《1》
【始まりの足跡】は帝都でも屈指のクランだ。
名実ともに平均値を大きく上回っており、今や帝都のトレジャーハンター界隈では入団したいクラントップの座についている。
そしてこのクランには主要なパーティが五つあり、ルシアは一護に施設内を案内しながら説明してくれた。
ソリス・ロダンの再来と呼ばれるアークがリーダーを務める『
スヴェンを筆頭に安定した戦闘スキルを見せる『黒金十字』。
精霊人のみで構成された魔法使いパーティである『
軍隊のような大規模パーティの『
そして『
これから、その主要パーティの紹介を受ける流れとなった。
「まずは『黒金十字』ですね。既にお会いしていたとのことですが、改めて紹介をさせてもらいます」
「ああ、助かる。スヴェンさん達には、帝都に着いたら挨拶する約束をしていたからな」
「そうだったんですね。恐らくこの時間は、行きつけの酒場にいるかもしれません。ついでに道中、軽く今の帝都も案内しますね」
「頼むぜ」
足跡のクランを出た一護とルシアは、少し遠回りをしつつ帝都も案内してもらう。
美味しいランチがあるお店から自身が通うゼブルディア魔術学院、そしてクライが足繁く通う宝具店【マギズテイル】などなど。
教えてもらう場所全てが知らないことばかりなので、知見を得るにはとても助かった。
「改めて思うけど、すげぇな帝都は。何でも揃いそうだし、どんな施設もありそうだ」
「今や経済的、技術力など、そういった国益に類することは他の諸外国よりも著しい繁栄を遂げていますからね。それも宝物殿のおかげ、と言ってしまえばそれまでですが。トレジャーハンターにとっての黄金時代なら栄華を極めるのは最もでしょう」
「そりゃそ……ん?」
前方を歩いている見目麗しい女性が二人いた。
神話の世界から出て来たかのような女性たち。雪のように白い肌に、容姿端麗な二人は周囲の視線を釘付けにするにはあまりある絶世の美女だった。まさに立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花の如くだ。
一人はスラっとした長身で、美しい金色の長い髪。しかし目つきは鋭く、さながら氷の女王めいた近寄りがたい高嶺の花を感じさせる。
もう一人は小柄ながらも、欠点一つ見当たらない整った顔立ちと銀色の長い髪を靡かせている。
360度どの角度から見ても美しく綺麗な二人を死角から、レンズの入った四角い箱、つまりカメラを邪な笑みを浮かべながら向けている男がいた。
「……隠し撮りか」
建造物の死角からレンズを向けており、ストーカーなのかパパラッチなのか分からないが一護が動くには充分過ぎる理由だった。
地面を軽く蹴り、一直線に男に向かって跳ぶ。
一瞬で取り押さえる、そのはずだった。
しかし長身の女性も隠し撮りをされているのを察知していたのか、男に向けて純粋な魔力による砲撃を行ったのだ。
その行動がほぼ同時に行われたため、一護は瞬時に片手で男を取り押さえ、もう片方の手で砲撃を防いだ。
結果、砲撃の着弾により爆発が起こり、周囲の視線が一護に集まった。
なになに爆発? 急になんだ? あの人が魔法を使ってたよ? などと騒然とした。
「全く一護さんは、何をやっているのですかもう」
急に動き出した相方を見て、ルシアは頭を抱えた。
黒い爆煙が収まるとそこには地面に突っ伏されている男と、無傷で防ぎ切った一護がいた。
「ッ、いい魔法だな。鎮圧するには、ちょうどいい加減だぜ」
気絶している男を一瞥し、先の魔法の一撃を称賛した。
「いい魔法、か。貴様を狙ったつもりではないが、こうも易々と防がれると私のプライドに傷がつく」
すると魔法を放った長身の女性が、こちらにやって来た。
そして一護は気づく。
それが二人の女性の正体であった。
「悪かったな。けど、その的確な魔力操作はやっぱ凄ぇよ。凄腕の
「この状況で褒められても、貴様の力を誇示されているだけにしか聞こえんな」
「変に勘ぐってんじゃねえよ。別にそんな腹積もりはねえって。純粋にそう思っただけだ。あんた、
「そんな貴様は人間……か? その力の流れ、それは一体なんだ。何を宿している?」
「人間だ。変に俺のことを捉えてるんじゃねえよ」
長身の女性が双眸を細めると、もう一人の小柄な少女が声を上げた。
「こらッお前! ラピスに対してもっと敬意を払え、ですッ! 少し魔法を弾いた程度で調子に乗ってるんじゃないぞ、です!」
長身の女性が泰然な態度だったら、小柄な少女は尊大な態度。子供が背伸びしているように感じた。
少女は一護を睨みつけながら、丁寧語が入り混じった変な口調で怒鳴る。
「それにその男はずっと私たちがマークしていた標的、です! 勝手に仕留めているんじゃないぞ、です!」
「あ、ああ。そうか。そいつは悪かったな」
顔を近づけて怒鳴って来る少女に、一護は困惑してしまう。
さながら子供の癇癪を聞かされている、手に負えない感覚に近い。
「クリュス、もういい。その男も、悪気があって行ったわけではないのだからな」
「わ、分かった、です」
長身の女性が軽く仲裁し、少女は不服ながらも大人しくなった。
そして気絶している男を一瞥してから、改めて一護に向き直った。
「そいつは精霊人の隠し撮りをしている常習犯でな。そいつの捕縛が今回の目的だった」
「そうなのか」
「我々は大勢の人間がいるところが苦手だが、しかしそのターゲットはこういう場でしか姿を見せん。だから耐え忍んでこのような大通りを歩いていたのだが、面白い収穫があった。貴様、名はなんと言う?」
「ああ、俺は――」
「黒崎一護です」
一護が名乗る前に、状況を呑み込めたルシアが割って入った。
「久しぶりだなルシア。健勝そうで何よりだ」
「ルシアさん、帰っていたのか、です。それよりその男を知っているのか? です」
「はい。彼は私たち
一護の代わりに全て答えたルシアに、二人の精霊人は驚きを隠せなかった。
***
気絶した男を縛り上げ、人通りの少ない場所へと移動した。
そして事の経緯を軽く説明し、二人の精霊人が件の足跡のパーティの一つである『
リーダーの名はラピス・フルゴル、そしてクリュス・アルゲン。
一護は紹介を受け、改めて自身の口で名乗った。
「ラピスとクリュスか。俺は黒崎一護だ。ハンターレベルは2。改めてよろしく頼むぜ」
「成程、ルシアも実力を認める男か。それに魔力とはまた違う、我々でも未知と言わざるを得ない力を持った男。面白い。少し調べてみたいな」
「ラピス、それ本気で言っているのか? です。けど確かに、不可思議な力の流れは感じるぞ、です」
「お前らは俺の力にしか興味を持たねえのかよ」
精霊人は魔力が卓越したもの、魔導に深く通じる人間には敬意を持つ。
故にルシアに対しては敬意を払っているらしいが、どうやら霊圧と言う特殊な力に興味を持ったらしく、最低限の礼節をもって接してくれた。
「一護と言ったか。その力を肌で感じてみたいが、それはまたの機会にしよう。この男の身柄を公的機関に引き渡す必要があるからな」
「ラピスがお前に興味を持ったからって、あんまり調子に乗るんじゃないぞ、です。ルシアさんが認めてるからって、私はまだ認めていないからな、です」
「ああ。ならクリュスに認められるようになってやるよ」
一護は目線をクリュスに合わせて、宥めるような口調で言った。
「こ、この私を子ども扱いするな! ですッ! レベルも私の方が上なんだから、もっと敬え! です!」
「だったら俺もクリュスと同じ3になれるように頑張るぜ」
クリュスの頭を撫でながら、笑みを浮かべる一護。さながら妹に対する和ませ方である。
「こらッ! 頭を撫でるな! です! ヨワニンゲンといいこいつといい、距離感がおかしいぞ、です! しかも撫で方が異様に上手いぞ、です!」
「悪かったな。俺には妹がいてよ。こういう機嫌の取り方をしちまうんだ」
撫でる手を止めると、クリュスはどこか名残惜しい表情となっていた。
ラピスは腕を組んで何やら考え込み、短く笑うと一護に視線を向ける。
「一護、お前とは今度クランでゆっくりと話すとしよう。その力も含めて、色々と見てみたいものでな。構わないだろう?」
「おう。俺も『
「ああ。行くぞクリュス」
「分かった、です。そして覚えておけ、です。いつかぎゃふんと言わせてやるからな、です!」
そう言ってラピスとクリュスは気絶している男を引きずりながら去っていった。
「初めて精霊人ってやつと話したけど、噂に聞いてたほど高圧的じゃなかったな。ラピスとクリュスもいいやつそうだしよ。それじゃあ、酒場に行こうぜルシア」
「……一護さん、一ついいですか?」
「ん?」
「私の頭も、撫でてみてもらっていいですか?」
「……は?」
《2》
当初の目的地に向かっている道中で、『
偶然ではあったが、挨拶も軽く終えて件の酒場に向かう。
「少し驚きました。精霊人があそこまで一護さんに興味を持つなんて」
「そうなのか?」
「はい。魔導に精通している人間ならまだしも、一護さんにあそこまで興味を示すなんて驚きです」
「俺っつうより、俺の力にだけ興味がある感じだったけどな」
「一護さん、もし『
「心配すんな。俺はパーティの勧誘に断り慣れてるからよ」
旅路の中、何度か勧誘を受けたが全て辞退している。
それに関しては何の心配もいらない。
「なら良かったです。そして到着です」
ルシアが足を止めると、目の前には酒場があった。
中は活気に満ちており、昼間だがみんな酒を飲んでいた。
「ここですが、早速見つけました」
「速ぇな」
入店するや否や、スヴェンとマリエッタ、ヘンリクがテーブルを囲んでいるのを発見した。
すると向こうも、一護とルシアの姿に気づいた。
「お、ルシアじゃねえか。{|万魔の城《ナイトパレス}から帰ってきてたんだな」
「はい。つい先ほど、帝都に帰ってきました」
「そうだったのか。それに……おいおい、一護もいるじゃねえかよ! 久しぶりだなオイ!」
「スヴェンさん、久しぶりだな。約束通り、会いに来たぜ。それとマリエッタさんに、確かえっと……ヘンリクだったか?」
「ええ、本当に再会できるなんて少し驚いたわ。久しぶりね一護」
「僕の名前、よく覚えていましたね。名乗ってもいないのに」
「スヴェンさんがそう呼んでたのを覚えていただけだ。改めてよろしくな」
「はい。それと、あの時の宝物殿ではありがとうございました」
そんなやり取りをしていて、ふとスヴェンがあることに気づいた。
「つか、何でルシアといるんだ? もしかして{|万魔の城《ナイトパレス}で共闘でもして仲良くなったのか?」
「当たらずといえども遠からずですね」
「? どういうこと?」
小首を傾げるマリエッタに、ルシアが簡潔に答えた。
「私たち
「「「…………」」」
ルシアの衝撃的発言を聞いた三人は目を丸くして、即座に応える言葉を失った。
予想外のその事実に対して、酒を煽ってスヴェンがアルコールの力で頭を回転させる。
「ちょっ、ちょっと待て……! どういうこったそりゃ!? 一護がお前らの幼馴染だ!? それってマジかよ!?」
「まぁ、その辺についても話させてもらうぜスヴェンさん」
「お、おう。とりあえず座れよ。尚更、色々と話したくなったぜ」
「それじゃあ、軽く飯でも食うかルシア」
「ええ、一護さんがいいなら」
そしてスヴェン達と同席することとなった。
席を囲む中で、一護はこれまでの事情などを踏まえて話した。
あの後、花園の宝物殿から{
かいつまんで話す中で、スヴェン達は驚きの表情を隠せなかった。
「いや、お前らが幼馴染ってことにも驚きだが、本当に一人でレベル8の宝物殿に挑んだことにも驚きだぜ」
「ええ、本当に。度肝を抜かされるって、まさにこのととね」
「はい。流石は
スヴェンたちはどこか悔しそうに言った。
「
「そうね。しかも一護のレベルが2ってことにも驚きだもん。ソロでレベル8の宝物殿を攻略する勢いの時点で、レベル8以上は確実のはずだから」
「本当に、凄い方だったんですね」
もはや気恥ずかしさすら感じるほど褒め称えられている現状に、一護は照れ隠しするように微笑んでいた。
そしてそれを我が事の如く胸を張ってルシアが続けた。
「当たり前です。一護さんは人柄、そして実力と共ににいさ……いえリーダーより素晴らしい人です。レベルなんて直ぐに上がります」
「珍しくルシアの言葉に熱が帯びてやがるな」
「意外な一面ね」
「うるさいですね。至極、当たり前のことを言っているだけです」
いくら幼馴染とはいえ、ここまで自分を持ち上げられると嬉しさよりも羞恥が勝ってしまう。
面映い一護はちょうど食事が運ばれてきたタイミングで、話題を切り替えるようにスヴェンに話しかける。
「次はスヴェンさん達のことも聞かせてくれよ。あの時は詳しく聞けなかったしな」
「ああ。ついでにあのとき約束した通りに奢らせてもらうぜ」
そうして一頻りスヴェン達と話し込み、酒場を後にした。
ーー時刻は既に夕暮れになっており、1日の疲れが出始めた。
「もうそろそろ夜だな。『
「そうですね。あと恐らく『
「ああ、さんきゅうなルシア。そういや俺、どこで寝泊まりすりゃいいんだ?」
今、一護には住居がない。
クランハウスにでも泊まるか、もしくはシトリーが用意してくれたという物件をエヴァに教えてもらうか。
などと考えていると、ルシアがまるで思い切った気持ちで口を開いた。
「なら一護さん、私の家に、来ますか?」
「え……?」
ルシアの申し出に、一護は呆然としてしまった。
顔を赤くしているルシア。勇気を振り絞って言ったであろうその申し出に、答えを窮する一護。
いや、流石にそれはまずいだろうと思い、一護は断ろうとしたが。
「私たちは幼馴染です。同じパーティの仲間です! 同じ屋根の下で寝ても全くおかしくありません。往々にしてあることです。むしろこの提案をしない方が仲間としておかしいです。故に健全です普通です。いかがですか一護さん?」
「お、おう。そうだな……」
なぜかルシアには丸め込まれそうになる。
少し思案し、今日のところはルシアの言葉に甘えようとした……
「じゃあ、お言葉に甘えて――」
矢先だった。
「おーい! 一護、ルシア! クライ達を追いかけに行こうぜ!」
浮き輪を持ったルークが現れたのだった。