機動戦士ガンダムSEEDScary 作:機械仕掛けの守護天使
書き溜めが尽きました。一応脳内プロットは完成していますが、非戦闘シーンは執筆ペースが落ちてしまいますね。
次々あたりで思いっきり戦闘を挟みたいと思います。
キラに引っ張られるようにして、ボロボロのナイトバードがアークエンジェルに収容された。
「担架を持って来い! 医務室だ!」
ヘルメットに溜まった血反吐と涙で溺れかけていたトウカは、ムウの手配した医療班によって処置を受け、医務室のベッドに寝かされていた。
「トウカ……」
「キラ。すまないね、取り乱していたようだ。もう大丈夫だよ。」
上体を起こし大きく伸びをする。壊れたままの左腕は上がらない。
「ふむ。やはり片腕のままでは不便だね。」
「修理しようか?」
「そうだね。お願いするよ、戦友。」
トウカはベッドの傍らに腰掛けるキラの頭を撫でた。
人殺しには慣れたはずだった。それだというのにトウカの胸中には迷いが渦巻いている。
考えれば当たり前のことで、敵兵にも帰りを待つ家族がいる。ならば最後に走馬灯として彼らを想起するのも当然のことだ。今までは機体の性能差によってパイロットに死を想起させるまでもなく斃せていたか、殺さず手加減する余裕があったかだった。あるいは、トウカの能力の成長によって、その想いを読み取れる相手が増えてきただけなのだ。相手を深く理解してしまうようになったからこそ、トウカは苦しむことになる。誰だってよく知る人物が死ぬのは嫌だからだ。
(心を閉ざそう。機械のように正確で、迷わないものになろう。)
冷たい覚悟がトウカに生じた。
「っ……キラ?」
「ごめん。トウカ、ごめん……」
突如として、キラがトウカを抱きしめた。
「……アスランのことだね?」
囁くように告げれば、キラは小さく頷いた。
「いいんだ。知っていたさ。……レノアさんがユニウスセブンで亡くなった時、オレもあそこにいたんだ。オレは、あの人を助けられなかったんだよ。それなのに、今度はアスランの仲間を手に掛けた。」
いつもは近接で仕留める。人を殺した感触が左腕に残る。だからこそ、己の罪を忘れずにいられる。だが今回はそうではない。ミゲルを貫いた、その最期の感触をトウカはこの先永遠に知らないままだ。
「……キラ、戦場は……どうだった?」
「──苦しいよ。敵のガンダムだって殺したくて来てる感じじゃなかった。」
「そうだね。そうなんだよ。……彼らだって故郷を守りたいのさ。この艦が正式に連合軍と合流すれば、先陣を切ってザフトと戦うだろうからね。そうなる前に落としたいのさ。殺すことそのものは過程に過ぎないんだよ。ザフトを守るため、彼らにとってはそうなんだ。……キラ……もうガンダムに乗りたくないんなら、それでも構わないよ?」
キラは頭を横に振る。
「トウカは、戦うんだろ?」
「あぁ。それが仕事だからね。」
「どうしても……殺さないといけないのかな……?」
「こちらに余裕があるのなら、攻撃のたびに一切の犠牲なく確実に追い返せるのなら、それもアリさ。……現状、そんな余裕はないから、確実に戦力を削ぐしかないんだ。でもね、おまえは誰も殺してはいないさ。あのジンはオレが殺した。おまえは、それを荼毘に付しただけ……」
そう言って、トウカは思い出した。あの時、トウカはパイルバンカーをナイトバードの右腕で構えていた。
「あぁ……ふふ。とうとうこちらの手も、血に濡れてしまったようだ。……こんな手でおまえに触れるわけにはいかないね。」
そう言って撫でる手を引っ込めようとするが、キラはその手を掴んで離さなかった。
「……戦友なんでしょ。トウカが殺したんじゃない。ぼくたちで殺したんだ。ぼくたちジャグラー部隊で。」
アメジスト色の美しい瞳がトウカを真っ直ぐ見据えていた。
「そうだね。でもね、ナンバーはオレの方が上だ。だから責任はオレの方が大きいよ。」
「でも独り占めはできない、でしょ?」
「全く。聡い子だ……」
トウカは柔らかな笑みを浮かべた。
壊れた義手をキラに預け、トウカは居住ブロックに顔を出した。
「ト……姉さん!」
「や、カガリ。少々不覚を取ってしまったよ。さっきまで医務室にいたんだ。」
「……姉さんは無茶をし過ぎだ!」
「自覚はしているんだ……
「そういう問題ではない!」
「そうだね。オレがいなくなったら誰がキミを守るのか……軽率だったよ。」
「……そういうことで良い。」
カガリはやれやれと頭を抱えた。
「ふふ。そうすねないでおくれ。」
「すねてなど……! これは?」
トウカは自身のポケットから取り出した小さな金属製の十字架をカガリの手に握らせた。チェーンの部分が玉鎖の数珠のようになっている。その鎖もまた本体の十字架と同じ素材のようだった。
「これはね、オレがマスターにもらったお守りさ。とても大事なものなんだよ……これをキミに預ける……ちゃんと受け取りに帰ってくるという印に。」
そうしてトウカはカガリに背を向けた。
「撫でていかないのか?」
「撫でて欲しかったのかい?」
トウカが蠱惑的な笑みを浮かべて問うと、カガリは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
アークエンジェルがアルテミス要塞に到着したのは、トウカが食堂でレーションを食べている時だった。
「ここにいたか、嬢ちゃん。……その袋は?」
「ナイトバードの非常食ですよ。前に2日ほどコクピットだけで遭難したことがありましてね。味気ないレーションというやつです。おひとついかがでしょうか?」
「ん、じゃありがたく……何味だこれ?」
「ネギ味です。……ところでオレに何か御用でしたか?」
「あぁそうだった。入港前にちょっとな。坊主にも言ったんだが、MSのOSをロックしておけと。」
「あぁ──なるほど。アルテミスはユーラシアでしたか。」
「話が早くて助かる。」
トウカが格納庫へ向かうと、ちょうどキラがナイトバードのコクピットから出てくるところだった。どうやらガンダムのOSをロックするついでにナイトバードにもそれをしてくれたようだった。なぜキラがナイトバードのOSにアクセスできたかといえば、トウカがOSの改良を依頼した際にパスコードを教えたからである。これによりナイトバードの右腕の動きは少し改善されていた。
「──でもどうしてなんだろう?」
「そうだね、連邦と連合の違い、かな。……おそらく、この後嫌でも思い知ることになるよ。」
果たしてその言葉は現実となった。アルテミスに入港したアークエンジェル内に兵士が突入してくる。そして一同は銃を突きつけられたままに食堂に集められ、マリューやナタル、ムウら士官は彼らとは別に連行された。
しばらくのちにアルテミス所属の士官がドタドタと食堂に入ってきた。先頭の禿頭が基地司令のジェラード・ガルシアと名乗り、その上でMSパイロットは誰かと尋ねる。
「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたいことがあるんなら、大尉にどうぞ。」
マードックがそう言うが、ガンバレル付きのメビウス・ゼロを操縦できる人物がムウだけである、とジェラードにあっさりと論破された。どうやら先の戦闘をモニターしていたらしく、ナイトバードがある以上、ムウ以外にパイロットが2人いるはずだ、とも言う。
「まさか女性がパイロットとは思えんが……ん?」
ミリアリアの腕を取り、痛がる彼女を無理やり立たせようとしたガルシア司令の目線がトウカに止まった。トウカは地球軍の制服ではなくパイロットスーツの上からライダージャケットを羽織ているいつもの格好だ。
「君はパイロットだね。」
「ええ。そちらのハウさんはオペレーターですよ。」
「ほほう! ではあれかね。そちらの赤髪の少女が黒い方のパイロットかね?」
赤髪の守護天使、そのエンブレムから同じ髪色のフレイをナイトバードのパイロットだと断じたガルシアがミリアリアの手を離し、彼女に近づこうとするのをトウカが立ちはだかって遮る。
「あのエンブレムは偶然彼女と同じ髪色なだけですよ。髪型は違うでしょう。あのナイトバードはオレの機体です。」
絡みつくようなプレッシャーがガルシアを襲う。しかし、この男もだてに基地司令を預かる身ではなく、小娘1人の威圧を跳ね除けるくらいは訳がなかった。
「ふむ。では、あれをよく見せてもらえないかね?」
「それは命令でしょうか? それとも個人的な依頼ですか? どちらにせよ、オレにそれを受ける義務はありません。」
「なんだと!」
「独立傭兵ジャグラー部隊所属、トウカ・ラナ・カミナガ……地球軍の指揮下ではありませんし、あの機体はネェル技研から情報秘匿を対価に使用を許されている機体です。戦闘を見て外側から得たデータは構いませんが、内側のデータはお見せできません。どうしてもと言うのならば、技研へ正式に許可を求めて下さい。」
ガルシアはぐぬぬ、と歯軋りをした。その顔は悔しそうに歪んでいる。階級を笠に着た命令という正攻法が封じられたのがよほど悔しかったようだ。
(確かに、いばり腐るのが好きそうな顔をしている。声は……結構大御所みたいだね……)
トウカはトウカで内心とても失礼なことを考えていたが。
「で、ではGのパイロットは誰かね?」
「キラよ!」
フレイが叫んだ。彼女は話の流れで今度こそ自分が立たされるのを恐れたのだ。フレイの指はまっすぐキラを指していた。
「ふむ、彼かね。しかしパイロットにしては貧相な体つきだが……」
「本当よ! だってその子、コーディネイターだもの!」
トウカは頭を振ると、キラを庇うように立った。マードック達もあちゃーと額に手を当てる。
ガルシアの部下がギョッとした表情で銃を構えたが、トウカの一睨みで硬直する。
「彼を連れて行くのならば、オレも連れて行っていただきましょう。彼はJ.8、オレの部下ですので。」
先ほどとは打って変わってトウカの表情はゾッとするような無表情だった。その声色もまた絶対零度のプレッシャーを帯びている。
「あぁ……フレイ・アルスターさん、貴女には後で
「ひっ──」
「どうやら社会科の補習が必要なご様子……いえ、あるいは家庭科で裁縫にいたしましょうか。そのよく動く舌、縫い付けるべきかもしれませんね……?」
連行されて行く寸前、トウカはそう告げた。それはフレイにとって死刑宣告に聞こえた。
カガリはそれを横目に、ミリアリアの袖をまくり、赤くなった腕にクリームを塗ってやった。
「……覚悟した方がいいぞ。姉さんはやる時は本当にやる。」
そのダメ押しで、フレイはとうとう崩れ落ちた。
「──OSのロックを外せばいいんですね。」
「ふむ……それはむろん、やってもらうがね……君にはそう、もっといろんなことができるのだろう?」
「ふふ。人の戦友を口説かれては困りますね、ガルシア司令。」
「いやはや、なんなら君もうちに来ないかね? 君の戦いもモニターしていたが、あの動き、並のパイロットにはできんよ。」
ガルシアはねっとりとした目つきでトウカを見つめる。その嫌な視線をトウカは涼しい顔で受け流した。
「ありがたい申し出ですが、辞退させていただきます。……好きに生き、理不尽に死ぬ。オレの座右の銘です。」
「ほう……して、その心は?」
「あらゆる生命が生まれかたを選べない。ならば、後選べるのは生き方と死に方だけです。ですが……その二つともを選べると考えるのは些か傲慢が過ぎるかと……ならば一方だけ、というのであればオレは生き方を選びたい、それだけの話です。」
軍人は上官が命じた通りに動き、そして死ねと言われれば死ぬ。ある意味では生き方も死に方も選べない職業だ。むろん徴兵ではなく志願ならば、軍人という生き方を選んだことになる。しかしトウカはその生き方を望まない。
「独立傭兵は……決して安定した職業とは言えませんが、しかしあらゆることを自分の自由意志に於いて選ぶことができます。仕事の場所や、内容、報酬。果ては殺す相手をも。……オレは殺す相手を選んできました。生かす相手も。軍人にそれができますか?」
ガルシアは寒気がした。目の前の女、その瞳の奥にある底知れない黒に触れてしまったような気がした。宇宙のように真っ黒で、何ものにも染まらない、染められない自由がそこにあった。
「なるほど、大層結構な行動理念だ。で、あるならばキラ君が軍に入ると選んだなら、引き留めはしないのだね?」
「勿論ですとも。彼の人生は彼のものですから。」
「──だ、そうだ。どうかね。君ならば我がユーラシア連邦でも重宝されるだろうね。地球軍側につく裏切りもののコーディネイターは貴重だ。」
「うらぎりもの……⁉︎」
キラの脳裏にアスランの言葉が蘇る。彼はキラを仲間と言った。しかしキラは彼の手を振り払った。他ならぬ、自分の意思で。
トウカはフリーズしたキラの顔を覗き込むと、その頭を撫でた。
「キラ、気にすることはないよ。……ガルシア司令はご存知でないようだ。裏切りという言葉の意味を辞書で引いたことがないらしい。」
「なんだと!」
「そう激昂なさらずに……司令殿、貴方はユーラシア連邦の軍人であられますね? そしてラミアス大尉は大西洋連邦所属……ふふ。同じナチュラルなのに所属が違うではありませんか。司令にとってラミアス大尉は裏切り者であらせられると?」
連合、と一口に言っても、つまりは別々の国家の集まり。アークエンジェルは大西洋連邦という国に所属している。しかしここアルテミスはユーラシア連邦の所属だ。国家間に真の友情はない、という通り、対プラントの戦争が終われば、また戦争していないだけの敵になるのである。そしてオーブは中立国だ。
西暦の時代、スイスという中立国があった。圧倒的な武力で中立を保っていた永世中立を謳う国。中立とは、敵味方の中間という意味ではなく自分以外は全て敵という意味だと広く知らしめるに至った国である。
「オレ達はオーブの国民ですよ。だからこそ、プラントも連合も潜在的に敵なんです。裏切るも何もない。」
キラはその言葉を聞いて唖然とした。中立、という言葉の意味を改めて考えさせられた。
トウカはそんなキラを見て優しく微笑みかけた。
「キラ、これは国の政治の話だ。個人として友好を結ぶ際には当てはまらない事柄だよ。そう深く考えることでもないさ。」
キラはトウカに頭を撫でられたまま、ガンダムのコクピットでOSのロック解除を続けた。しかし頭の中ではアスランとガルシア、トウカの言葉が順繰りにぐるぐると回っていた。
「……トウカ?」
ふと、彼女がどこか遠くを、コクピットの壁に遮られて見えないはずの宇宙の方を見つめていることに気が付いた。
「作業を進めておくんだ。……オレも、ナイトバードに行く。」
彼女はガンダムを離れる前、キラにだけ聞こえる声で「備えろ」と告げた。
「司令、折角です。ナイトバードの内装程度はお見せできますよ?」
「そうかね。ではお言葉に甘えよう。」
ガルシアを誘い出すことに成功したトウカを見送り、キラはOSのロック解除を急いだ。
「ACM-006、ナイトバード。メタス・Wを戦闘用に改修した試作MSです。……コンセプトは機動力。とにかく素早さを重視した設計ですが、ストライクのように武装の換装が可能で、汎用性も確保してあります。」
などとそれらしく説明しながらトウカは機体のコクピットハッチを開く。
「操縦桿が一本しかないようだが?」
「それで足ります。」
トウカはシートに座り左腕と両足のコネクタに機体を接続した。
その時だった。激しい揺れがアルテミス要塞を襲ったのは。
「ぬお……っ! 管制室──」
ガルシアが振り返ったその隙にトウカはコクピットハッチを閉める。
〈メインシステム、コンバットモード起動。NRPデバイスオンライン。OSロックを解除します。〉
ナイトバードのOSロックはトウカ自身を鍵としてNRPデバイスの接続と同時に解除されるよう仕込まれていた。
漆黒の機体に真紅の瞳が輝く。
時を同じくしてキラもまた襲撃の報せに唖然とする兵士たちの隙をついてハッチを閉めた。
「──貴様ら! 何をする!」
我に帰ったガルシアの言葉に応戦をするのだと端的に答え、トウカが格納庫のハッチを開き、ソードストライカーに換装するガンダムに先んじて外へ出た。
『発進シークエンス省略! J.1、ナイトバード、出る!』
オープン回線でそれだけ伝えてアサルトブーストを吹かす。尋常ではない急加速で、ナイトバードは青い尾を引く黒い彗星と化した。
(マスターが言うには、コロイド粒子を応用した完全ステルスがあると。Gのどれかに搭載されていても不思議はない……)
せめてそのことをガルシアに伝えて警戒を促しておけば。アルテミス要塞の防御膜は常に展開されている訳ではないのだ。一度展開されれば物理攻撃だろうが光線だろうが通さない傘であろうと、広げなくては雨粒一つ防げない。
「ガンダムが三つ! アスランはいないのか……」
右腕のシールドを掲げつつ、アークエンジェルをチラと見れば、キラのソードストライクが発進していた。
『トウカ、マリューさん達も脱出して艦に戻ったって! このままぼくらで先導して脱出しよう。』
『了解だ。……ガンダム達がこちらに気が付かないことを祈るか。』
崩壊するアルテミスの爆炎の影に隠れるように、白亜の大天使は出航する。白い巨人をその先導に、黒い鳥が殿で後ろを見張る。
トウカの目の先で、小惑星が火を引いていく。撃墜されるメビウスたちと共に要塞が死に満ちてゆく。
「まだ……蒼い。だけれど、声は聞こえない。死にゆく者の後悔も、何も。……これが当たり前か。」
落とされたメビウスのパイロットも、要塞に務める士官もその人柄をトウカは知らないのだ。知らない人が、知らない人に殺される。人間社会で、当たり前に起きていること。
同じ頃、カガリのポケットの中で例のお守りが淡く光っていることに気がつく者はいなかった。
光る金属。……蓄光でしょうか?
なおトウカはキラのヒロインではありませんしなり得ません。絶対に。彼のヒロインは次回に……