機動戦士ガンダムSEEDScary 作:機械仕掛けの守護天使
そろそろ毎日投稿も途切れるやも。一息つくにしてもせめて地球降下まではやりきりたいですが。
ちなみにトウカの単純な操縦技術はプラントの一般兵に劣ります。リユース・サイコ・デバイス非搭載機はまともに操縦できません。そもそも技研製MSのコクピットレイアウトは他のどことも違っていますので。
反面戦士として言えば今のキラよりよほど強いです。まぁ、直に追い抜かさるでしょうが。とは言え耐G能力はキラより上かもしれません。手足がない分の差、ですが。傭兵としての名声もそう高くはないです。そもそも軍からの依頼はほとんど受けなかったので。
銀色の砂時計に例えられるプラントのコロニー群。ナスカ級ヴェサリウスを降りたアスラン・ザラは上司のクルーゼと共に軍事ステーションから別の場所へ向かうシャトルへと乗り込んでいた。
そのシャトルの先客、軍人とは思えないスーツ姿の男に、アスランは驚いた顔をした。
「ご同道させていただきます、ザラ国防委員長閣下。」
「挨拶は無用だ。
その言葉でアスランは男が国防委員長としてではなく、父として己に会いに来たのだと理解した。
「はい……。お久しぶりです、父上……」
パトリック・ザラはクルーゼのまとめたレポートをプリントしたものを取り出した。動き出したシャトルの中、パトリックはひとまずクルーゼの意見に賛同する、と告げた上で冷たい瞳をアスランに向けた。
「──パイロットのことなど、どうでもいい。その箇所は私の方で削除しておいたぞ。」
穏健派に反論の餌を与えるわけにはいかない、とパトリックは続ける。
「──それにだ。あのジャグラー部隊を名乗るふざけた傭兵。レノアとは仲が良かったようだが、あのパイロットはナチュラルのはずだ。それなのにあの動きは並のパイロットを凌駕している。……ナチュラルが操縦してもあれほどの性能を発揮するMSを、奴らは開発した──」
「メタスは連合のMSではありません。」
「だが製造はオーブだ。連合の新型もオーブと共同開発していた以上、あの機体のデータも連合にわたっていないという保証はない。」
そもそも、血のバレンタインにでユニウスセブンに連合のメビウスを引き入れたのはトウカではないか、とパトリックは言った。
「現地にいた筈が、今も生きているのがその証拠だ……!」
あまりの暴論にアスランは言葉を失った。
アークエンジェルは無事に脱出し、付近に敵影もない。しかしアルテミスでまともな補給は受けられていなかった以上、水不足が深刻であった。
「近くにジャンク屋でもいればナイトバードのパーツをいくらか売って水を買うこともできますが……」
「いいのか? データ流出は好まないんだろ?」
「ふふ、ナイトバードの構成要素はコアボールブロック以外とリユース・サイコ・デバイス以外に目新しいものはありませんよ。マスター曰く、枯れた技術の水平思考、だそうです。量産前提の試作機ですからね、高級な素材や技術を惜しげもなく使うことはしていないんですよ。」
「量産って……嬢ちゃん以外にあれを乗りこなせるとは思えんが。」
「流石にクイックブーストはオミットされるでしょうね。オレのような
「強化人間……ねぇ。」
「少なくともこの手足は生身よりよっぽどパワーがありますよ。外せばむしろ劣化人間ですが。……いえ。機械に頼り切らねば自立できない以上、どちらにせよオレは劣化した人間なのかもしれませんね。」
マードックとそのような言葉を交わしながら、トウカはナイトバードの整備を続ける。
「……関節の摩耗が早い。こればかりはどうしようも……」
格闘戦を得意とするトウカの戦闘スタイルに起因してどうしても稼働部の寿命は短い。
だが一番の問題は、このナイトバード、ロールアウトから3ヶ月というところなのに、どうにもトウカの操縦について来れないきらいがあった。
(いや、機体どころか自分の肉体が精神について行けないだけか。)
一応NRPデバイスの感度を上げれば対応は不可能ではない、右腕以外は。しかし神経接続の深度を上げすぎると今度は機体の衝撃が幻肢痛という形でトウカにフィードバックされるようになってしまう恐れがあった。
「3%だけ、にしておくか。」
それだけOSをいじってから、トウカは食堂に向かった。そこでは丁度フレイがキラに頭を下げて、アルテミスでのことを謝罪しているところだった。その様を見てトウカはほう、と感心していた。自分が「補習」を行うまでもなく、自主的に謝罪を行なったのだから。
あるいは、あの彼氏の方がうまく説得したか。
「姉さんが舌を縫い付けると言うからだろう。」
「ふふ。一度言ってみたかった鬼軍曹の台詞だったのさ。」
トウカはレーションの袋を開けた。
「相変わらずその不味いのを口にしているのか。」
「基礎代謝が低いからね。これで事足りるのさ。ちゃんとした食事は1人でも多くに与えられるべきだ。」
ネギ味のレーションを濃いコーヒーで流し込む。このコーヒーもまたナイトバードのコクピットに備蓄しているもので、お湯で溶くだけのインスタントだ。あまりに濃いのでドロリと粘度が高く、泥水というより泥である。
「うん。ネギ味とコーヒーは死ぬほど合わない事しかわからないね……」
「ならやめろよ!」
「……ふふ。味気ないレーションを食い、泥水のようなフィーカを啜る。それがMS乗りというものさ。備蓄が尽きれば大人しく食堂のメニューをいただくとするよ。」
「それも言ってみたかった台詞か?」
「そうだとも。オレはこれでもオタクだよ? 格好いい台詞はここぞという時に吐き出してしまう生き物なのさ。」
ふと見れば、フレイとサイがお互いに見つめあって微笑んでいる。その様をキラもまた友人たちと同じで微笑ましく眺めている。
彼らのお盆にサラダがないことを確認して、トウカはどこか安堵した。
「お、坊主たち、やっぱりここか。」
「マードックさん、何か御用でしょうか?」
「嬢ちゃんと坊主たちを艦長たちがお呼びだとさ。」
少年たちはブリッジへと向かう。
プラント議会では12人の評議会議員たちがテーブルについていた。クルーゼがヘリオポリスの崩壊について弁明し、アスランが連合のMSの性能について説明する。これほどの高性能機が連合軍の手に渡るくらいであれば、ならば奪取は妥当であった。例え中立国のコロニーを犠牲にしたのだとしても、と。
犠牲と言っても民間人を虐殺はしていないのだから。
そもそもオーブが条約を破って連合に与したのが悪いのだから。
議員たちはそのようなことを口々に言い、それで納得を求めているようだった。
恐怖が、そこにあった。それから逃れるために納得が必要だったのだろう。
自分たちより能力で劣るはずのナチュラルに、しかしどうしようもない恐怖があったのだ。あるいはもっと根源的なものか。死の恐怖。傷つけられる恐怖。
彼らは皆、平穏に生きたいだけだった。誰に搾取されることもなく。平和に、穏やかに。
悲劇の始まりとも言えるユニウス・セブン、デブリ帯に流れ着いていたその残骸にキラ達は足を踏み入れた。
『ここが、ユニウス・セブン……』
『あぁ。血のバレンタイン、その悲劇の場所だよ。』
凍りついた大地にガンダムとナイトバードが膝立ちでしゃがみ込む。後ろの探索ポッドからも少年たちが降りてきた。
『丁度、オレ達が出発した後ろで、核を積んだMAが向かって来ていた。J.2とJ.3のMAが迎撃に向かって、全機沈めはした。』
『沈めたの?』
『メビウス如きに止められる性能も腕もしていなかったさ。それでも、ミサイルは一発でコロニーを崩壊させる威力だ。……メビウスの爆発で誘爆した核ミサイル、それでJ.3は死んだ。』
悪あがきで放たれたであろう一発のミサイル、それを迎撃するにはもはや間に合わないと悟った。残ったJ.2がその背にトウカの『ヅダアサシン』を乗せて全速離脱を行った。しかしユニウス・セブンに直撃したミサイルの核爆発、その余波が2人を襲いくる時、J.2はその機体を盾にしてヅダを庇った。
J.2のMAはコクピットもろとも蒸発。トウカのヅダもコア部以外が吹き飛んだが、頑丈な脱出ポッドでもあるコアボールがかろうじて無傷で残った。
『核は……ただ強いだけの爆弾じゃない。その光には猛毒の放射線が含まれる。……核兵器など、生まれるべきではなかった。……生まれてしまった以上は、誰かが使う。一度生まれたものはそう簡単に死なないからね。』
もし血のバレンタインに生き残りがいたとしても、放射線被曝で苦しみを背負うことになっているだろう。そうトウカは締め括った。
「何が、青き清浄なる世界だ。放射線に、大地に流れる赤い血。爆弾のかけらや、排出された薬莢。……自分たちの行いが世界を穢すと気付きさえしない。それらを拾うジャンク屋の方が、よっぽど環境保全に尽くしているよ。」
かつては農村のような風景が広がっていたであろう氷原。レノア・ザラは農学研究者であり、キラの母親とは親友だった。コーディネイターとナチュラルでありながら。彼女の研究成果でもあるキャベツを使ってキラの母が作る絶品のロールキャベツ。それがアスランの好物だった。
戻らない命。悲劇を忘れないため、死者もろともそのままにされているユニウス・セブン。この巨大な墓標のどこかに、レノア・ザラの遺体も凍りついているのだろうか。あるいは、爆発で蒸発してしまったのか。
『……戦争なんてハラが空くだけだ……』
絞り出すようにそう言って、トウカはナイトバードのコクピットに戻った。その目尻に涙が浮かんでいることに、キラだけが気づいた。
デブリ帯を漂う難破船やコンテナから弾薬をいくらか回収できたが、水はユニウス・セブンの氷しか見つからなかった。
キラは抗議をするが、水がなくてはこの艦の人々は生きられない。
「……生きているからには、生き続ける努力が必要さ。」
「トウカは、納得できるの?」
「……納得は全てに優先するかい? だとすれば死んだ方がマシかい?」
「っ……それは!」
「脅かしてすまないね……でも、現状は、それくらいに理不尽なのさ。オレとて、レノアさんには静かに眠っていてほしいよ。」
折り紙の花々と、黙祷が捧げられた。それは決して何かの足しになるものではない。ただ、マイナスをゼロに近づけるだけだ。罪悪感に少しでも蓋をする気休め。トウカは一羽の折り鶴をトウカは捧げた。
叶うことならば、長崎が最後の被爆地であって欲しいと思う感性が彼女にもあった。だが、もう第二次世界大戦の経験者はこの世界にいない。オーブが中立を掲げるのは、日本人移民が建国に関わっていたという背景もあるのだろうか。被曝を経験した世代であれば、ブルーコスモスにいい気はしないだろう。
『Amen……いや、オレとしては南無阿弥陀仏、かな?』
神様仏様ならば、あるいはこの地に眠る人々の無念を癒せるのだろうか。この地で潰えた、24万3723名の灯火を。
作業が始まる。氷や弾薬を乗せたポッドが忙しなく往復する。白と黒のMSがその哨戒に当たっていた。
『……なんでこんなところに⁉︎』
『あるいはこんなところだからさ。墓守なのかもしれない……』
一機のジンが、デブリの向こうを飛んでいた。ナイトバードの左肩、狙撃用ロングバレルビームランチャーが展開される。頭部の追加アタッチメントである箱のような狙撃用バイザーがモノアイの上に被さり、ジンをロックオンした。その隣でガンダムは他にジンが居やしないかとナイトバードの後ろをフォローする。
『撃たせないで……!』
その祈りが聞き入れられることはなく、ジンは作業ポッドに気が付いてしまった。ジンのライフルが放たれるが、ガンダムが間に合ってシールドで防ぐ。
「無駄な殺生を、またさせる……!」
トウカの放ったビームランチャーが真っ直ぐにジンの腹部を貫き、推進剤に引火した機体は爆散した。
複座のジンのパイロットたちは、目の前のガンダムに気を取られ、トウカのランチャーのビームに気がつかないまま死んでいった。命の消える自覚もないまま、何を悟ることもなく蒼い
「焦り……誰かを探していたというのか……」
パイロットたちの最後の思いからトウカはそう判断する。ジンの爆炎が消えると同時に宇宙はまた黒に戻った。
『……キラ、オレは少し離れる。……他にもいるかもしれない。』
ナイトバードのカラーリングなら宇宙の暗闇に紛れることが可能だと告げたタイミングでガンダムのコクピットにアラートが鳴る。
「……これは、温もり。優しい人がそこにいる?」
トウカが宇宙に漂う蒼を目で追えば、その先に一艘の救命ボートが漂っていた。
「女の子? ……優しい声……彼らは、キミを探していたんだね。」
救命ボートの中でピンク色の髪をした少女、ラクス・クラインは突如として目の前に広がった蒼い、蒼い宇宙に困惑した。そのにいるのは自分と、金色の髪をした少女だけ。
2人の目線が交差し、そして誤解なくお互いを理解した。
『キラ……行っておいで。彼女が、キミを待っている。』
お互いの姿が消え、蒼い宇宙から戻ったトウカは言った。彼女、ラクス・クラインは自分が触れていい人ではないのだと理解していたから。
「つくづく君たちは……」
アークエンジェルの格納庫内でナタルは絶句するしかなかった。ガンダムが曳いてきた救命ポッドがそこにはあったのだ。
〈ハロ・ハロ……〉
マードックがロックを解除したことで真っ先に飛び出してきたのは丸くてピンクのロボットだった。
「ふふ。……お可愛らしい子だ。」
トウカは優しい笑みを浮かべてハロを受け止めてやった。
続けてハッチの中から出てきたキラと同じくらいの少女が、柔らかなピンクの髪をふわりとさせながら慣性で漂ってしまいそうになる。
「あら……あらあら?」
キラは彼女の細い腕を掴んで、止めてやるのだった。お礼を言われながら優しく微笑みかけられ、キラは赤くなった。
(おや……ふふ。キラのタイプはああいう娘なのかな?)
その様をトウカはニヤリとしながら眺めていた。手のひらでハロがテヤンデイと言い出すまでは。
「江戸っ子……⁉︎」
ピンク髪の彼女がプラント評議会議長シーゲル・クラインの娘であることが判明し、尋問に当たった士官たちは頭を抱えた。
おそらく彼女が乗っていた船は地球軍によって撃沈させられている。その残骸がデブリ帯で見つかっていた。民間船であるのにも関わらず。
彼女たちはユニウス・セブンの追悼のために来た、それだけなのに。
士官たちの去った後で、ラクスはただ祈った。
トウカは食堂であいも変わらずネギ味のレーションを口に含んでいた。砂のような食感が口いっぱいに広がり、ひどく顔を顰める。そうして泥水のごときコーヒーでそれを無理やり喉奥に流し込んだ。
「美味しいの、それ?」
「さぁ。味気がないからね……」
そう言ってキラの手にも一粒ビスケット状のそれを乗せてやる。
「……青臭い。」
「ふふ。おまえにはそういう味なんだね。」
キラはそれで察してしまえた。しかしだからと言ってそれを口に出すこともなく、ただ、黙ってトウカの右手に手を重ねた。
「──相変わらず察しの良い子だ……」
「いつからなの?」
「去年のバレンタインからさ。」
聞くつもりはなくても聞こえてしまう重苦しい言葉にトールたち少年は思わず下を向くしかなかった。
「嫌ったら嫌!」
フレイの叫びが静寂を切り裂いた。どうやらラクスに食事を運んでいくことを頼まれたのが嫌で仕方がないらしい。
「コーディネイターの子のところに行くなんて、怖くって……」
トウカの隣で、キラがひどく傷ついた顔をした。その隣ではトウカが絶対零度の笑みを浮かべる。それでフレイは自身の失言を悟った。
「あ……もちろんキラは別よ? ──でもあの子はザフトの子でしょ?」
「違いましたよ?」
「え?」
「ザフトは軍の名前です。あの子はプラントの民間人ですよ、フレイさん。」
「それでも! コーディネイターって反射神経とかもものすごくいいでしょう? 何かあったら……」
「あぁ。それでしたら、理解はできます。」
「トウカ⁉︎」
キラが驚いた声を上げると、トウカは悲しそうに
目を伏せて左腕を外して見せた。
「そう驚くことはないよ、キラ。オレだって、人間が怖い時もあるさ。」
手足を外されれば最後、トウカには右手だけしか残らないのだから。自分の身を自力だけで守れず、ナチュラルのローティーンにだって力負けする有様。
人の内心など、普通は分からない。相手に害意があるかどうかなど外から見るだけでは分からないのだ。
「恐怖を抱くのならば、近寄りたくないのもよく分かる……マスターに義肢を頂くまでは、オレは周りの人間全てが恐ろしかった……ちょうどフレイさんのような年頃の女の子でさえ、ね。」
そう言ってトウカは少年たちに微笑みかける。口元を押さえて上品に、そしてやや首を傾げて色っぽく。トールやカズイは頬を染めて目を逸らした。
「……とはいえ、言い方というものがあります。内心の自由はあれど、それを口にするからには、責任が生じる。……周りの人を悲しませたり、苛立たせたりだ。……それを考慮せず何でもかんでも口にして、不和を産み続ける人間が多いからこそ、戦争など起きてしまったんです……」
必ずしも全ての人間と仲良くする必要はない。だが不必要な攻撃は反撃を生み、そしてそれに対する反撃が、というふうに連なる。それが今の戦争だ。
しばしの沈黙。それを破ったのは、実に可愛らしい声だった。
「こちらは食堂ですか?」
「ええ、そうですよ……って!」
士官室にいるはずのラクスが食堂の前に立っていた。どうやら喉の渇きと空腹に耐えかねて出歩いてしまったようだった。
「鍵とかって、してないわけ⁉︎」
いくら軍人ではないとはいえ、プラントの国民。情報保護の観点からでもアークエンジェル内部を自由に歩かせるのは良いことと言えない。それに、彼女が味方ではないコーディネイターである以上、クルーや避難民から私刑に遭わない保証もなかった。
「お食事は今お持ちいたしますので、お部屋でお待ちいただければ。勝手に出歩かれると危険です……迷子になってしまうやも。特に、貴女のようにお可愛らしい人ならば。」
その言葉を意味するところを理解しているのかいないのか。ラクスは少年少女を見回して無邪気に微笑んだ。
「わたくしも、みなさんと一緒にお話ししながらいたいただきたいですわ。」
「コーディネイターなんかと一緒に食事なんて、冗談じゃないわ! 馴れ馴れしくしないでよ!」
鋭い目線が赤髪の少女の口元に注がれる。フレイは慌てて口を押さえた。舌を縫い付けられるイメージを自分を幻視した。トウカの視線は絶対零度をさらに下回り、キラは明らかに傷ついた顔をしていた。
「悲しいことですが、歓迎されていないようです。どうか、お部屋へお戻りください。……キラ、エスコートを。食事はオレが持って行くよ。」
3人が連れ立って食堂を出て行くと、フレイは大きく息を吐いた。一気に悪くなった食堂の空気の中、カズイがぼそっと訊く。
「……フレイってさ、ブルーコスモス?」
離れて座っていたカガリの耳がピクリと動いた。フレイは心外だというように声を荒げて否定する。
「──でも、あの人たちの言ってることって、間違ってはいないじゃない。病気でもないのに遺伝子を操作した人間なんて、やっぱり自然の摂理に逆らった、間違った存在よ。──ほんとはみんなだって、そう思ってるんでしょ⁉︎」
「それは父親がそう言ったからか、フレイ・アルスター!」
突如として、カガリの声が食堂に響いた。
「っ、いきなり何よ! 今パパは関係ないでしょう!」
「おまえの父親は大西洋連邦の事務次官、ジョージ・アルスターであっているか?」
「ええ。そうよ。それが何?」
「ジョージ・アルスターはブルーコスモスだ。」
また、空気が凍った。
「……やはりか……知らなかったんだな。……トウカの手足と両親を奪ったのはブルーコスモスが起こしたテロだ。」
「そ、それは一部の過激派が勝手に……」
「母数が大きければその一部の過激派も100や200ではすまない!」
「パパは違うわよ!」
「違うもんか! アルスターといえばブルーコスモスでもそれなりに高い地位にある。過激派のテロを抑えられていないのは上層部の怠慢だ! それにトウカはテロを生き延びたが、ブルーコスモスから一切の支援や補償を受けていない……上層部は下っ端が勝手にやったと言い訳するばかり……おまえの受けた教育は差別主義者の英才教育だ!」
「パパのことを知らないくせに悪く言わないで!」
激情が走るままに2人は言い合いを続ける。少女たちの剣幕に少年たちはおろおろとするばかりで、できることは何もないままに、フレイとカガリはふんっとそっぽを向き合った。なお、側で聞いていた少年たちはカガリとトウカが実の姉妹だと思っているため、カガリ激情は両親を奪われたことに起因すると思っている。ならばこそ、割って入るのを躊躇った。
カガリにしてみれば、いくら言っていることに正当性があろうと、暴力にはしり、それを肯定する組織など間違っているとしか思えなかった。何より過激派はテロのためにナチュラルを巻き込もうと気にしない。
トウカならば、いつものように冷たい笑みを浮かべて言うことだろう。コーディナイターを生み出したのはナチュラルだと。ブルーコスモスが真に責を追求すべきは遺伝子編集によってエゴのままに優れた人間を作ろうとした第一世代コーディネイターの研究者ではないのか、と。
コーディネイターがコーディネイターであること、それが罪であってはならない。生まれ方は誰も選べないのだから。
同じようにナチュラルがナチュラルであることを見下すのもまた愚かしい。存在することは罪ではない、と。
だがそれは、トウカが
そしてそれはトウカ自身も知らないことだった。彼女は自分で選んだと思っているが、実際は生まれてすぐそうなってしまった。どちらでもないところにしか在れない存在に。彼女が選べない時に、選べないままに。
ラクスを元の士官室へ案内したキラは沈んだ気持ちのまま、なんとなく彼女の向かいに座った。そこへトウカがやってきて、テーブルの上にトレイを置く。
「……トウカ、サラダは?」
「え……? あぁ、忘れていたよ。すみません、ラクスさん。すぐとりに戻りますので……」
「トウカ、わざとサラダを避けてない?」
「……察しがいいね、本当に。くだらないジンクスだよ。MS乗りとサラダは相性が悪いとマスターがおっしゃっていた。ラクスさんはパイロットではありませんから、問題はありませんでしたね。」
そう言って退出しようとした彼女をラクスは引き留めた。2人の目線がぶつかると、また蒼い宇宙が広がるように見える。
「……ふふ。貴女は本当に温かいお人だ。」
「他人行儀は寂しいですわ。わたくしにもキラ様と同じ口調で接していただけませんか?」
「恐れ多かったのさ。プラントのお姫様相手にはね。」
「貴女の妹さまもお姫様なのではありませんか?」
「おひい様はおひい様だ。今更敬語になる相手じゃないのさ。」
「お姫様に……おひい様?」
キラがきょとんと首を傾げると、トウカは彼の隣に腰掛けて微笑んだ。
「内緒にできるかい、戦友?」
「もちろんだよ、トウカ。」
「カガリ・ユラ・アスハ。オーブ首長ウズミ・ナラ・アスハの娘だ。オレはお忍びの護衛として個人的に雇われたのさ。……前々から技研に入り浸ってたおてんば娘でね。もう3年ほどの付き合いになる。」
「それは……確かに知られたら良くないね。……他人の空似にしてはそっくりだけど。」
「世の中には同じ顔の人が3人はいるそうだよ。……しかしプラントの
突然の爆弾発言にキラはびっくりして2人の顔を交互に見た。なぜか、心にちくりとくるものがあった。
「ふふ。有名な話だよ。プラントの人はみんな知ってるはずさ。」
「あら、アスランをご存知なのですか?」
「幼馴染だ。オレたち2人とも、ね。オレは一つ年上だけど。」
その後は月の幼年学校時代の思い出を語りあったりして、時間が過ぎた。
「あちらの皆さまとも、お話してみたかったですわ。」
2人の去り際にラクスは寂しそうに呟いた。
「今は敵同士だから、仕方がないんだ。」
「でも、あなた達は優しいんですのね。」
「オレ達は連合軍ではないので。」
「それに、ぼくもコーディネイターだから。」
ラクスはきょとん、と首を傾げる。そのさまもまた可愛らしいとトウカは思った。
「あなたが優しいのは、あなただからでしょう?」
「ふふ。いいことを言う。キラ、おまえはラクスさんがコーディナイターでなくとも優しく接するだろうさ。」
トウカはキラの頭を撫でて、諭すように言った。
2人がラクスの部屋を離れると、ちょうど向こうからサイが歩いてきた。
「……ミリィから聞いたよ。……トウカさんも、妹さんから……」
「そうでしたか。いえ、いいんです。思想や内心は自由であるべきですから。……大事なのは口に出すべきかどうかを学ぶことです。まだまだ子供なのですから。」
「トウカさんだってそこまで歳は離れていないでしょう?」
「自分で選んで人を殺した者を子供とは呼びませんよ。……フレイさんは、今精一杯なんです。きっと。自分を守るだけで精一杯なんだ。だからどうしてもヤマアラシになってしまう。」
「ヤマアラシ……」
棘の赤く染まったヤマアラシを思い浮かべて、キラは小さく吹き出した。
「航海を無事に終えて、親元に戻れたならば、少しは落ち着くでしょう。それまでは貴方が支えることです。」
「分かっています。」
その時、どこかからか優しく透き通るような歌声が聞こえてきた。
「ふふ。プラントの歌姫の生歌を聴けるとは幸運なことだ。」
「そうだね。」
「綺麗な声だな……」
3人、立ち止まって聴き惚れる。そうさせるだけの力が彼女の歌声にはあった。思わず穏やかな気持ちにさせるような。
「──でもやっぱ、それも遺伝子いじってそうしたもんなのかね?」
サイがポツリと呟いたそれを2人は聞き逃さなかった。
「愚かな考えだ。それしきで歌姫になれるのなら、プラントは今ごろ歌手だらけだ。それに、声が綺麗だからと言って、歌が巧いかは別物ですよ?」
第一、歌姫にするために遺伝子編集をするならば声に「f分の1ゆらぎ」を持たせるようにするだろう、ともトウカは告げた。
「その周波数を持つ声は、人の心を穏やかにさせるという。確率は1万分の1だとか。……確かラクスさんは持っていなかったはずです。生まれついた声、ならばともかく歌声に関しては彼女の努力の賜物だ……どれだけ優れた才があろうと、磨かなければ意味は無い。それに、遺伝子をどれだけいじろうが所詮は人間の範疇に過ぎないさ。」
凍りついた空気をほぐすようにトウカはそう言った。
「トウカの声も、聞いてると落ち着くよ。」
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいよ。」
そうしてまた3人、ラクスの歌に聞き惚れるのだった。
オリジナル機体
「ACM-NX003 ヅダアサシン」
所属 傭兵部隊J
開発 ネェル・デバイス技術研究所
生産形態 試作機
流石に欠陥による爆発はせず、それなりの高機動型MSとして纏まっている。カラーリングは黒にモノアイは赤とナイトバードに引き継がれている。
「NMA-01 スカイハウンド」
所属 傭兵部隊J
開発 ネェル・デバイス技術研究所
生産形態 試作機
J.2及びJ.3の乗機。宇宙戦闘機。外見や角ばったメビウスといったところ。性能もあまり変わらないが、一応製造や設計はメビウスと全く関係がない純技研製。パイロットの2人はJ.2が傷痍退役した元MA乗りの壮年男性(ナチュラル)と、J.3がハーフコーディネイターの青年。宇宙海賊や木端のテロリストは愚か、正規軍のメビウスに勝ってしまう腕の持ち主だった。またJ.2の娘がヘリオポリスで暮らしていた。