機動戦士ガンダムSEEDScary   作:機械仕掛けの守護天使

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 ネェル、とは「〜に近きもの」の意


PHASE 03 汚れる手

 

 アークエンジェルの艦内に警報が鳴り響いた。

 

「敵襲か!」

〈敵艦影発見! 敵艦影発見! 第一戦闘配備! 軍籍にある者はただちに持ち場につけ!〉

 

 トウカはノーマルスーツの上に羽織っていたライダージャケットをカガリに押し付け、ブリッジへと走った。

 

〈──トウカ・ラナ・カミナガならびにキラ・ヤマトは艦橋へ。トウカ・ラナ・カミナガならびにキラ・ヤマトは艦橋へ……〉

 

 キラ・ヤマトは悩み迷っていた。彼にはトウカに伝えられていないことがある。アスラン・ザラ、彼もまた幼馴染であり、赤いMS、イージスのパイロットであると。次の戦場では、彼と戦うことになるかもしれない、と。

 

 それでも、何もしないという選択肢はもう無かった。

 

 キラがブリッジに入ろうとしていると、向こうからゼミの仲間たちが歩いてきた。驚いたことに彼らは皆軍服に身を包んでいる。

 

「トール……みんな……どうしたの、その格好?」

「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ。」

 

 カズイの言葉にキラはきょとんとする。そこにサイが説明を加える。自分たちも艦の仕事を手伝う、キラにばかり戦わせて何もしないのは御免だ、と。

 

「それにあのトウカって人、俺たちとそこまで年変わらないんだろ?」

 

 人の心の温かさが、キラを包んだ。

 

 キラはパイロットスーツに身を包み、格納庫へと現れた。

 

「来たのか? それは、キミの意思で()()()んだな?」

「うん。戦いたいわけじゃないけど、みんなを守りたい。」

「俺たちだってそうさ。意味もなく戦いたがるやつなんざそうそういない。」

「昔のエライ人はこう言ったそうだよ、戦争なんてハラが空くだけだ、とね。でも、誰かが貧乏くじを引くかなければならないのさ。それで、オレ達はここに居る。」

 

 トウカはまた無意識にキラの頭を撫でていた。

 

「そうだな。今は、戦わなきゃ守れねえから戦うんだ。」

「キラ、守ることだけ考えるんだ。迷う者は弱いからね。」

「分かったよ。」

「いい子だ……よし、おまえには特別にCS(コールサイン)J.8(ジャグラー・エイト)』を貸与しよう。」

 

 トウカはそう言ってドッグタグをキラの首に掛けた。

 

「これはジャグラー部隊の証明だ。……全て終わったらウチから報酬を出すよ。命をかけるからには、相応の見返りがあるべきさ。それに、オレと合わせて1足す8で9だ。験担ぎにも丁度いい。」

「昔からそうだね。9にこだわるのは。」

 

 ブリーフィングは簡単に済まされ、パイロットたちはそれぞれの乗機に向かった。

 

 作戦はシンプルだ。現状、アークエンジェルは前後に敵艦がいる状況になっている。後ろのローラシア級にはそのうち追いつかれる。しかし慌てて前へ進めば前方のナスカ級が振り返って遅いくる。

 故にムウのメビウス・ゼロがひっそりと先行し、前方のナスカ級を叩く。ガンダムとナイトバードはその間、アークエンジェルを防衛する。

 

『じゃあな、坊主。とにかく艦と自分を守ることだけを考えろ。嬢ちゃんは上手くエスコートしてやれ。』

『承知。』

『はい。──大尉もお気をつけて!』

 

 メビウス・ゼロは落ちるように艦から離れていった。

 

『さて、次はオレ達だね。──大丈夫だ。お前は後衛さ。船から離れないでいればいい。オレの後ろにいるんだ。』

『ガンダムが前に出た方が──』

『オレはお姉ちゃんだからね。下の子を前に出す上の姉は居ないものさ。オレよりも、みんなのことを考えるんだ、できるね?。──J.8! 分かったら復唱してごらん。』

『っ……J.8了解!』

『いい子だ。』

 

 不意に、もう1人の声が通信に混ざった。

 

『ミリアリア?』

『以後、私がMS及びMAの戦闘管制となります。……よろしくネ。』

『ふふ。随分とかわい子ちゃんのオペレーターだね? 気合いを入れないといけないよ、戦友。』

 

 機動戦特化のエールストライクに換装したガンダムと、ナイトバードが艦の左右それぞれのカタパルトに固定される。

 

『J.1、ナイトバード発進よろし!』

『了解。そのまま待機してください。』

 

 その直後、マリューの号令に合わせてアークエンジェルがエンジンを始動させ、同時に前方のナスカ級めがけて主砲を放つ。

 

『──前方ナスカ級よりMS発進を確認!──イージスです!』

(アスランか……やるしかないようだ……!)

 

 せめてキラの手を汚させずに終わらせるしかない。

 

『J.1! ナイトバード発進です!』

『ふふっ。了解だオペ子ちゃん。』

『オペ子ちゃん⁈』

 

 びっくりするミリアリアをよそにトウカはナイトバードを発進体制に移らせる。ゆっくりと開いたハッチの向こうには黒い宇宙が広がっている。

 

(この暗さが、どこか懐かしさを覚えさせてくれる。生身で出たら即死のはずなのに、どうしても飛び出したい想いに駆られる。……宇宙生まれにとっての母なる海なのだろうね、これが。)

 

 ──〈キラ……!〉

 

 言葉が走ると同時に、トウカの目に映る宇宙(そら)が蒼く染まった。

 

「来るか、アスラン……。『J.1! ナイトバード、出る!』」

 

 カタパルトがナイトバードを射出する。その直後、反対側のカタパルトからガンダムが射出された。

 

『ガンダム、前に出過ぎるな。』

 

 ナイトバードをMAに変形させ、アポジモーターを最大出力、アサルトブーストでイージスと接敵する。キラは当初の通りアークエンジェルからそう遠く離れずに周囲を警戒する。

 

『邪魔だ!』

 

 オープン回線でアスランの苛立ちが混じる声が届く。

 

『おまえ達は! キラの優しさに漬け込んで!』

『なら、あの船に残った彼の友人たちに死ねというのかいアスラン・ザラ!』

『女⁈ いや、その声は!』

 

 イージスの動きが一瞬硬直した隙にナイトバードの蹴りが炸裂する。RPデバイスによって限りなく人体の動きをトレースして繰り出されたそれは、イージスを大きく弾き飛ばした。アスランは即座に背部スラスターで姿勢を安定させ、ナイトバードに近づかんとする。

 

『トウカ? トウカ・ラナ・カミナガなのか⁉︎』

『覚えていたのか。だが今は傭兵のJ.1だ。』

『そんな! あり得ない! ジャグラー部隊は、トウカは血のバレンタインで死んだはずだ!』

 

 その言葉にトウカは目を見開いた。確かに彼女は去年のバレンタインにユニウス・セブンにいた。輸送船団を宇宙海賊から警護する仕事が終わった直後だったのだ。

 

『レノアさんに会いはしたけれどね、オレは生き延びたよ。J.2とJ.3はユニウス・セブンを守ろうとして核に巻き込まれた。ジャグラー部隊はオレだけが残った。』

『おまえ達はユニウス・セブンの……プラントのために戦ってくれたはずだ! なぜ地球軍に!』

『勘違いをする……! オレ達はいつだって力なき市民の味方さ。 あの船にはおまえ達が壊したせいで放り出された避難民が乗ってるんだ……! キラの学友もね。』

 

 ナイトバードの右肩にマウントされたバルカン砲がイージスに浴びせられる。しかしPS装甲に守られたイージスには傷一つ付きはしない。

 

『血のバレンタインを、その悲劇を嘆くのなら、なんでコロニーにミサイルを撃ったか言え……!』

『っ……』

 

 アスランは何も言えない。ただ機体をバルカンの射線から外そうと動きはするが、かといってナイトバードを撃墜しようと思えなくなってしまった。

 

(──殺気!)

『アスランを誑かすか、ナチュラル!』

 

 そこへ一条のビームが放たれる。トウカはその攻撃がわかっていたかのように最低限の動きでそれを躱した。

 

『新手……またガンダム……!』

 

 奪われたGのうちの一機、『デュエル』がビームライフルを構えて突っ込んできた。

 

『手に負えないって言うんなら俺がもらう! 下がっていろ!』

 

 尤もなことを言いながらディエルのパイロット、イザーク・ジュールはイージスを下がらせる。

 

(数撃ちではね……)

 

 放たれるビームをナイトバードはすいすいと躱す。が、突如として機体を反転させてライフルを構える。ロックオンアラートが鳴るか鳴らないかの内に放たれたビームは、イザークの脅威的な反射によって掲げられたシールドに防がれた。

 

(隙がないな。ガンダムを任されるだけのことはあるエリートってところだね。)

 

 そもそも右腕のお粗末な可動ではエースパイロット相手に射撃を当てるのは難しいと判断したトウカは、左腕の盾と右手のライフル、左肩のパイルバンカーをジャグリングのように入れ替えた。これにより右腕にパイルバンカー、左腕にライフル、左肩ハンガーで背中にシールドがマウントされた状態となる。

 

 その僅かな隙を好機と見たデュエルは確実に仕留めんとビームサーベルを構えて急接近を行う。

 

『もらった……!』

 

 しかし、ナイトバードはサーベルが振り下ろされる寸前に肩のスラスターを吹かせてクイックブースト回避を行う。空振りによって隙を晒したデュエルにビームライフルが突きつけられる。だがまたしてもイザークは反射的に逆噴射で射線を切った。トウカのライフルが射撃の反動で跳ねた、ように見えた。

 

 即座に狙いを変えたライフルは、デュエルが逆噴射で下がるその先に狙いをつけ、ビームを()()ように撃った。

 

 イザークは完全に虚をつかれた。一発目、ライフルが跳ねたのは撃った反動ではなかった。完全なマニュアル操作で反動だけを演じ、撃ち終わったと錯覚させられたことに気が付いた。

 

 それでもなんとか回避行動を試み、コクピットへの直撃こそ免れるが、ライフルを撃ち抜かれて破壊された。

 

 爆炎で一瞬何も見えなくなる寸前、赤いモノアイが迫ってくるところだけが見えた。

 

『イザークっ!』

 

 アスランの叫びが無線越しに届く。イザークは咄嗟にシールドでコクピットを庇った。

 

 ──ズガン……!

 

 と、衝撃が走る。ナイトバードのパイルバンカーがシールド越しにデュエルの腕を貫いていた。ちょうど、PS装甲のない肘関節に特殊チタン合金の杭が突き刺さり、しかしそれで勢いが殺されて本来狙われていたメインカメラは無傷だった。

 

 ナイトバードはディエルを蹴り飛ばして距離を取った。パイルが引き抜かれる衝撃でデュエルの左腕は完全に千切れ飛び、爆発する。

 

「パワーダウン……だと!」

 

 イザークは叫ぶ。メインモニターの映像にノイズが混じり、機体の動きもぎこちない。パイルバンカー越しに高圧電流を流し込まれたのだ。

 

 トウカは止めを指すべくビームライフルでコクピットをロックオンした。

 

『悩んだまま戦場に出れば、その()()は自分以外に降りかかる……!』

 

 無線越しにアスランはトウカの声を聞く。その言葉は、彼女自身に言い聞かせているようでもあった。

 

『やめろーーーーォッ!』

 

 イージスが、デュエルを庇うように躍り出る。その動きを読んでいた、あるいは待っていたかのようにトウカはクイックブーストで離脱。MA形態に変形するとアークエンジェルへ向かって翔んだ。

 

『──アスラン……貴様……!』

 

 装甲の色を取り戻し、システムが完全に回復したデュエルがイージスに並ぶ。無線に乗ったイザークの声はなじるような色を孕んでいた。アスランはその責めを、黙って受けるしかなかった。

 

(悩むヤツは弱い、か。オレもだ。あのパイロットの声から察するに、アスランとそう年齢が変わらなかった。……子供が戦場になんて出てはいけないよ……!)

 

 トウカは自分のことを棚に上げてそう思った。

 

 アークエンジェルは奪われたGのうち、バスターとブリッツに取り付かれていた。キラのストライクとはというと、一機のジンに足止めをくらっている。オレンジのシールドと、そこに描かれた海賊旗を思わせる髑髏のエンブレムが、そのパイロットを『黄昏の魔弾』ことミゲルであると示す。

 

 ヘリポリスでの彼は専用機の調整が間に合わなかったために通常ジンで出撃していた。だが今は、通常のジンではナイトバードの機動力に追いつけないと判断し、予備機として保管されていた『ジン・ハイマニューバ』に専用機から使い慣れた武装をいくつか載せ替えて出撃してきたのである。

 

 彼はその人生で2度も傭兵にいっぱい食わされている。だからこそ、もう油断はしないという覚悟がそこにはあった。右腕の痛みなど、彼の精神の前にはないも同然だった。

 

 突如としてジンのコクピットに鳴り響くロックオンアラート。雨霰と撃ち放たれるバルカンを振り切り、ミゲルはナイトバードを睨みつける。

 

『キラ、アークエンジェルへ向かうんだ……! このジンはオレが引き受ける……!』

「来たか傭兵!」

 

 ジンのライフルが火を吹くが、ナイトバードはクイックブーストで回避、したところにもう一発ビームが飛ぶ。クイックブーストはリキャストタイムが存在し、続け様には行えない。ナイトバードの機首、その前半分が吹き飛んだ。

 

「巧い……」

「伊達に魔弾と呼ばれていない!」

 

 ナイトバードを変形させ、トウカはライフルとシールドを持ち替えた。バッテリー残量にはまだ余裕があるが、その分ナイトバードは防御力に欠ける上、推進剤残量もそう余裕はない。

 離脱してアークエンジェルへ向かおうとするガンダムを狙ったビームをシールドで防ぎながら、トウカは気合を入れた。ハイマニューバと戦うのは初めてだが、やることは変わらない。蝶のように舞い、蜂のように刺す(ヒットアンドアウェイ)

 

 高機動型MS同士によるドッグファイト。お互いPS装甲のように大量のバッテリーを食うような性質もなく、故に気にすべきは推進剤の残りのみ。

 

「MSは機動兵器だ……」

「足を止めた奴から死ぬ‼︎」

 

 黒と橙、二つの彗星が青白い尾を引きながら何度もすれ違う。たった一発で決着は付く。ミゲルはビームサーベルを、トウカはパイルバンカーをコクピットに当てればそれで済む。しかしその一発が当たらない。躱し、防ぎ、逸らす。

 

「そこ!」

 

 サーベルを振るった後隙を目掛けてパイルを突き出すが、ジンは肩のスラスターで横にスライドして躱した。

 

「クイックブースト……︎⁉︎」

 

 増設されたスラスターによるクイックブーストは効果覿面だった。いつもしていることを敵にやられたトウカは明らかな隙を見せる。とは言えミゲルもミゲルで追撃を行うどころではなかった。一応の設定はトウカのナイトバードを観察したデータから割り出して決定された動きにはなっている。しかしその瞬間的な横Gは凄まじく、コーディネイターと言えどもタダでは済まない。トウカとて両足と左腕が義肢で、なおかつリニアシートの対G機構があるからこそできる芸当だった。ジンのシートでは本来想定されていない動きである。

 

 だがそのGをコーディネイターとしての優れた肉体と精神力で押さえつけ、ミゲルはナイトバードに迫る。

 

「落ちろ傭兵!」

「急拵えの翼でこうも高く羽ばたくか……!」

 

 ミゲルは伊達に異名を持つものではない。トウカのナイトバードが右腕のみ動きがぎこちないことなどとっくに見通していた。徹底して常に右側から近づく。

 

 ビームサーベルがナイトバードの右腕を切り飛ばさんと振り下ろされる。

 

 しかし、サーベルが当たる寸前でトウカはナイトバードの右腕をパージした。

 ビームサーベルと言えども切り付ける際には切るものに応じた手応えがある。その手応えを想定して動いた上で、空振ったからには想定と事実の間に生まれた齟齬が隙となる。

 

 致命的な隙。

 

 ナイトバードは左腕を振り上げる。シールドの裏にマウントされたビームブレード、それが起動され、勢いよく振り下ろされる。

 

 ミゲルはスラスターを吹かせて回避行動に移るが、ビームの先端がモノアイを破壊し、胸部装甲を切り裂いた。

 必殺の気迫を持って放ったはずが、致命傷に至らず。もう一度ブレードを起動して横薙ぎに払うと、ジンはコクピットに命中することこそ避けたが、両足を切り飛ばされた。だがそれでナイトバードのバッテリーは危険域に突入し、警告音が響く。

 このブレード威力は高いが、電力消費が尋常ではない。それゆえ斬りつける一瞬にのみ刃を展開させるのだが、それでも満タンの状態から10回も振れない奥の手であった。

 もう一振りを行う前にミゲルはスラスターを吹かせて距離を取る。

 

 その時、アークエンジェルが信号弾を打ち上げた。

 

『トウカさん! フラガ大尉が成功させました。』

『承知した。帰投する。』

 

 ミリアリアの声を聞き、ナイトバードに右腕を回収させるとトウカはアークエンジェルに向かった。ボロボロのハイマニューバを追うより、キラと合流することを優先したのである。

 

 キラは2体のGに翻弄されていた。盾を構え、ライフルの照準を合わせようとするが、バスターとブリッツの連携を前にそれはままならない。実弾はPS装甲に任せ、致命的なビームのみを盾で弾く。そういった動きは民間人とは思えないほど的確ではあるものの、やはり攻撃という行動に伴うためらいが振り払えないでいた。

 

 そして必死になるあまり、彼はガンダムのバッテリーが危険域に突入していることを示す警告音に気が付かない。

 

 アークエンジェルも援護射撃をしようにもGの動きの激しさにフレンドリーファイアを警戒して撃てないでいた。

 

 とうとうストライクのバッテリーは帰還用のわずかな電力を残すのみとなり、それに伴ってPS装甲の色が落ちた。

 

(しまった!)

 

 そうして初めてキラはバッテリー切れに気がついたが、戦場では致命役な隙を晒してしまう。

 

「やらせない……!」

 

 トウカはアサルトブーストを吹かせてガンダムへ近づこうとする。だが彼女より一瞬早く、赤い機体がストライクをかっさらった。4本足のイカのようなMA。イージスの変形した姿だった。

 

『ブリッジ! キラが連れていかれる!』

 

 端的にそう告げつつ、右肩のバルカンでイージスを狙う。しかしバスターとブリッツが壁となって攻撃が届かない。

 

「実弾耐性がこうも牙をむく……!」

 

 バッテリーゲージをチラと見る。ブレードはあと1回、パイルバンカーも後3回使えるかどうか。ライフルはバッテリーカートリッジ式であり、後3回は撃てる。問題はトウカの腕で当てられるかどうかだ。

 

(やるしか……ないか……!)

 

 シールドとライフルを持ち替える。向かってくるバスターとブリッツに牽制のバルカンをばら撒きながら、冷静に照準を合わせる。

 イージスを追わんとするナイトバードと、それをさせまいとするバスターとブリッツとの1対2の戦闘が始まる。バスターは中・遠距離特化の機体であり、ブリッツは近距離戦闘を得意とする。

 

「小指が赤い糸で繋がったコンビ……というのだったか……!」

 

 この組み合わせの相性の良さが、ナイトバードにはあまりにも荷が重かった。

 

 一方、イージスに捕まえられたストライクのコクピットの中に、共に戦線を離れるデュエルとの通信、アスランとイザークの言い合う声が響いていた。

 

『この機体、捕獲する!』

『なんだとぉ⁉︎ 命令は撃破だぞ!』

『捕獲できるなら、その方がいい! 撤退する!』

 

 その言葉にキラはハッとして操縦桿を握り締める。

 

『離してアスラン! ぼくはみんなを守らなくちゃいけないんだ!』

『おまえはコーディネイターだ! 俺たちの仲間なんだ!』

『それじゃトウカはどうなるのさ!』

『トウカはおまえとは違うんだ。傭兵なんだ! おまえがこちらに来てくれれば俺から隊長に口添えしてこちらに引き入れられる!』

『それであの艦を沈めるのかっ! あの艦にはトウカの妹や、ヘリオポリスの避難民が乗ってるんだ!』

『……だったら生け捕りにするよう隊長に──』

『さっきから隊長隊長って! きみは何もできないって自分で言ってるようなものじゃないかっ!』

 

 アスランの性格なら嘘はないのだろう。だがその隊長とやらが一隊員に過ぎないアスランを慮る義理も義務もありはしない。そもそも民間人の被害を鑑みずにヘリオポリスを攻撃する作戦を指揮した隊長が、アークエンジェルの避難民を機にするような人物とは思えなかった。

 2人は交わす言葉を失った。その時、衝撃がイージスを襲う。ムウのメビウス・ゼロが戻ってきていたのだ。

 

 イージスはメビウス・ゼロの攻撃を防ぐためにキラを解放してMS形態に戻るしかなく、自由になったストライクはすかさずイージスから距離を取った。

 

『フラガ大尉!』

『離脱しろ! アークエンジェルがランチャーストライカーを射出する!』

『えっ……』

 

 キラの脳裏に思い起こされる情景。アグニによって穿たれたヘリオポリスの大穴。あの破壊力を、また手にしてしまうのか。

 

『急げ、嬢ちゃんもピンチだ! バッテリーがほとんどない!』

 

 しかし続け様に告げられたムウの言葉にキラは迷いを振り切った。全速力でアークエンジェルへ向かう。追いかけようとするイージスはメビウス・ゼロのガンバレルによる弾幕で動きを封じられる。それを抜け出したデュエルがストライクを追いかけ、そしてグレネードランチャーをロックオンする。

 デュエルのグレネードが着弾するのとほぼ同時に、ストライクにランチャーパックが装着された。パワーパックからの電力供給を受け、PS装甲に色を取り戻したガンダムは、爆炎を一条のビームで切り裂き、デュエルの右腕を吹き飛ばした。

 

 続け様のビームをイザークは両腕のない機体でなんとか躱し、いち早く撤退していく。それを護衛するかのようにイージスが間に割って入った。

 

「トウカは……」

 

 あたりを見渡して、そして赤いモノアイの光を見つける。

 ナイトバードは左腕を喪失していた。背中に背負った機首もアポジモーターを備えた根元のエンジン部分しか残されていない。その状態でもブーストを吹かせシールドバッシュと蹴りだけで2体のGと渡り合っていた。

 

「トウカから離れろ!」

 

 アグニが火を吹く。バスターとブリッツはそれを躱すと、戦線を離脱して行った。

 

「助かった……?」

『よくやった、坊主。』

 

 そう言ってムウはメビウス・ゼロをガンダムの横に寄せる。

 

「っ!」

 

 ガンダムがムウの方を向くと、その向こう、離れた位置にライフルのスコープがきらりと輝いた。ミゲルのハイマニューバがムウの機体を正確にロックオン、今にもビームが放たれようとしていた。

 

「死ね、ナチュラル!」

「やめろっ!」

 

 キラがアグニを向けるが、しかしその引き金が引かれるより早く、ジンのライフル、その銃口から光が漏れる。

 

 放たれたビームは僅かに上にそれ、何も貫くことなく霧散していった。

 

 ハイマニューバのコクピットを巨大な金属杭が貫いていた。その衝撃で銃口が上にずれたのだ。トウカのパイルバンカー、その奥の手。杭のロックを解除し、完全に射出させる。

 

 ミゲルは胴体の下側をぐちゃぐちゃに潰され、しかし即死していなかった。彼の脳裏に、故郷に残した母と弟の姿が浮かぶ。病弱な弟の治療費を稼ぎ、家族を守るために、彼はザフトに志願したのだ。

 

 死にゆく彼のその肉体を、アグニのビームがこの世から完全に蒸発させた。推進剤に引火し、ハイマニューバが爆散する。後には、ヒビだらけな上にひしゃげてボロボロの杭だけが残された。

 

「トウカ?」

 

 ナイトバードのモノアイから光が失われる。そのコクピット内で、トウカは肩を抱いて丸くなっていた。

 

「なんだ! なんだって? なぜ彼の家族の顔がオレの頭に浮かぶんだ! オレは……誰を討った?」

 

 死にゆくミゲルのその思念が、家族の肖像が、言葉が、トウカの頭にまだ走っていた。トウカにとってミゲルは名も知らぬ敵でしかないはずだった。

 そしてその声は消えておらず、まだ息のあったパイロットをアグニのビームが灼いた。

 

「ごめんなさい。カリダさん、ハルマさん……オレのせいで、キラを……人殺しにさせてしまいました……」

 

 涙と血反吐がヘルメット内に溜まる。ヘルメットのバイザー越しに、宇宙(そら)は蒼く輝いていた。

 





 ここのキラくんはトウカのせいでまだ誰も殺していませんでした。
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