機動戦士ガンダムSEEDScary   作:機械仕掛けの守護天使

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 クルーゼの口調がわからない。


PHASE 06 黒塗りの恐怖

 

 アークエンジェルの計器が味方の艦の通信を拾った。『モントゴメリ』をはじめとする第八艦隊先遣。もし合流できればアークエンジェルはようやく孤軍奮闘から解放される。

 その朗報は、すぐさまアークエンジェル全体に広まった。

 

 だがトウカはニコリともせず、黙々とナイトバードの整備に当たった。艦隊と合流でき、無事月に到着できれば自分はお払い箱。最後の最後で気が抜けて撃墜というのは笑えない。遠足は帰るまでが遠足なのだ。

 

「キラ?」

 

 ふと、同じく機体の整備を行っているキラの表情が暗いのに気が付いた。

 

「どうしたんだい?」

「あ、トウカ……その、月についた後、ぼくたちどうなるんだろうって。ヘリオポリスは無くなっちゃったし。」

「そうだね……地球に降りることになるだろうさ。地球のオーブ本土へ帰ることになるよ。……それとも、ガンダムを駆り続けることを望むかい?」

「それは──」

「無事に月についたならば、おまえもお払い箱だ。もう、戦わなくていいんだよ。」

「……でも、ぼくは人を殺した。」

「──誰も殺してはいないさ。オレだけだよ。」

「たとえそうだったとしても、ぼくは引き金を引いたんだ。……殺すつもりで。」

「守るためさ。やらなきゃ、やられる。……正当防衛、といっても……おまえの言いたいのはそういうことじゃないか。」

 

 トウカはキラをそっと抱き寄せた。優しく頭を撫でながら、

 

「……おまえは選んだ。確かにそこに責任は生じるだろう。だけどね……それはオレやフラガ大尉がしっかりしてさえいれば生じることなんかなかった。もっと言えばだ、オーブが中立であることを半ば放棄してガンダムなぞ造らなければ……いや、一番は戦争なんぞするからだね。」

 

 愚かな大人の選択で、割を食うのは子供達だ。いつの世も、それは変わらないのだった。トウカは子供に子供のままでいて欲しくて傭兵(おとな)になった。

 

「キミは、まだ子供でいられる。子供は子供の時間を生きなければならない……」

 

 トウカはもうダメなのだ。もう子供でいられない。キラやカガリ、トールにミリアリア、カズイやサイ、フレイとは違う。

 

「キミが望むなら、オレはそうする。……やろうと思えば、架空のJ.8をでっち上げてもらうさ。」

「それは、マスターに?」

「と、オーブ首長に。責任は取ってもらうさ。……今はまだ取らぬ狸の皮算用……気を抜いた時に、死神が来るんだ……」

 

 列を成す、真っ黒な死神が。

 

 果たして、彼女の危惧は現実となる。モントゴメリがザフトに発見されてしまったのだ。3機のジンとイージスが迫る中、モントゴメリはアークエンジェルへ離脱するよう報せを送る。

 しかし今から離脱したところで逃げ切れる保証もない。

 

〈──第一戦闘配備! 第一戦闘配備! パイロット各員は発進準備!〉

 

 アナウンスの響く中、トウカは自室にカガリを残して飛び出した。パイロットスーツはいつも着たままなのでロッカーへ向かう必要はないが、一応キラと合流しようと士官室エリアを通ると、ラクスの部屋の前でキラと彼女が言い合いしていた。

 

「危ないから部屋から出ちゃダメですよ……!」

「トウカ様も……戦闘になるんですの?」

「もうなってます!」

「どうか部屋へ戻って……危険だ……!」

 

 2人して彼女を部屋へ押し込み、先を急ごうとするキラの腕を掴む者がいた。フレイだ。

 

「パパの船、やられたりしないわよね⁉︎ ね?」

「大丈──」

「確約はできません……!」

「トウカ……?」

「キラ、今おまえが大丈夫と言い切ったならば、おまえは命に変えてもモントゴメリを守り切らなければならなくなる……例えアークエンジェルを疎かにしようともね……」

 

 それが傭兵の選択だ、とトウカは言った。何より、フレイの父は文官とはいえ軍人。自らの意思で戦艦に乗ったからには、覚悟があるはずなのだ。民間人とは違う。覚悟を持って戦場に立つ者を守ってやる義理はトウカにもキラにもない。

 

「とはいえ……」

 

 そこまで言ってトウカはフレイに微笑みかけた。どきりとする程に優しい笑みを。

 

「……貴女たち民間人にとって最善は先遣隊と合流すること。それが一番安全です、ね、キラ?」

「! そうだね。その通りだよ。」

「フレイさん、確約はできません。我々とて命がかかっていますから。……ですが、手の届く限りは、やってみましょう……!」

 

 パイロットたちは力強くそう言った。

 

 2人が格納庫に着く頃には、ムウのメビウス・ゼロは発進した後だった。

 

「遅いぞ、坊主に嬢ちゃん!」

「すみません……ナイトバードの武装は?」

「注文通りだ! だがバッテリーと弾切れに気を使わにゃならんぞ。」

 

 ヘリオポリスから持ち出した技研の試作兵器の殆どが高圧電流パルスを利用した「パルスビーム」を使用したものだ。威力こそ高いが、パルスの名を持つ通り長時間照射(ギロチンバースト)ができない。また電磁パルスを発生させるため、ものによっては専用に調整した機器以外をダウンさせてしまう性質もある。

 バッテリーの消耗も早いが、コロイド粒子の消費量も尋常ではなく、粒子の供給速度が既存の機構では間に合わず、いわゆる「弾切れ」が存在するエネルギー兵器。既存のビームライフルはバッテリーさえあれば半永久的に撃てるのとは対照的だ。無論しばらく時間をおけばまた撃てるようになるが、その時間経過を待つ間に戦闘は終わるだろう。

 その代わり威力はGのビーム兵器を上回り、通常の対ビームシールドであればブレード数回で叩き切れるのだが、それにしたってコストが高いのだから威力が高いのは当たり前で、費用対効果(コストパフォーマンス)を見た時は微妙と言わざるを得ない。

 しかし唯一存在したノーマルのビームライフルはG二機と交戦した際に左腕と共に爆散した以上、エネルギー兵器はこれらしかない。

 

 ユニウス・セブンの時とは状況が違う。向こうにはPS装甲のイージスがいるのだ。出し惜しみはできない。

 

『J.1 、ナイトバード発進よろし!』

『気をつけて下さい、トウカさん。』

『承知しているよ、オペ子ちゃん……J.1、ナイトバード、出る!』

 

 カタパルトに機体を装着し、一気にペダルを踏み込む。アポジモーターが火を吹き、急加速でもって宇宙へと飛び出す。そのままMA形態へと移行し、真っ直ぐ戦闘宙域へと向かう。

 

 ムウの操るガンバレルで手傷を負い、後退を試みるジン。しかし去り際の一射がメビウス・ゼロを捉えていた。

 

『──フラガ大尉!』

 

 盾を構えたナイトバードが間に入り込んで射撃を防ぐと、右手に構えたヒートブレードでジンのコクピットを貫いた。

 

『大尉はモントゴメリへ!』

『すまん嬢ちゃん。恩に切る!』

 

 ──〈……見せてもらおうか。守り手を選んだものならば!〉

 

 プレッシャーと共に視界が蒼い輝きで染まる。

 

『大尉……クルーゼが来ます!』

『感じるのか……⁉︎』

『大尉は行ってください……彼の狙いはオレのようです。』

 

 なぜそうなのかは皆目見当もつかないが、エースを1人釘付けにできるチャンスならば、飛びつかない手は無い。

 

『……シグー……? また現地改修か……』

 

 名を付けるならば、シグー・ハイマニューバとでも言うべきだろう。明らかにスラスターが増設されているほか、プロペラントタンクを2本背負っている。

 

 トウカはアサルトブーストでシグーの元へと向かう。そのまま接敵、勢い任せの蹴りを放つが、クイックブーストで躱される。だが、

 

「右か!」

「ほう……!」

 

 回避方向がわかっていたかのように追撃のシールド内蔵ビームブレードを振るう。しかしそれすらもすんでのところで回避された。トウカは右肩のバルカンを撃ちながら逆噴射で少し距離をとる。

 

 クルーゼの駆るシグーもまた距離を取りながら機銃でナイトバードを狙う。

 

「引き撃ちか……」

「これではどうかな?」

 

 距離をとっての銃撃戦。トウカの最も得意とする近接戦を避けるのは当然ながら、わざと当てないように弾をばら撒く。迂闊に避けようと大きく動けばその瞬間蜂の巣だ。

 だから、彼女は最低限の動きで銃弾の間を縫うように進む。

 

「ビームよりは遅い……!」

「冗談ではない……!」

 

 回線をオープンにしているわけではないのにも関わらず、お互いにお互いの動きが筒抜けであるようだった。先手先手を狙って動き、それがためにお互いに有効打を与えられない。トウカのブレードやバルカンをシグーはギリギリで躱す。しかしシグーの重斬刀は大振りが故にナイトバードを捉えきれない。

 

 トウカは半ば本能じみて察していた。この男は自分に近い領域の能力を持つ。そして「絶対に相容れない」と。ここで確実に落とさなければ、自分の大切な人たちを脅かしかねない、と。

 

(なぜ?)

 

 分からない。分からないがしかし、確信があった。

 

 弾切れのバルカンをパージし、少しでも機体の運動性を上げる。攻撃の瞬間だろうと決して動きを止めない。先に足を止めたものから死ぬのはミゲルの時に理解している。

 

(ミゲル……? 誰だ?)

 

 ──〈君が倒したハイマニューバのパイロットだよ……〉

 

 脳裏に、言葉が走る。ミゲル・アイマンの顔が浮かぶ。知らないはずだった彼の母と弟と共に。

 

 大きすぎる隙だった。それでもギリギリでクイックブーストを掛けたためにコクピットへの直撃は避けられた。

 だがシグーの重斬刀はナイトバードの左腕を斬り飛ばしていた。明らかな判断ミス。ここはシールドで受け止めるべきだった。

 推進剤に引火して消し飛ぶ左腕。盾だけが残るが、衝撃で遠く飛び、すでに取りに行ける距離ではない。また左腕のスラスターを喪失したことで右方向へのクイックブーストが不可能になってしまった。

 

 それでも足を止めず、宇宙を駆け続ける。

 

「クルーゼ……恐ろしい男……フラガ大尉やラクスさんとは違う……」

 

 彼がトウカに向ける感情。敵意は、むしろ低い。憐憫と同情に、同族意識。嫌悪は、むしろ薄い。

 

 ──〈君の行動理念……愛だというのか……〉

 

 ──〈なるほど。貴方は……オレなんだ…………愛されなかったオレなんだ……〉

 

 ──〈理解してくれると言うのなら君もこちらに来ないかね?〉

 

 世界を憎む復讐者は、哀れな同胞へ手を差し伸べた。

 

 一方で先遣隊は既に二隻が轟沈して残りはモントゴメリだけ、という様相だった。イージスはキラが足止めをしているが、未だ2機のジンがフリーだ。

 ムウのメビウス・ゼロは被弾してアークエンジェルへ戻っている。先遣隊のMA部隊は既に全滅した。

 

 アークエンジェルのブリッジに飛び込んできたフレイは通信を通して父に向かって叫ぶ。しかしジョージ・アルスターは気が動転して娘の声に気が付かない。モントゴメリのクルーがジョージを脱出艇へと引っ張っていく。

 

 そこへ、ジンの機銃が向けられる。

 

『パパぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁ‼︎』

『フレイ……!』

 

 ジンは引き金を引いた。

 

 そして爆発が起きる。

 

 銃弾が放たれるより前にトウカの狙撃がジンを撃ち抜いていた。

 

 ──〈それが、君の答えか……では、これでもまだ戦い続けるかな?〉

 

 クルーゼがそう言うのとほぼ同時に、ミリアリアの叫びが無線から入ってくる。さらに3機のジン、それもハイマニューバがザフト艦ヴェサリウスから飛び立った。

 

「な……!」

 

 ナイトバードが一瞬硬直する。その次の瞬間にはシグーが肉薄していた。接触回線が繋がるほど近くに。

 

『実に残念だよ。』

『えぇ。そうでしょうとも。──貴方はオレを倒せないのですから!』

 

 ナイトバードのアポジモーターのすぐ上、機首の根本部分が展開し、数本のコイルを備えたパーツが露出する。大量のコロイド粒子が充満し、しかしクルーゼがそのことに気づいた時には遅かった。

 

 「アサルトアーマー」、大量のコロイド粒子を周囲に放ち、それを媒介に高圧パルス電流で周囲360度を攻撃する武装。シグーはそれにまんまと巻き込まれた。ナイトバードの硬直はトウカが放心したからではなく、攻撃の予備動作に過ぎなかったのだ。

 

 青白い閃光は、キラとアスランの目にも届いていた。

 

『そんな、トウカ……』

『自爆……っ隊長は⁉︎』

 

 2機は装甲表面を電流で焦がされ、しかし致命傷は受けず沈黙していた。電磁パルスの影響でダウンしているのだ。そして対策していたナイトバードの方が一歩早く復旧する。

 

 ヒートブレードを振り上げる。ビームランチャーではバレルが長過ぎてシグーを狙えない。

 

 だがブレードは空振りをした。電磁パルスの影響で制御が不安定。かつ神経接続のされていない右腕の動きは極端に悪かった。

 

 そこへイージスの放ったビームがブレードを貫く。刀身から伝わる熱で根本の発震機が爆発するより早く、トウカはブレードをパージしていた。

 

 シグーを蹴り飛ばして距離をとり、そのままアサルトブーストを吹かせて翔ぶ。アスランが立ちはだかろうとするが、キラのガンダムがそれを許さない。

 

『キラ……』

『トウカはやらせない!』

 

 だがトウカはキラの予想と異なり、アークエンジェルへ補給に戻らなかった。

 

 モントゴメリの艦橋の傍に向かい、接触回線を繋ぐ。

 

『アルスター事務次官……御息女がお待ちです。脱出準備を……時間は稼ぎます……!』

 

 電磁パルスの影響が残っていたのか、ボイスチェンジャーは機能しなかった。

 

『時間を稼ぐって、そのボロボロの機体で!』

『女……それも若いんだ! 撤退しなさい!』

 

 クルーたちが口々にそう言うのをトウカは聞き逃した。目に映るのは、迫り来る4体のジンのみ。

 

『……いいんだ。それより、娘を頼む。……アークエンジェルへ戻りたまえ。これは命令だ。』

『パパ!』

 

 ジョージは既に己の命運を覚悟していた。もはや脱出は間に合うまい。間に合ったとして救命艇を撃ち落とされるか、捕縛されて死ぬより辛い責苦を味合わせられるだけだろう、と。

 娘の声を最期に聞けただけでももうけものだ、と。

 

『……命令、ですか……?』

『そうだ。君も軍人ならば潔く従いたまえ。』

『──ならお断りします。』

 

 独立傭兵J.1、軍の命令に従う義務はない。それがあるとするならばそれは雇い主のものだ。

 

『御息女は、貴方に会いたがっています。……何より──』

 

 ナイトバードの狙撃用バイザーが上がる。真っ赤な一つ目が爛々と輝く。

 

『──この地獄みたいな世界で親を亡くした子供は、オレのように擦れてしまいますので……!』

 

 ナイトバードはブーストを吹かし、向かい来るジンへと飛んだ。そのまま一機を蹴り飛ばす。動きの(比較的)鈍いノーマルジンだ。

 

 即座に追いついて、追撃のパンチを頭部へ加えると、逆噴射で距離をとる。

 

(見える。何をするつもりか……どこからくるか、全て!)

 

 戦艦の残骸を足場にし、それを蹴って加速する。それにより、残り少ない推進剤でも、ハイマニューバをも翻弄するほどの機動力を生む。

 

「システム、ミラーリング接続……左腕の神経を機体の右腕に繋げ……」

〈ミラーリング接続、開始します。〉

 

 これにより機体腕部の操縦が左右逆になった。左腕は既にロストしているので問題はない。少なくとも彼女にとっては。続けて彼女はNRPデバイス感度を最大にまで引き上げる。

 

 貫手でジンのモノアイを貫き、即座に距離を取る。バイザーとランチャーを展開し、メインカメラをやられて動きの鈍ったジンを撃ち抜いて撃墜した。

 

「なんだこのMSは……!」

「ナチュラルの分際でこんな動きができるはずが……」

「落ち着くんだ相手は手負い、ハイマニューバならば……」

 

 そこに恐怖があった。蒼い宇宙(そら)に浮かぶ、漆黒の恐怖が。

 

「──ふふ。あぁ(Oh)……オレこそが恐怖だ(I’m scary)……‼︎」

 

 世界は、恐ろしいものに満ちているはずだった。だが、今ここにある恐怖は、彼女だけ。だからこそ、彼女は何も恐れない。自分より怖いものはここにないのだから。

 

 感情が昂る。感覚が鋭くなる。3機のジンがどう動こうとも、もはや何も怖くない。手に取るように動きが読める。

 

「──透明だ……気分がいい……!」

 

 だから先回りできる。射撃も当たらない。蒼い、蒼い宇宙(そら)の下、黒い鳥を阻めるものはない。

 トウカは広がる感覚のままに飛び続ける。高く、高く。

 

 また一機、ジンが撃墜される。残された2人は目を疑う。だが、恐ろしいことにその光景は幻想(Fantasy)ではない。どうしようもなく真っ黒な(塗り替えようのない)現実だった。

 

 1人が気を動転させて背を向けた。すぐさま狙撃される。爆炎の広がりと対照的にまた1人の灯火が潰えた。

 

 ハイマニューバは残り一機。

 

 ナイトバードが羽ばたくその間、ガンダムはクルーゼのシグーとアスランのイージスを足止めしていた。そこへ応急修理を終えたムウのメビウス・ゼロが駆けつける。

 

 ──〈また邪魔をするか、ムウ!〉

 

 ──〈嬢ちゃんが命張ってんだ! ここで出ないと俺の立つ瀬がない!〉

 

 シグーを引き受けるようにメビウスが飛ぶ。

 

 トウカはそろそろ限界だった。感覚の鋭敏化は、つまり脳や神経を酷使していることに他ならず、また精神が先走って、肉体が追いつかなくなってくる。

 

『ヴェサリウスから砲撃、来ます!』

 

 ミリアリアの叫びを聞き、トウカは跳ねるようにブーストを吹かす。追い縋るジンを足蹴にして、砲撃の斜線上へと落とす。

 

 絶叫がトウカの脳裏を走る。味方のビームに焼き尽くされて最後のジンが消えた。

 

 しかしヴェサリウスの主砲はモントゴメリをも貫いていた。爆炎を背に受けながら救命艇が飛び出しす。

 

 安堵が、あった。キラとムウは、間に合ったとわずかな安堵を感じた。

 

 それが仇となった。

 

 シグーはメビウスを蹴り飛ばすと、機銃を脱出艇へと向けた。一瞬遅れてガンダムが前へ出るが間に合わない。放たれた銃弾は、さらに間に入ったナイトバードのバイザー、メインカメラ、そして頭部そのものを瞬く間に吹き飛ばし、脱出艇の機関部を貫いた。

 これがもし、胴体で受け止められれば、その装甲で持ち堪えられたかもしれないが、しかしそうはならなかった。それが現実だった。損傷した機体が、トウカのイメージに追従できなかったのだ。

 

 ──〈君の頑張りは無駄だったようだな。〉

 

「そ、んな……」

 

 ジョージ・アルスターらを乗せた脱出艇は宇宙の藻屑となった。絶望が走る。

 

 それでもトウカは冷静にサブカメラを起動した。メタスの名前の由来は「目多数」という説がある通りに、ナイトバードにもまた無数のサブカメラがあった。

 

 メインカメラのものほどではないが、しかし鮮明な映像がモニターに映る。

 

 何かピンクがかった赤がカメラを覆う。MA形態のイージスがナイトバードを捕まえていた。

 

『投降してくれ、トウカ……』

『それをすればクルーゼは妹ごとアークエンジェルを沈めるだろうさ……』

 

 残りのバッテリー電力ほぼ全てを消費してアサルトアーマーを放つ。イージスはパワーダウンを起こしてナイトバードを解放する。

 

 ナイトバードはイージスのバインダーから抜き取ったライフルを構えた。

 

〈不明なユニットが接続されました。直ちに使用を停──〉

「五月蠅い……!」

 

 システムボイスが最後まで言うより早く、引き金を引いた。一条のビームはシグーのかなり右横を通り過ぎて行った。

 

「外したか……何!」

 

 トウカが狙ったのはシグーの後方を漂うシールドだった。対ビームコーティングされたそれはビームをシグーに向かって反射した。

 クルーゼはギリギリの回避を成功させてコクピットこそ外したが、シグーの頭部を吹き飛ばされた。

 

 ナイトバードはそこまでだった。規格外のビームライフルを使用した反動で右腕の駆動系や電装系が尽く破損。本体もエラーを起こしてシステムがダウンする。

 クルーゼはサブカメラを頼りに機銃をナイトバードに向けた。

 

「……動け、ナイトバード……まだ……敵がいる──!」

 

 コンソールを叩くようにして再起動を試みる。OSはまだ無事のはずだった。しかしナイトバードの瞳に灯りは灯らない。

 

 シグーの乱射する機銃が、ナイトバードを穴だらけにする。それはとうとうバッテリーに直撃し、そして機体は炎に包まれ、崩れた。コアボール・ブロックが射出される。

 

「トウカぁ! よくも……!」

 

 キラの中で何かが弾けようとした時、アークエンジェルから声明が発せられた。

 

〈ザフト軍に告ぐ! ──こちらは地球連合所属艦アークエンジェル! 当艦は現在プラントの最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している!〉

 

 コクピットの中、トウカは真っ赤に充血した目で、わずかに機能する無線ごしにその通告を聞いていた。薄れゆく意識の中、後悔だけが募って行く。

 

(はは……不甲斐ない。不甲斐ない……オレが……不甲斐ないばかりに、2人の女の子を苦しめる。)

 

 あの蒼い宇宙の下、自分はジンを相手に何を思っていたのか。

 

(あの時、オレは確かに楽しんだ……生命(いのち)を賭けた闘争を……どこまでも羽ばたけるかのような錯覚を楽しんでさえいた……)

 

 その油断が、フレイの父を殺したも同然だ。

 

(オレは……生まれてはいけない生命だったというのに……何を、楽しむ権利がある?)

 

 ──〈今となっては口実に過ぎないのだとはっきりわかったな。民間人を、罪なきものを守りたいなど戯言だ。結局は闘争を愉しみたいだけではないか。だから傭兵になったのだろうが。そうだろう、トウカ・ラナ・カミナガ……〉

 

 暗黒面が、嘲笑う。もう1人の自分の形をとって、己の精神を蝕む。

 それは一種の躁鬱に過ぎない。彼女は次に目覚めた時、これらの思考のほとんどを覚えてはいないだろう。代わりに、ますますレーションの味がしなくなるだけで。

 

 声が、走った。アスランが怒って、怒鳴っている。キラは、今にも泣きそうだ。

 

(──泣かないで……喧嘩、しないで……友達、なんだからね……)

 

 ガンダムの腕の中に抱かれてアークエンジェルの元へと向かう頃には、彼女の意識は闇へと溶けていた。

 





 ナイトバードは全天周囲モニターではないです。作れたとしてもトウカはあまり好かないでしょう。どちらかといえばVRゴーグルタイプの方が良いかもしれません。というより当初のプロットではそのつもりでした。
 流石に網膜投影は難しすぎるかもしれませんし、真人間ではドライアイが酷いでしょう。
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