けどこれで終わるという悲しみも孕んでいます……。
地獄篇もしくはバーン・ザ・ウィッチの続きもお願いします師匠!
《1》
温泉の町スルスは、憩いを求めて皆がやってくる町である。
山間にある小さな町で、源泉が湧き出ているため温泉独特の硫黄の香りが漂っていた。
そんな町は、観光名所でもあるため沢山の人で賑わいを見せる。日々の疲れを癒しに温泉につかり、美味しいものを食べる。
だが今は、とある事情によりとても閑散としていた。
その理由は単純で、この温泉街はグラディス領が近く、そのグラディス領では最近、バレル大盗賊団という悪逆無道な連中が暴れているからである。
よって観光客が劇的に減少し、ほとんど人が歩いていない寂れた町と化してしまったのだ。
クライ達がこの町に到着した頃には、ほとんど観光客はおらずシーズンオフ?とクライは首を傾げていたものの、それでも悠々自適に満喫していたのだった。
***
「うーん、どうしてこうなったんだろ?」
クライは目の前の現実離れした惨状に、腕を組んで呑気な声を上げて言った。
この町に到着した時に、シトリーが近くで盗賊が好き勝手して暴れていると報告をくれた。
そのお陰と言ったら悪いけど、この町はほぼ貸切状態。
普段は予約がなかなか取れない旅館に宿泊できたし、温泉も独り占め。僕にとって、これほどの高待遇はない。
まぁ温泉では幼体の温泉ドラゴンやアーノルドとばったりしたり、夜道を一人で散歩してたら地底人が現れて地底まで誘拐された。
誘拐された僕はここで頭を働かせて、『
しかもよく分からない大きな壁が、街を囲うようにして聳え立っていた。あんなのあったっけ?
とまぁ、僕の知らないところで知らない人達が争っている。騒擾ここに極まれりである。
見た感じアーノルド達、それ以外の盗賊団っぽい人達、そして地底人達の三つ巴の様相を呈していた。
これって……何かのイベントかな?
そうして地底人に担ぎ上げられたと思ったら、『
現状の惨状が全く見えていない僕は、シトリーに尋ねる。
「シトリー。これって、どういう状況なのかな?」
「どうやらアンダーマンと件のバレル盗賊団が、奇しくも同時にこのスルスに侵攻してきたことにより争いが始まったようです。そして《轟雷破閃》率いる『
「えぇ、何でそんな大変なことに……」
やっぱり僕は面倒事を旅先でも持って来てしまう、不運の星の下に生まれてきたらしい。
何でよりにもよって盗賊団まで来るかな。ここにはそれ以外にも温泉ドラゴンなんて怪物もいたし。ああ、ゆっくり温泉に浸かり直したい。
そんな他人事な僕に、心配そうな顔をしてティノが声をかけて来た。
「ますたぁ、これってもしかして、ますたぁが計画していた展開なのですか?」
何やら声が震えている。
よほど怖いことでもあったのかな?
ティノの問いに、僕は首を横に振って否定した。
「言ったでしょティノ。ここにはバカンスに来たんだ。こんな戦いなんて予想していなかったよ」
「そ、そうでしたか」
ホッと息を吐くティノ。
それとは対照的にリィズがティノに叱咤を入れる。
「おいティー! なに気ィ抜いてんだ。いくらクライちゃんが修行禁止って言っても、呆けていいわけじゃねえからな!」
「は、はい! 申し訳ありませんお姉さまッ!」
ビシッと背筋を伸ばして謝るティノ。ここにはバカンスで来たんだから、そう言うのは無しにしてほしいな。
そんな風に思っていると、事態は更に混迷を極めることとなった。
「あんぎゃああああああああああッ!」
耳を劈く咆哮。
太陽を遮るようにして現れた巨体に、争っていた全員が手を止めてそちらに目を向ける。
温泉ドラゴン――その成体が空を飛行していた。
幻獣の中でも最強種のドラゴンであり、その大きさは
「あれは、温泉ドラゴンの成体ですね。しかも……あ、不味いです
「シ、シトリーお姉さま! そんな冷静に言わないでください!」
先ほど出会った幼体の温泉ドラゴンとの大きさや屈強さのギャップの違いに驚愕しているティノをよそに、シトリーが静かに温泉ドラゴンの動きを観察していた。
そして成体の温泉ドラゴンは現れるや否や、小さく開いた顎から蒸気を発生させた。
***
「りゅ、りゅーりゅーりゅりゅー!」
威圧感が上がり、アンダーマン達の姫も警鐘を鳴らす。
力の奔流が温泉ドラゴンに集約されると、そこから放たれるのは多種多様なドラゴンが共通して持つ最大の攻撃。
『
「おい、やべぇぞ! とんでもねえのがくる!」
「あれは
この町に襲来したバレル盗賊団。
その首領であるジェフロワ・バレル、そして首領とほば同じ地位のカートン・バレル。武のジェフロワ、知のカートンとバレル盗賊団でも恐れられる双首領の二人だが、未知なるアンダーマンの襲来だけで手が一杯だったのに、そこに更なる絶望へと陥れる温泉ドラゴンの出現にただただ混乱していた。
当初は綿密に練られた計画――レベル8の《千変万化》の首を獲り、盗賊団の名を上げる――により、自分たちの思い描いた結果を滞りなく果たせるはずだった。
しかし何一つ、上手く事が回らない。
あまりにも想定外の展開が続いているから。例え大国に喧嘩を売れるほどの組織力を誇る盗賊団でも、ここまでの戦略の度を外れた出来事が起こると統率力も取れなくなっていくのだ。
「りゅーりゅーりゅりゅー!」
それはアンダーマン達も同じであった。
降臨なされた王(クライ)に裏切られ、自分たちにとっての厄神(温泉ドラゴン)まで現れて絶体絶命となってしまった。
元の目的は地上への侵攻。それは王の導きにより地上を蹂躙し支配することにあった。
姫である個体――リューランは新王のクライの導きのもと軍隊を率いて侵略に出たが、紆余曲折があり新王のクライが王ではないと知り半ば鬱憤を晴らすように暴れ始めたのだ。
だがそれも温泉ドラゴンが現れたことにより、状況は最悪な方へと急変した。
厄神とまで呼称し恐れる存在を前に姫であるリューランは、同胞たちに撤退の指示を出すしかなかった。
「ドラゴンだと!?」
「嘘でしょ……ッ!?」
「おいおい冗談じゃねえぞ!」
そして竜殺しの異名を持つアーノルドと共に戦うルーダとギルベルトも、同じく驚愕のあまり目を見開いた。
今や盗賊団およびアンダーマンが争う、死と隣り合わせの戦地において余所見など言語道断だが、それは敵方にも言えた。
全員が温泉ドラゴンのプレッシャーに注視せざるをえなく、目の前の敵に気が回っていなかった。
「あんぎゃあああああああ!!」
そして温泉ドラゴンは咆哮と共に、充填された膨大なエネルギーを放出する。
町の一画を跡形もなく吹き飛ばすほどの威力を内包した息吹は、灼熱レベルの蒸気を伴って迸った。
一種の兵器。収斂された息吹が巨体のアンダーマンを紙切れのように吹き飛ばし、町の建造物の悉くを破壊した。
「りゅんりゅりゅー!」
「何だこの威力! 冗談じゃねえぞ!」
「これは、全ての計画が純粋な力で捩じ伏せられる、一番嫌いなパターンですね」
争っていたリューラン、そしてバレル盗賊団の双首領が温泉ドラゴンの力に慄き冷や汗を流していた。恐怖に足が竦む。恐怖に目を剥く。それ程までの破壊力を、見せられてしまったのだ。
そしてそれは一発では終わらない。
「あんぎゃあああああああ!」
再び温泉ドラゴンに途轍もない熱量が圧縮されて集約される。
絶望に絶望を重ねるその展開に、脳天から爪先まで悪寒が駆け抜けた。躊躇いのない一撃が休むことなく来ることに、全員が戦慄する。
第二波。大熱波を伴って今のと同等の息吹が、続け様に発射された。
それは敵味方入り乱れる、一番人的被害が出るであろうエリア目掛けて――
「チッ、ドラゴンってのもこの程度か」
しかし息吹が着弾することはなかった。
何故なら息吹は、一人の男が立ち塞がり片手で軽く上空に向けて弾き飛ばしてしまったから。
それもいとも容易く、痛痒など一切感じさせずにドラゴンが放つ
現実味の帯びない離れ業を成した男に、アンダーマンもバレル盗賊団も、そしてアーノルド達も息を呑み凍り付いてしまった。
隙のない気配は野生の獣めいており、非人間的なほど温かみを一切感じさせない。酷薄で威圧的な容姿を隠そうともしない、常に殺気を振りまいているその男は全身白色で統一された変わった衣服を纏っていた。
腰には刀を差しており、何より目立つのは右顎の部分のみを象った仮面を付けている。
そんな男は空色の髪を靡かせて、獣のような鋭利な瞳を温泉ドラゴンに向けた。
さながら獲物を睨みつける、弱者を喰い殺そうとしているそれに等しい。
筋肉質の両手をゴキリと鳴らしたかと思うと、その次の瞬間には温泉ドラゴンが蹴り飛ばされていた。
「ッアギャアアッッ!」
颶風のような勢いで、目で捉えるのが不可能な神速をもって跳躍し、男は自分の何十倍もあるであろう大きさのドラゴンを蹴り飛ばしたのだ。
温泉ドラゴンは苦悶の叫び声を上げ、町の一画を崩壊させながら吹き飛ばされた。
竜種とは並のトレジャーハンターでは到底太刀打ちすることのできない怪物。何たって竜を倒すだけで竜殺しの称号を得ることができ、一種の英雄の証として存在しているほどだ。
その竜を、男は片手間で容易く倒してしまった。
竜など霞む桁外れの脅威が何の前兆もなく現れ、この町にいる全員を震撼させてしまった。何か得体の知れない人外の、怪物の鬼気とも言うべき異次元のプレッシャー。
突如現れた人外に他の思考が全て駆逐され、全員が否応なく理解してしまった。
こいつは人間ではない。ファントムでもモンスターでもない。未知の何かであると。
そんな男は退屈そうに息を吐き捨て、高い丘から町にいる全員を冷淡な視線を向けて言葉を吐く。
「つまらねェな。オイ! この場で一番強ェのは誰だ!? このドラゴンより強ェやつがいねェってんなら、この町の連中皆殺しにす――」
「ここにいるっての!」
男が言い終わる前に、疾風の如き速さで動いたのは≪絶影≫の二つ名を有するリィズだった。
大きく振りかぶった脚が、剣閃のような切れ味をもって男に放たれる。
「……何だよ、いるじゃねェか。喰いごたえのある野郎がよ!」
男はリィズの鋭い蹴りを片腕で受け止めると、口角を歪めて微笑んだ。
「少しは楽しませろよ人間! じゃねェと、直ぐに殺しちまうぞ!」
「アンタこそ、リィズちゃんの期待を裏切るんじゃねえぞゴラ!」
対するリィズも愉快そうに、笑みを浮かべて言ったのだった。
***
クライはそんな中、ティノとシトリーと共に見上げて観戦していた。
「あー、もう僕はついていけそうにないや。ねぇ甘い物でも食べにいかない?」
「言ってる場合ですかマスター!」
温泉ドラゴンの成体が現れて、みんながどう対処しようか考えていたところ謎の男がそのドラゴンを蹴り飛ばしてしまった。
まるでリィズのような芸当を他の人がするとは思わなかった。
しかも温泉ドラゴンの幼体と知り合ったばかりで、少し胸が苦しい。町やみんなが守られたから結果オーライだけど、あの男も凄く物騒そうだし。
「……あの男の人、少し一護さんに似ていますね」
僕の横に立つシトリーが、男の姿を観察するようにして言った。
「え、今の一護ってあんな野蛮そうなの? それは少し嫌だなぁ」
「ああ、違いますよクライさん。見た目も性格も一護さんの方が上ですから。比べるのもおこがましいです。そうではなく、あの男性から感じる力が、一護さんに似ているんです」
「一護に? ああ、えっと何だっけ? レイ……」
「霊圧です。私も未だ取っ掛かりを掴めず、未知と言わざるを得ない力ですが」
そう言えば、そんな力を一護が持っていたのを思い出した。
周囲を圧し潰すような、そんな圧力を与える力だったと記憶している。シトリーですら知らない力だったんだ。
僕も改めて見上げて、リィズと拳を交えている男を見据える。
燃え滾った闘志が全身を駆け巡って、楽しそうに拳を突き放つリィズがいた。
拳の弾幕が瀑布の如く、一撃一撃が岩をも砕く威力を乗せて叩き込まれている。機関銃めいた拳の連続は、僕の目には残像のようにしか映らない。
人体の構造を遺憾無く活かしていた。目線、呼吸、無駄なく合理的な体捌きから繰り出す急所を狙った攻撃に、それを連続させる反射にも等しい挙動。リィズが本当に楽しんでいる証左で、それはつまり相手の力量が半端ではないことを物語っている。
同時に男も笑みを浮かべながら、リィズの怒涛の攻撃をいなしていた。弾き、受け止め、そして回避している。
ああ、よく見ると男も拳を放っているがリィズはそれを間一髪で回避し、即座に反撃へと転じていた。
攻防一体の応酬は稲妻さながらの域で繰り広げられている。
僕なんかがあの間に入れば、一瞬で
「あわわ、ほとんど見えません。こんなんじゃ、お姉さまにまた怒られてしまいます……」
自分の師匠の戦いを見守るティノが、顔を青くしながら恐怖に表情が歪んでいる。心配しなくてもティノも充分強い。僕なんて目で追えているのかすら怪しい。
そんなことを超然とした態度で考えていると、ルーダが慌てた様子でこちらに走ってやって来た。
「ねぇクライ! もしかしてこれも千の試練なの!? もう私たち大混乱なんだけど! よく分からない地底人も、盗賊団も、また戦い始めちゃったし」
「ん? そうじゃないと、思うけど?」
確かにアンダーマン達と一緒に地上には戻ってきたが、その他については全く僕の知る由ではない。
だから僕に聞かれても困る。困るけど、仕方ないな。
「けどまぁ、とりあえず一つずつ片づけていこうか。きっと何とかなるよ」
よく分からないけど、ハードボイルドに決めるようにニヒルに言った。
けど、酷く億劫だなぁ。
《2》
「一護さんと温泉、一護さんと温泉……」
馬車の中、ルシアが顔を赤くしながら箒を抱きしめて呟いていた。
現在、一護たちは温泉の町スルスに向けて馬車を走らせている。
とは言っても馬車に乗っているのはルシアだけで、一護とルーク、アンセムは外を走っていた。
「なぁ一護、町に付いたらどっちが温泉を掘り当てるか勝負しようぜ! 剣の修行にもなるし一石二鳥じゃね?」
「やんねえよ。温泉の町で温泉を掘り当てるって、それはもう意味が違わねえか。つか、どこが剣の修行なんだよ?」
「この世全ての修行は剣の道に通じてるんだよ。つまり穴掘りも剣の道に通じてる!」
ルークの意味の分からないお誘いは、直ぐに断りを入れ一護はふと湧いた疑問を口にした。
「そういやアンセムが入れる温泉ってあるのか? 流石に温泉に浸かる時はその鎧は脱ぐんだろ?」
「うむ」
「だったらアンセムが浸かれる温泉を探さねえとな」
アンセムの鎧は宝具である。
『
しかしそれは鎧を着ている間に限られるため、脱いでしまえばその効果は発揮されない。温泉に入る時はもちろん元の体型なので、通常の温泉は浅くて浸かれないだろう。
「そん時は俺が源泉を掘って、ルシアに温泉を作ってもらえばいいんだよ。これで解決だ」
「いやその時はルシアの魔法で温泉を作ってもらえばいいんじゃねえのか?」
「あの、そんな魔法ありませんからね」
ルークと一護の突拍子もない発言に、馬車から顔を覗かせたルシアが突っ込んだ。
どうにも魔法は何でもできる万能な力だとルーク、そして一護が思っていそうな節があるので釘を刺すように言っておいた。
「魔法で何でもできるのはお伽噺の中だけです。兄さんも簡単に言いますけど、魔法って一つ習得するだけでも大変なんですからね」
「ああ、そういや昔よくクライの作った魔法の本を見てたな。お伽噺に出てきそうな魔法の一覧みてえのが書かれたやつ」
「ええ、あれは編纂されたどの魔導書よりも習得難易度の高い……と言うより独学でマスターしないといけない魔法ばかりでした。未だに私も全てを会得できていません」
「それでも覚えようとしているあたり真面目だなルシア。兄思いのいい妹じゃねえか」
「そう言っていただけて嬉しいですけど、何だか腑に落ちません」
遠い目をしながら、ルシアは覗かせていた顔を馬車に引っ込めた。
無理難題の魔導書を必死に習得していったが、クライに都合よく踊らされていると思いすんなりと受け止めることができなかった。
「とりあえず一護、温泉ではどっちが熱い風呂に長く浸かれるか勝負だからな!」
「また子供みてえな勝負を……ん?」
ルークの拙い勝負内容に呆れた一護だったが、途中で言葉が途切れた。
それは前方、この深い森の奥から一人の女性が切迫した面持ちで走って来ていたから。
どうしたんだろう?と、一護は小首を傾げたが、その答えは直ぐに分かった。
その女性を追いかける、物騒な格好をした男達が複数人。余裕のない剣幕で足を走らせていたのだ。
一人の女性を、武器を持ったどう見てもカタギではない男達に追われているこの構図。それだけで一護が動くには充分だった。
「あん? アイツは……?」
「先に行くぜ」
ルークが怪訝な表情になっていたが、そんなことはどうでもいい。
一護は地面を強く蹴り、男達に向けて突貫していく。
「な、なにもん――グッ!」
一護の強襲に対して先に足を止めた男の鳩尾に肘打ちをめり込ませる。
男はそのまま崩れ落ち、予期せぬ一護の先制に肝を潰す男達だったが、直ぐさま武器を手にその猛威を振るった。
「テメェなにもんだ! ガハッ!」
「一人の女に、男が寄ってたかって手ぇ出そうとしてんじゃねえよ」
一護は続け様に男達の意識を刈り取っていく。
斬月は握らず、徒手空拳のみで武器持ちの男達を沈めていった。正直に言って、レベル2のファントムの方がまだ歯応えを感じる程度の連中に、斬月を抜く必要など一切ない。下手をすれば殺してしまう。
そして数秒で全員を地面に寝かせると、一護は短く息を吐いて女性に近づいた。
「よぉ、大丈夫か?」
「は、はい……助けていただき、ありがとうございます」
息も絶え絶えに、女性は憔悴した様子で頭を下げた。
「構わねえよ。色々と事情がありそうだけど、まずは落ち着いて……お、みんな来たな」
「え?」
一護はルークたちが追い付いてきたことに気づいて声を上げると、女性もそちらに目を向けて目を丸くした。
「お、やっぱりそうじゃねえか」
「うむ」
「探協のクロエさん、ですね」
どうやら知り合いだったようだ。
クロエの呼ばれた女性も、ルークたちを見て驚嘆の声を上げた。
「み、皆さん! どうしてここへ!?」
「そんなもん、クライ達を追ってに決まってるだろ?」
「は、はい?」
「とりあえず何か事情がありそうですし、話を聞きましょうか」
ルシアがそう言うと、クロエからの話を聞くことにした。
***
端的に言うと、どうやら温泉の町スルスが盗賊団に襲われて大混乱らしい。
一護は彼女が探索者協会ゼブルディア支部で働く職員だと知り、そしてあの巨漢のガーク支部長の姪っ子だと知り愕然とした。遺伝子、仕事してなくね?などと失礼だが、そう思ってしまった。
同時に一護が
その件にクロエが度肝を抜かれた驚きを見せていたが、今はそれどころではないようで現状の事態について言葉を紡いだ。
彼女、クロエ・ヴェルターは一人町から抜け出し、助けを求めて動いたところ、盗賊団の追っ手に追われていたらしい。
そこを一護が助けて今に至る。
話しを聞いた上で、一護はまず率直に出た疑問を口にした。
「……あれ、町にはクライ達もいるんだよな? 盗賊団に後れを取るとは思えねえけど」
「はい……。ですが、クライさんは行方が分からず、他の皆さんも町の人が人質を取られて、手を出せずにいて……」
「何だそりゃ。リィズなら関係なく暴れんだろ?」
歯切れの悪いクロエの答えに、ルークが横やりを挟んだ。
言い得て妙で、確かにリィズなら人質など歯牙にもかけず敵に突っ込みそうだと、一護はあの再会の寸刻だけでそう踏んでいた。
「恐らく、リーダーがバカンスだから戦闘の禁止、などと言ったのではないですか。リーダー、休む時は本気になりますから」
「戦闘の禁止? 何だ、それも修行になんのか?」
「なるわけありません。一度、修行から離れてくださいルークさん」
ルシアの言に、なるほどと一護は納得した。
リィズはクライをどこか神格化している。それが的を射ていたのなら、クライがそう言えば絶対に手を出さないだろう。
困ったものである。
「とりあえず急ぐ理由ができたな。全速力で行くぜ」
「だな。温泉に浸かる前に、いい汗がかけそうだぜ」
「うむ」
男三人がスルスの町がある方に目を向け、戦意を高め始める。
逆にルシアは、ここで脳裏に嫌な予感がよぎった。
「…………これって、もしかして」
――町に着いても、一護さんとゆっくり温泉を楽しめないのでは?