今回で万魔の城の話は終了となります、、、
《1》
「俺は
「良い啖呵だ。しかし威勢だけで、攻めが単調すぎるな」
ルークが
相手から発せられる一護と同じ霊圧。
それにより万全な状態での戦闘が不可能となり、空間を軋ませる重圧が常に襲い掛かってきていた。
並の人間、いやハンターであっても苦難を強いられるこの状況下。
しかしルークにとってこの状況は、降って湧いた最高の修行であり戦いであった。
「言っとくけどな! 俺は一護と戦って、この意味不明な圧力に耐えれるようになってるぜ! この程度で、俺の剣が鈍ることはねえ!」
「成程、確かに動きは悪くない。だが、この程度の小枝を振るうだけの膂力では、到底この私を斬ることなど出来んぞ?」
「ああ、確かに硬ェ! すげぇ硬ぇ皮膚しているのはよーく分かったぜ! けどなぁ!」
床が陥没するほどの踏み込みを行い、そこから重低音の風切り音を轟かせてルークは木刀を閃光の如く振るった。
それにより長身の男の胸元を浅くだが切り裂くことに成功した。
「ッ!?」
斬られたことにより驚愕し、ルークから距離をとる長身の男。
滴る血を手で拭い、驚きから感心するような笑みへと表情を変えた。
「まさか私の
「おいおい褒めるのはまだ早いぜ。俺はまだ一回しか斬ってねえ。勝負はまだまだこれからだ。もっと斬らせろ! その硬い皮膚を斬るのは、いい剣の修行になる」
「力への探求。悪くない心の持ちようだ。それを高らかに言うだけの資格も示した。なら、こちらも名乗るだけの筋は通そう」
長身の男は改めて、ルークに敬意を示すようにして名乗った。
「私はシャウロン・クーファン。君はどうやら、この中で一番の当たりのようだ」
「当たりかどうかは知らねえが、俺もお前が一番の当たりっぽくて嬉しいぜ。だから斬らせろ」
「ふむ、その貪欲なまでの戦いへの渇望。いいだろう、ならこちらもそれに応えてやろう」
瞬間、シャウロンと名乗った男から先とは比較にならないレベルの霊圧が溢れ出た。
全身に重く圧し掛かる力に骨が軋み、木刀がへし折れそうになる。
その力を前にルークは満面の笑みを浮かべて、期待に胸を膨らませた。
「――截て『
そして溢れ出た力が爆発するかのようにシャウロンを包み込んだ。
凄まじい突風が巻き起こるも、次の瞬間には嘘かのように静寂さが場を支配した。
「これが我々、
上半身に白い骨のような装甲を身に纏い、両手の爪が鋭利に長く伸びている。
さながら鋏虫の様相に近いその姿を前に、ルークは戦慄するでもなく戦意の炎を更に燃やした。
「やっぱり、そんな面白ぇ隠し玉を持ってたか。いや良かったぜ。早めに決着つけなくってよ」
「ほう。まるで本気を出していたら、既にこの私を倒していたとでも言うような言い方だな」
「はっ、そんなもん……当たり前だろうが! こっからは本気で斬りに行くぜ!」
地面を蹴り、口角を限界まで釣り上げたルークは、躊躇いもなくシャウロンに斬りかかった。
***
この宝物殿の、一切邪魔の入らないボス部屋の上空にてーー
「はぁ~、全く。何でこう、うちのパーティは事がスムーズに進まないのかしら」
嫌気が刺すかのように溜息をつくルシア。
相対する金髪の男を前に、躊躇いもなく魔法を連撃していた。
氷の礫が弾幕の如く舞う。
「下らん戯言を吐くな。貴様らは俺たちの獲物でしかない。そこを理解し甘受しろ」
氷の礫を前に、金髪の男は至って冷静に対処する。
赤い閃光である『
「いい加減、その上の立場から物事を言うのやめてくれません?
「そうか、ならはっきり言ってやろう。貴様ら人間は俺たちの供物に過ぎんということだ。なら供物は供物らしく、少しは俺を楽しませてみろ。ハズレだったと、俺を落胆させるな」
金髪の男の物言いに、怒りで青筋を立てるルシア。
それに比例するように魔力の高めつつ杖を構えた。
「だったらその見下している人間に、無様に倒される屈辱を味合わせてあげます」
暴風が吹き荒れる。
城の岩盤が崩れて紙吹雪のように吹き飛び、それら岩盤が斬り裂かれている。鎌鼬のような鋭利さも兼ね備えていた。
万象を切り刻む殺戮の嵐。
それを前にして初めて金髪の男が、奥歯を噛み締めて苦い顔をした。
「何だッ!? この風は!?」
暴風に晒されている金髪の男は、全身の至る箇所に切り傷ができていく。
一つ一つが浅い傷で大したことはないものの、それより金髪の男には驚くことがあった。
「俺の、
破面の特性の一つ、
それは読んで字の如く、鋼のような硬い皮膚をしている。
並の攻撃なら傷を一切つけること能わず。銃弾や剣、そして魔法もこの皮膚を前には無力となってしまう。
しかしそれは並の攻撃ならの話である。
台風の目の中心に鎮座するルシアは、その魔法の一つ一つが超高レベルの域に至っているため
「どうしました? 随分と苦しそうですね。まさか、人間様の魔法に手も足も出ないのですか? それはまぁ、とてもお粗末ですね」
「何だとォ?」
「率直に言いましょう。あなたの霊圧というものですか? それ一護さんの圧力に比べたら、とてもお可愛いレベルですよ」
皮肉めいたルシアの言葉に、金髪の男は怒髪天となった。
「この俺を、下に見てんじゃねえよカスがァ!」
手の平をルシアに向ける。
すると膨大な赤いエネルギーが集約していった。
「――『
そして集約していたエネルギーが破壊の閃光となり、暴風を物ともせずルシアに一直線に向かった。
「!? これは……」
迫る閃光を前に、ルシアは防御魔法を展開した。
耳をつんざく激突音と衝撃が走り抜ける。
「霊圧というエネルギーを飛ばす技? 初めて見る攻撃だけど、防げない威力では――」
「余所見してんなよカスが」
「ッ!?」
虚閃に意識を向けていた一瞬の隙をついて、金髪の男が背後に回り込んでいた。
そして情け容赦ない刀剣が振るわれる。
「死ね!」
「――死なないっての」
ガキンッ! と、固い鉄にでも当たったかのような金切音が響いた。
金髪の男がそれに驚愕する間に、ルシアは端的に述べた。
「透明の薄い氷の壁を展開していました。見えなかったですよね、そう言う魔法もかけましたから」
薄氷のような薄い壁が、金髪の男の剣戟を難なく防いでいた。
同時にルシアがお返しと言わんばかりに意趣返しする。
「あなたの敗因は、傲慢と怠慢。終わりです、カス」
瞬く間に形成された氷の槍が、金髪の男を貫いた。
「ガッ!」
血反吐を吐き捨て吹き飛ばされる金髪の男は、しかし致命は避けたのか空中で踏みとどまる。
「ハァッ、クッ、クソがッ!」
自分を刺し貫いている氷の槍を握力で砕き、血走った目をルシアに向ける。
「ガキがっ……舐めやがって……! 殺す……殺してやるぞ……!」
剣の鋒をルシアに向け、霊圧を高めた。
剣呑とする雰囲気を纏いながら、声高らかに吠える。
「突き砕け『蒼角王子(デルトロ)』!」
そして高めた霊圧が爆発するように金髪の男を包み込むと、姿が一変した。
上半身が、さながら闘牛のようなフォルムとなり、頭には2本の巨大な角が生えている。
「……ッ!?」
「何だそれは? そう言いたげな顔をしているな。これが俺たち『破面』の刀剣解放だよ兄弟」
異常なまでに高まった霊圧。
ルシアの握る杖がギチギチと軋み、全身に虚脱感にも似た重みが襲いくる。
「最後に名乗っておこう。俺はイールフォルト・グランツ。さぁ楽しもうぜ兄弟!」
高らかに名乗りを上げると、角をルシアに向けて一気に肉薄した。
《2》
アンセムは下に、ルシアは空へ、ルークはどこかへと戦いの場を変えた。
よってボス部屋には一護のみが残ったのだが、ここで異変が発生した。
「ボスが、復活してんのか……?」
濃密なマナ・マテリアルが収束していき、形を作り始める。
倒したはずのボスがここまで早く復活するなど、本来は有り得ない事象である。
だからこそ、これは今までの経験や常識が通じないボスである可能性が高い。
そう思った一護は、慢心などせず天鎖斬月を構えた。
「……アァ」
崩れかけの泥人形のような不確かな形成を始めながら、腹の底から溢れ出た悪寒の走る声のようなものを発する。
同時に、それは重みとなって一護を襲った。
――霊圧!?
その重圧は、紛れもない霊圧だった。
それを感じ取った時には既に、その泥人形は確かな形へと昇華を果たしていた。
全身が黒い光沢を見せる、甲冑めいたもので覆われている。
八本の腕は剣と一体化しているかのように、黒い刃が蟷螂の如く煌めいていた。
「アァ……」
そして顔の部分には、不気味な髑髏のような仮面が付いていた。
「アァアアアアアアアア!!!」
地獄の底から響き渡るような叫喚を上げる。
鼓膜が破れるほどの音圧と、空間を震撼させるほどの霊圧が襲いくる。
「こいつも同じ現象かよ!? しかも……」
レベル8のボスだが、レベル9相当までのプレッシャーを感じる。
一護は戦意を高めるため目を閉じて、意識を戦いに集中させた。
「……よし、一気に決めるぜ」
呟くと、自身にも仮面を付けて霊圧を高める。
爆発するかのように高めた霊圧が、ボスの霊圧とぶつかり合い部屋一帯を崩落させていく。
安心した。
魂にかける圧は、耐性がなければそれだけで絶命する恐れがある。
だから周囲を気にする必要のある霊圧を全開で振るえる場は限られてくる。
他の幼馴染達が戦いの場を変えてくれたおかげで、一護は手加減せずに霊圧を振るえた。
「月牙天衝ッ!」
そして一護は刃が振り下ろされた。
***
――クライは千の試練をトレジャーハンターに与える。
死ぬギリギリな試練を与えることで有名なクライのこの情報は、リィズから聞いた。
それにより、一護にいらぬ憶測が建てられた。
クライが関わることにより、その千の試練が発生する。関わりは先ほどの着信。たったそれだけでクライが一護に千の試練を課し、その結果でボスが異形となって復活した。
何て有り得ない眉唾な想像をしてしまう一護。
しかしそういう偶然が積み重なった結果、クライがそう呼ばれるきっかけになったのかもしれない。
そんな的確な考察をしつつ、一護はボスと剣を交えていた。
戦況を一言で伝えるなら、一護が強化したボスを圧倒していた。
霊圧を宿して強化されたボスだが、それでも霊圧と言う点で上回っている一護に軍配が上がる。
なぜボスがこのような形で復活したのか、未開な点が多いが一つを憶測を建てた。
霊圧に触れたから。
憶測も憶測、妄想の域に近い考えを一護は戦いの最中で、直感的にそう思った。
それに答えを出すことなどこの戦いでは出来ないと一護は踏み、一気に決着へと足を進める。
「これで決めるぜ」
天井知らずに上がる一護の霊圧が、ボス部屋そのものを崩落させていく。
その圧に耐えられなくなったボスが片膝をつき、何とか立ち上がろうとするも時既に遅い。
「月牙天衝ッ!」
放たれた黒い斬撃が嵐の如く猛威を振るい、ボスを容赦なく破壊の渦に飲み込むとそのまま宝物殿の外へと吹き飛ばした。
「終わったな」
一護はボスの気配が消失したことを確認する。
斬撃に当たった直後には倒しており、宝物殿の外側へと吹き飛ばされた時点で恐らく形すら成していなかっただろう。
「あの形態変化、やっぱ探協に報告した方がいいよな。……ん?」
上空、そして下の方からルシア、ルーク、アンセムが現れた。
三人とも疲れの色が見えるも、深い傷などは一切負っていない。
そしてほぼ同時に襲撃してきた三人の破面も、この既にボス部屋の様相を成していない部屋へと現れた。
「おーおー、すげぇ派手に暴れたな一護。宝物殿ごと壊す気かよ」
「ボスが復活したんだよ。だから手加減なしでやっちまった」
「ボスが復活? いくら何でも早すぎませんか」
「うむ」
「つか、お前らまだ決着ついてねえじゃねえか。なに呑気に集合してんだよ」
敵方はまだまだ戦える状態。つまり五分五分である。
「ふむ、ナキームが既に倒されていると見るべきだな。成程、そちらの男は少々上物が過ぎるようだ」
値踏みするようにシャウロンが一護を見据えて言った。
「どうする、最後までやると少し時間がかかるぞ。こいつら、予想以上に骨がありやがる」
「確かに、こちらもそろそろ時間がない。そのような事を気にして戦えば、満足のいく結果は得られんだろう」
「チッ、不完全燃焼だな」
「仕方ねえさ。気になる決着は、次回までの楽しみにしてようぜ」
舌打ちをするイールフォルトに対し、エドラドは不満がないのか笑みをこぼしていた。
「は!? おいおい先に喧嘩売っといて、なに勝手に帰ろうとしてんだよ!? 戦いはまだまだこれからだろう!?」
そして誰よりも反発するルークは剣を構えながら突っ込もうとするも、一護がそれを手で制した。
「やめとけルーク、下手に突っ込もうとするんじゃねえよ」
「ええ、逃げるのなら追うつもりはありません。こちらはまだまだ本気を出していないので、正直興醒めなところがありますけど」
ルシアの挑発的な物言いに、イールフォルトが苛立つもそれをシャウロンが制していた。
「悪いが、帰らせてもらう」
ズズズと、シャウロンたち三人の背後の空間が上下に開いた。
まるで黒い口が開いたかのような、空間の裂け目。その奥は漆黒の闇に染まっていた。
「心配せずとも、次は決着がつくまで戦って差し上げます。それまで死なないことですトレジャーハンターの皆さん」
「次こそは! 次こそは絶対ェ斬ってやる!」
「どうどう、ルーク落ち着け」
飛び出しそうなルークの襟首を掴み抑え込む一護。
「次は殺す。それまで生き抜いてみろ兄弟」
「お前の力は認めよう。だが、それで慢心せずもっと鍛え上げておけ」
先にイールフォルトとエドラドが一方的に相対したルシアとアンセムに言葉を残して、空間にできた異次元の中へと消えるように入っていった。
「では、また相まみえる日までご機嫌よう諸君」
「待てよ、こっちも一つ聞きてえことがある」
「……何か?」
「あんたら
「そうですね、では生き延びた勲章としてお答えいたしましょう」
シャウロンは慇懃な態度で、しかし腹の底からはどす黒い感情を宿して答える。
「我々は
踵を返して、空間に空いた穴へと入っていく。
「それではまた、近いうちに。お次は、私たちの王もお連れしましょう」
そうしてシャウロンが異次元の中へと入ると、そのまま口を閉じるようにして穴も消えたのだった。
「……世界の転覆だと?」
「野郎、言いたいことだけ言って消えやがったな。ちきしょう! 斬り足りねえ!」
「ちょっとルークさんは黙っててください。一護さん、これは早急に探索者協会に報告する必要がありそうです。早く帝都に戻ったほうがいいですよね」
「ああ、そうだな」
余燼がくすぶる結果に終わってしまったが、この件は一刻も早く探協に報告したほうがいい内容だ。
一護は大きく息を吸い、そのまま吐くと仮面を消した。
「とりあえず色々と面倒ごとが起きそうだけど、ここでの戦いは終わりだ。帝都に帰ろうぜ」
「はい、そうしましょう。そろそろリーダーの宝具のチャージをしないといけませんし」
「クライか」
「兄さんは宝具マニアですから。いつもチャージをお願いされるんです」
「そいつはまた大変だな」
戦いの最中にクライから電話があったのを思い出す。
折り返そうと思ったものの、これから直接会いに行くのだから構わないかと言う気持ちで、スマホを握るのはやめた。
「帝都、か」
この宝物殿に来るまでに、ティノやスヴェン、アークと言ったクライがリーダーを務める【
そして少し足を伸ばして攻略に来た〔
様々な出会いや再会がここ数日だけであり、遂に帝都へと足を運べる。
「ようやく、約束を果たせるぜ」
そう呟き、一護たちはこの宝物殿を後にしたのだった。