言える。トウカの言葉を借りれば現在のACMはMTの立ち位置が近い。モビルタンクではなくマッスルトレーサーの方だ。
いや、タンクというのも言い得て妙か。
テレビを消し、テーブルを挟んでトウカの向かいのソファに腰掛ける。
コーヒーはインスタントだが、トウカの淹れるそれは酷く濃い。心なしかドロリとした質感にも見え、泥水と彼女が評するのも頷ける。
決してまずいというわけではない。濃く黒くドロリとしている泥水のようなフィーカが彼女の趣味というだけだ。反面、カップケーキは甘味を強くしてある。
「戦場ならば、味気ないレーションを選びますが……」
「ここは平和だ。甘く、美味く、それでいいだろう。」
例え、薄氷の上だとしても。
*
Side 孤児院襲撃事件
C.E69年、トウカの15歳の誕生日を2ヶ月後に控えた春の頃、トウカはとある発展途上国の孤児院へと訪れていた。ディエゴの出資するタイコンデロガ財団が支援するプロジェクトの一環である。多忙なディエゴに変わり、個人の様子を見にきたのだ。
この国はお世辞にも治安が良いとは言い難く、この孤児院から10分もしないところにスラムや闇市が並んでいる。財団はスラムへ向けた炊き出しも行おうとしたことがあるが、炊き出しの食料をめぐって死人が出たのでこれを断念せざるを得なかった。
だからだろう。救いを得られなかった大人が、無垢な子供に憎悪と妬みを向けたのは。あるいは孤児院の人口比率でナチュラルが最下位だったこともそれを煽ったか。
*
突然の攻撃が建物を揺らした。
「シェルターへ! 急いでください!」
トウカは小脇に幼子を抱えつつ、自身のボディーガードに先導させて地下シェルターへと駆ける。生身より自由で、生身より強く、生身より早い手足は、そのためにあるのだとトウカは自負していた。
「お嬢、連中、もう入ってきてやがる。」
子供達の目に入らないよう角度を気にしつつ、ボディーガードのダムド・ヘイズはハンドガンを構える。
「血生臭くなる……お子様に見せて良いもンじゃねぇ……行け!」
ダムドに足止めを任せ、トウカは孤児と職員を連れて地下室へ続く階段を目指す。
残されたダムドはもう一丁のハンドガンを左腕に構えた2丁拳銃スタイルへと移行する。そして窓を割って入ってきたテロリストの眉間をノータイムでぶち抜いた。威力の高いマグナム弾は、侵入者の脳天をヘルメットごと貫き、後頭部を吹き飛ばす。
「お嬢曰く、こーいうときはこう言うんだと……」
またもや現れた侵入者をノールックで撃ち殺し、廊下に新鮮な脳髄を飛び散らす。
「仕事を増やすンじゃねぇ。……殺すぞ。」
元ユーラシア連邦軍人で、射撃の名手と呼ばれた男が彼だ。両腕を欠損して退役軍人となった身だったが、タイコンデロガでトウカと知り合い、彼女に紹介される形で技研製の機械義手を手に入れた。
射撃の腕前はそのままに、生身より強い腕力と保持力により、今やマグナムの2丁拳銃さえお手のものだ。
「テメェ!」
「ぶっ殺してやる!」
激昂した俗物たちが群がるが、それは悪手でしかない。360度ぐるりとダムドを取り囲むテロリストたちだったが、ダムドはその場で回転しながら連射し始めた。デスブロッサムと呼ばれる技だ。
だが彼のそれは一味違う。デスブロッサムは基本乱射だが、彼は連射だ。一発撃つごとに1人ずつ死ぬ。頭が真っ赤な花となって。
最後に1人の男を残しあとの十数人は皆、屍山血河の一部と化した。
「仲間の人数は? 場所は?」
「助けてくれ!」
男は恐慌状態にあり、ダムドの問いに答えなかった。持っていたマシンガンを取り落とし、走って逃げてゆく。
「……ふぅ。」
その男の頭部をぶち抜きつつダムドは息をつく。シガーボックスを取り出し、廊下に貼られた『全館禁煙』の文字に気がつくと、バツが悪そうにしまった。
弾の切れたピストルを投げ捨て、空いた左手にテロリストの持っていた機関銃を拾い上げる。
そうして彼はカツンカツンと足音を響かせながら、歩き出した。逃げ遅れた者がいないか見回りつつ、見かけた敵を始末する。
(ケータイは圏外か……妨害電波が出ているか? 寄せ集めの襲撃者ではなく組織だったテロリストだな。雑兵ばかりだが、装備が変に潤沢だ。マシンガンにも……錆び弾が見当たらないな。裏で糸を引く奴がいるな……襲撃の規模は想定より大きいと見るべきか……ターゲットはここだけじゃなくこの街全体か?)
間違いなくブルーコスモスが関与しているだろうが、テロというのは本来政治的な主張のためのものだ。だとすれば連中は単なる殺戮が目的とは思い難い。
「タイコンデロガへの嫌がらせだろうな、間違いなく。ここの孤児を人質にとって代表をどうこうするつもりか……」
ブルーコスモスの上層部がどの程度関わっているかが問題である。幹部クラスが関わっていれば、軍や警察の助けは遅れに遅れることだろう。
ダムドはまたため息を付きつつ、足を進めた。
*
ダムドと別れたトウカは道中の孤児や職員に声をかけつつ、ようやくの思いで地下シェルターへと辿り着いた。
「いたぞ! コーディネイターのガキどもだ!」
「青き清浄なる世界のために!」
ハンドガンを構えた男が2人、シェルターの入り口を見つけてしまった。
重い扉は頑丈だが、閉じるには重い。男たちは銃を構えている。力自慢の男職員が扉を引っ張っているが、トウカの優れた頭脳はこのままではコンマ数秒男たちが引き金を引く方が早いと弾き出した。
「……やるしか……ないか……!」
トウカはシェルターから飛び出すと、クイックターンの如く踵を返し、扉に体当たりを仕掛けて強引に閉じ切った。男たちが扉を閉める青年を狙った弾丸は、一発がシェルターの扉に命中し、もう一発がトウカの左腕に当たった。キン、と音を立てて跳弾が起きる。
当たったのに痛がらず、血も流れないトウカを見て、男たちは僅か一瞬フリーズする。
その隙にトウカは2人を押し退け、猛然と走った。
「待て!」
追いかけてくる二つの殺気を後ろに感じつつ、トウカはハンドガンの乱射を躱しながら渡り廊下から繋がるガレージへと走った。
(ただ逃げるだけではいけないね……あの2人を始末しなければ、他のテロリスト達にシェルターの場所が知られてしまう……!)
ダムドと合流するべきだろうが、ケータイは何故か圏外。シェルター内には固定電話もあるが、おそらくそれも繋がらない可能性が高いと考え、彼女は速度を緩めた。
*
ガレージの奥にあるもの、孤児院の建設で使ったモビルワーカーが一台、残してある。無論武装化コアモビルではない通常のものだ。
それでも彼女の目的には事足りる。
最高速度はタイヤや無限軌道には劣るが、走破性と安定感に優れた四脚タイプに、人間の腕と似せた形状の精密作業用アーム。技研性のアーキタイプの一つ『N-Gigworker』フレーム。
コクピットにはパイロットの腕の動きをトレースするシステムが組み込まれているが、それを使用するときは移動ができないプログラムになっている。クレーンでものを吊るしたまま走行するようなものだからだ。
トウカは音を立てないように操縦席に滑り込み、システムを起動する。コクピットは安価なキャノピー型ではなく、気密性の高いモニター型であるため、音を立てなければしばらくは見つからないだろう。
座席裏のレバーを引いて、メンテナンス用キーボードを露出させたトウカは、なるたけ静かに、かつ迅速にOSを書き換えて行く。移動しながら腕を振れるように。
「──面倒だね……いっそのこと……」
トウカは自身の左腕、その肘下を取り外し、上腕のカバーを外す。そこにはデータ運動データを抽出するためのコネクタが存在した。この世界におけるUSBのようなもので、普遍的な接続規格である。
トウカはそのコネクタに、腕部トレースシステム用の長手袋じみた操縦装置から引き抜いた配線を接続すると、右腕だけでOSの書き換えを続けた。
*
トウカを追っていた男2人はガレージの中をのそのそと進んでいた。トウカが逃げながら手当たり次第に棚を倒していったのでなかなか先に進めないでいた。
「孤児院のガレージにしちゃ無駄に広いな……」
「あんな小娘もう無視して同志達にシェルターの場所を伝えに行くべきでは?」
「そうかもしれんが、あの小娘、弾丸を弾きやがったのが不気味でな……」
「どうせ義手だろう?」
「その割には動きが良すぎる気がするが……」
「どうでもいいから、もう戻ろうぜ。」
「そうだな、そうするか。」
そうして踵を返そうとする2人。しかしそのうちの背の高い方が、ガレージの奥にゆらめく赤い光に気がついた。それはセンサーの光であった。
「モビルワーカー?」
そうして視線がその機体に集まった瞬間、頭部に備わった作業用ライトがハイビームで一瞬たかれ、目眩しとなった。
「──メインシステム、戦闘モード、起動。……ふふ。」
独ごちて、トウカは機体を発進させる。いうまでもないがモビルワーカーのメインシステムに戦闘モードは存在しない。
切り替わったのは、トウカの精神である。
頭頂高8mのギグワーカーが仕事を開始する。今回の仕事は清掃だ。
目を抑えてうずくまる男の片方を左腕で握って持ち上げる。肋骨が折れて嫌な音が響き、呻く声を漏らすが、トウカとって知ったことではない。
そのまま勢いよく地面に叩きつける。潰れたカエルのように手足がありえない方向に曲がっている。大の大人があっけなく死んだ。
トウカはその光景に何の感慨も抱かず、冷静にもう1人のターゲットを見据えていた。
「ひ、ひっ!」
顔を引き攣らせて踵を返すが、遅かった。あっさりと追いつかれ、振り下ろされたアームハンマーで地面の染みと化す。
「排除完了。索敵開始。」
ガレージのシャッターは開いている。ギグワーカーはゲイン……ゲイン……と四つの脚を踏み鳴らしながら外へ向かった。
「襲撃対象はこの町全体のようだね……孤児院だけではないらしい……青き清浄なる世界……ブルコスか……戦力は、武装化コアモビルワーカーが、ひぃふぅみぃ……見える範囲でも5つ。」
しかし武装はいずれも対人兵器に限られるようだった。あれではモビルスーツどころか普通の戦車にも勝てはしないだろう。金属装甲を打ち抜けるサイズの砲はないらしかった。
「まぁ、この町に戦車隊なんて常駐していないけれど……」
だから想定する必要はない。人体を損壊できる威力があれば良いのだろう。建物の破壊もする必要がない。狭いところには歩兵がいる。起動兵器は大雑把な範囲攻撃と移動性能があればいい。
「ミッション目的更新……適性起動兵器殲滅、および民間人避難の支援。働くとしましょう、ギグワーカー!」
フットペダルを踏み込んで全速力で駆け出す。
左腕を機体の背中側に回し、背負った
アーマード・コアモビルなどと言われていようと武装化であって鎧化ではない以上、装甲らしい装甲はなく、あるのは外装。対人用の銃器で穴が開くようなものでもないが、鉄筋コンクリートを破壊できる威力があればぶちぬけないものではない。
「……こんなふうになるんだね。」
無惨に穴の空いた武装化コアモビルを眺めて独ごちる。
全速力で接近すれば装備したサブマシンガンを撃ちながらの後退を試みる敵性タンク型コアモビル。しかし後ろを見ていなかったのか、建物に阻まれてそれ以上下がれず、かといって装備している武装ではコアモビルの外装を抜いてトウカを止められず、あっさりとパイルの餌食となった。
血液とも機械油ともつかないドス黒い液体が杭の表面を伝う。
「……怖かったですね。ふふ。」
バッテリーにはまだまだ余裕があった。流石はモルゲンレーテ製と感振しつつ、次なる獲物を探してギグワーカーは脚を進める。
*
力を持っているという慢心とでもいうべきか、コアモビル乗りのテロリストたちは単独行動が多く、また発生している妨害電波はテロリスト達にも影響があるのか、トウカの駆るギグワーカーを警戒する様子は微塵も見られなかった。
一つ、また一つと残骸が増えてくるたびに、トウカは作業に飽きてきた。これではまるで暗殺だ。
ACを冠する兵器を駆りながら、闘争にすら持ち込めない雑魚ばかり。殺しに来たのに殺される覚悟もないのが断末魔からも伝わってくる。末端の雑兵というのは、えてしてその程度のものなのかもしれないが、そう言ったところでトウカの苛立ちは治らない。
「さっさと終わらせよう……戻ってフィーカを飲めば、気も晴れるでしょう……楽しくもない仕事を増やしてくれて──!」
また一機の敵機にパイルをぶち込み、パイロットをミンチより酷い状態にしてから引き抜く。
「ありがとう存じます。ではご逝去あそばせ……」
撃破した武装化コアモビルワーカー15台。排除したテロリスト歩兵7人。
範囲攻撃ができる武装がないので対人は掴んで潰すか、投げるか、叩きのめすか、轢き殺すしかない。踏み潰すには足のサイズが足りない。
面倒だが、モビルワーカー共を全てスクラップに変えたのちは無理に対人戦闘は行わず、避難者の盾となった方が賢明だろうと考えつつ、次の獲物を探そうと振り向いたその時だった。
『そこまでだ。』
外部スピーカーを介して放たれたであろう男の声。
一際重武装のモビルワーカー。しかも下半身がプロトジンのジャンクと思わしき二脚。右腕腕にはジンのマシンガンを携え、左腕には大型の火炎放射器。肩にはピッチングマシーンを改造したかのようなグレネードランチャーが備わっている。
頭部や胸部に備わった大型のアンテナを見れば、この敵が妨害電波の発信源かつ、テロリストの指揮官であるのは明白だった。
『……同志たちをよくも……ここで死んでもらうぞ化け物が! 青き清浄なる世界のためにもな……』
『はぁ……宗教というのは面倒ですね……ふむ……言葉が通じることと話が通じることがイコールではない、というのがよく理解できました……』
『何を戯けたことを──』
流れ込んでくる相手の感情。正義の怒りを燃やし、ぶつけんとする激情。コーディネイターは排除すべきもの。人間ですらない怪物と本気で信じて疑わない。
二脚で跳躍し、一気に距離を詰めてくる二脚機体。トウカも慌ててバックステップで距離をとる。
ジャンプができるというのは厄介だった。トウカがOSを書き換えたとはいえ、ギグワーカーは跳躍を想定していない。追加したモーションパターンは地面が平らである前提の動きだけだ。着地し損ねてバランスを崩せば、その後の姿勢次第で完全に動けなくなる。
「──ジンのOSだな、そういう動きだ……!」
違和感の正体が判明する。相対する敵機の頭頂高は17〜18mほど。モビルワーカーとしては大きい。プロトジンの脚をつけただけではここまで全高を大きくできるには縦長の胴体が必要だ。
「コアモビルに見せかけてはいるけれど、違う!」
この敵は本物のMSだ。プロトジンのパーツをひっぺがして適当なパーツに付け替えているだけで、中身は変わっていないのだろう。
なぜ偽装しているかはともかく、これは非常に危険な状況だった。
機動性も、走破性も、パワーも、火力も、動きの自由度も、何一つギグワーカーが勝る要素はない。
だというのに、トウカは自身の血が沸き立つのを感じた。魂が、逃げることをよしとせず、立ち向かおうとするのを感じた。
身体が、戦えと、言っていた。
「……ふふッ! 言葉は、今は不要ですね……」
マシンガンの乱射を躱し、火炎放射器の炎を突っ切って懐に潜り込まんとし、グレネードをサイドステップで避ける。
わずか一発の被弾が命取りになる。どうしようもなくヒリついた空気。
その日、トウカ・ラナ・カミナガは己の存在理由を悟った。
*
side ディエゴ・トレギア
トウカの向かった孤児院近辺でそこそこ大規模なテロがあったというニュース速報を聞き、俺は椅子から転げ落ちそうになった。
俺がコアモビルワーカーなど世に出さねばここまで大規模にはならなかったのでは、と思うがそれはもう後の祭り。
俺は書斎の隠し棚の奥にある機密回線の直通電話の受話器を手に取った。
「俺だ……そうだ、まさにその件だ……あぁ、感謝する。」
ブルーコスモスにも、話のわかる者はいる。過激派幹部であっても、直接暴力は法治国家としてどうなのだ、と至極真っ当な考えに至ったやつだ。
彼からもたらされた情報では、ブルーコスモスはその環境保護
それでも町一つ滅ぼさんとする規模だ。そこまであからさまに出動しないわけはないだろうが。
電話向こうの友人には「とうとうキミも親バカですか。」などと言われたが、俺はトウカの親ではないと言っておいた。
孤児院の地下には3ヶ月は籠城できるシェルターがある。核爆弾にだって耐えられる強度だ。軍の出動まで、十分持つと思いたい。
*
プライベートジェットで隣国の空港に行き、あとは陸路で目的地へ向かう。件の友人が便宜を図ってくれたために、可能な限り速く、そして詳細な情報がもたらされていた。
「武装化コアモビルに偽装したプロトジンのジャンクだと……⁉︎」
MSはすでに実践投入されている兵器とはいえ、ナチュラルの手に渡るのが早すぎる……
「……操縦できると思うか?」
後部座席の隣に座るボディガードに問えば、否という返事が返ってきた。
「自分は第一世代コーディネイターではありますが、技研で組んだ技術実証用のMSもどきでさえ手に負えませんでした……コーディネイターでさえ誰もが扱える代物ではないのですから、到底ナチュラルに扱えるとは……」
「だろうな。モビルワーカーの操縦とは違う。コアモビル系は全て自動車の操縦と似た感覚で動かせるが、自動車は飛んだり跳ねたりできないだろう。完全な人型をしている。だから人と同じ動きができる。その操作を、たかだか2本の操縦桿とフットレバーだけで行うんだ。モーションパターンを組んで操作に合わせて繰り出すタイプならともかく、おそらくはほぼほぼマニュアル操作だろうな……」
「聞いてるだけで頭痛がするようです……自分は免疫系しか弄られていませんから、反応速度や思考速度が間に合うとは思えません。戦場に出ればそれこそ巨大な的でしかないでしょう。」
「まぁ、その問題もそのうち無くなることだろう。訓練次第ではコーディネイターは誰でも扱えるレベルのOSが完成するだろうな。ザフトとしてはナチュラルの手にさえ渡らなければいいのだから……」
それがブルーコスモスの手に渡って、あまつさえ操縦できるものがいるのだからプラントとしては恐ろしいことだろう。
クルーゼが裏で手を引いている可能性もあるか、と思った。……既に白服になっているかはわからないが、それなりに高い地位にあれば、何かできることもあるだろう。
俺はメンデルの伝手でギルバート・デュランダルとも連絡を取ることはできる。しかし彼にとってクルーゼは友人だ。ただ連絡先を知っているだけの知人という認識レベルである以上、俺に情報を渡す理由もない。
何より、クルーゼにとっては俺もまた憎い存在だろう。俺が不幸になれば、小躍りして喜ぶに違いない。
「……ッふぅ〜……そのプロトジンだが、撃破されたらしい。他のモビルワーカーともどもな。」
俺はボディーガードに一枚の写真を見せた。テロリストの武装化コアモビルワーカーが、大穴を拵えて沈黙していた。もう数枚似たような有様のモビルワーカーの写真と合わせて彼に手渡す。
「戦車が仕留めたのでしょうか?」
「偽装のためにスラスターやブースターはかなり外されていたようで、本物よりは機動性が劣る。戦車でも狙いをつけられる程度のスピードしか出せなかった可能性もある……と思っていた。」
「事実は異なると?」
「あぁ。」
俺はプロトジンの残骸が写った写真を見せた。あちこちひしゃげてボロボロだが、穴は空いていない。だがコクピット周辺に執拗な攻撃の痕跡が認められ、おそらく機体がイかれるより先に、パイロットが潰れて死んだと推測できた。
「これは……戦車ではこんなふうにはできませんね。爆弾、とも違うような?」
「凶器はその写真の中に見えている。」
「え?」
俺の言葉に彼は目を丸くして、もう一度写真を見る。
「建物の残骸しか他に写っているものは……」
「それだ。鉄筋コンクリートの柱が粉々になっているだろう。それでひたすら殴られ続けたのだそうだ。」
「は?」
「やったのはトウカだ。」
「お嬢様が、ですか?」
「孤児院のイベント用にモビルワーカーを一台置いてあった。標準型のギグワーカーフレーム一式だ。……炊き出しの事件がなければあのギグワーカーで芋煮を作る予定だった……馬鹿でかい鍋でな……」
「工業用機械で食べ物を混ぜるんですか?」
「昔のジャパンで行われていた行事だ。当時はパワーショベルだったが、新品の上、油圧シリンダー内部の油やグリスなどの機械油が食用油やバターなどに置き換わったそれ専用の代物だった。無論一度使ったあとは翌年以降は使われない。他の企業に払い下げだが、縁起物として人気を博していたな……」
「つまりお嬢様は油圧シリンダーに食用油の詰まったモビルワーカーでジンを倒したと? 素手で?」
「素手では他の機体を穿つ穴を説明できないだろう……デブリ粉砕用のパイルバンカーをガレージから持ち出したようだ。あそこらは地盤が硬い。畑を作るにはまず地面を砕く必要があったからな、通常の耕作用装備の他にその手のものも置いてあった。一応大型チェーンソーもあったはずだが、金属を切れるものではないから置いていったのだろう。」
杭打ち機を武器にするという発想はこの世界ではあまり見られないらしかった。実際パイルバンカーという武器種は実用性が低いのもそうだ。同じエネルギーがあるのなら射撃武器にしたほうが良いからな。レールガンを作る技術があるのなら尚更だ。
モビルワーカーどもには対人用火器しか備わっていなかった。それこそ戦車サイズの砲ではなく、アサルトライフルやサブマシンガンを無理やりくっつけてタレットのようにするような代物だ。メインターゲットが生身の人間であればそれで足りたろうが、ギグワーカーの外装を抜くことはできん。反面うちのパイルバンカーはPS技術を使っているからな。並大抵の素材では防げんほど硬い。トウカの操縦技術を持ってすれば排除は容易だっただろう。
「……どんなものも使いようというわけですか……ではなぜジンにはそれを使わなかったのでしょう?」
「いくつか仮説はあるが、もう着く。本人に聞くとしよう。」
俺たちは車を降り、案内された建物へと入っていった。
*
トウカ達は半ば軟禁状態にあった。テロリストどもを殺しまくった重要参考人だというのもそうだが、同時に彼女らを守る意図もある。
「
「あぁ。明日にはここを発つ。オーブに帰れる許可は出させた。こちらでの取り調べも終わっているだろう。」
「えぇ。その上で全面的な正当防衛も認められました。」
ダムドともどもだ。トウカのギグワーカーとプロトジンとの戦い、その一部始終を見ており、また報告用に写真を撮っていたのは彼だった。
単純なキルスコアはダムドのほうが上だろう。彼を手放した連邦軍は後悔しているかもしれん。
「どうやってジンを倒した?」
「そうですね……やはり厄介なのはブースターによる高い跳躍と、戦車の装甲でさえ抜けるであろうサイズのマシンガンでした。」
「どう対処した?」
「弾が切れるまで躱し続けました。いかんせん激昂しているので、殺気がダダ漏れで読みやすい動きでしたよ。遮蔽物は無数にありますから、ロックオンを振り切るスピードがなくても、ある程度どうにかなりました。問題だったのはその後です。」
弾切れを起こしたマシンガンを投げ捨て、グレネードランチャー、というより手榴弾を詰めたピッチングマシンでの攻撃を主軸にされた時がいっとうきつかったと彼女は言う。曲射で建物越しの爆撃。また音がやかましくて集中力を途切れさせそうになったようだ。
「そちらも弾切れを起こして、最後の武器は火炎放射器だけです。しかし射程距離はグレネード以下で、なおかつ炎で視界が遮られるので、向こうもこちらを狙いにくいと苛立っていましたね。」
トウカは炎の中を突っ切って接近し、パイルバンカーを打ち込もうとした。
「それで、ダメでした。先端が滑ったんです。胴体の装甲が分厚くて刺さりませんでした。……装甲に対して垂直に打ち込めばあるいはいけたかもしれません。あるいは途中まで刺さったところ抜けなくなって、こちらが身動きを封じられていたやも。」
だが、機動力で劣るはずの存在に懐まで迫られたのに恐れをなしたか、言葉の威勢はそのままに、動きがますます消極的になったのだと言う。
「スラスターを吹かした大ジャンプで建物を飛び越えながら距離を取る動きにシフトしました。そうされるとこちらは追いつけませんし、跳躍しても届きませんから。」
トウカも、着地の隙を狙ってコンクリートの破片を掴んで投げるなどはしたようだが、当然ジンにダメージを与えられる攻撃ではない。
「ですが、最後はほとんど向こうの自滅でしたね。」
大ジャンプの途中で推進剤が切れて、尻餅を着くように墜落。そこを近くにあった建物の柱を何度も何度も叩きつけて、トドメを刺したのだという。
「打つ手無しと見るや、迷いなく自爆装置を起動しようと考えていたようで、安心できず、そこで
ケロリと言い放つ。人を殺しても、全く気に病んでいないようだった。
俺に言わせれば、MS戦闘は人殺し入門の適性が高い、と思う。
シュレディンガーの猫、と言うべきか、敵機を撃破したからと言って、中身が人間という証拠はその場ではわからない。あるいは、無人機が人のように振る舞っていないとも言い切れない。「あれは人間じゃない」という意識が心にかかるストレスを軽減するのだ。そしてMSは撃破されると大抵推進剤かジェネレーターに引火して爆発四散する。人の痕跡が残る可能性は低い。
だが、これらはニュータイプには当てはまらない。ある種の読心能力を持ち、人の存在を知覚するからこそ、確かにそこに人がいて、その瞬間に死に絶えたことを認識、自覚してしまう。
だからこそニュータイプ能力は高いが繊細さゆえに割り切りが苦手なカミーユ・ビダンの精神は砕け散ったのだろう。
だが、トウカは人の死を認識しようとも、なんとも思っていないようだ。今回撃破した敵機には安価なキャノピータイプもあった。中に人間が入っているのがシルエットでくっきり見えている。
それすらもパイルバンカーで容赦なくぶち抜かれていた。パイロットは当然ミンチより酷いこととなっているだろう。しかしともすれば即死していない可能性もある。トウカはそれを直視した上で、死にゆくものの思念を感じ取っている。
人を人とも思わないわけではない。テロリストに怒りや憎悪を燃やしているようでもない。飄々と、普段の雰囲気と変わらないまま、相手を殺せる。おそらくは、昨日まで仲良くしていた相手であろうとも、戦場とくれば容赦も迷いもなく命を奪えるのではないか? その上で殺した友を偲ぶこともするだろう。
おそらく今回の出来事で精神が破綻してこうなったわけではあるまい。俺はカウンセラーではないが、しかし普通のカウンセラーの手に負える存在ではあるまい。彼女の普通、健常がこれなのだ。
「……また、オレを恐れましたね?」
「すまん。」
「いいんですよ。前も言ったでしょう? 自覚はある、と。ふふ、あぁ、今、
歌うようにそう呟いて、彼女は笑う。ひどく色っぽく、その裏に正気の狂気を湛えて。
「あのジンと戦った時、この上なく追い詰められていると感じました。そしてそれで、最高に生きていると実感できたんです。あぁあ、オレの魂を震わせてくれると!」
それ以上、聞くべきではなかったのかもしれない。俺は大人として、子供を諌め、止めるべきだったのかもしれない。
だが、止められるはずがない。俺に、なんの権利がある? 彼女をこの世に生み出した責任を負うものとして、彼女の生き方を好きに選ばせるべきではないか?
例え、その果てに、理不尽な死を迎えようとも。
*
Side ???
「そうですか。」
部下からの報告を受け、わたくしは驚くほか無かった。
我々の邪魔になりかねないタイコンデロガを排除する一助となるならば、と今回の襲撃に手を貸しましたが、たった1人によって全てが瓦解させられるとは……
偽装したプロトジンとの戦闘映像を確認すれば、マシンガンを的確に躱して接近を試みている。調べによれば、当時の乗機は一切の武装化が行われておらず、ただ、OSチューンの痕跡のみあったと報告を受けている。それによってバックステップやサイドステップを行えるようになっていた、と。
OS書き換えのタイミングは、かなり直近。襲撃の最中だった、とも。
戦いの最後の方では頭部を吹き飛ばされていました。一応メインカメラは胴体にあり、頭部は可動式のライトでしかないようですが、フラッシュバンがわりにも使っていた小道具が一つ消えたのは痛手のはず。
なのに、グレネードの熱でメインカメラも壊れたあとは、コクピットを開け放っての有視界戦闘を行い、その状態で火炎放射器を前に立ち回る。
無論流石にそれまでより安全マージンを広く取って回避しているようで、それでも回避のために接近する必要が生じたときには迷いなくそうしているようにも見える。
恐怖が存在しないのでは? と錯覚した。チラリと見えた彼女の表情は明らかに笑みを湛えていたのだ。
これはあの方に報告をあげるべきかもしれない。イレギュラー13の候補としては十分でしょう。ハートの
報告の後、あの方は正式にトウカ・ラナ・カミナガをイレギュラー13に加えるとおっしゃられた。ハートの9のナンバーがあの少女に与えられたのである。
わたくしには確信があった。彼女はいつの日か必ず、我々の前に立ちはだかる。人類の存続、その妨げになる。
彼女の対策は全て任せると命じられたからには、なんとしても排除する術を考えなくてはならない。
まずは、目障りで過保護な技研から引き剥がさなければならないでしょう。
これからの計画を試算しながら、わたくしは自分のオフィスへ戻った。
???女史はオリキャラです。あの方、の方はアストレイのキャラの予定ですが、トウカの宿敵はどちらかというと???女史の方になるでしょう。
そもそもあの方、のキャラクターも組織の全容もわからないので、でっちあげ設定マシマシになります。
それからMSの操縦系統も妄想です。
パワーショベルの動きでさえ複数レバーなのにそれより少ない操縦装置で人の動きを再現するなら、よっぽどシステムとパイロット技術がなきゃあ無理でしょう、と。